二千三十三話 獄炎将ガルドニクスと方天画戟の神威
即座に右手に魔槍杖バルドークを召喚。
<闘気玄装>を維持、<握吸>と<勁力槍>を発動。
『「よかろう! ヴォソギアと共に、皆も存分に暴れるがよい!」』
サイガナンが水晶の杖を天に掲げると、都市全体を覆う結界の一部が解かれ、出撃の道が開かれた。肩の竜頭装甲を意識し、〝紅蓮の竜翼膜〟と〝炎竜鱗骨鋼〟の胸当てが融合されている髑髏模様の外骨格甲冑を展開させた。
「いくぞ! ふんッ――」
と<魔闘術>系統を強めたヴォソギア。
体から鱗の一部が伸びては鎧が変化し、地面が陥没した瞬間――「グォァ!」と豪快な咆哮と共に大地を蹴り、跳躍、上昇していく。
そのヴォソギアに呼応した相棒は「ンンンン」と喉声を響かせ、漆黒の毛並みはそのままに、四肢は太く、強靭な筋肉が隆起する。
巨大化し、神獣ロロディーヌになった。
「相棒は皆と共に、ヴィーネとクナも援護を頼むぞ」
「はい、お任せを」
「ロロ様の頭部を利用できれば、して、敵の弱点の解析をしつつ、効率よく敵の排除に協力しますわ」
クナが月霊樹の大杖を掲げてから、魔法のポーション、錬金術素材を皆に配る。
ベネットたちを背に乗せ、跳躍する。
俺も追うように跳躍し、<武行氣>を発動、飛翔――。
<経脈自在>と<根源ノ魔泉>と<仙魔奇道の心得>を連動させる。
更に<沸の根源グルガンヌ>を発動、重ねた。
眉間に浮かぶ仙魔奇道の魔印が目映く輝きを放った。
太古の力の漆黒と紅蓮の光と膨大な魔力が、全身の血脈と経脈を巡り体内の隅々まで浸透していく。脳髄が灼熱を帯びる。
そんな原初の力が土台となり、視界の端が漆黒と紅蓮に染まりそうになるが、構わず<血道・魔脈>を起動し、水神由来の<滔天神働術>と<滔天仙正理大綱>を重ねると、神秘的な共鳴がまた始まる。
<沸の根源グルガンヌ>を内包している丹田に渦巻く<仙血真髄>が咆哮を上げた。
太古の力が血脈を通じ全身を巡る。
原初の力を土台に水神由来の<滔天仙正理大綱>と<滔天神働術><滔天魔経>で全身の魔力と<血魔力>を昇華させた。
<魔闘術>奥義の一つ<滔天魔経>の効果で、全身の細胞と筋肉が共鳴し、高密度に水魔力が体から溢れ出て蒸発し、渦を巻きながら上昇して周囲を深紅に染め上げる。
光魔ルシヴァルの血統故の十六大経脈が青白い光を放つ。
同時に魔神ガンゾウ由来の〝魔犀花流槍魔仙神譜〟で得た血脈に共鳴し、青白い光が深紅へと変容し、畳み掛けるように、<黒呪強瞑>を重ねた。
体中の血道・魔脈と連結している魔点穴が光を帯び、無数の開いた毛穴から<血魔力>が溢れ出て、深紅の霧となって周囲を包み込んでいく。
――人族とも魔族とも異なる俺たちだけの血の回廊。
雲門から神門へと至る秘孔の魔点穴のすべてが、意思を持ったかのように律動し、全身から噴出中の魔力と、経脈に流れる内の魔力を、<経脈自在>を利用しつつ<血脈冥想>を用いて落ち着かせる。
<経脈自在>を発動していても脳幹と大脳の神経網がすぐに熱を帯びる。
光と闇の魔力が交錯する中、複数の<魔闘術>を重ねられる光魔ルシヴァルならではの血統の力は凄まじい、毛穴という毛穴から深紅の霧となって溢れ出す、その<血魔力>が同時に体内を駆け巡る。
ヴォソギアと相棒と併走した。
「にゃおぉぉぉぉぉッ!!」
相棒の炎が混じる咆哮が衝撃波となって、前方に展開した。
魔術師の格好をした一部の者が、宙空に繰り出していた魔法の膜のような物が次々に弾けて消えていく。
ビリビリとした振動を感じた。
相棒の炎を帯びた衝撃波は、初めてに近い感覚だが、新スキルか?
相棒の頭部から沙・羅・貂たちが右上に飛翔し、黒い稲妻を寄越している四眼四腕の魔術師集団に突撃していく。沙と対峙した四眼四腕の魔術師は<御剣導技>の一撃をまともに受ると魔剣ごと上半身が消し飛んでいた。
眼前に広がるのは、まさにカオス。
十層地獄の王トトグディウスの配下である炎の巨人兵インディウス、欲望の魔王ザンスインの使徒である異形の魔人、そして狂気の王シャキダオスの眷族たちが、互いに争いながらも、防衛に出た若い竜たちを包囲しようとしていた。
『「邪魔だァァァッ! 時の秘宝は我らが王に献上するのだァ!」』
インディウスの一体が巨大な炎の戦斧を振り上げ、銀竜に襲いかかる。
銀竜は精神汚染の影響か動きが鈍い。
「――させるかよ」
相棒の背から飛び出し加速――。
魔槍杖バルドークを旋回させる<龍豪閃>――。
紅斧刃と炎の戦斧が衝突、重低音が響く中、強引に押し斬るように振るいながら左手に神槍ガンジスを召喚し、<光穿>を繰り出し、インディウスの胸元をぶち抜く――。
「げぇ」
仰け反ったインディウスの体は再生するが、構わず魔槍杖バルドークを横に――<妙神・飛閃>を繰り出すが、巨大な牛刀が突如としてインディスの真横に出現し、魔槍杖バルドークの<妙神・飛閃>を防いできた。
「――な、なんだ貴様は!?」
「ただの通りすがり――」
言い放つと同時に、神槍ガンジスで<水穿>――。
同時に左手首の<鎖の因子>から<鎖>を射出――。
インディウスは、<水穿>を炎の戦斧で防ぐが、<鎖>は防げず、顔面が血飛沫に変化――その<鎖>を再生していくインディウスの体に絡めて拘束し、それを――。
迫っていた大柄の魔人へと放り投げた。
インディウスの頭部無しの体と激突した大柄の魔人は、「チッ、邪魔なんだよ――」と、インディウスを払い退ける。そこにファーミリアの<龕喰篭手>が喰らい付く。
敵魔人は「<血魔力>だと!?」と驚きながら左右に高速に移動し、ヴェロニカ、ベネット、ヴィーネ、ルリゼゼの遠距離攻撃を避けていた。
そこに黒い雷光が奔る。
『「カカッ! ――挨拶代わりだ、消し飛べ雑魚ども!」』
四腕の龍人形態のヴォソギアだ。
黒い稲妻を纏った拳と魔槍で、群がる魔族たちを次々と粉砕していく。
その圧倒的な武力は、まさに「黒雷」の異名に相応しい。
だが、敵の数は多い。上空から、魔術師集団が魔法障壁を作り始める。
「ご主人様、あの敵は魔界王子イシュルーンの手先かと」
ヴィーネの言葉と共に光線の矢が、その魔界王子イシュルーンの眷族衆、魔術師に向かう。光線の矢は魔法障壁を幾つか貫いていたが、あまり貫くことはできていない。
敵の魔術師集団は、広範囲殲滅魔法の詠唱に入っていた。
そこから五色の魔力光弾の雨が発生、こちらに飛来してくる。
「チッ、数で押すつもりか」
「ご主人様、あの程度、数に入りません」
ヴィーネは、和弓と洋弓が融合したコンパウンドボウにも似た、翡翠の蛇弓を構え、そこから紫電の魔力を展開した。
<ヘグポリネの紫電幕>だろう。
幾重にも織り込まれた紫電の網には無数の蛇が這い回る。
それらが、降り注ぐ数百の魔力光弾をすべて受け止め、ジジジッという音と共に瞬時に蒸発させていく。完璧な防御。
そのヴィーネは、頬の銀蝶をすでに両手に纏わせるように展開させ、
「お返しです――」
ヴィーネが妖艶に微笑み、指揮者のように指先を振るう。
エクストラスキルの<銀蛾斑>を使用した。
両手から発生した無数の銀の蝶々の群れは敵集団に向かう。
煌びやかな斑模様の銀蝶を浴びていく敵は、動きが鈍くなる。
銀蝶に触れた魔導師団の陣形が内側から崩壊していく。
魔力光弾を繰り出した魔術師、四眼四腕、二眼四腕、二眼二腕の魔族とミノタウロスのような魔族は、
「な、なんだこの蝶は!? 熱い、痛いッ!」
「ここはドコォ」
「頭に卵!!!」
「ギャァァァッ! 魔力が、吸われ……ッ!」
「オマエ、マル囓り!!」
「ボクちん、がんばーーーっ」
「うぇぇぇ」
「たまごおおおおお」
「オマエら、なんだ、こっちに来るな――」
と、混乱を始めた。
だが、悪魔騎士のような存在にはあまり効いていないか。
その混乱を突くように、二つの影が疾走した。
カルードとユイだ。
カルードは流剣フライソーを構え、影のように敵陣へ滑り込む。
トトグディウスの精鋭騎士が炎の剣で迎撃しようとするが、カルードの姿が揺らぎ、二重に見えた。
「――<二連暗曇>」
幻影か実体か、認識をあやふやにさせる二連撃。
騎士が幻影を斬った瞬間、カルードの実体が懐に入り込み、逆袈裟に斬り上げる。
さらに、返す刀で周囲の敵を薙ぎ払う。
「ハッ! ――<血滅・虎牙>!」
カルードの剣から、赤黒い虎の牙を模したオーラが膨れ上がる。
その一撃は物理的な装甲ごと敵の魔力核を噛み砕き、巨躯の悪魔騎士を粉々に吹き飛ばした。
一方、ユイは静寂そのものだった。
戦場の喧騒の中、彼女の周囲だけ音が消えたかのような錯覚。
神鬼・霊風を抜き放ち、眼前のインディウスへ肉薄する。
巨人が腕を振り下ろすが、ユイは最小限の動きでそれを躱し、腕の上を駆け上がった。
「……遅い」
すれ違いざまに閃く銀光。
――<銀靱・壱>。
巨人の首に赤い線が走り、一拍遅れて鮮血が噴き出す。
だが、トトグディウスの兵は再生能力が高い。首の傷が泡立ち、修復しようとする。
ユイは空中で反転し、逆手に持ち替えた刀を、巨人の心臓部へ切っ先を向けた。
「再生はさせない――<死臓ノ剋穿>」
ドスッ、という鈍い音と共に、刀身が深々と突き刺さる。
刀から放たれたのは、細胞を強制的に壊死させる呪いの魔力。
巨人は断末魔を上げることもできず、全身を灰色に変色させ、ボロボロと崩れ落ちていった。
「ふふ、お見事! 我らも負けてはおれん!」
ゼメタスとアドモスも、光魔黒骨清濁牙と骨の魔剣を振るい、シャキダオスの眷族たちを次々と葬っていく。
師匠たちやバフハールも、それぞれが得意とする武技で戦場を蹂躙していた。
キサラとファーミリアたちのフォローに、ヴィーネが前に出ていくのが見えた。
細い体の輪郭を雷状の魔力が縁取るように血に包まれる。
「シッ!」
すれ違いざまの斬撃。
眼球の魔物たちが反応する間もなく、その体は両断され、遅れて切断面から雷が噴き出した。加速したまま戦場を駆け巡るヴィーネは、まさに死を運ぶ赤雷の閃光。
敵が反撃しようと触手を伸ばすが、ヴィーネの幻影が盾となったように消える。
<光魔銀蝶・武雷血>の加速力には追いつかない。
「ギャギギギッ!?」
ヴィーネを追えず、混乱する敵の真上へ――。
相棒の触手に引っ張られるように共に移動した。
黒虎と共に、そのモンスターのような敵に突っ込む。
相棒は無数の触手の先端から骨剣を伸ばす。
それが鞭のようにしなり、動揺した魔物たちを次々と串刺しにしていく。
俺も負けてはいられない。
左手首の印が熱を帯びる。
「――<鎖>」
射出した<鎖>が、指揮官級と思われる巨大な一つ目のモンスターを捕らえた。
そのまま強引に引き寄せ、魔槍杖バルドークを構え、<血魔力>を送り、<握吸>を強めながらカウンターの『魔打棍殴』を行うように柄を調整――。
魔槍杖バルドークで<刺突>の突き――。
基本にして極致、螺旋の回転を加えた<刺突>が一つ目の巨大な瞳を深々と貫く。
断末魔を上げる暇さえ与えず、柄と石突を返す。
巨大な一つ目モンスターの体を潰すように薙ぎ倒した。
ピコーン※<風柳・魔打棍殴>※スキル獲得※
次の標的へ向かった。
ヘルメの《氷槍》が蛇の頭部を持つ魔族たちの体に突き刺さり地面に縫いつけていく。
クナは、<血霊月ノ梔子>を展開させてメルやキッカたちを守る。
すると、乱戦の中、一際巨大な魔力を放つ存在が現れた。
空間の裂け目から這い出てきた、上半身が美女、下半身が巨大な蜘蛛の姿をしたアラクネ型、魔界では神格を有していそうな雰囲気を持つ。
狂気の王シャキダオスの高位眷族?
『「キシャァァッ! どいつもこいつも鬱陶しい! まとめて狂いなさい!」』
女怪が叫ぶと、周囲にピンク色の毒々しい霧が散布される。
精神汚染系の猛毒だ。
「厄介だな。だが――」
相棒と視線を合わせた。
神獣ロロディーヌは「ンンッ!」と短く鳴き、背中から無数の触手骨剣を展開。
魔槍杖バルドークを構え、<闇透纏視>で相手を観察し、<闘気玄装>を強める。
「相棒、黒雷に合わせようか」
意図を察したヴォソギアが、ニヤリと笑って並び立つ。
『「おうよ! 竜と光魔の合体技、とくと味わうがいい!」』
ヴォソギアとロロディーヌと共に駆け出した。
狙うはアラクネのような蜘蛛魔族の首――。
ピンク色の毒霧が、俺たちの視界を奪おうと渦を巻いて迫る。
だが、ヴォソギアの纏う黒雷が、その不浄な霧を瞬時に焼き払って道を切り開いた。
『「グハハハッ! 我ら竜族に、その程度の毒香が通じると思ったかァ!」』
ヴォソギアが豪快に笑い飛ばしながら、四本の腕に握られた魔槍と拳を同時に振るう。放たれた黒い衝撃波がアラクネの巨大な蜘蛛の脚を数本、根元から粉砕した。
『「ギシャァァッ!? あ、足がァ!?」』
蜘蛛が悲鳴を上げ、バランスを崩して巨体を揺らす。
その隙を神獣ロロディーヌが「ンンンッ!」と喉を鳴らし突撃――。
同時に、体から無数の触手骨剣を射出し、鞭のようにしなる骨剣が残った蜘蛛の脚と体を絡め取り、きつく締め上げ、紅蓮の炎弾を吐く。
アラクネ蜘蛛魔族の顔面を焼いた。
『「――熱ッ!? 焼けるゥゥ! 神界なのか!!! くそが、離せ、離しなさいよこの野獣ゥゥ!」』
もがくアラクネ蜘蛛魔族の懐へ、回転しながら音もなく滑り込む。
遠心力を魔槍杖バルドークに乗せる勢いで<血液加速>――加速しながら<闇雷・一穿>――渾身の回転する紅矛と紅斧刃が、女怪の美しい顔の下、蜘蛛の胴との接合部の首へと吸い込まれる。
同時に神槍ガンジスで<血刃翔刹穿>――硬質な外殻を紙のように貫いた。
「ア、ガ……」
アラクネ蜘蛛魔族の動きが止まり、体の一部は血刃を喰らい蒸発するように塵となっていく。首の切断面から膨大な魔力が逆流し、まだ残る、体から破裂し四散した。
結構な魔力を得た、血飛沫と体液の雨が降る、血と魔力を吸収し、着地する。
残心をとった。
『「カカッ! 見事な一撃だ、我が友よ!」』
ヴォソギアが空中で回転し、隣に降り立つ。
相棒も「にゃおぉ~」と満足げに鳴き、黒豹に戻って足下で着地。
「良い連携だったな、相棒、ヴォソギア」
「ん、にゃ」
ヴォソギアの視線の先――。
アラクネ蜘蛛魔族が倒されたことで統率を失いかけた敵軍の奥から、空間そのものを歪ませるような、どす黒い波動が伝わってきた。イシュルーンの手勢か、それともシャキダオスなどの眷族か。
「警戒しろ」
魔槍杖バルドークを握り直し、<闘氣玄装>を練り上げる。
戦場の空氣が、再び張り詰めた。
アラクネがいた場所、その奥の空間が突如として赤熱し、地面がドロドロに溶解していく。鼻をつく硫黄の臭いと共に赤黒い魔力と共に一人の巨漢が姿を現した。
赤黒い重厚な甲冑で覆い、背には炎で形成されたマントを揺らめかせている。
手には身の丈を超える、巨大な鋸状の大剣が握られていた。兜の奥で燃える瞳が、俺たちを睥睨する。
『「……アラクネごときが後れを取るとはな。所詮はシャキダオスの愛玩人形か」』
低く、地響きのような声。
その魔圧だけで、周囲の瓦礫が熱で溶け始めていた。
「インディウスたちとは格が違うな。トトグディウスの側近か?」
問うと、魔人は大剣を軽く振るう。
それだけで爆風が発生し、熱波が頬を撫でた。
『「我が名は獄炎将ガルドニクス。十層地獄の王、偉大なるトトグディウス様が武威を、この地上で体現する者なり。そして、貴様らが、噂に効く光魔だな。インディウスを屠ったその腕、我が剣の錆にしてくれよう」』
ガルドニクスと名乗った魔人は一歩、また一歩と近づいてくる。
その足跡から赤黒い魔力が炎のように広がった。
ヴォソギアが低い唸り声を上げ、臨戦態勢をとった。
『「竜の巣を汚す不届き者が。その炎、我が黒雷で消し炭にしてやる!」』
『「フッ、竜の雷ごときで地獄の業火が消えるものかよ」』
ガルドニクスが地面を蹴った。
巨体に似合わぬ爆発的な加速。
一瞬で間合いを詰め、巨大な鋸状の大剣を横薙ぎに振るう。
「――ッ!」
魔槍杖バルドークで受け止めるが、重い。
<闘気玄装>を纏わせていなければ、腕ごと持っていかれていただろう。
鍔迫り合いの最中、鋸状の刃が回転し、柄と擦れ合って激しい火花と金属音を撒き散らす。
「ほぉ、受け持つか」
技術もある――力を受け流すため習得したばかりの<風柳・魔打棍殴>の要領で手首を返し、敵の剣を斜め上へと逸らす。
体勢が崩れたガルドニクスの胴体へ、神槍ガンジスを突き出した。
「――<水穿>!」
水の魔力を帯びた突きが、赤熱する甲冑に直撃する。
ジュウウウッ! と激しい蒸発音。
水と炎が衝突し、水蒸気爆発のような衝撃が生まれる。
『「グォッ!? 小賢しい水を!」』
ガルドニクスは後退せず、逆に体を捻ってタックルを仕掛けてきた。
燃え盛る肩口からの体当たり。
バックステップで躱そうとするが、熱風が追撃してくる。
「援護します!」
ヴィーネの声と共に、上空から光の雨が降り注ぐ。
陽迅弓ヘイズから放たれたのは、月迅影追矢ビスラ。
<月光の纏>を帯びた魔矢が、ガルドニクスの甲冑の継ぎ目を正確に狙う。
『「小蝿がァ!」』
ガルドニクスが炎のマントを振り回し、魔矢を焼き払おうとする。
だが、数本が肩や太腿に突き刺さった。
「そこだ、相棒!」
呼びかけに、神獣ロロディーヌの触手骨剣が、ガルドニクスの足に突き刺さる。
足を絡め取り、地面へと引き倒そうとした。
「ンンンッ!」
『「グヌッ、この獣風情がぁぁッ!」』
ガルドニクスは体勢を崩しながらも、大剣を地面に突き刺し、踏ん張る。
そして、全身から激しい炎を噴出させた。
『「まとめて燃え尽きろ! <地獄焦熱破>!!」』
全方位への熱波放射。
<夜行ノ槍業・召喚・八咫角>で防ぐと、ヴォソギアが、
『「我も――後ろへ!」』
俺と相棒の前に割り込み、翼を広げて<黒雷の障壁>を展開してくれた。
地獄の炎と竜の黒雷が激突し、凄まじいエネルギーの拮抗が生まれた。
<夜行ノ槍業・召喚・八咫角>をガルドニクスに送るが、<超能力精神>のような力で宙空で押さえられた。その分、ヴォソギアの障壁が力を増し、更に、雷の礫が、ガルドニクスの体に突き刺さっていく。
「チッ」
舌打ちしたガルドニクスは後退し、炎を生み出し続ける。
<夜行ノ槍業・召喚・八咫角>を消し、
「畳み掛ける」
ヴォソギアの背後から跳躍――。
炎の隙間を縫って、ガルドニクスの頭上を取る。
魔槍杖バルドークを旋回させ、遠心力と落下の勢いを乗せ、
兜ごと狙う<龍豪閃>――。
紅斧刃が唸りを上げ、ガルドニクスの脳天へと振り下ろされた。
ガルドニクスの真上に、無数の人々の体が融合した肉壁が出現。紅斧刃がそれごと両断せんと迫るが、ガルドニクスは転移して回避する。
逃がすものかと即座に<仙魔・龍水移>を発動。魔槍杖バルドークの穂先に血肉が纏わり付いているような感覚のままガルドニクスの移動先の真横へ転移し、同時に<魔皇・無閃>を放つ――。
それにも反応したガルドニクスは人肉と炎が融合したような盾で<魔皇・無閃>を防ぐと爆音が響く。
人肉盾に埋め込まれた無数の顔が断末魔を上げ、肉片が飛び散るが、ガルドニクスの守りは堅い。
肉盾を新たに生むように体から触手を生み伸ばしてきた。
それらを横移動しながら神槍ガンジスに魔力を通し、槍纓を刃に変化させ、無数の刃で、肉触手を切り刻む。
と、ガルドニクスは右手の巨大な鋸状大剣を唸らせた。
『「――速いが軽い! 切り刻んでくれるわァ!」』
至近距離からの横薙ぎ。
即座に魔槍杖バルドークと神槍ガンジスを交差させ、その斬撃を火花と共に受け流す。 金属が悲鳴を上げ、重い。
高速回転する鋸刃と二槍が激しく競り合う。
だが、<魔闘術の仙極>で強化された肉体と技術がそれを凌駕する。
ガルドニクスを押し込め、「ぐ、何ダ、お前は人族の見た目のくせに――」と、ガルドニクスはそう言いながら後退し、<魔闘術>系統を強めてきた。
『「――喰らえ、地獄の苗床となれェ!」』
奴の甲冑の隙間と背中の炎のマントの下から、ズリュリュ、と湿った音を立てて無数の肉と骨の触手が噴き出した。
先端に鋭利な骨の刃や、苦悶の表情を浮かべた人面が付いた触手が、鞭のように、あるいは槍のように全方位から俺を襲う。
死角なしの飽和攻撃だが、片目を瞑る。
<闇透纏視>と<隻眼修羅>を使うと、触手の軌道を線として捉えるまま最小限の動きで触手を躱し、弾き、斬り落とす――首を捻って骨刃を避け、踏み込みと同時に魔槍杖バルドークの石突で触手の根元を粉砕。
一歩、深く踏み込んだ。
ガルドニクスの懐、絶対防御の肉壁の内側へ。
『「なッ!? 貴様、この数を!?」』
「終わりだ」
左手の神槍ガンジスを構え、<戦神震戈・零>を発動――。
体から神意力を有した膨大な魔力が湧き上がる。
酒の匂いが漂うと、煌びやかな戈が出現。
前方の空間が、その戈となったかの如く、そのまま神槍ガンジスと重なって前進――。煌びやかな戈と方天画戟と似た双月刃の穂先が融合しつつ、ガルドニクスの驚愕に染まる顔面と、その奥にある魔力核を穿ち抜いた。
甲高い鐘の音が響く。
ガルドニクスの体の内から凄まじい光が溢れ出し、すべてを白一色に染め上げる。
『「ガ、ア……ア……トトグディウス様、万、歳……」』
光の中で巨体が内から弾け飛ぶ。
凄まじい衝撃波が駆け抜け、ガルドニクスの体と、周囲に展開されていたおぞましい肉壁や触手の群れが一斉に崩れ去っていく。
先程までの猛威が嘘のような静寂が訪れ、塵となった残骸だけが舞っていた。
続きは明日を予定、HJノベルス様から書籍「槍使いと、黒猫。1巻-20巻」発売中。
コミック版発売中。




