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槍使いと、黒猫。  作者: 健康


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2048/2084

二千四十七話 風槍流アキレスの答え

 拍手の音に混じり、アキレス師匠がふぅ、と長く息を吐きながら肩の力を抜いた。その顔には、悔しさよりも、愛弟子が大成したことへの深い喜びが刻まれている。


「……負けじゃな。わしの『風』が、お主の『水』に絡め取られ、重さを増して動きを封じられるとは……。それに、最後の踏み込みからの<刺突>系統は、風槍流の奥義に思えた。水の流れのように柔軟で、かつ大河の如き重みがあった」

「師匠の風槍流の教えがあったからこそ、この境地に至れました。魔人武王ガンジスたちとの戦い、強敵たちとの戦いでは師匠の言葉が何度も響いていた」


 正直に告げると、師匠は少し照れくさそうに鼻を擦り、ポンと俺の肩を叩いた。


「わしの言葉など、切っ掛けに過ぎんよ。それを糧とし、花開かせたのはお主自身の力じゃ」


 師匠の温かい手が離れると同時に、


「二人とも、強いからこその美があったわ!」


 甘い香りと共に胸の感触が背に衝撃を与えた。

 振り返る間もなく、雷炎槍流のシュリ師匠が背後から抱き着いてくる。


「見事だった。ご褒美よ」

「シュリ師匠、苦しいですって」

「ふふ」


 シュリ師匠からのスキンシップにタジタジになる。

 すると、見学していたグラド師匠が腕組みをしたまま歩み寄ってきた。その鋭い眼光は魔槍杖バルドークと、それを持つ腕に向けられている。


「シュウヤよ。序盤に見せた崩しからの連携は妙たる物。関節の使い方が滑らかになり、魔力の通し方に無駄がなくなっておる」

「グラド師匠にそう言っていただけると自信になります」

「ふぉふぉ」


 髭の奥の口元は緩んでいる。

 ソー師匠やイルヴェーヌ師匠たちも、うんうんと頷きながら近づいてきた。


「<導魔術>の剣幕を、たった一本の槍と魔法の併用で捌き切る。風槍流の一の槍を体現する。実に見事」

「動体視力と反応速度も戦いごとに向上しているな」

「水の精霊たちも、美しくも恐ろしい光景だった。あれほどの神氣を帯びた水を扱える槍使いは、古今東西、弟子だけだろうな」


 九槍卿の面々からの称賛に、少し恐縮していると、


「ンン、にゃおお」


 エヴァの膝から飛び出した黒猫(ロロ)が、俺の頭の上に着地。誇らしげに喉を鳴らし、尻尾で俺の顔をペシペシと叩く。「当然だにゃ」と言わんばかりだ。


「ふふ、相棒も褒めてくれてるのか?」

「ン、ニヤ」


 相棒の肉球の感触に相好を崩していると、ヴィーネが近寄り、ハンカチで俺の額の汗を優しく拭ってくれた。

 銀髪がサラリと揺れ、真紅の瞳が潤んでいる。


「ご主人様……。素晴らしい戦いでした。アキレス様への敬意を払いながらも、ご自身の力を示されたあの一撃……感動いたしました」

「ありがとう、ヴィーネ。皆の応援が聞こえてたからな」


 浮いていたヘルメも


「閣下の背中、とっても大きく見えました! あ、地面が水浸しですね。すぐに片付けます!」


 ヘルメが液状化して地面に広がる。

 訓練場の石畳を濡らしていた大量の水と、召喚の余波で残っていた水溜まりが、生き物のように集まり、ヘルメの体へと吸収されていく。


 あっという間に、訓練場は元の乾いた石畳へと戻った。

 アキレス師匠は、


「素晴らしい、生きた水の精霊様の実力をこの目に視ることができようとは、さて……腹も満ち、良い運動もした。シュウヤよ、積もる話もある。家でお茶でも飲みながら、ゆっくり語らおうかの」

「はい、ぜひ」


 アキレス師匠の提案に頷き、俺たちは心地よい疲労感と共に訓練場を後にする。

 

 小屋の周りの落ち葉を掃除する箒も前と変わらず。

 桶と樽に、使い込まれた家具と、干されている野菜類。

 木の温もりに満ちていた。

 部屋に入り、席に着く。

 壁に掛けられた手入れの行き届いた槍、そして窓から吹き込む心地よい風。出された香草茶の湯気を眺めながら、師匠と向かい合った。


 戦いの高揚感は落ち着き、今は静かな師弟の時間が流れている。 だからこそ、ずっと胸に秘めていた提案を口にすることにした。


「師匠……俺の眷属になりませんか?」


 単刀直入な言葉に、師匠は茶を啜る手を止め、「ふむ」と発言し、ゆっくりとカップを置いた。

 驚きはない。光魔ルシヴァルの種族は知っている。

 

「眷属になれば、老いることはありません。病も癒え、全盛期の肉体を取り戻すこともできる。……俺と共に、レファの成長を見守ることができる。もっと永い時を、槍の道を歩むことができます」


 それは、俺のエゴかもしれない。

 だが、この偉大な師匠を失いたくないという想いは本物だった。


 師匠は部屋の中にいるラグレン、ラビ、そして、レファを見て、深く頷いてから、静かに目を閉じ、しばらく沈黙した。

 ヴィーネたちは黙って見ている。

 レベッカは口元に指を当てて不安がり、エヴァは少し浮遊している。相棒はいつの間にか遊びに行ったのか、部屋にはいない。


 ファーミリアはアキレス師匠を凝視している。

 

 窓の外で風が木の葉を揺らす音だけが響く。


 やがて、師匠はゆっくりと瞼を開き、穏やかな、だが決して揺るがない瞳で俺を見据えた。


「……シュウヤよ。ありがたい申し出じゃ。老いた身に、永遠の若さと強さ……それは甘美な誘惑よな」

「なら――」

「だが、断る」


 師匠の声は静かだが力強かった。

 否定の言葉に込められた意志の強さに、その言葉を呑み込む。


「なぜ、ですか」

「風はな、シュウヤ。一所に留まれば、それは風ではなくなる。吹き抜け、何かを揺らし、そして彼方へと消え去るからこそ、風なのだ」


 師匠は窓の外、広がる青空へと視線を向けた。


「命もまた同じ。限りがあるからこそ、人は燃え上がる。老い、衰え、やがて朽ちる……その過程すべてが、わしの生きた証であり、わしという『風』の軌跡じゃ」

「師匠……」

「それにな、愛弟子と家族に見送られ、このゴルディーバの風の一部となるのも、悪くない。武装司祭もわしの代で仕舞いとなるのだからな……そして、お主という最強の風を育て上げ、その風に吹かれながら逝く……師として、これ以上の幸せがあろうか」


 師匠の顔には、一点の曇りもない笑顔があった。

 吹き抜ける風が、師匠の白髪を優しく揺らしている。

 その姿そのものが掴めない風のようであり……心にすとんと落ちた。

 一瞬、目元に熱いものが込み上げる。


 師匠は、そんな俺を見て、「はは、そんな顔をするな。偉そうに語ったが……シュウヤたちの光魔ルシヴァルの利点に心が揺れているのも、また事実。そこにいるレファは光魔ルシヴァルになりたいと話をしていたように、な? そして、わしも生きていれば、いつかは、心変わりをするかもだぞ……だが、今は、この心持ちだということだ」

「……はい」


 哲学、生き様を肌で感じた。

 これ以上食い下がることはできない。

 それに、盲目の少女、聖女のアメリも似たような考えを持つ。

 

 そして、アキレス師匠は、最期まで『風槍流』の師匠だ。

 

「……分かりました。師匠の意志、尊重します」

「うむ。分かってくれたか」

「はい」


 深く頭を下げた。

 だが、縁が切れるわけではない。

 アイテムボックスから、一つの魔通貝を取り出した。


「ですが、連絡だけは取れるようにしておきたいんです。これを受け取ってください」


 アキレス師匠は笑顔満面となり、


「……【白鯨の血長耳】たちや【血星海月雷吸宵闇・大連盟】の話に登場してくることが多かった。耳に嵌める魔通貝、便利そうじゃな」


 師匠は興味深そうに魔通貝を受け取り、しげしげと眺める。

 使い方を簡単に説明し、いつでも連絡がつながるように設定を行った。


「それと、もう一つ。〝レドミヤの魔法鏡〟を出します。ここで記憶させようかと思いますが、良いでしょうか」

「無論、転移は自由にしてくれていい、シュウヤたちとすぐに会えるのは大きい。わしらにも使えるなら、買い物も楽になる」

「あ、〝レドミヤの魔法鏡〟は、俺が近くにいる必要があります」

「ほぉ、クナはルシェルたちと共に、転移陣の構築をしてきたので、ここにも転移陣を作ることはできると言ってくれたのだが」


 そうだったか。

 クナは、


「はい、極大魔石は大量にありますから。ただ、成長している私たち、砂城タータイムも近くにあるので、スムーズに製作は可能ですが、多少の時間は掛かります」

「了解した、アキレス師匠たちに設置できる場所を聞いて、設置作業に取り組んでくれていい。あ、すでに師匠は許可を?」

「うむ、地下に庭も広いからの、クナには生活に邪魔にならん場所に設置を頼んだ」

「なるほど」

「はい」


 クナも同意した。

 アキレス師匠は、皆を見てから、


「あの空飛ぶ要塞、ドラゴンたちを従えているような砂城タータイムの浮遊要塞も転移可能と聞いている」

「はい、立体的な模型に、両手で持てるぐらいの大きさのアイテムにも変化させることができる」

「ふむ、それをレベッカとエヴァとヴィーネとユイとフーから楽しげに聞かせてもらったが、あのような美しい白銀の城が、小さくなるのは信じられん思いだが、魔界とセラの行き来には大変便利だとも、頷いておった」

「はい」

「では、早速〝レドミヤの魔法鏡〟を取り出します」

「ふむ」


 頷いてアイテムボックスから〝レドミヤの魔法鏡〟を取り出す。

 その〝レドミヤの魔法鏡〟に魔力を注ぎながら設置した。


 縁際に小型の差し込み口が、誕生しているのも変わらない。


 【魔界:メリアディの書網零閣】

 【魔界:ルグファント森林】

 【魔界:ヴァルマスクの大街】

 【魔界:アムシャビス族の秘密研究所の内部】

 【魔界:メリアディの荒廃した地】

 【魔界:エルフィンベイル魔命の妖城の冥界の庭】

 【魔界:メリアディ要塞の大広間】

 【魔界:レン・サキナガの峰閣砦】

 【魔界:骨鰐魔神ベマドーラーの内部】

 【魔界:南華大山山頂部】

 【魔界:ガルドマイラ魔炎城】の城主の間

 【魔界:ウラニリの大霊神廟の遺跡】

 【魔界:【源左サシィの槍斧ヶ丘】の奥座敷の庭】

 【魔界:テーバロンテの王婆旧宮の大広間】

 【惑星セラ:フロルセイル地方、西マハハイム地方、傷場の地】

 【惑星セラ:塔烈中立都市セナアプア、魔塔ゲルハット屋上】

 【惑星セラ:マハハイム地方十二樹海のサイデイル】

 【魔界:グィリーフィル地方・傷場】

 【惑星セラ:北マハハイム地方魔境の大森林、元皇都キシリア】

 【惑星セラ:北マハハイム地方、城隍神レムランの遺跡】

 

 【惑星セラ:北マハハイム地方、聖都サザムンド】

 【惑星セラ:北マハハイム地方、金アロステの丘、光の神殿】

 【惑星セラ:ゴルディクス大砂漠、犀湖都市、宿屋】

 【惑星セラ:ゴルディクス大砂漠、犀湖都市、人神アーメフの大神殿内部】

 【惑星セラ:ゴルディクス大砂漠、突岩の街フーディと暁の墓碑の密使の地下神殿と大仙人の時の揺り籠】

 【惑星セラ・ゴルディクス大砂漠、ダモアヌン山】

 【惑星セラ・イーゾン山、八峰大墳墓】


 現在登録されている転移先が、美しい絵画風のバナーと共にリスト表示されていく。

 その景色と共に、様々な出来事を思い出した。

 光と闇の戦い、散っていった強敵たち、そして得難い仲間との出会い。

 文字の羅列だが、そこには確かな俺たちの血と汗が刻まれている。


 アキレス師匠は驚きながら、


「おぉ、小型の転移魔道具。色々とアイテムを見させてもらったが、やはり、シュウヤは、凄まじい冒険者に成長しているのだな」


 と感心しながら呟く。


「そうですね。冒険者としての活動も続けています」


 アキレス師匠は頷きながら、〝レドミヤの魔法鏡〟を凝視。

 そのアキレス師匠に、


「行った場所を記憶し、そこに転移できる鏡。ここに師匠の家か、この里を登録します。ですが、このアイテムは二十八カ所のみ、どこかを削除しないと……【惑星セラ:北マハハイム地方、元皇都キシリアの地下一層】を削除しときます。地上の【惑星セラ:北マハハイム地方魔境の大森林、元皇都キシリア】と【惑星セラ:北マハハイム地方、城隍神レムランの遺跡】は位置的に近いので、ここのどちらかも削除可能」

「ふむ……」


 言いながら、削除を意識し、【惑星セラ:北マハハイム地方、元皇都キシリアの地下一層】を消す。

 すると、一枠が空いた。

 そこで、〝レドミヤの魔法鏡〟を持ち上げ、「外の修業場所、石畳の近くに設置し記録させます――」と言いながら外に出た。


「そうだな――」

「「はい」」


 と、皆も付いてきた。

 〝レドミヤの魔法鏡〟を設置し、登録を押す。

 魔力を込めると鏡から魔力が照射され地面と衝突。

 その鏡の魔力が衝突すると登録されている欄の下のほうに絵画風のバナーが生成され、


 【魔界:メリアディの書網零閣】

 【魔界:ルグファント森林】

 【魔界:ヴァルマスクの大街】

 【魔界:アムシャビス族の秘密研究所の内部】

 【魔界:メリアディの荒廃した地】

 【魔界:エルフィンベイル魔命の妖城の冥界の庭】

 【魔界:メリアディ要塞の大広間】

 【魔界:レン・サキナガの峰閣砦】

 【魔界:骨鰐魔神ベマドーラーの内部】

 【魔界:南華大山山頂部】

 【魔界:ガルドマイラ魔炎城】の城主の間

 【魔界:ウラニリの大霊神廟の遺跡】

 【魔界:【源左サシィの槍斧ヶ丘】の奥座敷の庭】

 【魔界:テーバロンテの王婆旧宮の大広間】

 【惑星セラ:フロルセイル地方、西マハハイム地方、傷場の地】

 【惑星セラ:塔烈中立都市セナアプア、魔塔ゲルハット屋上】

 【惑星セラ:マハハイム地方十二樹海のサイデイル】

 【魔界:グィリーフィル地方・傷場】

 【惑星セラ:北マハハイム地方魔境の大森林、元皇都キシリア】

 【惑星セラ:北マハハイム地方、城隍神レムランの遺跡】

 【惑星セラ:北マハハイム地方、聖都サザムンド】

 【惑星セラ:北マハハイム地方、金アロステの丘、光の神殿】

 【惑星セラ:ゴルディクス大砂漠、犀湖都市、宿屋】

 【惑星セラ:ゴルディクス大砂漠、犀湖都市、人神アーメフの大神殿内部】

 【惑星セラ:ゴルディクス大砂漠、突岩の街フーディと暁の墓碑の密使の地下神殿と大仙人の時の揺り籠】

 【惑星セラ・ゴルディクス大砂漠、ダモアヌン山】

 【惑星セラ・イーゾン山、八峰大墳墓】

 new:【惑星セラ・マハハイム山脈・ゴルディーバの里】



 と、転移場所のリストが更新された。


 良し。


「記憶されたようだな」

「はい」


 リストの更新を終え、鏡に表示された文字列を見たアキレス師匠が、興味深そうに視線を落とした。


「ふむ……【魔界:テーバロンテの王婆旧宮の大広間】に、【魔界:骨鰐魔神ベマドーラーの内部】か」


 師匠は鏡面に記された地名を、一つ一つ指でなぞるように読み上げる。


「こうして『テーバロンテ』や『骨鰐魔神』の名が、到達した場所として記されておるのを見ると……お主の冒険が、いかに常軌を逸したものか、文字だけでも伝わってくるわい」


 隣で覗き込んでいたグラド師匠も、呆れたように肩を竦めた。


「違いない。魔界の深淵が、まるで旅の経由地のように登録されておるからの」

「吸血神ルグナド、恐王ノクター、魔命を司るメリアディ、それら魔神と対等に同盟を結ぶ、我らの弟子の冒険だ。名が豪勢になるのは必然」


 トースン師匠も渋く語る。

 塔魂魔槍のセイオクス師匠は、ただ、黙って、石畳の修業場所を見ている。

 

「あぁ、それはそうだな」


 ソー師匠の言葉に頷いた。

 シュリ師匠たちも、可笑しそうに顔を見合わせた。


「さて、茶を淹れ直そうぞ。クナ殿たちの作業もあるじゃろう」

「はい、お願いします」


 〝レドミヤの魔法鏡〟をアイテムボックスにしまい、再び師匠の家へと戻った。

 師匠たちは、ゴルディーバの里で採れるお茶を、専門の湯飲みで飲んでいく。


 すると、クナが静かに進み出てきた。

 その表情は、魔導師としての真剣なものになっている。


「アキレス様、地下への転移陣設置の件ですが、本格的な調査と設計が必要です。ルシェル」

「はい、師匠」


 クナが呼ぶと砂城タータイムから来ていたルシェルが姿を現した。

 手には魔力測定用の器具を持っている。窓の外にはサラもいた。

 クナは、


「このゴルディーバの土地は、古き森の力と精霊の力が渦巻く特殊な場所。極大魔石が数十とあるので結界も楽に造れますが、地脈を乱す恐れがある。極大魔石を安定させるための『要石』となるポイントの選定と、魔力回路の同調作業……最低でも数日は掛かります」


 クナの説明に、アキレス師匠は感心したように頷く。


「ほう、やはりそう簡単にはいかんか。数日かかろうとも構わんよ。むしろ、それだけ丁寧に扱ってくれるのはありがたい」

「ありがとうございます。では、本日はルシェルと共に、地下の魔力流の測定と、設置場所の選定作業を行わせていただきます」

「うむ、好きに使ってくれ」


 クナとルシェルは一礼すると、師匠の許可を得て地下室へと降りていった。

 どうやら、今日は設置完了まではいかず、下準備の時間になりそうだ。


 俺たちは改めてテーブルを囲み、温かい香草茶を啜る。

 話題は、先ほどの手合わせの振り返りや、魔界での笑い話――深刻な戦いの話ではなく、眷属たちのドジな失敗談や、珍しい食べ物の話などに花を咲かせた。


 師匠たちは時折、「ほう」「それは愉快じゃな」と好々爺らしい相槌を打ち、ラグレンやレファもリラックスして会話に混ざっている。


 そうして小一時間ほど過ぎた頃だろうか。

 開け放たれていた窓から、黒い影が飛び込んできた。


「ンン、にゃおぉ」


 元氣な鳴き声と共に、黒猫(ロロ)がテーブルの中央に着地する。

 その口には、見たこともない色鮮やかな羽根を持つ鳥のような獲物が咥えられていた。


「おかえり、相棒。森で狩りを楽しんでたのか?」

「ンン」


 黒猫(ロロ)は喉声を響かせ、獲物を師匠の前に、コトリと置く。


「お、これは、わしにか」


 相棒は師匠へと上目遣いとなってから「にゃぉ――」と得意げに鳴く。

 師匠たちへの挨拶代わりのお土産らしい。


 すると、俺のほうに視線を向けてきた。


 頷くと、黒猫(ロロ)は瞼を少し閉じ開くを行った。親愛の情を示してくれる。

 その黒猫(ロロ)は、何か楽しいことがあったように尻尾をピンと立たせて、「ンンン」と喉声を響かせつつ俺の肩へと登ってきた。

 

 息遣いが少し荒くなっている。

 ゴロゴロとした喉音が可愛い。鼻先が首下についてフガフガとした感触が可愛すぎる。

 師匠は、相棒が持ってきた獲物を持ち上げ、


「……ふぉっふぉ。これは珍しい。〝虹色キジ〟じゃな。すばしっこくて滅多に捕まらんのだが……さすがは神獣様じゃ」


 アキレス師匠が目を細めて褒めると、肩から降りた黒猫(ロロ)

 嬉しそうに尻尾を立てて、アキレス師匠の足に頭部をこすり付けていく。


 そこに、エトアが笛の音を響かせた。  〝楽人コヨの笛〟だ。


 土着的な太鼓の響きにも似た、力強い低音から始まり、やがてそれは風に乗って空へと昇るような、清冽で壮大な旋律へと変わっていく。 荒ぶる自然への畏怖と、そこで生きる命の強さを歌うような音色――。

 その笛の音に、キサラとシャナが、即興の詩を乗せて鼻歌を添える。

 言葉にならない、けれど魂を震わせるような澄んだ歌声が夕暮れのゴルディーバの里に、優しく溶けていった。


続きは明日を予定。HJノベルス様から書籍「槍使いと、黒猫。1巻-20巻」発売中。

コミックス1巻-3巻発売中。

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― 新着の感想 ―
アキレス師匠やっぱりルシヴァルにならないか。ハンカイみたいに心変わりするパターンもあるけど今のところアメリに近い考えに見える 盲目のアメリもそうだけど、毒でやられた直後にこう言えるのはすごい。損得を…
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