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槍使いと、黒猫。  作者: 健康


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二千八十六話 地底に響く咆哮、霧散する半透明の怨霊巨人

 <闇透纏視>と<隻眼修羅>を発動。

 先程、感じていた石像の魔力が不自然に消えていく。

 

 否、魔力が転々と移動している? 

 自身の心音さえも遠く感じた。

 本来なら耳の奥で鳴り続けるはずだが――。

 体内の血潮や外へと放出している魔力の微かな波動さえもが消失している。


「……ッ」


 ヴィーネが短く唇を動かした。声は聞こえない。

 だが、彼女の翡翠の蛇弓(バジュラ)が音もなく光線の弦を生成したのが見えた。

 その銀色の瞳が凝視する先に立ち並ぶ石像の一つが不自然に瞬きをしたのを<闇透纏視>が捉える。


 すると、音が死んでいた空間だったが――。

 キィィンとかすかな音と共に、俺を含めた皆の<血魔力>の影響か、トンネルに入った瞬間のような空氣圧を耳に感じると音が復活していく。


 すると、石像が蠢き始めた。

 石像だと思っていたものは石化の呪いを逆手に取った擬態か!?

 一部の石像が蠢き「「ブェァァ」」と、湿った腐肉を叩きつけるような不気味な声が広場に谺した。


 それら石像は空間を歪ませながら転移し、奥へと逃れるように移動していく。

 と、堰を切ったように周囲から不可解な音が、耳に流れ込んできた。

 奥で塊となった石像の群れはドロドロとした泥濘のように溶け合い、分裂を繰り返しながら虹色の油膜を湛えた泡を宙空に吐き出していく。


 その光景は、深海で得体の知れない生物が産卵しているかのようだった。


 ヴェロニカとユイが<バーヴァイの魔刃>を飛ばし、泡を突き抜けて潰すが、泡は増殖し――。


 油のような膜を形成しつつ、巨大な人型が幾つも模られていく。

 単なる魔力の塊ではないのか。


 半透明の膜の内側には、苦悶に歪む無数の人面が浮かんでは消え、重なり合っていた。かつてこの地底都市で命を落とした者たちの残滓か。


「ん、禍々しい、あ、でも、苦しみもある」


 エヴァの声に頷いた。

 ただの青蜜胃無(スライム)系でもないようだ。

 魔力の中に混じる、凍りつくような怨念。

 だが、その根底には救いを求めるような悲痛な響きが混じっている。


「……地底に溜まった負の感情が、セレデルの魔力と混ざり合った怨霊の巨人か」


 そう呟いた直後、巨人の双眸に相当する位置にどす黒い燐光が宿った。

 そこから複数の礫が呪いの言葉を吐き出すかのような勢いで飛来した。

 ――にわかに<夜行ノ槍業・召喚・八咫角>を召喚。

 眼前に現れた巨大な駒が飛来する礫を硬質な音を立てて弾き飛ばす。

 だが、礫の幾つかは弧を描きながら飛来し<夜行ノ槍業・召喚・八咫角>を避けてくる。その複数の礫を見ながら<握吸>と<勁力槍>を再発動させた魔槍杖バルドークを動かす――。


 石突で地面に突くように、叩きつけながら、その柄で礫を防ぐ、次の礫もわずかに動かした魔槍杖バルドークの柄で防いでいく。甲高い音と火花が目の前で連続的に散った。


 シンバルを叩いたような音も大氣を貫く。


「――怨霊の類なら、物理的な攻撃よりも属性の相性が鍵だな――」


 同時に全身に魔力を循環させる。

 掌に、吸い付くような魔槍杖バルドークの感触を確かめつつ――。

 獲物を狙う獣のように重心を低く落とした。

 鼻を突く石灰の匂いと、敵が放つ魔力の圧力が肌をチリつかせる。

 隣の相棒に視線で合図を送った。

 相棒は姿勢を低くして、のそりのそりと少しずつ前に移動。


 胸と腹の横から伸びた複数の触手が、音のない空間を泳ぐように動きながら先端から出た骨剣が、飛来してきた礫を正確に貫いていく。


「――シュウヤ様、上です!」


 ラライセの警告が響く。

 見上げれば、広場の天井を埋め尽くす光樹の影から石の翼を持った異形たちが、音もなく急降下を開始していた。石の翼を持った異形からか。そいつら異形たちも礫を寄越してくる。


「ラライセさんたち、私の背後に――」


 ビュシエの凛とした声が響くと同時に<血魔力>が膨れ上がる。

 <血道・石棺砦>を使用した。頭上から轟音と共に巨大な石棺が降り注ぐ。

 複数の石棺、<血道・石棺砦>が地響きを立てて、広場の石畳を粉砕しながら突き刺さっていく。

 死角を埋めるように地面から隆起した石棺は迫力がある――土砂を跳ね除けながら生まれる石棺もあった。それらの石棺と衝突していく礫の甲高い音が何度も響く。

 毎回だが、一瞬での砦の構築は見事だ。

 

 すると、広場中央に鎮座していた巨大な石像が内から膨れ上がり、爆ぜた。

 半透明の巨人は、爆風から力を得たように煌めく、その動きを見ながら<夜行ノ槍業・召喚・八咫角>を前方に送り爆風を防ぐ。


「ん」

「わたしたちも――」


 エヴァとミスティも呼応。

 白皇鋼(ホワイトタングーン)のワイヤー状の金属と鋼の板が石棺の間と面と上部にくっ付いていく。緑皇鋼(エメラルファイバー)の金属も複雑に絡み合い石棺の簡易砦を強化していく。


 そこに半透明の巨人の腕が下りてくる――。

 動きは遅い、<超能力精神(サイキックマインド)>を発動――。

 <超能力精神(サイキックマインド)>の衝撃波が、その半透明な腕を下から破壊するように吹き飛ばした――散った膜状の細かなモノが刃に変化し、落下してきた――。

 微動だにせず、もう一度<超能力精神(サイキックマインド)>を発動――。

 更に<星想潰力魔導フォズニッククラッシュ>を発動した。


 飛来してきた刃を潰すように吹き飛ばす。

 同時に大きい駒の<夜行ノ槍業・召喚・八咫角>を半透明の巨人に直進させた。

 半透明の巨人の膜を突き抜け、魔力溜まりに衝突させることに成功――。しかし、その膜の中で動かなくなってしまった。直ぐに消す。再度、目の前に<夜行ノ槍業・召喚・八咫角>を召喚した。

 無事だ。<夜行ノ槍業・召喚・八咫角>に書かれてある風槍流を視認しつつ――左右の両手首の<鎖の因子>から<鎖>を射出した。


 宙空に弧を描くように直進した<鎖>の先端が石の翼を持った異形を貫いていく。

 石の翼を持つ異形は得物で<鎖>を弾こうとしていたが、遅い、体を<鎖>に貫かれると、断末魔もなく砕け散る。

 一方で、広場中央の半透明の巨人は吹き飛ばされた腕を膜状の魔力で再構築――。

 その胴から触手状の突起を複数伸ばしてきた。


 死者の啜り泣きのような不快な音が周囲に響き渡る。

 巨人は胴から触手状の突起をくねらせる。それは逃げ場を失った魂が救いを求めるような動き――。


 <ルシヴァル紋章樹ノ纏>を発動。

 速度を強め、その先端が突起した触手状の石目掛け、前進し、左足の踏み込みから魔槍杖バルドークの<風研ぎ>を繰り出した――紅矛が触手状の突起を真っ向から貫く。

 ――硬質な火花が散り、わずかな衝撃を手に得ながら魔槍杖バルドークを引くように右腕を引かせ、次に飛来した触手状の突起には、左手を翳すように掌底を突き出し<神聖・光雷衝>を発動――。

 触手状の突起に掌底を叩き込む。

 ドッという腹に響くような重低音と共に触手は内から弾け飛び、神聖な閃光が周囲を真っ白に染め上げた。怨念を焼き払う光の奔流が空間を浄化していく。

 その背後から飛来していた触手どもも<神聖・光雷衝>の影響を受け、一氣に、融解するように霧散していく。ストロボ写真のようにパッパッパッと蒼白い閃光と共に、触手が蒼い炎に包まれ消えていく様は爽快感がある。


「――皆、普通に光属性が弱点だ。ただ、膜の内部は抵抗があるようだぞ。そして、それでも魔力溜まりを撃ち抜けば倒せるはずだ」

「「「はい!」」」


 眷属の皆が動く。

 ヴィーネの翡翠の蛇弓(バジュラ)が放つ光線の矢が、巨人の再生を阻むように魔力を削り、ユイの<銀靱・壱>が巨人の懐に飛び込んだ。


 ハンカイとルリゼゼも的確に再生したばかりの手足を斬り刻む。

 カルードとメルとヴェロニカも、<血魔力>を体から放ちながら、得物を振るい、膜を切り、半透明の巨人の内に入り込んでいく。


 一方で、ヘルメは盾の隙間から浸透してきた呪波を常闇の水で洗い流し、足場を死守している。


 雷炎槍流シュリ師匠と悪愚槍流トースン師匠と()()(テン)たちは飛翔しながら、石の翼を持った異形を各個撃破。

 俺も細い<血鎖の饗宴>を宙空に繰り出し、的確に石の翼を持った異形をぶち抜いていく。石の翼を持った異形は、フレザガークに似ている。

 

 地底神セレデル一派か。

 膜を擁した半透明の巨人もソレ系だと思うが、このかつての地底都市の人々の魂と魔力を得てのモンスターかな――。


 しかし、皆は自然と最適解を導き出しているように対処が速い――。

 

「閣下! ここは我らにお任せを~!」

「盾の真髄、しかと見よ!」


 ゼメタスとアドモスが阿吽の呼吸だ。

 巨人が周囲に生み出した強化版の石化魔獣たちを、アドモスが盾で受け、生じた隙をゼメタスの斧が容赦なく断ち割っていく。


「――にゃおぉん!」


 相棒が低く鳴き、死角から迫る突起を触手の骨剣で叩き落としてくれた。


 その間に――<隻眼修羅>を更に深めた。

 世界から色が消え、巨体の中に潜む核が、青白く、だが確かに熱を持って脈動しているのが見える――。

 再構築を繰り返す巨人の深部、腹部のやや左、そこだけが周囲の膜とは異なる禍々しくも濃密な魔力がある。

 

 すると、後退した半透明の巨人が泡から膨れ上がったように多腕を天に掲げた。同時に半透明の巨人の下から灰色の波が発生。


 巨大な灰色の波が波頭のように押し寄せてきた。

 地面が石化している。

 即座に、前衛の皆は左右に移動した。

 足下から大量の<血魔力>を展開させ、その灰色の波を防ぐと同時に<血鎖の饗宴>を発動。<血魔力>の血が一瞬で、無数の血鎖となって灰色の波を逆に浸食し、押し返していく。

 

「閣下――」


 常闇の水精霊ヘルメも霧状の体から大きい波を発生させた。

 波から群青色の<滄溟一如ノ手ポリフォニック・ハンド>の溶液的な手が無数に出現――。

 その<滄溟一如ノ手ポリフォニック・ハンド>の無数の手が、俺の<血鎖の饗宴>を越えて、半透明の巨人の頭部を急襲し、斬り裂き、背後の洞窟の奥に向かう。

 そのヘルメは、《氷槍(アイシクル・ランサー)》をも繰り出し、半透明の巨人の内部の核を撃ち抜いていく。

 闇雷精霊グィヴァも、<雷雨剣>を放ち、無数の雷剣状の魔力が半透明の巨人の膜を貫く。バチバチとした音を響かせながら雷が、半透明の巨人の体を駆け抜けていく。


 古の水霊ミラシャンも<水晶銀閃短剣クリスタル・シルバーダガー>を放ち、半透明の巨人の内部で光の結晶となって砕け散り、その破片が無数の光の蝶と成ると、<水晶群蝶刃クリスタル・バタフライブレード>に変化し、内部から魔力の循環がズタズタに引き裂かれ、核と再生していく核をも裂いて破壊していった。


 再生が追いつかない半透明の巨人は、


「――グ、ガァァァァァッ!!」


 と、耳を劈くような悲鳴、咆哮を響かせた。

 巨体の一部は崩れ、細かな石の翼を持った異形が生まれるが、それも皆の攻撃を受けて一瞬で炭化するように消える。

 

 魔槍杖バルドークを神槍ガンジスに変化させ、まだ残っている核を凝視。

 <仙魔・龍水移>を繰り返し、半透明の巨人の裏側に回り――。

 皆の攻撃のタイミングに合わせ――前進――。

 <龍神・魔力纏>と<武龍紫月>と<黒呪強瞑>と<水月血闘法>と<鬼神キサラメの抱擁>を発動。

 <血魔力>で足下を滑らせながら前進。

 剥き出しになった核目掛け、神槍ガンジスで<神槍・烈業抜穿>――。

 <血魔力>が光の渦となって神槍ごと直進。

 方天画戟に似た双月刃にすべての破壊力が集束し、巨人の核を微塵に穿ち抜いた。

 神槍ガンジスは手から離れ直進、その槍筋の横をすれ違うように駆け抜け、巨人を貫通して反対側に突き抜けた神槍の柄を、背後で左手によって完璧に掴み直した。

 

 直後、巨体は内から破裂し、内から爆ぜていく

 物理的な音となって広場の石壁を震わせた。

 

 断末魔とも、解放された者の吐息とも取れる声が漏れていく。

 耐えきれぬ圧力に負け続けたように膜が融け、脈動していた青白い核が粉々に砕け散った。維持を失った半透明の膜はドロドロとした執着を脱ぎ捨てるように、清らかな光の粒子となって霧散していった。


 終わっただろう。<隻眼修羅>で周囲を見るように着地。

 <闘気玄装>だけを残して<魔闘術>系統を終わらせた。


 広場を支配していた音が吸い込まれるような異常な静寂は消え、代わりに崩壊した石像たちが立てる乾いた音と仲間たちの荒い息遣いが響く。


「ご主人様! お見事です!」


 ヴィーネが駆け寄ってくる。


「おう」

「シュウヤ、石の翼を持った異形も消えたわよ」


 ユイも神鬼・霊風を消してから駆けよってきた。


「ンン、にゃお」


 黒豹(ロロ)がのっそりと近寄り、俺の脚に頭を擦り寄せる。

 触手は既に収められており、戦場に漂っていた殺氣は春の陽だまりのような安堵感へと変わっていた。


「閣下、地底神セレデルの影響で発生したモンスターたちなのでしょうか」

「……あぁ。たぶんそうなのか? としか言えないな。とにかく、皆、助かった。ヘルメも、グィヴァも、ミラシャンも、いい援護だった」


 常闇の水精霊ヘルメが誇らしげに胸を張る。

 精霊たちもそれぞれの形態で満足げに揺れている。

 一方で、砦の陰から現れたラライセと騎士団は、目の前の光景に圧倒されたように立ち尽くしていた。


「……シュウヤ様たちはやはり強い。地下道を占める未知数の敵の弱点を的確に、しかも連携しながら、本当に見事……」

「槍業も素晴らしいとしか言えないですな」

「はい、私たちなら撤収し、迂回していた」

「凄いことです。新しい地下道の開拓に成功する。【血の守護騎士団】でも、その行為は特級報償に値する! 魔英雄シュウヤ様が吸血神ルグナド様に認められているだけはある!」

「「あぁ!!」」


 歴戦の強者の【血の守護騎士団】たちに褒められるのは嬉しい。

 そして、デムラの解放は単なる通路の確保以上の意味があったのだろう。


 そして、巨人が消えた後の中心部――。

 そこには、かつての呪いの核ではなく、清らかな水を湛えたかのような蒼い結晶が静かに鎮座していた。


「蒼い結晶か、なんだろう。ラムー鑑定を頼む」


 ラムーは既に霊魔宝箱鑑定杖を持っている。


「はい――」


 頭部を隠す胴色の兜から聞こえる返事はいつもの、少しくぐもったハスキーボイス。中身の素顔は、かなり美形。


続きは明日。HJノベルス様から書籍「槍使いと、黒猫。1巻-20巻」発売中。

コミック版1巻~3巻発売中。

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