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槍使いと、黒猫。  作者: 健康


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2086/2136

二千八十五話 闇神の残滓と光樹の導き

 進軍を続ける。

 南マハハイムの湿った熱気は、北西へと進むにつれ、地底を流れる冷たい風に取って代わられていく。

 天井にはまだ樹が多いが、漆黒の天蓋は続いている。

 そして、地底の平原と呼べるような地下道に変化していく、嘗てのインフラを感じた。

 ラライセが前に出る。

 

「……シュウヤ様、【地底平原】に入りました。地下に多い独立都市と通じた地下の街道と通じているところが多い。『古の街道』の名残も強くなります」


 そこで前方にまた魔素の群れを察知。


「了解したが、早速か」

「――前方に多数の魔素!」

「現れました――」


 巨大な丸ノコのような多脚ブレードを持ったホームズンと魔獣死人の群れが洞窟の奥から現れた。

 ある種の鉄条網に見えるのは、前と同じだ。


 そこに、キッシュとママニが、ラライセたちを飛び越え、


「ここは私が担当しよう。【血の守護騎士団】たちは休憩を、吸血鬼(ヴァンパイア)とて精神、心は疲弊することは重に承知だ。今は休憩を――」

「はい――」


 二人は掛けていく。

 キッシュに合わせ、俺と相棒も前に出た。

 

「妾たちも前衛を務めよう――」

「「はい」」


 ()()(テン)たちも上から直進――。


 俺の先にいるキッシュは<血魔力>を体から発しながら加速し、跳躍。

 ホームズンの多脚ブレードを避けたキッシュは突き剣を繰り出す。

 長剣技<突剣・一火>か。

 魔剣がホームズンの頭蓋を突き抜ける。

 キッシュは魔剣を縦に振り抜きホームズンを両断。

 そのまま着地と同時に横一閃。飛び散る体液を厭わず、ホームズンの骸を蹴り飛ばしながら旋回する。右側から迫る多脚ブレードの金属音を弾き飛ばし、その勢いのまま踏み込んで魔剣を叩き込んだ。

 派手にホームズンを吹き飛ばす。

 次のホームズンへと、迅速に移動したキッシュは、魔剣を返すように踏み込みながらの魔剣の刃でホームズンの体を横から両断し倒す。

 と、更に、魔剣から<バーヴァイの魔刃>をも飛ばし、前方のホームズンの多脚ブレードを弾く。


 キッシュの〝紅霧の面具〟が似合う。


 サイデイルの女王としての威厳ある面立ちに、赤い霧のような魔力の帯が頬を流れ、神秘的な美しさを醸し出している。


 そのキッシュのフォローに――。

 左手首の<鎖の因子>から<鎖>を射出した。

 直進した<鎖>がキッシュの左前方にいたホームズンを穿つ。


 右にいるキッシュは〝メギレの魔法盾〟を掲げ、右斜めを駆ける。

 多数の多脚ブレードを、その盾で弾きまくり火花が散った。


 その多脚ブレードが弾かれ、体が上向いた一部のホームズンの体に、()()(テン)たちが、<水神霊妙剣>や<御剣導技>の剣術スキルを浴びせて倒していく。

 ミスティのゼクスも飛行しながら光剣を振るい、魔刃を飛ばしていくのが見えた。


 ママニの大型円盤武器アシュラムがホームズンに炸裂したのも見えた。

 <血魔力>の炸裂が激しい<血剛投擲>だろう。


 キッシュの〝メギレの魔法盾〟との衝突で、弾かれていく多脚ブレードのホームズンの体に、大型円盤武器アシュラムが突入した瞬間、左右に割れていくホームズンは内から膨れて爆発するように散っていく。

 サラも飛翔するように愛剣ラ・グラスを振るう。

 <白炎一ノ太刀>は見事、更に<バーヴァイの魔刃>も繰り出し、前方のホームズンを斬り裂く。〝炎竜帝ヴァルカ・フレイムのマント〟が似合う。


 続いてブッチも斧を振るい、躍動する。

 ハンカイと似た<大嵐旋斧>は見事だ。

 

 そのホームズンの群れに魔獣死人は、俺たちの<血魔力>が素で効く相手、とくに苦労せず、倒しきり――全滅させた。


 その後は、戦いもなく巨大な空洞を進む。


 すると、ファーミリアが碧眼を細め、前方の岩棚を指差す。

 そこには風化した巨大な門柱が、地底の星を模した魔石を淡く光らせて佇んでいた。

 ファーミリアは、


「ここが【エイジハル血院】へと至る最初の『中継環メトロ・ハブ』です」


 手元の地図と、広大な暗闇を照らし出す<闇透纏視>の視界を重ね合わせる。遥か北西、氣が遠くなるほどの距離の先に、石化の呪いに眠るヒミィレイスが待っている。


「へぇ~、地下の大動脈も様々に道がある」

「結構、進んだと思ったけど、まだまだ先は長いのね」

「はい」

「マスター、ゴルディクス大砂漠の地下からのほうが、西のエイハブラ平原の地下には近いんでは?」

「そうかもだが、地下も入り組んでいるからな。それに、吸血神ルグナド様が持つ傷場からのルートのほうが正確だ。更に言えば、そのゴルディクス大砂漠の地下の傷場は、闇遊の姫魔鬼メファーラ様の管轄」

「うん、それもそっか」


 ミスティの納得した言葉に皆も頷く。

 メルは、


「希望ですが、五派連合の大同盟に、闇遊の姫魔鬼メファーラ様も加わってくだされば、セラの傷場を巡る争いにも安全ルートが増えることに繋がります」

「そうだな」


 すると、相棒が、


「ンン、にゃお」


 と鳴いて、前を走っていくが、止まった。

「ンン」と俺を呼ぶような喉声を響かせ、前方を見据えている。

 近寄ると、相棒の先に地割れがあった。


「ロロ、この地割れの先が氣になるのか?」

「ンン、にゃ?」


 相棒が鳴いた瞬間、地響きと共に前方の街道が爆ぜた。

 這い出してきたのは、全身を鈍色の鉱石装甲のモンスター。

 身の丈四メートルを超えている。

 更に、それに騎乗している六眼の魔族らしき姿もあった。

 

 ヴィーネが、


「ご主人様、あれは、岩石百足(ストーンアラババ)です!」

「へぇ、初めて見るが、岩竜と少し似ている」

「はい、岩石百足の群れと……一部は、それを操る不気味な六眼の魔族? あれも獄界ゴドローンの勢力もいるようですよ」


 キサラの言葉に、ファーミリアが、


「いいえ、【闇神異形軍】の別働隊でしょう。岩石百足(ストーンアラババ)は、この惑星セラ特有の地下モンスター。元は黒き環(ザララープ)からのモンスターかもですが」


 その言葉に皆が頷いた。


「……闇神リヴォグラフか。地下で機動力を得ている部隊ということか」

「そのようです」

「エイジハル血院を占拠している闇神リヴォグラフ側の斥候?」

「それか私たち、吸血神ルグナド様たちが奪還したヴァルマスク大街の傷場、そのセラ側を守っていた部隊の一部かもですよ」


 傷場から撤退した闇神リヴォグラフ側の連中か。


「それはどうでしょうか。傷場はセラの各地にあります。あの部隊の大本は、違う闇神リヴォグラフ側の傷場を元にした勢力下からの斥候かもですよ。私たちが勝利した吸血神ルグナド様の傷場にいた闇神リヴォグラフ側の防衛部隊の残党とは、限らないはずです」


 メルの言葉に皆が思案げとなる。


「どちらにせよ、わざわざ、俺たちの前に現れた」

「数の多さから、この大動脈の『封鎖』が目的?」


 レベッカの言葉に、

 ヴィーネが、


「さすがに、そこまでの意図はないように思えます」


 翡翠の蛇弓(バジュラ)を構える。

 一瞬にて、光線の弦が出現し、光線の矢が出現している。


 皆の疑問に頷いて、魔槍杖バルドークを右手に召喚。

 <握吸>を強める。

 隣では、キッシュが薄緑の長髪をなびかせ、その手にある魔剣を静かに抜き放った。


「シュウヤ、道が長いなら、その分『掃除』のしがいがあるというもの。私の剣、お前の槍……どちらが先に、まだ見えぬ血院の門を叩くか……競うのも悪くないぞ?」


 ふっ、と笑みを浮かべる。

頼もしくも美しいキッシュの挑発に、


「はは、女王陛下には勝てそうにないな。だが、遅れは取らない」


 <血道第三・開門>――。

 <血液加速(ブラッディアクセル)>を発動。

 いつもより多く<血魔力>を体から発生させる。


 キッシュの美しい黄緑色の髪が、俺の発生させた<血魔力>により浮き上がる。

 すると、背後ではラライセ率いる【血の守護騎士団】が再び勇壮な戦歌を響かせ始めた。

 その皆とキッシュたちに、


「では、悪いが、先に突っ込む――」


 と、横を鋭い光が掠めた。ヴィーネが放った光線の矢だ。

 矢は正確に岩石百足の一体を穿ち、そこから溢れ出した緑の幻影の蛇が、浸透していく。


「「「おぉ」」」


 背後からの歓声を力に変えるように――。

 岩石百足の先頭集団に目掛け――。

 <超能力精神(サイキックマインド)>――。

 先頭の岩石百足たちは、次々にひっくり返りながら後方に吹き飛ぶ。

 中衛と後衛にいた岩石百足と衝突を繰り返し、衝突潰れていく岩石百足たちは「「――ゲェァァァ」」と悲鳴を発しながら散っていく。

 生き残りの岩石百足はまだ多い。

 鈍足な岩石百足を凝視しつつ<ルシヴァル紋章樹ノ纏>を発動。

 <仙血真髄>を発動。

 そして、前傾姿勢で、前に出た。

 岩石百足目掛け、踏み込みと同時<血刃翔刹穿>を発動。

 魔槍杖バルドークを突き出し、紅矛と紅斧刃が岩石百足を貫く。

 その穂先から飛び出た無数の血刃が、岩石百足たちと、騎乗している六眼の魔族たちを貫いていった。

 そして、背後から、


「――シュウヤ様たちに続け!」


 ラライセたちの声が響く。

 赤備えの光が、地底の闇を切り裂くように岩石百足を粉砕していく。

 一部の六眼の魔族は、岩石百足を操り、地下道の奥に消えた。

 撤退が速い、それは追わず、エイジハル血院を目指す。

 

 北西の果てを目指して再び加速する。

 正直北西なのか北なのか分からんが、道案内はラライセたちに、お任せだ。


 時折、相棒が直進し、隅っこに移動。


 隠れているモンスターか!?


 と、俺と同じように、疑問に思った光魔魔沸骸骨騎王のゼメタスとアドモスたちが騒ぎ立てるが、「ンンン」と喉音で返事をした黒豹(ロロ)さん。


 地面を前脚で熱心に掻き始め、そこの匂いを、くんかくんかと、念入りに匂いを嗅いでからよっこらせと、跨ぐ。

 掘った地面をお尻で隠すように腰を下ろし座ると「シャァァ~」小気味よい音を響かせてきた。


 相棒はオシッコをしていく。

 真剣な表情で用を足す黒豹(ロロ)の姿は、猛々しい神獣のそれとは程遠く、実に微笑ましい。

 と、その相棒は両後ろ脚で爪先立ちをするように、姿勢をあげて、うんちが連なっている肛門さんを見せてきた。


 ふんばりながら、一点を見つめて用を足す黒豹(ロロ)


 その、がんばって、うんちをしていく黒豹(ロロ)を見て、思わず、「がんばれ~」と声援をかけると、相棒はぴくりと耳を伏せ、見事な「イカ耳」を披露してくれた。

 

 面白い。不服そうなその耳は、『分かっているから、静かにしてほしいにゃ……』という相棒の心の声を代弁しているようで、思わず吹き出しそうになる。


「「ふふ」」

「なんだぁ~うんちかぁ」

「はい、ロロちゃん様、がんばって!」

「ん、黒豹だから、おっきいうんち」


 と、エヴァが真面目に語るから、吹くように笑ってしまった。


 そんなこともありつつも、ラライセたちに道案内を任せて地下道を進む。


 道中、地底神セレデルの眷族が守っていたとされる幾つかの関門を、神獣ロロディーヌと、ハンカイの金剛樹の斧とレプイレス師匠の女帝槍が強引に抉じ開けていった。


 進軍を始めてから数日が経過しただろうか。

 幅広い地下空洞が続く時は、巨大なドラゴン型の神獣ロロディーヌに、大半のメンバーを乗せて移動する。


 しかし【血の守護騎士団】のメンバーは<従者>兵を合わせると結構数が多い。約、数千人。


 一部メンバーには、ヘルメの<珠瑠の花>と砂城タータイムの中と、相棒の触手に捕まってもらい、大移動を行った。


 広大な地底平原を貫く古の街道は、次第に人工的な造形を色濃くしてくが、天井から垂れている太い樹には光を帯びている。光属性を有している樹なのかもだ。地下では結構珍しいはず。


「ご主人様、あの天井の地盤を貫いた樹の一部のようですが、珍しいですね」

「あぁ、ヴィーネも見たことがないのか?」

「地下を放浪している時に、何回か見たことがあります。光属性を有しているようで、闇属性が強いモンスター類は近寄って来なかった」

「へぇ、ラライセやファーミリアは?」

「はい、光樹ですね、私たちにはその光樹から作られた武具が天敵でしたよ。古代ドワーフ帝国や、ノームの独立都市にはそれを活かす鍛冶スキルがあるようですが、光樹は、当時見掛けたら必ず破壊していましたが、久しぶりに見ました」

「そうなのか」


 光樹が放つ蒼白い光は、暗闇に慣れた目には少々眩しい。

 ラライセたちが顔を背ける一方で、ミスティたちは物珍しげにその光る枝を採取していた。更に歩みを進めると、周囲の空気が一段と冷え込み、重苦しい静寂が支配するエリアへと差し掛かった。


 そこで【血の守護騎士団】のナナイが、


「……見てください。あちらの岩壁を」


 ナナイが槍の先で指し示したのは、かつての地下都市の残滓か?


 巨大なドーム状の空間を支える石柱には、精緻な彫刻が施されている。 だが、その表面は不気味な灰色に染まり、何者かが逃げ惑う姿のまま石と化していた。


「ん、これ、ただの彫刻じゃない……」


 エヴァが魔導車椅子を滑らせ、石化した人影に手をかざす。


「うん、魔力が残ってる」

「ん、停止しているけど、魔力は残り続けて……」


 レベッカに同意するエヴァの紫の瞳が石の奥に閉じ込められた停止した魔力を捉えているようだ。

 ふと、立ち並ぶ石像たちの視線が、一様に「ある一点」へと注がれていることに気づく。そこから抗いがたい死が放たれたのか。あるいは、逃げることすら許されぬ天変地異に呑み込まれたのか。

 かつて地球の知識として触れたポンペイの遺跡で見た空洞から復元された犠牲者たちの最期――それを想起させるほど、剥き出しの絶望がそこに凍りついていた。


 クナが、


「石化の呪い、どの地底神かは不明ですが、強力な魔法、呪いですね」


 頷いた。

 クナを含めたラライセたちに、


「ヒミィレイスを飲み込んだ呪いとは関係があるのかな」

「これは別系統のはず。エイジハル血院までは距離的に離れすぎています」

「光の魔法で解呪、俺たちの血、<血魔力>や、光属性の魔法で、呪いは解けないのか?」

「解けるかもしれません。しかし、闇神リヴォグラフ側や地底神の争いの由縁もありそうですからね。元々の精神が<筆頭従者長(選ばれし眷属)>など、大眷属級で、強くないと無理だと思いますよ」


 クナの言葉を聞きながら<血魔力>を一部の石像に当てた。

 石像は反応せず。


 エヴァたちも<血魔力>を注ぐが反応はしなかった。


 クナの言葉にラライセたちが頷く。


「はい、この石化の呪いや魔法は、かつての独立都市……そして、地底神側と闇神リヴォグラフ側との争い結果でしょう」

「どこも争いばかり……」


 キッシュの言葉に、ラライセが、


「はい。それはそうですね」


 キッシュたちも頷く。

 キッシュは女王としての具冠を輝かせ、ラライセ・エイジハルに、


「……それにしてもラライセ殿、貴殿の騎士団の統率、実に見事。血の魔力をあのように波状攻撃として組み込む戦術、我がサイデイルの警備隊にも取り入れたいほどだよ」


 キッシュの賞賛に、ラライセは凛とした表情を崩さず、わずかに誇らしげに目を細めた。


「恐縮です、キッシュさん。我らエイジハル家にとって、この『血の守護』は数千年の歴史そのもの。ですが、シュウヤ様とキッシュさんの率いる多種族混成の軍勢……その柔軟な連携こそ、今の魔界やセラに必要な『新しい力』に見えますわ」

「はは、そう言ってもらえると救われる。……そして、先は長い。シュウヤの言う距離感は想像もつかないが、この地下の静寂がいつまで持つか」


 二人の女王と将が、互いの立場を超えて信頼を深めていく。

 その背中を頼もしく感じていると、ふいに足下の根が震えた。


「ングゥゥィィ、振動が強マル、ゾォイ!」


 ハルホンクが警告を発する。


「……来るぞ。皆、身構えろ!」


 通路の先、霧のように立ち込める灰色の粉塵を切り裂き、巨大な影が躍り出た。それは石の魔獣か?


「ん、石化魔獣ガーゴイル・ベヒーモス!」


 エヴァが叫ぶ。

 その石化魔獣ガーゴイル・ベヒーモスは、


「「「ギガアァァァァ」」」


 と咆哮しながら直進してきた。

 破壊衝動に従って動く石化魔獣の群れか。


「掃除の時間だ、相棒!」

「にゃおぉぉぉん!!」


 ロロディーヌが黒豹から神獣へと姿を変え、咆哮を上げた。

 魔槍杖バルドークを構える。

 石化魔獣は、口から粉塵を吐いた。

 

 毒か? 触れたら石化?

 と予想しつつ<超能力精神(サイキックマインド)>――。


 石化の粉塵が舞う中、巨躯を揺らして迫る石化魔獣の群れの先頭集団は仰け反り、破壊。次々に吹き飛ぶ。


 迫りくる石化の粉塵を物理的に押し返す。

 

 一方で、天井から垂れていた大量の光樹に群がる石化魔獣がいた。

 光樹に触れ、体が崩壊する石化魔獣も居れば、内部に取り込んでいるのか、活性化している石化魔獣もいるようだ。


 不思議だ。


「皆、石化魔獣だが、俺たちを攻撃してくる以外は殺さずに――」


 と言いながら、迫る石化魔獣を次々に倒していく。

 石の溜息に満ちた大動脈を、光魔の血が再び赤く染め上げようとしていた。


 かつては強大な魔獣だったのだろう。

 だが今は、筋肉も内臓も不気味な灰色に置き換わり、ただ破壊の意志だけを宿して、関節が軋む音を響かせながら突進してくる。


「シッ!」


 ユイが影を滑り、イギル・ヴァイスナーの双剣を振るう。

 光を帯びた軌跡が魔獣の脚部を捉え斬る。

 切断された面から蒼い炎を強めて、その蒼い炎に包まれるように塵となって消えた。

 ユイは、


「耐性もあるのもいるけど、大半には、光属性は効くわね――」

「はい――」


 キサラもダモアヌンの魔槍を振るい回し、石化魔獣を潰すように倒しまくる。

 ユイは、


「毎度だけど、光魔ルシヴァルの<血魔力>を込めての武器を使用しましょう――」


 と言うと加速し、イギル・ヴァイスナーの双剣を振っていく。

 二つの剣閃が、次の石化魔獣の継ぎ目へと正確に吸い込まれていく。

 切断された断面から噴き出した魔力の残滓を、光魔の蒼炎が、石化魔獣の体を焼き尽くす。


 巨体は砂利の山となって崩れ落ちた。


「ん――」


 エヴァが<霊血導超念力>を加速させる。

 周囲に浮遊していた白皇鋼(ホワイトタングーン)の刃が、複雑に絡み合いながら巨大な破砕杭へと変形。


 そのパイルバンカーのような一撃が石化魔獣の頭部に直撃、貫いて地面と衝突、ドォッとした重低音が響き渡る。


 衝撃波が、厚い石の装甲を内部から粉砕した。

 飛び散る石の破片。その中を、神獣(ロロ)が黒い疾風となって駆け抜ける。


「にゃごぉぉぉん!!」


 咆哮と共に放たれた紅蓮の炎が、通路を埋め尽くす灰色の粉塵を浄化し、残存する魔獣たちをまとめて焼き固めては、次々と塵へと変えていった。


 一部の石化魔獣は光や熱に耐性があったように、再生していく。

 

「ほぅ~あの光樹に群がるだけはあるようだな」

「ふむ、再生能力とは、ちと、厄介じゃの」


 ハンカイとバフハールの言葉に頷きながら<血道第一・開門>を意識し、<血鎖の饗宴>をも使う。無論、味方の数は多いので、<血鎖の饗宴>の大規模運用はせず、細い槍状の<血鎖の饗宴>のみ――。


 石化魔獣を溶かすように倒しまくる。

 跳躍し、俯瞰――。

 バフハールが、幻魔百鬼刀を抜き放つのが見えた。

 

 袈裟掛けから逆袈裟で、その石化魔獣を斬り刻む。

 再生をさせずに強引に、すべてを斬る勢いで幻魔百鬼刀を振るい回る。

 <隻眼修羅>を鋭く光らせたバフハールは、やはり強いな。

 

 そこで魔槍杖バルドークを消し、魔神槍・血河に変化させ――。

 

「この吸血神の理も案外効くかもしれない――」


 石化魔獣に近付き――。

 <光魔神技・穿ノ血河>を繰り出した。

 突き出た大身槍の穂先が、石化魔獣の胴を貫く。

 と同時に魔神槍・血河から鮮血の奔流が噴き出す。

 穿った石化魔獣の胴体から赤黒いヒビが全身へと走り、石の体が内からドロリと溶解していく。

 再生もせずに消えた。戦闘を終えて、進軍を速めると、地下道が大きく二手に分かれていた。


 一方は比較的開けた新街道の跡。

 もう一方は、複雑に石の建物が入り組む地下道。


「……シュウヤ様、『異界の霧』には注意が必要かもですが、今はない……ですので、こちらから旧市街の地下道を行きましょうか」


 ファーミリアが碧眼を細め、旧市街へと続く細い通路を指差した。

 ラライセがその隣に並び、かつての記憶を辿るように沈黙を守る。


「ファーミリア殿、やはり貴女もあちらを?」

「えぇ。この【旧水晶都市デムラ】……かつてヴァルマスク家とエイジハル家がまだ手を取り合っていた時代……」

「妹のヒミィレイスたちですね」


 ラライセの言葉にファーミリアは目元を赤くしつつ、


「………はい。この旧市街は、かつてのヴァルマスク大街、そして傷場から近い地下回廊を結ぶ要衝だった。……今では、ここを行き交うモンスターや支配者たちの変遷を物語る、無惨な名残に過ぎませんが」


 そのファーミリアの言葉に、ホフマンたちは頷いていく。

 周囲の石の軋みが、ヴァルマスク家の面々の表情を物語る。

 かつてのファーミリア・ラヴァレ・ヴァルマスク・ルグナドとしての立場を思い出すように、皆を見ていくファーミリアは、俺と視線を合わせ、


「……闇神リヴォグラフの『闇神異形軍』がここを狙ったのは、エイジハル血院を狙うための、径路の一つだけではないはず。この地下道に眠る『古の魔力供給源』そのものを奪うためだったはずです。と、かつての事象も幾星霜とした時間の影響もありますので、あいまいですが……」


 その言葉に、ラライセが深く頷き、俺の方を向き直った。


「……シュウヤ様、新街道は移動は楽ですが、おそらく敵の伏兵など、様々な勢力が広範囲に展開しているはずです。逆に旧市街は道が狭く、モンスターの巣窟と化していますが……比較的に、エイジハル血院に近い地下道が点在しています」

「近道があるなら、そこにしよう。『掃除』の手間も省ける」


 魔槍杖バルドークを軽く肩に担ぐと、キッシュが面白そうに目を細めた。


「敵の多さを承知で難路を選ぶか。シュウヤらしい。だが、ラライセ殿。このデムラが石化した本当の理由を、まだ聞いていなかったな」


 キッシュの問いに、ラライセの表情がわずかに曇り、


「……実際に、都市が機能を停止したのは見ていませんので詳しくは分かりません……予想はできます」

「はい、私もです」


 ファーミリアも同意。

 ラライセは、


「リヴォグラフの闇の魔法の呪い、更に、地底神たち、セレデルか不明ですが、地底神の一部が放った『異界の霧』が混ざり合った故の事情が、石化だと思います」


 ラライセの指が、胸元の装甲を強く握りしめる。


「わたくしたち【血の守護騎士団】は、幾つか地下道を避けた地域。ですが、シュウヤ様と共にここを通ることで、ようやく過去を塗り替えられる氣がいたしますわ」


 ラライセの決意を秘めた言葉が、暗い地下道に静かに響いた。

 そのまま彼女の先導に従い、俺たちは灰色の石像が果てしなく立ち並ぶ広場へと足を踏み入れた。

 皆の足音が響くが、その音の流れが、不自然に石像の群れに吸い込まれるような静寂となった。


 レベッカとヴィーネと目を合わせる。

 彼女たちの尖った耳が少し緊張するように上下にピクッと動く。


 数千の軍勢が踏み締める足音が、立ち並ぶ石像の群れに近付いた途端に、分厚い真綿にでも包まれたかのように消失した。


 音が反射せず、虚無へと吸い込まれていくような不気味な静寂。

 広場に満ちる魔力が、音という振動さえも許さぬ、この場所特有の死の法を強いているかのようだった。


続きは明日、HJノベルス様から書籍「槍使いと、黒猫。1巻~20巻」発売中。

コミック版1巻-3巻発売中。

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