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槍使いと、黒猫。  作者: 健康


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二千九十四話 暗夜十三の執行者と血塗られた円形劇場

 ◇◆◇◆


 ここはエイジハル血院、最深部――【血の源泉の間】。

 かつて高貴なる吸血神ルグナドの血の魔力を湛えていた泉だが……。

 今や、ドス黒い腐濁の沼へと変貌していた。


 その中心、祭壇の上で石化したままのヒミィレイス・エイジハルの石像には数本の闇神の杭が打ち込まれている。


 そして、豪奢なマントを羽織った魔人、魔伯爵(まはくしゃく)カイムが、石像を見下ろしつつ、魔次元の紐を頭上に展開した。

 執行者の証たる印を刻むように、片膝を突き跪く。主への忠誠を示すその所作には、冷徹な魔伯爵に似合わぬ狂信的な静謐さが宿っていた。円を作った魔次元の紐の間に、魔法の膜が張られる。

 その膜に赤い目を複数従えた闇神リヴォグラフ側の人型タイプが映り込むと、


「カイムよ、報告を」


 と、そこから闇神リヴォグラフの声が漏れた。

 カイムの配下たちが一斉に頭を下げていく。

 カイムは、


「――ハッ! 獄界ゴドローンの勢力と吸血神ルグナド側の勢力が活性化、ダークエルフ共も協定を破り、地下動脈層の地下道の探索を強化し、魔翡翠鉱脈層に進出しています。そして、先程、ザルグたち南マハハイム地方の十二樹海の傷場防衛隊の生き残りから連絡があり、このエイジハル血院に向かっているようです」

「……ふむ、例の槍使いが率いる光魔側とラライセ【血の守護騎士団】の一団が、お前のところに向かうかもしれん」

「分かりました……【血の守護騎士団】は魔界側ではなく、セラ側を西に突き進んでいるようですからな」

「うむ」

「では、この【血の源泉】による<闇の血魔力>研究、〝永劫の血石〟は進展していますし、ここを捨てますか?」

「捨てていい、他の【暗夜十三の執行者】にも知らせよ、お前たちは、【迷宮都市サザーデルリ】か。ドンレッド蛮王国の【ゲムハゼ大街場連船】に撤退し、現地の大眷属と共に、その近隣の傷場の防衛にあたれ、ではな」

「ハッ!」


 魔次元の紐が消える。

 カイムは立ち上がり、皆を見据え、


「……ここを捨てる時が来た。皆、準備をしろ」


 すると、近くの通信魔水晶が不快なノイズと共に激しく明滅を始めた。


『……あ、あぁ……カイム、様……! 聞こえますか……!』


 水晶から響いてきたのは、苦痛と疲労に塗れたザルグからだった。


「ザルグか。報告せよ」


 カイムが冷淡に応じると、ザルグは血を吐くように叫んだ。


『現在、ポリンガム方面への旧坑道を迂回し、撤退中ですが……』


 ザゴッ、という鈍い音と、何かが砕ける音が通信越しに響く。

 背景からは、剣戟音と骨が軋むような異音が聞こえていた。


『グァッ……! くそッ、また地底神の骨共か! ……カイム様! このルートもまた敵だらけです! ダークエルフの魔導貴族の軍隊、獄界ゴドローンの地底神セレデルの眷族どもが湧き出し、我々の退路を塞いでいます!』


「……ダークエルフに、セレデルか。獄界ゴドローンの連中め、相変わらずハイエナのような嗅覚だ」

『それだけではありません! 奴らが……光魔ルシヴァルの軍勢が、異常な速度でこちら側に迫っているようです』


 ザルグの声が恐怖に震える。


「……」

『数刻前……我々はポリンガム手前の大空洞にて、奴らの進撃を食い止めるべく、虎の子の岩石百足(ストーンアラババ)部隊を展開しました。ですが……奴らは一瞬です! あろうことか、正面から岩石百足の装甲を粉砕し、ポリンガムの正門方向へ突破されました!』


 カイムは驚く。


「……岩石百足の装甲を正面から、か。魔界騎士ヘルキオスや<従者長>モモルが近くにいたわけでもないのだな?」

『奴らは闇を持つくせに、光を巧みに扱う! 光槍、紅斧、そしてあの神獣……! ポリンガムのドワーフ共が奴らを止められるとは思えません。このままでは、奴らは地下道を抜け、真っ直ぐにそちらへ……!』


 その言葉を聞いたカイムの目は、獲物を見つけた猛禽のように細められた。


「ルキヴェロスス様や魔界騎士メイアール様に、輩のザガンを屠るだけは、あるか……」


 と呟くカイム。すると、ザルグたちの水晶の向こうで「ギギギ」という骨の摩擦音と、そのザルグの絶叫が響いた。

 通信が途絶える。


「……地底神セレデルめ、地底神ロルガなどが消えたことで動き易くなったか……」


 カイムは表情一つ変えず光を失った魔水晶を握り潰した。

 そこに影から染み出すように現れたのは時の影レヴェルフォード。

 と異形の姿をした眷族衆。


 彼は歪んだ笑みを深める。


「岩石百足を正面から粉砕し、ポリンガムへ入った……ということですね。あの堅物のドワーフどもが、光魔の軍勢を易々と通すとも思えませんが……」


 カイムは、


「ドワーフどもと手を結び、地底神セレデルなどの勢力を打ち破り、地下道を通ってきたのかもだ」

「それでも速いと思うがな……」

 

 カイムは、レヴェルフォードの言葉に頷く。

 そして、ヒミィレイスの石像を乱暴に撫で回し、その瞳に嗜虐的な光を宿した。


「ふむ、次は必然的にここ、エイジハルだ」

「ならば東側……懐かしいですね。かつて我らがここを攻め落とした際、最後まで足掻いていた連中がいた場所だ」

「あぁ、ラライセを逃がすために捨て駒となった、あの『東方の剣士』か。名は知らんが、小賢しい剣技を使う男だった」


 カイムの言葉に、レヴェルフォードが、かつて自らが斬り捨てた獲物の感触を思い出すように指を動かす。


「では、その東の門から出迎えよう。そうしてから、サザーデルリの傷場の増援に向かうとしようか」

「……その言い方、光魔の連中と事を構えるので?」

「ハッ、ザガンを屠った連中だぞ?」

「……『壊僧かいそうザガン・ボルド』……我ら【暗夜十三の執行者】の仇ではあるが……リヴォグラフ様は撤退を指示した」

「無論、大本の指示には従うが、あの東方の剣士が無様に死んだあの場所で、数万の魔獣死人と岩石百足をも囮にしたら、どうなるか」

「迂回、否、【血の守護騎士団】たちならば突破するだろう」

「そこを逆に急襲すればいい、無理なら撤収だ」

「その光魔とラライセたちの前に、東の傷場の陥落と我らの劣勢を見た、地底神セレデル側や人族連中、特にダークエルフ連中が闇の<血魔力>の源泉にもなり得る、ここを狙うかもしれんぞ」

「無論、目の前に迫る敵はすべて撃破しての話だ」

「承知した、付き合おう」


 レヴェルフォードが影の中へと消える。

 カイムは冷酷な笑みを浮かべ、石化したヒミィレイスの頬に爪を立てた。


 さあ、来い、光魔ルシヴァル。お前らの血で、この石像を紅く染め上げてやろう――。

 そこに、異形のシーレルが現れる。


「閣下、骨共との戦いは勝利を続けておりまする、ですが、他の地下道も怪しい動きが出ていますぞ」


 カイムは頷くとシーレルと【闇神異形軍】に向け、


「ハッ、好都合、敵はエイジハル血院、東門にあり! 出るぞ――」

「「「ハッ!」」」


 エイジハル血院の東門を出た大広場は、地下の覇権を狙う勢力たちが入り乱れる、血塗られた円形劇場と化していた。


 上層の「グレイトゴブリンの巣」から雪崩れ込んだ重装甲のゴブリン歩兵大隊。

 地底神セレデルの意志を体現し、カタカタと骨を鳴らして進軍する骨戦士(スケルトン)の軍勢。

 そして、その混戦を冷ややかに見下ろし、精緻な連弩魔銃で狙撃を繰り返すダークエルフ、エンパール家の精鋭小隊。


 三つの殺意が爆ぜる円形劇場。その熱狂を冷ますように殺戮の舞台に冷徹な終焉が降り立つ。

 執行者たちが放つ濃密な死の氣配は戦場の熱狂さえも凍りつかせ、不自然な闇が光を貪り喰らっていた。


 戦場の中央では、幾度となく刃が煌めくと、周囲のグレイトゴブリンが死体が散ってた。

 

 点在していた大氣を歪ませるほどの魔力が数回蠢く。

 と、時の影レヴェルフォードが姿を現す。右にブレると、袈裟掛けのまま消えたようなレヴェルフォード。

 右手に握る魔剣ツィクラハドが煌めきながら大氣に消える。

 途端に、前方の刃の周囲の光が不自然に屈折し、時折消失したかのように見えるほどの、高速の剣刃が、グレイトゴブリンの体を両断していた。


「「グヴェェ~」」

「魔族、ゴロス!!」

「おで、魔族の血、ずぎ!!!」

「「おでも!!!」」

「魔族の男もずぎ!!」

「おでも!!」

「「おでは、女がいい!!!」」


 巨人種に近い巨躯を揺らし、下卑た咆哮を上げるグレイトゴブリン共。

 剥き出しの欲望を象徴する醜悪な一物が地面を叩く――。

 撒き散らされる精液の腐臭が血院の空氣を汚濁させていた。

 レヴェルフォードは顔を歪め、「くせぇ……」と、唇がかすかに動くと、「目障りだ――」口元の大氣が揺らぎ魔印が幾つも発生した刹那――レヴェルフォードの存在が、現世の理から滑り落ちる――。


 視界を埋め尽くす黒い残像は過去と未来が重なり合った断層か――。

 大氣を物理的に叩き割るような硬質な破砕音が鼓膜を震わせた。

 幾重もの黒い残像へと分身し、ガラスが割れるような音を立てて爆ぜる。

 レヴェルフォードは加速した時間の中を悠然と歩み、止まったままの敵群を通り抜けた。


 魔剣ツィクラハドが通り過ぎた剣閃が幾重も彼の周囲に出現し、消えていく。

 ――カチャリ、と静かに剣を鞘に納める音が響く。


 それが合図であったかのように数十体のゴブリンと骨兵たちの体が紙細工のように一斉に断裂し、崩れ落ちた。魔剣ツィクラハドが通り過ぎた軌道上には空間そのものが千切れたような黒い線が残り、遅れて血の噴水が舞い上がる。


「……ゴミ共が」


 影から伸びた無数の腕が、生き残った者たちの喉を掴み、断末魔さえ影の底へと引きずり込んでいく。


 一方、門の頭上では魔伯爵カイムが指先を優雅に躍らせ、目に見えぬ闇の鋼糸で空間を裁断し、セレデルの騎士たちをバラバラに解体していた。そこに、大地を沈み込ませるような重厚な魔圧が加わる。


「レヴェルフォード。あまり遊ぶな」


 血院の回廊の奥から、圧倒的な質量を感じさせる魔族が歩み出た。

 逞しい四本の腕、そして顔面には縦に並ぶ四つの瞳。

 その右下の一眼は深い斬り傷によって潰れ、閉ざされているが、残る三つの瞳には、見る者の魂を凍りつかせるような、修羅の如き光が宿っていた。


 彼は【暗夜十三の執行者】が一人、魔槍使い(まそうつかい)キルアニス。

 そのキルアニスに向け、カイムが、


「ダークエルフは斥候中隊だな」


 キルアニスは頷く。リヴェルフォードは応えず前方の青白い肌のダークエルフが繰り出した魔矢を避けていく。キルアニスはダークエルフではなくグレイトゴブリンを凝視。


 傷だらけの顔に並ぶ魔眼をぎらつかせ、


「蹂躙しようか……」


 と呟きながら<壊死の魔眼>を発動。

 包囲しようとしていたグレイトゴブリン兵たちの肌が墨を流したように壊死し、泥のように溶け落ちていく。壊死の魔眼による、静かなる処刑。


 キルアニスは「次はお前らだ――」と四本の腕を踊らせ、手にした二本の巨大な魔槍を流麗な動作で構えた。

 彼が地を蹴ると、その巨躯が音速を超えて戦場を直進する。

 四本の腕を複雑に連動させた、二本の槍による多角的な螺旋突き――。


 それは槍の突きというよりも、空間そのものを抉り穿つ破壊の奔流だった。

 正面にいたセレデルの骨兵たちは、その風圧だけで粉々に砕け散り、その背後に控えていたダークエルフたちの多層防御結界も、紙細工のように無残に引き裂かれた。


「――ッ!?」

「なんだ、今の槍は……!」

「退け! ここはリヴォグラフの処刑人が守ってい――」


 ダークエルフの悲鳴が途切れる。

 キルアニスは魔槍を振り、刃に付着した毒を帯びた血を払った。

 縦に並んだ三つの瞳が、獲物を生命ではなく腐肉として定義する。

 壊死の魔眼が放つ見えざる波動に触れた瞬間、熟れすぎた果実のように、敵の肉体は存在の根底から崩壊していった。

 魔槍は飛来した魔矢を複数弾いた。


「うるさいな、ダークエルフども!」

「――天井の移動も、なるほど、あれはエンパール家だな」

「ふむ、斥候にしては練度が高いとは、考えていた。レヴェルフォードも多少は苦戦中だ」


 すると、天井の岩を高速に移動していくダークエルフたちが、次々に魔矢を連弩から放っていた。

 キルアニスとカイムは、得物を振るい、岩陰に隠れて魔矢を凌ぐ。

 カイムは、


「……しつこい連中だ」


 四眼の魔槍使いは不敵に笑い、


「ハッ、そのうち降りてくる。魔槍の餌食にしてやろう」

「下にいる連中はレヴェルフォードに釘付けだ。上のは、降りて来ないだろう。と言うことで上の連中は私が仕留めよう――」


 斜め上に跳躍したカイム。

 エイジハル血院の東門を抜けた先、広大な吹き抜けとなった【大回廊】の天蓋に向かう。

 天蓋には、那由他の年月を経て形成された巨大な鍾乳石が、鋭い牙のように無数に垂れ下がっている。

 その巨大な岩が弾けとぶ。今、二つの武が激突していた。


「――ほう。ダークエルフの剣術、これほどまでとはな――」


 魔伯爵カイムが優雅にマントを翻しながら天井近くの鍾乳石の側面に降り立つ。

 彼の視線の先、対面に位置する巨大な鍾乳石には、漆黒の軽装鎧に身を包んだエンパール家の魔剣師――中隊長ジヴァンが抜き放った魔剣ククデを構えていた。


「闇神リヴォグラフの【暗夜十三の執行者】だな? 貴様の首、我が一族の栄誉として捧げさせてもらう!」


 ジヴァンが地を蹴り、跳び、魔剣から紫の雷光を放つ。

 ――その雷光の魔刃がカイムの立っていた場所を粉砕した。

 カイムはそれを紙一重で回避し、指先から闇の鋼糸を展開し、ジヴァンを捉え、否、残像が斬り刻まれて消える、背後に後退。それを読んだカイムはジヴァンの横に移動済み、魔剣クルサイダーを振るってきた。それをジヴァンは魔剣の柄で、防ぐ。カイムが強引に薙ぎ払った魔剣の一撃を足裏の装甲で蹴るように防いで跳躍回転し、背後の鍾乳洞に移動。


 カイムも「チッ」と舌打ちをしてから追う。

 視線が交差するたび、重力から解き放たれた二つの影が鍾乳石を蹴り、宙を裂く。

 弾丸と化した跳躍の軌道上で、火花散る剣戟が反響。十数合に及ぶ火花は巨大な鍾乳石を砕き、破片の豪雨を眼下へと降らせる。


 ――キンッ、ガシュンッ!

 

 と硬質な音が広大な空間に反響する。

 ジヴァンの魔導剣が放つ鋭い斬撃に対しカイムは自ら生み出した闇の鋼糸を硬質化させ、それを短剣のように操って受け流す。ジヴァンが捻りを加え、下方からカイムの喉元を狙う。

 カイムはスウェイで剣突を避け、ジヴァンの袈裟斬りを魔剣で防ぐ。

 ジヴァンの返す魔剣の一閃も魔剣を斜めに動かし防ぎ、弧を描くように動かし、ジヴァンの魔剣を誘導させながら、左手の指先から出した闇の鋼糸で、ジヴァンを狙う。


 ジヴァンは、茨の魔毒の女神ミセアの幻影を発し、消える移動し、闇の鋼糸を避けると、カイムの足先を斬る二連の斬撃を繰り出した。カイムは痛みの声は発せず、魔剣を強引に袈裟掛けに振るうと、ジヴァンは、後退、背後の鍾乳石に両足を当てるように蹴って跳躍、次の鍾乳洞へと弾丸のような速度で移動。

 カイムは追う。指先から放った紐でジヴァンの腕を絡め取ろうとする。ジヴァンは身を捻り、短剣を<投擲>。それをカイムは魔剣で防ぎ、鍾乳洞を蹴って横に移動。


 互いの間合いが交錯するたび――。

 足場とした鍾乳石が衝撃で砕け、破片が豪雨のように下の戦場へと降り注いだ。

 カイムは体から闇の魔力を発生させ、<魔闘術>系統を強めて加速し、魔剣を振るう。

 ジヴァンもまた<魔闘術>系統を強めて、中段に構え、カイムの魔剣の薙ぎ払いを防いだ。

 カイムは<魔闘術>系統を更に重ねると、徐々に、ジヴァンを押し始める。ジヴァンは衝撃波を喰らい、後退、鍾乳洞と背が衝突――。


 カイムは加速――、


「――遅いな」


 ――十五合目。宙空で体を入れ替えた刹那、カイムの瞳に冷酷な光が宿る。

 カイムの思考が加速し、理を塗り替える。放たれた<魔力幻剣>と、時の流れを歪曲させる<魔皇・時崩れ>が、ジヴァンの完璧な防御を過去へと置き去りにした――。


 回避不能の網として展開された<闇の拘束刃>が、抗う術を完全に奪い去る。

 硬質な音が数度響き、幻の斬撃と本物斬撃を防いだジヴァンも数百年地下で生き抜いた強者の証左だったが、闇の鋼糸の一つが彼の右目と右耳を穿つと、更に、闇の鋼糸は網のように展開した。


「なっ!? しま――」


 ジヴァンが回避を試みるが逃げ場はない。

 四方八方から迫る闇の鋼糸がジヴァンの魔剣を弾き飛ばし、その四肢を拘束した。


 カイムは逆さまの状態で鍾乳石の先端に爪先をかけ、無力化されたジヴァンを見下ろす。


「エンパールの剣技……その執念だけは評価しよう。だが、貴様の刻む刹那は、私にとっては止まった泥に等しい。死という永遠の中で、その遅さを呪うがいい」


 カイムが指を小さく弾く。

 拘束されていたジヴァンの体は断末魔を上げる暇もなく空間ごと裁断され塵となって消えた。


 一方、眼下の地上――。

 レヴェルフォードの魔剣ツィクラハドが時の止まった世界で残りのダークエルフ小隊を静かに処刑し終えていた。

 鞘に吸い込まれる剣刃の冷たく澄んだ金属音、それがこの場にいたダークエルフたちの命の終わりを告げる最後の福音となった。


「……終わったか、カイム。上は少々騒がしかったようだが」


 キルアニスが四本の腕で槍を回し、返り血を払いながら歩み寄る。

 彼の足下には、壊死し、砕け散ったゴブリンと骨兵の山が築かれていた。


「あぁ、次は本命だ」


 カイムが優雅に着地し、地下道の奥を見据える。

 そこから、一切の不浄を焼き尽くすような、強大な光の波動がこちらへと迫っていた。


「……来るぞ。ザガンを屠った者どもが……」


続きは明日を予定、HJノベルス様から「槍使いと、黒猫。1巻-20巻」発売中。

コミック版1巻-3巻発売中。

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