二千六十九話 戦場に響く喉鳴り、十二樹海地下の再編
フレザガークが骨翼を激しく羽ばたかせ、漆黒の斬撃を乱射してくる。
『閣下、相手は高速飛翔タイプ!』
『おう、ヘルメやグィヴァなら行けると思うが、こいつは俺が仕留めよう』
『『はい!』』
ヘルメとグィヴァの思念を感じつつ水神由来の<魔闘術>系統を活かすように加速――同時に、右手の<鎖の因子>から<鎖>を射出――世界の流れが緻密な魔力の糸となって視界に映り込む。
空間の歪みが皮膚を撫でるのを感じた。
フレザガークは体から無数の骨刃を伸ばし<鎖>に衝突させながら、
魔神槍・血河を振るい、漆黒の斬撃を潰し、防ぐと、闇属性の魔力を吸収できた。すると、
フレザガークの四腕が持つ闇色の長剣を振るう。
またも漆黒の斬撃を飛ばしてきた。
<血液加速>を活かして、避けては<夜行ノ槍業・召喚・八咫角>を前に出して、防ぎ続けて魔力を得た。
そんな中、操作している<鎖>は何度もフレザガークを狙うが<鎖>は、フレザガークが扱う闇の長剣と、体から無数に飛び出た蛇のような骨刃と衝突を繰り返し、弾かれ続けた。
フレザガークは速度を上昇させると、魔法の牙と魔法の網に漆黒の斬撃も繰り出してきた。
同時に<鎖>は避けられることが増えていく。
<隻眼修羅>と<闇透纏視>を使い、フレザガークを追う。
<鎖の念導>で<鎖>を操作し、光魔ルシヴァル流ガン=カタを意識、<鎖型・滅印>を発動させ、両手の<鎖の因子>から<鎖>の連射攻撃を行う。
だが、逃げるフレザガークは転移するように飛翔を繰り広げて、華麗に<鎖>の遠距離攻撃を避け続けながら反撃を寄越してくる。
ここは地下だが、鳥の機動を超えている――。
それでいて飛来してくる漆黒の斬撃のほうは吸収できることがあるが、物理側が強く、骨刃を隠していることもあるから結構厄介だ――。
しかし、飛来してくる遠距離攻撃は、<夜行ノ槍業・召喚・八咫角>も盾に、<鎖型・滅印>の<鎖>の連射攻撃が、そのすべてを貫いて破壊していく。
縦横無尽に宙空を行き交う<鎖>の連続射撃も対遠距離用攻撃に使える――。
だが、迎撃ばかりで、追撃を行うが、フレザガークは避けまくってくる。更には、相棒の紅蓮の炎とカルードの<バーヴァイの魔刃>と、レベッカの蒼炎弾、エヴァの白皇鋼の刃の群れも、避けて、皆の遠距離攻撃をも避けていく。
同時に、俺に向けての、魔法の牙――。
魔法の網のようなモノ――。
漆黒の斬撃――。
骨刃が増えてきた――。
押し寄せる遠距離用攻撃に対し――。
<夜行ノ槍業・召喚・八咫角>を<鎖>と同時に操作し、追わせたが、フレザガークの動きはなかなか読めない。
<仙魔奇道の心得>を意識。
<仙魔・桂馬歩法>を発動。
<黒呪強瞑>を発動。
<源左魔闘蛍>を発動。
<水月血闘法>を発動。
<仙魔・桂馬歩法>による多角的な機動で、物理法則を裏切るような鋭角のジグザグに飛翔移動を繰り返す。
<黒呪強瞑>により体中から刃のような闇の魔力が噴き出ては、<源左魔闘蛍>による無数の血の蛍がそれらを纏めるように飛翔しながら俺の体に戻ってくる。
更に、<水月血闘法>の極致により、足下から<血魔力>が泉のように広がり、そこから血色の十字架や――朧げな月――水鴉が立地的に屹立し、飛来する骨刃を次々と対消滅させていった。
だが、飛来してくる骨刃は多い。
それらを冷静に見極め、<血魔力>を纏った足で、骨刃を踏み付け――そのまま物理法則を裏切る鋭角の跳躍を繰り返し、右へ、左へと飛ぶ。
身を捻りながら左手の武器を血魔剣に変化させ<血魔力>を送る。
ブゥゥンと音を響かせた血魔剣で<血外魔道・石榴吹雪>を繰り出した。
血魔剣の血が迸るブレードと周囲から石榴の形をした血が無数に出現し、消えてを繰り返し、フレザガークに向かう。
フレザガークは不規則な血の石榴の<血外魔道・石榴吹雪>に混乱し、鈍くなったように、骨の翼と血の石榴が衝突、爆発した。
「ぐえぇ」
そこに皆からの遠距離用攻撃も次々にヒット。
フレザガークは爆発し、吹き飛び、壁と衝突。
『まだ生きています!』
ヘルメの念話の通り、その壁が内から破壊されたように吹き飛ぶと、右からフレザガークが飛び出てきた。
破壊された壁の奥から現れたフレザガークは、骨の甲冑をより凶悪な形状へと変貌させていた。蠢く第三の瞳が、<仙魔・桂馬歩法>で超高速移動を続ける俺の残像を確実に捉え、突進と同時に無数の骨刃を射出――更に、左上腕から生み出した魔刃を、空を切り裂く速度で振るってくる。
だが、その骨刃と魔刃は当然、俺には当たらない。
血魔剣を神槍ガンジスに戻す。
奇を衒う軌道に、照準が追い付いていないはず――。
着地をしたフレザガークは、旋回軌道に移行した俺を睨み、
「……速い――」
動揺が魔力の揺らぎとなって伝わる。
<闘気玄装>を強めて直進――。
フレザガークは、骨刃と闇色の長剣を突き出してくる。
敵の機動を完全に掌握し、<風柳・異踏>による最小限の動きで軸をずらしつつ、死角から懐の深奥へと滑り込む。
――牽制の神槍ガンジスを突き出し、本命の魔神槍・血河を低く、最短距離で突き放すように構えた。
下段の<牙衝>こそ黄金の骨刃に防がれたが、その衝突の反動を、次の旋回へと繋げ、横に出た直後、即座に<戦神流・厳穿>を追撃で叩き込んだ。岩をも穿つ下段技に、フレザガークは反応。
闇色の長剣をわずかに下から上へと動かしてきた。
だが、その掬う機動の長剣を、破壊するように双月刃が剣腹を貫く。そのまま体に向かうが、下腹部から出た黄金色の扇状の骨刃に防がれた。
反撃が来る前に退く。
深い呼吸と共に全身の血を冷徹な魔力へと変質させていく。
<水月血闘法>を発動――。
視界の端々で、水面を叩く雫が波紋を広げるような共鳴が起きた。
――<水月血闘法・水仙>。
「なっ、輪郭が滲む――」
複数の実体に近い残像と水仙の花弁が広がる。
円を描いてフレザガークを包囲する。
フレザガークの剣筋が迷いを見せた。
「――小細工を!」
焦れたフレザガークが、第三の瞳に強烈な炎を収束させる。
放たれる熱線を予見――。
<風柳・片切り羽根>の歩法で死角へと身を投じた。
<血龍仙閃>を繰り出す。
だが、手にした魔神槍・血河の柄が振動。
俺の意思に呼応するように脈動を強めた。
<血魔力>が大身槍の穂先に凝縮された。
――新技の萌芽か。
吸血神の理が<血龍仙閃>の軌道に命を込める如く――血河が持つ独自の収束と貪欲さが混ざり合う。
解き放たれた血河の一閃がフレザガークが咄嗟に展開した骨の重層障壁を、枯れ葉のように粉砕した。衝撃波が互いの体を引き離す勢いだったが、左足で踏み込む。脈動する魔神槍・血河を活かす<魔雷ノ風穿>を繰り出した――。
血雷を放つ魔神槍・血河の穂先が、
「……ぐぉ……」
フレザガークの胸骨を貫き、その核を捉え貫通。
フレザガークの背の向こうから大量の<血魔力>が激流の如く噴出していくと、フレザガークの体が膨れ破裂した。魔神槍・血河に、急激にフレザガークが有していた魔神帝国、地底神の大眷属と目される将が蓄えていた膨大な魔力が鮮血の奔流となって逆流してきた。
ピコーン※<光魔神技・穿ノ血河>※スキル獲得※
掌から伝わる、熱く、重厚な力の充足感。
手に馴染んだ血河の重みを確かめる。
そこに、
「「フレザガーク様が!」」
まだ残る敵が叫ぶ。
一氣に、その残党の手前に向け、<雷飛>――。
回転の勢いを乗せて<妙神・飛閃>を放つ。
赤い閃光が、呆然と宙を漂う頭蓋骨を輪切りに処した。
崩れ落ちる骸骨兵に、<神聖・光雷衝>を浴びせる。
蒼い炎を一瞬見せて、骸骨兵の体は塵と化した。
すべての<魔闘術>系統を解除――。
<血脈冥想>を実行。
体を駆け巡る高揚した血を鎮めていく。
魔神槍・血河から流れ込んできたフレザガークの魔力は俺の血肉へと同化していく感覚が強い。
すると、
「……ンン、にゃお」
と鳴いた黒猫。
トコトコと歩み寄って足首に頭を擦り付ける。
漆黒の毛並みは、艶がある。
「助かったぞ、相棒」
ゴロゴロと深く喉を鳴らす相棒を抱き上げると、その温もりが全身に伝わってきた。黒猫は「ンン」と甘えた声を出しながら、俺の後頭部や耳朶にぐりぐりと頭を擦り付けてくる。鼻を鳴らしながらふがふがと甘える子猫のような吐息。そのくすぐったい感触に、激闘で尖っていた神経が柔らかく解けていくのを感じた。その愛おしい頭部を掌で優しく撫で、相棒の眉毛や瞼に薄い頭髪を直に感じ、片耳を軽くつまむ。更に、耳の内にある柔らかな産毛を、人差し指の先で撫でていく。
ジャリジャリとした感触がタマラン。
と、そこに敵巨大樹岩モンスターの崩れる音が響いた。
ハンカイやラライセたちの猛攻により、動かぬ岩塊の山と化していた。 混乱を極めていた戦場に、静寂が戻りつつある。
これも一時的なものに過ぎないな。
「シュウヤ様、勝利! おめでとうございます――」
ヴィーネが銀髪をなびかせ、一氣に間合いを詰めてくる。
「おう、地底神セレデルの一派だとは思うが、結局分からずじまいか」
「はい、スケルトン系ですから、セレデルのはずです」
銀色の瞳には深い安堵の色が浮かんでいた。
そこにレベッカが、
「シュウヤ、あの速い将軍を早々と撃破してくれて、ありがと。後、ハンカイと魔軍の師匠たちは追撃に出たからね」
レベッカの言葉に頷く。
ヴィーネも、
「はい、骨と蝙蝠の皮膜のような翼を有した強者でしたね。地下特有の速度といいますか普通の速度とは、また異なる速度の上昇と減速で、戦い難かったです」
頷いてから、
「あぁ、それは感じたが、まぁ、皆がいたからこその動きの速さが知れたこともある」
と発言し、ヴィーネと、レベッカとも力強くハイタッチを交わす。
そのまま彼女たちを引き寄せハグをすれば、混ざり合うバニラとシトラスの甘い香りが鼻腔をくすぐり、戦いの高揚が心地よい満足感へと変わっていく。
そこにゼメタス、アドモス、カルード、ユイ、レベッカ、エヴァたちも集まってきた。バフハールと師匠たちも追撃から帰ってくる。
ハンカイは金剛樹の斧を肩に担ぎ、鼻を鳴らす。
「シュウヤ、これで作戦通り、傷場の安全は確保できたと言えるだろう」
「おう」
すると、メルが、
「はい。しかし、ラミドスラたちが言っていた通り、地下の情勢は不透明。闇神リヴォグラフの残党が退いたとはいえ、この騒ぎを聞きつけて地底神セレデルの他の将や、オーク大帝国の軍勢が押し寄せてくる可能性は否定できません」
と冷静に報告。
続いて、キサラが、
「中層や上層にかけての地下道も調べる必要はありそうですね」
頷いた。
「そうだな」
「ここがセラの南マハハイム地方、十二樹海の地下深層である以上は、たしかに、一度は、わたしたちが細かく見て回る必要はあるかと思います」
「うん、地上の十二樹海の範囲に入れば、女王サーデインの怪物たちの来訪や、潜んでいる可能性もあるんだからね」
「「はい」」
「おう、地上のサイデイルを守るためには、この拠点を光魔ルシヴァルと吸血神ルグナド様の共同管理下に置く必要があるか……」
と、言いながら、ラライセたちと見て、
「では、ラライセ、ラミドスラ、カトガたち、俺たちは一時、地上のサイデイルに戻る。西のエイジハル血印、古都エイジハルへの本格進撃は、まだ参加できない」
「はい、了解済みです。私たちは【血の守護騎士団】は、エイジハル血院を目指すべく、この周囲の警邏、残党の駆逐をしておきます。南マハハイム地方の十二樹海の地下も広大ですからね」
ラライセの言葉に【血の守護騎士団】のメンバーたちは一斉に胸元に手を当てた。
続いて、隣にいる吸血神ルグナド様の<筆頭従者長>の一人、ラミドスラは、
「はい、私たちは、この拠点の維持と管理をします。嘗ての、ヴァルマスク大街の再建も徐々にしていきます」
「了解した。では、直ぐか、数日後か、不明だが、サイデイルを治めている俺の<筆頭従者長>の一人キッシュと話をし、狼月都市ハーレイアにも訪問する」
俺の言葉に、吸血神の大眷属たちが一斉に膝を突いた。
「はい――」
「「「御意!」」」
続きは明日を予定、HJノベルス様から書籍「槍使いと、黒猫。1巻-20巻」発売中。
コミック版1巻~3巻発売中。




