二千八十七話 古代工匠の回路図と黒皇の鉄獣
ラムーが霊魔宝箱鑑定杖を掲げ、その先端から放たれた淡い鑑定光が蒼い結晶を包み込む。
結晶の表面に刻まれた銀色の脈動が激しく明滅していく。
魔鋼ベルマランの兜は直ぐに上下に動いた。
中身の金色の髪は見えないが、見えた氣がした。
「このアイテムは、〝デムラの心核晶〟元は極大魔石ですが、随所に加工が施されている。伝説級。旧水晶都市デムラの管理中枢をになっていた魔道具。古代ドワーフ帝国のバブーシュが設計した地下熱源の管理ユニット。地底神セレデルの魔力と、闇神リヴォグラフの魔力によってだいぶ、変質しています」
ラムーの言葉に、
「……バブーシュ? 古代ドワーフの設計か。これほど巨大な結晶が中枢を担っていたのなら、治水や地熱だけでなく、都市そのものを一つの生命体のように管理していた可能性もあるな」
「はい、独自に改良した形跡があり、ローテクを合わせた工学的な部分もあるようです。鑑定では分からずじまい」
ラムーの言葉に頷いた。
「禍々しさはないけど、その変質が氣になる」
「触っても大丈夫なのでしょうか」
ヴィーネの言葉にラムーは、
「はい、<血魔力>や魔力で反応するはず。光魔ルシヴァルの血になら確実に浄化、しかし、その影響で魔道具を破壊してしまう可能性もあります」
「破壊か、皆どう思う? 貴重品として保存か、<血魔力>で反応を試すか」
クナが、「シュウヤ様」と反応。
月霊樹の大杖を静かに突き、深遠な瞳で結晶を見つめる。
「今は保存が良いです。バブーシュという工匠の魂が、この都市の『歴史』そのものを繋ぎ止めているはず。安易に浄化すれば、その『記憶』までもが消えてしまうかもしれませんわ」
慎重なクナに対し、メルは、
「戦略的に見れば、この周辺の情報を引き出すのが最優先かと。私たちなら、神獣様の嗅覚もありますから様々な勢力下にある地下道、楽に進めるのは、事実です。しかし、西北のエイジハル血院までは遠い。地下大動脈の地下道は数千以上ある天然の迷宮、もしこの結晶が西北への『隠し航路』や『防衛網』の鍵で、【血の守護騎士団】たちも知り得ない道を示すのなら、多少のリスクを冒してでも反応を試すのもありかと。情報の空白を抱えたまま進むのは、闇神の罠に自ら飛び込むのと同じことですからね」
その言葉に、ミスティが眼鏡の奥で知的好奇心に瞳を輝かせて身を乗り出した。
「ローテクを合わせた工学的な部分には興味がある。ラムーさんの言う通り、純粋な魔法回路だけではないのなら外側から<血魔力>を流すことでバブーシュさんの『意図』だけが反応する仕組みが作動するかも。だから、破壊を恐れていては、工学の進歩はない~ってことで、マスター挑戦しましょう~」
ミスティの笑顔に自然と頷いてしまう。
研究者としての本音だな。
その可能性を信じているようだ。
すると、エヴァが魔導車椅子の上で、細い指先を空中で躍らせ、
指先から紫色の<血魔力>を放出させ、
「……ん。もう闇と地底神セレデルの影響は、私たちの<血魔力>によって、だいぶ浄化されている。そして、中に、怒りや悲しみじゃなくて……『回れ、動け』っていう、動かしたがっている意志があるような氣がする。シュウヤなら、その意志を呼び覚ませる」
エヴァの直感、超能力の<紫心魔功>に<霊血導超念力>はかなり強化されているからな。
どの鑑定眼や魔道具の解析よりもエヴァの純粋な感覚こそが真実を射抜いている。
エヴァには絶対的な信頼感がある。
隣で翡翠の蛇弓を握りしめているヴィーネが、俺の顔を覗き込んだ。
「ご主人様の決断に従いますが……。バブーシュという御仁が職人であったなら、自らの最高傑作が動かぬまま石化に埋もれることを、何よりも嫌うはず。壊れることを恐れるより、使われることを望んでいるのではないでしょうか」
なるほど。
「ヴィーネ、いいこと言うわね!」
レベッカの言葉に
キサラも、「はい、たしかに」と同意していた。
レベッカは、
「ヴィーネに賛成! 保存して飾っておくなんて、光魔ルシヴァルの性分じゃない。バチッと反応させて、リヴォグラフの呪いごとぶっ壊してやればいいのよ! それで壊れたなら、それまでの代物だったってことでしょ?」
「はは、レベッカらしいが、クナもいいかな」
「ふふ、はい。今後の地下オークションの提出品や、私の研究にも使えることでの保存の選択肢を勧めたまでですから、今、役に立つなら、それでそれで良いかと。そして、壊れても、構いません」
クナの言葉に頷いた。
「では、<血魔力>を注ぐ」
「「「はい」」」
右手にわずかな熱を込めた。
指先から滴らせた一筋の<血魔力>を、蒼い結晶の表面へと触れさせる。
刹那、結晶の脈動が激しさを増す。
内部で渦巻いていた不浄な魔力が、俺の血を呼び水にして一気に霧散した。代わりに鼻腔を突いたのは、どこか懐かしさを覚えるほど純粋な機械油と焦げ付くような熱を帯びた魔力の匂いだった。
数千年止まっていた時が、今、猛烈な勢いで回転を始めたことを予感させる。
蒼い霧が広場を埋め尽くし、目の前に一人の男の幻影を形作る。
豪快に編み込まれた髭を揺らし、煤汚れの目立つ作業着を纏ったドワーフ。肩には、使い込まれて黒光りする巨大な魔導スパナを担ぎ、不敵な笑みを浮かべるその姿は、工匠というよりは一軍を率いる将軍の如き威厳を放っていた。
工匠バブーシュの幻影だろう。
すると、
「――いいか、野郎ども! 東の傷場が闇神リヴォグラフのクソ野郎共に落とされた今、目と鼻の先にあるこのデムラも長くはもたねぇだろう。ここを奪われれば、吸血鬼との商売も、連中の好きにされちまうッ!」
幻影のバブーシュが、かつてのデムラを飲み込もうとしていた、俺には見えない敵に向かって吠えている。
鑑定結果と目の前の光景が重なった。
「……奴らは俺たちを石に変えて、その絶望を啜るつもりだ。だがな、ドワーフにも意地がある。意願を見せてやろうか!」
周囲には無数のドワーフたちが歓声を発していく。
バブーシュは豪快に編み込まれた髭を揺らし、
「――俺たちは、この地下、否、地上にも、無数に広がっているんだからな、この地下交易路は、簡単には渡さねぇぞ!」
途端に、蒼い結晶の真下に幾筋の光が走っていく。
「ンン――」
「振動音が、魔機械が作動した?」
「見て、蒸氣?」
とレベッカが指を差すと、地面から蒸氣機関の魔機械が出現し、蒸氣があちこちから発生。
工匠バブーシュの幻影が、何かを戦歌にも思える歌声を響かせながら、タップダンスのような動きを行う。
と、巨大な捻子に近づき、スパナを嵌め、それを己のリズムに合わせて回す。周囲のドワーフたちもトンカチで鋼をリズミカルに叩き、地面と繋がる鋼の魔機械の上部の捻子を、スパナで回し、捻子を魔機械に嵌め込んでいく。エネルギーが溜め込まれていくような音が響いていった。
すると、目の前に、本物の、巨大な捻子が地面から現れた。
そこに工匠バブーシュの幻影が、何度も移動し、触る仕種を繰り返し、消えていく。
「幻影は、ご主人様を誘っている?」
「あぁ」
「面白い!」
「「はい」」
「「不思議♪」」
「「うん」」
エトアにイモリザたちが興奮していく。
「では、あのスパナにも<血魔力>を垂らすということか」
「「はい」」
「あ」
と、思い出して動きを止めた。
「ご主人様?」
「ん、シュウヤ?」
ヴィーネとエヴァたちの言葉に頷く。
その間にも、幻影のバブーシュが戦歌を響かせていく。
巨大な捻子にスパナを嵌めて回す。
そのリズムに合わせて、実体を持つ巨大な捻子が地底からせり上がっていく。
それは古代の叡智と魔法が交差する幻想的な光景。
だが、この巨大な機械仕掛け……ただ闇雲に魔力をぶつければ良いというものではないだろう。
皆に向け、
「……これはバブーシュの『設計図』。<血魔力>を垂らしての機動以外にもギミックはあるだろう。だから、その真意を読み解くのに、時間がかかるかも知れない。ってことで、適任者を呼ぼう」
アイテムボックスの戦闘型デバイスを意識。
一瞬で、白亜の模型――砂城タータイムを取り出した。
同時に中の【鍛冶所】にいるザガとボンに、血文字で、
『外に出てくれ、今、古代の地下都市のところにいるんだが、面白い仕掛けが発動した。バブーシュの『設計図』だ』
『ほぉ、ちょうど良い。今新しい鋼を叩き終えて休んでいたところだ。して、バブーシュ? 分からんが、とりあえずは外に出よう!』
『エンチャ~』
砂城の司令室から転移門に移動いたザガとボンとルシェルたちが、パッと、目の前に現れた。
「よう、ザガ、ボン、ルシェル。ここの地下都市だが、ドワーフの工匠が遺した、都市機構の一部が出現したんだ」
「ふむ、……おぉっ!?」
「エンチャ……」
「この鋼の鳴き音に巨大な捻子……幻影たちは古代ドワーフか……そして、ほぉ……この地下都市……名は……」
ファーミリアが、
「【旧水晶都市デムラ】です。私たちも遠い記憶にある程度の古代都市です」
「……ふむ。して……」
ザガが広場中央で激しく蒸氣を吹き上げる魔機械を凝視。
すると、彼の額がピクリと跳ねた。
かつての儀式で覚醒したアウロンゾの『第三の目』か。
それがカッと見開き、黄金の光を放ちながら、バブーシュの幻影が示す捻子と歯車の噛み合わせを射抜く。
「おぉ……興味深いし、面白い!」
「エンチャ、エンチャァ~」
「にゃおぉ~」
ボンと黒豹はいつもの挨拶を始めている。
ザガは、
「この黒い鋼は、魔柔黒鋼のようで異なる。黒皇魔骸鋼……か。随分とほぉ……旧神、しかもアウロンゾの系譜に近い魔力。不氣味で――ハッ、こりゃぁ、がはは、最高に熱い設計がありそうだなァ、えぇ、おい!」
とザガが興奮していく。
「ザガ、何か分かったか」
ザガは額の『第三の目』から放たれる黄金の光を一層強め、剥き出しになった巨大な捻子を凝視した。
「あぁ、とんでもねぇことが分かった。この設計、物理的な歯車の噛み合わせだけじゃねぇ。アウロンゾの古き血筋が持つ『脈動』を鍵にしてやがる。バブーシュという古代のオヤジは、わしらの一族がかつて試みた身の毛もよだつアウロンゾの力を、この蒸氣機関の『潤滑剤』として組み込んでいやがる……しかし、俺たち光魔ルシヴァルの血、光属性に反応している? あぁ、闇の部分にもか……ハッ、なるほど……」
とザガは、一人納得。
「また何か分かったのか?」
「あぁ、ここを見ろ」
小さい部品に指を向ける。
そこには光属性の樹、光樹の小さい捻子が魔法陣の一部に組み込まれていた。その真上には非常に小さいトーラスが浮かび上がっている。
「なるほど、光と闇の技術ってことか」
「あぁ、この幻影を後生に残すこともだが、そのバブーシュとやらは、ボンのような<賢者技師>の能力も持っていたことになるな」
「エンチャント~」
「そうだ。シュウヤ、俺の<血魔力>でも良いが、そこのデムラの心核晶にまた<血魔力>を垂らしてみろ、まだ次がある」
頷いた。
「了解した」
再び右手の指先からデムラの心核晶へと<血魔力>を滴らせた。
蒼い結晶が激しく脈動し、その中枢から強烈な魔力の筋がサーチライトのように広場の天井を貫いて放射される。
光は幾度か屈折し、瓦礫の山となった居住区の一角を鋭く指し示した。
「「「おぉ」」」
ラライセたち、皆も驚く。
「やはりな、こりゃ、都市に秘密を嵌め込んだ、壮大な仕掛けだぜ」
「そのようだ。あそこに行こうか、皆」
「ンンン――」
と、すでに光の先へと走っている相棒ちゃんだ。
皆で、その瓦礫の山へと移動した。
そこには闇神リヴォグラフの戦力により破壊された跡が顕著。
魔法と呪いにより、石化した怪物の残骸と、ひしゃげた黒鋼の破片が散乱している。だが、心核晶から放たれた光に触れると、それらの破片が呼応するように蒼く発光し始めた。
「……拾え、と言っているみたいだな」
バラバラになった金属パーツを手に取ると、磁石に吸い寄せられるようにパーツ同士が自律的に噛み合っていく。
最後に中央の環状パーツを嵌め込むと、それは完璧な黄金比を持つ*アンクの形を成した。
「おぉ……」
「鍵?」
「あぁ」
「シュウヤ、そいつを見せろ。……そのアンク、単なる飾りじゃねぇぞ。振動を増幅させ、魔力の流れを一定に保つ『同調器』の役割を持ってやがる。だが、今のままじゃ脆い。わしらが鋼として打ち直し、強度を持たせる!」
ザガが叫ぶと、ボンが「エンチャント~」と虹色の魔力をアンクに纏わせた。二人の手によって瞬く間に、ドワーフの剛鋼を纏った重厚なアンクへと変貌する。だが、それを嵌めるべきところは……。
「ん、シュウヤ、近くのところの地面」
「あぁ窪んでいるが、上には」
「うん、何かありそう」
レベッカとエヴァは頷く。
エヴァは、魔導車椅子の上で目を細めながらそこを見やる。
嵌める場所は、数千年の崩落による分厚い瓦礫の下か。
その瓦礫に向け、<超能力精神>を発動させた――。
凄まじい念動力の奔流が広がり、何トンもある巨岩や瓦礫を紙切れのように四方へ弾き飛ばす。
「「おぉ」」
「出た!」
露出したのは、緻密な幾何学模様が刻まれた黒鋼のソケットだった。
「凄い!」
「お宝~ってわけではないけど、古代の智慧を紐解いているみたい!」
「あぁ、面白いな」
皆、次に何がおこるんだろうという期待顔だ。
「では、アンクを填め直すぞ」
「ん」
「「「了解!」」」
打ち直されたアンクを、その穴へと力任せに嵌め込む。
――ガコンッ!!
刹那、足下から凄まじい地響きが起き、ソケットから次の光の矢が別の区画へと放たれた。
「「「「おぉ」」」」
なるほど……。
「手が込んでますが、これは納得です」
メルの言葉に皆が頷く。
クナも
「はい、保管でなくて良かった。ふふ、古代の叡智が、まさか、まだ生きているとはです。ぐふふふ、神秘的なシュウヤ様だからですわね……」
クナの語りが面白い。
皆に向け、
「……これを繰り返すわけだな」
「そうだろう」
「では、光の矢のほうに行こう――」
「「はい」」
皆で、そこに行くと先程よりも崩壊した櫓と魔塔の残骸が酷かった。
だが、<超能力精神>などで素早く退かすとアンクの部品をすぐに発見。
それを組み直し、露出したソケットに填め直す。
またも振動が起きて、光の筋が地面から幾重にも広がっていく。
更に、今度は光の矢ではないデムラの心核晶自体から光が溢れて、反対側に光が向かう。
「「「おぉ」」」
「凄い……」
「パズルを解くたびに、止まっていた都市の『氣』が流れ出しているようね……」
「あぁ、次の光の下に行こうか」
「「「はい」」」
「ンンン――」
またも相棒が楽しそうに先を駆ける。
そこに到着して、瓦礫を吹き飛ばしていく。
と、露出したのは、今までとは異なる仕組み。
「あ、マスター、これ魔導回路的、あ、断線してる。物理的な接触じゃなくて、液状の伝導体が必要ね」
ミスティが指差す二箇所目のポイント――。
へぇ……。
ザガは
「ふむ……細かい作業、これは難しい加工……」
鋼の伝導ラインが無残に溶け落ちていた。
地球の知識を呼び出すように思い出す。
「ミスティとエヴァ。そこは『バイパス』を作るところだろう。エヴァ、ピンポイントでこの鋼と周囲の鉱物を溶かせるか? 液体金属のまま、はんだ付けのように回路を繋ぎたい」
「……ん、溶かすは得意、任せて」
エヴァは浮遊。一瞬で、骨の足の先端を付けた。
途端に、超高熱が触れた箇所から放出されたように、箇所を正確に融解させていく。
そこへミスティが<地電流>や<金属融解・解>を使い、漆黒に染めた手使い、演算力を用いたように液体金属を誘導していく。
俺の科学的なアドバイスに基づいた最短距離の回路を形成されていく。
視界に広がる光景は、地底都市という広大な基板に、超精密なはんだ付けを施していくパズルのようだ。
現代の電子回路と古代の魔導工学が、俺のアドバイスを介して一つに溶け合っていく。
そうして、数カ所のアンクを嵌め終えて――。
瓦礫を弾き飛ばした高台から街を見下ろした。
「……これは、そういうことか」
目に飛び込んできたのは、デムラの街全体に張り巡らされた……。
光の筋の全貌だった。
六芒星に近いのか。
俺たちがアンクを嵌め、エヴァたちが液体金属で繋いだライン。
それらすべてを俯瞰で捉えるとデムラという都市そのものが、巨大な神具台を動かすための多層式魔法陣の形を成していたということ。
「――ザガ、ミスティ。皆も、見てくれ。この街の設計そのものが、巨大な回路図だった」
「がははは! こいつはたまげた!」
ザガが興奮に顔を上氣させていく。
「バブーシュのオヤジ、街一つを丸ごと使って、ドワーフたちの地下都市に繋がる『魔造地下カタパルト』を造りやがったんだな!」
「魔造地下カタパルト?」
「あぁ、ここからでは地下の構造は見えんが、それも巧妙なカラクリだ。たぶんだが、あそこがスイッチの部分、そのデムラの心核晶と合う仕組みがあるだろう」
と、広場中央の右にある羅針盤ではないが、それと似た壊れていそうなモニュメントを指す。
「あれがか」
「あぁ、予測だがな、だが、もうこの【旧水晶都市デムラ】の一部は稼働している。それと連動している、起動しようか、古代のオヤジが、残した、最後の秘密がそれで見られるはずだ」
「エンチャ、エンチャント~」
ザガとボンの楽しげな言葉に頷いた。
「了解、行こう」
「「おう」」
「エンチャント!」
「「はい」」
皆で、そこに行き、最後のピースのデムラの心核晶を嵌める。
途端に、足下が揺らぎ、地面の一部が動いていく。
歌舞伎の舞台のように、仕掛けが色々と作動しては、地下の出入り口が、地下鉄のような出入り口が露出した。
「「「おぉ」」」
皆が歓声を発した。
「……これは驚きですこのような地下の仕組みがあろうとは、【旧水晶都市デムラ】……知名度は低かったはずですが、それは過去だからですね」
ラライセの言葉に同意だ。
「あぁ古代のドワーフたちに拍手だが、とりあえず行こう」
「うん、神具台を作れる技術力、古代ドワーフならではね」
「「はい」」
「ですね、しかし、行きすぎた魔科学は、神々の怒りを買う」
「ゴルディクス大砂漠の事象だな」
「はい」
キサラたちとそうした会話をしながら、剥き出しになった黒鋼の階段を見下ろした。
相棒もそこで待っている。黒猫に変化していた。
その黒猫は「ンン」と鳴く。
「行こう」
等間隔に配置された魔導灯が<血魔力>に呼応するように一つ、また一つと蒼白い光を宿していく。
階段の奥底からは数千年の沈黙を経てなお、冷たくも研ぎ澄まされた機能美を伴う「氣」が、重厚な圧力となって這い上がってきていた。
「ンン、にゃ~」
黒猫が先に階段を駆け下りていく。
俺たちもそれに続き、一段ずつ、古代ドワーフの叡智が刻まれた段差を降りていった。
やがて辿り着いた最下層――。
そこに広がっていたのは、前世の記憶にある駅のホームを更に巨大に、武骨に作り替えたような大空間だった。
「がははは! 見ろ、シュウヤ! あのレールの輝きを!」
ザガが興奮に声を震わせ、額の『第三の目』を剥き出しにして、ホームの先に広がる暗闇を指差した。
そこには、俺たちの知る神具台を横に寝かせたような、巨大な黒鋼の加速レールが西北の闇へと真っ直ぐに伸びていた。
ホームの縁に歩み寄り、視線を先へと向けた。
レールの上に鎮座していたのは――。
「……列車、というよりは、巨大な弾丸ね」
ミスティが眼鏡を明滅させ、その鋼の塊へと歩み寄る。
全長数十メートル。
そこには、前世の地下鉄を想起させるが、規模も質感も遥かに異質な巨大通路が地底の闇を鋭く切り裂き、西北へと一点の迷いもなく貫通していた。
「――あぁ」
「ん、鋼は、黒皇魔骸鋼」
「へぇ……」
その黒皇魔骸鋼で覆われた重厚な装甲には、空気抵抗を極限まで計算したような流線型のフォルムが与えられ随所にバブーシュの紋章とアウロンゾの系譜を思わせる不氣味な『目』のリベットが並んでいた。
音速を超えるような速度が出るのかな。
鋭利で滑らかな流線型のフォルムは渋すぎだろう。
「バブーシュの紋章とアウロンゾの『目』のリベットだが、鉄の獣に命を吹き込んでいるように思えるな」
ザガの言葉に同意だ。
リニアの静謐さと、戦車の猛々しさが同居している。
黒皇魔骸鋼のレールを中心に、壁面を覆う幾何学的な魔導回路が、規則正しい燐光となって奥へ奥へと連なっている。
リニアのように浮上し、超高速で突き抜けるための『閉鎖軌道』か。
消失点すら見えないその完璧な直線からは、古代ドワーフたちが抱いた執念と、これから踏み込む世界の広大さが冷たい風と共に伝わってくるようだった。
「エンチャッ! エンチャッ、エンチャントゥ~!!」
ボンがその車体に触れると、虹色の魔力が装甲を駆け巡る。
内部で眠っていた巨大な魔機械が「シュォォォッ!」と激しい排氣音を上げた。
地熱と魔力を物理的な推進力に変えるバブーシュの最高傑作か。
「マスター、これ……単に走るだけじゃないわ。このレールの終端、街の端に設置されたアンクのポイントを通るたびに、物理的な加速フィールドが重なっていく仕組みよ。多分、位置的に、西北のエイハブラ平原の真下辺りには付くと思う。付いた先は、当時の古代ドワーフの拠点のはず。エイジハル血院ではないとは思う。そして、文字通り『射出』される速度で、向かうはずよ……」
「神具台と同じか」
「うん」
「射出……バブーシュのオヤジ、とんでもないものを遺してくれた」
「たしかに……」
ミスティも少しあっけに取られている。
無理もないか。これほどの技術……。
目が合うと、微笑み頷き、
「……この直線美、魔法と工学の極致ね」
「そうだな」
ミスティも頷く。
再び眼鏡を明滅させ、その光景を記録するかのように凝視していく。無理もない。魔力の脈動をそのまま推進力に変え、これほどの長距離を寸分の狂いもなく繋げる技術力……現代日本の技術ですら、これほどの威圧感は出せないだろう。
自然と魔槍杖バルドークを担ぎ直した。
重厚なハッチが開いた車両の入り口を見つめた。
中は広大な空間が広がっており、ラライセ率いる赤備えの騎士団を全員収容しても余裕がある。
「……バブーシュの遺したこの『意地』を最後まで繋いでやるとしよう」
すると、黒豹へと姿を変えた相棒が、「ンンン――」喉音を響かせながら走り、跳ぶ。
列車の屋根へと陣取ってから駆け、先頭に移動し、頭部を上げ「にゃおぉぉ」と鳴いた。
いつもの勝利宣言だろう。鳴いてから真っ直ぐと奥を見やるのも絵になる。
西北の闇を鋭い瞳で見据えているのかな。
「――皆、早速利用しようと思うが、良いよな?」
「ハッ、当たり前だ」
「そうそう、あたりまえよー」
バフハールとレベッカがハモリ気味に語る。
「ん!」
「乗り込むさね」
「ふふ、はい」
「閣下、乗り込みました~」
「神具台の横バージョン~」
「凄い~私たちに反応している!」
と、皆が乗っていく。
「ラライセたちも乗ってくれ」
「「「はっ!!」」」
騎士たちが次々とハッチを潜っていく。
天辺にいる相棒に、
「相棒下りて、列車の中に入ってこい」
「ンン、にゃ~」
黒猫は下りて、黒皇魔骸鋼列車の中に入った。
続きは明日、HJノベルス様から書籍「槍使いと、黒猫。1巻-20巻」発売中
コミック版1巻-3巻発売中。




