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槍使いと、黒猫。  作者: 健康


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二千八十三話 【血の守護騎士団】の数千年の感涙


 血の翼広げ 闇を切り裂く

 我らが主ルグナド 永遠の王よ

 血の契り交わし 誓いを新たに

 共に行かん 勝利の道を


 鮮血の河を 渡りゆかん

 我らの剣は 主の御剣

 敵は倒れよ 友は立て

 永遠なる血の誓い 忘れじ


 死すとも栄光 生きるも誉れ

 血の道極めん 主の御名の下

 千の敵立ちふさがるとも

 我らは進む 主の道を行く


 前に聞いたが、これが【血の守護騎士団】たちの歌か。

 その歌っていた皆が作業を止め、こちらに集まってきた。


「よう、ラライセたち。ただいまだ」

「はい、お帰りなさいませ」


 そこにラミドスラ、カトガ、ジシクラらの、警邏部隊も合流してくる。旧ヴァルマスク大街の遺構が一氣に賑やかなになった。


 そして、ラライセと【血の守護騎士団】のお揃いの装束が、いつ見ても渋くて格好いい。


 赤備えの飯富虎昌、山県昌景、井伊直政、真田幸村の軍隊の映像を思い出した。


 当時は、勿論知らないが大河ドラマなどは面白かったな。


 そして、数千年の時を魔界と傷場を駆け抜けた騎士団が、【血の守護騎士団】だ。

 その「赤備え」を彷彿とさせる渋い装束を纏った皆が、俺の項の<吸血神・愛咬・血楔(ブラッド・ウェッジ)>に釘付けになっていた。


 その中の一人が、知的で洗練された所作で挨拶し、


「……シュウヤ様、パシィノ様の<従者長>、名はアルディンにございます。貴方様がこの地に齎した光……そして、その首筋に刻まれた始祖様の証しは、我ら誉れ! 同時に我らは、これより貴方様の影として歩む所存……」


 アルディンか。

 深い敬意を込められた言葉だ。

 続いて、大柄の男性が、


「シュウヤ様、私の名はパシィノと申します。ラライセ様の<筆頭従者>の一人」

「シュウヤ様、私の名はナナイ。ラライセ様の<筆頭従者>です」

「おう、二人とも、よろしく」

「はい! このたびの地上の制圧はお見事!」

「おめでとうございます!」


 パシィノとナナイの背後では、騎士たちが次々に膝を突き、俺の名を唱える。

 ナナイは豪快そうなパシィノとは異なり、女性。

 かなりの美人さんだ。声も良いから歌が上手そう。


 エヴァがその様子を紫の瞳で静かに見つめ、車椅子から手を伸ばした。


「……ん、皆、シュウヤの心に触れている。温かい血の匂いがする」


 エヴァの純粋な言葉に、パシィノが少し照れたように鼻を鳴らす。そこで全員を見渡し、


「――皆、少し聞いてもらう。樹海の一部を開放した」


 俺の言葉にラミドスラたちが一斉に顔を上げた。

 その皆に、


「かつて、月狼環ノ槍を愛用した者としての言葉でもある。南マハハイム地方の十二樹海の【樹海のハーヴェストの泉】と【キュルハ様とレブラ様の同盟の血碑】の場所と、血の陰月の大碑がある地への、立ち入りだが、今後、吸血神の系譜にあるすべての者が立ち入り可能となる。古代狼族のヒヨリミ様から正式に許可された。今後、南マハハイム地方の十二樹海において、古代狼族がお前たちと戦うことはないだろう。そして、神狼ハーレイア様とも再び、邂逅を果たして会話もしている。神狼ハーレイア様からは、それらの土地の許可など細かな会話は、していないが、まぁ、神狼ハーレイア様も、俺たちの在り方は理解しているはずだ」


 と言った後、沈黙が流れた。

 静寂が、地下の冷たい空氣を凍り付かせた。

 ラミドスラも、カトガも、そして凛としていたラライセさえも、感動を噛みしめるように瞳を揺らしていた。


 数千年以上か、吸血鬼(ヴァンパイア)たちが、魔界と傷場を巡る戦いで、どれほどこの地上の聖地を夢見て、そして諦めてきたか。その氣の遠くなるような時間の重みが、今、この一瞬に凝縮されていた。


「……あ、あぁ……」


 最初に声を漏らしたのは、武骨な男だった。


「シュウヤ様、我は、吸血神ルグナド様の<従者長>カトガ! 今の言葉を聞いて心底、嬉しく思いまする!」


 彼は持っていた巨大な盾を床に放り出し、そのままガクガクと膝を突く。拳で何度も地面を叩き、子供のように、否、千年の孤独から解き放たれた獣のように、激しく泣き崩れた。


 同じく吸血神ルグナド様の<筆頭従者長(選ばれし眷属)>の一人、ラミドスラも、


「……シュウヤ様ならできると分かっていた。だが……我らが、あの地上へ……マハハイムの泉を拝むことが、本当に許されたのか!?」


 と、再建の重要書類を握り潰したまま虚空を仰いで涙を流している。


「……かつてのヴァルマスク本家が成し得なかったこと。それをシュウヤ様は、神々と、あの狼族の女王と語り合い一氣に覆してしまわれた……」


 ラミドスラの呟きは、周囲に控えていた騎士たち、そして【血の守護騎士団】全員の心に深く刺さったように、声を発していく。

 

「この傷場の奪取だけでも、魔英雄を超えた、神懸かった事象だと言うに! 我らは、我らは……うぅぅ」

「あぁ、感謝だ!!」

「そうだな。そして、狼将たちや、神姫との仲も、本当だったということ!」

「樹海を救った話に、故郷をサイデイルとして発展させたキッシュ様の活躍も大きい!」


 吸血鬼(ヴァンパイア)たちは、キッシュを含めて、目の前の傷場を巡る、魔界とセラの戦いで活躍してきた、光魔ルシヴァルの眷族たちの名を次々にあげていく。


 そのたびに、黒猫(ロロ)が鳴いては、黒豹や黒虎、黒獅子に変化して、歓声を発していた。

 相棒も「ンンン、にゃごぉ~」と氣合いな声を発して、ドヤ顔を繰り返している。


 美しいナナイに抱きしめられて、ゴロゴロとした喉声を鳴らし始めていく。


 ラライセは笑いながらも、頷く。

 そして、頬を伝う大粒の涙を拭おうともせず、俺を凝視。


 二対の血翅を小刻みに震わせ続け、


「……シュウヤ様……我らのために、どれほどの困難を越えられたのでしょうか。貴方様は、まさに我ら吸血神の系譜にとっての救世主……」


 その感涙に咽ぶ彼らの姿を、エヴァが車椅子から紫の瞳を細めて見つめていた。


「……ん。皆、とても熱い心を感じる」

「うん、シュウヤの『誠』が皆の数千年の氷を溶かしたようにね」

「ん……凄く、綺麗な血の響き」


 エヴァとレベッカの声に、パシィノが鼻をすすりながら力強く頷く。


「おう! エヴァ様とレベッカ様の仰る通り! シュウヤ様、この恩義、私は一生……否、この魂が滅びるまで槍で返させてもらう!」


 歓喜に震える彼ら全員を見渡し、


「――勘違いするな。吸血神ルグナド様のためでも、お前たちのためでもない。たまたまだ。ファーミリアたちを受け入れた時から、こうなると予感はあっての……今がある。俺たちは光魔ルシヴァル、光を有している以上は、お前たちの天敵の存在なんだぞ。大やけどしかけない存在なんだ。それを理解しろ。そして、喜んでばかりもいられない。地上では、魔界の【魔界十二樹海・西キリアルゲン】など、魔界側の十二樹海に転移可能な『樹海道』を使える女王サーダインという存在もいる。滅しても、蘇ることが可能な存在のはず。更に、生態系の一つのような樹怪王の軍勢、旧神ゴ・ラードの蜻蛉モンスター軍団、オーク大帝国の無数の支族たち、その軍勢が押し寄せている。更に言えば、人族たちの王国もある。未開スキル探索教団から頼まれている仕事もある。俺たちは人族側の立場でもあるということを忘れるな。だから、人族を狩る相手と思っている吸血鬼(ヴァンパイア)たち、それもなるべく控えてもらうことになるだろう。そうした多種多様な価値観がせめぎ合うことを含めた大戦場だ。南マハハイム地方の十二樹海、その【樹海のハーヴェストの泉】、【キュルハ様とレブラ様の同盟の血碑】、〝血の陰月の大碑〟のがある場所への立ち入りを許可するということは、これからはそこを『守る』という義務も生じる。ただ泉を眺めて終わるような話じゃない」


 と、冷徹なトーンを混ぜて、あえて突き放すように告げる。


 光魔ルシヴァルという天敵との共存。

 そして地上にひしめく樹怪王、オーク大帝国や女王サーダイン、人族の王国といった複雑な勢力図。


 聖地への立ち入りは、そのまま「地上の戦場を共に守る」という過酷な義務の始まりだからな。


 彼らの瞳から涙が消え、代わりに峻烈な戦意が宿った。


 カトガが真っ赤な目で、見上げ、力強く胸を叩くと、


「……分かっております! その戦いこそ、我らが数千年前から待ち望んでいた誉れ! この傷場の死守は我らが!」


 ラミドスラが、


「はい、吸血神ルグナド様の言いつけ通り、ここの傷場の守りはお任せを!!」


 そして、ラライセの<筆頭従者>ナナイが、


「傷場から西への道には、私たちも付いて行きます」


 ラライセが、


「はい、古代都市エイジハルの地下の【エイジハル血院】までの地下道は、複雑に入り組んでおります」


 頷いて、


「偵察や警邏から、近くの地下道を占めているのはどこの勢力だろうか。占めているってのもオカシイか、利用している勢力はどこが多かった?」

「近場では、獄界ゴドローンの勢力が多いです。【闇神異形軍】は近くにはいない」

「なるほど、闇神リヴォグラフ側は惑星セラ側では劣勢かな」

「はい、大眷属ルキヴェロススは塵と化し、傷場を巡る戦いで魔界騎士メイアールなどを屠ったことは、確実に、影響しているはずです」


 ナナイの報告を聞きながら、心の中で闇神リヴォグラフの勢力図をなぞっていた。


 リヴォグラフ側が行っていたのは、オセベリア王国の中枢、王族への『背乗り』、すなわち精神と体のなりすまし、それ以上のなりかわりか。


 その構図は、俺の知るかつての故郷で、中枢の要職に紛れ込み、愛国という美名の下で国を切り売りしていた魂の寄生者たちの歪な侵食と酷似している。


 目に見える魔物の軍勢以上に、その潜伏こそがこの世界を壊す毒だった。


 更に言えば、古の賢者、サミュエル・ジョンソンの言葉にもあったな。


 『愛国心はならず者の最後の拠り所である』と。


 『忘己利他』の精神を解さず、利己的な野望の隠れ蓑として愛国を語る卑怯者。


 地下の淀んだ空氣が、それらの忌まわしい記憶の残滓と混ざり合い、俺の胸に冷たい、だが峻烈な怒りを灯した。だが、ここはあの不条理な場所じゃない。


 ……闇神リヴォグラフ側の野望は俺たちが完全に粉砕した。

 あの地下での激闘、〝闇神リヴォグラフの不浄なる幻欲心〟から俺たちに攻撃が出るような刹那に、光の女神イリディア様と姉の光の女神カーナディア様の幻影が出現したことを思い出す。


 闇神リヴォグラフの霧と赤い双眸を派手にぶちぬいて倒した。


 そして、光神ルロディスの眷族神、下級神の光の女神イリディア様の祝福が、あのオセべリアの王都グロムハイム城の地下にある限り、これからは、闇神リヴォグラフ側も簡単には手を出せない。


「……近場では、今言ったように、獄界ゴドローンの勢力、魔神帝国の地底神側が多いってことか、警邏でも遭遇したのかな」

「はい、何度も撃退しました。そして、シュウヤ様たちならば切り開くことは容易かと」

「あぁ。潜伏して中から腐らせるリヴォグラフの連中より、真っ向から道を塞ぐ連中の方が、槍の使い勝手がいい。どちらにせよ、邪魔をするなら押し通るのみ」

「にゃおぉぉ~」


 黒猫(ロロ)が鳴きながら一瞬で、また黒豹と化した。

 なぜか、俺の足をトントンと右前足で叩いてから、


「ンンン」


 と喉声を鳴らしている黒猫(ロロ)が一瞬で、また黒豹と化し、トコトコと俺たちの前を歩いてく。


 そして、振り向いた。

 可愛いが、その赤と黒の視線は野獣みに溢れている。


「相棒も同意している。だよな?」


 と聞くと、黒豹(ロロ)は口を少し広げ、サイレント「……っ」ニャを行ってくれている。


「ふふ、ロロちゃん~可愛い!」

「うふふ~」

「ロロちゃん~」


 と、レベッカたちが黒豹(ロロ)に走りよる。

 黒豹(ロロ)は素早くレベッカの右手を避け、エトアの左手を避けては、なぜか走って、ヴィーネとエヴァの足下に頭部を寄せて触らせていた。


「あぁ! そういうことしちゃう?」

「ンンン」


 と、レベッカは、懐から「じゃじゃーん!」と相棒の好きなカソジックの乾燥した白身肉を取り出していた。

 黒豹(ロロ)は目が見開き、


「にゃご!」


 と氣合い声を発しながら、レベッカの足下に突進。

 彼女の足に頭部をすり寄せてはゴロゴロと音を鳴らしてく。

 

 その様子を見て微笑ましく見守った。

 すると、ラライセとナナイが左右を固めるように寄り添うと、ナナイが、


「シュウヤ様、獄界ゴドローンの連中は様々ですが、骸骨兵、死霊術、岩、鉱石を依代にした防衛にも長けています。ですが、潜伏による精神汚染を好む闇神の連中と違い、奴らは、力と数で、押し潰すという、かなり単細胞な連中が多いです」


 ナナイの言葉に頷いた。

 地底神セレデルも骸骨兵の突進なども多かった。


 政治の中枢を蝕む寄生虫のような連中を相手にするより、岩の体を持った化け物を粉砕するほうが、精神的にもよっぽど健全だ。


 魔法学院ロンベルジュ魔法上級顧問のサケルナートは人族側の裏切り者であり、闇神リヴォグラフの大眷属ルキヴェロススでもあった。それでいて時魔神パルパディにも通じ、バフラ・マフディの計画も尽く潰していた要人中の要人だった……。


「……あぁ。なりすましや背乗り……。俺のいた故郷でも、そうやって中枢を腐らせ、外の敵に国を売る売国奴どもがいたが……リヴォグラフのやり口は、言葉が見つからないほどにクズ。だからこそ、潰し甲斐はあったが、あのやり口は、第三王子クリムといい、かなり後味は悪い。その点、ゴドローンの連中は分かりやすくて助かる」


 と語ると、皆一瞬不思議そうに俺たちを見る。

 眷族たちは、〝知記憶の王樹の器〟で俺と記憶を共有しているからある程度知っているが、ラライセたちは、吸血神ルグナド様の直の眷族たちだからな。俺の<血魔力>入りは飲むことはできない。


 ラライセは、


「売国……祖国の誇りや血脈を内側から売る、というのですか。……吸血神の系譜にある者として、それは死よりも耐え難い侮辱です」


 ラライセが、背中の二対の血翅を不快そうに震わせる。  幾星霜もの間、ただひたすらに守護を続けてきた彼女たちにとって、内からの裏切りは最も忌むべき行為なのだろう。


 さて、切り替えるか。


「それで、ナナイ、西への道中だが、当時とは、勝手違うこともあるとは思うが、この短い間にも造り上げた『地下の勢力図』についての見解を、皆と共有しようか。リヴォグラフの残党が、消えた後の地下道の空白地を、獄界ゴドローンの勢力などが、どう利用しようとしているのかをな。まぁ、地下勢力には、ドワーフ、ダークエルフ、ノームを含めるから、大変だとは思うが」


 ノームのアムと、ドワーフのラングール帝国に、行商傭兵軍団コンゴード・マシナリーズたちとは、ゴルディクス大砂漠の地下で共闘したばかりだ。


 ラライセは、


「……はい、たしかに……ここから先の回廊は新しくできた洞窟も多々あります。しかし、分泌吸の匂手(フェロモンズタッチ)もありますので、ヒミィレイスがいる場所には、辿り着くことはできる。と……確信しています」


 と力強く語る。

 彼女は、嘗ての戦いを思い出しているようで、唇が震えて両手に何回か拳を作っていた。


 その言葉と態度を見て、心にきた。


「……了解した」

「地底神トロドや地底神セレデルの勢力圏となったら、また戦いの連鎖となるはず」

「あぁ、そうだろうな」

「闇神側も動いている可能性もあります」


 パシィノが後ろから笑い声を上げた。


「【闇神異形軍】などが相手なら、ちょうどいい。相手になってやる。ただの砂利山になるぜ! 俺たち【血の守護騎士団】、数千年の憂さ晴らしをさせてもらう!」


 エヴァが車椅子を滑らせ、俺の隣に並ぶ。


「……ん、わたしたちも、シュウヤたちと共に、あなたたちを助ける」


 レベッカも杖を握り直し、頷き、


「うん、ヒミィレイスさんも救いたい」

「そうだな」


 と同意した。吸血神ルグナド様の言葉に氣になるが、まぁ、助けられる可能性があるなら挑戦しよう。同時に闇神リヴォグラフ側の魔の手を惑星セラから排除できる。


続きは明日、HJノベルス様から書籍「槍使いと、黒猫。1巻-20巻」発売中。

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