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槍使いと、黒猫。  作者: 健康


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2082/2144

二千八十一話 白銀の残響、激動するハーヴェスト神話

 途端に――視界が白銀の粒子に包まれ、脳内に見知らぬ情景が流れ込んでくる。

 暖かく、どこか懐かしさを覚える魔力を感じたが、ここは――。

 意識が現実の樹海から完全に切り離されたか。


 視界に広がるのは今の樹海よりも巨大なシダ植物が多く群生している。

 原初の十二樹海だろうか。惑星セラには思えないほど巨大な樹が多い。

 そして、極めつけはその空か……虹色、青色、漆黒、太陽、土星、木星のような信じられないが、巨大惑星……この距離だと引き込まれて衝突の軌道のような、あ、何もない空間に……移り変わりが激しい。と、神界の戦士たちが飛び交う。

 魔界の魔族たち、他にも人族、ドワーフ、エルフ、様々な他種族の戦士たちが、魑魅魍魎と戦う。あ、また場面が変化。

 今度は、惑星同士が衝突、と、いきなり明滅? 

 太陽が膨れて爆発――消えては現れると、他の世界の街並みがいきなり出現しては、蒼白い空と融合したような蜃気楼世界が幾重にも連鎖した。


 魔塔が織り成す空中都市が出現しては、それらが折り紙的に重なり、トポロジーのドーナッツ状からコーヒーカップへと連続的に形状を変えて消えていく。溶けて変わるのではなく、穴のハンドルの数を維持したまま引き延ばされ、歪められ、別の意味を持つ形へと強制的に書き換えられていく。


 俺が立つ足下から周囲の世界も折り畳まれては消え、爆発と共に元通りの樹の世界に変化するが、樹が融けるように消えて一面が氷の世界に、しかし、桜のような樹が無数に生えている世界に変化していった。そこには無数の仙人たち、()()(テン)と似た仙女たちの姿と、獣人たち、竜人たちが暮らしている平和な世界もある。と、また移り代わる――。


 別の世界の空や、見たこともない色の月が混濁している。

 と、また周囲の世界が変化。

 足下に泥濘が増えて、世界が固定化される。


 ――凄まじい死の残響が横たわっている世界に変化。

 それは、神狼ハーレイアに連なる古代狼族たちの巨大な残骸。

 人型を大きく外れた、異質な身体構造を持つ死骸も転がっている。

 ペルネーテの上空を監視していたアーバーグードローブ・ブーのような多数の感覚器官を浮かべた神界戦士ブー一族の成れの果てか。


 これほどの精鋭たちが、こうも無惨に……。

 ここは、魔界側の同盟が神界の三神――神狼ハーレイア、双月神ウラニリ、双月神ウリオウを打ち破った直後の、ハーヴェスト神話の現場そのものか。


 まず視界を占めたのは、知記憶の王樹キュルハ様。

 

 薄青色と金色が混じり合う長髪を、樹の冠と共に後方へと流し、額の星極時空魔石から激しい魔光を放っている。その表情は、今にも泣き出しそうなほど悲痛に歪んでいた。


 だが、彼の掌が大地に触れた瞬間、地脈は狂おしい牙となって隆起する。

 逃げ惑う古代狼族の巨体を逃れようのない無数の根が瞬時に絡め取り、大地へと強引に引きずり込んでいった。慈悲深い貌とは裏腹に侵略者の生命力を一滴残らず吸い尽くす。


 冷徹に樹海の糧へと変えていく――。


 その上空、宵闇の女王レブラがアラビアン風の長椅子に身を預けたまま指先を優雅に揺らした。

 双月神ウリオウが放つ浄化の閃光を、彼女が編み上げた闇の網が容易く絡め取る。


 額と瞳に刻まれた六芒星が怪しく光るたびに――。

 神界の光は色を失い、彼女の指先へと吸い込まれる『収集品コレクション』へと堕していった。


 シキと少し似ている。


 戦場の中央、紅蓮の外套を翻す吸血神ルグナドが、魔神槍・血河を振り抜く。


 迎え撃つ神狼ハーレイアの喉元を、鋭い八重歯が容赦なく喰い破るが、神狼ハーレイア様は構わず咆哮を発し、吸血神ルグナド様は吹き飛ぶ。そこに双月神ウリオウ様と双月神ウラニリ様の魔力波動が吸血神ルグナド様に絡み付くが、宵闇の女王レブラ様が放った六芒星が幾重にも絡み合った波動により、双月神の魔力波動を相殺すると、紅蓮の外套を翻す吸血神ルグナド様が、魔神槍・血河を掲げる。


「ぬかったな、双月の神に、狼よ――」


 ルグナド様の指先から薄赤き紋様を刻んだ矢、剣、斧、槍の群れが、血の奔流となって生み出され、直進、転移を繰り返しながら、神々とその眷族たちに向かう。

 

 その無慈悲な武具の雨は、逃げ惑う神界の戦士たちを貫き、神狼ハーレイアの喉元を喰い破る。


「ハッ、我が弟と妹の痛みとしれ、次は、この機会を活かし、あの月ごとお前を破壊してやろう」


 ルグナド様の宣言と共に、プラチナブロンドの髪が背の上に美しく舞う。

 その髪から伸びた<血魔力>を含んだ髪の一つ一つが、黄金の槍となって、後方に飛翔。

 後方にいた、神界系の戦士たちが串刺しになった。


 そして、虚空に巨大な血濡れの十字架が出現し、双月神ウラニリ様の細い肢体を無惨に磔にしていく。


 同時に空の一部が宇宙的な光景へと変貌を遂げる。

 上空に浮かぶ大月にも、ルグナド様が放った無数の血の武具が突き刺さり――轟音と共に、大月は粉々に砕け散った。

 

 途端に、ウラニリ様の表情は苦渋に歪み、刺さった武具から溢れ出した神血はルグナド様の魔力へと変換されていった。ルグナド様は、鴉の羽音と共に死の旋風を撒き散らしていく。

 同時に新たな魔槍がルグナド様の周囲に旋回しながら生まれていく。


 閃光を受けるたび、ルグナド様の半身が焼け爛れ融けていく。

 痛々しい見た目のルグナド様の表情はあまり変化せず。融けた体と無事な体から大量の<血魔力>を発し、一瞬で、体と装甲を再生させる。

 その魔槍を掴むと月の影のようなモノが、その魔槍から幾重にも分岐するように誕生し、飛翔、遠くにいた魑魅魍魎たちの姿をした神々か不明のモノたちを、串刺しにしていく。


 双月神ウラニリ様の取り込んだ魔槍か。


 神狼ハーレイア様は復活し、突撃していくが、吸血神ルグナド様の、衝撃波を喰らうと、後方に後転しながら吹き飛んでいた。

 神狼ハーレイア様は魔界の眷族に四肢の爪を突き刺し、動きを止めて咆哮を発し、周囲の魔界の眷族たちを吹き飛ばし、吸血神ルグナド様を狙うが、吸血神ルグナド様は、宙空で躍るように移動を繰り返し、衝撃波を往なす。


 と、圧倒的な始祖の覇氣のような<血魔力>を放射。

 周囲の次元を歪めると、手元に宇宙的か空間を作ると、「ふっ、我を次元の狭間に送るつもりか、むだよ――」と、手元の宇宙的な何かを<投擲>。


 神狼ハーレイア様は「『そのようなモノは我に通じぬわ――』」と咆哮を発し、宇宙的なモノを消し飛ばす。二人の間の惑星セラの地面と地下世界が融け、魔界と神界と他の次元の世界に移り代わる。

 

「ハッ、お前が幾ら奮闘しようと、神狼ハーヴェストは闇神を追って魔界だぞ?」

「『ルグナドめが、分かっている! ハーヴェストは必ず、我のとこに戻る――』」


 強烈な神意力の咆哮と言葉を浴びた吸血神ルグナド様は体が溶けて破裂。

 だが、無数の鏡のような物が、崩壊し、再生していく世界の中に現れ、その鏡の中を、他の次元界を幾つも渡り歩くように、出現しては、神狼ハーレイア様の背後に出現しては、血の魔槍を振るう。

 その魔槍を前足の爪で防いだ神狼ハーレイア様は後転し、後退した。

 

 後退した先には、悪神デサロビアが発した闇の波動が展開されていたが、神狼ハーレイア様の四肢の爪がそれを斬り裂いていく。


 一方、吸血神ルグナド様には、戦神ヴァイスが繰り出していた、光の槍が突き刺さって地面に縫われていた。「ぐぇぇ、ヴァイスめが、我の体に……戦神槍キールトールか……フンッ」と自らの体を前進させ、裂けた体を瞬時に再生させると、戦神たちが多い場所に突貫していく。


 そして、空の向こう側、宇宙的世界の鬩ぎ合いは激しい。

 流星の煌めきの如く、あちこちで閃光、爆発が続いては、空間が折り曲げられて上と下の世界が交換されていく。悪夢の女神ヴァーミナ様の影響もありえると思うが、これは、その当時起きた現象だろうな。

 すると、実際に神々と眷族たちの戦いの様子が見えてきた。

 戦神たちと推測できる方々の中に、美しい戦装束を身に纏って戦う女神がいる。

 あぁ、その美しい女神は巨大な白い神獣、神狼ハーレイア様に襲われて、喰われて死んでいた。


 戦神たちではなく魔界の神々だったのか。マジで見た目では判断できんな。


 あれ、古代の神々だから、土着神側、荒神たちの可能性もあるのか。

 ホウオウ側、あ、鳳凰ラーガマウダーらしき姿を発見。呪神らしき恐怖を体現しているような神もいた。今もなお激化するホウオウとアズラの神々の咆哮が響く――。

 そんな中、強そうな神々がいた。甲冑を着た騎士は、敵対している神々を薙ぎ払う。


 連続的な変化を拒絶する、圧倒的な『断絶』。

 その騎士の武威に劣らぬ破壊を撒き散らす影が、別の宙域を横切る。

 四枚の羽を持つ茶褐色の巨竜、あれは、高・古代竜ロンバルアだろうか。


 その頭上には、白いファー付きの赤紫マントを翻す、白目の男が毅然と立っている。

 あれは見覚えがある……。


 すると、下の虚ろ世界で、魔界と神界の神々と、その眷族、または呪神の眷族を相手に、六つの炎の拳を繰り出し、戦い抜いて勝利を何度も収めていた六眼六腕の赤髪の人型が見上げ、


「……あの方は、荒神カーズドロウ様――」


 と叫んだ。やはり、あのドラゴンに乗るのは荒神カーズドロウ・ドクトリン。


 俺が見た時よりも若々しく、その神威はより鋭利に研ぎ澄まされているように見える。

 そのカーズドロウ様が掲げた鉤爪状の長杖から、魔力の杭が凄まじい速度で大量に撃ち出された。

 直撃した神界の戦士たちの肉体が、抗う術なく次々と爆発し、霧散していく。

 更に、ロンバルアが鼻先から眉間へと続く骨頭を揺らし、その口内に緑の怪光を凝縮させた。


「ゴォォォォ――!!」


 咆哮と共に放たれた緑のブレスが、混濁する空を一氣に焼き払う。

 ロンバルアの巨体とその背に立つ荒神の武威は、アズラ側の神々を蹂躙しながら混沌の戦場を高速で駆け抜けていった。大氣を震わせ、法則を粉砕する彼らの戦いぶりもまた、この神話時代における破壊の権化そのものだった。

 

 そうした戦いの永遠に続くかと思われたが――。


 勝利した三柱の巨大な神意が、黒曜石の碑を囲んで立つ場面に切り替わる。


 一柱は、知記憶の王樹キュルハ様。

 薄青色と金色が混じる髪をなびかせた、緑の肌を持つ。

 額には星極時空魔石が嵌まり、泣きそうな表情で、足元の死骸の山を見つめて静かに語り出した。


「……神狼ハーレイア、双月神ウラニリ。貴方たちの血も、この緑を育む露となる。ホウオウとアズラの狂乱が世界を砕こうとも、我が根はこの地の記憶を離しはしません。南マハハイム地方の十二樹海……我らの理を、ここに……未来にかけて、次元が安定することを祈り、楔を打ちましょう」


 その隣、宙に浮かぶアラビアン風の長椅子に身を預け、不敵に微笑むのは宵闇の女王レブラ様。

 額に六芒星、瞳の奥にも蜘蛛の複眼のような六芒星を宿した彼女は、退屈そうに指先で闇の糸を紡ぎながら言葉を重ねる。


「ウリオウの光も、セウロス側の神界戦士たちも、私の闇の前では等しく価値を失ったわ。最強騎士カーズドラの戦火がここを焼き尽くす前に……うふふ、私たちの同盟で、惑星セラの地上とやらの『収集』をしてしまいましょう。他の魔神たちが手を出し尽くす前にね……うふふ」


 そして、二柱の間で紅蓮の外套を翻すのは、吸血鬼の始祖――吸血神ルグナド様だ。

 口元から鋭い八重歯を覗かせ、影を鴉や蝙蝠へと変えながら、


「――理が乱れ、傷が広がる。ならば、我らがこの地に『楔』を打たん。神界の神狼ハーレイア、双月神ウラニリ、双月神ウリオウを打ち破った今、この地は我ら魔界の同盟が管理する。我らの血、ここに一つに重ならん!」


 戦勝の確信を込めて宣言した。

 途端に、項の<吸血神・愛咬・血楔>が熱く脈動した。

 吸血神ルグナド様が持つ魔神槍・血河と、全身を包む夜魔の神血鎧に宿るルグナド様が煌めく。

 

 同時に、俺の<血魔力>が活性化したような感じがした。


 そして、三柱は同時に自らの指先を裂いた。

 キュルハ様の黄金、レブラ様の漆黒、ルグナド様の深紅。

 三つの異なる神血が螺旋を描き、無垢な石碑へと吸い込まれていく。


 三柱の血が碑の表面で混ざり合い、複雑な紋章を刻み込んでいく。

 それは、神々が血肉を喰らい合うアブラナム大戦の狂乱から、十二樹海の理を切り離し、護り抜くための、最も強固な『血の同盟』が成った瞬間だった。


 過去の神々が交わした約束の残響が、俺の中に眠る<十二樹の加護・残滓>を呼び覚まし、目の前の碑を、かつてないほど鮮烈な輝きで満たしていった。

続きは明日、HJノベルス様から書籍「槍使いと、黒猫。1巻~20巻」発売中。

コミック版1巻~3巻発売中。

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