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槍使いと、黒猫。  作者: 健康


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二千六十六話 咲き乱れる毒花とヴェロニカの血白狐閃


 ふぅ、と息を吐き、残心。

 宙に漂う塵を見据えながら、全身の魔力循環を整えた。

 ザガンが消滅した石畳は変色し、主を失った深紅の甲冑の残骸と、極大魔石の欠片と独鈷のような武器が転がっていた。


 それらを<握吸>で引き寄せる。

 掌に吸い付くような感覚と共に掌にバチバチとした残留魔力の痺れが伝わるが、蒼白い炎を発すると、それも消える。

 その極大魔石の欠片と独鈷のような武器甲冑の破片をアイテムボックスへと収納した。


 そこに、相棒たちがいる前線から、甘く、それでいて吐き気を催すような匂いが漂ってきた。背筋を凍らせる粘着質な死臭と、むせ返るような花の芳香が混じり合い、戦場を覆っていく。


 刹那――。


「ンン――」


 黒虎(ロロ)が、喉音を響かせながら、宙空で黒豹に変化しつつ身を捻って後退してきた。

 俺の右足の傍に着地。

 黒豹(ロロ)は、花の女魔人がいる位置を見ながら、尻尾を右足に絡めてきた。


 すると、前方に、極彩色豊かな花々と蔓が幾つも宙空に咲き乱れていく。相棒の紅蓮の炎や、皆の遠距離攻撃で焼き払っていたものが一瞬で再生か。


 と、その中の紫と漆黒の色の花と植物が絡み合うように、蠢きながら人型を模った。

 先程相棒たちと戦っていた花の女魔人だ。

 肩に和風の傘をかけている。


 その女魔人が、


「メイアールの本体といい、あの猛者の【暗夜十三の執行者】のザガンをも、あっさりと倒すとは、でも事前に槍使いたち、光魔ルシヴァル側には氣を付けろと、念を押したのですがね……」


 と、芝居がかった動作で溜め息を吐く。 同時に展開された漆黒の魔花が、ユイの<バーヴァイの魔刃>を花弁の一枚一枚で包み込むように受け止め、相殺した。


「彼は、やや武人の傾向が強かったようです……」


 と発言しては拡げた傘を持ちながら宙空に浮かび、旋回しては、傘から鈍く光るモノを展開し、ヴィーネたちが繰り出した光線の矢を弾いていく。

 更に、女魔人から毒々しい蔦と薔薇と似た花々が連なって宙空に伸びては、鼓動を響かせる。


「しかし、眷族たちも強い。リヴォグラフ様の『庭』を汚すだけのことはあるわ……」


 と語り、右手の指先から植物と多彩な花々を生み出し、冷ややかな瞳でこちらを見下ろしてきた。


 細い両足から毒花粉が散っていた。

 その花の女魔人に、


「お前も【暗夜十三の執行者】とやらに所属しているのか?」

「いえ、私は魔界にいることが多いですし、違いますわ」


 【暗夜十三の執行者】とは、部隊名、十三名の幹部たちなのか不明だが、セラ側への侵略、傷場の防衛などの任務が多いということか。

 花の女魔人に、


「名を聞こうか」

「あら、ふふ、私に興味があるの?」

「あぁ、強者のようだからな」


 花の女魔人は、漆黒と紅蓮の瞳を輝かせ、


「……貴方に、強者と呼ばれるなんて、光栄ですわ! ふふ、私の名は闇死花公(あんしかこう)イビロヌラ――」


 と言うと浮上し、こちらに巨大な紫と漆黒の蓮のような花を伸ばしてくる。


「――ご主人様」

「シュウヤ、油断しちゃだめ」

「シュウヤ、イビなんとかを口説いちゃだめ!」

「そうよ、美人だからってまた!」

「にゃご!」

「「はい」」

「マスター、こいつは強敵よ!」

「ん」

「主に手を出すつもりか!」


 と、皆から一斉に遠距離攻撃が向かう。

 巨大な紫と漆黒の蓮のような花は、俺に触れることなく<バーヴァイの魔刃>や白皇鋼(ホワイトタングーン)の刃、ゼクスの光剣波動、<光魔蒼炎・血霊玉>などを浴びて消えては、イビロヌラに向かうが、彼女は意に介さない。

 

 漆黒の瞳を細めた。

 途端に、光を有した極彩色豊かな花と魔法陣が宙空に幾つも展開し、皆の遠距離攻撃と衝突、爆発。

 更に、己の魔傘を、盾にして<バーヴァイの魔刃>などの遠距離攻撃を防ぎきる。


 光属性にも抵抗できる能力を持つか。

 夜王の傘セイヴァルトと似た能力を持つなら厄介だな。


「ふふ、光魔ルシヴァルたち、光属性を活かすつもりなら無駄よ。そこの神獣でさえ、私の<無限・魔華花>と<無限・毒魔花>の連鎖には、手を焼いていたのは見たでしょう? ふふ、それを、どう対処するのか、見物ね――」


 余裕に語りながら、左右を移動し、的確に、ユイたちの遠距離攻撃を相殺している。


 計算高い冷徹さと、底知れぬ傲慢さを感じた。

 彼女の周囲では、極彩色の花弁が奇妙にスライドしながら開花し、輝くと散ることもある。


 花と植物から、植物の女神サデュラ様を連想するが、真逆の魔力と分かる。


 そのイビロヌラが両腕を優雅に広げた。

 足下の石畳が変質し、鮮血のような赤一色に染まる。

 

 咲き乱れるのは、不吉な赤き花――。

 彼岸花と似た花。

 すると、


「黄泉路へようこそ。踊りなさい、『死界の彼岸隊アンダーワールド・リコリス』」


 赤い花畑から、ズズズ……と無数の蒼白い腕が伸びる。


 這い出してきたのは、額に不気味な呪符を貼られた死体兵たち。バキボキと関節が鳴る音と共に、有り得ない角度で跳ね起きる。両腕を前に突き出し、膝を曲げぬ硬直した歩法ながら、滑るような速度で迫ってきた。


 その口からは毒々しい花が咲く。


 それだけではない――。

 巨大な食虫植物のような怪物や、花弁で構成された美しいが故に恐ろしい女型の魔物も次々と現れる。


 瞬く間に、数百の異形が俺たちを取り囲んだ。


「数は力よ。蹂躙しなさい」


 号令と共に、彼岸花の死兵たちが一斉に襲いかかってくる。 

「望むところ、皆、ふんばりどころだ――」

「「「はい!」」」


 反撃の合図となった。

 呼応するように、背後の空間が黄金に輝く。


「妾たちの前で『数』を誇るか――」


 女帝槍のレプイレス師匠だ。

 彼女が掲げた女帝槍から、巨大な金色の魔法陣が展開される。『槍皇降臨』『血茨城塞』『雷光審判』。三つの理が重なり合い、天空に黄金の城塞が顕現する。


「――<女帝天墜・衝城>!!」


 『女帝衝城極意――天地融合之型』。

 城壁に『血晶壁』『雷鳴塔』『茨縛門』『覇道城』の文字を刻んだ、空を覆い隠すほどの質量。


 それが、ドォォォォォォォン!! という世界を揺らす轟音と共にイビロヌラの軍勢の頭上から落下した。


 大地が悲鳴を上げ、めくれ上がる。

 自慢の彼岸花の花畑も、死兵の群れも関係ない。数百体単位の敵が、黄金の底面に一瞬で磨り潰され、圧殺された。


「あぁ、貴女、魔城ルグファントの槍使いの一人ね。戦場でも、そこの八槍の八怪侠、頭目爺も活躍していた。でも、幾ら眷族兵を倒しても無駄よ――」


 イビロヌラは細い指先から無数の分厚い魔線が迸る。

 魔線の真下から彼岸花が咲き乱れ、一瞬で、死兵と食虫モンスターたちが復活していく。


 <夜行ノ槍業・召喚・八咫角>を出して、その魔線を防ぐ。

 皆も左右に移動して分厚い魔線を避けていく。

 レプイレス師匠は、天空に黄金の城塞の幻影を、己の鎧のように周囲に展開させ、分厚い魔線を防いでいた。


 同時に、俺の足下から闇の柱――。

 と、花の刃が現れて、上昇してきた。

 にわかに神槍ガンジスを下に向け、<光穿>――。

 双月刃が、花の刃と闇の柱を砕くように破壊した。

 そのまま着地すると、光魔魔沸骸骨騎王のゼメタスとアドモスが、


「閣下。あの花の女魔人は中々の存在――」

「はい、花の魔族兵は我らにお任せを――」

 

 前に出て、花の魔族兵たちを名剣・光魔黒骨清濁牙と名剣・光魔赤骨清濁牙を袈裟斬りで倒していた。

 俺も<鎖型・滅印>を発動。

 両手首の<鎖の因子>から<鎖>を射出しまくり、皆のフォローを行う。時折、<鎖>を、花の女魔人イビロヌラに向けるが、彼女は避けまくる。


 そこに、


「女魔人、舐めるなよ――」


 粉塵を突き破り、ハンカイが突撃していく。

 手にした金剛樹の斧が唸りを上げる。

 <血魔力>を纏った姿は、戦神。

 一振りで巨大な食虫植物を粉砕し、敵陣の中央を強引に削り取っていく。


「ふふ、小柄だけど、大柄に見えるハンカイは強いわね、私もがんばるわよ――」

「カカッ、獲物は逃がさん!」


 シュリ師匠が<雷飛>で前に出ては、雷炎槍エフィルマゾルを振るう。<雷炎腹柵斬り>で、巨大な食虫植物を両断。

 炎と紫電を撒き散らし、グラド師匠は飛怪槍を振るってキョンシーたちの呪符を正確に貫く。

 妙神槍流ソー師匠は無覇と夢槍を振るい回し、紫と漆黒の花と薔薇の女性型魔族兵を薙ぎ払う。

 トースン師匠の悪愚槍が放つ骨の弾丸が、再生しようとする死兵の核を砕き、塵へと変える。


 そして、眷族たちも動いた。

 ファーミリアがサンスクリットの血霊剣を振るい、キサラのダモアヌンの魔槍から伸びたフィラメントが敵の足を止め、レベッカの蒼炎が不浄な花を焼き払い、ヴィーネの光線の矢が雨のように降り注ぐ。


「――硬いですね。核を潰しても、あのイビロヌラが大本では、なかなか――」

「うん、けど、潰しがいがある――」


 カルードとユイが、死兵の群れを縫うように疾走する。

 カルードは<月光の導き>と<血相・紅渚>を用いた。


 体に<血魔力>が巡ったように、顔だけでなく、血の紋様が全身に浮かび上がらせていた。

 そのまま、流剣フライソーと幻鷺を振るい回し、次々に死兵を蒸発させるように薙ぎ払うと、更に加速。

 

 残像を生みながら前方に群がる食虫モンスターとの間合いを潰した刹那、両刃刀の幻鷺が、花と植物の茨の攻撃を斬り捨て、胴体らしき部分を貫いていた。


「ギュァ」


 食虫モンスターは崩れるように散る。

 他の食虫モンスターと、死兵たちには、ファーミリアのサンスクリットの血霊剣の斬撃と、ルリゼゼの四つの曲剣の斬撃が決まり、次々に死兵は倒れていく。


 キョンシーのような存在はまだまだいるが、俺も<光条の鎖槍シャインチェーンランス>を繰り出す。

 一部のキョンシーのようなアンデッドにも見える敵は、<光条の鎖槍シャインチェーンランス>が変化した光の網に抵抗を示すが、足止め代わりになった。


 カルードの両刃刀の幻鷺と流剣フライソーが、月光のような蒼と、血の紅の軌跡を空中に描き出す。

 

 一撃目、死兵の胴を薙ぎ払う。

 二撃目、返す刃でモンスターを地面に叩き付けるように斬り裂く。

 三撃目、流れるような回転から、花の魔族の首を鮮やかに刎ね飛ばした。

 

 美しい舞のような連続攻撃が次々と葬っていく。


 ユイの神鬼・霊風が死兵の首を跳ね飛ばす。

 額の呪符を切り裂く。

 統率を失った死体は、ただの肉塊となって崩れ落ちた。


「ふんっ、想定済みよ――」


 軍勢を蹂躙されているが、イビロヌラの言葉には焦りがあるように思えた。

 彼女の周囲に展開された無数の花弁が一斉に輝き、光熱の花弁を乱射し始めた。魔傘からも札のような物が、飛び出てくる。


「ふふ、近づくことさえ――」


 その慢心を、紅い影が切り裂く。


「遊びは終わりよ」


 鈴を転がすような声と共に現れたのは、ヴェロニカ。

 手にした魔剣ベイホルガの頂(いただき)が、妖しく波打つ。


「すべて血で斬る――」


 ヴェロニカが魔剣を一閃させる。

 ――<血白狐閃>。

 血の魔力を纏った斬撃は、白い狐が駆けるような幻影を伴い、花弁と札のイビロヌラの攻撃に食らいついた。

 真紅の斬撃が、花弁と札をべっとりと赤く染め上げて、爆発させていく。


「小賢しい!」


 イビロヌラが即座に反応した。

 手にした魔傘を高速で回転させ、周囲の花弁を盾のように密集させる。真紅の斬撃と、極彩色の花盾が激突。

 バチバチと魔力がスパークし、周囲の空間が歪むほどの拮抗を見せた。


「ふふ、血の魔力ごときで、私の守りは破れ――」


 勝利を確信したような笑み。

 だが、その余裕は一瞬で凍りつく。


「――喰らい尽くせ」


 ヴェロニカが短く呟くと、拮抗していた白狐の幻影が牙を剥き、花盾を食い破るように爆発した。

 そこに、ルリゼゼの加速突きに、俺の《連氷蛇矢フリーズ・スネークアロー》とレベッカの<光魔蒼炎・血霊玉>が向かう。

「――なっ」


 甲高い音が響いたように、魔傘と無数の花弁に防がれるが、


「ぐぅぅぅぅっ!?」


 イビロヌラが悲鳴を上げながら、後方へと後退。

 魔傘で致命傷は避けたものの、着物の一部と、その下の白い肌が赤黒く焼け焦げていた。


「熱い……熱いじゃない……! この私が、下等な血ごときに押し負けるなど!」


 イビロヌラは焦げた肌を見てからチリッとした音が響くと、その全身が一氣に再生、花弁が周囲に舞う。

 ユイの<バーヴァイの魔刃>と一閃を魔傘で防ぎ――宙空で数回転しては、


「――チッ……やっぱり相性が悪いわね。耐性が取り得だったのに!」


 イビロヌラが怒りを滲ませる。

 

「そこです――」


 ヴィーネが<光魔銀蝶・武雷血>を発動。

 雷状の血を全身に纏い、銀色の粒子を撒き散らしながら神速で肉薄する。右手の古代邪竜剣(ガドリセス)と、左手の戦迅異剣(コトナギ)が、イビロヌラの首を刈り取らんと閃いた。


 だが、その刃が届く直前――。

 空間がどろりと歪み、濃密な闇がイビロヌラを包み込んだ。


 ガギィィンッ!!


 ヴィーネの双剣が、突如現れた漆黒の長槍によって受け止められる。


「――退け、光魔の眷族」


 重厚な声と共に、ヴィーネが弾き飛ばされた。

 闇の中から姿を現したのは、全身を包帯と甲冑で覆った異形の槍使い――。

 そして、その背後には、杖をついた老魔族――闇賢老バシトルターゼが立っていた。


「バシトルターゼ……それにラスプファ、大見得をきったけど、ナイスな登場よ、ありがとね」

「イビロヌラ、慢心が過ぎる。ザガンを失った今、お前まで失うわけにはいかん」

「イビロヌラ様、既に、ラフレシア様とヴェデルアモボロフも撤退しておりまする」

「うむ」


 バシトルターゼが杖を振ると、ヴァルマスク大街の空間そのものが彼らを飲み込むように歪み始める。


「逃がすか――」


 <仙魔・龍水移>――。

 爺と槍使いの背後に転移し、魔槍杖バルドークで<血刃翔刹穿>を繰り出す。

 爺と槍使いは、得物を横に掲げ、俺の<血刃翔刹穿>に反応した。初撃こそ防がれたものの、紅矛から拡散した無数の血刃が襲いかかる。彼らは重厚な魔法陣を展開するが、すべて防ぎきれない。ローブと鎧が切り裂かれ、その身に鮮血の花が咲く。だが、致命傷には至っていない。


 そして、


「――光魔よ。今日のところは預けておく。貴様らの首は、リヴォグラフ様が直々に所望されるだろう」


 バシトルターゼの言葉を残し、イビロヌラを含む闇の眷族たちは、歪んだ空間の彼方へと消え去った。

 主を失った彼岸花もキョンシーたちも、ただの枯れ草と泥へと戻り崩れ落ちていく。


 後には、静寂と、破壊された街並みだけが残された。


「……逃げられたか」

「はい。ですが、相手の主力級の顔と名は割れました」


 ヴィーネが剣を納め、悔しそうに、しかし冷静に告げる。  闇死花公イビロヌラ、そして闇賢老バシトルターゼと魔槍ラスプファか。


 だが、ヴァルマスク大街から主力が退いたことになる。

 後は傷場の確保をすれば、ヴァルマスク大街は、俺たち、吸血神ルグナド側が得たことになる。


「シュウヤ、背後の闇神リヴォグラフの結界も再生が完全に止まっている。もう吸血神ルグナド側の兵士を止める手立てはない、ヴァルマスク大街の奪還は時間の問題だろう」


 とハンカイが告げた。

 そこに、ヘルメとグィヴァと()()(テン)たちが、急降下してくる。


「閣下、敵方が急に退き始めて、転移をする者が続出です。勝利でしょうか」

「『血の守護騎士団』たちは中央に突き進んでいます」

「あぁ、空のほうの戦いも吸血神ルグナド様の勝利で終わったのかな。単に闇神リヴォグラフが退いたのかも知れないが」

「はい、勝利ですよ! ふふ」


 キサラの言葉に頷く。

 ヴィーネたちも笑顔となった。


続きは明日を予定、HJノベルス様から「槍使いと、黒猫。1巻-20巻」発売中。

コミック版1巻-3巻発売中。

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