二千六十五話 壊僧ザガン・ボルドと八卦の螺旋
視界が白濁するほどの閃光と衝撃――。
世界は一瞬の静寂に包まれた。
耳鳴りが止まない。
だが感覚は鋭敏なまま、<闇透纏視>と<隻眼修羅>、そして掌握察により戦場の一部が脳裏に焼き付く。
上空に移動した神々の余波で、ヴァルマスク大街の街路は滅茶苦茶に破壊されている。
だが、今のこの状況には好都合だ。
整然としていた敵の陣形も崩壊し、障害物が減ったことで射線が通る。
ビュシエの<血道・石棺砦>の石棺とエヴァの白皇鋼の金属が要塞のように味方を守っている。
味方の損耗は軽微。ラライセたち、【血の守護騎士団】の兵士たちも無事。
将校クラスの<筆頭従者>か<従者長>たちは、皆強者だ。<従者>たちも盾を重ねて耐えきっている。
良かったが、まだまだ戦いは続く。
前方、土煙の奥に、どす黒い殺氣を放つ深紅の甲冑が揺らめいた。
壊僧ザガン・ボルド――。
深紅の甲冑は、血を吸ったかのように赤黒く、濃厚な闇の魔力を内包して脈動しているようにも見える。甲冑は深紅だが、濃厚な闇の魔力を内包している。
物理的な防御と魔法耐性も高いはずだ。
そいつが、
「……神々の戯れか……しかし、貴様らの運命は変わらん」
ザガンがメイスを振り回し、風切り音と共に瓦礫を粉砕しながら歩み寄ってきた。その一歩ごとに地面が揺れる。重量級だが、筋肉の動きからして瞬発力も兼ね備えているタイプ。
そして、そのザガンの背後も闇神リヴォグラフの大眷属に違いない。
死の華を全身に咲かせているような異形の女魔人。
自身の周囲に展開した死の華から毒花粉を周囲に撒き散らし、人型の体からも、毒々しい極彩色豊な魔力を立ち昇らせていた。
前衛が盾となり、後衛が広範囲殲滅魔法を撃ち込む。
定石の戦術だが、有効だろう。
重心を下げて<血魔力>を循環させるように<闘気玄装>を整えた。
霊湖の水念瓶の<水念把>で、
『「――総員、対ショック防御解除! 敵前衛を孤立させようか。ヴィーネ、ロロ、ヘルメたち、女魔人を頼む!」』
<水念把>で指示を飛ばし、地面を蹴った。
正面からは進まず、<生活魔法>の水を周囲に撒く。
同時に足下の<血魔力>を活かし、《水流操作》で滑りながらザガンの周囲を旋回。
ザガンの視線が俺を追ってくる。
そこに、黒虎が、右側を駆け、ザガンと俺を瞬時に跳び越えていく。
黒き疾風の如きの相棒は、
「にゃごぁッ!!」
と、鳴き、紅蓮の炎を纏った触手骨剣を、後衛の女魔人へと繰り出す。
その触手骨剣は、女魔人が周囲に展開していた毒々しい花を貫くと、蒼い炎を伴いながら女魔人に向かう。
「チッ、一々相性が悪い――」
女魔人は無数の毒々しい蔦と花を前方に生み出し、後退。
相棒の触手骨剣を止めてきたが、皆からの遠距離攻撃に右や左に後退していった。
ザガンは、その戦闘を氣にして隙ができた。そのわずかな隙を突く。
――<滔天仙正理大綱>と<滔天神働術>を発動させた。
間合いを詰め、ザガンの懐へ潜り込むが、
「ハッ――」
ザガンは、反応し長い独鈷のような魔槍杖で
下から突き上げるような<風研ぎ>を防いできた。
重厚な金属音が響く。
<握式・吸脱着>と<握吸>を連続的に発動し、魔槍杖バルドークの握り手の位置を変化させ短く持ち直し、左手に〝黒衣の王の魔大斧〟を召喚した。
ザガンは左の前腕の上部と下部から刃を伸ばしてきた。
それを魔槍杖バルドークの柄と黒衣の王の魔大斧を盾にして防ぐ。
そのまま左に出て、強引に<双豪閃>を行う――。
ザガンは右腕の右足から闇の刃を伸ばし、<双豪閃>に相対するように横回転し、闇の刃で、紅斧刃と魔大斧の連続攻撃を防いできた。
<月冴>を発動。
斜め頭上に『月冴』と日本風の魔文字が浮かぶ。
魔槍杖バルドークから血魔剣に変化させ、右手に握る魔大斧を前に押し出した。更に、膨大な<血魔力>を込めた血魔剣で<湖月血斬>の逆袈裟斬り――そして、<神式・一点突>の突きを繰り出す。
キィン、キィンと連続とした硬質音が響いたように、ザガンの真紅の鎧や体から飛び出た闇の刃と真紅の段々状の防御層に剣撃は防がれた。
「ハッ、多少、動きが速い程度ではな――」
ザガンの体から魔力が吹き荒れ、加速。
独鈷のような魔槍杖を突き出し、それを囮にしたような左上段回し蹴り――、否、右の蹴り、連続蹴りを繰り出してくる――。
その蹴り技を<ルシヴァル紋章樹ノ纏>と<無方南華>と<無方剛柔>を発動させながら、クロスさせた血魔剣と黒衣の王の魔大斧で防ぐ。
同時に、その武器を白蛇竜小神ゲン様の短槍と堕天の十字架に変化させた。ザガンは、
「――<武具想像>、否、<武器召喚>か――」
と、左の前腕の上部と下部から闇の刃を伸ばしながら語る。
その伸びた刃を<風柳・異踏>で避けた。
直進しようとしたが、ザガンの体がブレる。真下から闇壁のような闇の壁が発生。
ザガンのスキルか、魔法か――。
咄嗟に後退した。闇の壁は闇の霧になって消え、半透明なザガンがあちこちに出現した刹那、左から現れたザガンは魔斧槍の穂先を突き出しながら現れた。
その分身を己に融合させるような一撃を――。
白蛇竜小神ゲン様の短槍の柄で叩くように防ぎ弾く。
硬質な音が響く最中、ザガンは、
「――チッ、なんて反応だ。メイアールたちを屠っても魔力消費どころか、衰えもないのか――」
と言いながら魔斧槍の薙ぎ払いを繰り出してくる。
その首を狙う一閃を、横に移動し避けた。
薙ぎ払い機動のザガンは、体から横に移動した俺に合わせ、相対させつつ、体から闇の刃を伸ばす。それが足下に迫るが、堕天の十字架を下ろし、闇の刃を防ぐと、ザガンの目が見開く。
そのザガンに、
「闇の刃は不規則だが、下段の攻撃に変わりない――」
と、発言。
同時に、白蛇竜小神ゲン様の短槍で<刺突>のモーションを取るフェイクから――右手の堕天の十字架を振るい、<妙神・飛閃>を繰り出した。
それを体から出した闇の刃を盾にして防いだザガン、反撃の魔斧槍を振り上げて、俺の顎を狙ってくる。
それを、白蛇竜小神ゲン様の短槍の<風柳・上段受け>で受けるような仕種から、グローブに変化させ、行き場を失ったかの見えた魔斧槍の穂先を掴む――。
「な!?」
魔斧槍の穂先に白い手形のようなモノが無数に発生し、蒸発音が響く。
「ぐっ、その手を離せ――」
ザガンは<血魔力>を擁した闇魔力を体から放出させる。
強化し、腕を再度振るい、魔斧槍を動かそうとした。
<ルシヴァル紋章樹ノ纏>を発動させて、力で押さえた。
するとザガンは、深紅の甲冑の一部を虹色の長刃に変化させ、それを突き出してくる。
俄に、堕天の十字架を下から上に動かし、柄で、虹色の長刃を上斜めに弾き、右前に少し出た。
虹色の刃は俺の肩の竜頭装甲と衝突した。
キィンと甲高い音と共に虹色の刃が砕け咀嚼音が響く。
「え!?」
「ングゥゥィィ、ウマカッチャン――」
とハルホンクのいつもの言葉が響く。
ザガンは口を開け、唖然としながら魔斧槍を引く。
驚きのまま「くそが、その肩生きているのかよ――」と、破壊された魔斧槍の穂先と肩の竜頭装甲を交互に見る。
さすがに左肩の竜頭の防具が虹色の長刀を喰らうとは予想外だろう。
<刹那ノ極意>を意識し、実行――。
<水神の呼び声>、<始祖古血闘術>、<水の神使>、<霊仙酒槍術>を意識、発動し、左足の踏み込みから、腰を捻り、右腕が持つ堕天の十字架ごと体を突き出す<風研ぎ>を繰り出した。
「くっ」
ザガンはまたも<魔闘術>系統を強め、穂先の一部が破壊された魔斧槍を盾代わりにし、<刺突>系統の<風研ぎ>を防ぎ、複眼の魔眼を発動させ、四腕を膨らませつつ、こちらを見ながら後退した。体勢の立て直しを狙うんだろう。
そんなザガンを<闇透纏視>で捉えつつ――。
膨大な<血魔力>を堕天の十字架に込めた。
その堕天の十字架を引き、腰を捻りながらの左腕を振るい、堕天の十字架を<投擲>。
宙を直進した堕天の十字架から大量の血飛沫が迸った。
その血飛沫から血継武装魔霊ペルソナの一部が体現化。
一方、直進した堕天の十字架は、後退したザガンの魔斧槍と衝突し、「ぐぇぁ」と悲鳴を発したようにザガンの魔斧槍を持つ膨れた両腕から血飛沫が発生していた。
更に体現した血継武装魔霊ペルソナは、宙空で、細い両腕を拡げつつ、そこから血翼の刃を雨霰とザガンに繰り出していくと、常闇の水精霊ヘルメや沙・羅・貂たちのように美しく螺旋上昇し、細い片腕を振るいまくり、無数の血翼の刃を繰り出していく。
その血継武装魔霊ペルソナは左右を行き交い、自らの美しい体を誇示する如く、乳房を揺らし、細い腰と魅惑的な太股を揺らしている。
無数の血翼の刃を喰らったザガンは己の深紅の甲冑が削られ斬られ、体も傷だらけとなった。
闇神リヴォグラフの加護による回復力も追いつかない。
と思いきや、ザガンは血継武装魔霊ペルソナに斬られながらも、「うぬら――闇夜十三を舐めるな――」と加速し前進――、一瞬、体から闇神リヴォグラフの幻影と赤い目と戦旗のようなモノが大量に出現した。
――なるほど、呼吸を整えるように<隻眼修羅>で、ザガンのすべてを凝視。
白蛇竜小神ゲン様のグローブを着た左手と、素手で魔槍杖バルドークを握り締める。
腰を沈め<仙血真髄>を発動。
ザガンの動きが、鈍足に感じるまま、彼が突き出てきた壊れた魔槍に合わせ――。
<風柳・喧騒崩し>を繰り出す。
カウンターとしての紅斧刃と螻蛄首が砕けていた穂先の一部を豪快に破壊。
ザガンは、「そのような動きは読めている――」
と言ったように、ザガンは体の骨とまだ残っている真紅の甲冑だったモノと融合した闇の刃を伸ばしてくる。
カウンターにカウンターをかぶせてきた。
それを冷静に、<山岳斧槍・滔天槍術>を意識し、実行――。
連続的な闇の刃と、ザガンの三つの拳、その拳から伸びた闇の刃、体から伸びた骨の刃などを、すべて、魔槍杖バルドーク一本で弾き、防ぐ。衝撃をも殺し、いなす――。
ザガンの体勢がわずかに泳いだ刹那――。
<黒呪強瞑>を発動。
<龍神・魔力纏>を発動。
<源左魔闘蛍>を発動。
<闘気玄装>を最大限にまで強めるように意識しながら、遭えて前に出て魔槍杖バルドークを押し出す<風枝預け>――。
ザガンの壊れた魔斧槍と体に衝突させた。ザガンは、「なに!?」と驚いたまま魔槍杖バルドークを己の魔槍で持つような体勢となって隙だらけ。
<滔天魔瞳術>を行いながら、右肘の<滔天肘打>を繰り出した。
続けて、左掌底の<滔天掌打>をザガンの左胸にぶち込み――。
<玄智・陰陽流槌>を発動――。
宙空に円を描く両肘の軌道に合わせ、霧状の水飛沫が集結。
瞬く間に、円い陰陽太極図を模した美しい水模様へと変化する。
その陰陽の紋様を両肘に纏い、流れるような連撃を叩き込んだ。
左右の肘による乱打は、ザガンの体、壊れた魔槍、そして魔槍杖バルドークの柄すらも打楽器のように打ち鳴らす。両肘に付着していた陰陽の水模様が、衝撃と共に四方へ弾け飛んだ。
ザガンは「ぐぇァ」と声を発し、体から血飛沫を噴出させながら吹き飛ぶ。
肘から水の陰陽の魚が宙へと躍り消えた。
更に、踏み込むように追い掛け、ザガンの懐目掛け、
「<玄智・八卦練翔>――」
を繰り出した。
右肘と左拳に右拳と左肘の打撃に、白き指貫グローブを纏った右掌底を突き出した。
ドッと、接触点から螺旋の衝撃が貫通。
ザガンの残っていた体が破裂するように飛び散った。
巨体の一部の脊髄だったモノは、くの字に折れ、拉げまがら蒼い炎に包まれ塵となって消えた。
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