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槍使いと、黒猫。  作者: 健康


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2053/2090

二百五十二話 【峰閣砦】の軍議と加速する戦局

 魔界の重厚な魔素が肌を叩いた、その時。


 肩の竜頭装甲(ハルホンク)の衣装に〝光陣の宝珠〟と、手首の〝光紋の腕輪〟が、意思とは無関係に静かな青白い光を放ち始める。


 呼応するように、視界に赤い血文字が浮かび上がった。


 砂城タータイムにいるルシェルからの連絡だ。


『砂城タータイムのアイテム化を忘れてますよ』

「あぁ、忘れてた、ごめん、今戻る」

「ん、わたしも忘れてた」

「ふふ、私もです」

「すいません、分かってましたがご主人様は魔霊のシンバルを使って傷場を拡げていたので」


 ヴィーネの言葉に、「はは、いいさ、では、ちょい戻ってくる」


「はい」


 皆と目配せをし、開いたままの傷場を逆送するように惑星セラ側へと戻った。


 砦の上空に浮かぶ白銀の城塞――砂城タータイムを視界に収め、意識を集中させた。


 巨大な質量を<血魔力>で包むように、一氣に収束――。

 空を覆っていた城塞が瞬く間に縮小し、手のひら程の精巧な模型へと姿を変える。


「シュウヤ様」

「おう、ルグナドの類縁地での状況次第だが、また操作を頼むかもだ」

「はい」


 地上へと降り立ったルシェルを伴い、再び傷場を潜り抜けた。


 再度、魔界の地へと足を踏み入れる。

 【デアンホザーの地】の出口では、魔皇メイジナ様、神魔の女神バルドーク、第一王女ギュルアルデベロンテ、そして光魔騎士グラド、〝巧手四櫂〟の面々が、俺たちの帰還を静かに迎えていた。


「ン、にゃ~」


 魔皇獣咆ケーゼンベルスと鼻キスの挨拶をしていた黒猫(ロロ)が鳴く。

 

 山のような巨躯の魔皇獣咆ケーゼンベルスは、


「ウォォォォン!! 主! お帰りなのだ」

「「「ウォォォン!」」」


 その魔皇獣咆ケーゼンベルスの周囲にいた多数の黒狼たちも頭を垂れてくる。


 前に、騎兵代わりになる黒狼たちの数を増やす計画を、光魔騎士グラドから聞いていたな。


 ケーゼンベルスは盛大に鼻息を吹くと、前にいた黒狼が退いていく。

 のそっとした動きを見せたケーゼンベルスは体を縮小させると、俺たちの前に歩いてきては、また頭を下げた。

 エヴァが、そのケーゼンベルスを抱きしめ、


「――ん、ケーちゃん。御守りご苦労様」


 ケーゼンベルスはエヴァに頭部を寄せて、


「ウォォン! エヴァ! お前の温もりは最高だ!」

 

魔皇獣咆(ケーゼンベルス)は、エヴァの腕の中で嬉しそうに尾を激しく左右に振り回す。その勢いで周囲に心地よい風が巻き起こり、黒狼たちがクンクンと鼻を鳴らして俺たちの周りを楽しげに駆け回り始めた。


 ケーゼンベルスがエヴァに頭部を寄せて甘える様子を、メイジナ様が柔和な、けれど不敵な笑みを浮かべて見つめていた。


「ふふ、相変わらず主と眷族たちには、甘いのだな、ケーゼンベルス。だが、そのはしゃぎよう……其方の活氣が戻ったようで、私としても鼻が高いというものだ。なにせ、我ら魔皇同士、この地を盤石にせねばならんからな」


 メイジナ様の言葉に、ケーゼンベルスも誇らしげに胸を張る。


「ウォォン! メイジナ、分かっているとも。主が戻られた今、我らの武威を改めて魔界に示す時なのだ!」


 ケーゼンベルスは魔獣で、メイジナも復活したばかりだが、長き時を経た友のような信頼の空氣だ。


 その光景に神魔の女神バルドークも優雅に頷き、歩み寄ってきた。


「おかえりなさいませ、閣下。吸血神ルグナドのルグナドの類縁地を巡る、諸侯と神々の争いは、こちら側が優位に運んでいます」

「それは良かった。まずは【レン・サキナガの峰閣砦】へ向かおう。これからの軍議は、あちらで執り行う」


 皆が力強く応じる。

 〝レドミヤの魔法鏡〟を設置し、【魔界:レン・サキナガの峰閣砦】を選択。鏡から放射された魔力が瞬時に、【峰閣砦】の大楼閣の内部の空間に切り替わる。


〝レドミヤの魔法鏡〟から放出されている魔力の境目は、【デアンホザーの地】の地面と【峰閣砦】の内部が戦うように揺らいでいた。


 その先には、アドゥムブラリ、レガナ、レン、バーソロン、サシィ、バミアル、キルトレイヤ、リューリュ、ツィクハル、パパスがいた。

 

 バーソロンたちは、お辞儀をしている。

 

 皆で、〝レドミヤの魔法鏡〟が展開している【レン・サキナガの峰閣砦】の大楼閣の床に足を踏み入れた。


 足元には、細かな卍崩しの組み子が施された木床が広がり、見上げれば巨大なプラネタリウムのようなドーム型天井が、魔界の星々を擬似的に映し出している。


 レンたちと周囲の監獄主監ルミコと、峰閣守衛隊は一斉に頭を垂れた。


 ザッと金属音が響く。


 頷いてから、振り向き、俺たちが通り抜けた〝レドミヤの魔法鏡〟を回収した。


 峰閣砦の柱や床からいい香りが漂う。

 深呼吸をするように振り向き直した。

 アドゥムブラリが、


「よう、主、セラでも様々だな、八槍卿とバフハールに、シャイナス殿も、よろしく頼む」

「「「おう」」」

「「あぁ」」

「はい」


 アドゥムブラリと飛怪槍流グラド師匠が早速、フロルセイル地方側の戦力を語り出す。


 そして、レンたちが歩み寄ってきた。

 

 レンは、艶やかな黒髪を揺らし、和洋折衷の美しい着物ドレスを纏っている。

 

 片手に金細工の煙管を持ち、優雅に一礼してきた。


 ドレスのスリットからは、太股に刻まれた『血闘争:権化』と『血鬼化:紅』の刺青が、彼女の武人としての誇りを示すように覗いていた。


「シュウヤ様、お帰りなさいませ、『王婆旧兵』と『百足の覚醒』の事業は順調に推移しています」

「シュウヤ、お帰り! 八槍卿とバフハールさんにシャイナスも、歓迎します」

「陛下、お帰りなさいませ」

「あぁ、レン、サシィ、バーソロン、留守を任せてすまなかったな」


 元デラバイン王族の威厳を漂わせるバーソロンと、元気そうな源左サシィが恭しく膝を折る。


 周囲を見渡す。


 一階の壁に嵌め込まれた〝魔吸陰龍クィンベルの大鱗〟と、不気味な光を放つ〝魔霊大竜ゴィルサンサの赤眼〟が、砦全体を覆う強固な結界を維持しているのが魔察眼越しに視て取れた。


「ンン、にゃ~」


 相棒の黒猫(ロロ)が肩から降り、レンの足に近づく。

 レンは愛おしげに目を細めると、煙管を置き、相棒の喉元を優しく撫でた。


「ふふ、ロロ様も相変わらずお元氣そうで。……さて、シュウヤ様。バルドーク様からもお聞きでしょうが、吸血神ルグナド様の類縁地を巡る争い、現在はこちらの優位。ですが……」


 レンの瞳に知的な鋭さが戻る。


「サイガナン様から届いた予言が少し氣になりますが、差し迫った状況のほうが大切、各諸侯の不穏な動きについて、早急に方針を定めましょう」

「あぁ、そうだな。ハンカイたちと合流するか、それとも吸血神ルグナド様と、また会合することになるか。砂城タータイムを展開しながら、少し議論を重ねようか、この近隣の諸勢力に向けて動いていた光魔騎士たちからの意見も聞きたい」


 レンが上草影衆の〝影読〟と、黒鳩連隊ソウゲンの〝魔金鳩〟と峰閣守衛隊の侍たちに目配せ、


すると、彼らは「ハッ」と迅速に動く。

 一瞬で、巨大なボードが目の前に浮かれ、巨大な周辺地域の立体地図が浮かんだ。

 前にも魔地図はあったが、レンたちは、良い魔地図を入手したようだ。


 そこで、光魔騎士グラド、光魔騎士ヴィナトロス、光魔騎士ファトラの三人が、指揮棒を持ちつつ、地図を示す。


「現在、【バーヴァイ城】の北東と東方と南方にて、怪しい動きが活発化しています。それ以外は、マセグドの大平原にて我が軍に加わった恐王ノクター側の恐蒼将軍マドヴァの軍とメリア・ローランド率いるペントリアム魔傭兵の連合軍が、<従者長>アチたちと共に、王魔デンレガの支配地域をかなり喰い破っております」

「はい。吸血神ルグナド様、悪夢の女神ヴァーミナ様、恐王ノクター様の軍が各地域で連携し、闇神アスタロト、悪神デサロビア、魔蛾王ゼバル、魔公爵ゼンなどの大小様々な軍を撃破し続けいます」

「はい、続いて、バーヴァイ地方の右にある厖婦闇眼ドミエルの支配領域においても動きがあり、厖婦闇眼ドミエルの眷族が率いる小規模な部隊と、魔裁縫の女神アメンディ様と<従者長>ラムラントとアミラが戦い、それを撃破しています」


 光魔騎士ヴィナトロスの詳細な報告に、立体地図を凝視したまま頷いた。

 

 魔界の情勢は刻一刻と変化している。


「……ノクター側の軍勢とアチたちの連携は機能している。王魔デンレガの勢力圏を順調に削っているのは大きい」


 腕を組み、目まぐるしく変化する魔地図を凝視した。


 魔公爵ゼンや闇神アスタロトといった大物の軍勢を、ルグナド様や恐王ノクター、更にはヴァーミナ様の協力も得て各個撃破し続けている現状は、俺たちにとって大きなアドバンテージだ。


 これだけの強敵を相手に優位を保てている事実は光魔ルシヴァルの力が魔界に着実に浸透している証拠でもある。

 

 だが、そんな好条件の中でも、地図の右側に横たわる厖婦闇眼ドミエルの領域が氣になった。


 厖婦闇眼ドミエル。


 ふと、魔街異獣の大厖魔街異獣ボベルファと、魔王級半神のミトリ・ミトンの同行が氣になった。


 そこで、ハルホンクの防護服を意識して、鬼魔砦統帥権の鬼闘印を胸元に出した。


 そろそろこちらのバーヴァイ地方に辿り着く頃合いのはず。ミトリ・ミトンと連絡を取ってみるかな。


 ……玄智の森で助けた魔将オオクワ、アラ、トモン、ジェンナ、ザンクワ・アッリターラ、魔界騎士ド・ラグネスなど、鬼魔人と仙妖魔の数千人が大厖魔街異獣ボベルファには乗っている。


 そんなかつて助けた鬼魔人と仙妖魔たちの軍勢を思い出しつつ、


「……アメンディ様とラムラントたちがドミエルの眷族を退けたか。だが、ドミエルは、一度セラ側で、その眷族を倒したこともあるからな……」

「ん、ケンダーヴァルの、サセルエル夏終闘技祭で戦った闇ギルドにいた」


 エヴァの言葉に頷く。

 ヴィーネも、


「はい、【闇剣の明星ホアル・キルアスヒ】のホアルの体を利用していた」


 続いてキサラが、


「はい【闇剣の明星ホアル・キルアスヒ】は、【闇の枢軸会議】の大枠の中の【闇の八巨星】の一つ。魔人武王の弟子の一人も、その【闇剣の明星ホアル・キルアスヒ】に所属していた。そして、もう【闇剣の明星ホアル・キルアスヒ】は、【闇の八巨星】とは呼べない戦力に落ちているはずです」

「あぁ、そうだな」


 そこで、地図の一点――バーヴァイ地方の東側を指差し、


「レン、この厖婦闇眼ドミエルの領地だが、どうみる? 細長い領域、背後には暴虐の王ボシアドや闇神リヴォグラフなどの領域もある。下には狩魔の王ボーフーンの領域もある」


 レン・サキナガは頷いた。

 

 手に持った金細工の煙管を口に運び、紫の煙を悠然とくゆらせた。


 組み替えた脚のスリット(・・・・)から、太股に刻まれた『血闘争:権化』と『血鬼化:紅』の刺青が、星光に照らされて不敵に艶めく。


「えぇ。アメンディ様たちが退けたのはあくまで尖兵に過ぎません。ドミエルの『闇眼』は多層的な監視網を持ち、こちらの戦力分析を終えた後に本隊を差し向けるのが常套手段ですわ。……シュウヤ様、サイガナン様から届いた予言、そしてこの戦況。わたくしたち光魔ルシヴァルが、魔界の均衡を左右する鍵であることは間違いありませんわね」


 レンの瞳に知的な鋭さが宿る。


 その横では、バーソロンが甲冑の音を鳴らして、俺の前に跪いた。


「陛下、ドミエルの動きは不気味ですが、どのような軍勢が押し寄せようと、魔炎神ルクス様の炎、そして光魔ルシヴァルの<筆頭従者長(選ばれし眷属)>の誇りに懸けて、わたくしたちが必ずや陛下の道を切り拓きましょう」

「あぁ、頼むぞバーソロン」


 続いて、サシィが魔斧槍源左を肩に担ぎ、黒髪を靡かせて一歩前に出た。


「シュウヤ、わたしも同じ気持ちよ。源左の槍斧部隊は、いつでも出陣できる。アメンディ様たちと協力して、ドミエルの『闇眼』ごと叩き潰してやるさ」


 彼女たちの頼もしい言葉を聞きつつ、俺は光魔騎士グラドへ視線を向けた。光魔騎士グラドは、指揮棒を手に深刻な表情で「……陛下、懸念すべき事項がございます――」と語り、


 地図、【源左サシィの槍斧ヶ丘】の上部、ここからだと南、バーヴァイ地方からだと北西に辺を差す。


「ここから南東の【ベルトアン荒涼地帯】の境界付近にて……かつて【源左サシィの槍斧ヶ丘】の源左たちを苦しめたナーガ・ロベの遊撃部隊らしき影が再浮上しております。皆が言っているように、神出鬼没、機動力があり、どういうことか、トトグディウスの眷族と、合流を図っているという未確認情報も……また、ここから北東の魔蛾王ゼバルとの連携もあるようですから、注意が必要です」

「……十層地獄……セラでは、ガルドニクスを倒したが……まぁ、力を持つ魔神の一柱だからな……」


 クナが月霊樹の大杖を握り直し、真剣な面持ちで、


「闇神リヴォグラフと同様に、各地域に眷族を送り込んでいるはずですわね」


 と発言。

 深く頷く。奴ら魔神の侵食は単なる領土争いを超えて、魔界全土、あるいはセラ、異世界へと網を広げている。


「戦うなら戦うまでだ」


 そう言うと、バーソロンが、頬の炎の模様を誇らしげに輝かせ、


「陛下。ナーガ・ロベですが、トトグディウス、魔蛾王ゼバルの他の諸勢力とも連携している可能もあります」


 メルも、


「魔地図を見る限り、王魔デンレガ、闇神アスタロト、南の狩魔の王ボーフーン辺りは怪しいです」


 その言葉に、

「あぁ、そうだな」


 と肯定。そして、魔槍杖バルドークを一度出現させ、紫の柄を握る。手の中に宿る魔力が、これからの戦いを予見するように熱く脈打つ。


「後ほど、砂城タータイムを出すとしよう」

「「はい」」


 バーソロンとレンが同時に頭を垂れる。

 サシィも魔斧槍源左の石突きを床に突き立て、闘志を露わに、


「シュウヤ、わたしも同じ気持ち。ナーガ・ロベの遊撃部隊……魔王ベルトアンは、光魔ルシヴァルの勢力が広がることで、魔蛾王ゼバルなどの勢力地域に退いては、ちょくちょく、小競り合いを起こしている。そして、わたしの父の命を奪った因縁、ここで本格的に戦うことができたならば、断ち切らせてもらう」


 頷いた。


「よし。レン。砂城タータイムは、この峰閣砦の上空にて、戦闘形態で待機させるつもりだ。クナ、ルシェル、砦の防衛と、ドミエルを含めた戦域の監視を頼む」

「了解です」

「はい、お任せですわ」


 ルシェルとクナの落ち着いた声が大楼閣に響く。


「ヴィーネ、エヴァ、レベッカ、ユイ、キサラ! 俺たちは先遣隊として相棒と共に警邏に出ようかナーガ・ロベが出撃したら逃がさず仕留めようか」

「「「「はい!!」」」」


 眷族たちの力強い返事が揃う。


「にゃ~」


 相棒の黒猫(ロロ)が黒豹に変化。

 階段を先に下って昇降台が並ぶ巨大なテラスに向かった。



続きは明日を予定。HJノベルス様から書籍「槍使いと、黒猫。1巻-20巻」発売中。

コミック版1巻~3巻発売中。


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