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槍使いと、黒猫。  作者: 健康


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2020/2151

二千十九話 <戦神震戈・零>と神話級遺物

 ――氷の樹が完成した、その刹那だった。


 ズズズ……ッ!


 枝に串刺しにされていた死体の一部がビクンと痙攣したかと思うと、皮膚を食い破り、無数の羽虫が沸き立った。氷の樹は瞬く間に黒光りする粘液に覆われ、死肉と氷が混じり合いながら膨張し、脈動する巨大な肉の塔へと変貌していく。


 全身から<血魔力>を放出させつつ<血道第三・開門>――。

 <血液加速(ブラッディアクセル)>を発動。

 <血魔力>の血を体から垂れ流しながら、<握吸>と<勁力槍>を発動させ、握りを強めた。

 そして、<紫月>、<経脈自在>、<無方南華>、<無方剛柔>、<月冴>、<滔天神働術>、<龍神・魔力纏>、……<滔天仙正理大綱>を連続発動させる。


 丹田を起点に多重の<魔闘術>系統の魔力が体を駆け巡った。

 全身から紫電と血の赤が混じった凄絶な魔力が噴き上がる。

 

 巨大な肉塔の怪物は、枝にぶら下がっていたゴブリンや異形の数百の死体をも融合させ、新たな手足が生え、実験場に廃棄されていた古代の機械部品までもが巻き込まれ、肉の中に埋め込まれていく。


 その模様は、吐き気を催すほどのおぞましさだ。

 更に、大小様々な蠅的な蟲系の飛翔動物も生まれ続けていく。


 邪神ヒュリオクスか?

 イモリザは、「ヒュリオクスの眷族です――」と発言。

 すると、戦場には不釣り合いなほど澄んだ美しい歌声が響いた。

 ――ドォォン! 衝撃波が発生したかのように巨大な肉塔の怪物の右腕が内側から破裂して散った。


「ふふ、<血ノ鳴魔声(ブラッド・ハヴァオス)>は効きました!」

 

 シャナの魔声がエコー的に響く。

 ガスマスク的魔法装備の<魔声霊道>が渋いし、首に嵌めている〝紅玉の深淵〟を輝かせている。


 巨大な肉の塔の怪物は、「グオオオァァ」と体を燃焼させつつも再生もして、後退。

 

 その様子は、蠅のような蟲を従わせている蟲の邪王の印象を抱く。

 守護者級のモンスターの一部が融合しているのかもしれない。

 

 その巨大な肉塔のような怪物は体の一部を螺旋状に回転させながら、先端を鋭くさせると、「――グオオオオオオオオッ!!」と叫び、螺旋状の血肉ドリルランスを向かわせてきた。

 俄に氷縛柩(アイシクル・コフィン)と《闇壁(ダークウォール)》を繰り出して血肉ドリルランスに衝突させるが、通じず、魔声で歌うシャナに向かう。

 シャナの前方の空間が不思議に揺れると、その血肉ドリルランスは内部から爆発炎上し、散った。


 シャナの邪神系統に対する絶対力は凄まじい。

 巨大な肉塔の怪物は「グォォォォッ」と怯えた。

「グルザルア、そこの女を優先的に潰せ――」とボロボロの法衣を着た男が叫び、魔宝石のような物を<投擲>――。


「シュウヤ様、あれは、<魔晶力ノ礫>や<極魔石術>と似た魔術系統――」


 キュベラスが指摘、<隻眼修羅>ですでに視ているから納得。


「了解した」


 と返事している間にも、魔宝石のような物は皆の近くで爆発していく。

 続けて、巨大な肉塔の怪物は、膿んだ胆汁のようなの深緑の霧を己の体から吐き出す。

 そして、膨大な数の蟲の飛翔体をコントロールしているように、俺たちに差し向けた


 相棒が巨大なロロディーヌに変化し、口を拡げ「にゃごァ――」と紅蓮の炎を吐き、扇状に広がって、深緑の霧と無数の蟲を呑み込み、巨大な肉塔の怪物も、燃焼させる勢いで突き進む。


 ボロボロの法衣を着た男は、「――チッ」と舌打ちをし、巨大な怪物を護るように前に出るや否や、宝石のような物を幾つか、また<投擲>した。


「やはり神界の炎か――」


 と、言葉が掻き消えるほどに、宝石が爆発を繰り返し、相棒の紅蓮の炎と衝突、紅蓮の炎の勢いが止まった。


 ――爆風がこちらまで吹き荒れる。

 爆発と爆風と、光属性を有した何かの魔力で相棒の炎を相殺してきた。

 だが、そんな刹那にも――。

 左手首の<鎖の因子>から<鎖>を、その人型に射出――。

 同時に、氷縛柩(アイシクル・コフィン)と闇属性の闇壁(ダークウォール)をエトアたちの前に形成し、陣地を造り上げる。


 その間にも、レベッカの蒼炎弾。

 ヴィーネの光線の矢。

 エヴァの白皇鋼(ホワイトタングーン)の刃。

 ベリーズの聖十字金属の魔矢。

 ルリゼゼの<バーヴァイの魔刃>。

 それらの遠距離攻撃がボロボロの法衣を着た人型の存在に向かう。

 ボロボロの法衣を着た人型は宙空を素早く移動し、皆の遠距離攻撃を避けながら、鋼の鞭のような攻撃を繰り出し、中距離の位置で、皆の遠距離攻撃を防いでいく。


 ゼノンも光の魔刃をそのボロボロの法衣を着た人型に繰り出しが、当たらない。【蒼海の氷廟】のアレンとアイナも氷の刃を繰り出すが、ボロボロの法衣の人型は魔法陣を宙空に生み出し、氷の刃を防ぐ。

 【蒼海の氷廟】の二人は、加速し、ボロボロの法衣の着た人型に迫ろうとしたが、ボロボロの法衣は高速だ。宙空を動き回りながら、肉柱を巨大な肉塔のような怪物から引き寄せるように扱い、その二人と、俺たちに、巨大な怪物に近づこうとしていた相棒をも近づけさせていない。


 巨大な肉塔の怪物はうねうねと動き、ボロボロの法衣の存在を護る。

 

 ボロボロの法衣の存在は、次々に、無数の魔術刻印が刻まれた魔宝石のようなモノを<投擲>してきた。


 相棒が巨大な怪物を追うのを止め、宙空で身を翻しつつ「にゃごぁぁぁ」と紅蓮の炎を盛大に吹いた。


 その炎は、俺たちの側面を護るように扇状に展開され、無数の魔術刻印が刻まれた魔宝石のようなモノを呑み込むように衝突し、また爆発が連鎖していく。


 法衣の怪人、使徒は、眷族たちに攻撃を寄せ付けず。

 かなりタフだ。

 ルリゼゼの連続斬りを鋼の腕刃でなんとか防ぎ、ヴェロニカとファーミリアの連続斬りを浴びながら、一部の体を変化させ、囮を作ると、後退し、蟲の群れを衝撃波として皆に浴びせるように後退。

 

 またも相棒が紅蓮の炎を吐く。

 蟲使いの使徒へと炎が肉薄し、使徒が周囲に撒いた肉人形と衝突、またも連鎖的な爆発が起きて、爆風が吹き荒れる。


 その爆風が晴れるのを待たず――<雷炎縮地>で爆炎を突き破り、ボロボロの法衣の男へと肉薄した。

 奴は、相棒の紅蓮の炎を防いだ宝石の余波を盾にし、ボロボロの法衣の布の一部を触手のように動かしながら、後方へと滑るように退避しようとしていた。


 その動きは人族のそれではない。

 骨格を無視した軟体動物のような挙動。


「逃がすか!」


 右手の魔槍杖バルドークを旋回させ、遠心力を乗せた<豪閃>を放つ。 男は触手ローブをはためかせ、鋼の鞭を振るう。

 槍の軌道を逸らそうとするが、<風柳・中段受け>の要領で鞭を絡め取り、強引に引き寄せた。


 体勢を崩した男の懐へ、左手に召喚した神槍ガンジスで――。

 <風穿>を繰り出す。光の穂先が法衣の胸元を貫いた、「グエァァ」と悲鳴があるようにダメージはあるが――。

 浅い。肉や骨を貫く確かな感触がない。

 ズブズブ、ジュルリと、まるで腐った泥沼か、無数の生き物の集合体に槍を突き入れたような、おぞましい手応え。


 だが、男は退きつつ、体から無数の黒い甲虫が噴き出す。

 神槍の輝きを覆い隠そうと群がってきた。

 この男の体そのものが、蟲の集合体か!


「ギチチチチッ!」


 男の首が奇妙な角度で折れ曲がり、フードの下から複眼がギョロリとこちらを覗かせながら、複眼から魔力弾を射出してきた。


 それを魔槍杖バルドークを盾に防ぎ、横を<武行氣>で飛翔しながら移動していく。口腔からは人族の言葉ではなく、蟲の摩擦音が漏れた。 同時に、背後から巨大な肉塔の怪物が、俺を押し潰そうと極太の触手を振り下ろしてくる。


「弟子、そやつは任せた」

「こいつと、雑魚蟲は私たちが――」

「デカブツは俺たちに任せろ!」


 横合いから飛び出したレプイレス師匠とシュリ師匠とグルド師匠とが、それぞれの魔槍で触手を受け斬る。

 更に、ゼノンが影の棘を無数に突き上げ、怪物の奇怪な太い足を縫い留めると、アレンとアイナが氷塊を落下させ、ヴィーネがガドリセスを片手に振るう。

 <白炎一ノ太刀>を繰り出して、足の一部を斬り、背後に回る。

 ベネットの聖十字金属の魔矢が、胴体に突き刺さり、その動きを完全に阻害した。


 皆が作った一対一の好機。


 旋回し、全身から<血魔力>を噴出させる。

 神槍に群がり消えていく蟲は、周囲にまだ多い――それら目掛けゼロ距離で<神聖・光雷衝>を炸裂させた――閃光と雷鳴が轟き、周囲の蟲が焼け焦げ、法衣の男も弾き飛ぶ。


 魔槍杖バルドークと神槍ガンジスを十字に構え、男を追う。

 空中で体勢を立て直そうとする男は、体から無数の蟲の塊のような物を噴出させていく。


 ――<仙魔・龍水移>で転移し、男の背後に移動。

 <隻眼修羅>が捉えたのは、集合した蟲の中心の歪に脈打つ赤黒い核――渾身の力を込めて斬り抜ける。


 <双豪閃>――!


 二条の閃光が交錯し、蟲の集合体ごと核を粉砕した。

 男は断末魔すら上げることなく霧散したかに思えた。

 だが、先程吐き出した蟲の塊が、不気味な羽音を立てて渦を巻くと、それが磁石のように巨大な肉塔の怪物の血肉を引き寄せ、瞬く間に人型を再構築していく。再生した男が、歪な笑みを浮かべた。

 

「グギギ……無駄ダ――」

「にゃご――」


 相棒の紅蓮の炎が、巨大な肉塔の怪物の巨大な腕を貫いて、再生した男に向かうが、男は「ハッ――」と嗤い、宙空で側転しビーム状の炎を避け、体から蟲弾、否、蟲の飛翔体を発生させ、それを寄越す。

 

 <ルシヴァル紋章樹ノ纏>を発動。

 加速し、魔槍杖バルドークで<妙神・飛閃>――。

 身を捻りながら神槍ガンジスで<魔皇・無閃>――。

 一瞬で、蟲の飛翔体を薙ぎ払っては、岩のような蟲の塊が飛来してくる。それを<隻眼修羅>で()て、<仙魔・桂馬歩法>を行った。


 宙空で跳ぶような機動で、蟲の塊を踏み付る。

 核のような物を潰しながら宙空を駆け、邪神の使徒と目される存在に近づいた。


 その使徒は体の一部を変化させる。

 蟲と骨が融合したような刃を襲い掛からせ「――我ハ不滅」と言いながら口からも巨大な蟲塊を突き出してくる。


 ――飛来した蟲骨刃はかなり速い。

 旋回機動中に、魔力を込めた神槍ガンジスを振るった。

 螻蛄首の蒼い槍纓が、刃と化し、宙空に靡いた。

 それらの槍纓の刃が、次々に蟲骨刃を貫き、防いでいく。

 俺を追跡してきた巨大な蟲塊目掛け、魔槍杖バルドークを上から下に振るい、巨大な蟲塊を叩き付け、弾く。


 使徒は、


「チッ、我の攻撃を尽く……だが、その装備と血肉を頂くのは我だ――」


 と言うと加速し、腕の一部を分裂させる。

 その分裂した腕だった物は無数の刃となって、それが迫る。


 羽虫の羽ばたき音が多重な音となって響いた。


 俄に<風柳・異踏>を実行――。

 使徒との、軸をズラすように腕刃を避けた。

 次の腕刃も視るように<水月血闘法>を発動させ、避けては神槍ガンジスを振るい、腕刃を弾き、魔槍杖バルドークの<豪閃>で、腕刃を切断。<魔技三種・理>を意識し、<神秘の光雨>を発動させる。


 体の周囲から極光のような神々しい輝きが溢れ出す。

 その光は、光の雨となって蟲の群れと、巨大な肉塔の怪物の一部を裂く。邪神の使徒と再生を阻む浄化の槍の如く雨霰と降り注ぐ。

 それは天界からの裁き思えた。


「ぐぇっ、その光の雨は、ここまで光神ルロディスの――」


 邪神の使徒は<神秘の光雨>により体の一部が穴だらけとなって一部が溶けていた。だが、溶けた箇所から黒い触手、ウジのような物が生まれ、翅が生えて、羽ばたいていく。


「――再生か。ならば、その核ごと焼き尽くすまで!」


 <仙血真髄>、そして<風槍流・心因果律>。

 <血魔力>を右腕の一点に集約し、<雷炎縮地>で再び肉薄する。


「<風槍・理元一突>!!」


 魔槍杖バルドークが、風の理そのものとなって突き出される。

 再生したばかりの肉体を、骨を、そして核を守ろうとする蟲の壁を、紙のように貫いた。


 穂先が核を捉えた瞬間、膨大なエネルギーが逆流してくる。


 ズドンッ!!


 硬質な手応えと共に、核に亀裂が走る。

 今度こそ、逃がさない。


「ギ、ギギ、ガァァァァァァァッ!!!」


 男と、連動する巨体が同時に絶叫した。

 崩壊する肉体の中で、男が最後の足掻きを見せる。


 千切れかけた上半身を俺に巻き付け、道連れに自爆しようと魔力を暴走させ始めた。


「離れろぉッ!」


 左手の神槍ガンジスを、男の首筋に突き立てた。

 <光槍技>の<戦神震戈・零>を発動――。


 体内の深淵から光属性の膨大な魔力が噴出する。

 芳醇な酒の香りが戦場に立ち込め、戦神が宴を開いたかのような神聖な空間が生まれた。

 鼻をつく腐臭と鉄錆の匂いが掻き消えるや否や――。

 煌びやかな戈が虚空から顕現し、神槍ガンジスと融合。

 その方天画戟と似た双月刃が天の雷の如く、直進し、男の首から背骨を真っ二つにし、床をも貫くように穴を造り上げた。


 <雷光瞬槍>を使い後退すると、人型の使徒は、大爆発を起こした。

 

 周囲の腐肉と機械部品が四散し、衝撃波が実験場全体を揺るがす。


 着地し、爆風に耐えながら残心を取る。

 濛々たる土煙と腐臭の中、再生の予兆はない。完全に、沈黙した。


 爆煙が晴れていく。

 実験場には、飛び散った肉片と機械の残骸が広がり、鼻をつく異臭が立ち込めている。だが、あの耳障りな羽音と駆動音は消え失せ、静寂が戻っていた。


「……ふぅ」


 息を吐き、魔槍杖バルドークの血振るいをして納める。

 師匠たちや眷族たちも、それぞれの位置で警戒を解きつつある。怪我はないようだ。


「気持ち悪い相手だったわね……」


 レベッカが顔をしかめながら、足元の肉片を蒼炎で焼却する。

 戦場の中心――爆心地へと歩み寄った。


 そこには、粉砕された巨体の残骸の中に、奇跡的に無傷で残った『装置』が鎮座していた。先程の使徒が守ろうとしていた、あるいは利用しようとしていた、あの装置だ。


 封印は解かれかけ、中の『遺物』が露わになっている。

 ――ドクン……ドクン……。

 黒く、濡れたように艶めく心臓のような物体。

 周囲の惨状など意に介さず一定のリズムで不気味に脈動を続けていた。

 その鼓動に合わせ、周囲が歪む。

 視界がぐにゃりと曲がるような錯覚を覚える。

 邪悪、というよりは、もっと根源的な『虚無』を感じさせる波動だ。


「……鑑定を」

「はい」


 くぐもった声が魅力的なラムーが前に出る。

 霊魔宝箱鑑定杖を掲げ、慎重に魔力を照射した。

 灰色の光が黒い物体を包み込むが、光は表面で弾かれ、内部には浸透しない。


「……強力な拒絶反応です。解析不能……いえ、ランクは神話(ミソロジー)級。名は〝邪蟲の苗床ヒュリオクス・ナーサリー〟詳細は不明ですが、周囲の負の感情や魔力を吸収し、特定の邪神の権能を増幅、あるいは新たな眷属を生み出すための『揺り籠』のようです」


 ラムーの声には震えがあった。

 邪神の苗床……。

 

続きは明日、HJノベルス様から書籍「槍使いと、黒猫。1巻-20巻」発売中。

コミック版発売中。

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