二千三十四話 烈業の覚醒と貫通の一閃
凄まじい衝撃波が駆け抜け、ガルドニクスの体と周囲に展開されていたおぞましい肉壁や触手の群れが一斉に崩れ去っていく。
<血脈冥想>を行った。
猛威が嘘のような静寂が訪れたが、
「……トトグディウスがセラに寄越した眷族か」
ヴォソギアと相棒は右の敵連中に突撃している。
ねぎらう暇もない――。
左に体を傾け、漆黒の槍の一撃を躱した。
間髪入れず、またも飛来するそれを紙一重で躱す。
ガルドニクスの爆散による動揺から立ち直った魔族たち。
特に狂気の王シャキダオスの眷族と推測できる敵と、魔界王子イシュルーンの精鋭部隊と目される者たちがこちらへと集中していた。
「――<栄光の魔槍>避けた!」
「クソが、贄となれ!」
「その血を奉納しろ!」
「だが、ガルドニクス様を討ち取るだけはある……」
「奴から仕留めろ! 集中砲火だ!」
「「ウオォォォォ」」
敵たちは体中から角のような突起物を生やす。
<闇透纏視>と<隻眼修羅>で分析し、同時に<血魔力>を練り上げた。
ゼロコンマ数秒も経たせず、魔力溜まりと装甲が薄い箇所を把握、その間にも、全身の毛穴から<血魔力>が噴出、<生活魔法>の水も周囲に撒く。
<夜行ノ槍業・召喚・八咫角>を召喚し、前方の左側に展開した。
右前に出て魔槍杖バルドークを右から左に振るう<龍豪閃>で牽制し、角あり魔族が持つフランベルジュのような魔剣の突きと、体から伸びた角を連続的に弾く。
「うご――」
「くっ、消耗したのではないのか――」
「血が…動いたか!?」
「腕が痺れたぞ――」
「小賢しい!」
体中から角を生やした敵連中はバックステップし、距離を取る。
漆黒の槍を召喚し、それを<投擲>してくる。
左に展開していた<夜行ノ槍業・召喚・八咫角>を右へと振り回し、右から飛来してきた無数の漆黒の槍と衝突していく。
そのまま<夜行ノ槍業・召喚・八咫角>を前進させた。
手前にいたフランベルジュのような魔剣持ちの角あり魔族と大きな駒の<夜行ノ槍業・召喚・八咫角>が衝突、「ぐえぇぁ」と吹き飛ばした。
左斜め前方から飛来した漆黒の槍には――。
<超能力精神>を使用――。
<超能力精神>に捕まった漆黒の槍の群れは、宙空でプルプル震えながら止まった。
そこで<ブリンク・ステップ>を使用――。
漆黒の槍を寄越してきた角あり魔族との間合いを一氣に潰す。
そして、右から左へと魔槍杖バルドークを迅速に振るう。
<魔皇・無閃>を繰り出し、紅斧刃が角あり魔族の胴を捉え一氣に胴を輪切りに切断――角あり魔族の一体を仕留める。
刹那、無数の漆黒の槍が飛来してきたから、即座に後退した
俺がいた宙空と斬られ上下に分かれていた魔族の死体に、次々と、漆黒の槍が突き刺さっていく。
魔弾、火球、雷球、雷状の槍などが衝突していく。
後退した体にも、それらの飛び道具が飛来してくる。
だが、狙いは外れた――。
大きい駒の<夜行ノ槍業・召喚・八咫角>を、それらの飛び道具へと向かわせ、衝突するたびに煌めく大きな駒の<夜行ノ槍業・召喚・八咫角>の面と裏から魔線が俺に衝突し、魔力を吸収した。
<夜行ノ槍業・召喚・八咫角>を角あり魔族に向かわせた瞬間――。
角あり魔族を含む敵連中の中で、数人の魔力が跳ね上がる。
<魔闘術>系統を強めた強者か。
そいつらが俺を追跡してくる。
「そこだ!」
「喰らえや――」
「<悪式・豪火斬>――」
そこで<水月血闘法・鴉読>を発動――。
――足下の水飛沫から、血色の十字架と朧げな月と水鴉が立体的に浮かぶと深紅の霧と共に血の分身も滑り出た。魔槍杖バルドークを構える仕種を取りつつ、強者たちの攻撃を視ながら後退。
分身の数体は残り、魔槍杖バルドークを構える。
残りの分身は、残像として俺を追ってきた。
それらを受け入れるように<血刃翔刹穿>を繰り出す。
分身も同じ槍の<刺突>を突き出す。
俺の持つ魔槍杖バルドークの穂先から血刃が前方へと爆発的に飛び出す。
最前列の魔族三体が甲冑ごと切り裂かれ、血飛沫に変化した。
血の分身は遠距離攻撃の盾となり、その隙に八咫角の防御を解き、飛び出す。
近場にいるのは五体の精鋭魔族。
彼らは、即座に近接戦闘へと移行し、円形に取り囲むようにして、黒雷の魔剣やフランベルジュのような鋸状の魔剣を振り下ろしてきた。
二撃の攻撃を避け、回転しつつ――。
魔槍杖バルドークと神槍ガンジスを交差させて受け止める。
敵の攻撃を往なす最中、短く持った左手の神槍ガンジスに<血魔力>を込めて下手投げで<投擲>――。
唸りを上げて飛翔した神槍ガンジスは一人を心臓部から貫き、その体を引き裂いた。
すぐさま、残る四体のうち二体の頭部に<超能力精神>を発動させ、動きを鈍らせ隙に――。
残りの二体からの魔剣の一撃を魔槍杖バルドークの柄で弾きつつ、横回転でその場から離脱。
そして、高速回転の勢いを止めず、二の腕と肩に魔槍杖バルドークの柄を乗せるように構え、<風柳・案山子通し>を行い、<山岳斧槍・滔天槍術>をも発動――。
回転運動の遠心力を活かす案山子スタイルで流れるままに魔剣の連撃を魔槍杖バルドーク一本で弾く。
敵のわずかな呼氣のような<魔闘術>系統の隙間を把握。
突如として、<導想魔手>を発動――。
「「「なに!?」」」
皆、驚く中――。
その一体の下腹部の隙を<戦神流・厳穿>が捉えた。
ズシャッと音が響く瞬間――。
倒した魔族を見ず、二人の魔族と相対し、<握吸>を発動し、遠方に突き刺さっていた神槍ガンジスを左手に引き寄せて<水極・魔疾連穿>。
水と闇の魔力が渦巻く無数の刺突が、体勢を崩した一人の魔族の体を穴だらけに処した。もう一人の魔族は、フランベルジュのような大剣を振り下ろしてきた。
<風柳・異踏>を再度使う。
体軸移動で、紙一重で、その一撃を避け、長大なフランベルジュの刃を、魔槍杖バルドークの柄で弾くと、敵はわずかにバランスを崩す。
迅速に左手の神槍ガンジスで、<悪夢・烈雷抜穿>を繰り出した。
方天画戟と似た双月刃が敵の体を深く貫き、背から飛び出た。
俺は、敵の横を通り過ぎるように移動し、背後に飛び出た神槍ガンジスの柄を掴み直す。
雷光を帯びた槍の離脱と同時に、敵の体内は血の霧となって爆散した。
刹那、神槍ガンジスの穂先、その神魔石が激しい戦闘を経て煌めきを増した。
ピコーン※<神槍・烈業抜穿>※スキル獲得※
周囲の敵は倒しきったが、まだ戦場は加熱状態――。
相棒が、ヴォソギアを守るように紅蓮の炎を吐く。
紅蓮の炎は、扇状に展開し、動きの速い突起物を体に生やした巨人たちを呑み込む。
――ゴオォオオ!
轟音と共に、地獄のような熱波が顔に叩きつけられた。
紅蓮の奔流に包まれた巨人たちの体から魔力を帯びた角が弾けるような音を立てて砕け散っていく。炎が晴れると、そこには黒焦げになり、動きを止めた巨人の残骸だけがあった。相棒の炎は、単なる火炎ではなく、対象の魔力そのものを焼き尽くすかのような、確かな殺傷力を見せつけていた。
「相棒、ナイス」
「見事だ、神獣ロロディーヌ!」
右翼で、ヴォソギアの力強い声も響いた。
相棒の援護により、右の敵集団も勢いを失っていく。
だが、戦場全体を見渡すと、まだ無数の敵が残っていることがはっきりと映っていた。特に、背後、ガルドニクスの爆散地点から奥へと退いていた狂気の王シャキダオスの本隊と、魔界王子イシュルーンの軍勢が争いながら左右に展開、退き始めている。
強者の眷族は、ガルドニクスが散ったことで、後退を意識したようだ。
糸を引くように新たな陣形を組み始めた撤退戦は見事だが、殿として残る強者もいた。
その魔力の質量は、先ほどまで戦っていた精鋭部隊の比ではない。
「――本命は、そっちか」
左手に握り直した神槍ガンジスを構え直す。
新しく獲得した<神槍・烈業抜穿>の感触が、手の内に熱い奔流となって流れ込んでくる。
この力を試すには良い相手だろう――。
狂気の王シャキダオスの眷族と思われる存在は、魔槍を持ち、竜族の戦士たちの<刺突>や薙ぎ払いを次々に防ぎ、ヴィーネの〝陽迅弓ヘイズ〟から射出された月迅影追矢ビスラの矢を防いでいた。
その魔槍の切っ先から立ち昇る血に塗れた幻影は、狂気の王シャキダオスの姿だろうか。
幻影は、迫りくる竜族の戦士たちの<刺突>や薙ぎ払いを次々に防ぐだけでなく、<従者長>フーの<血影ノ銀爪瞬刃>による攻撃を躱し、カルードとユイとルリゼゼの連続攻撃を防いでいる。
エヴァとレベッカとヘルメは竜族たちを守っていた。
その魔力の質量は、先ほどまで戦っていた精鋭部隊の比ではない。
他にも、狂気の王シャキダオスの眷族たちが、己の命すら厭わぬ血の盾として前線に集結し、魔槍を持つ角ありの狂気の王シャキダオスの眷族と思われる存在を守る。
しかし、そんなシャキオダスの眷族たちや、俺たちと竜族に向け攻撃しながら退いている魔界王子イシュルーンの魔術師団がいた。
そいつらが、幾重にも連なる黒曜石のような防御術式を展開しているのが見えた。ファーミリアたちの遠距離攻撃を防ぐ。
その防衛線の中心、血と黒曜石の間に立つ、殿の司令官らしき大柄な魔人が、両手を高々と掲げ、防御術式を更に強固にしている。
この防御線の中心にいる、シャキダオスの槍を持った強者を叩き潰せば、すべてが終わる。
「――ヴォソギア! 相棒! 正面突破だ! すべてを貫く烈業の力を試させてもらうぞ」
『「カカッ! 待っていたぞ、槍使い!」』
「ンンンッ!」
ヴォソギアの体から黒雷が荒れ狂い、神獣ロロディーヌは咆哮と共に紅蓮の炎を前方に放射する。炎は狂気の眷族どもを容赦なく呑み込み、黒雷は防御術式の表面を焼き焦がし、亀裂を入れ始めた。
その黒雷が防御術式に穴を開けた、ほんの一瞬を狙った。
<血道第三・開門>、<血液加速>で極限の加速。
<闇透纏視>と<隻眼修羅>で防御術式の亀裂、そしてシャキダオスと目させる幻影を放っている魔槍を持つ眷族の魔力核の位置を加速する視界の中で正確に捉えた。
旋回機動から一氣に直角機動に切り替える。
左手の神槍ガンジスの切っ先が、ヴォソギアの黒雷で歪んだ術式の僅かな亀裂と、眷族の魔力の核を突くことをイメージしつつ前傾姿勢のまま<神槍・烈業抜穿>発動させた。
<血魔力>が光の渦となり神槍の穂先に集束螺旋し、神槍ガンジスが吸い込まれるように突き進む。
方天画戟と似た双月刃の穂先は、防御術式の幾重もの層を、抵抗を感じさせないまま貫通した。
突き刺さる感触の直後、烈業の力が、シャキダオスの槍を持った強者の体内で爆発的に炸裂し、俺はその横を通り抜け、
『「グアアアアァァァッ!!」』
神槍ガンジスの柄を掴む。
と、強者だった眷族の体から、紅蓮の炎と光の魔力の奔流が溢れ出し、周囲の防御術式を吹き飛ばす。
血と魔石の破片が四散し、強者は断末魔と共に、跡形もなく消滅した。
司令官を失った敵軍は、統制を完全に失った。
まだいる他のシャキダオスの眷族は意味もなく同士討ちを始め、イシュルーンの魔術師団のほうもバフハールと飛怪槍流グラド師匠たちの活躍により、魔法陣を放り捨てて潰走を始めているが見えた。
「掃討だ!」
ヴォソギアの咆哮が響き渡り、竜の巣の若き竜たち、そして眷属たちによる追撃が始まる。戦闘は急速に掃討戦へと移行した。
再び<血脈冥想>を施し、乱れた魔力を整える。
傍らには、黒豹の姿に戻った相棒が「にゃ〜」と甘えた声を上げた。
『「カカカッ! 見事な幕引きだ、シュウヤ! 我らが空を汚す羽虫どもは、これで綺麗さっぱり消えたぞ!」』
「貴方と相棒の力添えがなければ、一瞬での決着は難しかった。感謝する」
『「そして、戦いの最中に進化を遂げたな? まさに武の求道者よ」』
「あ、はい。神魔石が応えてくれた」
竜人のヴォソギアは、神槍ガンジスを見て、
『「……ほほぅ……神槍か……」』
と呟く。
頷き、武器を収めた。
賢竜サイガナンが待つ巨大な肋骨のアーチの下、竜の巣を見る。
「皆、戻ろう――」
「「はい」」
眷属たちを伴い、静かに向き直った。
静寂を取り戻した竜の巣の上空を雷竜ラガル・ジンが旋回し、警戒を続けているのが視える。
宴の広場では、賢竜サイガナンが杖を突き、宙空に再び巨大な魔法ディスプレイを映し出した。そこには、先ほどの戦闘の残骸を分析する光の術式が流れている。
『「……撤退を確認した。狂気の王シャキダオスの眷族は、もはやこの空域には戻れまい。イシュルーンの魔導師団も、司令官を失い、連携が完全に途切れた。見事な連携だった」』
サイガナンは、俺とヴォソギアに深く頷きかける。
続きは明日、HJノベルス様から書籍「槍使いと、黒猫。1巻-20巻」発売中。
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