二千三十九話 師匠アキレスの救出
ドドッと重低音が響かせながら、瓦礫の粉塵を纏うように地下へと着地した。
舞い上がる粉塵の向こうにはアキレス師匠たちがいた。
壁に鎖で繋がれ、血と泥に塗れている。
その傍らでは、猿轡をされ、涙を流して震えている少女レファ。
師匠の体は傷だらけだ。
肋骨が折れているのが見て分かるほど歪み、呼吸をするたびに苦痛に顔を歪めている。
血管に氷と炎が同時に走るような感覚。
視界が赤く染まりそうになる……。
それを理性の縁で押し留めた。
相棒は足下から「フシャーッ!」と毛を逆立て、かつてないほどの殺氣を放っていた。
黒猫を見たレファが、「アァァ!」と無理に叫ぼうとしていた。
赤熱した鉄棒を持っていた大柄の男は、
「なんだお前たちは……」
と呟き、全身に不気味な刺青を刻んだ巨漢が、「しかし、あの天井ごと……」と驚愕に目を見開いて後ずさる。
ここの連中は魔族か? 結構な魔力を体に内包している。
だが、今は、
「……遅くなった、師匠」
低く言葉で語りかけた。
アキレス師匠は、腫れ上がった瞼をかすかに開けた。
その隻眼が信じられないものを見るように少し見開き、目尻辺りから、血が流れた。
「……本当に、シュ、ウヤ……とクレイン……?」
「あぁ。待たせたな」
「そうさね、遅くなってすまん」
「……アァ」
師匠の掠れた声が、肺腑を抉るように響く。
胸の奥で何かが弾け、冷徹な殺意へと昇華された。
ゆっくりと、赤熱した鉄棒を持つ魔族へと視線を移す。
……殺す。一瞬で楽には死なせない。
「……誰だ、貴様はッ!」
魔族が喚くと、背後から、クレインが、ヒラリと優雅な動き前に出る。両手に構えた金と銀のトンファーを構えることもなく、呆れたように肩をすくめ、
「――シュウヤ、この片方はわたしが担当さ。皆も、他を当たってくれ」
「了解」
「当然じゃな」
「「おう」」
「「承知した」」
「ん」
「「はい」」
「はい、ご主人様とクレイン、この場はお任せします」「うん、右の廊下に出て、確保しとく」
皆は牢屋の外に出た。
師匠の目が驚愕に見開かれる。
「クレイン……」
「賭けの勝ち逃げは許さないよ、アキレス。……それに、ずいぶんと泥だらけになっちまったねぇ」
クレインはトンファーを一閃させ、付着していた瓦礫の粉を払う。その瞳の奥には、俺と同じ、冷たく燃える怒りの炎が見えた。
そのクレインは、くるみ割り人形の闇ギルドの者に、
「借りを返しに来たさ。覚悟はいいかい、下衆ども?」
「あぁ? なにをほざく」
「そんな人数で俺たちを倒すつもりか。屋敷の中にはもっと人数がいるんだぞ?」
「……あぁ、調子にのってやがる。天井に穴を空けやがって、クセモノ共が」
「殺せ」
「「あぁ!」」
魔族の二人が魔剣を突き出してくる。
それを避け、魔槍杖バルドークを振るう<血龍仙閃>――。二人の体を斜めにぶった斬る。
と、石突きで、床に叩きつけた。
カォォォン、と硬質な音が地下室に響き渡る。
その音は死刑執行の合図だ。
「ヒッ、あ、あぁ……」
刺青の巨漢は腰を抜かしそうになりながらも、生存本能が働いたのか、猛然と魔力を練り上げると、全身の刺青が赤黒く発光し始めた。
「な、舐めるなァ! 俺は『赤銅の』ガ……」
「喋るな」
一瞬で距離を詰めた。
奴が振り上げた赤熱の鉄棒――。
それが振り下ろされるより速く、<魔皇・無閃>――狙うは手首ではない。肩の付け根に、魔槍杖バルドークの穂先が閃く「ギャアアアアッ!?」と右腕が宙を舞い、傷口から鮮血が噴き出し、鉄棒ごと腕は床に落ちた。
返す刃の竜魔石で、奴の左膝の皿を砕いた。
「ガッ、ギッ……!?」
巨漢が崩れ落ちる。
その顔面を靴底で容赦なく踏みつけた。
鼻骨が砕ける感触――。
悲鳴を上げようとした口の中に、切っ先を突き入れる。
「――静かにしろ。師匠の耳障りだ」
喉の奥まで刃を突きつけられ、巨漢の動きが凍りついた。 恐怖と痛みで涙を流し、小刻みに痙攣している。
殺すのはいつでもできる。だが、今は師匠が先だ。
「クレイン、そいつを見張っててくれ。少しでも動いたら削いでいい」
「了解……こりゃあ酷い。魔力回路の暴走で自壊しそうだねぇ」
クレインが呆れたように言いながら、金色のトンファーの先端を巨漢の首筋に押し当てる。
魔槍杖バルドークを消し、師匠に駆け寄った。
「師匠!」
鎖を引きちぎるため、手首から<鎖の因子>を射出。 <鎖>が蛇のように金具に絡みつき、ミシミシと音を立てて破壊した。拘束から解放された師匠の体を、抱き留めるように支える。
「……すまん、シュウヤ。不甲斐、ない……」
「喋らないでください。すぐに治します」
アイテムボックスから最上級の回復ポーションを取り出すと、師匠の唇に当てて流し込む。同時に、レファの猿轡と縄も、相棒が爪で器用に切り裂いていた。
「うぅ……シュウヤ兄ちゃん!」
レファが泣きじゃくりながら、背にしがみついてくる。 黒猫が「ンン、にゃお~」と慰めるように彼女の頬を舐めた。
師匠の呼吸が少しずつ整っていく。
折れていた肋骨がポーションの効力で繋がり始め、顔色が戻ってきた。腫れて隻眼のようになっている双眸で俺を見つめる。
その瞳には、かつての厳しさと、隠しきれない安堵の色が混じっていた。
「……強くなったな、シュウヤ。放つ氣配が、まるで別人のようじゃ」
「師匠に教わった基礎のおかげです」
「ふっ、口が上手くなったものさ……」
師匠は苦笑し、視線をクレインに向けた。
「クレインも、相変わらず派手な格好をしおって」
「ははっ、アキレスこそ。引退した老兵が、こんな場所で拷問を受けてるなんて様にならないよ」
軽口を叩き合いながらも二人の間には確かな信頼の空氣が流れていた。
胸の奥の熱い塊を飲み込み、再び、床に転がる巨漢へと冷ややかな視線を向けた。
「……師匠。こいつらは何を聞き出そうとしていたんです?」
師匠は苦しげに息を吐き出し、腕の中で体を預け直した。
「……奴らは、以前から因縁のある魔族の女、ティターニアが探しておる『秘密の鍵』のありかを知りたがっておった」
「ティターニアの、秘密の鍵?」
「ほぉ、ティターニア。前にアキレスが仕留めたと思っていたが……」
「あぁ、仕留めていなかったようだな」
クレインは知っているが、俺たちは知らない。
アキレス師匠は、
「こいつらに、知らない、と答えても、信じてもらえなくてな……」
「うん、こいつらお爺ちゃんをたくさん虐めて……私がやめて! って言っても、笑って、私を蹴飛ばして殴ってきた……」
レファが涙目で訴え、俺の腰布をぎゅっと掴む。
その言葉が導火線に再び火を点けるが、我慢した。
ゆっくりと巨漢に向き直る。
「誰に頼まれたんだ?」
俺の問いに、巨漢は脂汗を流しながら首を横に振る。
「い、言えねぇ……言ったら、俺たちゃ終わりだ……」
「今ここで終わるのと、どちらがいい?」
言いながら、切断された奴の右腕を蹴り飛ばした。
ドシャッ、と生々しい音が響く。
「ヒィッ!?」
すると、クナが、
「その大柄の男の体に刻まれている魔力の刺青、魔紋のような魔法陣は無理やり刻まれているものです。制御できていない魔力が暴走したら、全身が吹き飛んでしまうかと」
と指摘してきた。
「好都合だな」
「……ひぃ」
奴の刺青は脈打つように明滅し、皮膚を焦がし始めている。
冷ややかに見下ろし、切っ先をわずかに動かした。
喉元に走る痛みが、奴の限界を超えさせたようだ。
「助け……わ、分かった! 吐く! 吐くから助けてくれぇ!」
巨漢は心が折れたように叫んだ。
「い、依頼主は……闇ギルド『くるみ割り人形』の幹部ザラガ……そ、それと、魔族の女ティターニア……」
そこまで言いかけた時だった。
巨漢の全身の刺青が、カッと強烈な光を放った。
「――っ! 盟主離れろ!」
クレインが叫び、咄嗟に俺と師匠たちの間へ割って入る。
<夜行ノ槍業・召喚・八咫角>を召喚し、<血魔力>と<水流操作>で生み出した水の幕と血飛沫のような<血魔力>を前方に展開し、皆を守った。
ドォッと体が破裂する音と、爆発音が地下室を揺らす。
口封じの呪いか、あるいは魔力暴走か。
血煙と黒い霧が晴れた後には、巨漢の体は跡形もなく消え去り、焼け焦げた床だけが残されていた。
「……手回しがいいねぇ。尻尾は掴ませないってことかい」
クレインがトンファーで煤を払いながら、忌々しげに呟く。<血魔力>と水の幕を解除し、舌打ちをした。
だが、完全に情報は絶たれたわけではない。
『くるみ割り人形』そして『ティターニア』。それだけで十分な手掛かりだ。
「師匠、レファ。ここを出ましょう。安全な場所へ案内します」
「あぁ……すまんのう。厄介事の中心にいるようじゃな、お前さんは」
「なぁに、いつものこと。これと、《水浄化》――」
ポーション瓶を渡し、浄化の魔法をレファにも繰り出した。続けて《水癒》――。
水球が弾け、癒やしの水飛沫が二人に降りかかる。
二人の傷は一瞬で回復した。
「「おぉ」」
傷は回復しているが、「アキレス師匠、とりあえず――」と、師匠を背負い上げる――。
その軽さに胸が痛んだ。
だが、今は感傷に浸っている場合ではない。
その背にいる師匠が、
「ふっ、魔法までも使えるようになったのだな」
「はい、積もる話は山ほどあります」
「ハッ」
師匠の懐かしい強きの笑い声に、心が染み入る。
……地上では、ユイたちが待っているはずだ。
「相棒、先導を頼む」
「ンン、ニァ!」
黒猫が短く鳴き、軽やかに瓦礫を飛び越えていく。
俺たちは暗い地下牢を後にした。
地下から地上への階段を駆け上がる。
瓦礫の山を越え、崩壊した倉庫の外へと躍り出た。
外は冷たい雨が降り続いていたが、周囲の殺氣はすでに消え失せている。
「シュウヤ」
雨音に混じり、鈴を転がすような声が響いた。
闇の中からユイとカルードとファーミリアが姿を現した。
ユイの手には、神鬼・霊風が握られていたが、刀身に血の汚れは一切ない。足元には黒装束の男たちが数名、物言わぬ屍となって転がっていた。
カルードとファーミリアはアキレス師匠たちと会釈。
ユイは、
「……掃除は終わったわ」
「あぁ、助かる」
ユイの背後から、ヴィーネも音もなく着地する。
彼女の周囲には、薄い<血魔力>の残滓と、銀色の雷光がわずかに燻っていた。
<光魔銀蝶・武雷血>を使用した直後だろう。
「ご主人様、周辺の敵影は排除しました。ですが、騒ぎを聞きつけて街の衛兵や、他の組織の増援が来る可能性があります」
「長居は無用だな」
背負っている師匠の体を気遣いながら、周囲を<闇透纏視>で探った。
視界が拡張され、熱源と魔力の流れが脳内に地図として浮かび上がる。
遠くから近づく複数の氣配。衛兵か、それとも『くるみ割り人形』の追手か。衛兵も闇ギルド側に靡いているなら、レフテン王国側、姫さん頼りになるが、暴れるか? まぁ、どちらにせよ、今の師匠とレファを連れての連戦は避けたい。
クレインが、
「場所を変える。ボルトたちの店はもう使えない」
「安全な隠れ家などはあるのかな」
「一応、昔使っていた隠れ家が、この近くのスラムの地下にある。あそこなら、ネズミ一匹入り込めないさ」
クレインの提案に頷く。
もう回復しているが、師匠とレファを安心させてやる必要がある。
「よし、そこへ向かおう。相棒、殿を頼む」
「ンン、にゃ!」
黒猫が短く鳴き、俺たちの背後を警戒するように振り返る。
雨の降るサムラレイトの闇へと溶け込むように走り出した。
クレインの案内で辿り着いたのは、入り組んだ貧民街の最奥、古びた井戸の底に隠された地下室だった。湿ってるが、外の喧騒からは完全に遮断されている。
師匠を寝台代わりの木箱の上に横たえた。
先ほどの回復魔法とポーションのおかげで、目立った外傷は既に塞がっている。
だが、血に汚れた服と、少し青ざめた顔色が、過酷な尋問の激しさを物語っていた。
「師匠……」
胸が締め付けられる。
アイテムボックスから着替えの衣服と体力回復効果のある食料、水を取り出す。
「すまぬな、シュウヤ。また、お前に助けられるとは……」
師匠が半身を起こし、掠れた声で呟く。
首を横に振った。
「謝らないでください。師匠が生きていてくれて、本当によかった」
水を飲ませ、背をさする。
傍らでは、レファがユイに抱きしめられながら、ようやく落ち着きを取り戻し始めていた。
ヴィーネとキサラとファーミリアと師匠たちが入り口を見張り、クレインが魔導ランプを灯す。バフハールはアキレス師匠を凝視していた。
薄暗い部屋に、暖かな光が灯る。
「……師匠。少し落ち着いたらでいいんですが、詳しく話を聞かせてもらえますか? 『ティターニア』のこと、そして『秘密の鍵』について」
俺の問いに師匠はコップを置く。
重く閉じていた瞼を開けた。腫れていた目は元通り、昔の双眸のままだが、天井を見つめ始めた。
瞳には、過去の因縁と向き合う覚悟の光が宿っていた。
「秘密の鍵はなんのことやらだ。ティターニアは仕留めたが、あやつの闇ギルドの宝のことなどは分からん」
「そうですか」
師匠の過去の冒険者時代の話は色々と聞いたが、鍵の話は知らない。
「ティターニア。狂神獣センシバルの信奉者であり、魔族の手先として動く毒婦ぐらいじゃ。まぁ、すべては、仕留め損なったわしの責任じゃ」
師匠は悔しげに拳を握りしめる。
「心臓を貫き、谷底へ落ちていくのも見た。だが……あやつは生きておったんじゃな。執念という名の毒を、その身に宿したまま」
「はい、しかし、くるみ割り人形どもは、鍵がなんとか、と」
「ふむ。奴らの狂氣じみた執着……単なる勘違いとも思えんが……」
「なるほど……」
腕を組み、思案する。
師匠を狙い続ける、ただの私怨ではないな。鍵がなんなのか不明だが。
「……分かりました。その謎も含めて、ティターニアとの因縁、俺たちが断ち切ります」
俺の言葉に、師匠は安堵したように息を吐き、
「頼もしい弟子を持ったものじゃ……だが、氣をつけろ。ティターニアは狡猾だ。力だけでなく、人の心を弄ぶ術に長けておる」
「肝に銘じます」
その時、隠れ家の入り口を見張っていたキサラが、緊張感を帯びた声を上げた。
「シュウヤ様、キッカたちが戻ってきたようです」
「おう、了解」
「ん、早い」
隠れ家の扉が控えめにノックされる。
許可を出すと、音もなく扉が開き、
キッカと沙・羅・貂たちが、部屋に入ってきた。
「失礼します……無事だったようですね、アキレス殿」
「無事でなにより、器よ。外にいた賊、くるみ割り人形の連中と思われる者は、妾たちも多数仕留めたからな」
「はい、町の空は平穏です」
「はい、普通の冒険者もいるようですが、その闇ギルドのくるみ割り人形の組織に頭が上がらないようですね、ここの権力者と結びついている可能性が高いです」
キッカ、沙、羅、貂の報告に頷いた。
「キッカたち、ご苦労さん」
「はい」
アキレス師匠は、
「……ふむ、このお嬢さんたちは、シュウヤの部下は分かるが、先程から、この隻眼? 否、違うのか。武人のお方は、わしを凝視している……」
と言いながらバフハールに会釈をした。
バフハールは、<隻眼修羅>を解いて、
「紹介が遅れたが、わしの名はバフハール。シュウヤ殿とは魔人武王ガンジス繋がりもあるが、要は魔界で知り会い、今がある。『百足の覚醒』の魔酒繋がりもある」
「そうさね」
クレインも同意し、皆も頷く。
アキレス師匠とレファは皆を見てからわずかに頷く。
そして、キッカが、
「とりあえず、報告をします」
「おう、頼む」
キッカは一礼し、
「重要な情報を掴みました。サムラレイトのギルド支部の裏帳簿と、レザライサ殿の部下であるキューウェルからの報告を照らし合わせた結果、敵の本拠地が判明しました」
「どこだ?」
「街の地下深く、かつて下水道の拡張工事で放棄された広大な空間です。『くるみ割り人形』はそこを拠点とし、今夜、大規模な『儀式』を行おうとしているようです」
「わぁ……凄い速い!」
レファの言葉に、「「はい!」」ファーミリアたちも同意するように返事をしていた。
「儀式?」
「はい。詳細は不明ですが、街の住人を多数攫っているという情報もあります。おそらく、その儀式には……」
キッカが言い淀む。
その先を察し、言葉を継いだ。
「『鍵』代わりとなる生贄、あるいは師匠を誘い出すための罠か」
師匠が苦しげに顔をしかめ、「あの毒婦、ティターニアのやりそうなこと……」
頷いた。
「場所は特定できているのか?」
「はい。入り口は複数ありますが、最も警備が手薄と思われる地下ルートをキューウェルたちが確保しています」
キッカが懐から地図を取り出し、広げる。
サムラレイトの地下水路図。
その一角に、赤い印が付けられていた。
「敵の本拠地はここです。ティターニアと思われる魔族の反応も確認されています」
地図を見つめ、決断を下した。
「よし。場所は割れた。俺たちで奇襲をかける。師匠とレファはここに残ってくれ。クレイン、護衛を頼めるか?」
「――断る」
強い意志が込められた師匠の声だ。
寝台から立ち上がる。タンザの黒槍の穂先はかなり鋭いし、魔力が宿っている。
俺の知らない間に何かをしたようだ。
「師匠、ですがその体では……」
「ハッ、わしを誰だと思っている。それに先程の魔法で回復している。そして、わしの不始末でもある。かつて仕留め損なった亡霊が、今もこうして毒を撒き散らしておるのじゃ……」
師匠は拳を握りしめ、震える声で、しかしハッキリと言い放った。
「わしがやらねばならん。弟子のお前にばかり背負わせて、のうのうと隠れているなど、師として一人の槍使いとして死んでもできん!」
その言葉に部屋の空氣が張り詰める。
老兵の矜持。枯れることのない闘志。
そのアキレス師匠の覚悟を真正面から受け止めた。
「……分かりました。ですが、無茶はしないでください」
「あはは、無茶は承知の上。それに、頼もしい弟子たちが守ってくれるのであろう?」
師匠がニヤリと不敵に笑う。
かつての豪快な笑顔が戻っていた。
「やれやれ、アキレスの頑固さは相変わらずだねぇ」
クレインが呆れたように肩をすくめ、トンファーを回す。
「分かったよ。なら、アタシも付き合うさ。この隠れ家で留守番なんて退屈で死んじまうからね」
「レファも! レファもお爺ちゃんと一緒に行く! 離れるのは嫌!」
レファが師匠の腰に泣きながらしがみつく。
師匠は優しくその頭を撫でた。
「よし。ならば総力戦だ。全員で『くるみ割り人形』と『ティターニア』を叩き潰す」
「「「はい!」」」
眷族たちが力強く応える。
隠れ家を後にし、決戦の地となる地下水路へと向かった。
続きは明日を予定。
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