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槍使いと、黒猫。  作者: 健康


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二千九十話 副王会の老ドワーフ、シャイズムの策略

 ドワーフの護衛たちは、その言葉とは裏腹に警戒を解いたように盾の構えを変えた。

 武器を落とした者たちも、それを拾い直そうとする余裕すら失っている。

 そして、一人が、ザガたちを凝視、


「ドワーフもいるのか」


 ザガは片腕を上げた。

 ボンは、「エンチャント~」と気軽に返事をしている。

 古代ドワーフの兵士は、ざわついた。


 その兵士の一人が、


「あぁ……と、そこにいるのはダークエルフ……」

「マグルだけではない……吸血鬼(ヴァンパイア)以外にも多数か……皆、こうまるしう゛ぁる。という名の種族なのか……」

「あぁ、こうまるしう゛ぁる……団体の名かもしれんぞ?」

「しかもだ。マグルの男は、俺たちの言語に詳しいのは怪しい……」


 と、たしかに。過去と同じ。

 自然と<翻訳即是>で会話したが、彼らラングール帝国の言語を理解できている。


 そこで、中央に固まっている老ドワーフのお偉いさんたちを見据え、


「……俺たちの目的はただの移動だ、このドワーフたちの都市ではない。そして、話ができるなら、代表者が前に出てくれると助かるんだが……」


 と、老ドワーフからヴィーネたちに視線を向ける。

 ヴィーネとユイとレベッカとキサラはすでに、左右に移動している。アイコンタクトを行う。

 翡翠の蛇弓(バジュラ)を携えたヴィーネと、双剣を帯びたユイはわずかに頷く。

 

 一人で前に出た。

 黒豹(ロロ)は俺に合わせ、エジプト座りを止めて立ち上がり、前を歩きつつ、俺の右足の横に左の腹を寄せてきた。

 俺たちに合わせて、ドワーフたちは後退する。

 足を止めて、


「争うつもりはないから安心してほしい。だが、そちらが手を出せば、こちらも反撃は行う――」


 と、右手に魔槍杖バルドークを出す。

 護衛のドワーフたちが一瞬で、顔色を変えたが、直ぐに魔槍杖バルドークを消し、両腕を拡げながら笑顔を意識し、「武器の出し入れで警戒するのは分かるが、こうして話をしているんだ、もう、俺たちの氣概は分かっただろう?」


 豪華な法衣を纏った老ドワーフの一人が、片腕を上げる。胸に黄金のバッジを付けていた。

 その方が、


「……う、む。分かった。皆、武器を収めよ」


 シャイズムの重みのある声が、駅の構内に響く。


「え、シャイズム様、このような、我らの言葉が分かる怪しいマグルと……」

「……言葉か。たしかに、驚きすぎて、そこまで頭が回らなんだが……今の光の一撃を放ったシュウヤの言葉は事実。更に言えば、背後にいる吸血鬼(ヴァンパイア)たちは、一行に戦う氣配を示さないのだからな……」

「……それは、はい……」

「「「……」」」

「……シャイズム様……そ、それでも、あの吸血鬼(ヴァンパイア)たちと会話をするつもりなのですか……」


 司祭らしき老ドワーフは右手に持つ十字架型の巨大メイスを盾にしながら語っている。


 シャイズムと呼ばれた老ドワーフは、俺たちを見てから、司祭らしき老ドワーフを見て、


「ナポ、無理するでない、だいたい、お前が吸血鬼(ヴァンパイア)と戦ったのはいつ以来なのだ?」

「……に、二百年ぐらい前です」


 そのナポの震えた言葉と腕を見た護衛たちはざわつく。

 シャイズムは「……」苦笑し、「……うむ……」と静かに頷くと、


「……して、ナポ、このようなマグル、否、シュウヤという人族らしき強者が光属性を扱いつつも……あの赤き鎧を着た騎士団……古の紋章を胸についている吸血鬼(ヴァンパイア)たちを引き連れている事象は……今までに、一つでも、あったかの?」

「……あ、ありません。数千年の歴史が、い、一度もないはずです。あ、わ、分かりました」


 ナポは十字架のメイスを下ろす。

 シャイズムは、


「うむ、伝説の黒皇魔骸鋼列車の機動、そして、ドワーフたちも連れているシュウヤの言葉は理性に溢れている」


 老ドワーフの一人が、


「たしかに……」


 と発言してから俺と相棒とヴィーネを凝視し、


「……そこの方は、ダークエルフ……ですよね」

「はい、昔はダークエルフでした。今は、ご主人様と同じ、光魔ルシヴァル、その最初の<筆頭従者長>、選ばれし眷族です」

「「「……おぉ」」」


 老ドワーフたちと護衛のドワーフたちが、驚きの響めきを起こす。地下鉄の駅に響いた。


 シャイズムと呼ばれた老ドワーフが、片腕を上げ直すと、皆は静まる。そして、


「では、ガリンガム、トジル、パーラー、ドートン、トトモ、良いな? わしは、この者と正式に会話を行う」

「「「「「ハッ」」」」」


 一同が敬礼し、胸か腹に手を当て、会釈をしていく。

 シャイズムは、


「わしの名は、シャイズム、ラングール帝国の副王会から、この都市を任されておる」


 副王会……ロアを追放した連中か。

 

「わしの横にいるのが、司祭ナポ、ポリンガムの最高貴族院の議員たちだ。そして、……貴公の言う通り、ここで争うのは不毛。聖域を穢された衝撃は大きいが、あの伝説の列車を動かした御仁を、ただの侵入者として扱うわけにもいかぬからな」


 その言葉の後、護衛たちも、シャイズムの言葉に従い、武器を下ろしていく。


「では、シャイズム殿と皆様、よろしく頼みます」


 と、丁寧に挨拶を行った。


「はい、こちらこそ――」

「「よろしくお願いいたします」」

「にゃぁ~」


 相棒が上げた片足を見て、シャイズムは目を丸くした。周囲のドワーフたちも、巨大な黒豹(ロロ)が見せた知性ある仕草に、毒気を抜かれたような顔をしている。


「……ほう。驚いた。その黒豹(ロロ)殿は、言葉まで理解しているようだな」


 シャイズムは、ようやく強張っていた肩の力を抜くと、黄金のバッジを整え直した。


「シュウヤ殿、と言ったな。吸血鬼(ヴァンパイア)たちが居ようとも、認めざるを得ん。貴公の放った光、そして伝説の列車を動かしたという事実はな。ナポ、ガリンガム、トジル。議場へ向かう準備を。シュウヤ殿、公邸へ案内しよう」


 シャイズムが促すと、司祭ナポは十字架のメイスを背負い直し、他の議員たちと共に螺旋階段の方へと歩き始めた。


 その皆に、


吸血鬼(ヴァンパイア)たち、ラライセたちも共に移動する。そして、先程も言ったが、長居するつもりはない。目的地は、ここの外にある」

「分かりました。皆様方もついてきてください」

「「承知!」」

「「はい」」


 右足の横を歩く黒豹(ロロ)の、温かくもしなやかな腹の感触を確かめながら後に続く。


 螺旋階段を上り始めると壁面に設置された魔導灯の光がドワーフの緻密な石積みを照らし出していく。

 階段の先からは、駅の静寂とは異なる、重厚な機械の駆動音と熱氣が降りてきた。


「……シュウヤ殿。このポリンガムにマグルが正式に入るのは、久しぶりとなる。住民たちも驚くであろうが、まずはわしの公邸へ」

「了解した」


 シャイズムの言葉に頷き、階段を上がる。

 上層へと続く重厚な扉がで出迎えた。


「出入り口は、大祭壇の奥。永らく封じられておりました」


 黒皇魔骸鋼列車はレアか。

 バブーシュの名に、【旧水晶都市デムラ】自体がもう、過去の独立都市なんだろうな。

 

 その重厚のな扉が開く。

 途端に、明るさが増した。

 巨大なホールがある。その中に入った。

 駅の煤けた空氣とは無縁の荘厳な空間。


 天井は遥か高く、ドーム状の石組みには無数の発光石が星座のように配置され、白銀の光を惜しみなく注いでいる。その光に照らされたホールの壁面には、針鼠神ドレッドンを象った緻密な浮き彫りが幾重にも連なり、ドワーフの歴史を物語っていた。


 先頭を歩くシャイズムの背中を追う。


 右足の横では、黒豹(ロロ)が俺の歩調に合わせ、左の腹をぴったりと寄せてくる。

 ズボン越しに伝わる相棒のしなやかな筋肉の躍動と、強靭な体温。その独特の感触が、慣れないドワーフの都市においても冷静さを保たせてくれた。


 視界の端では、ヴィーネ、ユイ、レベッカ、キサラが左右に展開し、ホールの二階回廊からこちらを凝視するドワーフの衛兵たちに隙を見せずに歩いている。

 背後からは、ラライセたち【血の守護騎士団】が響かせる、重厚で一糸乱れぬ金属的な足音がホール全体に反響していた。

 先頭のシャイズムが、仲間たちに目配せをしてから、立ち止まり、


「――シュウヤ殿と皆様、驚かれたかな。この大祭壇のホールは、ポリンガムの歴史そのもの。先程の扉も、ドレッドンの鍵を持つ者のみが立ち入りを許される聖域なのだ、ささ、こちらです」


 シャイズムと共に歩く。

 時折シャイズムは、「……」相棒と背後にいるラライセたちを凝視していた。


 表情には怯えもあるように思えた。

 

 彼は、あの副王会からの派遣。

 副王会とはラングール帝国の最重要な組織か。

 

 ロアを追放し、リリウムの利権を我が物とした支配層の一角が、今俺の前を歩いている。

 

 目の前を悠然と歩くこの老ドワーフが、その一角である事実は揺るがない。


 ホールの中央、深紅の絨毯が敷かれた大通りの先には、さらに巨大な黒皇魔骸鋼の二枚扉が見えてきた。

 回廊にいる他のドワーフたちが、


「……あ、あの人族は何者だ」

「伝説の列車が動いたというのは、本当だったのか……」


 と、様々な囁き声が降り注ぐ。

 彼らが握る武器は下ろされているが、その視線は鋭く、未知の来訪者である俺たちを値踏みしていた。


 相棒が「ンン」と喉を鳴らして、走り出す。

 正面の重厚な扉の前で止まる。

 二人のドワーフの衛兵は、黒豹(ロロ)に驚いて、背を扉にぶつけて、倒れかかるが、なんとか、


「――しゃ、シャイズム様、皆様!」

「うむ、扉を開けよ」

「「ハッ!」」


 扉が開かれた。

 シャイズムは、


「外はポリンガムの中央にあたる、そこから公邸まで、少々歩くが、ついてきてもらいましょうか」

「了解した」


 シャイズムは頷き、俺たちを促すように片腕を差し出した。


「では、付いてきてくだされ――」


 と先に外に出たシャイズム。

 俺たちも続いて外に出た。


 扉を抜けた先には、想像を超える規模の地下世界が広がっていた。


 巨大な空洞にそびえ立つ石造りの建物群――。

 それらを縫うように張り巡らされた鉄のパイプ。

 地熱用と思われる、剥き出し状の太い鋼から明るい魔力が宙空に放たれ、トーラス状の魔力波動を宙空に創り出していた。結界の作用かな。


 あちこちから魔導蒸気が噴き出し、ドワーフの都市特有の重厚な機械音が、熱氣と共に肌を焦らすように伝わってくる。


 職人風のドワーフたちが作業の手を止め、巨大な黒豹(ロロ)と、血のように赤い甲冑を纏った騎士団を、畏怖の眼差しで凝視していた。


 そして、街の至る所に吸血鬼を警戒しているであろう対闇属性に反応している射手たちが配置についていた。


 大砲のような物用意されている。

 聖なる光を封じた琥珀色の結晶が配置されていた。

 それらが、俺たちと、背後のラライセたちに反応してか、わずかな警告音を響かせている。


 歓迎か、あるいは隔離を狙うか。


「シュウヤ殿。この通りはポリンガムの背骨にあたる。少々騒がしいが、わしの公邸はこの先だ」


 シャイズムは振り返らずに告げるが、その歩調はどこか急いでいるようにも見える。

 胸元の黄金のバッジを揺らす。

 あのバッジは副王会を意味するのものなのだろうか。


 ヴィーネ、ユイ、レベッカ、キサラも左右の警戒を解かずにシャイズムの歩幅に合わせていた。

 

 すると、シャイズムは足を止めた。


「シュウヤ殿、あちらに見えるのがわが公邸。ポリンガムの心臓部だ」


 シャイズムが杖で指し示した先。

 周囲の建物とは一線を画す、黒皇魔骸鋼で補強された巨大な石造りの建築物が、威容を誇るように鎮座していた。門の前には、これまでの衛兵とは明らかに質の違う、重厚な白銀の鎧に身を包んだ親衛隊らしき者たちが整列している。彼らが構える大斧には複雑な魔導回路が刻まれ、近づく俺たちの殺氣を受け流すように鈍く光った。


 シャイズムたちの護衛が、


「開けよ、大切な客人との面談がある」

「「ハッ」」


 親衛隊たちらしき者たちが返事をし、その隊長格が振り返り、


「聞いたな、開けよ」


 と公邸の門番と兵士たちに指示を出すと兵士たちは左右に分かれ、道を作り、門番たちは門を動かし始めた。

 門が開き、兵士たちは左右に並ぶ。

 

 シャイズムが、会釈し、「では、行きましょう」と巣進み始める。


 俺たちも続いた。

 彼らの視線は、俺の隣を歩く相棒と、背後の騎士団に釘付けになっていた。


 公邸に入った。

 広い庭と石造りの回廊を抜け、重厚な扉をいくつも潜り抜ける。ドワーフの技術が凝縮された内装を横目に見ながら……公邸の最深部――。


 シャイズムの広い執務室へに到着。

 室内に足を踏み入れると、外の喧騒が嘘のように消えた。高い天井まで届く本棚には膨大な資料が並ぶ。

 中央には巨大な黒檀の机が置かれている。


 客間もかねているのか、ソファーも多い。

 シャイズムは奥の重厚な椅子を見てから、巨大な机の手前で振り返る。


 その間にも左右の開いたままの扉から椅子を持ったドワーフたち大量に現れて、客間に椅子を置いていく。

 

 シャイズムは、その者たちに目配せをしつつ、俺たちを見て、


「皆様、ご自由にお座りください」

「……了解した。氣を使ってもらって助かる」


 促されるまま、重厚な革張りの椅子へと腰を下ろす。


 黒豹(ロロ)は俺の下で再びエジプト座りを取り、静かにシャイズムを見据えた。


 ヴィーネ、ユイ、レベッカ、キサラも、室内の死角を埋めるように配置につく。

 ラライセとクレインは俺の左右に後ろについて、光魔魔沸骸骨騎王のゼメタスとアドモスは最後尾に立つ。

 その近くにいた小間使いのドワーフは腰を抜かして倒れるが、仲間のドワーフたちは、


「す、すみません――」


 と俺たちに謝り、倒れた仲間を支えて、部屋からそそくさと退出していた。

 腰を抜かした小間使いを引きずっていく彼らの背中を見送り、改めて室内に視線を巡らせてから、シャイズムを見ると、シャイズムは、


「それでシュウヤ殿たち、目的地は、このポリンガム独立都市の外と言っていたが、差し支えがなければ、教えていただきたい」


 エイジハル血院と素直に言いたいが……。


「シャイズム殿たちを信じたい思いはある。だが、悪いが、現状は、外としか言えないな。そして、直ぐにも、外に出るので、話はこれで仕舞いにしようと思うが、良いかな?」


 背もたれから体を離し、真っ直ぐにシャイズムの瞳を射抜く。足下では、黒豹(ロロ)が「ンン」と短く喉を鳴らした。俺の意思に同調するように、相棒の赤い瞳がわずかに細められる。


 シャイズムは意外そうな顔をして、隣のナポと視線を交わした。伝説の列車を動かし、これだけの戦力を引き連れて現れた俺たちが、世間話もそこそこに立ち去ろうとすることに困惑しているようだ。


「……す、直ぐにか。しかし、シュウヤ殿。この都市の『外』……周囲には、地下動脈が幾重にも広がっている……」


 と、語りラライセたちをチラッと見てから、


「……現状を知らずに飛び出すのは、自殺行為に等しいが……それに、伝説の列車を動かした御仁をこのまま通しては、わしの首が副王会に飛びかねんでな」


 シャイズムが苦笑いを浮かべながら、机の上の資料をゆっくりと閉じた。その手は、まだわずかに震えている。


 色々と忖度し『よいしょ』、『おだて』て、俺たちを利用する算段があるんだろうとは、すぐに察しが付いた。


「伝説の列車か。好きなように調べて利用すればいいが、その結果は、俺たち、光魔ルシヴァルには関係のないことになる。そして、シャイズムの首が飛ぼうが、俺たちの知ったことではない」


 シャイズムは視線を一瞬鋭くした。

 ……これで理解できるならば、理解できるだろう。

 理解できないなら、吸血神ルグナド様たちと戦うことになるだろうな。更に、ここの情報をラライセたちが吸血神ルグナド様たちに伝えることになる。


 それを危惧しての足止めもあるとは思うが……。

 この老ドワーフのシャイズムは、中々の慧眼の持ち主だ。

 俺たちの力量を、それなりに読めている。

 だから、掌を返すようなことは、よほどのことがないかぎりないとは思うが……。


 と、思考していると、


「……せめて、通行に必要なラングール帝国の〝正式通行手形〟と〝『副王会』の専属魔印章〟に、現在の勢力図だけでも持っていかれよ。それと引き換え……と言ってはなんだが、一つだけ、聞き入れてほしい頼みがある」


 勢力図か、エイジハル血院までの坑道などは分かりやすくなるが、ラライセやファーミリアたちでも十分に進むことはできる。しかし、〝正式通行手形〟と〝『副王会』の専属魔印章〟は重要か。


 今後のラングール帝国との交渉には、役に立ちそうだな。


「……条件の前に、その〝正式通行手形〟と〝『副王会』の専属魔印章〟の説明をしてもらおう」


 シャイズムは一度深く頷き、机の上に置かれた文箱に指を添える。


「もちろんだ。まずこの〝正式通行手形〟。これがあれば、我らラングール帝国が支配し、管理している地下動脈層の各検問所を素通りすることが可能となる。ノーム側の強い独立都市連合の場合も通れるだろう。身分を疑われることも、無駄な足止めを食らうこともない」


 シャイズムは更に紋章の刻まれた重厚な印章――〝『副王会』の専属魔印章〟を指し示した。


「そしてこちらの魔印章。これがあれば、帝国が支配する大概の独立都市と、独立都市連合の都市に対し、無条件での入域が認められる。更に、その都市の主要な騎士団、重要なポストに付いている高官との面談も、このわしが直接立ち会うのと同等の優先度で行うことができるのだ。言わば、帝国における最高級の身分保証と言っても過言ではない」


 なるほど。今後のラングール帝国との交渉、あるいは別の都市に立ち寄る際、これがあるのとないのとでは手間に雲泥の差が出るだろう。

 足下では、黒豹(ロロ)が「ンン」と喉を鳴らし、赤い瞳を細めてシャイズムの言葉を吟味しているようだ。


「……説明は分かった。帝国を渡り歩くには、確かに便利な品だ。それで、その破格の対価となる『頼み』とはなんだ?」

 

 シャイズムは一度、司祭ナポに視線を送った。

 ナポが周囲を見てから十字架のメイスを握り直し魔力を込めたのか、かすかに光らせると、途端に、十字架から光が溢れて天井に魔線が迸る。天井に嵌められていた魔宝石が光を帯びると、壁模様が少し変化し、室内の空氣が引き締まった。


 部屋の防音結界を発動、または、魔法防御を高めたかな。

 そして、背後にいるクナは、己の周りに幾つもの光球と似た魔法玉を生み出しては、皆にも魔法防御の魔法を展開していた。そのクナはウィンクし、月霊樹の大杖を掲げる。


 さすがだな。

 シャイズムたちは何も言わずに、俺を見てから、


「……シュウヤ殿。実はこの都市の深部、第八坑道の奥にある『封印の祭壇』に異変が起きておる。地下深奥からのマグルや、吸血鬼(ヴァンパイア)共の侵食が激しく、我らの魔導回路による封印が限界を迎えつつあるのだ」


 シャイズムは身を乗り出し、切実な眼差しを向けてくる。


「先程、貴公が放った……あの『白銀の雷鳴』のような光の奔流。あれほどの純度は見たことがない……できれば祭壇の心核に光属性の魔法、その膨大な魔力を注ぎ込み、封印を再構築及び強化をしてもらえぬか? わしらにとっては都市の存亡に関わる事態なのだ。その道中に幾つか坑道、地下動脈層に繋がる地下道もあり、第八坑道も、貴公たちが望む『外』へと続く確実なルートの一つであることも保証しよう。背後の吸血鬼(ヴァンパイア)たちも、光が強まることで嫌がるとは思うが、わしらの立場も考えてくれると助かる」


 都市の防衛強化の杭として俺の光を利用したいわけか。

 このラングール帝国には、傷場から現れる吸血鬼(ヴァンパイア)は闇神リヴォグラフ側と同様に敵だ。その地下道を封じるためのでもあるか。


 背後で控えるラライセたちの冷徹な気配が、わずかに鋭くなった。

 シャイズムが語ったように、ラライセたちには、その地下道は通り抜けるのは難しくなるということだ。ま、別の地下道を使えば良いし、その光が強まった道は使わなければいいってだけだが……。


 シャイズムは、


「……そして、ババラ・ヌアという名のドワーフたちを見つけたら、殺してもらえると助かる」


 同属のドワーフを殺せだと?

 

続きは明日、HJノベルス様から書籍「槍使いと、黒猫。1巻-20巻」発売中

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