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槍使いと、黒猫。  作者: 健康


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二千八十二話 透き通る美貌と、笑顔の皆に地下道

 

 またも視界が白銀に包まれる。

 と、一瞬で、現実の景色へと溶けるように消えた。

 意識の焦点が、蒼い……「閣下!」とヘルメのドアップ顔。


「おう、ただいま」

「はい、お帰りなさいませ!」


 ヘルメを抱きしめて離す。

 キッシュも心配そうに、


「上の空に見えたが、まさか、神々と接触を?」


 と聞いてきた。薄緑と琥珀が混ざり合う不安げな色が宿っている。

 安心させるように、自然と頷き、


「あぁ……直にはないが、あながち間違いではないか。少し、昔のキュルハ様たちの姿を見ていたんだ」

「「「おぉ」」」


 皆は歓声を発した。

 キッシュは瞳が揺れる。

 吸い込まれるような薄緑、琥珀色の輝きは変わらない。

 そのキッシュは、「なるほど……」と呟き、視線を強めて、【キュルハ様とレブラ様の同盟の血碑】を掌で叩くように触れ、


「この血碑に当てられたか……」


 その言い方に苦笑しつつ、


「……当てられた、か。まぁ、神々だからな」


 と両手を拡げながら語る。キッシュは振り向き、俺の手振りを見てから、


「……ふむ、大切な同盟相手の神々、恩寵があるのも分かっている。しかし、魔界側の神々だからな……差別ではないし、光魔ルシヴァルの<筆頭従者長(選ばれし眷属)>の一人として受け入れてはいるが……」

「あぁ」


 セラで過ごしている眷族たちも、同じ気持ちだろう。

 俺の記憶を〝知記憶の王樹の器〟で得ているとはいっても、魔界セブドラの神々とは、そういう感覚でいい。


 そのキッシュは皆を見てから空を見て、


「そして、その【キュルハ様とレブラ様の同盟の血碑】に神々の反応だが、眷族にしては異常な能力だった旧神ゴ・ラードの蜻蛉の化物を屠り、樹怪王の者たちを撃退したことも、関係があるのではないか?」


 と、語る。皆が頷いた。


「それはあるかもだ。ま、俺たちが魔界と神界に関係した光魔ルシヴァルってのもあるだろう」

「ふむ……仲裁者、光と闇の精神性を持つ私たちだから、か」

「中庸って言葉ね」

「朱子学や四書五経とも聞いていますよ」


 レベッカとヴィーネの言葉に、至誠の想いで頷く。

 『誠は天の道なり、これを誠にするは人の道なり』は有名だ。

 ヴィーネは、


「はい、光と闇。ご主人様の<光闇の奔流>に<光闇の至帝>を持ちますから」


 皆が頷いた。


「ヴィーネ、それはそれだ。己の我を押し通すことにも通じてしまうからな。在るが侭だ」


 皆は俺を見て、何を言っているのか理解をしようとしているが、ま、いい。深追いしても理屈っぽくなるだけだ。

 ヴィーネは、「はい、自然体ですね」と呟くと、少し驚いた。

 

 すると、細められたキッシュの瞳が、俺の顔を射抜くように凝視する。


「……ふっ、シュウヤの言葉は一見、難しいが……」


 と言いながら、腕に触れる。

 そのキッシュの指先から、清涼な冷気を含んだ魔力が微かに伝わってきた。

 キッシュは、


「ま、臨機応変という意味でもあるだろう。で、本当に、大丈夫なんだな?」


 その言葉の中に込められた、確かな信頼。

 無茶を承知の上で無事であることを確認し、次の一歩を共に見据える。それがキッシュという女性だ。


 透明感に溢れる微笑みを浮かべ、俺を凝視。

 

 指先から伝わる彼女の魔力さえ、透き通るような冷涼さを帯びていた。

 薄氷のように清らかで淀みのない美貌は、何度見ても飽きないし、魅了される。

 そのキッシュたちに、劇団四季の歴代シンバを演じるように、腕を上げながら、変な顔で、


「――あぁ、なんくるないさ~、心配ないさ~」


 と、皆に通じるか不明なギャグを行う。


「にゃおぉ~」


 相棒が釣られて、頭部をあげて鳴いていた。

 皆がくすくすと笑う。良かった通じた、ヴィーネたちには何度か見せているからな。


 キッシュも笑顔を見せて、


「……なら、いい」


 と短く応じ、血碑の前で跪くファーミリアへと視線を移し、皆を見ていく。

 周囲にはエヴァたちの他に、キッカ、アドリアンヌたちもいる。

 

 砂城タータイムからルシェルたちも降りてきていた。


 そして、風が吹くと、ファーミリアのプラチナブロンドの髪が靡く。

 <血魔力>の深紅との、黄金のグラデーションが帯びた髪の間から防護服を覗かせる。

 朱色と金色と漆黒が基調だったと思うが、ファーミリアの装束は戦用も平時用もどれも素敵だ。


 そのファーミリアと皆に、


「皆、今、話をしたようも、この【キュルハ様とレブラ様の同盟の血碑】に触れたら、知記憶の王樹キュルハ様、宵闇の女王レブラ、吸血神ルグナド様を中心とした、荒神大戦の頃の記憶を見た」

「ん、この血碑が作られた瞬間?」

「そうだ」


 その一言で周囲の空氣が重く沈んだ。

 皆、歴史の重みを噛みしめるように神妙な顔付きとなる。


 レベッカは、俺をジッと見て、


「改めて、凄い事象よね」

「うむ。ドワーフの博士とミエも、さぞかし驚くだろう」


 皆の言葉に頷く。


「覇槍神魔ノ奇想など複数の称号を持つシュウヤだからこそ?」

「はい、神々から信頼が厚いシュウヤ様だからこそ」

「大昔に作られた、このキュルハ様とレブラ様の同盟の血碑。血の陰月の大碑もですが、いまだに残っているだけはありますね」


 キサラの言葉に皆が、納得するように「「たしかに」」と言いながらざわついていく。

 味方の数が多いからな。砂城タータイムからルシェルも降りてきていた。

 キッカ、アドリアンヌたちが、こちらの様子を伺いながら待機しているのが見える。

 味方の数は多いが、皆一様に神妙な面持ちだ。


「うん、神々が残しただけはある。後、古代狼族たちが破壊しなかったのは、魔界側の戦勝を意味する碑だけではないのかもね」


 レベッカの言葉に頷いた。

 キサラは、


「それはそうですね」

「破壊したら、たたりとかありそうだし、現にシュウヤが反応したように、この近くでは、何か現象が起きていたのかも?」

「それはあるかもな」


 ふと、『将門塚』を思い出す。

 平安時代中期の平将門の首を供養するために建てられた石碑


「シュウヤ様が見た荒神大戦には、神狼ハーレイア様、双月神ウラニリ様、双月神ウリオウ様の姿もあったのですよね」

「あった……ウラニリ様の吸血鬼(ヴァンパイア)たちが残した壁画と近い様子、空の上、宇宙の月が破壊される様子も見えた。神々の争いは、凄まじく、混乱の極み。だが、それよりも、今いる世界のほうが恐怖だった。次元と次元の重なりで土、地面、大陸があったりなかったりしていた。過去の映像と分かっていたが、今、目の前にいる皆と同じように、一つの現実だったからな……」


 皆、俺の言葉に沈黙した。

 キサラは、


「……無数の神々の争い」


 その唇から漏れた呟きは、地下の静寂に吸い込まれていった。


 頷いて、「……神狼ハーレイア様は相棒ではないが、もふもふちゃんだから。激突していて、はがゆかった。しかもだ。吸血神ルグナド様とも仲が良いから、なんともなんとも言えん感覚で、正直、争いを止めてほしかったが、まぁ仕方ない」


 頭部を上げて話を聞いていたファーミリアは、


「……はい、その氣持ちは痛いほど理解できます」

「「うん」」

「「「はい」」」


 メルが、


「では、総長、血碑に刻まれた盟約の重み、本当の意味で理解できたのですね」

「本当の意味か。戦勝の意味もあるとは思うが、ここを守るため、あの時の次元の重なりを止めようとしていた流れにも思えたな。神々にも焦りがあるように思えた」

「焦り……」


 あの光景は直に見ないと分からんだろうな。

 【幻瞑暗黒回廊】を放浪したらあんな世界に行き着きそうだが……。


 「……それを体感できているシュウヤ様は、まさに我らの救世主……」


 ファーミリアの背後に控えるホフマンの言葉だ。

 横にいるアルナード、ルンスを含めた三名は、俺に向け頭を下げ続けていた。


 かつてないほど濃密な忠誠の気が立ち上っているようだ。


「……では、一度、地下の拠点へ戻るか」


 キッシュが凛とした表情で頷く。

 メルが、


「はい、ラライセたちですね」

「傷場の確保は順調だと思います」

「おう、戻ろうか」

「シュウヤ、私も行くぞ。【キュルハ様とレブラ様の同盟の血碑】の場所といい、樹海の土地勘はかなり得ているが、完璧ではないから。それに、デルハウトとシュヘリアにビアとバーレンティンのソレグレン派たちに、サイデイルをしばらく任せるとちゃんと言ってきたからな!」

「了解した。あぁ、地下の傷場までの、地下道も結構あるからな。美しいエールワイス、サイデイルの指揮官様としての判断は、当然」


 と笑顔を交えて言うと、キッシュは、微笑む。


「……ふっ、その通りだ」

「では行こうか」

「にゃおおぉ~」

「「「はい!」」」


 神話の残響を背に樹海を進む。

 ラライセたちが死守する地下拠点傷場へと足を向けた。


 樹海の深部、巨大なシダの群生を掻き分け、かつて協力して奪還した地下への入り口へと向かう。

 地下道にて、またもや、樹怪王の鹿頭の軍勢と衝突――。

 更に、オーク大帝国のオークたちも横やりを入れるように、大量の槍兵が突っ込んできたが――。


「にゃごぁぁ」


 相棒が放つ紅蓮の爆炎。その余熱を突き破るように魔槍杖バルドークを繰り出す。

 樹怪王の鹿頭を、オークの重装兵を、一氣呵成に蹴散らして地下の闇を駆け抜けた。

 火生みの匂いと血の氣が混ざり合う中、地下道を突き進む――。


 と、ようやく馴染みのある境界の気配が肌を刺す、傷場付近まで到達したはずだ。

 直ぐに、足下の環境が変化。

 整えられた地下道と岩壁には、かつての都市の名残が随所にある。

 

 セラ側の地下都市、壊滅したヴァルマスク大街の無残な遺構が横たわっていた。


「ここもヴァルマスク大街と呼ばれていたのよね」


 レベッカの言葉にファーミリアが、「はい……」と語る。

 かつての栄華を物語る石造りの残骸が、地下の冷気にさらされて沈黙を守っていた。


 その静寂を破るように、重厚な金属音が響く。

 魔界側へと繋がる境界――。


 そこを守るのは、吸血神ルグナドの<筆頭従者長(選ばれし眷属)>、ラライセ率いる【血の守護騎士団】だ。

 薄暗い通路の先、真紅の外套を翻し、一際鋭い殺氣と気高さを放つ女性騎士が姿を現した。



続きは明日、HJノベルス様から書籍「槍使いと、黒猫。1巻-20巻」発売中。

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