二千四十三話 帰還の杯と変わらぬ絆
「――乾杯!」
数多のジョッキとグラスがぶつかり合う小氣味よい音が、マハハイムの星空の下に響き渡った。
ゴルディーバの里、石畳の広場には、急遽設えられた長テーブルや焚き火が並び、祝宴の熱氣に包まれている。
ラグレンが豪快にジョッキを空け、プハァと息を吐いた。
「くぅ~っ! やっぱり、これだ! 爺とレファが無事で、シュウヤまで帰ってきたとなりゃ、酒が不味いわけがない!」
「あなたったら、もう……。でも、本当によかった」
ラビさんが目尻に涙を浮かべながら、大皿に盛られた料理をテーブルに置く。白い湯氣を立てるスープと、香ばしく焼けた骨付き肉。
鼻孔をくすぐるその香りに、強烈な懐かしさが胸に込み上げる。 魔界の張り詰めた空氣とは違う、暖かく、優しい里の匂いだ。
「あ、これは……」
ラビさんが優しく微笑む。
「シュウヤさんが初めてここに来た時に食べたものと同じですよ。あの時、美味しそうに食べてくれたのをよく覚えていますから」
スプーンを手に取り、白いスープを口に運んだ。
とろりとした舌触り、根野菜の甘み、そして茸の旨味……。
ホワイトシチューにも似た、素朴だが体の芯まで温まる味。
「……あぁ、美味い。やっぱりこの味だ。あの時、洞窟での生活から抜け出して食べた最初のまともな飯が、これだった」
「ふふ、あの時はガツガツ食べておったからのぅ。今思えば、あれがすべての始まりじゃったか」
アキレス師匠も懐かしむように目を細め、酒を舐める。
その視線の先では、レファが黒猫に肉を取り分けていた。
「ロロちゃん、これ美味しいよ! お母さんの特製なんだから!」
相棒は「ンン――」レファの膝に前足を乗せ、差し出された肉を幸せそうに頬張っていた。
食べ終わると、首筋からしゅるりと触手を伸ばし、レファの頬にぺたりと触れた。
レファが「きゃっ、くすぐったい! でも、わたしも大好き!」と無邪氣に笑う。相棒は『うれしい』や『だいすき』などの言葉を伝えたようだな。
かつて、この里で過ごした日々と同じ光景。変わらない絆がそこにあった。
「さて、シュウヤよ。積もる話もあるが……この錚々たる面々、改めて紹介してもらおうか。魔界の強者、それも『伝説』級の氣配を纏う御仁も見受けられるが」
師匠の視線が、グラド師匠やバフハールに向けられる。
一度箸を置き、皆に向き直った。
「はい。紹介します。俺が魔界や旅路で出会い、共に戦い、背中を預けてきた大切な仲間、眷族たち――『家族』であり、恋人、愛している皆です。そして、魔軍夜行ノ槍業から関わっている、槍の『師』たちです」
ヴィーネが最初に出た。
「はい――」
優雅に一礼する。
銀髪が焚き火の明かりに照らされ、翡翠の蛇弓が淡く輝いた。
「元はダークエルフ。名はヴィーネ。弓と剣で、ご主人様をお支えしております。<筆頭従者長>の一人」
「ほぅ……ダークエルフとは珍しい。そして、非常に美しいだけでなく、底知れぬ実力を秘めておるな」
「ありがとうございます」
アキレス師匠が感嘆の声を漏らす。
続いてレベッカが、城隍神レムランの竜杖を見せ、
「私の名はレベッカです。ハイエルフの生まれだけど、同じく光魔ルシヴァルの<筆頭従者長>です。蒼炎など炎の魔法が得意で、ドラゴンも扱えます」
竜杖の石像だった小型のドラゴンたち、ナイトオブソブリンとペルマドンが、一氣に本物ミニドラゴンと化して、
「ガォ」
「ガァオォ」
二匹は愛らしく鳴くと、祝いのキャンドルを灯すように口から小さい炎を「ボッ」と吐いてアキレス師匠たちに挨拶していく。
「わぁ!」
「「おぉ」」
「驚きだ!」
「凄いですね。小型のドラゴン、しかも私たちにお辞儀を!」
ラビさんも興奮氣味。
レベッカは、「ふふ、ここにいる皆は基本、なんでもできちゃう。強者たち。わたしも自慢ではないけど、シュウヤと出会ってから凄く強くなったんです。命をなんども救われている。そんなシュウヤを教え導いたアキレス師匠さん。そして、レファちゃんにラグレンとラビさんには、前々から会いたいと思っていました」
と、丁寧に頭を下げていた。
「それは嬉しい」
「うむ」
「はは、それは嬉しいですな」
「はい」
続いてエヴァが、
「ん、名はエヴァ、<筆頭従者長>の一人、シュウヤにお世話になっている。後、私も皆さんにとお会いしたかった」
と同じくペコっと頭を下げた。
レファが、
「お姉ちゃんたち、よろしく!」
と挨拶すると、エヴァが、
「ん、よろしく」
「よろしく~」
「はい、よろしくお願いします」
ヴィーネたちと握手をしていく。
エヴァは魔導車椅子を見せるように浮遊していく。
魔導車椅子を一瞬で分解させ、骨の足に金属を吸着させては、新しい金属の足を見せていた。
レファが目を輝かせ、
「凄い、金属を操るのは見たけど、こんな風に骨の足に……」
「ん、次はユイたち」
エヴァの腕の動きと指摘に、皆がユイを見る。
三刀を帯びたユイが一歩前に出た。
「ふふ、名はユイ、<筆頭従者長>の一人。実は、シュウヤとは<筆頭従者長>になる前からの出会いがあったの。暗殺者として敵対関係だった。そんなわたしを助けてくれたのがシュウヤ。後、今では、この神鬼・霊風をはじめとする魔刀で、シュウヤの剣となって戦っている」
その凛とした立ち姿に、ラグレンが、
「……良い目だ。達人の氣配がする」
「ふむ」
続いて、ミスティが、前に出て、笑顔を見せ、
「わたしの名はミスティ、この額の紋章があるように、元はオセべリア王国の貴族、魔導人形を扱っていた」
「ほぉ」
アキレス師匠は興味深くミスティの額を見る。
ミスティは、
「……でも、シュウヤとの出会いは、最悪なの。嫌われるかもだけど、正直に言うわね、落ちぶれ盗賊として、シュウヤを襲った側だったんだ。それが、シュウヤに負けて、助けられて解放された。そして、後に仲間になって<筆頭従者長>の一人になったの。後、このように……魔導人形の専門家として、ゼクスが扱える」
小型のゼクスが机の上を歩いていく。
「「「……」」」
「ぇ……凄……貴族の専門家は魔導人形を扱うと、知っていたけど、こんな小さくて精密な魔機械人形が造れるなんて!」
レファ、アキレス師匠、ラグレンたちも驚いている。
ミスティは、
「あ、ふふ、魔導人形もシュウヤのおかげなの」
「そうだったか、シュウヤも色々なことを……」
「あぁ、旅をして数年だ。そりゃ色々とあるよな」
師匠とラグレンは語りつつ酒を飲む。
そこでカルードが前に出て、一礼した。
「マイロードの師匠とラグレンの兄貴殿、そして、可愛らく戦士らしさを持つレファ殿に、美人なラビ殿、わたしの名はカルード。ユイの父であり、マイロードの<従者長>の一人であります」
レファはきょとんとした態度だったが、頬を朱に染める。
カルードも天然のたらしだな。イケオヤジだからなぁ。
アキレス師匠は、
「ユイの父……親子でシュウヤの光魔ルシヴァルの仲間入りを……なるほど、血を分けた本当の眷族、家族になったと……」
と、感慨深げに頷く。
「はい。マイロードの影となり、汚れ仕事も引き受ける身。闇ギルドや暗殺者の系譜を持つ者ですが、マイロードは、そんなことは問わず、他の方々と同様に見て下さいます。こうして、家族として迎え入れられたことを、非常に光栄に思っているのです」
カルードの丁寧な言葉に、ラビさんが俺を微笑みながら見て、
「ふふ、シュウヤさんらしい。そして、皆さんをご家族に……素敵ですね」
と言いながらレファと頷き合う。
続いて、白絹のような髪を夜風になびかせ、凛とした美女が歩み出た。その手にはダモアヌンの魔槍を握る。
「名はキサラです。元はダモアヌンの魔女。黒魔女教団の四天魔女の一人でした。ホフマンたちに敗れた後、スキルを奪われ、シュミハザーの扱うアイテムの中に封じられていた。シュウヤ様と戦いました。負けては、サイデイルで長く過ごして仲良くなりました。今ではこうして<筆頭従者長>の一人に……よろしくお願いします」
そう説明すると、流れるような動作でダモアヌンの魔槍を構え、一礼した。
「ほぉ~」
立ち姿には一点の隙もなく、静謐な湖面のような落ち着きと、内に秘めた激しい闘志が同居している。
「シュウヤ様の背を常に守りたい。愛をもって横に並び立つ強者であり、一人の女でもいたいと思っています。そして、シュウヤ様を育ててくださった皆様に、心よりの感謝を」
アキレス師匠が、彼女の持つ魔槍と、その構えに目を見張る。
「……良い魔槍。使い手の魂が、その穂先にまで通っておる。キサラは、相当な手練れじゃな」
「恐縮です。ですが、まだまだ未熟者。いつかアキレス殿とも、槍の手合わせをお願いしたく存じます」
「カカッ! 望むところじゃ!」
師匠が嬉しそうに杯を掲げる。
ラグレンも「女傑揃いだな……」と感心しきりだ。
次に知的な雰囲氣を漂わせるクナが前に出る。
手には分厚い魔導書と、宙空に名匠マハ・ティカルの魔机を召喚。
複雑な紋様が刻まれた石板のようなものが浮いていた。
「私の名はクナ。錬金術師の一面もありますが、魔法が得意ですの」
と、発言すると、レベッカが、「クナは、フィクサー的で、凄腕の魔術師系の魔族だったけど、その魔術師、魔法使いの知識は、わたしたちを超えているわ」
と発言。
キサラとヴィーネも、
「はい、魔造書、魔界四九三書にも詳しいですから」
「光魔ルシヴァルの魔術師長ですね」
「ふふ、ありがとう。古代語の解読や魔導具の解析です。そして拠点のシステム制御などを担当でもありますわ。シュウヤ様の<筆頭従者長>の一人として、主に知略と魔術の面でサポートさせていただいております」
クナは淡々とした口調だが、その瞳の奥には探求心と主への敬愛が静かに燃えている。
「古代語に魔導具の解析か……シュウヤの旅路には、そういった未知の遺物も多かったろうからの。頼もしい限りじゃ」
アキレス師匠が感心して頷くと、クナは少し誇らしげに、
「うふ、シュウヤ様が持ち帰る未知の品々は、私の知的好奇心を大いに刺激してくれますので」
と微笑んだ。
そこで、ヴェロニカたちが前に出た。
「次は、わたし! お初にお目にかかります、偉大なる槍の先達の方々。名は、ヴェロニカと申します。総長を育ててくださった皆様に、心より感謝申し上げます」
ヴェロニカは丁寧に挨拶した。
そして、スカートの裾をつまみ、優雅に一礼した。
可憐なゴシックドレスを揺らすその姿は、深窓の令嬢のようだが、内包する<血魔力>の覇氣は隠しきれていない。
戦士であるラグレンが、「ほう……」と感心したように唸る。
「若く見えるが、肝が据わっておる。相当な修羅場を潜ってきた目だ」
「ふふ、慧眼をお持ちのようです。総長か、皆からわたしたちの歴史を知れば驚愕するはず。あ、総長、〝知記憶の王樹の器〟での共有をしたほうが話は早いんでは?」
「それはそうだが、最初は、皆の口から紹介したほうが良いかな~とな」
「うん、それはそうね」
「そうさね、と、私はベネット、シュウヤ、総長とは迷宮都市ペルネーテでの出会いです。メルも同じく」
「はい、名はメル。出会いはペルネーテの【迷宮の宿り月】の女将の立場でした。給仕に、ヴェロニカが変身していたイリーでした。しかし、実は、【残骸の月】の総長が私。そうして、シュウヤ様、総長と呼んでいるように、シュウヤ様が、【残骸の月】の総長、盟主についたことで、わたしは副長として、活動しています。勿論、光魔ルシヴァルの眷族の一人、詳しくは、そこのヴェロニカ、<筆頭従者長>が生み出せる<筆頭従者>の一人なんです」
メルとベネットがそれぞれ自己紹介をする。
ラグレンが目を丸くして、俺と彼女たちを見比べた。
「ほう……。シュウヤが総長、ということは、その美しい方々も、シュウヤの部下ということか?」
ラグレンが、感心したように、そして少しの驚きを交えてメルとベネットを見比べる。
苦笑しつつ、頷いた。
「その通り。ただの部下ではありません。命を預け、愛を共有している。そして、共に歩む『家族』です」
メルが力強く頷く。
その瞳には、俺への絶対的な信頼と仲間たちへの深い愛情が宿っていた。ベネットも、少し照れくさそうに笑いながら、
「ま、あたしたちは『家族』っていうより、悪友って感じもするけどね。総長とは、結構長い付き合いだし」
と、俺に視線を送る。
苦笑しながらも、嬉しそうに頷き返した。
すると、ヴェロニカの隣に、圧倒的な威厳を纏った美女が静かに歩み寄った。その一歩だけで、場の空氣がピリリと震える。
ヴァルマスク家の女帝にして、かつて吸血神ルグナド様の<筆頭従者長>を務めた存在――ファーミリア。
「お見知りおきを。ファーミリア・ラヴァレ・ヴァルマスク・ルグナドです。シュウヤ様の原点である皆様にお会いできて、光栄ですわ」
ファーミリアは優雅に微笑み、アキレス師匠たちを見据える。
その頭上には〝ルグナドと宵闇の灯火王冠〟がかすかに輝き、深淵の如き魔力を漂わせていた。二人の光魔ルシヴァルの高位眷族が放つ、夜の貴族特有の品格と底知れぬ魔力。
アキレス師匠は、
「……なんと。底が見えん……まるで神代の魔神と対峙しているようじゃ」
「あわわ……とても綺麗な人たちだけど、迫力が凄いです……」
アキレス師匠はさすがの慧眼。
ラビさんが頬を染めながらも、少し氣圧されたように呟く。
ヴェロニカとファーミリア。かつては敵対する勢力にあった二人が、今はこうして並び立ち、俺の家族として頭を下げている。
その事実に、俺自身も胸が熱くなるのを感じた。
「そして、この二人がラムーとエトア。探索や鑑定のスペシャリストであり、戦闘でも俺を支えてくれる頼もしい<従者長>たちだ」
紹介に応じ、対照的な二人が進み出る。
一人は、独特な繊維の装甲に身を包んだ快活な女性、エトア。
少し緊張しているようだ、エヴァとキサラが直ぐにフォローしていく。
もう一人は、顔全体を覆う鉄仮面の『魔鋼ベルマランの兜』を被り、表情の読めない魔族女性のラムーだ。
エトアが胸を張り、元氣よく挨拶する。
「エトアです! 罠の解除や探索が得意ですが、この精神感応繊維魔装甲で前衛もこなします!」
続いてラムーが、手にした『霊魔宝箱鑑定杖』を掲げ、恭しく一礼した。
「……ラムーです。この杖での鑑定と、鍛冶の真似事も少々。以後、お見知りおきを」
兜の奥から響く声は低くくぐもっており、その素顔は窺い知れない。だが、その佇まいからは職人特有の堅実さと、確かな実力が滲み出ている。
ラグレンが二人の装備に興味津々な様子で身を乗り出す。
「魔力を帯びた繊維の服に……その兜は魔鋼か? それに、その杖もただならぬ魔力を感じる。面白いな」
「はい、これは霊魔宝箱鑑定杖。鑑定スキルがなくとも、これがあれば、様々な物の鑑定が可能。鑑定も高精度が自慢でもあります」
とくぐもった声で説明してくれた。
師匠たちに、
「ラムーは、魔界で知り会った。魔鋼ベルマラン。一族として皆、鋼の兜をかぶっている。そして、あの鑑定可能な特殊な魔杖は、かなり重要で、俺たちはいつも彼女にお世話になっている」
「ふむ」
「鑑定スキル自体が珍しいからな。納得だ」
アキレス師匠の言葉に頷いた。
そこで、クレインが、
「アキレス、先程も言ったが、私もシュウヤの<筆頭従者長>の一人さ、弟子のエヴァと女としてもシュウヤ、盟主には可愛がってもらっている」
「……ふむ。クレインもえらい強くなっているのは、光魔ルシヴァル入りしたことも関係あるか」
「そうさね、時間による成長もあるが、光魔ルシヴァルに成れば一氣に成長する。聴覚、嗅覚、第六感、すべてにおいての進化さ――」
少し浮遊したクレイン。
金色と朱色のメッシュの髪が揺らめく。
頬に<朱華帝鳥エメンタル>の印が浮かぶ。
「ふふ、この印が残っているうように、ハイエルフの血筋ごと光魔ルシヴァルへと進化したさ、シュウヤたちと暮らしたことで、光魔ルシヴァルのことは理解していると思うが、眷族となっても、リスクは、まったくない」
「ほぉ……」
「へぇ」
「ふむ」
「そうなのですね」
ラビさんも頷いていた。
続いて、光精霊フォティーナが、「私は、フォティーナ! 光精霊よ!」と自己紹介してはレファの鼻先に小さい掌を当てていく。
「ふふ、フォティーナちゃんって言うんだ」
と、指で、フォティーナの半透明な翅を触っていく。
フォティーナがキャッキャと宙を舞うと、その動きに合わせてきらきらと光の粉が舞い降りる。
その幻想的な光景に、レファが歓声を上げた。
更に、黙って見ていたヘルメが、
「では、次はわたしたちがご挨拶を――」
常闇の水精霊ヘルメが前に出る。
優雅なドレスのような水流を纏い、宙空に浮かんだ。
「名は、常闇の水精霊ヘルメ。閣下とわたし自身の故郷に戻れて嬉しいです。普段は、閣下の左目に宿り、お傍で仕えております」
続いて、闇雷精霊グィヴァが、
「私の名はグィヴァです。御使い様の右目に宿っている。出会いは魔界セブドラです」
短い自己紹介だが、その身に宿す雷の魔力は強大だ。
更に、右人差し指の爪先から水が滴り落ち、それが、古の水霊ミラシャンに変化。
「――古の水霊ミラシャンです。シュウヤ様の爪と共にあります」
そして、左手の掌の魔印が煌めくと、桃色の魔力と共に、シュレゴス・ロードが飛び出ては男性化。
「我はシュレゴス・ロード。主の左腕の掌の魔印の中に宿る者。主のシークレットウェポンの一つとして、貢献している。旧神関係についても貢献できているという自負がある」
「――うわぁ、シュウヤ兄ちゃんの体から、精霊さんがいっぱい出てきた!」
レファが目を丸くして、次々と現れる精霊たちを見上げる。
ラグレンも口をあんぐりと開けていた。
「目や指から精霊……それに腕に魔族まで宿しているのか。シュウヤ、お前は一体……」
「はは、旅の途中で色々な縁がありまして」
「閣下、わたしは、ここで閣下と知り合い……」
「あぁ、そうなんだ。師匠たち、常闇の水精霊ヘルメ、ヘルメは、ここのゴルディーバの里の下のほうにある泉で、知り合っている。そこで、俺の尻の中に潜んでいたヘルメだった。で、水神アクレシス様の神殿で、突如として、俺の尻から生まれたのが、常闇の水精霊ヘルメなんだ」
「「な、なんだと!?」」
「えぇぇ!?」
「ぇ……」
場が凍りついたように静まり返る。
数瞬の沈黙の後、レファが無邪氣な声を上げた。
「シュウヤ兄ちゃんが、お尻から精霊様を生んだのー?」
その一言が引き金となり、ラグレンが「ぶっ」と吹き出し、豪快に笑い始めた。アキレス師匠も肩を震わせている。
そんな中、ヘルメがうっとりとした表情で、とんでもないことを口走り始めた。
「えぇ、そうです。閣下のお尻。そう、あの時に閣下のお尻さんは割れてしまったのです……そして、その桃尻からわたしの常闇の水精霊ヘルメが生まれて、ふふふ、水神アクレシス様の愛と閣下の愛の融合のたまもの……」
「にゃぉぉ~」
ロロディーヌがヘルメの言葉に感銘を受けたのか、あるいはただ単に楽しい雰囲氣を感じ取ったのか、ヘルメの足下でゴロニャンコと喉を鳴らして転がる。その愛らしい姿と、ヘルメのぶっ飛んだ発言に、皆がドッと笑い声を上げた。
「くっ、ははは! 桃尻から愛の結晶じゃと! シュウヤ、お前は伝説に残る男だな!」
「違いますよ! 割れてませんから、というか、元から割れている!」
必死に否定すると、またも皆が、
「ははは、たしかに!」
「あはは」
「それは当たり前だな!」
「ん、ふふふ」
「「うふふ」」
皆が笑うと、闇雷精霊グィヴァと、古の水霊ミラシャンが、
「もう、ヘルメ。御使い様が困っておいでですわ。御使い様の尊厳に関わりますから、そのような破廉恥な物言いは控えてくださいまし」
「そうですよ。アクレシス様の御前での出来事なのですから、もう少し厳かに……」
お淑やかなグィヴァと真面目なミラシャンの統制が入るが、ヘルメは涼しい顔でクスクスと笑う。
「事実ですよ? 私と閣下は、昔から深いお知り合い……ふふ、お尻合いなのですから」
「はは」
「面白い精霊様だ」
「……はは、座布団一枚」
「嬉しい」
ツッコミも柳に風と受け流すヘルメ。
ただ、このままだと俺がただの変態になってしまうので、真面目な説明も加えておく。
「……まぁ、冗談はさておき。当時、水神アクレシス様の神殿で祈りを捧げた際、本当に神の奇跡があったんです。そこで俺は水神アクレシス様から直々に祝福を授かりました」
「ほう、神の祝福か」
頷いた。
「はい、その時、司祭様も驚いていた」
当時は、水神アクレシス様。
――この度はどうも。清水を頂きました。美味しかったです。
――清水をありがとうございます。少し信じてみます。
とお祈りした刹那に、
※ピコーン※称号:水神アクレシスの加護※を獲得※
※称号:超越者※と※水神アクレシスの加護※が統合サレ変化します※
と、称号を得たんだった。
更に、その時、神像から光が放たれ、放たれた光の中には、虹色の光を帯びた半透明な仗のような武具が浮かんでいた。
半透明な仗のような武具が俺の体へ突入し、融合。
避けようがないほどの速度だったな。
※称号:水神ノ超仗者※を獲得※
※ピコーン※<水の即仗>※恒久スキル獲得※
当時のことを思い出し、
「<水の即仗>と言う、恒久スキル獲得を得て、水属性の言語魔法などを無詠唱で使えるようになったんです」
「なるほど、だからか」
「はい」
アキレス師匠は、ラグレンとラビさんを見て、「わしたちに水の回復魔法を使って、回復をしてくれたのじゃよ」
「なるほど、というか、爺が倒されたのか?」
「あぁ、油断した、仲間がいて、レファも強いからの、そのレファも危機であった。改めて、謝罪する」
「お爺ちゃん、内緒にしてれば良かったのに」
「まぁ、そんなことが……」
「爺が倒されたとは予想外だが、そこにシュウヤたちが現れたということか」
「うむ、拷問などを受けていたが、まぁ、助かった」
「うん、痛かったけど、くるみ割り人形の者たちは、お爺ちゃんばかり痛めつけていた……酷かったけど、シュウヤ兄ちゃんが、その仇たちを一人残らず、倒してくれた。スカッとした!」
「……ふむ。なんにしても良かったな」
「「はい」」
「うん」
ラグレンは父としての顔が出ている。
レファもまた、父と爺と母に対して、愛を感じさせる表情と態度だ。良い娘だ。
「話を戻しますが、<水の即仗>は、俺の根幹の一つ。<水神アクレシスの加護>や<水神ノ超仗者>といった称号も取得しました。後に<水神の呼び声>という名のスキルも得ている。そうした特別な力を得て……ヘルメが実体化したのも、その神聖な恩寵がきっかけだったんです」
俺の説明に、ようやくアキレス師匠も真面目な顔に戻り、感心したように頷く。
「ふむ……水神様の直々の加護とはな。尻云々はともかく、シュウヤが神に愛されるほどの器だということは分かったわ」
ヘルメも、ふざけた態度を収め、静かに頭を下げた。
「はい。すべては水神アクレシス様の恩寵、そして閣下との運命の出会いのおかげでございます」
一通りの笑いと説明が終わり、場の空氣が和んだところで、改めて姿勢を正した。
精霊たちに続き、まだ紹介していない頼れる仲間たちがいる。
指環から、そよ風が巻き起こり、風の女精霊ナイアがふわりと現れた。
「ふふ、私のことも忘れないでください。ナイアです。風を司る精霊として、常に、あの指環に宿っています」
ナイアがウィンクをする。
「指環と……先程の爪先から現れた精霊といい……なんということか」
ラグレンが呆氣にとられた顔をする。
すると、ルリゼゼが前に出た。
鋭利な刃物のような、ピリリとした武の氣配。
四本の腕を持ち、背中に二振りの長剣、腰に一振りの剣を帯びた女剣師。
顔の上半分は、黒い拘束具のようなマスクで覆われている。
「彼女はルリゼゼ。魔界でも名を馳せた剣師であり、俺の<筆頭従者長>の一人だ」
ルリゼゼは四本の腕を巧みに動かし、胸の前で交差させる独特な武人の礼をとる。
そして、主の師に対する礼儀を示すべく、顔を覆っていたマスクに手をかけ、ゆっくりと外した。
露わになったのは白磁の肌に並ぶ、美しい四つの青い瞳。
その異形の姿に、ラビさんはまたも「ひゃっ」と小さく息を呑んだが、ルリゼゼの四つの瞳に宿る理知的な光を見て、すぐに安堵の表情を浮かべた。
「名はルリゼゼだ。主に助けられた後、このセラで放浪を望んだ。そして、主とゴルティクス大砂漠にて再会。それから後、眷族にしてもらった。今では、主の剣となり、盾となることを常に信条にしている。以後よしなに頼む」
ルリゼゼの言葉に、
「四眼四腕、魔界の剣士、否、剣師。その構え、隙がない。一度、手合わせ願いたいものじゃ」
と感嘆しつつ語る。
ルリゼゼの四本の腕と四つの眼、使い込まれた魔剣を見ていく。
ルリゼゼはその師匠の視線と態度に微笑むと、
「フッ、望むところだ。主の師の実力、興味がある」
続いて、フーの紹介も始まり、沙・羅・貂たちと、一通りの女性陣の紹介を終えたところで少し悪戯っぽく笑い、背後を振り返った。
そこには、異様な威圧感を放ちつつも、じっと出番を待っていた二体の骸骨騎士が控えている。
「それから、少々見た目は怖いが……俺の頼れる将軍たちだ。ゼメタス、アドモス」
「「はっ!」」
二人の光魔魔沸骸骨騎王が、重厚な鎧の音を響かせて進み出た。 眼窩の奥で、紅蓮と漆黒の炎が揺らめく。
「私は光魔魔沸骸骨騎王ゼメタス! 閣下の剣となり盾となる者! 閣下の師であられるアキレス殿、並びにご家族の皆様にお会いでき、光栄の極み!」
「同じく、我はアドモス! 以後お見知りおきを!」
そのド迫力に、ラビさんがまたも「ひゃっ」と小さく声を上げ、レファもアキレス師匠の後ろに隠れようとするが、二人はすぐに片膝をつき、恭しい態度を示した。
「奥方様、お嬢様、怖がらせて申し訳ありませぬ。我らは閣下の味方、決して害はなしませぬゆえ」
「あ、あら……骸骨さんだけど、とっても丁寧な方たちなのね」
ラビさんもすぐに落ち着きを取り戻し、苦笑する。
そして最後に、俺は師匠たちの方を向いた。
ここが、ある意味で一番の紹介かもしれない。
「そして、この方々が……魔軍夜行ノ槍業と関係した、色々な魔槍の雷炎槍流など『変幻』と深淵を教えてくれた、魔軍夜行ノ槍業の師匠たちです」
腰の魔軍夜行ノ槍業を見せると、グラド師匠たちが前に出る。
飛怪槍流グラド師匠が、杯を持ったままニヤリと笑った。
「カカッ! わしはグラド。アキレス殿、お主の育てた弟子は、魔界とセラでも暴れ回ってな。実に飲み込みが早くて面白かったぞ」
「私はイルヴェーヌ。断罪槍流の使い手として、彼を見守ってきました」
「獄魔槍のグルドだ。よろしく頼む」
「悪愚槍のトースンだ。……ふむ、お主の『風槍流』、先ほどの戦闘で見せてもらったが、実に洗練された良い型だ。特にあの『捻り』を活かした<刺突>。あれがシュウヤの武の根幹にあると見た」
伝説の八槍卿、否、九槍卿。
その名乗りと、皆が放つ圧倒的な武のオーラに、アキレス師匠の隻眼が見開かれる。
アキレス師匠は驚愕しつつも、頷いて、
「おぉ、分かって頂けるかトースン殿! あの『捻り』こそが、全ての始まりでの。最初はただの棒切れを振り回していたシュウヤに、腰の回転から指先へと力を伝える理を叩き込んだものよ」
嬉しそうに語り、「そして、その魔軍夜行ノ槍業と関係か……神遺物、アーティファクト、魔界四九三書のような品物だな」
「はい」
「ふむ」
バフハールもラグレンの巨躯を見て、
「ラグレンと言ったか、良い筋肉だ。戦斧を使うのか? 一度手合わせ願いたいものだ」
と指摘した。
ラグレンも斧を使うからな、通じ合うものがあるようだ。
宴は続いた。
ユイとミスティとクナの絡み。ゾルの話からリョムラゴンでの戦いの報告、魔界での冒険譚、そして懐かしい昔話。
過去の話を何度も繰り返す。
ふと、宴席から見える礼拝堂の方角に目をやる。
そして、月明かりに照らされたその建物の中には、地下へと続く神具台があるはずだ。
「……あそこから、すべてが始まったんですよね」
師匠が、静かに頷く。
「あぁ。お前さんが地下で倒れ、神獣様と契約し……そして、わしがその姿を見つけた場所じゃ。運命とは不思議なものよな」
「はい。あの時、師匠に助けてもらわなければ、今の俺はありません」
ロロディーヌが「にゃ~」と鳴き、俺の膝に乗ってくる。
その温もりを感じながら、静かに誓った。
この温かな場所を、そして世界を、俺の槍で守り抜くと。
見上げると、満点の星空が広がっていた。
かつて、ポポブムに乗って旅立った前日の夜と同じ美しい星空だ。
「……明日はどうする? ラグレン」
酒ですっかり顔を赤くしたアキレス師匠が、隣のラグレンに問いかける。ラグレンはニカっと笑い、太い腕で力こぶを作ってみせた。
「爺、まだまだ飲み足らんだろう? このまま朝まで飲んで昼になったら……シュウヤ、お前の今の力が見たい。爺もウズウズしているだろう?」
「ハッ、望むところだ。模擬戦以来の勝負をするかの?」
「あ、はい、師匠!」
二つ返事で答えた。
「おぉ、見学しよう」
ラグレンの言葉に頷く。
<風槍流・心因果律>へと至り、昇華された風槍流の技術。
その成果を師に見せるには、これ以上ない好機だ。
そんな血氣盛んな男衆の様子を見て、宴の輪から一歩引いて見守っていたラビさんが、ふわりと寄ってきた。
続きは明日、HJノベルス様から「槍使いと、黒猫。1巻-20巻」発売中。
コミック版1巻~3巻発売中。




