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槍使いと、黒猫。  作者: 健康


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2098/2125

二千九十七話 レヴェルフォードの最後と光の鴉

 宙空で体勢を立て直し、眼下を見やった。


 光精霊フォティーナを乗せたナイトオブソブリンとペルマドンのドラゴンが宙空を展開している。

 砂城タータイムを外に出せるだけに広さはここにはあるが、必要なかったな。


 そして、地下回廊の岩壁に無様に磔にされたレヴェルフォードの姿があった。


 クナが放つ光魔ルシヴァルの濃密な<血魔力>が空間を縛り、ルシェルの《光の戒(スペクトル・レスト)》が刻まれた岩面が七色の魔線を走らせて神聖なる檻を形成している。

 

 罠か。更に、レヴェルフォードの胸を貫いて岩壁に縫い止めているのは巨大化した黒猫(ロロ)の触手骨剣だ。その周りの戦場には、干からびた異形の魔族の死体、魔獣死人と岩石百足の死体が散らばっているが、血の匂いは少なく、乾いた空氣となっていた。

 

 レヴェルフォード以外は敵は、もういない。

 完全な勝利だろう。

 肩の竜頭装甲(ハルホンク)を意識し、上半身の装備を薄着に変化させた。


「……ぎ、が……あぁッ!」


 レヴェルフォードが必死に転移の予兆を見せる。

 だが、光の戒めに触れるたびバチバチと聖なる火花が散り、その魔力を物理的に霧散させていく。

 そんなレヴェルフォードの逃げ道を完全に封鎖した眷族たちが肉薄していた。


「逃がさぬと言ったはずだ、闇神の狗め」


 冷徹な声を放ち、一歩前へ出たのはラライセだ。

 彼女の背後では【血の守護騎士団】が盾を打ち鳴らす。

 同胞を惨殺された怒りを重低音の響きに変えて空間を震わせている。


「貴様らが啜った我が同胞たちの血……ヒミィレイス……仇……その一滴一滴の報い、今ここで受けてもらうッ!」


 ラライセの叫びに呼応し、ファーミリアが、


「はい! かつての恥辱をお前に!!」


 と叫ぶと、サンスクリットの血霊剣を低く構えた。

 <血剣歩法・瞬血>による超高速の踏み込み。

 血霊剣の真上と横に出現したばかりの血刃がレヴェルフォードの右肩を正確に削り取る。

 回復の起点となる魔力回路を強引に破壊していく。

 二人は素早く左右に移動を繰り返し、どす黒い血飛沫の返り血は浴びていない。

 レヴェルフォードは、


「あ、あぁぁぁッ! リヴォグラフ様……ッ!」


 刹那、磔されている岩から光が溢れた。

 同時に光神ルロディスの幻影や光の女神イリディアの幻影が宙空に生まれては消えていく。

 レヴェルフォードはそのたびに、体が震えていた。

 そして、ファーミリアが、


「……無駄です。貴様の神に届くのは、その無様な断末魔だけでしょう」


 感情を排した声で告げる。睨みを利かせた双眸でレヴェルフォードを射抜く。

 追い打ちをかけるように血霊剣を捻り込むと――。

 ルリゼゼもまた曲剣をレヴェルフォードの腿へと突き刺し再生の余地を奪っていく。


 正直、早く屠ってやれ。と言いたいが……ラライセとファーミリアには当然の想いか。

 ヒミィレイスのことを考えたら仕方ない。これも戦いか……と己の甘さを感じながらゆっくりと地上へ降下を開始した。相棒がドヤ顔で俺を見る。


 獲物を確実に仕留めたからな。

 満足げな表情だ。大きくてつぶらな瞳と髭と顎の動きから表情筋があるように思えた。


「にゃごぉぉ」


 という唸り声を上げて複数の触手を蠢かせながら俺を迎える。

 そこにラライセが自らの血槍を掲げ、俺を見て、


「――シュウヤ様、魔伯爵カイムを見事に討ち取ってくださった! そして、次は、この【暗夜十三の執行者】時の影レヴェルフォードです。どうぞ!」


 と、俺に止めを促す。

 レヴェルフォードは驚愕のまま双眸から<闇の血魔力>を発生、魔法陣を浮かばせるが、バチッと音を響かせ、それは一瞬で霧散した。


 すると、クナが冷ややかな笑みを浮かべ、


「ふふ、無駄ですわよ、<魔吸大法>を耐えているのは、さすがです。しかし、ふふ、<血獄の魔星破群>もあるので、転移なども使えません。無駄ですわよ……」


 と、レヴェルフォードの口や鼻に、そのクナが用意したであろう煌びやかな<血魔力>の紐のようなモノが入り込むと侵入し、彼の残存する魔力を容赦なく吸い上げていた。


 これでは拷問に近い……。

 もう勝負はついている。クナに手を向け、「これ以上は止めようか」と短く告げる。

 クナは「はい♪」と大人しくお辞儀をして指先を鳴らすと魔法を弱めた。

 常闇の水精霊ヘルメたちも何かを言うように俺を見ている。


 ラライセたちに仇を取らせるのが筋、


「ラライセやファーミリア、任せる」

「はい!!」


 ファーミリアはラライセに譲るように後退。

 ラライセは頷いて、槍を引く。

 その穂先には、騎士団の誇りと、散っていった仲間たちの無念が宿っているように思えた。


「これが、我ら【血の守護騎士団】の答えだッ!」


 ラライセの槍が鋭い軌跡を描き、磔にされた敵の喉元を深々と抉り抜いた。返す刀で、騎士団の憤怒を叩きつけるかのように頭部と胸を連続で穿つ。

 そこへ、背後の岩に設置済みのルシェルの《光の戒(スペクトル・レスト)》が呼応したように七色の魔線が光条となってレヴェルフォードを内から貫く、焼いていく。断末魔すら聖なる輝きに掻き消され、男の肉体は蒼炎の中で霧散し、塵一つ残さず蒸発していった。


 戦場に一時の静寂が訪れる。

 そこにラライセたち【血の守護騎士団】の歓声が響いていく。


「閣下、大勝利! 【闇神異形軍】の軍もすべて倒しきりましたぞ」

「閣下ァ! 我らの勝利!」


 光魔魔沸骸骨騎王のゼメタスとアドモスも雄叫びを行うように叫ぶ。

 戦勝の歓喜となる。


「ふふ、ご主人様、大勝利、おめでとうございます」


 ヴィーネはそう言うと、俺の胸と繋がっている光属性の魔力を見てから、胸に刻まれている<光の授印>の刺青、模様を凝視。


「それは……」


 その言葉に頷いた。

 胸の<光の授印>も光を帯びている。

 霊廟と鴉の背景に、中央に鎖が絡んだ十字架の模様は変わらない。


 キサラも、


「光の反応は、あの床下、先程倒した【暗夜十三の執行者】の魔槍使いを倒したところです。そして、シュウヤ様の胸に、黄金の魔力が吸い込まれているようにも見えます」

「あぁ、キルアニスを仕留めた<光穿・雷不>の影響だけではないだろう」

 

 と、振り向いて、光の魔力の出本を見る。

 土手状になっているので、ここからは上のほうだが――そこから溢れ出した光属性の魔力は、光線の太いラインを宙空に作り、目に見える矢印となって、俺の胸の<光の授印>と繋がり続けている。


 胸の鼓動が速まる。

 それに呼応するように、<光神の導き>が熱を帯びて激しく脈動し始めた。<聖刻ノ金鴉>を象徴する黄金の鴉と鎖の十字架が虚空に浮かび上がるほどの眩い光を放ち、地底から伸びる太い光線とガチリと噛み合う。

 光のラインを滑るように黄金の鴉たちが乱舞し、その先にある岩盤の底へと俺を誘っていた。

 

 この魂を揺さぶるような反応……かつての聖戦士たちが残した遺産、あるいはそれ以上の「何か」が眠っているに違いない。

 この反応からして、聖戦士の装備か何かだとは思うが……。


 ユイが、


「シュウヤ、私のイギル・ヴァイスナーの双剣も反応している」

「あぁ」

「この光具合から、四眼四腕の強者、【暗夜十三の執行者】の幹部が、聖戦士の装備を持ってた?」


 と聞いてきた。

 ユイのイギル・ヴァイスナーの双剣からも光が伸びている。

 だが、俺の<古ノ聖戦士イギル・ヴァイスナーの絆>のほうには反応がない。

 イギル・ヴァイスナーが持っていた装備ではないが、光側、聖戦士のカテゴリーで活躍していた方の装備を持っていたってことかな。


 と考えつつ、


「たぶんな」


 とユイに答えると、レベッカが、ナイトオブソブリンとペルマドンを城隍神レムランの竜杖に吸い込ませるように、杖の飾りに戻していた。


 巨大なドラゴンから一氣に杖のドラゴンの飾りになる動きは面白い。

 そのレベッカは、


「聖戦士と呼ばれた方々って、イギル・ヴァイスナー以外にも居たようだからね。もしくは、神界セウロス側の戦士の装備かも」


 そのレベッカの言葉に頷いた。

 エヴァが、


「ん、ルシェルの《光の戒(スペクトル・レスト)》の効果の一部だと思うけど、光神ルロディス様と光の女神イリディア様の幻影も見えた」

「あぁ、俺も見た」

「わたしも」

「はい、私も見たさ」

「はい……光神ルロディス様たちも、私たちを見守ってくださっていた」


 ルビアの言葉にエトアたちが頷いていく。

 レベッカは、


「そうね。闇神リヴォグラフ側の結構な戦力を私たちが倒したからってこともあるかな」


 頷いた。

 ファーミリアが、


「はい、闇神リヴォグラフの【暗夜十三の執行者】たちは当然に神界側の、光神ルロディスの戦力と、何度も戦っていますからね、戦利品も得ているでしょう」


 皆が頷いた。

 ラライセたちも、俺の顔色と胸元の光の十字架と聖廟と鴉の輝きを、怯えながら凝視してから、頷く。

 少し遅れてざわついた【血の守護騎士団】の吸血鬼(ヴァンパイア)たちも「「はい」」と返事をしていく。

 

「……と、ラライセたちは属性的に危険だ。離れた位置で見といたほうが安心かもだ。では、見てこよう。ラムーたちもついてきてくれ」

「はい、行きます」

「ん」

「行く」

「「「「はい」」」」


 皆の返事に頷いた。

 胸元と繋がった光の糸に引かれるように――振り返り、<光槍技>でぶち抜きキルアニスが沈んだ陥没地帯へと歩を進めた。傾斜した地面を上がる。


 近くにいた光魔魔沸骸骨騎王のゼメタスとアドモスが【闇神異形軍】たちの死体を退かす。

 盛り上がった土手と岩肌には光の魔力がこびり付き、熱を帯びていた。

 光の粒子が砂塵のように舞い上がっている。

 粒子が小精霊(デボンチッチ)に変化しては消えていく。


小精霊(デボンチッチ)です!」

「うん、空間が一氣に清浄となったからかもね」

「<光神の導き>もあるでしょう」

「「はい」」


 皆と幻想的な景色を見ながら、足場が悪い坂道を上がると、なだらかな下り坂となった。

 少し先が陥没した岩盤となる。


 ――中心部の底へと下りて近づくにつれ<光の授印>の輝きが更に激しさを増した。

 

 空氣の密度が変化。

 厳かで、刺すような神聖な魔力が周囲を支配していく。

 光の矢印が指し示す先を皆で進む。

 陥没した岩盤の最深部には光の渦が巻き――そこに、二つの武具が静かに鎮座していた。


 一つは、白銀の金属に金色の細工が施されたアンクル。


 もう一つは太陽を模した中心核がかすかに脈動しているかのような厚手の腰ベルト。

 ここは地下深くだと言うのに、天から光が射すように大氣の一部が歪み、そこからも陽のような魔力がアイテムを照らしていた。その周りを複数の小精霊(デボンチッチ)が踊りながら行進している。


 ルビアとエトアとシャナが指を小精霊(デボンチッチ)たちに向けているが、小精霊(デボンチッチ)たちは、透けて触ることはできていない。


 ヴィーネが、


「アンクルと腰ベルトですね。完全に、光属性のアイテムでしょう」

「うん、【暗夜十三の執行者】が持っていたアイテムボックスが壊れて、その中身が、あの品? かな?」


 レベッカの言葉に、


「あぁ、キルアニスが光属性の武具を直に扱うにはリスクが高いが、それを扱っていたからこその、あの品か。闇神リヴォグラフ側の戦力は、神界の勢力以外にも魔界とセラの闇属性を有した勢力とも戦っている。光属性の武器で闇側を屠ったこともあるはずだ。と、思うが、アンクルと腰ベルトだから違うかも知れない」

「はい、やはり、彼ら【暗夜十三の執行者】が神界側の勢力から奪った戦利品でしょう」


 ヴィーネ、レベッカ、キサラの言葉に頷いた。


 聖戦士の装備か、光側のアイテム。

 光属性が強烈だから、キルアニスは使えなかった装備だろう。

 壊れたアイテムボックスの中に入っていた物が、外に出たのかもしれない。


 胸の<光の授印>が激しく拍動し、繋がった光のラインが、俺の歩みに合わせて収縮していく。


「触れてみる」

「はい」

「ん」


 まずは腰ベルトに向け、右手を伸ばす。

 腰ベルトに指先が触れると吸い付くような魔力の奔流が腕を駆け抜けた――。

 持ち上げると溢れ出した光の中から二羽の黄金の鴉が産声を上げるように羽ばたき、俺の周囲を旋回していく――。


 精神の深淵に直接響き渡る鴉の鳴き声が響く――。

 直後、ベルトの表面に鴉の紋章が刻まれ、飛翔していた鴉たちが眩い光芒を放ちながら二振りの槍へとその姿を変えた。

 ――二つの槍は主を待っていたと言わんばかりに静かに宙空で静止。

 俺の手に収まる時を窺っているように振動している。


「「「おぉ」」」

「にゃおぉ~」


 相棒の肉球がアンクルに触れると、アンクルから幻想的な鴉が現れて消えていた。


「エンチャント~」


 ボンも近付いて、不思議そうにアンクルを凝視。

 

「装着してみるか」


 装着することを念じた瞬間に腰に巻き付く。

 薄着の肩の竜頭装甲(ハルホンク)の防護服に合う形にフィットした。

 同時に背と腰に槍帯が装着し、浮いていた二つの槍も装着される。


「シュウヤ、その腰ベルトは、アイテムボックスでもある?」

「どうだろう。この槍は――」


 と二つの槍を抜くと、『カァ~』と鴉の鳴き声が響き感覚で理解できた。

 腰に巻かれていたベルトが光の粒子へと崩れ、吸い込まれるように槍の柄へと収まっていくと、一瞬で、白銀の柄の表面に、黄金の鴉が翼を広げて太陽を抱くような美しい紋様が刻み込まれた。


 同時に一本の槍にすることもできた――。


「あ、一本に!」


 驚きに目を見開くレベッカの蒼い瞳を見つめ、静かに頷く。

 二振りの槍を交差させると、磁石が引き合うように一本の巨大な長槍へと収束していった。


 全長は二メートルを超えているか――。

 角度を変え、穂先は太陽のフレアを模したような黄金の波打つ両刃。


 その中心には、魂の拍動を伝えるかのように深紅の魔石が埋め込まれている。


 白銀の柄には、鴉の羽を一枚ずつ重ねたような緻密な彫金が施され、俺の手に馴染む箇所には滑り止めの役割を果たす黄金の鎖模様が浮き出ていた。

 自然と理解できている名を、


「おう、この槍の名は、陽槍ルメルカンド。腰ベルトはアイテムボックスでもあるようだが、この陽槍ルメルカンドが、本当の姿のようで、まだ何かある」


 と隣で浮いていたアンクルが弾けるような光と共に一瞬で黄金の鴉へと姿を変えた。


「カァ~」


 黄金の鴉は高らかに鳴き声を上げると肩を掠めるように飛翔――。

 陽槍ルメルカンドの石突の辺りに静かに着陣した。 

 鴉の瞳には知性が宿っている。俺を主と認めたかのように深く首を垂れていた。

続きは明日、HJノベルス様から書籍「槍使いと、黒猫。1巻-20巻」発売中。

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