二千八十四話 地底の大動脈と赤備えの進軍
「皆様、こちらです。そして、ゼメタスとアドモス様、先陣は今回はご遠慮いただきますよ」
ナナイの言葉に、ゼメタスとアドモスは、
「承知!」
「うむ! 我らは閣下の指示があって動く!」
ゼメタスとアドモスに、
「二人は、俺たちの背後から皆の守りを見てくれ」
「「承知しました!!」」
「閣下、わたしも最後尾に回りましょう」
「了解した」
常闇の水精霊ヘルメが飛翔しながら最後部に移動していく。
ナナイとラライセの案内に従い、【血の守護騎士団】たちと西の地下回廊へと進む。
赤備えの【血の守護騎士団】が進む姿は壮観だ。
ガレ場が続く地下道を進む。直ぐにモンスターの魔素を把握――。
振動も響いてくる。
「左と右、正面の岩陰にモンスターの群れ、その奥からも」
「はい、魔素の形から定番なら蟲鮫の群れか、戦獄ウグラの群れ、業火竜の大型亜種の群れの氣配もあります」
「モンスター同士の食物連鎖か、キュイズナーの軍隊もいるかもですね」
ナナイたちの言葉に呼応し、赤備えの【血の守護騎士団】が流れるような動きで左右に展開を開始した。金属同士が擦れる鋭い音と共に、敵を迎え撃つための峻烈な槍衾が形成されていく。
<筆頭従者長>のルリゼゼが、曲剣を抜き、
「――主、数が多い、我らも出よう」
頷き、右手に魔槍杖バルドークを召喚。
<握吸>と<勁力槍>を発動。
「そうだな。では、ハンカイ、ファーミリアたち、相棒も前に出ようか。ユイ、師匠たち、沙・羅・貂たちも、中衛と後衛を臨機応変に頼む。横っ腹を狙う者がいたら、そいつらに対処を」
「「うん」」
「「はい」」
「ん、任せて」
進むと、数体の戦獄ウグラが見えた。
「サシサシッ、ツンツン、ゴー、ゲッフュゲッフュ――」
「サシサシッ、ツンゴー、ツンゴ――」
前と同じ――。
胸から生える歯牙を触手のように伸ばしてきた。
それを受けず、<闘気玄装>を強めて加速――。
一体を氷縛柩の冷徹な重圧で圧殺し、返す刀で次の戦獄ウグラの懐へと肉薄。真横から一閃した<龍豪閃>の紅斧刃が怪物の強靭な外殻を紙細工のように裂き、その巨躯を拉げ折るように上下に分断した。
「にゃご――」
黒豹も跳躍しながら体から伸ばした触手骨剣で、戦獄ウグラの体を突き刺して、倒していく。
ハンカイも左から、<大嵐旋斧>を繰り出す。
体を独楽が回転しているように横回転させ、新・金剛樹の斧で、戦獄ウグラの体を両断。ファーミリアは、サンスクリットの血霊剣を袈裟掛け――。
戦獄ウグラを斜め両断。
続けて、「<血剣・連破斬>――」と逆袈裟で、戦獄ウグラを下腹部から体を両断させて倒していく。
死体を乗り越えながら<血龍仙閃>――。
戦獄ウグラを斬り伏せ、魔槍杖バルドークを<投擲>をして駆けた。
魔槍杖バルドークは隊列を組む戦獄ウグラの数体を貫く――。
同時に戦獄ウグラの前衛に近付き、<超能力精神>――背後にいた戦獄ウグラたちを、吹き飛ばし――。
<握吸>で魔槍杖バルドークを右手に引き寄せ、
《氷竜列》を発動――。
前に龍頭を象った列氷が多数誕生し、氷竜に変化しながら螺旋突貫していく。
その《氷竜列》の群れは、中隊規模の戦獄ウグラを一瞬で凍らせ、破壊し、左斜めの洞窟の壁も真っ白に変化。
すると、右斜め奥から粘着質な魔素の塊から湧き出した。
精神を直に撫で回されるような特有の厭な波動、キュイズナー共だ。
ヌラヌラと光る暗紫色の皮膚、顔から蠢き出す触手――。
魔神帝国の兵士のキュイズナーたちが一斉に掌や魔杖、魔剣を掲げる。
魔法の構築を開始していく魔術師集団もいた。
火球、雷球――。
それ以外にも漆黒の波動、思考を焼くような魔法が押し寄せてきた。
即座に<夜行ノ槍業・召喚・八咫角>を宙空に送り、魔法の幾つかを強引に防ぐ。
レベッカの<光魔蒼炎・血霊玉>の蒼炎の勾玉がキュイズナーの魔法を貫き、魔術師集団の一角を爆撃したように、数十人を一度に吹き飛ばして倒していた。
城隍神レムランの竜杖から飛び出たペルマドンの炎のブレスと、ナイトオブソブリンの雷撃のブレスが、前衛を助けるように次から次へとキュイズナーを消し炭にしていく。
ヴィーネの光線の矢、ベネットの魔矢、〝ラヴァレの魔義眼〟と<血剣・跳弾>が次々にキュイズナーたちにヒット。
フーがメルと共に前衛に加わり、相棒の隣で、<鴇ノ白爪突刃>を繰り出す。
メルは、<血剋・蹴衝魔翼大刃>の大技――。
横からヴェロニカが前に出て、<血剣・猛襲連速>をキュイズナーに浴びせて倒し前に出たところで、俺も、その皆を飛び越え――。
指先から血を霧状に放出――。
数十人のキュイズナーの眼窩、頭部に血を浴びせた――。
一部のキュイズナーは大火傷して頭部が爆発して散るが、一部は無傷。
それぞれに属性が異なる個性を持つキュイズナーだということが丸わかりだが――。血を滑らかなに地面に滑り込ませながら<血道第三・開門>を意識。
<血液加速>を発動――。
加速しながら<妙神・飛閃>――。
魔槍杖バルドークの紅斧刃が、キュイズナーの魔剣師の魔剣を弾き、その腹を両断して倒す。
更に、
「にゃおぉ!」
と、影から躍り出た黒豹が複数の触手をしならせる。
骨剣でキュイズナーの得物を弾き、的確に、眉間、体、その急所を突き刺していった。盾持ちのキュイズナーは慌てて、盾をかかげるが遅い、足に突き刺さったキュイズナーは、悲鳴をあげるが、その悲鳴は紅蓮の炎に包まれ消える。
たじろぐ蛸頭ども。
そのキュイズナーとの間合いを潰す。
魔槍杖バルドークを振るう<魔皇・無閃>で、そのキュイズナーの頭部を真横から切断し、倒しながら横回転――。
遠心力を利用し、低い姿勢のまま魔槍杖バルドークの紅矛を横一文字に振り抜く。 <龍豪閃>――。
螺旋の衝撃を伴う紅斧刃が、背後から肉薄していたキュイズナー三体の脚部をまとめて断ち切った。粘着質な紫の返り血が石畳に飛び散る――。
倒れ伏すキュイズナーの背後から、更に、数体の魔術師集団が魔杖を掲げ、漆黒の波動を放とうとする。
「シュウヤを狙いすぎ――」
ユイが、白銀の残像を引いて地を滑る。
<銀靱・壱>だろう、剣の動きが速い、放たれた銀の線が、魔術師たちが魔法を放つよりも速く、その細い首を次々と細断していった。
「にゃご」
黒豹が頭上の岩壁を蹴り、弾丸の如き速度で落下。
触手骨剣を一箇所に集約させ、逃げ惑うキュイズナーの心臓部を正確に貫き、そのまま引き裂いていく。
「射撃、継続します――」
中衛に控えるヴィーネだ。
翡翠の蛇弓の光の弦を指先で弾く。
<速連射>。放たれた光線の矢は、岩陰に隠れて精神干渉を試みようとしていたキュイズナーたちの眼窩を、寸分の狂いもなく射抜いていった。
そこに、地下回廊全体を激しい震動が襲った。
右斜め奥の岩壁が内側から爆ぜるように粉砕され、真紅の鱗に包まれた巨躯が姿を現す。あれが業火竜の大型亜種か。
「グルゥァァァァァッ!!」
竜咆哮と共に、地下道の温度が一気に沸点まで跳ね上がる。
業火竜の顎が大きく開かれ、超高温の火炎流が通路を埋め尽くさんと奔った。
「させません! <ヘグポリネの紫電幕>!!」
ヴィーネが翡翠の蛇弓を掲げる。
網目状の紫電が戦場を遮り、迫りくる火炎の奔流を真っ向から受け止めた。
不気味な蛇の這う音が響き、炎と紫電が激しく衝突して相殺されていく。
その光の幕の隙間から<雷飛>――。
最速で、熱そうな業火竜の懐へ潜り込む。
魔槍杖バルドークを絞るように引き、網膜に焼き付く真紅の鱗を標的へと――。
「沈め――」
<血魔力>を一点に凝縮させるように<魔皇・無閃>――。
渾身の<魔皇・無閃>が太い右脚を両断――。
刹那、「グェェェァ」と悲鳴は途中で止まる、業火竜の大型亜種の喉元に、ルリゼゼの〝|双頭の魔蛇槍《ツイン・スネーク・ランス』〟が突き刺さっていた。
更に、その巨大な頭部が斜めに押し潰され、否、上下、細断されていく。
ユイ、カルードの振り下ろしに、ハンカイの<戦浮・大巻斧斬>が業火竜の頭部に決まったようだ。
エヴァの<霊血導超念力>が、崩れ落ちる巨躯の業火竜の死骸と、破片に、巻き上げた土煙を、吹き飛ばして、戦場の視界をスムーズにしてくれていく。
キュイズナーの本隊か、巨大な牢屋を運んでいる大柄キュイズナーたちもいた。
業火竜を狩っていた部隊なのか。
漆黒の重装甲冑を纏ったキュイズナーもいた。
「――九槍卿、露払いを務めようか」
妙神槍流ソー師匠の声と共に師匠たちが風となって戦場を駆ける。
断罪槍流イルヴェーヌ師匠が断罪槍で<断罪槍・撫牙岩崩し>を繰り出す。
閃光から突きの連続突き、三体のキュイズナーを仕留める。
雷炎槍流シュリ師匠は、雷炎槍エフィルマゾルから紅蓮の炎と紫電を奔らせ、敵の盾列を強引に焼き溶かしていった。
「お弟子ちゃん、道は作ったわよ!」
悪愚槍流トースン師匠が巨大な槍を石畳に叩きつけ、<悪愚槍・鬼神肺把衝>を放つ。空間を歪ませるほどの衝撃が敵陣を直撃し、近衛部隊の密集陣形が物理的に粉砕された。
「助かります! 行くぞ、相棒!」
「にゃぉぉん!」
黒豹が咆哮を上げ、無数に伸ばした触手骨剣で逃げ場を失ったキュイズナーの前衛を次々と串刺しにし、蹂躙していく。
<血道第三・開門>を維持し、<滔天神働術>と<ルシヴァル紋章樹ノ纏>を<滔天仙正理大綱>を発動――。
雷炎槍流シュリ師匠に群がったキュイズナーの魔剣師の左側に<血鎖の饗宴>で突っ込む――。三人のキュイズナーの半身が血飛沫となって消えた。
直後、シュリ師匠の背に背を合わせ、相対したキュイズナーの槍使いの頭部に左手の<鎖の因子>から<鎖>を射出し、頭部を貫いて倒し、<鎖>を消す。
「お弟子ちゃん、ありがと!」
「はい、いつものこと――」
「ふふ、うん――」
互いの背で背を叩くように前に出た。
キュイズナーの盾持ちが並ぶ、手前のキュイズナーとの間合いを詰めた。
踏み込みと同時に、<獄魔滅穿>――。
<血魔力>を魔槍杖バルドークに込めて重心を下げると一瞬で<血魔力>が黒き業火へと変貌、獄魔破豪の螺旋機動を伴い、黒鋼を超越した漆黒の一撃を盾持ちのキュイズナーに――氣付いたら数十人を貫いて、岩壁をもくり抜いていた。
背後を見ると、周囲の空間に『獄』『魔』『滅』『穿』の四文字が黒鋼色の輝きを放ちながら浮かび上がっている。
『獄』は魂を、『魔』は肉体を、『滅』は存在を、『穿』はすべてか。
凄まじい破壊の衝撃だ。
そこを【血の守護騎士団】の一団が突き抜けていく。
大柄の<従者長>アルディンの巨大な盾は目立つ。
時折一人、前に出て、敵を斬り刻む初老の吸血鬼。
たしか<従者>ウォルターだったか?
彼の実力が抜きん出ているように思える。
<血剣術>の使い手か、キッカと良い勝負をしそうだし、カルードたちに負けていない。かなりの強者だ。
新手のキュイズナーたちを屠っていく。
回廊を占めるぐらいいたキュイズナー大部隊は一氣に数を減らしていった。
すべて倒し尽くす勢いだ。
<獄魔滅穿>の余波が岩壁を削り、黒き炎の残滓が回廊に燻る。
道を開いたその先へ、【血の守護騎士団】の赤備えが鬨の声と共に雪崩れ込んだ。
俺たちも地下道を突き進む――。
キュイズナーの軍勢は統制を失いかけ撤退を開始。
「シュウヤ様、エイジハル血院までの地下道はまだ続きます。そして、あのキュイズナーたちの追撃はわたしたちの目的の地下道に合うので、あいつらが地下道から横道に出ない限り追撃をし続けます!」
「了解した」
皆で広大な地下空洞へと出て、進撃を続ける。
すると、左右の岩棚から新たな魔素が膨れ上がった。
ガサガサと硬質な節足が擦れる音、蟲鮫の群れか。
鮫の頭部と百足のような胴を持つ怪物たち。
獄界ゴドローンの勢力ではない、純粋な地下に掬うモンスター勢力だろう。
げ、天井にも、わらわらと……。
動きが気色悪い――。
天井から、降り注ぐように襲い掛かってくる。
「皆、【血の守護騎士団】の中衛と後衛を守れ、そして、こいつらは俺たちが掃除しようか」
「「「はい」」」
「――迎撃はお任せを――」
即座に応えたのはカルード。
カルードが鋭い踏み込みから一閃で、落ちてきたような蟲鮫を両断。
そのまま宙空に飛び、宙空で二振りの刀を交差させて、斬撃を放つ。
放たれた二連の光芒が、宙空から獲物を狙っていた蟲鮫数体の頭部を正確に断ち割ると、濃密な闇の霧が周囲に展開された。
視界を奪われた蟲鮫たちが次々と落下し、石畳を叩く。
「次はわたし――」
ユイが影を滑るように加速。
<死臓ノ剋穿>を繰り出し、落下した蟲鮫の急所を確実に穿ち抜いていく。
ヴィーネの光線の矢も、次々に蟲鮫を穿っていく。
「にゃごぉぉ!」
黒豹が体を捻りながら、宙空から、こちら側に逃げていたキュイズナー部隊へと直進――触手骨剣で、そのキュイズナーの魔術師たちを的確に突き刺していく。
ルリゼゼが四本の腕がブレながら、【血の守護騎士団】から迂回してきたキュイズナーたちに近づき、二振りの曲剣と槍で、仕留めていた。
大戦場となっている大空洞の地面は干からびる勢いで乾燥地帯になっている。
皆、吸血鬼だからな。
今までは、俺たちが<吸魂>や血を吸い取ることが、ほとんどだったが、【血の守護騎士団】は生粋の吸血鬼集団だ。それが改めて理解できた。
「……皆、無事だな。……先を急ぐぞ」
俺の言葉に【血の守護騎士団】が再び隊列を整え、漆黒の岩壁が削り取られた回廊をさらに西へと突き進む。
進むにつれ巨大な空洞が更なる巨大な空洞に変化していく。
見上げる天井は霞むほどに高く、左右に広がる岩棚は、まるで巨神の背骨が作り出した幾何学模様のようだ。
単なる洞窟ではない。惑星セラの地下を網の目のように巡る、血流ならぬ「魔素の奔流」を運ぶ大動脈層、果てしなく続く暗闇の先からは、湿り気を帯びた古の冷気が、地底の鼓動のように絶えず吹き抜けてくる。
この広大な地底回廊のどこかに、古のエイジハルが眠り、ヒミィレイスを救うための【エイジハル血院】が待ち受けているんだな。
「フェーン独立都市に向かう旅を思い出すわ」
「たしかに」
「ん、地底神たちの本場……でも、キュイズナーはミナルザンもいるからあまり戦いたくない」
「あぁ、そうだな」
優しいエヴァにそう言うと、微笑みを返してくれた。
皆で、その地底の深淵を貫く一筋の「赤備え」の光となった如く――。
止まることなく進軍を続けていく。
続き明日、HJノベルス様から書籍「槍使いと、黒猫。1巻-20巻」発売中。
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