二千八十話 不浄なる侵食と八支刀の光芒
足下の泥濘には血碑から溢れ出した紫の光が反射し、逆流するマナの奔流が周囲の巨根を激しく震わせていく。
<夜行ノ槍業・召喚・八咫角>を右へ弾き飛ばした空間の歪みの正体を暴くべく、大魔獣を<闇透纏視>と<隻眼修羅>で凝視し続けた。
カレウドスコープも使うか――。
人差し指の腹で、右目のカレウドスコープの十字の形をしている金属の素子を触れ、魔力を送ると、十字の素子が卍型へと変形。
網膜に世界の理を解き明かすシステム光が走る。
様々な輪郭の線が強調され視力も上昇、遺産高神経が加速させる情報処理に脳が熱を帯び、彩りも増加――網膜ごと眼球が進化した感覚を覚えつつ、大魔獣を縁取り、▽を意識して深部スキャンを開始した。
――――――――――――――――
???高次元??融合体♯♯
脳波:測定不
身体:異常(空間固定中)
性別:??
総筋力値:測定不
エレニウム総合値:2220900ge測定不
武器:不明
――――――――――――――――
――ステータスも出たがすぐに消す。
スキャンデータが脳内と視界の上に表示される。
魔線そのものが物理的な壁なのではない。
翅の付け根、神経系と魔脈が不自然に癒着した三箇所の結節点こそが、空間の座標をミリ単位でズラし続けるパルスの起点か。
ここを潰さない限り、俺たちの攻撃はすべて無意味な彼方へと逸らされるようだな。
「シュレ! 翅の根元、血管のように魔線が集まっている三つの結節点だ! そこを桃色の粒子で侵食し、空間の定義を狂わせろ!」
シュレゴス・ロードが顎髭の蛸足を獰猛に蠢かせ、
「――主、心得ました! 不浄なる旧神の理、我が旧神の権能で腐食させて差し上げましょう!」
シュレが宙を歩むような優雅な所作で両腕を広げると、吸盤から放たれた濃密な桃色の粒子が、泥を跳ね上げる大魔獣の翅の付け根へと吸い寄せられるように纏わり付く。
空間が焼けるような不快な音が響く。
桃色に染まった魔線がその輪郭を崩し始めた。
翅の付け根、神経系と魔脈が不自然に癒着した三箇所の結節点に、桃色の魔力粒子が大量に付着して、点滅していく。
と後転し魔線と粘液のような遠距離用攻撃を避けていたカルードが、
「分かりやすい――」
と発言し、流剣フライソーと幻鷺から次々に<バーヴァイの魔刃>を飛ばしていく。
<バーヴァイの魔刃>は、結節点と衝突、火花と共に、その結節点が切断された。
すると、下から魔力反応。
【キュルハ様とレブラ様の同盟の血碑】からか。
地の底から響くような重低音が響くと、そこから魔力が飛来。
避けずに体に受けると、心臓の鼓動が早まって魔力を得た。
<十二樹の加護・残滓>も反応し、血管が浮き上がるほどの熱い奔流が全身を駆け巡る。
碑から魔力が、巨大な翅を持つ半透明の大魔獣から出している魔線と衝突。
衝突した大氣から緑と紫の光の波紋が噴き出し、火花を散らす。
「ゼクス――」
ミスティの<血魔力>を纏う魔導人形のゼクスが、巨大な翅を持つ半透明の大魔獣に突進していく。
旧神ゴ・ラードの眷族の巨大な翅を持つ半透明の大魔獣は、依然と、無数の魔線を皆に繰り出し続けていくが、その魔線を、ゼクスはわざと体に絡め取っていく。
そして、泥濘を蹴り、ヴィーネが銀色の雷光を纏って跳躍する。
「この森を汚す羽虫は……私が射抜きます! ――<速連射>!!」
ヴィーネは<月光の導き>を発動させながら、巨木の枝をバネにするように反転。
翡翠の蛇弓から放たれた光線の矢が、シュレが抉じ開けた空間の隙間を突き抜けた。白銀の雷光が結節点を焼き穿つと、光線の矢から薄緑色の蛇の幻影が発生し、それが爆発し消えていく。
「ん、そこ。逃がさない」
エヴァが浮遊し、唸りを上げる五つのサージロン鋼球を加速させる。
紫の閃光となった鋼球が、結節点の傷口へと一点集中で叩きつけられ、重厚な破砕音が響いた。
氷縛柩と<血鎖の饗宴>を発動させ、桃色の粒子を掻い潜ってくる魔線の攻撃に衝突させて往なしていく。
「シュウヤ様、私を――」
「おう、来い――」
「はい」
風の女精霊ナイアは両腕から風の刃を生み出し、自らに飛来してくる魔線を斬り刻んでいたが、俺に抱きつくように飛来、「ングゥゥィィ」と、肩の竜頭装甲も呼応、ナイアは体の大部分を風の魔力に替え、風の魔力の鎧服を作ってくれた。
ナイアとの契約している指輪が煌めく。
「これがナイアの能力だな」
『はい、<風の想刃衝装>です!』
そこにヘルメの美しい双眸の片方が弾け飛ぶのが見えた。
血が流れたように隻眼となったヘルメは、「ゼメタスたち離れて――」と指示を飛ばすと、俺を見て、微笑む。
ユイたちは即座に巨大な翅を持つ半透明の大魔獣から離れた。
ヘルメの片方の潰れた目だった水が、濃密に魔力を放ちつつ指先に集積、その指先から放たれた水の糸が空間を織り上げるように複雑な紋様を描き始める。
その中心に双月神の紋章が生まれた。
ヘルメが両腕を天に掲げた瞬間――。
「……<ウラニリの流星雨>――!」
無数の青白い流星の<ウラニリの流星雨>が、巨大な翅を持つ半透明の大魔獣に降りかかって、次々と貫いて爆発が連続的に発生していく。
だが、旧神ゴ・ラードの眷族の、巨大な翅を持つ半透明の大魔獣は体をくねらせ、ヘルメの背へと、半透明な翅の一部を伸ばしていく。
即座に<雷飛>――。
一瞬で、下からヘルメを飛び越え、上の半透明な翅に近付く――。
宙空でヘルメを攻撃しようとした半透明な翅目掛け――。
<血刃翔刹穿>を繰り出した。
半透明な翅を魔槍杖バルドークの紅矛、紅斧刃が貫く――。
更に、穂先から飛び出た無数の血刃が巨大な翅を持つ半透明の大魔獣の半透明な翅を貫いていく。
左後方にて、闇雷精霊グィヴァが、
「御使い様とヘルメ、わたしも――」
と<暗雷大剣グィヴァ>を発動させる。
巨大な雷状の大剣がグィヴァの両腕の先に生成され、それが直進。
巨大な翅を持つ半透明の大魔獣の胴体に突き刺さり、突き抜けた。再生するが、大魔獣こと、旧神ゴ・ラードの眷族はフラつく――
だが、周囲に無数の炎の魔剣を生み出し、魔剣乱舞のような強烈な反撃を繰り出してきた。
古の水霊ミラシャンも虹色の軌跡を残しながら<水晶銀閃短剣>を放ち、旧神ゴ・ラードの眷族の体の一部を突き抜けていく。
魔剣を弾いてくれていく。
短剣の一部は半透明な翅と大魔獣の血肉と骨を破壊、旧神ゴ・ラードの眷族の体内で光の結晶となって砕け散り、その破片が無数の光の蝶となっていく。
ミラシャンは、「次は<水晶群蝶刃>です――」
涼やかな声が響くと、光の蝶は、まだ健在な旧神ゴ・ラードの眷族の体に直進。
標的を見定めた狩人のように、その体へと群がった。
蝶が体内に潜り込むたび、内部から魔力の循環がズタズタに引き裂かれていく。
古代の水霊術と水晶魔術が織りなす、結晶の輝きに満ちた美しくも残酷な死の舞踏。
その連鎖攻撃が、旧神ゴ・ラードの眷族の巨大な翅を持つ半透明の大魔獣の体の再生を阻害していく。
俺の体に展開されているナイアの<風の想刃衝装>から自然と<バーヴァイの魔刃>のような風の魔力の刃が宙空に展開され、巨大な翅を持つ半透明の大魔獣から出てくる魔線を斬り刻んでいく。
「ミスティーそこの魔線は斬るのだな――」
「そう!」
ルリゼゼが、ゼクスを操作しつつルリゼゼが、ミスティが指示をし、金属の粒が触れて変色している魔線を斬っていく。ミスティは複数の螺旋した金属棒に、連なっている無数の金属繊維を幾つも宙空に展開させ、巨大な翅を持つ半透明の大魔獣から飛来した魔線を防いでいる。金属繊維に触れた魔線はシュレの桃色の粒子とは異なるが、同じように威力を減退させている? ミスティは<地電流>使っているようだ。
「断つ!!」
ユイが複雑に絡み合う巨根の間を影のように滑り抜け、宙を舞った。
神鬼・霊風の刀身が銀色の軌跡を描き、機能を失いつつあった翅を根元から鮮やかに切り裂く。更に、キサラが泥濘を蹴って肉薄し、ダモアヌンの魔槍で投げ槍のモーションに入る。
「往きなさい――<補陀落>!!」
渾身の力で投擲されたダモアヌンの魔槍。
突き進んだダモアヌンの魔槍に当たる魔線はもうない。
そのまま巨大な翅を持つ半透明の大魔獣の体と衝突、体の前に魔法の障壁が出ていたが、それを溶かすように貫き、旧神ゴ・ラードの眷族の不浄な体を貫いていく。
ダモアヌンの魔槍から放たれていた無数のフィラメントが大魔獣の内から飛び出て螺旋状に展開されていく、巨大な翅を持つ半透明の大魔獣は内から斬り裂かれていく。
一部の肉と骨を雁字搦めに拘束し、地面にダモアヌンの魔槍は突き刺さった。
「グェァァァァァ」
大魔獣が、痛みから咆哮を発すると、半透明の大魔獣の体が融け、取り込んでいた鹿の頭部の樹怪王側の戦力を捨てていく。
更に、自らが操っていた次元の歪みに呑み込まれるように激しく痙攣し始めた。
魔槍杖バルドークを消す。
神槍ガンジスを右手で握り直し、<握吸>と<勁力槍>を再発動。
その間にも、弱まっている巨大な翅を持つ半透明の大魔獣の内臓のような部分に、沙・羅・貂の神剣による<御剣導技・風梛>が決まっていく。
大打撃を与え、相棒の無数の触手から出た骨剣が肉のような部分に突き刺さっていく。
皆のおかげで旧神ゴ・ラードの眷族の弱点、コアらしき魔力核と、毛細血管のような魔線が複数露出した。
そんな魔力核を正確に突いていく。
個性豊かな魔力核や魔線が潰れて消えるたび、巨大な翅を持つ半透明の大魔獣の崩壊は加速していく。
再生はするものの、確実に仲間たちの攻撃は効いている。
<メファーラの武闘血>を発動。
<仙血真髄>を発動。
そのまま<魔闘術>系統を強め、<雷飛>を使う。
転移するように加速し、宙空を前進し、続けて<雷光跳躍>を用いた。
高く跳び上がり、上空から旧神ゴ・ラードの眷族を見下ろし俯瞰した。
――その中でもひときわ大きな魔力核を捉えた。
その奥には更に、巨大な魔力核が潜んで、否、ある。
仲間との攻撃タイミングを合わせ――。
振動波のような攻撃を避けながら――。
ここで<仙魔・龍水移>を発動――。
巨大な翅を持つ半透明の大魔獣へと転移――。
ついに魔力核を宿すその巨体の内部への侵入に成功した。
視界が煌めきにジャックされた感覚のまま――。
魔力核目掛け、<光穿・雷不>――。
神槍ガンジスの双月刃の<光穿>が魔力核を突き抜けた。
振動した双月刃から血の龍と天道虫の幻影が大量に発生。
神槍ガンジスと俺は、旧神ゴ・ラードの眷族の内部を突き進む。
その最深部、拍動する巨大な魔力核を見据えた刹那――。
神槍ガンジスの真上に<光穿・雷不>が出現し、それが直進、神槍ガンジスを越えた。
雷不の八支刀の形を成した光芒の刃が煌めき、光神ルロディスの涙が紡ぐ天命の糸となって旧神ゴ・ラードの眷族の巨大な魔力核を穿ち、周囲の魔力網と内臓類を溶かしていく。
神槍ガンジスを消した。
視界が不自然に歪み、混濁する――。
脳漿を冷たい粘液で直接掻き回されるような、悍ましい感触。 神槍が砕いた魔力核の残滓……その断末魔とも呼べる異質な情報の奔流が、俺の意識の防壁を強引に抉じ開けて流れ込んできた。
◇◆◇◆
それは、色彩を失った走馬灯。名もなき次元の原初の記憶――。
突如、移り変わる情景。
そこに広がるのは、肺を焼くような湿った熱氣と、今の樹海を遥かに凌駕する巨大なシダ植物が、毒々しい紫の霧に包まれて無限に続く世界。
地球の石炭紀に似ているが、決定的に何かが狂っている。
天を照らす太陽はどこにもない。
代わりに天空を埋め尽くしていたのは、蠢く無数の翅と無機質な眼の塊――。
旧神ゴ・ラード。
その巨大な拍動に呼応し、空間のいたるところで巨大な蜻蛉たちが大氣を震わせながら孵化を繰り返す。彼らは外より招かれざる捕食者。
この地に根を下ろし、世界の理そのものを啜ろうとした次元の寄生体。
慈悲も怒りもない、ただ純粋な『飢餓』と『侵食』。
その数億年に及ぶ無機質な侵略の歴史が、歪んだ色彩の残像を伴って脳髄の深奥に焼き付いた。
すると、緑と血と紫の光の杭がどこからともなく飛来。刹那――。
鐘の音が響く。
◇◆◇◆
視界は元通り――。が、蜻蛉の複眼のようなノイズが走る――。
手がわずかに震えたが――。
八支刀の光雷は、毛細血管のように連なっていた魔力核をすべて溶かし、旧神ゴ・ラードの眷族を破壊しては、先の地面と衝突、ドォッと重低音が響き渡った。
内部で魔雷が狂おしく炸裂。
大魔獣の巨体は無数の硝子の破片となって霧散していった。
静寂が訪れる地面に着地した。
未だ明滅を続ける【キュルハ様とレブラ様の同盟の血碑】を静かに見つめた。
碑の表面には、かつてないほど鮮明に、血の紋章が浮かび上がっており、俺と魔線がかすかに繋がっていた。
ふぅ……と熱い吐息を漏らす。
脳を直接撫でられたような不快な感触は消えたが、あの異世界の飢餓の記憶は、俺の血の中に消えない沈殿物として澱んでいるような感覚があった。<性命双修>による呼吸で、肺腑を焼く魔力の余韻と共にそれらをゆっくりと鎮めていく。
そのまま肺腑を焼くような魔力の余韻を、<性命双修>による呼吸でゆっくりと鎮めていった。卍型に回転していた右頬の素子が、カチリと微かな音を立てて元の十字型へと戻り、銀色の光が収束していく。
大魔獣が消滅した跡には、不快な羽音の代わりに、血碑から溢れ出す緑と紫の光が泥濘を優しく照らしていた。
体を覆ってくれていたナイアが離れて、女体化。
「シュウヤ様、近くで見てましたが、凄まじい一撃です!」
「おう」
「ンン、にゃおぉ」
黒豹が泥を跳ね上げながら歩み寄り、足に頭を擦り付けてくれた。
黒い毛並みには大魔獣の残滓である硝子のような塵が幾つも付着していたが、相棒が身震いひとつすると、それらは浄化の光に溶けて消えた。
「閣下! お見事な一撃でした!!」
ヘルメが歓喜の声を上げ右半身へと滑るように重なる。
彼女の水の魔力が、戦いで火照った筋肉を心地よく冷やしてくれた。
「あぁ、皆の連携のおかげだ。シュレ、助かったぞ」
左腕の魔印から、上空にいるシュレゴス・ロードが優雅に一礼する氣配が伝わる。
「――主の槍筋、一段と冴え渡っておりますな。旧神の理さえも貫くその武威、恐悦至極に存じます」
周囲を見渡せば、巨大な眷属を失った蜻蛉系のモンスター兵は統率を失って、レベッカたちに攻撃を喰らいまくっていく。
鹿頭の樹怪王の兵士たちは、蜻蛉系のモンスターたちを追撃していくのが見えた。
一部の鹿頭は、師匠たちに追われ、クモの子を散らすように森の奥へと逃げ出していくも確認した。
混沌した戦場だが俺たち側の勝利は確実だろう。
そこへ、ハンカイが新・金剛樹の斧を肩に担ぎ、複雑に絡み合う巨根を力強く踏みしめながら近づいてくる。
「ガハハ! シュウヤ、これであの羽虫どもも当分は大人しくなるだろう。――<巌剛斧・連牙把>!」
ハンカイが新・金剛樹の斧を豪快に振り抜いた。
放たれた衝撃波が泥濘を真っ二つに割り、逃げ遅れた鹿頭の兵士たちをまとめて木屑へと変えていく。
「ん、お掃除完了」
エヴァがサージロン鋼球を収納し、魔導車椅子を浮遊させながら隣に着地する。
レベッカも杖を回し、満足げに鼻を鳴らした。
「まったく、変な空間干渉には焦ったけど、しゅうやんの槍があれば敵なしね!」
皆が安堵の表情を見せる中、背後に聳える【キュルハ様とレブラ様の同盟の血碑】が、更に、眩い輝きを放ち始めた。
碑の表面に浮かび上がった血の紋章が少し上昇。
同時に先程獲得した<十二樹の加護・残滓>を強く惹きつける。
指先から<血魔力>が滴り落ち、碑の根元にある水晶の核へと吸い込まれていった。
刹那――。
緑と血と紫の光が混じり合い、螺旋を描いて天へと昇る。
その光は、サイデイルへと続く地脈を逆流し、俺たちの帰還を告げる狼煙のように樹海の空を美しく染め上げていった。
途端に――視界が白銀の粒子に包まれ、脳内に見知らぬ情景が流れ込んでくる。
暖かく、懐かしさを覚える魔力を感じたが、ここは――。
意識が、現実の樹海から切り離されたか。
すると、知記憶の王樹キュルハ、宵闇の女王レブラ、そして吸血神ルグナド様が目の前に――樹海は樹海だが、今の樹海ではない。
あ、大昔の、この地で一つの「契り」を交わす光景か――。
続きは明日を予定、HJノベルス様から書籍「槍使いと、黒猫。1巻-20巻」発売中。
コミック版1巻-3巻発売中。




