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槍使いと、黒猫。  作者: 健康


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2065/2122

二千六十四話 闇神の結界と紅き流星の蹴撃


 穿った大穴の奥に広がるのは、無数の墓石の群れ。

 上空には未だ闇神リヴォグラフの結界――闇の霧ごとき淀みが展開されている。だが、<紅蓮嵐穿>が貫いた境目には、余波である蒼い炎が燻っていた。


 ヴァルマスク大街の一角、俺たち側の街は墓地か。

 墓場の周囲には無数の魔力の塊がある。

 墓地と外にも、敵がわんさかいるようだ。


 同時に、傷場の位置を即座に理解できた。


 周囲の次元の揺らぎからして、正面、やや左側。

 あそこがヴァルマスク大街の中心地だろう。


 巨大な穴にはもう見えないが、その穴の通り道を抜け、ヴァルマスク大街の地に降りた。


「「――閣下ァ!!」」

「にゃご!」


 ゼメタスとアドモスと相棒が、背後から跳び越えて前に着地。


「閣下、見事な一撃!」

「はい、そして、ここがヴァルマスク大街!」

「にゃ~」


 光魔魔沸骸骨騎王のゼメタスとアドモスは全身から漆黒と紅蓮の炎を噴出させる。相棒は黒豹から、大きい黒虎に変化。

 神獣猫仮面を装着し、前方の墓場とその奥のヴァルマスク大街を偵察している。


「おう、闇神リヴォグラフ側も即座に動くだろう、氣を付けろ。そして――」


 皆に血文字を意識。

 肩の竜頭装甲(ハルホンク)をも意識し、霊湖水晶の外套と霊湖の水念瓶を出して装備。


 霊湖の水念瓶の中身――〝レイペマソーマの液体〟が揺らめく。

 サファイヤブルー、インディゴブルー、セルリアンブルー。

 異なる青が美しく絡み合い、内側から発光するように煌めいていた。


 その輝きを確かめるように、瓶を視線の高さへ。

 硝子のような素材の表面に指を這わせ、魔力を通す。

 ――『霊湖の水よ』と念じ、<水念把>を発動させた。

 霊湖の水念瓶から神秘的な水が口に付着し、<魔声霊道>によって喉元に形成された有機的な(かんばせ)と融合していく。

 そのまま、


『「……皆、壁と結界は一時的に破壊した。今の状況を見えている者は俺たちに続け――」』


 俺の声が戦場に響く。

 ファーミリアたちが、「「「はい!」」」と背後から返事をしては、背後の巨大な穴から、ファーミリアたちが現れた。


 ヴァルマスク大街に突入していく。

 更に、左翼で戦線を支えていたラライセ・エイジハルたちも、


「全軍、シュウヤ様が穿った裂け目へ! 『血の守護騎士団』、突撃ぃぃッ!」


 ラライセの凜とした号令が響く。

 重装騎士団が地響きを響かせながら、空から急襲してくる闇神リヴォグラフ側の怪物兵たちを薙ぎ払いながら、雪崩れ込んできた。


 ハンカイも「シュウヤ、外の戦場は完全にこちら側の流れだぞ――」といいながら金剛樹の斧を豪快に振り回し、<投擲>――。


 放たれた金剛樹の斧は、黄と赤が混ざり合った<血魔力>の炎を噴出。 空から飛来するガーゴイル系モンスターと衝突するや、その体を一撃で粉砕。勢いは止まらない。直進し、次なる魔獣兵の頭部を叩き割り、三体目の胴体を輪切りにする。そのままブーメランのような軌道を宙空に描き、淀んだ闇の霧そのものをも断ち斬りながら、主の下へと戻っていく。


 その金剛樹の斧を投げたハンカイは、光魔魔沸骸骨騎王のゼメタスとアドモスと相棒と、俺の位置を把握するように宙空を回り、その右の墓石の近くに着地した。


 そこに戻ってきた金剛樹の斧を右手で掴み直し、


「――シュウヤ、傷場は魔力量とあの宙空に発生している揺らぎからして、あの先にあるのは確実だ。あの場所を重点的に攻めるのか?」


 と、金剛樹の斧で前方の左を差した。

 宙空に放出されている次元の揺らぎのような物の下に、傷場があるのは明白。頷いて、


「あぁ、傷場の確保を目指すのは変わらない」


 ヴィーネも横に着地し、


「ご主人様、おめでとうございます! 〝レドミヤの魔法鏡〟の転移を使わずとも、侵入できましたね」

「おう、とにかくだ。皆、このヴァルマスク大街を完全に落とすぞ、だが、抵抗してこない住人たちには手出しはしないようにしよう」

「「「ハイッ」」」

「承知した、では、先に行く――」


 ハンカイが駆けては、墓場から湧いた肉腫のような物を<大嵐旋斧>で切断しながら前進していく。


「後れを取るな!」


 シャイナスが黒銀の曲大剣で肉腫の残骸を切り裂きながら続く。

 味方の士気は最高潮だ。だが、俺が開けた穴の奥――墓石の群れが並ぶ墓地エリアから、どす黒い魔力の噴煙が立ち昇った。

 不穏な地鳴りと共に墓石の一つ一つが不気味に振動し、地面が裂け、そこから無数の赤と黒の光点が無機質に明滅し始めた。


「……氣をつけろ! 墓石が動いている!」


 警告を発した直後、亀裂から放たれたのは、漆黒の雷光を纏った無数の『杭』だった。杭以外にもある。墓石が飛来、一部が変形し、塊が飛来した。


 魔槍杖バルドークの柄でそれを弾いた。

 闇神の魔力で鍛え上げられた塊か――。


「ンンン――」


 相棒は触手から出した骨剣で塊を防いでいる。

 ヴィーネたちはエヴァとビュシエが用意した金属の盾と石棺の背後に移動している。

 ヒュンヒュンヒュン!!

 雨あられと降り注ぐ墓標の塊――。

 右側を進む『血の守護騎士団』の一部が、盾ごと貫かれ、血を吹きながら吹き飛ばされる。


「怯むな! 盾を重ねろ! 防御円陣!」


 ラライセが叫び、騎士たちが即座に密集陣形を取る。

 重厚な魔力障壁が展開され、続く墓標の雨を弾き返す。


 その隙に、裂け目の射出源を<隻眼修羅>で凝視した。


 墓地の地下に鎮座する、巨大な霊廟のような異形の影。

 全身が黒い金属質の甲殻と墓石で構成され、背中には無数のパイルを背負っている。攻城兵器のごとき魔族か。


 刹那、墓標を吹き飛ばして、その巨体が地上へと姿を現した。

 ファーミリアが、


「……あれは、攻城魔族『城壁砕き(ウォールブレイカー)』です」

「主に、魔界では、墓守を担当することが多い連中さ」


 ルリゼゼも発言。

 キサラが、


「リヴォグラフの神意力を帯びている固体は強そうですね」

「ですが、先程のメイアールやフニガモードに比べたら、弱い」


 ヴィーネが陽迅弓ヘイズから月迅影追矢ビスラを射出していく。

 その言葉通り、月迅影追矢ビスラが突き刺さった棘の大柄魔族は蒼白い炎を発して爆発して散った。


「光魔ルシヴァルの<血魔力>なら、それが特効となるのは変わらない。このまま攻めるぞ」

「「はい」」

「にゃお~」


 黒虎ロロディーヌが瓦礫と墓標を蹴るように駆けて跳躍。

 一瞬で、ハンカイとラライセたちを越えた。

 体から出た触手が、棘の大柄魔族に直進。

 骨剣は弾かれたが、「にゃごぁ――」と紅蓮の炎に包まれた棘の大柄魔族は塵となって消えた。

 

 硬いが弱点にはもろい。

 

 相棒が焼き払った『城壁砕き』の残骸を踏み越え、俺たちは更に奥のヴァルマスク大街の深部へと進もうとした刹那――。


 ヴァルマスク大街の空、否、結界の内部に一筋の漆黒の閃光が走った。

 それは雷でも光でもない。

 空間の亀裂そのものが走ったかのような黒い線。

 閃光が駆け抜けた軌跡から、どす黒い霧が噴出し、俺たちが通り抜けた結界を抉じ開けた巨大な穴に集積していく。

 周りの蒼い炎が消えて穴が塞がっていく。

 吸血神ルグナド側の後続の兵士たちの、こちら側への流入が極端に減っていく。


 更に、ヴァルマスク大街の上空、霧の表面に、巨大な三面六臂の異形――闇神リヴォグラフの幻影が出現し、


『「小賢しい連中めが、我の権益を……だが大人しくお前らは――」』


 幻影が膨大な闇の霧と<血魔力>を放ち、消える。

 すると、墓地エリアのさらに奥、街路が入り組んだ広場の方角に、強大な魔力反応が出現した。


「バシトルターゼと……あいつは誰だろうか」

「【異形のヴォッファン】の隊長クラス?」

「ここには【幻瞑暗黒回廊】ではないです。そして、傷場の防衛として、【暗夜十三の執行者】の一人、見た目からして、『壊僧かいそうザガン・ボルド』です」


 ファーミリアの言葉だ。

 すると、ラライセが、「ハッ、【暗夜十三の執行者】が出たぞ、傷場を失った時を思い出せ、彼奴らのセラ及び傷場の侵攻部隊の心臓部!!!」


 と叫ぶ。

 ラライセたちもヴァルマスク大街に侵攻していくが、中心部から、深紅の甲冑を纏った大柄な魔人――。

 更に、死の華を全身に咲かせているような異形の女魔人が出現し、ラライセたちと激突、ラライセとラライセの部隊の名の知らぬ、吸血神ルグナド様の眷族の一人が、互角に戦っていく。


「閣下、あの部隊の一部は私たちが対応しましょう」

「はい――」

 

 光魔魔沸骸骨騎王のゼメタスとアドモスが前に出て突進していく。


「ご主人様、わたしも行きます」

「うん」

「ん」


 ヴィーネたちも前に出た。


 敵の名前は知らんが、プレッシャーからして尋常じゃない。闇神の側近、大眷属クラスだろう。

 こちらにも深紅の魔人が放つ魔弾と、花の女魔人が撒き散らす毒花粉が飛来した。


「にゃごぁ」


 相棒の紅蓮の炎が、その魔弾と毒花粉の群れを焼き払う。

 しかし、その大眷属たちが連れている魔族兵たちは、皆が強い。

 ハンカイ、ルリゼゼ、ユイたちと互角に打ち合う魔族が増えてきた。


 相棒も触手骨剣で応戦するが、大眷属たちの連携とリヴォグラフの放つ圧力に押され、攻め手を欠く。


 背後の俺が開けた大きい穴も再び塞がろうとしている。

 吸血神ルグナド側の戦力と俺たち光魔ルシヴァルの戦力が分断されるのはまずいが、ヴァルマスク大街の周囲の結界は頑丈すぎるだろうし、俺たちでやるしかないか。


 と、深紅の魔人が放つ魔弾と花女が撒き散らす毒花粉がまたも飛来。

 それをまた相棒が「にゃごぉぉ」と紅蓮の炎を吐いて、消してくれた。


 ――その時。

 膨大な<血魔力>の氣配、そう吸血神ルグナド様だ。

 背後の修復しかけた大きい穴が弾け飛び、再び、否、結界の一部の霧が血色に変化し、一氣に熔解したように血の<血魔力>に変化し、大半が消えた。

 そして、


「――そこを退け、リヴォグラフ!!」


 血の霧から凛とした神の声が轟く。

 大きい穴の中心に血の霧の一部を集積させ、複数の蝙蝠、鳩、鴉と共に現れた吸血神ルグナド様は無数の『血剣』を周囲に展開した。

 すると、更に、闇神リヴォグラフ側の結界を消し飛ばしてから、浮上し、急降下――。


 その姿は、紅い流星そのもの。


 重力と加速を乗せ、右脚を鋭く突き出した飛び蹴り姿勢へと移行する。

 狙いは闇の霧の一部――異常な魔力が集積している一点か。

 その吸血神ルグナド様の周囲に展開されている数千の血剣が、降下に合わせ螺旋を描き一つの巨大なドリルとなって切っ先の右足に集束していく。


「『闇のクソ神ぃ――<吸血神技・赫き穿孔クリムゾン・ピアス>』」

『「――ぬぅッ!?」』


 吸血神ルグナド様の飛び蹴りの先にいたリヴォグラフが体現化。

 四本の腕で闇の防御陣を展開し、迎撃の闇刃を無数に放つ。

 だが、ルグナド様は止まらない。


 無数の血剣が闇刃を相殺し、突き出された右脚が、リヴォグラフの防御陣を紙のように貫いた。


 凄まじい轟音と共に直撃――。

 リヴォグラフの巨体がくの字に折れ、墓場の一部が消し飛ぶ。

 ヴァルマスク大街の他の街区へ弾き飛ばされる。


 衝撃波がヴァルマスク大街の一部を更地へと変えた。


『「グ、ゥ……ッ! ルグナドォッ!」』


 土煙の中から、リヴォグラフがゆらりと立ち上がる。

 腹部の甲冑が砕け、黒い血が滴っているが、その表情には痛痒よりも愉悦が浮かんでいた。致命傷には程遠い。寧ろ闇の魔力が強まっては、周囲の無数の赤い目が現れ、それ以外の大氣を漆黒に染め上げる。


『「挨拶にしては熱烈ではないか……良かろう、場所を変えるぞ!」』


 リヴォグラフが大地を蹴り、壁際から離れるように跳躍する。

 ルグナド様もまた、真紅の外套を翼のように広げ、それを追った。


「逃がしはせぬ! 決着をつけるぞ、古き怨敵よ!」


 二柱の神が、戦場の上空で激突し、ヴァルマスク大街の闇の霧の結界は次々に破壊されて消えていく。


 リヴォグラフの放つ闇の波動と、ルグナド様が操る血の奔流が交差した瞬間――。


 カッッッ!!


 世界の色が反転するほどの閃光。

 遅れて、爆心地から絶望的な衝撃が炸裂した。


「「「ギャアアアアアッ!?」」」


 その余波だけで、地上にいた闇神側のモンスター兵、そして逃げ遅れた味方の兵士の一部までもが蒸発。

 悲鳴を上げる間もなく、塵となって消滅していく。


 まさに神々の戦い。

 触れる者すべてを無に帰す、災害そのものだった。


続きは明日、HJノベルス様から書籍「槍使いと、黒猫。1巻-20巻」発売中。

コミック版発売中。

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