二千七十四話 女王の散華とヘルメの献身
サーダインの全身を走る血閃。復讐心という名の熱を帯びたそれは、不気味な脈動と共に無数の血刃となって飛来した。
血刃の嵐を<隻眼修羅>で凝視。
<勁力槍>と<握吸>を発動。
血刃の分析をしながら<血液加速>を活かすように、血刃の一筋一筋の軌道が脳内にスローモーションのように刻まれ、避けていく。
右から迫る三条の血刃を石突で叩き折り、左からの連撃を半身で躱す。
回避と同時に生じた衝撃波が、背後の原生林を粉々に粉砕していった。
「ンン、にゃお!」
並走する黒豹が漆黒の残像となり、背後から迫る残りの血刃を無数の触手で叩き落とす。巨大な体躯が地面を蹴るたびに、地面と大氣が神獣の魔圧で震えた。
一氣に女王の間合いへ。破壊の魔力を纏った彼女の爪が、俺の喉を狙って閃く。
それを魔槍杖の柄で受け流し、即座に踏み込んだ。
<魔雷ノ風穿>――。
螺旋の風と<血魔力>を纏った穂先がサーダインの胸を捉える。
しかし、彼女は自らの血、体を即座に硬化。
かつての角冠を凌ぐ硬度の装甲でそれを受け、激しい火花が散った。
サーダインは魔力を噴出させて、俺を退け、
「チッ、メファーラの魔印どころか、権能塗れのクソ斧槍がァ! 苛立たせるな――」
杭となった右腕を肥大化させ、突き出してきた。
それを魔槍杖バルドークの<風柳・中段受け>で受けて防ぐ。
サーダインは、左腕を網目状に変化させ、その細かな樹の網が飛来、俺を覆って来る。
即座に左手を前に翳す。
<神聖・光雷衝>を繰り出し、「なに!?」光の衝撃波で網目状の樹の網を消し飛ばした。
驚いたサーダインは後退し、足下と体から杭刃を大量に寄越してくる。
<超能力精神>――。
飛来した杭刃を宙空で縫い止め、皆の位置を把握してから――。
《氷命体鋼》。
気温が急激に下がるのを感じつつ十八番の《氷竜列》――。
前方から〝龍頭〟を象った列氷たちが生まれ、多頭の氷竜の群れになって螺旋突貫――。
縫い止めていた杭刃を一瞬で凍らせながら直進。
《氷竜列》の群れは列を成し、サーダインが繰り出し続ける樹系の攻撃を凍らせ続けて、破壊しまくり、サーダインと激突した。
ドッとした重低音が響く。
「げぇぁぁ――」
サーダインの体が凍り突きながら吹き飛ぶ。
かなりの大ダメージを与えたと思うが、サーダインは十二樹海から力を得ているように、冠を光らせると体が元通り、その元に戻った体も直ぐに凍り付き、右奥の柱のような巨樹と衝突を繰り返し、悲鳴を何度も轟かせるが、左の前に転移し、現れる。
冠を輝かせているサーダインはフランベルジュの魔剣を生み出すと、
「中々の魔法力だけど、ふふ――」
フランベルジュを突き出しながら突進してきた。
<月冴>を発動。
月の紋様と『月冴』の魔法文字が淡く消えていく中、<水月血闘法>を発動。
<黒呪強瞑>を発動。
<龍神・魔力纏>を発動――。
カウンターの<風柳・喧騒崩し>――。
魔槍杖バルドークを斜めに上げ、紅斧刃と螻蛄首で、フランベルジュを引っ掛けるように弾く。
――即座に左足を跳ね上げた。
「――ッ!!」
<蓬莱無陀蹴>――。
鋭い左回し蹴りがサーダインの顎を捉え、彼女の体をわずかに浮き上がらせる。
蹴りの機動を<武行氣>でキャンセル――隙を逃さず、魔槍杖バルドークを捻り<風研ぎ>の石突を鳩尾へ叩き込み、「グハッ」更に、横回転からの<龍豪閃>――。
紅斧刃の峰がくの時になったサーダインの体にクリーンヒット。
衝撃波が背後に抜け、樹海の巨木数本が根元からへし折れんがら、サーダインは吹き飛ぶ。
背後の樹と衝突したサーダイン、吐血しながらも不敵に嗤い、折れた肋骨や切断された体を、即座に樹の幹で補強、途端に、右腕がブレる。そのブレた腕は刃となって、俺の喉首に迫った。
それを上に上げた魔槍杖バルドークの柄で弾く。だが、爪が変形し伸び、俺の首を掴もうとしてきた。俄に、半身で、首を傾けて回避――。
横を抜け、爪の風圧を頬に感じ耳を掠めながら、サーダインの横を駆け抜けると同時に――。
魔槍杖バルドークで<魔皇・無閃>――。
甲高い音が響いたように爪で弾かれるが、左手首の<鎖の因子>から<鎖>を射出し、半身に移行、伸びていた<鎖>が獲物を狙う蛇のように彼女の胴を締め上げていく。
「ンン、にゃご!!」
黒豹が、<鎖>に対処しようと動いたサーダインの背後に向かう。
無数の触手から生えた骨剣がサーダインの四肢を無慈悲に穿っていく。
サーダインは体から塵のような魔力で<鎖>を強引に払うと、
「――小癪な猫がッ!! <王樹・滅崩壊>!!」
叫ぶと足下の地面が沸騰したように血の色を帯び、そこから大量の巨根が生まれ、幾重にも分かれながら飛来した。<鎖>に絡み付いた塵を見て<鎖>を消し、魔槍杖バルドークを盾に、迫る巨根の一つを叩き潰す。
木屑が大量に舞った、目眩ましか――。
サーダインは加速を強め、木屑を纏いながら槍圏内侵入してきた――。
体から無数の杭刃を伸ばしてくる。
<山岳斧槍・滔天槍術>を意識、発動しながら魔槍杖バルドークの<風柳・中段受け>から<風柳・下段受け>で連続的に刃を弾く。
――続け様に上段に来た杭刃を<風柳・上段受け>で受け流し、横に移動するが、杭刃の形がノコギリ状に変化し、魔槍杖バルドークと、俺の体に絡み付いてくるように動いてきた。
バルドークの紅矛、紅斧刃、峰、螻蛄首、柄と、サーダインの樹杭と刃がぶつかり合い、鼓膜を揺さぶる硬質の激突音が何重にも響く。
凄まじい火花が散っていく。
すると、槍身を通じて、かつて喰らった破壊の王の魔力が共鳴するように熱く脈動――。
サーダインも何かを察したように、
「クソがァ、お前に破壊の王の資格など――」
激昂したサーダインは右腕を肥大化させ、力任せに押し込んでくる。
その怪力を魔槍杖バルドークの柄で防ぐと同時に<魔手回し>を行い、相手の力を活かすように、サーダインの体を捻り回し、拉げさせ、魔槍杖バルドークに絡み付いたサーダインの樹を薙ぎ払うように吹き飛ばした。
吹き飛ばされたサーダインは、背後の巨樹に激突する寸前、背から無数の細根を噴出させてクッションとし、瞬時に体勢を立て直した。
そのまま垂直に近い樹の幹を蹴り、重力を無視した加速で再び俺の懐へと飛び込んでくる。
「……その身に宿す不浄なる力、わたしの庭には不要な毒よ!」
サーダインの咆哮と共に、彼女の右腕がさらに異形化を増していく。
一本の杭ではなく、三叉に分かれた鋸状の樹刃へと変貌し、空気を引き裂く速度で俺の脳天、喉、心臓を同時に狙い撃ちにしてきた。
<隻眼修羅>の視界が、迫り来る三つの死線を鮮明に捉える。
一歩も引かず、<無方南華>と<無方剛柔>を発動させながら魔槍杖バルドークを旋回させた。
<山岳斧槍・滔天槍術>の重厚な円の動きに、風槍流の柔軟さを加える。
紅斧刃で上段の刃を撥ね上げ、即座に手元を引いて柄の部分で喉への突きを逸らす。
最後に残った心臓への一撃に対し、石突を支点に体を独楽のように回転させ、紙一重の回避をしながら反撃の機を伺う。
ガガッ、ギィィン!!
激しい金属音と、木材が軋む音が混ざり合う。
互いの武器が触れ合うたびに、魔槍杖バルドークから伝わる破壊の王の鼓動が激しさを増していく。右腕の皮膚の下、氣の流れが熱を帯び、血管が浮き上がるのを感じた。
「ンン、にゃお!」
飛び出した相棒が、死角からサーダインの足を狙って触手を伸ばす。
だが、サーダインは浮遊し、樹の枝を足下に展開、黒豹の触手を強引に絡め取ろうとした。相棒は即座に触手を骨剣へと変形させ、飛来する枝を細切れに切り刻みながら着地。
俺と呼吸を合わせるようにサーダインを左右から挟み撃つ形を作る。
ゼロコンマ数秒から五秒の不思議な間――。
その直後、俺とサーダインは同時に踏み込んだ。
<血液加速>を意識の底で維持したまま、魔槍杖バルドークを突き出す<闇雷・一穿>。
サーダインの体から出たフランベルジュと穂先が激突。
すぐに掬いあげる石突を送るように<龍豪閃>――。それを体から出た樹の盾で防ぐサーダインは横に回転しながら薙刀のようなモノを生み出し、ソレを振るってきた。
俺も合わせ、魔槍杖バルドークで<風柳・上段受け>で弾き、<妙神・飛閃>の薙ぎ払いを返すが、避けられる。サーダインは自らの体を削ぎながら加速、杭刃を胸元に繰り出してくる。
初撃を<風柳・異踏>で避ける。
だが、サーダインは加速、俺も合わせ、<魔闘術の仙極>と<武龍紫月>を発動。
強化し、魔槍杖バルドークを上げ、柄で上に刃を弾く。しかし、サーダインの全身は武器――。闇と光の運び手装備以外の体と衝突し、硬質な音が何度も響く。
魔槍杖バルドークで大きい杭刃を持ち上げるように防ぎ、魔槍杖バルドークの柄を二の腕から肩に乗せながら半身で、防ぎ、<龍豪閃>――。紅斧刃をサーダインの体に衝突させ、退かせるが、「ウガァァ――」と発狂したように間合いを詰め、全身の刃を伸ばしてくる。
魔槍杖バルドークの柄で、その刃を防ぐ。
横に回転しながら首裏に通した柄を回転させ<風柳・案山子通し>を行った。
更に、左腕を前に突き出すように魔槍杖バルドークの<風柳・案山子突き>を繰り出す。
無数の刃を往なすカウンターの<風柳・案山子突き>の紅斧刃と紅矛が、刃を弾き、斬り、へし折り、女王サーダインの体にも、風孔を開けるが、即座に回復してくる。
<隻眼修羅>――。
虚ろに移動している女王サーダインの魔力の核の動きを把握――。
<黒寿ノ深智>を発動、黒寿の幻影が周囲に発生。
<雷飛>から<血龍仙閃>――サーダインの半身を斬るが、回復し、反撃の刃を寄越す。
それを柄で確実に防ぐ。
再度の応酬が五合ほど続き――火花が樹海の薄暗い空間を何度も照らした。
魔槍杖バルドークの振り上げの<龍豪閃>のフェイク、石突を地面に置くように魔槍杖バルドークを支えに右回し蹴り<魔経舞踊・蹴殺回し>――。
右回し蹴りの連続蹴りを防ぐ女王サーダインは冠の輝きを強めて、<魔闘術>系統を強めていく。彼女もまた修羅の道を何度もくぐり抜けた証拠の<魔闘術>系統の重ね――。
残像すら置き去りにする往復の攻防。
紅矛が彼女の肩を浅く削れば、彼女の樹爪が闇と光の運び手装備の一部を切り裂く。
「――ルシヴァルめ……その槍捌き、ただの技ではないな!?」
激突の最中、サーダインが顔を歪めて叫ぶ。
俺の風槍流は積み上げられた武の研鑽だからな。
「ならば――」
一瞬でサーダインは塵となって飛来した。
『閣下――』
左目から<精霊珠想・改>のヘルメが出るが、その液体ヘルメと魔槍杖バルドークで防ぎようもなく女王サーダインの無数の塵状のモノが、体を突き抜けていく。
刹那、<血魔力>が急激に失い、膝から力が抜ける。視界が不自然に歪み、血管を逆流するような悍ましい冷氣が駆け巡った。
サーダインが放ったあの「塵」――それはただの魔力塊ではないのか。
一つひとつが意思を持つ極小の樹の杭か?
俺の皮膚の隙間から侵入し、直接<血魔力>を喰らっていると理解。
背後に体を得たであろう女王サーダインは、
「ウハハハ、アホな武人気取りが! 中から食い荒らされる気分はどうだ――」
背後から響く、勝ち誇った女王の嘲笑、
「させません――」
ヘルメの声が響き、硬質な音も響く、「チッ、大精霊、大眷族か――」
「<月華言理>――」
ヘルメが反撃に出たか。
包み込むような冷たい水の感触と、激しい火花が散る音だけが響く。
体内の塵は増殖を止めない。内から食い破られるような感覚に歯を食いしばり、魔槍杖バルドークを杖にしてかろうじて意識を繋ぎ、<脳脊魔速>を使用――<滔天内丹術>、<滔天仙正理大綱>、<滔天神働術>、<仙血真髄>、<性命双修>、<経脈自在>を連続的に行う。
全身に入り込んだ異物を、己の<血魔力>と水神由来の魔力で排除しきる。
<月華言理>を使用したヘルメが黄金と銀に光を帯びて、女王サーダインと互角に打ち合うが、彼女に体にも入り込んだ異物が成長し、水の魔力を吸い取ってヘルメの常闇の水精霊ヘルメとの力が徐々に消えていくのが理解できた。
<メファーラの武闘血>と<戦神グンダルンの昂揚>を発動させ、自然とそのヘルメを追い越し、女王サーダインに近づき、左手に神槍ガンジスを召喚。
<霊仙酒槍術>を意識した。
――<霊仙八式槍舞>を繰り出す。
息つく暇も与えず魔槍杖バルドークで女王サーダインの冠を抉る。
胸を再度突く――。
神槍ガンジスで、胸の奥にあるコアらしき弱点を突く――。
瞬間的な二連<刺突>系から、流れるような足捌きと共に独楽のように回転。魔槍杖バルドークの峰を左に傾け引き、紅矛で女王サーダインの胸を斬り――。
神槍ガンジスを右へ動かしながら引き、双月刃で女王サーダインの太股を斬る。
魔槍杖バルドークの柄が、抉れたサーダインの腰へと強烈に衝突。
横回転の慣性を乗せた神槍ガンジスの柄打が顎を跳ね上げ、最後に両槍の穂先による同時撫で斬りが、女王の肉体を無慈悲に切り刻んだ。突かれ斬られの八連続攻撃を喰らったサーダイン体は「げぇ……<細裂魔破>を……」と呟きながら、後退し、再生が追いつかず、体に罅が入り込んだまま、硬直。その体から花が咲く。
ここで仕留める――<破壊神ゲルセルクの心得>を発動――。
膨大な<血魔力>をも魔槍杖バルドークに送り押し出す。
「げっ、な!?」
女王サーダインの再生しかかった体に魔槍杖バルドークが嵌まり込む。
続けて右腕で<滔天掌打>を繰り出した。
清冽な水飛沫を発した掌底が、柄と衝突、槍を通じ、破壊の波動を伝播させ、魔槍杖バルドークの柄は余計に女王サーダインの体に喰い込む。
途端に、「ウゲェァァ」と悲鳴を発した女王サーダインの体は弾けた、砕かれた核もろとも、その残骸は十二樹海の地面へと吸い込まれ、霧散していく。花弁と散華の幻影が出現したが、それも消えた。
<脳脊魔速>の時間は終了した。
「閣下! あっ」
と常闇の水精霊ヘルメは氣を失い、倒れる。
「ヘルメ――」
得物を捨て、崩れ落ちる彼女を抱き留めた。
続きは明日、HJノベルス様から書籍「槍使いと、黒猫。1巻-20巻」発売中。
コミック版1巻-3巻発売中。




