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槍使いと、黒猫。  作者: 健康


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2064/2122

二千六十三話 迷宮卿の再来と鏡の終焉

 <脳脊魔速>の時間が終了。

 一時的に<滔天仙正理大綱>など、纏っていた無数の<魔闘術>系統を消し、魔槍杖バルドークを振るう。

 

 穂先に残った闇の残滓を振り払った。

 全身にに伝わる<飛車鸞刃>の余韻か、<仙血真髄>と<脳脊魔速>の影響で魔力の循環が激しいが、<血脈冥想>を発動――。

 深呼吸するように<性命双修>と<滔天内丹術>を重ね掛けすると、聖域の加護効果もあり、疲労は一瞬で霧散した。


 だが、まだだ。

 戦いの一部が終わったに過ぎない。


 メイアールが残した魔剣はメルたちが素早く回収している。


 <夜行ノ槍業・飛車鸞刃>によって粉砕されたメイアールの残滓が、黒い雪のように宙空を舞い、<霊血の泉>の血水に触れては蒼白い炎を上げて消えていた。


 そこに、吹き荒れる無数の魔力が風となって飛来。


 魔法と魔道具などがあちこちで衝突し、爆風の嵐となっている。

 それぞれ毛色の異なる爆風を防ぐように、<夜行ノ槍業・召喚・八咫角>を回しつつ、飛来した魔矢の群れを左右に<雷飛>を使い避けていく。


 魔矢を寄越した連中の頭部が爆発している。

 相棒の細長い紅蓮の炎の攻撃と、カルードの<バーヴァイの魔刃>が、射手を守る大柄の魔獣兵を切断。

 ビュシエの<血道・血槌轟厳怒ブラッド・グリアグラッシャー>が、大柄の魔獣兵の頭部を潰すように倒し、ファーミリアのモーニングハンマーのような<龕喰篭手>が、遠距離から宙に血の尾を引くまま直進し、大柄の魔獣兵の頭部を捉え、豪快に潰しているのが見えた。


 ヴァルマスク大街手前の大戦場の一角を白銀と漆黒の火花で染め上げる。メイアールが消えたことで、魑魅魍魎のモンスター兵たちの動きが鈍くなったこともあり、ユイたちに次々に、それらモンスター兵を仕留めていった。


 そして、敵側の四眼二腕の魔族兵が、


「メイアール様が……!?」

「馬鹿な、リヴォグラフ様の加護を受けていたはず……」


 大眷属の消滅だからな。

 理屈を超えた根源的な恐怖を味わってるんだろう。

 浮遊する赤い札が力を失って地に落ち、闇神リヴォグラフの眷族たちの統制が目に見えて乱れ始める。


 ヴィーネの光線の矢が三つ、敵に向かう。

 <速連射>だろう。

 頭部だけが異常に巨大な、ドマダイのような魔族兵士の頭部を射貫き倒していた。


 続けて、ベネットとメルの〝ラヴァレの魔義眼〟の血のビーム状の魔弾が牛と鹿が融合したような魑魅魍魎の体を貫いていく。


 九槍卿の師匠たちが躍動している左側の戦場では、勝ち鬨の声が数十と響いている。


 ミスティとゼクス、師匠たち、バフハール、フー、ママニ、サザー、ハンカイ。頼もしい顔ぶれが、闇神リヴォグラフ側の眷族兵と向かい合えば、文字通り一瞬で勝負は決していた。


 <霊血の泉>から溢れ出した<血魔力>がプロミネンスの動き上昇し大氣の一部をルシヴァルの色に染め上げる。


 ルシヴァルの紋章樹から降り注ぐ光の粒子を浴び、皆の瞳には紅い闘志が宿る。そして、皆の体や足下には紋章樹の根が走るような赤い雷光が走り、加速を一段階引き上げているように見えた。

 

 聖域内において、強化された皆の一振りに込められた魔力は数倍へと跳ね上がっている。


 強者が現れても、大抵は、五合ほど打ち合う範囲で、倒していく。

 稀に、五手を凌ぐモンスター兵の隊長クラスも現れるが、長くは持たない。


 尽く敵を屠るのは、光魔ルシヴァル側の眷族たちに多く見えた。


 一方で、視界の左翼――。

 獄魔槍流のグルド師匠が、獄魔槍を振り上げ、隊長クラスを馬ごと浮かばせ続け上昇、更に漆黒の獄魔の魔力を纏わせた魔槍で<墜突落とし>を叩き込む。

 獄魔槍を活かした一突きが、指揮官クラスの魔族と馬ごと地面に埋没させた。着弾点から、獄魔の炎が周囲に衝撃波のように展開される。

 同時に獄魔の炎が不可思議に上下左右に行き交い、沈殿していく炎が揺らめく。

 獄魔の炎が鉛のように地面に居座り、砕けた石畳が浮き上がっては粉砕され、重力異常のような檻が形成されていた。


 周囲の獄魔の炎の衝撃波を浴びて耐えていた敵の一部が膝を突く。


 直後、死角から迫る敵増援に向け、穂先ごと体を閃かせながらの<獄魔破豪>を放つ。


 ――ドッと、爆ぜさせた獄魔槍の螺旋の奔流が一直線に突き進む。

 一列に並んでいた重装歩兵と、その指揮官の体を突き抜け、塵も残さず消し飛ばしていた。

 終わり際の獄魔の衝撃波により、二、三十人が吹き飛んでいた。


 その更に奥――。

 悪愚槍流トースン師匠が、<悪愚槍・鬼神肺把衝>を繰り出していた。放たれた一撃は物理的な破壊を超え、空間そのものを歪ませる。闇神リヴォグラフの権能を象徴する闇神柱が、その一撃に耐えきれず、内部から爆発するように粉砕された。


 ヴァルマスク大街を囲っている闇の霧が、トースン師匠の槍筋に沿って大きく割れる。


 露出した大街の壁に、深い亀裂が刻み込まれた。


 だが、結界の回復は異常なほど速い。

 削り取ったそばから肉腫のような闇が盛り上がり、傷口を塞ごうとうねる。


 だが、結界を一時的に払うことに成功する数は、確実に増えていた。嘗ての八槍卿、魔城ルグファントの守り手、八怪侠などと呼ばれ続けていただけはある。個々の武が、神の加護をすら力ずくでねじ伏せていく。


 この勢いを殺さず、更に戦場の懐へと食い込む。

 

 視界に入った巨大な闇神柱の残骸――。

 トースン師匠が砕いた石塊の群れを指差し、


「瓦礫と死体が邪魔――」

「<血鎖の饗宴>で、消す、否――エヴァ、あの瓦礫を足場にしよう、浮かせてくれ!」

「ん!」


 即座にエヴァが<霊血導超念力>の<血魔力>と紫の魔力で巨大な瓦礫を動かし、戦場の宙に固定する。


「あ、エヴァ、ナイス――」


 浮かんだ石塊を足場に、<ベイカラの瞳>を発動中のユイが、白銀の残像を引くように跳躍。瓦礫を足場に二段ジャンプ、敵の魔矢と火球と闇炎の飛び道具を連続的に避け、また、エヴァの用意した瓦礫を盾にするように、足場に利用し、重力をも置き去りにするような跳躍――宙空で更に加速し、斜め下にいる敵重装兵の群れに突っ込む。

 

 敵の頭上からイギル・ヴァイスナーの双剣を振り下ろした。

 <舞斬>か、ユイは前回転しながら、敵を切断、地面をも斬り裂くと、後転から反転し、次の重装兵へと、目にも留まらぬ速度で間合いを潰し、<聖速ノ双剣>を繰り出す。無数の剣閃がユイの動きに遅れて出現していく。


 そのユイは<血液加速(ブラッディアクセル)>の収束を、体で示すままイギル・ヴァイスナーの双剣から、神鬼・霊風に切り替え、居合いの仕種で、動きを止める。

 

 日本人故か、時間が止まったように、感じた刹那――。


 居合いの<暗刃>を、左の魔獣兵に繰り出し、真っ二つに処した。


 俺も<鎖の因子>を射出し、巨岩を軸にして体をスイングさせ、遠心力を乗せた魔槍杖バルドークの<龍豪閃>――。


 回避運動に入ろうとした敵の隊長クラスを地面ごと薙ぎ払う。


 連携は止まらない。

 エヴァが浮かせた瓦礫を、弾丸のように敵の密集地帯へと射出。

 轟音と共に石塊が爆ぜ、逃げ場を失った敵軍にユイが追撃の斬撃を叩き込んでいった。


 少し<武行氣>で浮遊しながら後退。

 

「――閣下、先程のメイアールを仕留めた連続攻撃は凄かったです!」


 ヘルメの歓喜の声が響く。

 飛翔しながら両腕の先から生み出した《氷槍(アイシクル・ランサー)》で、動揺している闇神リヴォグラフ側の兵士たちを串刺しにしていく。


「おう」


 ミラシャン、ナイア、フィナプルスもそれぞれの獲物を手に、混乱する敵陣へと斬り込んでいく。


 視線をヴァルマスク大街を隠すように展開されている闇の霧と、軍勢に向けた。

 

 すると、メイアールを倒した影響か、ヴァルマスク大街の結界の一部から溢れ出していた紫黒の閃光が一時的に弱まっていく。


 しかし、そこから漆黒の肉腫が四方に伸びた。

 ――ズズズズズ……。


 地響きと共に、ヴァルマスク大街を覆う結界のほころびを埋めていた漆黒の肉腫の一部が熟れた果実のように破裂した。

 中から赤黒い粘液を垂れ流しながら這い出してきたのは巨大な眼球と手足の群れ。


 眼球と手足の表面には血管のように無数の魔法陣が刻まれ、瞳孔の奥で紫色の光が明滅している。


「シュウヤ様、あれは……『闇視監ダークウォッチャー』の変異種かと!」


 ファーミリアが警告を発し、サンスクリットの血霊剣を構える。

 近くで戦っていたヘルメ、ミラシャン、ナイア、フィナプルスも、新たな脅威へ即座に反応していた。


「変異種か。なら、視られる前に潰す」


 魔槍杖バルドークを構え、踏み込もうとした刹那――。

 闇視監の巨大な瞳が奇妙な輝きを放ち、周囲の空間そのものがぐにゃりと歪んだ。景色が反転し、距離感が狂う。


 足下の瓦礫が壁になり、空が床になるような平衡感覚を奪う悪夢。


 空間が飛び飛びに切断され歪み、鏡の世界が見え隠れ。

 歪む際、耳の奥でパキパキと空間が組み変わる嫌な音が響き、三半規管を掻き乱していく。

 

 足下の硬質な瓦礫は、突如として粘膜を伴う内臓のような、生温かくぬちゃりとした不快な感触へと変質した。


「――ヒヒヒ……久しぶりだな、光魔の槍使い。聖都サザムンド以来か。そして、以前採取した神獣の炎、貴様の鎖の能力……それらの解析資料はすでに、闇賢老バシトルターゼの下だ」


 歪んだ空間、あるいは闇視監の瞳を鏡代わりにして、肥満体に迷路の刺青を施した醜悪な男が幻影のように浮かび上がった。


「……迷宮卿フニガモード」


 忘れるはずもない。

 かつて俺の前から逃亡し、あろうことか相棒の紅蓮の炎を「サンプル」として奪い去った闇神リヴォグラフの大眷属。


「ンンッ、フーーッ!」


 相棒も即座に反応し、背中の毛を逆立てて威嚇する。

 ヘルメも不快感を露わにし 水の魔力を全身から漲らせた。


「あの時の無礼な輩ですね! 今度こそ逃がしません!」

「ハッ、何が逃がさないだ」


 フニガモードは下卑た笑みを浮かべる。

 ヴィーネが、冷徹な銀の眼差しを射抜き、


「死になさい――」


 静かな宣告と共に、幾条もの光線の矢を放つ。だが、その光はフニガモードが展開した鏡の迷宮に吸い込まれ、虚無へと消えた。


 そのフニガは、俺と相棒、そして展開しているヘルメたちを見回してから背後――脈動を続ける漆黒の肉腫と、未だ堅牢に大街を守る闇の結界へと向け、


「――あの時は準備不足だったが……今は違う。見ろ、この素晴らしい『素材』を。リヴォグラフ様の結界より溢れ出る濃密な闇、空間を埋めるこの肉腫……これほど極上の迷宮資材はあるまい」


 レベッカも、そんなことを語っている余裕を崩さないフニガに蒼炎弾を差し向けるが、やはり鏡の迷宮に飲み込まれて消える。


 フニガは無数の鏡を伴いながら、両手を広げると肉腫から溢れ出る闇の霧が周囲に広がる。それは<霊血の泉>の血の泉が多いところを避けて戦場の空間の一部を生き物のように蠢く迷路へと変質させていった。


 フニガ、油断し過ぎだ。

 右手の魔槍杖バルドークを消しては再出現させる。

 左手に神槍ガンジスを召喚。


 ――<隻眼修羅>を再発動。

 <魔技三種・理>を意識。<血道・魔脈>と<仙血真髄>を再発動、<脳脊魔速>ももう一度、使う。


 更に囮の魔法として《氷竜列(フリーズドラゴネス)》を数十と連発、発動。

 フニガモードは、複数の鏡を用意し、転移を繰り返す。

 複数の氷竜となった《氷竜列(フリーズドラゴネス)》と鏡は衝突、吸収されるが、一部の鏡を破壊。


 『闇視監ダークウォッチャー』をも次々と凍らせ、破壊していく。


 そして、フニガの動きを予測しつつ<隻眼修羅>を使いながら<仙魔・龍水移>――。

 

 フニガは切り札の速度に対応するように、俺の転移先に鏡を置いて迎撃を試みる。


 だが、神槍ガンジスで<光槍技>の<戦神震戈・零>を発動させる。

 体から芳醇な酒の香りが噴出。


 同時に神槍ガンジスの双月刃が、虚飾の鏡を紙細工のように突き抜ける。


 煌びやかな戈が神槍ガンジスと重なるように顕現し融合しながらフニガモードに向かった。


 更に、フニガモードの魔力の流れを、<隻眼修羅>が逃さず捉え、追う。


 もう、それは一度、前に見ている――。


 転移するように背後の鏡の中に消えて、左の鏡に転移していたが――<雷光瞬槍>を使い、その鏡の前に転移するまま<紅蓮嵐穿>――。

 体と魔槍杖バルドークから龍の形をした<血魔力>と魑魅魍魎の魔力の嵐が噴出――。

 秘奥が宿る魔槍杖バルドークごと次元速度で直進し、鏡にいるフニガモードごと鏡を突き抜けた。

 背後の肉腫と連なっている闇の霧と闇柱をも突き抜ける――。

 奇怪な残骸が降りかかるが、ヴァルマスク大街の壁を溶かしたと瞬時に理解、結界の一部を破壊したようだ。墓石の群れと、ヴァルマスク大街の一部が見えた。

 半身で背後を見ると、俺が突き抜けた一直線の跡がヴァルマスク大街の壁をくり抜いたように残るのみだった。同時に膨大な魔力を得た。

 

 フニガモードは完全に倒しきったようだ。鏡は消えている。

 

続きは明日、HJノベルス様から書籍「槍使いと、黒猫。1巻-20巻」発売中。

コミック版1巻-3巻発売中。

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