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槍使いと、黒猫。  作者: 健康


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2036/2078

二千三十五話 愛の槍の境地と、砂城タータイムの進化への系譜

 

 地図に視線を向け、


「ありがとうございます、サイガナン殿。今回の軍勢の規模、そして出現の迅速さを鑑みるに、どこの傷場からセラへの侵攻でしょうか。俺たちは、【デアンホザーの地】の傷場と、ここから東、南マハハイム地方と呼ばれている傷場ぐらいしか知らない」


 と言うと賢龍サイガナンは、

 

『「正確には分からんな。西、南、北、これらの傷場からだと思うがの……傷場から出て人族かエルフか、ドワーフか、未知の種族の国との関係も不明。魔界側の神々の戦力は強い、諸侯もそれに似合う戦力を持つ。それらの争いにより、傷場の所有権も変化する場合も多々ある……」』


 ヴォソギアの竜人も頷いた。


「はい、それはご尤も、狂気の王シャキダオス、魔界王子イシュルーン、十層地獄の王トトグディウスの戦力は、一枚岩ではなかった。互いに争っていた」

『「うむ、その通り、連合することは稀にあるが、必ず、仲間割れとなる。また、貴公らの支配下にある近くの傷場からではないことは確実。そして……」』


 サイガナンは、


『「傷場からセラに進出し、そのセラ側の国々を征服し、そこに拠点を用意し、数個の転移陣を構築しては、その転移陣を用いて、大規模な戦力をこちらに差し向けたのかも知れぬな」』

「はい、途中まで合同の場合もあるかと。共に竜の巣を攻める算段だった可能性もあります。因みに、この竜の巣から西の方には、人族たちの国があるのでしょうか」

『「ある。竜の巣からだいぶ西に行くと、【ゴルガサンティス王国】が支配する領域となる。王都キルセル。主に人族とドワーフが多い。その北が【バージルガルトニア帝国】王都ハーヴァーじゃ。ここは人族とエルフが多いの、東に虎獣人(ラゼール)たちの集落もあるようじゃ」』

「ありがとうございます、サイガナン殿。その二つの大国は、我々が今後、魔界勢力と対峙する上で、外交的にも軍事的にも無視できない存在となるかも知れない。物理的に離れているので、このまま接点のないままかもですが」


 ヴォソギアが唸るように答える。


『「ふむ、西の人族たちの領域も時と共に変化するからな。我々の長い目では、把握仕切れていない分も多い。どちらにせよ、このフロルセイル地方と同じく、魔界の連中の手の浸食が氣になる。そして、【テーバロンテの償い】のような邪教が広まっていないことを祈るばかりだ」』

「はい」


 サイガナンは、宙空に展開していた地図を消し、静かに頷いた。

 その双眸に、戦場での俺の働きを見定めたような強い光が宿る。


『「ふむ。その〝砂城タータイム〟だが、すでに使いこなされていると視える。城の持つ飛翔の力、そして戦いの中で味方を強化し敵を攪乱する機構も問題なく作動しておるようじゃな。だが、その中身に供給されるエネルギー源が不透明だ。確実に言えるのは、核である『流星の欠片』のエネルギー以外にも、何かがある。コントールの基本として〝星霜の運行盤アストロラーベ・クロノス〟の他に、貴公らが加えた別の力が働いておるな?」』


 頷いた。


「はい、実は魔界で神格を得ていましたが、それをエネルギー源にした魔皇碑石を用いている」


 賢龍サイガナンは、目を丸くして、まじまじと俺の顔を見て、


「なんと! なるほど、魔界にはそれがあった!」


 その驚きようは、彼の長き知恵をもってしても予想外だったことを物語っていた。


「「「おぉ」」」


 ヴォソギアを含む、集まっていた竜人のたちも驚いていた。


『「神格を……魔界で獲得した神格そのものを、エネルギー源。それは妙案だ。タータイムを創造したが、『流星の欠片』という高次元エネルギーと黒き環(ザララープ)の欠片の漏れ出た他の次元エネルギーの流用のことばかり、考えておった。また、その制御も苦労したというに、まさか、魔界において絶対的な権力にもなりえる神格を捨て、それをエネルギー源に魔皇碑石に封じ、それをセラに持ち込むとはな。セラに於いての解放も、普通なら無理だが、砂城タータイムの内部ならエネルギー源にすることも可能……まさに妙たる案……見事とという他ない」』


 賢龍サイガナンの褒め言葉に少し照れる。

 ヴォソギアが、「あぁ、レッドフォーラムの砂地から離脱し浮遊に連続転移も可能な理由だな」と、喉を鳴らし、驚きと興奮が混じった声で発言していた。


『「うむ。その『妙案』こそ、我々が長きにわたり模索してきた、流星エネルギー制御の、もう一つの答えかもしれぬ。シュウヤよ、先ほどの戦闘の礼と、我が揺り籠への貢献に感謝する。我々からも、その砂城への『助力』をさせてもらおう」』


 サイガナンは、杖の先端を宙空に掲げた。

 先端の時砂が流れる球体が、金色に輝き始める。


「助力、ですか。それは有り難い」


 そう応じると、クナが月霊樹の大杖を構え、一歩前に進み出た。


「シュウヤ様。わたくしから、賢竜サイガナン様へ、技術的な問答をさせていただけますでしょうか? 砂城の持つ『第七層・接続点』の歪み。あれを活かした術式の応用について、ご教示を賜りたいのです」


 サイガナンは優雅に頷き、クナと向き合った。

 竜人のヴォソギアも頷く。

 クナは、


「ありがとうございます。あの『歪み』は、術式の安定性を損ねるはずの混沌の要素を、逆に『七雄』の魔力という秩序の枠内に封じ込めるための、意図せぬ安全弁と聞きました。ならば、この歪みの受け皿に極大魔石を用意と何らかの器も用意、その上で、シュウヤ様や私たちの光魔ルシヴァルの<血魔力>を流し込めば、単なる受け皿としてではなく、『カオス増幅器』として、城の機能を拡張できると考えるのですが?」


 サイガナンは再び目を丸くする。

 クナの問いは、技術的な核心を突いている?


『「驚嘆に値する慧眼だ。まさにその通り。あの歪みは、カオスの魔力…異界の不安定な魔素を微量に引き込むが、それを活かしきるには、極めて純粋でありながら、相反する二つの属性を持つ調停者が必要だった。それでいて、肝心な、時空属性もあるようだからな」』

 クナは満足げに「はい」と応え、ルシェルたちも「はい」と応えていく。


 ヘルメとグィヴァは宙空で浮遊しつつ、己の体の半身を水と雷に変化させている。古の水霊ミラシャンの半身は水となっているヘルメの半身と不思議に融合、まさにフュージョンしていた。面白い。


 サイガナンは、目を細めて俺を見つめ、


『「光と闇、そして魔界の神格……その光魔ルシヴァルの血こそが、その調停者たる資格を持つ。砂城タータイムの〝星霜の運行盤アストロラーベ・クロノス〟に於ける仕組みに、新しく枠組みを作り、そこに光と闇と時空属性を有した<血魔力>を流し込めば、砂城は『流星』だけでなく、邪界ヘルローネの魔素までもを、エネルギーへと変換し始めるだろう」』


「邪界の魔素を…! しかし、それは術式の暴走を引き起こす危険も」


 クナが真剣な表情で問うと、サイガナンは微笑んだ。


『「そこで、この杖の出番だ。我が術式を応用して、歪みを安定化させるための『時の結節点クロノ・ノード』となる新たな術式を、砂城に刻み込もう。このノードは、貴公らの神格をエネルギーとする魔皇碑石と共鳴し、不安定な魔素の流入を制御する安全装置として機能する」』


 サイガナンは言葉を区切ると、宙空に再び光の図形を描き始めた。

 それは砂城タータイムの構造図と、複雑に絡み合う時のルーン文字の組み合わせ。


『「この術式があれば、砂城タータイムは、流星エネルギーと魔皇碑石の力に加え、邪界の魔素を第三のエネルギー源として獲得する。その結果、飛翔速度、防御結界、時空属性系の魔法などが、より安定するだろう。魔次元の紐などによる異なる次元の連絡にも役に立つだろう。さすがに絶対的な制約、傷場の影響は大きいがな」』

「ふふ、素晴らしいですわね。ありがとうございます、サイガナン様!」


 クナは歓喜の声を上げ、深々と頭を下げる。

 ミスティたち解析組も、興奮した様子でその光の図形を記録していた。


『「この術式は、貴公が魔界で獲得した神格の魔力が核となるゆえ、通常の魔導師には扱えぬ。貴公らの砂城は、まもなく時空属性の要塞へと進化するだろう。その力で、世界の理不尽と戦うがよい」』


 サイガナンは杖を優雅に振るうと、光の図形をクナが持つ月霊樹の大杖へと収束させた。


 クナの顔色が紅潮し、その瞳には知的な興奮の炎が燃え盛っていた。


「あぁ、感謝する、サイガナン殿。この術式を大切に、そして最大限に活用させてもらう」


 クナの満ち足りた表情を見て、安堵と期待を覚えた。


 その間、ヴォソギアがゆっくりと近づいてきた。

 その視線は、先程の会話を再現するかのようだ。


『「サイガナンからの技術供与は、貴公らにとって無上の助力となろう……だが、武人としての我は、別の『助力』を求めたい」』

「何でしょう?」

「得物、ガルドニクスを沈めた鋭い<刺突>系統、否、槍のすべてが武器になり、相手を螺旋に貫く大技、奥義のことだ」


 あぁ、<悪夢・烈雷抜穿>から<神槍・烈業抜穿>を得られたことか。

 魔槍杖バルドークと神槍ガンジスを両手に召喚。

 柄を強く握りしめる。


『「ふむ、その武器。双月刃の神槍のほうで繰り出した奥義だ。良かったら名を聞かせてくれ」』

「<悪夢・烈雷抜穿>を用いて、<神槍・烈業抜穿>の獲得です」

『「……『烈業』の一撃の貫き……先程の魔力の流れは、把握できた中でも最上級に位置する大技だな。武の理と、魂の深淵から湧き出る『熱』を得た。そして、魔皇碑石の話をもあり、納得だが、神格を一度得て捨てたことによる、何かを得ているな?」』


 竜人のヴォソギアも鋭い。

 

「はい、神格という魔界においての、絶対さを取り除くことで、新たな境地を得たのは事実。その境地が『何か』か? と問われたら、よく分からないですが、とにかく弱くなることで、己のが成長できたのは事実。また、それがどういうことか。まだ己に問いかけている段階です」


 と苦笑しつつ、<仙血真髄>での修業とアキレス師匠の言葉を思い出していく。


 竜人のヴォソギアは「ふっ」と笑みを見せ、


『「神格を『捨てる』。それはまさに、魔界において己の絶対性を手放すこと。だが、その手放した先に貴公は『何か』を掴んだ。その『何か』こそが、先の『烈業』の一撃に通底する、武の真髄であろう」』


 武の真髄か。なるほど。


『「……貴公は、その槍で、何を穿とうとした? 武の極致か、それとも…己が運命か?」』


 ヴォソギアの問いは、武の道を極めんとする者のみが持つ、根源的な問いだ。


「……穿ったのは、その場にいるすべての邪悪の核です。そして、理不尽な死と、それに伴う悲劇の連鎖。でしょうか」


 目を細め、神槍ガンジスに血の魔力を流し込む。

 穂先が深紅に輝いた。


「魔界の神格。それは力を手に入れるための手段ではあるが、同時に『理不尽』そのもの。魔界王子テーバロンテも、ガンジスも、皆、その理不尽の鎖に囚われていたように見える。俺は、この槍で、その『鎖』を打ち砕きたい。誰かを守るための力として……」


 と呟いた。

 その言葉に、ヴォソギアの瞳が一瞬揺らぐと、静かな尊敬の色が宿った。


『「なるほど。ガンジスが虚無を背負うのに対し、貴公は『温もり』を背負うか。その武は、我らの知る武の理を超え、『愛の槍』の境地にあるかもしれん」』


 ヴォソギアは四本の腕を組み、深く頷いた。


『「……良い武を見せてもらった。シュウヤよ。その神槍を更に磨き上げろ。お前が進む道は、必ずや、我らが時の竜神スファロランディス様が望んだ新たな時の流れを創り出すだろう」』


 頷き、


「はい、恐縮です――」


 と、拱手。

 歓談を終え、サイガナンが再び俺に向き直った。

 彼の表情は真剣だ。


『「シュウヤよ。最後に、お前たちに、この地の、そして我が時の竜神スファロランディス様の真の秘密を伝えよう」』

「真の秘密?」

『「うむ。この竜の巣。その核にある『時の竜神の逆鱗』。それは、単なる時を操る触媒ではない。逆鱗の周囲を流れる時空エネルギーは、極めて稀に、『未来の破片』すなわち、極めて重要な予兆を映し出すことがある」』


 サイガナンは、俺の背後、雲海の上に浮かぶ砂城タータイムを見つめた。


『「直近の時空の破片が示したのは、三つの未来の可能性。そして、そのすべてに、お前の砂城タータイムと、槍使いと黒猫。更に、<血魔力>を扱う眷族衆が見えたのだ」』


 サイガナンの言葉は、遠大な、そして決定的な未来の可能性を告げていた。その場にいた全員が、その予言が示唆する内容に息を呑んだ。

 

 槍使い。それは、紛れもなく俺。

 そして、黒猫。それは、相棒ロロディーヌ。

 眷族衆は、<筆頭従者長(選ばれし眷属)>のヴィーネたち、<従者長>フーなどもそうだろう。

 

「……槍使いと黒猫、ですか」


 と呟く。

 神槍ガンジスを握りしめた手に力を込めた。

 未来の映像が特定の誰かではなく、俺の『役割』と『陣営』そのものを示している。


 するとヴィーネが、


「それは、ご主人様たちが、この世界の『理不尽』と対峙し、新たな歴史を創り出す存在だということですね」


 賢龍サイガナンは頷き、

 

「『そうじゃ』」


 予言か。


 ユイとキサラは、互いに顔を見合わせ、この重い予言を共有する。


「サイガナン殿、ヴォソギア殿、俺たちの旅路に、大いなる助力と新たな指針を感謝します。この恩義、必ず世界で示してみせる」


『「うむ。行け、シュウヤ。世界は広い。魔界も『愛』を知る光魔ルシヴァルがいてこそ、救える者たちが多いだろう。その『愛の槍』で、世界の理不尽な鎖を打ち砕くのだ」』

ヴォソギアが力強く頷き、サイガナンは杖を天に掲げた。


「にゃおぉ!」


 相棒ロロディーヌが、巨体を翻して出撃の体勢を取った。

 次の目的地を確定させるため、皆に視線を送る。

続きは明日、HJノベルス様から書籍「槍使いと、黒猫。」1巻~20巻発売中

コミック版発売中。

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