二千五十七話 砂城より降臨せし四竜と、六腕を穿つ神槍の閃光
ヘルメの心地よい水の冷たさと魔力が右半身に馴染む。
そして、ムラガ墓群を覆っていた魔導干渉塵が完全に引き剥がされ、赤みを帯びた光が、荒野を赤く染め上げる。
敵軍の数は、本陣にいる数を合わせて、残り一万ほどか。
士気は落ちたから、戦は此方側だろう。
「ふふ、閣下、素敵な勝利。しかし、これで双方とも大規模な攻撃が可能となったということ。氣を付けましょう。特に、あの黒い墓が連なっている陣地にいる総大将は強そうです」
だが、その静寂を切り裂き、宙空の残滓が意志を持って蠢いた。不気味な複眼と幾対もの翅を持つ、魔蛾王ゼバルの巨大な幻影が天空に浮かび上がる。
『「光魔ルシヴァルめが、お前らは、ここで蛾の幼虫として悶え死ね、<魔王蛾・紫卵悶絶>――」』
魔蛾王ゼバルの巨大な幻影は、幻影らしからぬ、神意力を帯びたシャウトとして、ムラガ墓群の大氣を震わせてくる。魂を押し潰してくるようなプレッシャーを感じた。
幻影が翅を羽ばたかせた刹那、漆黒の虚空から溢れ出した無数の魔蛾が因果を歪める紫の鱗粉を豪雨のごとく撒き散らした。
<闇透纏視>と<隻眼修羅>で、その幻影を凝視。
高台の本陣らしき場所から魔線が、魔蛾王ゼバルの幻影と繋がっていた。
「神意力のプレッシャーは中々のモノ。そして、三つの魔神具を潰しても、本陣には、約一万と少しはいる」
獄魔槍流のグルド師匠の言葉に頷く。
すると、飛怪槍流グラド師匠が、
「ふむ、レプイレス、頭上に」
「頭目、承知、弟子、妾が展開するが、一応は――」
飛怪槍流グラド師匠に言われたレプイレス師匠が女帝槍を上空に放る。
そこから城塞の幻影が展開され、結界が生まれ出た。
だが、降り注ぐ不浄が地に届くより早く、遥か高みの空が赤熱した。
――滞空する白亜の砂城から、かつて死闘を演じた四体の竜の時魂が、四条の閃光となって戦域を貫く。網膜を焼くほどの輝きが収束した刹那、圧倒的な質量と威圧感と共に伝説の竜たちがムガラ墓群の空へと君臨した。
しかし、その不浄が地に届くより早く、遥か上空に停泊する白亜の砂城から祭壇が激しく脈動し、かつて死闘を演じた四体の竜の時魂が圧倒的な質量を伴って降臨する。
「――グォォォォォン!!」
炎竜ヴァルカ・フレイムが紅蓮の吐息で空域を焼き尽くし、降り注ぐ呪いの鱗粉を蒸発させていく。続いて雷竜ラガル・ジンが稲妻の化身となって駆け抜け、網状の放電で魔蛾の群れを根こそぎ粉砕した。
「ハッ、弟子と妾たちにはこれがあったな――」
レプイレス師匠は笑いつつ女帝槍を消す。
更に深淵のネプトゥリオンが、「ガォォォ――」と蒼き氷槍の雨を降らせ、残党を氷の彫像へと変え、地竜ガイアヴァストが放つ地脈の重圧がゼバルの幻影を維持する魔力供給を強引に圧壊させた。敵の本陣、高台の一部が崩れるように地盤が崩れていく。
竜たちがムラガ墓群の空域を潰すように躍動した。
制空権は俺たちが完全制圧と理解できた。
すると、ハンカイが、
「空は我ら、光魔ルシヴァルの地に落ちた、このままムラガ墓群を制圧するぞ、目指すは敵の本陣、あの墓の高台だ!!!」
「「「「おう!!!」」」」
五派同盟の兵士たちが呼応する。
「「おう! 霧が晴れた! 見事だ、シュウヤ様、そして、後ほど、また――」
吸血神ルグナドの筆頭従者長、レカーが<血魔力>を体から噴出させながら、ハンカイたちを超える速度を出した。
魔槍を突き出し、まだ生きていた魔蛾王ゼバルの眷族兵を次々に穿ち抜く。
直進を続けるレカーは、細身でしなやかな肢体からは想像もつかぬ凄烈な武威を放っている。
その手元は一切のブレもなく、長槍の穂先が描く銀閃は、瞬く間に周囲を骸の山へと変えていく。 敵陣を力任せに喰い破った彼女は、全身から迸る<血魔力>で大気を震わせた。
「敵将は何処!!!」
鋭い咆哮と共にマントを翻し、再び地を蹴る。その軌跡は紅い雷光そのものだ。
「そこか! 吸血神の武威、その目に焼き付けよ!」
と、発言すると、斜め下にいる蛾の巨大幼虫目掛け、直進。
血を吸う魔槍を彗星のごとく振るい、巨大幼虫を斜めに両断。倒すと、彼女に近づいていく、敵衆の蛾と魔族のモンスター兵を、魔槍の石突で破壊、そして、一突きごとに魔族の命を吸い上げるように、亡骸を量産していく。
純粋に、強い。
そこに、「恐王ノクターの名において、この地を汚す羽虫どもを排除せん! 者共、続け!」
恐王ノクター側の責任者、ヴティガ・ハイケナンが漆黒の戦斧を掲げて咆哮した。ノクターの精鋭たちが重装騎兵さながらの突進で、逃げ場を失ったゼバル軍の側面を強引に食い破っていく。レカーの横を守るように近づいては、蛾の幼虫と合体している大型モンスターに、漆黒の斧を<投擲>し、潰すように漆黒の斧で倒していた。
地上の五派連合の武威が一氣に加速する。
ハンカイも近くにいた。
金剛樹の斧で敵の防陣を真っ向から叩き割る。
ハンカイの呼びかけに呼応し、ママニが背後から大型円盤武器アシュラムを水平に射出。地竜ガイアヴァストの素材を活かしたアシュラムが空氣を切り裂く高周波を纏い、密集していた魔族の脚部を纏めて細断。立ち上がれなくなった敵の隙を、小柄なサザーが雷光のような踏み込みで通り抜け、正確にその命を刈り取っていった。
ヴィーネたちもフォローに動いている。
光精霊フォティーナと闇雷精霊グィヴァもルリゼゼたちの背後に回っていた。
皆の活躍に合わせ、<月冴>と<闘気玄装>を維持し、他の<魔闘術>系統は消す。
片腕を皆の方向に向けた、「ふふ、閣下に合わせます――」ヘルメが水飛沫の霧となって俺の両腕から迸る。
戦況に合わせ両手首の<鎖の因子>から<鎖>を射出した――。
更に《連氷蛇矢》を連射――。
ヘルメと融合しているように見えた梵字に光る<鎖>の先端が、重装の鎧を着た魔蛾兵たちの腹と背を何度も突き破り、串刺しの、肉団子状態で、<鎖>にぶら下がっていく。
<鎖>を振動させると、死体は溶けるように<鎖>の真下に落下していく。
そんな中、《連氷蛇矢》が、翅の大きい射手の体をヒットしていく、その体と翅を穴だらけにしていった。
<鎖>の操作を続ける――。
蛇のように宙空を移動する<鎖>、そのティアドロップの形の先端は、ハンカイたちの進路を塞ごうと動いた魔蛾兵の部隊の背、頭部、腹、足を貫きまくる。
そして、氷縛柩と<光条の鎖槍>をも放ち、戦場に橋頭堡を確保していく。
順調だったが、高台から爆発音――。
レカーとヴティガが、左右に吹き飛ばされ、その高台の墓で何度も爆発が繰り返された。
敵本陣がまだ落ちていないことを確認。
「閣下、完全に分離して戦いますか?」
「――いや」
と<血魔力>を半身が液体状のヘルメにプレゼントしたら、
「あん」
と感じたヘルメは液体の一部が俺を模るまま蒸発して消えていく。
面白い。
「はは、そのままフュージョン<精霊珠想・改>の臨機応変さは、活かしてくれ。霊血装も使う」
「ふふ、はい!」
<血道第四・開門>――。
<霊血装・ルシヴァル>を展開。
光魔ルシヴァル宗主専用吸血鬼武装の面頬が展開した。
光と闇の運び手の装備に埋め込まれたメリディア様の秘石が魔線で繋がり、青白い光を放つ。その魔導の循環に呼応し、髑髏模様の外骨格甲冑の表層へ、新たな魔法の膜が波紋を描くように広がり、周囲の不浄を弾き返していく。
「ングゥゥィィ!」
肩の竜頭装甲がその循環と装備の固定に呼応して音を上げた。
レカーが墓を蹴り跳躍し、爆発を起こしている現場に走って行く。
そこには、六腕の魔族がいた。
魔蛾王ゼバルの大眷属、総大将だろう。
六眼六腕の総大将は身を捻り、魔蛾王ゼバルの幻影を発しつつ、レカーが突き出していく無数の槍の連続攻撃を、片手の指先だけで弾いていた。
蛾の鱗粉のようなモノをまきながらの蹴りも素早い、レカーは<風柳・中段受け>と<風柳・下段受け>のようなさばきで、蹴りを防ぐ、続けて裏拳の挙動の爪の攻撃が、突如として爪が、両手剣のように伸び、雷を纏う、<闇雷・飛閃>のような攻撃を繰り出していく。
それを防いだレカー。
敵の六眼六腕の魔族は動きが速く強い。
「シュウヤ様――」
ビュシエが前方に石棺を用意し、先程と同じく足場を作ってくれた。
「ンン」
相棒と共に石棺の連続的に蹴って高台を目指す。
レカーに続いて、ヴティガも、敵の六眼六腕の魔族の得物の魔斧との衝突に敗れて吹き飛ぶ。その六眼六腕の総大将目掛け、<雷光ノ髑髏鎖>を意識し発動。
<血魔力>を込め、<鎖の因子>から<鎖>を射出した。
総大将は「!?」と驚きながらも<鎖>に反応し、爪先で<鎖>を弾こうとしたが、弾くことはできず、<鎖>は直進し、爪と指と腕を貫き、「ゲェァ――」と、その腕の一本を強引に絡め取るまま、直進した。
挙動を固定し、<鎖>を収斂させ、<脳脊魔速>――。
切り札を使用し、<握吸>と<勁力槍>を発動させながら、総大将を引き寄せるように直進。
無防備な胸へと近づいた。方天画戟と似た双月刃の神槍ガンジスで――。
<神槍・烈業抜穿>を発動。
螺旋の氣を凝縮させた神槍ガンジスが、大氣を爆ぜさせながら直進する。
総大将が展開した蛾の紋様の防御術式が盾となって立ちはだかるが、槍先は紙細工でも破るかのように、その抵抗を無慈悲に粉砕した。
肉を断ち、骨を砕き、心臓ごと上半身を穿ち抜く確かな手応えが右腕に伝わる。
噴き出す霧状の魔力を切り裂きながら、背後へ突き抜けた神槍を宙で掌握し、即座に旋回し、<魔皇・無閃>を叩き込んだ。
刹那、次元が揺れるように地響きが響いた。
『「グアアアアァァァッ!!」』
バリバリィィィィィィン!!
大将の声ではない魔蛾王ゼバルの悲鳴のようなモノが空間から響くと、跡形もなく消滅した。
絶叫と共に、総大将が光の塵となって霧散していく。
司令官を失った敵軍は、統制を完全に失った。
地上からはハンカイ、レカー、ヴティガたちの容赦ない追撃が加わる。
ムラガ墓群を支配していた不浄な軍勢は、五派連合の圧倒的な力によって、今や一匹残らず塵へと還されようとしていた。
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