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槍使いと、黒猫。  作者: 健康


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二千九十九話 宵闇の至宝と石化の乙女

 石化したヒミィレイスの前にラライセとファーミリアが並ぶ。

 その斜め後ろにダモアヌンの魔槍を携えたキサラがいた。

 隣にいるヴィーネたちと同様に、これから始まるであろう儀式の推移を静かに、しかし鋭い眼差しで見守っていた。

 

 黒猫(ロロ)も背後にいて「ンン」と喉を鳴らし祭壇の様子を注視していた。

 周囲で掃除を終えた眷属たちも期待の眼差しを向けている。


 ヒミィレイス、ラライセの妹さんを助けることができれば嬉しい。

 ラライセは、


「では……」


 と急に、声を弱めてから俺をチラッと見てからヒミィレイスの石像を再度見上げ、片目から涙を流す。


 背後に控えていたナナイとパシィノが、たまらずといった様子で、「「ラライセ様……」」と声を掛けると


「お氣は分かります!」

「「「はい!」」」


 と、他の吸血鬼(ヴァンパイア)たちも主を案じる声を上げていく。

 【血の守護騎士団】たちがラライセを支えるように励ましの声を発していく。


 その姿から愛と絆を感じた。


 ラライセは、同胞の吸血鬼(ヴァンパイア)と皆を見て、微笑し、「分かっている」と告げると、


 心配そうに見ていたファーミリアが、


「……少し時間を空けますか?」

「……あ、いえ……」


 ラライセの表情には、悲しみに喜び、どちらもあるような印象だ。


 ヒミィレイスの復活は可能だが、吸血神ルグナド様と宵闇の女王レブラの力が作用することで、吸血鬼(ヴァンパイア)ではなくなるということかな。


 ラライセは、俺を見て、


「すみません、妹は蘇ることは可能ですが、しかし、吸血鬼(ヴァンパイア)ではなくなるはずなのです」


 やはりそうだったか。


「あぁ、そうなんだろうな? とは思っていた。氣持ちが整うまで、いくらでも待つぞ」

「はい、ありがとうございます。しかし、躊躇したところで復活させる。妹を取り戻します! では、ファーミリア、改めて、お願いいたします!」

「分かりました、同胞を取り戻す氣持ちで――」


 ファーミリアは〝ルグナドと宵闇の灯火王冠〟を掲げると、七色の輝きを放ち、ヒミィレイスの石像に七色の輝きが吸い込まれていくと、石の肢体の表面が罅割れていく。

 更に、〝ルグナドと宵闇の灯火王冠〟から漆黒の魔力が放出され、ヒミィレイスの石像が漆黒に包まれると、渦を巻きながら石像の亀裂に吸い込まれ、その亀裂から火花が起きていく。

 

 〝ルグナドと宵闇の灯火王冠〟に内包されている〝宵闇の指輪〟の権能が発動したのかも知れない。


「……っ」


 ヒミィレイスの石像は一瞬だけ肌色に戻った。


 すると、同時にラライセは<血魔力>をヒミィレイスの石像に送り、血が石像に吸い込まれる。

 

 更に〝ルグナドと宵闇の灯火王冠〟から<血魔力>と漆黒の魔力が宙空に放出され、吸血神ルグナド様と宵闇の女王レブラの幻影が模られた。


 かつてヴェロニカやビュシエの時の宵闇の指輪を使用した時と同じか。


 刹那、空間を切り裂くような甲高い音が響いた。

 呪縛が砕け、石像の表面を走る亀裂が網目状に一氣に拡大していく。

 剥がれ落ちる石の殻は地面に届く前に融け、螺旋を描く<血魔力>と漆黒の魔力へ霧散した。その光の残滓を払うようにして柔らかな肌のぬくもりを湛えた一人の女性が、ゆっくりと確かな質量を持って姿を現した。


「「「おぉ」」」

「――ヒミィレイス!!」


 ラライセを筆頭に、

 【血の守護騎士団】たちが歓声を発し、ラライセが妹を抱きとめる。

 ナナイも、


「生きている成功よ!!! あのヒミィレイス様が復活!!!」


 叫びながら体から<血魔力>を発した。


「「「「ヒミィレイス様!!!」」」」

「「「【血の守護騎士団】はここに居ますぞ!!!」」」」

「「「ヒミィレイス様ァァァ」」」


 ヒミィレイスはまだ目を開けていないが、【血の守護騎士団】たちは喜びを爆発させる。ファーミリアも涙を流していた。


 俺と皆は拍手をしていく。


「……やりましたね。そして、ヴェロニカやビュシエの時と同じです」

「はい、吸血鬼としての因果を抜き去り、人としての器を呼び戻す……」


 笑顔のキサラとヴィーネはそう言うと、頷き合う。

 ミスティ、メル、クナ、ヴェロニカ、ベネット、サラ、ママニは、皆でハイタッチ。

 

 ハンカイとバフハールも笑顔だ。

 ミスティは、


「良かった。種族の転生、回帰。凄く神秘的よ」

「たしかに、何度見ても、ルグナド様とレブラ様の至宝が成す業には、目を見張るものがあります」


 キサラの言葉に、ビュシエは、


「はい、己も体感していますが、不思議ですね。同時に、あの抜けた感覚は怖かった」


 その言葉に、ヴェロニカも、


「うん。思い出した」


 二人だけが体感しているかなり、レアな経験だからな。

 吸血鬼(ヴァンパイア)から人族に戻り、そして光魔ルシヴァル化という……。


「ンン、にゃお~」


 黒猫(ロロ)がヒミィレイスの足下へ寄り、クンクンと鼻を鳴らす。

 相棒もまた彼女から漂い始めた変化を敏感に感じ取っているか。

 鼻先を動かす黒猫(ロロ)の様子で確信した。

 ヒミィレイスの血の匂いは、吸血鬼(ヴァンパイア)特有の鋭利な闇属性の魔力を含んだものではない。温かな人族へと回帰しているはず。


 魔界騎士シャイナスは、


「圧巻だ。エイジハルの誇り高き血も。その至宝の前では例外はないということなのだな……」


 嘆息混じりに呟いた。その言葉に同意だ。


「ふむ。人族に再生……弟子の記憶を見ているが、やはり、不思議よ……」


 飛怪槍流グラド師匠の言葉に師匠たちも同意していくように頷き合う。

 すると、ヒミィレイスは震える瞼を押し上げるようにして目を開けた。

 

「え……」


 驚いたヒミィレイスは、足下の黒猫(ロロ)を見つめる。


「あっ、黒猫……あの時の……あ、姉さん……同胞たち、【血の守護騎士団】たち……あぁ……私は……」


 目覚めたヒミィレイスは涙ぐむ。


「ヒミィレイス!! 良かったッ、無事なんだな?」

「はい、姉上」


 二人は抱き合う。

 ヒミィレイスの目から大粒の涙が零れ落ちる。

 ラライセも肩を揺らして泣いていた。


「良かった……本当に……」


 ラライセは感極まって声を震わせている。

 ラライセは衣服をすぐにヒミィレイスに付けていく。


 そこに歩み寄った。


「にゃおぉ~」


 黒猫(ロロ)も嬉しそうだ。

 しなやかな足取りで彼女に寄り添う。

 

 ラライセが、「歩けるか?」とワンピースが可愛いヒミィレイスの肩を支える。


 ヒミィレイスは、「あ、少しなら、大丈夫と思います」と、歩こうとした足はガクッと揺れたラライセが、「いきなりだ、無理はするな」と姉らしく注意すると、


 妹のヒミィレイスは、「ふふ、もう吸血鬼ではない、人族なのですね、力の入れ方が……」とラライセに支えられながらも、ヒミィレイスは歩き始めた。

 

 そして、姉の手を離れ普通に歩く。

 腕を伸ばし、指先が空に舞う幻を追うように揺れる。


 空を泳ぐような手つきだ。指先が綺麗。

 何か見えない幻影を追いかけているかのように、その指先は覚束なく空を切る。


 だが、ふと、足下を付いていた黒猫(ロロ)を見て、彼女の貌に柔らかな色が差した。「ふふ……黒猫ちゃん」と呟く。

 

 石化が解けたばかりの混濁した意識かとも思ったが、彼女の瞳に宿る光は驚くほどに澄み渡っている。まるで、長い夢の終わりにようやく目的地へ辿り着いたかのような、静かな喜びがそこにはあった。


 そのヒミィレイスは「夢じゃなかった……」と体勢を低くして、指先で、相棒の柔らかな毛並みに触れていた。


 夢じゃなかったか。黒猫の夢でも見ていたのかな。

 ヒミィレイスは俺を見て、


「あ……」


 何かを言いたげだったが、笑顔を意識。

 するとヒミィレイスは「……光と闇の……槍使い様……」と呟き深々と頭を下げた。


「頭をあげてくれ」

「あ、はい、お初にお目にかかります。ラライセの妹、ヒミィレイスと申します。そして、あの時から、今のこの瞬間までは、数分の出来事に思えますが……待っていました……」


 待っていた? 石化していたのにか?

 疑問を抱き隣のラライセを見た。

 ラライセは、「あっ」と思い出したように、ファーミリアと共に頷いて、妹の言葉に驚愕しているようで、目を見開いている。

 ラライセは、


「そうだったな、ヒミィレイス、あのことか……」

「はい、姉上」


 どうやらエイジハル家、吸血鬼(ヴァンパイア)には、俺の知らない不思議な伝承か、あるいは吸血神ルグナドの遺した言葉があったらしい。


 ファーミリアは、


「シュウヤ様、吸血神ルグナド様は過去にシュウヤ様とロロ様のことを神託していたのです……」

「へぇ」


 俺と相棒がここに来ることは、彼女たちにとっては運命だったということか。

 ラライセは頷く。ヒミィレイスは俺をジッと見ていた。

 そのヒミィレイスに、


「……詳しい話は後で聞かせてもらおう。俺の名はシュウヤ。君が無事でよかった」


 差し伸べた俺の手に彼女の白く細い指が重なる。

 人族としての柔らかくも確かな熱が伝わってきた。

 ヒミィレイスは潤んだ瞳に宿る運命を噛みしめるように、深く、静かに微笑んだ。


「はい……シュウヤ様。この身は一度死に、人の身として蘇りました」

「そのようだ。良かったら光魔ルシヴァルで迎え入れてもいいが、まぁ、その辺りはサイデイルに戻ってからだな。皆とゆっくりと話をしたらいい」


 俺の言葉に、ラライセと【血の守護騎士団】たちが喜びの声を発した。


 人族といえども、同胞だ。しかも皆を守るために石化した。

 自分を犠牲にして他者を救う、なかなかできることではない。


 隣で控えていたヴィーネが翡翠の蛇弓(バジュラ)を背負い直し、穏やかに微笑んだ。キサラもダモアヌンの魔槍を傍らに、新たな同胞を歓迎するような眼差しを向けている。


 そこで皆を見て、


「このエイジハル血院だが、一応、〝レドミヤの魔法鏡〟で場所を記憶しておくとして、撤退の準備を始めようか。ラライセと【血の守護騎士団】たち、この場所で調べたいことがあったら言ってくれ」


 石化から解かれた喜びはあるが、ここは依然としてエイハブラ平原の真下の地下深く。

「……ありがとうございます、シュウヤ様。ここは我らエイジハルの根源。ですが、妹が救われた今、この場所に未練はありません。血院の中枢、【血の源泉の間】の封印も放たれて、幾星霜、妹を利用した闇神リヴォグラフ側の戦力の事象もありますから、もうほとんどが吸血神ルグナド様と吸血鬼(ヴァンパイア)には意味がない。あ、ただ、祭壇の奥にある記録晶石が生きていれば、回収したい思います。たぶんダメだとは思いますが」

「了解した。他にも調べたいことがあったら調べてから撤退しよう。黒猫(ロロ)と皆、周囲の警戒を頼むぞ」

「ンン、にゃお~」

「「「はい」」」


 相棒は短く鳴くと四つの触手をうねらせて素早く影へと溶け込んでいった。

 アイテムボックスから〝レドミヤの魔法鏡〟を取り出した。

 その〝レドミヤの魔法鏡〟に魔力を注ぎ設置した。

 縁際に小型の差し込み口が、誕生しているのも変わらない。


 【魔界:メリアディの書網零閣】

 【魔界:ルグファント森林】

 【魔界:ヴァルマスクの大街】

 【魔界:アムシャビス族の秘密研究所の内部】

 【魔界:メリアディの荒廃した地】

 【魔界:エルフィンベイル魔命の妖城の冥界の庭】

 【魔界:メリアディ要塞の大広間】

 【魔界:レン・サキナガの峰閣砦】

 【魔界:骨鰐魔神ベマドーラーの内部】

 【魔界:南華大山山頂部】

 【魔界:ガルドマイラ魔炎城】の城主の間

 【魔界:ウラニリの大霊神廟の遺跡】

 【魔界:【源左サシィの槍斧ヶ丘】の奥座敷の庭】

 【魔界:テーバロンテの王婆旧宮の大広間】

 【惑星セラ:フロルセイル地方、西マハハイム地方、傷場の地】

 【惑星セラ:塔烈中立都市セナアプア、魔塔ゲルハット屋上】

 【惑星セラ:マハハイム地方十二樹海のサイデイル】

 【魔界:グィリーフィル地方・傷場】

 【惑星セラ:北マハハイム地方魔境の大森林、元皇都キシリア】

 【惑星セラ:北マハハイム地方、城隍神レムランの遺跡】

 【惑星セラ:北マハハイム地方、聖都サザムンド】

 【惑星セラ:北マハハイム地方、金アロステの丘、光の神殿】

 【惑星セラ:ゴルディクス大砂漠、犀湖都市、宿屋】

 【惑星セラ:ゴルディクス大砂漠、犀湖都市、人神アーメフの大神殿内部】

 【惑星セラ:ゴルディクス大砂漠、突岩の街フーディと暁の墓碑の密使の地下神殿と大仙人の時の揺り籠】

 【惑星セラ・ゴルディクス大砂漠、ダモアヌン山】

 【惑星セラ・イーゾン山、八峰大墳墓】

 【惑星セラ・マハハイム山脈・ゴルディーバの里】


 現在登録されている転移先が、美しい絵画風のバナーと共にリスト表示される。

 さて、消すのは【惑星セラ:北マハハイム地方、城隍神レムランの遺跡】かな。



続きは明日を予定。HJノベルス様から「槍使いと、黒猫。1巻-20巻」発売中。

コミック版1巻-3巻発売中。

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