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槍使いと、黒猫。  作者: 健康


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2101/2119

二千百話 サイデイルの陽

 レベッカの城隍神レムランの遺跡は、元皇都キシリアに転移できれば近いしな、ってことで、削除し、ここを記憶――。


 【魔界:メリアディの書網零閣】

 【魔界:ルグファント森林】

 【魔界:ヴァルマスクの大街】

 【魔界:アムシャビス族の秘密研究所の内部】

 【魔界:メリアディの荒廃した地】

 【魔界:エルフィンベイル魔命の妖城の冥界の庭】

 【魔界:メリアディ要塞の大広間】

 【魔界:レン・サキナガの峰閣砦】

 【魔界:骨鰐魔神ベマドーラーの内部】

 【魔界:南華大山山頂部】

 【魔界:ガルドマイラ魔炎城】の城主の間

 【魔界:ウラニリの大霊神廟の遺跡】

 【魔界:【源左サシィの槍斧ヶ丘】の奥座敷の庭】

 【魔界:テーバロンテの王婆旧宮の大広間】

 【惑星セラ:フロルセイル地方、西マハハイム地方、傷場の地】

 【惑星セラ:塔烈中立都市セナアプア、魔塔ゲルハット屋上】

 【惑星セラ:マハハイム地方十二樹海のサイデイル】

 【魔界:グィリーフィル地方・傷場】

 【惑星セラ:北マハハイム地方魔境の大森林、元皇都キシリア】

 【惑星セラ:北マハハイム地方、聖都サザムンド】

 【惑星セラ:北マハハイム地方、金アロステの丘、光の神殿】

 【惑星セラ:ゴルディクス大砂漠、犀湖都市、宿屋】

 【惑星セラ:ゴルディクス大砂漠、犀湖都市、人神アーメフの大神殿内部】

 【惑星セラ:ゴルディクス大砂漠、突岩の街フーディと暁の墓碑の密使の地下神殿と大仙人の時の揺り籠】

 【惑星セラ・ゴルディクス大砂漠、ダモアヌン山】

 【惑星セラ・イーゾン山、八峰大墳墓】

 【惑星セラ・マハハイム山脈・ゴルディーバの里】

new【惑星セラ・旧エイジハル血院遺跡・元【暗夜十三の執行者】の地下基地】


 転移場所のリストが更新された。

 エイジハル血院に遺跡と、旧は、やはり年代的にここの遺跡はかなり古く、闇神リヴォグラフ側の戦力が長く占有していた証拠が、元【暗夜十三の執行者】の地下基地の名だということか。


 〝レドミヤの魔法鏡〟にヒミィレイスが興味を示すがアイテムボックスに仕舞った。


 奥に移動しているラライセたちはまだ来ない。

 記録晶石とやらが、どの程度機能するのかわからんが、闇神リヴォグラフ側が氣付かないってのはありえないだろう。


 ルリゼゼたちもエイジハル血院の警戒と探索と警邏に出ている。


 数分と経たないうちに、奥へ向かっていたラライセたちが戻ってくる。

 その表情は、予想通りというべきか、暗い。手には何も持っていなかった。


「……シュウヤ様。記録晶石もですが、何もありませんでした」


 ラライセが悔しげに報告する。


「だろうな」

「はい。台座だった場所も変化している。わずかに台座だと思われる部分を見つけましたが、それだけ、他は破壊された痕跡ばかり、禍々しい闇の魔力の残滓がこびりついているのみ。恐らく、リヴォグラフ側の眷属たちが持ち去ったか、あるいは情報を隠滅するために砕いたのか……」


 キサラが、


「やはり。エイジハル血院の名が……元【暗夜十三の執行者】のアジトとなっていたのなら、重要な情報はとっくの昔に回収されているか、破棄されているでしょうね」


 と冷静に分析する。

 ヴィーネも同意するように頷いた。


「エイジハルの遺跡が、長年リヴォグラフの勢力下にあった証左です。ヒミィレイスの石像を残した理由も、闇の杭といい、勝利を記念しての証しかと」


 皆が頷いた。

 ヒミィレイスは寂しげに目を伏せたが、直ぐに顔を上げ氣丈に振る舞う。

 彼女自身が戻ってきたことが最大の収穫だ。

 過去の記録よりも、今ここにいる彼女の命の方が重い。


「では、無いものは仕方がない。長居は無用だ、帰ろう」


 片手を上げ、人差し指を素早く動かす。

 指先から滲み出た<血魔力>の血が一瞬で、『皆、撤収しよう、戻ってこい。敵と戦っていたら追撃はしなくていい』


 描かれた赤い文字が霧散。


『承知した』

『了解』

『すぐ戻る、と、また巨大なゴブリン系が現れたさ、こいつを狩ってから――』


 即座に反応があった。

 天井の闇や影から、ベネット、キッシュ、ルリゼゼ、サラ、クレインが姿を現す。クレインは一仕事したって面だ。金色と朱色のメッシュの髪には<血魔力>により輝きが増して、頬には<朱華帝鳥エメンタル>の印が浮かんでいた。

 そして、探索を終えた彼女たちの様子から闇神リヴォグラフ側の戦力はいないことは明白。


 ヴィーネが、


「ここは広さ的にアレですが、砂城タータイムも結局使いませんでしたね」

「あぁ、ヴィーネと皆は頼もしいし、ラライセたち【血の守護騎士団】も強いおかげもあった。ありがとうな、ヴィーネ」

「あ……ご主人様……嬉しいぞ!」


 ヴィーネの照れてどうしようもないダークエルフとしての本能が面に出て可愛い。


「では、サイデイルに戻ろう」

「ふふ、はい」


 ヴィーネの微笑は〝レドミヤの魔法鏡〟を見る。

 俺も〝レドミヤの魔法鏡〟を見て【惑星セラ:マハハイム地方十二樹海のサイデイル】を選択――。


 〝レドミヤの魔法鏡〟から魔力が噴出し、魔力は後方へ広がり一瞬でエイジハル血院の空間を切り取ったようにサイデイルの美しい風景に変化を遂げた。


 転移場所と元の場所の境目は、ゆらゆらと揺らいでいる。

 境目はいつ見ても不思議だ。

 

「繋がった。キッシュも良いよな」


 キッシュは、


「無論だ。サイデイルも外との争いはあるが軍備は万全。【血の守護騎士団】たちもゆっくりと過ごしてほしい。では、シュウヤ先に戻る」

「はい、ご主人様、先に行きます」

「おう」


 キッシュとヴィーネは先にサイデイルに戻る。

 ルビアは、


「オフィーリアちゃんたちに、ボン君も一杯釣った『溶岩魚マグマ・バス』のお土産喜んでくれるかなぁ」

「エンチャント~」

「喜ぶはずよ。美味しいし採れたばかりの魚のアイテムボックス保存だからね」


 レベッカの声に、ルビアは、「はい!」ラライセは頷くと、ヒミィレイスの背中を優しく押す。


「さぁ、ヒミィレイス。光魔ルシヴァルの聖地にお邪魔させてもらおう。そして、人族のままか、光魔ルシヴァルか。それとも吸血鬼(ヴァンパイア)に戻るならば、吸血神ルグナド様に再会が良いかと思うが、まぁ、今は休むことが先だな」

「はい、姉さん……」


 ヒミィレイスとラライセは手を取り合う。

 周囲からは涙を啜る声が聞こえてくる。

 【血の守護騎士団】の吸血鬼(ヴァンパイア)たちも、本当に嬉しくてたまらんのだろうな。


 そして、そのヒミィレイスは泣いている吸血鬼(ヴァンパイア)の肩に手を当て、逆に慰めている。エヴァのような優しさも持つ美しい女性か。


 ラライセも傍により、皆で笑いつつサイデイルの空間に入っていく。

 ルビア、エトア、シャナ、ファーミリア、ヴィーネ、イモリザ、キサラたちが次々とサイデイルに入った。

 最後に肩に乗った黒猫(ロロ)と共に周囲を一度だけ見渡す。

 静寂に戻ったエイジハルの遺跡。

 自然と胸元に手を当て、会釈して「……」黙祷――。


「にゃ?」


 相棒は不思議そうな声を発したが、頭部を傾け相棒の温もりを肌で感じ、耳をペロペロとなめられて、「冷たっ」と離れてから、〝レドミヤの魔法鏡〟の向こう側のサイデイルに足を踏み入れた。


 ――瞬間、樹海特有の緑と小山の空氣を全身で感じた。

 地下遺跡の冷たく乾いた死の匂いとは対極にある圧倒的な生の氣配だ。


 振り返り、まだエイジハル血院の暗い地底を映している〝レドミヤの魔法鏡〟を仕舞う。鏡面が閉じるのと同時に、世界が完全にサイデイルへと切り替わった。

 キッシュはラライセとヒミィレイスに、【血の守護騎士団】たちを連れて坂を下っている。

 

 訓練場の前の広場にいたリデルが、


「あ、シュウヤ様!」


 パァッと花が咲いたような笑顔で駆け寄ってくる。

 元氣いっぱいに手を振るその姿に自然と笑みがこぼれた。

 その後ろから、


「おぉ! 主!」

「主!」


 <従者長>クエマと<従者長>ソロボだ。

 訓練場には弟子のムーと、赤ん坊のホルテルマを抱く<従者長>ビアに、蛇人族(ラミア)のヴェハノとルゴとジョディがいた。

 

 そこでアイテムボックスから砂城タータイムを取り出した。

 意識するまでもなく、そこからロターゼが飛び出ては、


「ヒャッホー、地下で俺を使えば圧殺兵器になったものを!!」


 と言いながら飛翔し、樹海の空を突き進んでいく。

 氣にせず、皆と共に訓練場の前まで移動すると、弟子のムーが、槍を止めて駆け寄ってきた。


「よう~ムー」


 その瞳は再会の喜びで輝いている。

 ペコリと頭を下げると、俺を見上げて「ムッ!」と氣合の入った顔を見せた。

 留守中もしっかり鍛錬していたと、その汗と雰囲気が物語っている。

 義手と義足から出ている糸の強度も上昇していると理解できた。

 体幹のブレもない。俺がいない間も、一日たりとも鍛錬を欠かさなかったことが、その滲む汗と引き締まった雰囲氣から伝わってきた。


「精が出るな」


 頭を撫でてやると、ムーは嬉しそうに目を細め、コクコクと頷いた。

 赤ん坊のホルテルマを抱いたビアが、


「主! お帰りだ!! 司令官から少し話を聞いたが、吸血鬼(ヴァンパイア)たちと共に大仕事をやってのけたようだな」

「おう、ただいま。ラライセと【血の守護騎士団】に、救出したヒミィレイスという名の女性だ」

「うむ」


 傍らには蛇人族(ラミア)のヴェハノ、ルゴたちも続き、腹と長い尻尾を嬉しそうに揺らしている。ジョディは浮遊しながら俺の周りを一周し、光精霊フォティーナを肩に乗せて一緒に飛翔を楽しんでいく。


「ンン」


 黒猫(ロロ)も反応していた。


「お帰りなさいませ、シュウヤ様」


 ヴェハノの挨拶に「おう、ただいま」と言うと、ジョディが、


「あなた様、エイジハル血院への到達完了したのですね」


 頷く。


「そうだ。無事に完了だ」

「それはなにより、おめでとうございます!」

「あぁ、ホルテルマも変わりないか?」


 ビアの腕の中で、ホルテルマが俺の声に反応し、「きゃっきゃ」と手足をバタつかせた。その生命力に溢れた声を聞くと元氣になる。

 ジョディに、


「シェイルは?」

「あ、果樹園の警邏です」

「了解した。キッシュが下で皆に説明すると思うが、ラライセの妹のヒミィレイスは、今は人族なんだ。詳しい理由は、もう分かるとは思うが、ま、俺たちも、下のキッシュたちのところに行こうか」

「「はい」」

「……っ」

「「了解!」」

 

 皆で坂を下る。

 キッシュは広場の中心のモニュメントの前で台の上に乗っていた。

 広場には、ナナ、アリスを筆頭に子供たちと、パル爺、ドミネーター、ロゼバトフ、ヒナ、サナ、ダブルフェイス、オフィーリア、モガ、ネームス、ドナガンたちが集まっている。

 そこで、ラライセと【血の守護騎士団】たちにも台を用意し、紹介していた。

 エヴァとヘルメたちも、そこに近付くと、直ぐに子供たちに囲まれていた。


 キッシュの屋敷からデルハウトたちが出てきた。

 

 リデルやクエマたちも、ラライセたちの傍により、自己紹介をしていく。

 デルハウトとシェヘリアに、


「よう、ただいま!」

「陛下! お帰りです」

「順調にエイジハル血院に到達したのですね」

「おう」


 そこで皆が見守る中で、ヒミィレイスに手を向けた。


「皆、もう知っていると思うが彼女がラライセの妹、ヒミィレイスだ」


 ムーが興味深そうにヒミィレイスを見つめ、リデルが俺の横からひょこっと顔を出した。


「わぁ……すっごく綺麗。ヒミィレイスさん、よろしく! 私はリデル。このリンゴパイをあげる!」


 リデルの屈託のない言葉にヒミィレイスは少し驚いたようだが、直ぐに、その強張った表情が解け、


「あ、ふふ。ありがとう――」


 と、ヒミィレイスはリンゴパイを食べていた。

 美味しそうに食べていたが、あぁ、腹が減っていたか。

 早いとこ飯作りにして、風呂も入ってもらうかな。

 ヒミィレイスは、


「……凄く美味しい。エイジハル血院のリゴアンの蜜漬けを超えている……」

「もう一つ、あります」

「ありがとう、頂きます」

「後、フルーティミックスジュースもどうぞ!」

「あ、嬉しい――」


 ヒミィレイスは、リンゴパイとフルーティミックスジュースを食べて飲んでいく

 そんなヒミィレイスにビアが一歩進み出た。

 腕にも巻き付いているようなベビースリングの布に包まれているホルテルマを、宝物でも見せるように、差し出す。


「――ヒミィレイス殿。初めまして。この子はホルテルマ。蛇人族(ラミア)の正式名は、ホルテルマ・ギヴィンカゲレレウ・トップルーン・スポーローポクロンなのだ」

「……まぁ……」


 ヒミィレイスは名前の長さに少し驚いている。

 だが、可愛い蛇人族(ラミア)の赤子に、吸い寄せられるように近づき、恐る恐るその白く細い指を伸ばした。

 ホルテルマの小さな手が、何かを探るように動き、ヒミィレイスの指をぎゅっと握りしめる。


「っ……」


 息を呑んだ。彼女の大きな瞳から涙が溢れ出した。


「温かい……確かな生の熱が指先から伝わって、本当に、生きているのですね……」

「当然だ。ここは命が育まれ、笑顔が咲く場所である」


 ビアが母の顔で優しく語りかける。

 ラライセが感極まったように妹の肩を抱き、涙を堪えるように空を仰いだ。


 周囲の吸血鬼(ヴァンパイア)たちも、その光景に目を細めている。

 リデルも「鱗は冷たいけど、他は赤ちゃんらしく、あったかいもんねー」とニカっと笑った。


 ムーも、その温かな光景をじっと見つめ、小さく頷いている。


 良い空氣だ。

 これがサイデイル。


 肩に乗った相棒の喉を撫でながら、クエマとソロボに視線を送った。


「では、今日はヒミィレイスの歓迎会といこうか。ルビアたちが『溶岩魚マグマ・バス』を大量に釣ってきてくれたからな」

「おぉ、それは豪勢ですな!」


 ソロボが嬉しそうに手を打つ。

 クエマも柔和な笑みを深め、一歩前に出た。


「では、腕によりをかけて準備いたしましょう。まずは旅の汗を流していただかなくては。ソロボ、お風呂の支度を」

「承知いたしました。極上のお湯加減にしておきますぞ」

「あ、私も手伝うー!」


 リデルが元氣に手を挙げるとアッリとタークも参加し、相棒も、「にゃおぉ~」とアッリたちの膝に頭突きを行って甘えていった。

 平和で、騒がしくも温かい日常が動き出す。


「さぁ、ヒミィレイス。飯作りは俺も協力するとして、まずは風呂など、キッシュにデルハウトとシュヘリア、簡易宿などの案内も頼む」

「お任せあれ」

「はい、ヒミィレイスさん、私の名はシュヘリア、光魔騎士の一人。サイデイルで防衛任務についています。案内しますのでついてきてください」

「ありがとう」

「私も行こう、ヒミィレイスもだ」

「はい、姉さん。シュウヤ様、また後で」

「おう」


 涙を拭ったヒミィレイスの顔に、美しい笑顔が咲いた。

 サイデイルの陽を浴びている笑顔は快活そのもの。

 本当の意味で生者として帰還したことを物語っていた。


続きは明日、HJノベルス様から書籍「槍使いと、黒猫。1巻~20巻」発売中。

コミック版1巻~3巻発売中。

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