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槍使いと、黒猫。  作者: 健康


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二千七十九話 神狼の導きと旧神ゴラードの眷族

「あぁ、期待していいぞ。だが、今は先へ進む」

「了解――」


 ヴェロニカは甘えた表情を一瞬で切り替える。

 戦闘態勢のまま涸沼を飛び越えていった。

 俺も足を止めることなく、黒豹(ロロ)が駆けていった森の奥へと疾走


 前方と左右の泥沼から、ボコボコと気泡が弾ける音が連続する。樹怪王の残党、鹿頭の兵士たちが泥を纏って飛び出してきた。


「邪魔だ――」


 走りながら、左手首<鎖の因子>から<鎖>を射出。

 伸びた<鎖>の先端が鹿頭を貫く。

 そのまま走りながら<鎖>を操作、次々に、鹿頭の兵士たちを<鎖>で処分していく。鞭のようにしならせ、前方に現れた鹿頭の兵士の足首を絡め、強引に引き倒し、すれ違いざまに魔槍杖バルドークの石突きで頭部を粉砕し、氷縛柩(アイシクル・コフィン)を前方に繰り出し、鹿頭の四腕の頭部と上半身を潰すように倒しては、氷縛柩(アイシクル・コフィン)を踏み台にして跳躍――。

 沼と味方の位置を見ながら――氷刀魚沼アイスソードフィッシュ・マーシュを発動。


 目の前に青白い同心円状の紋章魔法陣が展開。

 刹那、沼と地面が一瞬で、青白い光を湛える静かな沼へと変貌を遂げた。


 鹿頭の兵士たちは、突如として極低温の牢獄へと変貌した沼に足を取られ、その身を白銀の霜に焼かれて硬直した。そこへ、水面を切り裂いて無数の氷刀魚(ひょうとうぎょ)が躍り出る。全身が鋭利な氷刃と化した魚群は身動きの取れない獲物を無慈悲に、徹底的に細断――。


 砕け散る氷片と共に奇怪な音を響かせ、鹿頭たちの死肉が霧となって霧散していった。


「ご主人様、次は蜻蛉の群れです!」


 ヴィーネが翡翠の蛇弓(バジュラ)を構える。足場の悪い木の根を軽やかに飛び移りながら、視線は正確に敵を捉えていた。


 ヒュン、ヒュヒュンッ!

 光の弦から光線の矢が次々に射出されていく。

 ――<速連射>だろう。

 

 木々の隙間を縫うように飛翔し、上空から襲い掛かろうとしていた旧神ゴ・ラードの蜻蛉モンスターたちの複眼を射抜く。

 その骸がボトボトと地面に落ちていく。


 的確な援護射撃だ。


「ヴィーネ、このまま皆と押し上げる――」

「はい!」


 ヴィーネは次々に光線の矢を射出。

 側面から迫る敵を牽制――。

 <滔天神働術>と<滔天仙正理大綱>を発動。

 加速し、鹿頭の巨漢に近付いていく。

 <握吸>と<勁力槍>を同時に再発動――。

 正面の道を塞ぐ大木のような印象の、鹿頭の巨漢との間合いを詰めた。

 踏み込み、

 土手っ腹目掛け、魔槍杖バルドークを突き出す――。


 ――<魔雷ノ風穿>。


 雷光を帯びた螺旋の突きが巨漢兵士の分厚い樹皮の鎧を貫通した。 ドォッ! と内部で魔雷が炸裂し、兵士の巨体が弾け飛んで道を空ける。


「総長、右翼はわたしが!」


 ヴェロニカが紅い旋風となって駆け抜ける。

 ベイホルガの頂を振るい、藪から飛び出そうとした敵の手足を出鼻をくじくように切断していく。

 

 ヴェロニカの動きに迷いはない。

 ユイもイギル・ヴァイスナーの双剣を振るい、鹿頭に四腕ごと得物の槍を細断し倒す。キサラはダモアヌンの魔槍を回収しながら、時折、掌底から左回し蹴り、右回し蹴りの近接の格闘を使い、鹿頭の樹の体を破壊していく。


 ハンカイは新・金剛樹の斧の<巌剛斧・連牙把>で、豪快に、鹿頭ごと体を両断して倒す。

 

 師匠たちも派手な技は使わず、的確に仕留めていく。そして、バフハールは<幻影百歩>を用いて、無数の分身を作ると、本体と分身が持つ幻魔百鬼刀を一度に振るう。

 

 その無数の幻魔百鬼刀から無数の影の剣破が迸り、無数の樹ごと、鹿頭の兵士たちを両断していく。


 そうして敵を蹴散らしながら進むこと数分。

 だが、鹿頭の四腕、二腕の槍持ちが増えてくる。

 リーダー格の死骸、水棲動物の下半身の残骸がいたるところに散らばっていた。俺たちの先を征く光魔魔沸骸骨騎王のゼメタスとアドモスの大暴れしている姿は、ここからでも良く分かる。


 ファーミリアが、


「まだ敵は多いですが、もうすぐです――」


 ヴェロニカの横を守るようにサンスクリットの血霊剣を突き出し、鹿頭の槍使いを仕留めては前進。


「おう」

「討ち漏らしは我らが――」

「シュウヤ様の前方をあけるのだ――」


 <筆頭従者>ルンスが血刃を繰り出す。

 更に、両腕を拡げながら前方に<血魔力>で操る蟻地獄のような<血凝蟲>を展開させる。

 蟻地獄のような<血凝蟲>は、鹿頭の兵士をカマキリのような多腕を伸ばし、捕まえて、口に運び、食べていた。

 

 ホフマンは<ヴァルプルギスの夜>を使用している。

 半身の<ヴァルプルギスの夜(闇世界)>を展開させ、()に負けずの勢いで宙空を跳ねるように移動を繰り返し、蜻蛉と鹿、それぞれ相対した刹那に敵を斬り刻み倒していく。


 すると、先陣を務めていた光魔魔沸骸骨騎王のゼメタスとアドモスが足を止めて待っていた。


「閣下ァ、右斜めに街道の名残があるまする!」

「はい、そして、樹怪王の大隊を指揮していたリーダー格は仕留めましたぞ」

「了解」


 ファーミリアが、


「皆さん、この右の古びた街道の先に、【キュルハ様とレブラ様の同盟の血碑】があるはず!」

「おう、敵の数も少なくなってきた、このまま街道を進む!」

「「「はい!」」」


 古びた街道の左右には多種多様の樹が生えている。

 しかも、樹怪王の生態系の白カビが生えているような樹は少ない。


 壊れた石畳から竹のようなモノが生えていた。

 そんな古びた道を進むと、小山のような物が幾つか見えてくる。

 ファーミリアが、


「ありました、【キュルハ様とレブラ様の同盟の血碑】!」


 更に、巨大な樹の根と漆黒の岩塊が螺旋状に絡み合って天を衝くように聳え立つ碑のような物も見える。


「ンンン」


 相棒も駆けていく。皆で近付いた刹那――。

 ドクン、と心臓が跳ねた。

 意思とは無関係に、体内の<十二樹の加護・残滓>が激しく脈動した刹那――碑の中央に埋め込まれた水晶のような核が、勝手に明滅を始めていく。


「……閣下、碑が反応を!」


 ヘルメが声を上げる。

 碑から溢れ出した緑と紫の光が波紋となって広がり、周囲の森を急速に浄化していく。

 樹の力が、鍵となって共鳴したようだ。


 だが、その輝きを塗りつぶすように。


「ンンン――」


 黒豹(ロロ)が碑の頂点へと駆け上がり、森の北の方角へ向けて鼻先をくんくんと動かしていると、背の一部の毛を逆立てて、爪を出しては、碑に食い込ませている。

 

 下にいるハンカイが見上げ、


「神獣ロロよ、何か反応を得ているのか?」

「にゃごぉぉ」


 唸り声を発したと、相棒が向いている方角の森が揺れる。

 木々が軋むような轟音が響き渡り、地震が発生。


 重く、粘りつくような魔力が押し寄せてくる。


 地を割り、古びた石畳を粉砕して現れた異形は、まさしく蹂躙者だった。巨大な鹿の体に天を衝く節くれ立った四本の腕。


 その腕と背には巨大な翅を持つ半透明の大魔獣が血管のような魔線を張り巡らせて融合している。大魔獣のようで蜻蛉系なのか。


 旧神ゴ・ラードの眷族、大眷属か。


 続けて現れた鹿頭の大柄戦士たちが、自らの領域を侵す異形へ咆哮と共に突撃する。だが、旧神の眷族はそれらを一顧だにしない。蜻蛉の巨大な翅が、虹色の油膜を撒き散らしながら微細に振動した刹那、不可視のエネルギー波が放射された。突撃していた大柄戦士たちは、抗う術もなく肉を削られ、骨を砕かれ、塵芥のように戦場から掃き出されていった。


 傍らに立つシュレゴス・ロードが片眼鏡の奥の瞳を細め、顎髭の蛸足をうねうねと動かしながら


「主、見た目通り、あれは旧神ゴ・ラードの眷族ですぞ」

「あぁ……戦場に吸い寄せられたか、この碑の反応に誘い出されたか」

「ですな、古の理を色濃く残す、歪な共生体ですが、我の<旧神ノ暁闇>や<月虹共鳴>は、効くはずです」

「おう、樹怪王の兵士たちもまた増えてきたから、雑魚を倒しつつ、旧神ゴ・ラードの眷族を仕留めるぞ」

「ハッ」


 シュレは皆を守るように桃色の魔力を宙空に散布していく。


「この不愉快な羽音を消しましょう!」


 シュレの桃色の魔力が霧となって広がり、旧神ゴ・ラードの眷属が撒き散らす不浄な波動を中和していく。


 クリスタル風の髪の先にある吸盤がうねるたび、周囲の魔素がシュレの意のままに再構築され、旧神の理に汚染された空間が、桃色の魔力が混じる清浄な闇へと塗り替えられていった。


 そして、前に出た。

 クレインの金火鳥天刺と銀火鳥覇刺の<銀刺・金刺>の連続突きが鹿頭に決まるのが視界に入る。

 

 相棒と共に、相対した大柄の鹿の兵士の胸を<刺突>で仕留め――。

 左手に召喚した聖槍ラマドシュラーの<光穿>で隣にいた鹿の兵士の頭蓋を穿つ。


 相棒が、俺の影を縫うように跳躍――。


「ンン――」


 し、宙空で口を拡げ、


「にゃごぁ」


 口から放たれた扇状の紅蓮は、殺到する鹿の雑兵を炭化させるだけに留まらない。背から伸ばした数条の触手が、宙空で複雑な軌道を描き、大眷属の翅から放たれる不気味な魔線を絡め取って引き剥がしていくが、金属が弾く音も響くと、触手骨剣は弾かれていく。

 

 そこに、


「神獣ちゃん、ナイス! でも、お弟子ちゃん、雑魚がまた増えたから、お掃除を早めるわよ――」


 雷炎槍流のシュリ師匠は、紅蓮の炎と紫電を槍身に纏わせ、爆炎と共に、鹿頭の四腕の槍使いを力でねじ伏せていた。

 

「はい――」


 <雷飛>を使い、鹿頭の剣を持つ敵との間合いを潰し、<風研ぎ>で仕留める。


 シュリ師匠は、


「頭上の蜻蛉の大物っぽい敵だけど、()()(テン)たちの牽制があまり効いていないようね」

「はい」

「皆でチクチクと攻撃しましょう」

「おう、ゼメタスたちも仕掛けるぞ――」


 妙神槍流のソー師匠だ。

 音もなく滑り込むように鹿頭の槍使いとの間合いを潰す。

 空間を断裂させるような点の突きが防御を無効化し、急所を的確に穿っていた。


「ふむ――」

「「承知!」」


 槍の師匠たちとゼメタスとアドモスにルリゼゼたちが、旧神ゴ・ラードの眷族に突撃していく。

 

 <魔闘術の仙極>を発動。


「シュウヤ様、ここはわたしも……神狼の導きを!」


 ホワインが前に出る。

 彼女の目元、かつて月狼環ノ槍の幻狼たちによって刻まれた『月と狼の刻印』が、銀色の輝きを放った。


「目が輝いている」

「はい、天無光の命の消費から……命を蝕んだ呪いを祝福へと変えた証し。シュウヤ様に救って頂けた印!」

 

 と叫ぶと、

「――<月狼の息吹>」


 ホワインが片目から環の幻影が出現。

 それが共鳴したように、彼女の背後に神々しい神狼ハーレイアの幻影が顕現した。幻影の咆哮に呼応し、足下から実体を持った白い狼の群れが飛び出し、鹿の頭部を持つ四腕の槍使いの側面を攪乱する。

 その隙を突き、ホワインは神狼の如き瞬発力で地を蹴ると、魔弓ストロベリーのリムに備わる鋭い剣腹を振るった。四腕の槍使いが繰り出す刺突を紙一重でかわしながら、その肉を深々と裂くや否や、至近距離からゼロ距離で勿忘草色の魔矢を零し、敵の胸部で炸裂させた。弓と剣、そして格闘が一体となったその演舞は、見る者を圧倒するほどに苛烈で、美しい。


 そこに、


「付いておいで、エヴァっ子!」


 クレインが、先生、皇女としての氣品ある棒術で道を拓く。


「ん、先生――」


 エヴァは短く応じ、魔導車椅子から浮上させながらクレインの背後の斜め上から付いていく。

 紫色の魔力の<霊血導超念力>を展開させ、五つのサージロン鋼球を突出させる。クレインの体から飛び出たように見えたサージロンは、紫の閃光として、クレインに近付こうとしていた大柄の鹿頭の兵士の胴体を貫く。

 

 上半身は辛うじて残る程度の風孔が空いた。

 その鹿頭の兵士は、黒光りする大剣を地面に落とし、倒れた。


 まだいる大柄の鹿頭の兵士は、クレインとエヴァに近付こうとしたが、シュリ師匠の<雷炎腹柵斬り>が大柄の鹿頭の兵士に決まる。

 ソー師匠の無覇と夢槍による<妙神・角突き>が、腹に決まっていた。


 そしてホワインが魅せる神狼の武。

 その皆の活躍を見ながら旧神ゴ・ラードの眷族を凝視。


 巨大な翅を持つ半透明の大魔獣は、体から出している無数の半透明な魔線を何層にも組み上げ、キサラのダモアヌンの魔槍の<補陀落ポータラカ>の<投擲>を、防いでいた。<血魔力>を有したダモアヌンの魔槍は、その表層を貫いていたが、ぶれながらキサラの手に戻っていく。


 アイコンタクトをした相棒と共に、その旧神ゴ・ラードの眷族に向かう。

 <闇透纏視>と<隻眼修羅>を強める。

 <血道第三・開門>――。

 <血液加速(ブラッディアクセル)>を強めた――。

 心臓の鼓動が爆ぜ、視界が紅く染まると同時に<血液加速>を極限まで引き上げた。加速した世界の中で、眷属が張り巡らせた半透明の魔線が、網膜に焼き付く。それは物理的な防壁ではなく、空間そのものを固定する次元の枷に視えた。<夜行ノ槍業・召喚・八咫角>を送る。

 <夜行ノ槍業・召喚・八咫角>は魔線をすり抜け、否、右に転移してしまう。


 即座に飛来してきた鞭のような魔線を視るように横に移動――。

 続けて飛来する魔線を<水月血闘法>を発動させて加速し、避ける。

 聖槍ラマドシュラーを神槍ガンジスに変化させ、旋回――。

 相棒は紅蓮の炎を吐いて、巨大な翅を持つ半透明の大魔獣の本体を狙うが、無数の魔線が組み上げた防御層に防がれていた。


 光属性にも抵抗があるということか。旧神ゴ・ラード系も厄介だが、シュレゴス・ロードが展開している桃色の粒子のおかげもあり、あまり皆のことを魔線で攻撃していない。

続きは明日、HJノベルス様から書籍「槍使いと、黒猫。1巻-20巻」発売中。

コミック版1巻~3巻発売中。

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