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槍使いと、黒猫。  作者: 健康


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1985/2103

千九百八十四話 迷宮都市の喧騒と串焼きの煙


 俺たちが会話している間にもアクセルマギナたちは手際よく死体から金品を回収してくれていた。

 ユイは、


「見て、手形と紙片、闇ギルド同士の暗号表もある」

「お金もかなり持ってましたよ。ざっと見ただけで、一般の傭兵が数ヶ月は遊んで暮らせる額です」


 ベリーズとフーは、ずしりと重い白金貨と金貨が入った魔法袋を見せてきた。


「金は皆、豊富に持っているから、各自懐に入れて、自由に使ってくれ。また、アイテムでめぼしいものは、ラムーに鑑定をしてもらうといい、使いたいアイテムがあれば、自由にもらってくれていい」

「「了解~」」

「「はい」」

「……【腐肉漁り】や【炭ノボガー】の面々は、その金で命を落としたか」

「最高幹部たちは、別だと思いたいが、今のがすべてなら何も言えん」

「「はい」」

「うん、来て早々の闇社会からの出迎えだけど、ま、切り替えて行きましょう」

「ん、賛成、レベッカ、大通りには露店の売り物があると思うから、一緒に見よう~」

「うん、お買い物を楽しみましょ~」

「ん!」


 レベッカとエヴァの快活な言葉とやりとりに、皆も影響を受けて武器を消して笑顔となっていく。


 そこで、路地の奥から吹き抜けた風を感じた。

 <砂漠風皇ゴルディクス・イーフォスの縁>が自然と活き、風の流れが視える。そして、砂漠風皇ゴルディクス・イーフォスの半透明な魔猫の幻影が宙空をトコトコと歩く姿は、どこか愛らしい。


 同時に、先程まで漂っていた血の匂いを攫っていく。

 砂漠風皇ゴルディクス・イーフォスの幻影は、相棒に何かを語るように一つ頷き、風の流れに乗って魔力粒子を残しながら消えた。


 それと入れ替わるように大通りから生命力に満ちた奔流が流れ込んでくる――。

 自然と鼻が動くように、串焼きの肉が焼ける香ばしい匂いが肺を支配した。

 

 自然と唾を飲む。


 続けて、甘い果実の香り、聞いたこともない楽器の陽気な音色……。

 笛の音は非常に美しい。エトアが入手した笛を思い出すが、エトアたちも分かっているのか、頷いていた。

 

 そして様々な種族の売り子たちの威勢の良い呼び込み。

 人々が発する熱気と喧騒が、先程までの死線を過去のものへと押し流していく。


「……まずは腹ごしらえと行こうか。ペルネーテでいう第一の円卓通りの周囲、迷宮の入り口付近の繁華街とやらに行こうか?」


 と皆に提案しつつシャイナスに目配せ。

 シャイナスは知っているように頷いた。

 張り詰めていた眷族と仲間たちの空氣がふっと和らぐ。

 特にレベッカとエヴァは、待ってましたとばかりに目を輝かせた。


「やったー! 美味しいもの探検隊、出動~」

「ん、シャイナスは、串焼きにたこ焼きもあるって聞いた」

「うん、甘いものもイゾルガンデならではの品もあるって聞いたから、ワクワクしている」

「はい、楽しみです」

「ふふ」


 <従者長>ラムーも笑う声が兜を越えて響いていた。

 元魔鋼族ベルマラン、【グラナダの道】の証しの兜で表情は見えないが、彼女の美しい素顔は知っているから笑顔となっていることは分かる。


「イゾルフルーツの名は噂で聞いたことがありました」


 カルードの言葉に、レベッカたちが頷く。

 皆で進む。活気に満ちた大通りに出た。


 大通りの中央は幅広い石畳で、数台の馬車が通る。

 傭兵団らしき集団も左に見えた。

 エルフの射手集団と魔法使い集団は迫力がある。

 小柄獣人(ノイルランナー)とドワーフと人族の商人たちは、冒険者の一団と取り引きの会話を繰り広げながら通りを進む。


 まさに文化の坩堝だった。

 道の両脇には露店がひしめき合い、様々な言語の呼び込みが飛び交っている。ふと、東洋風の派手な装束をまとった商人が威勢よく肉を焼く匂いが鼻をくすぐった。


「あれは、東の貿易都市デニムで有名な〝大バイオル肉〟の串焼きだな。この街にはああして、大陸の東からの品も豊富に揃っている」


 レザライサがこともなげに言う。

 皆がそちらに目を奪われていると、今度は逆側、潮の香りがする露店から声がかかった。魚介を干したものが山と積まれている。


「あちらは西のフロルセイル湖からの行商か。湖底にしか棲まぬという〝深淵の虹鱒〟を使った菓子も名物だ。甘さと塩っぱさが特徴らしい」


「フロルセイル湖の港街には大々的に売ってなかったわ! でも、お魚のお菓子は珍しい! どんな味なのかしら!」


 レベッカが目を輝かせる。

 俺的にはせんべいを連想させるが、さて。


 なるほど、イーゾン山脈を越えてきた東西の珍味が、この道一本で味わえるのか。この街道は、まさしく俺の知るシルクロードそのものだ。


「ふむ、それらはたしかに聞いたことがある。この先の大通りを進めば、もう、それらの品と似た商品が路上で売られているだろう」


 魔界騎士シャイナスの言葉が、その事実を裏付けていた。

 レザライサは、


「〝特性モーフィアス肉〟などの串焼きもあるはずだ。お菓子、甘い物なら、ラドフォード帝国の特産品〝魔蜜ルルナディオン〟〝パリプラ〟なども流通しているはず。セブンフォリア王国のイラメイル地方の特産〝ポンガ〟、〝モミファン〟などのお菓子も流通していると聞いている」


 次々と出てくる名産品の数々に、改めてレザライサの情報網に舌を巻く。

 実際にこの目で見る品々を、まるで地図をなぞるかのように正確に言い当てる。

 【白鯨の血長耳】の盟主という立場だけでなく、帝国での破壊工作任務の経験がこうした知識にも繋がっているのか。南マハハイム地方の裏社会を支配する盟主の一角だからこその知り得る情報か。


「今の通りだけでも結構色々なのに、楽しみ!」

「「はい」」

「ンン、にゃおぉ~」


 相棒も喉声と鳴き声を発した。

 エヴァの足元にすり寄って甘えていく。

 相棒の甘える様子に、皆の表情が和らぐ。


 そのまま活気に満ちた大通りへと歩き出した。

 ミスティとキサラも小走りで、先を歩くエヴァたちの背中を追い掛ける。左には、冒険者ギルドの建物は赤レンガで大きい真四角。

 中央に巨大な竜の頭蓋骨が飾られた看板が目立つ。

 その建物を横目に迷宮へと続く中央広場を目指した。


 レベッカたちはタコ焼き風の食べ物を買っていた。

 マヨネーズはこの世界にもあるようだな、ま、卵があるんだから当然か。しかし、すげぇ美味そう……。


「……エヴァたち、中央のほうに向かっているからな」

「了解~」


 迷宮への入り方は水晶の塊なんだろうか。

 それとも洞窟もあるタイプならペルネーテと同じだが。


 道行く人々の熱氣もさることながら、道の両脇には露店が所狭しと軒を連ね、その数と種類は圧巻だった。先ほど感じた匂いや音の源が、渾然一体となって目の前に広がっている。この混沌とした活力こそが、迷宮都市の日常なのだろう。


 色とりどりの宝石のような飴細工を売る店が目に入る。

 ヴィーネが、


「珍しいです、鈴の音が響くお菓子?」

「はい、ガラス細工にも見えます」


 ヴィーネとキッカが声を弾ませて駆け出す。

 と、エトアたちも「わあ!」と歓声をあげて続く。その後ろから、ビュシエとファーミリアが、



「ふふ、イゾルガンデ特有のガラス細工菓子とは、氣になりますわね」

「はい、グロムハイムでは見たこともありません!」


 二人も楽しそうにスキップするように皆の後を追う。

 黒豹(ロロ)も甘い匂いに釣られたのか、「ンン」と喉を鳴らしてそちらへついて行った。その賑やかな一団に、俺たちも自然と引き寄せられるように合流し、再び大通りを進み始めた。


 レベッカたちも合流し、大通りを進む。

 

「――わ、見て! この鉱石、魔力を帯びて明滅してる! きれい~」「こっちの武具は中々の一品よ!師匠、これどうですか?」

「ふむ、悪くはないが、我らの手には馴染まんな」


 レベッカが珍しい鉱石を手に取ってはしゃぎ、ユイは露店の親父に勧められるがまま年代物の魔剣を吟味している。


 ソー師匠も興味深そうにそれを覗き込んでいる。

 セレスティアは、初めて見る世界の彩りに圧倒されているのか、真紅の瞳を大きく見開き、一つ一つの光景をその記憶に刻み込むように静かに周囲を見渡している。ふと、その虹彩が青白く変化した。


 感情の高ぶりによるものか? 赤い衣服が揺らめき、胸元の白磁器のような装甲が見えたが、魔力が少し煌めいていく。永劫の時の中でデータとしてしか知らなかった『賑わい』という現象が、情報の奔流となって彼女の炉心を満たしているんだろうか……。


 それとも彼女の持つ未知なる力の一端か。


 まだ俺たちの知らない、多くの秘密をその身に宿しているのかもしれない。

 これまで彼女が過ごしてきた世界とは、何もかもが違うのだろうからな。この世界の彩りが新たな希望として映っていてくれることを願う。


 そんな彼女の腕を、エヴァがそっと引いた。


「ん、あっち。いい匂い」


 エヴァが指差す先には、ごうごうと炎を吐いている魔獣が厳ついが、その魔獣が下にいて、上に置かれた巨大な鉄板と、対炎用のレンガ焼肉器が並ぶ。そこで、分厚い肉を焼き、串焼きを作っている屋台があった。


 じゅう、と肉が焼ける音と共に甘辛い特製のタレが焦げる香ばしい匂いが鼻腔を突き抜ける。


 そして、店主が、変わったおっちゃんだった。

 ドワーフのようでドワーフではない、頭がもっさもさの髪で覆われ、その風貌は恐王ノクターの大眷属ヴティガ・ハイケナンを彷彿とさせる。


 その店主が、


「――お、兄ちゃんたち、良いところに来たな! うちの名物、〝大バイオル肉〟の串焼きだ! こっちのワイバーンの串焼きも冒険者には人気だぜ!」


 威勢のいい店主の声に、グルド師匠が豪快に答える。


「おう、強そうな、魔界の髭もじゃ親父よ、その串焼きを全員分くれ!」

「魔界の親父とは、聞き捨てならねぇな。オマエサンも、髭もじゃが生えたイケメンかよ! ケッ、……まあ、客だからな、しかたねぇ! タレはそこから自由に選べるが、塩とセリュの粉は普通にかけて焼くから、それだけでも十分に美味いからな――」


 威勢のいい店主の声は怒ったようで怒っていないと分かる。

 グルド師匠が、


「はは、了解した。買うぜぇ、全員分くれ!」


 グルド師匠が豪快に注文する。


「おう、毎度ありぃ!」


 店主は威勢よく応えるとまるで舞うように串を返し、完璧な焼き加減で肉を次々と仕上げていく。

 その一連の動作には一切の無駄がない。


 そうして、大量の熱々の串焼きをゲットしている師匠たち。

 シュリ師匠は、串焼きをほくほく顔で食べつつ、


「……美味しい、あ、でも、あの店主、本当に人族? ドワーフ? 魔族の一流の武芸者の感覚があるんだけど」


 と疑問げに聞いていた。

 シュリ師匠の本物も超がつくほど、美人さんだからずっと見ていられる。

 ソー師匠が、


「あぁ、俺もそう睨んでいるぜ」


 と言いながら串焼きを食べていく。


「ふむ……たしかに、あの肉を焼く素振り、串を造作も無く肉に通す所作と、得物の扱い、その筋……只者ではないのう。確実に強者じゃな……ここはフロルセイルの傷場から比較的に近いからのぅ……カカカッ」


 飛怪槍流グラド師匠の指摘に、改めて、皆が、ひげもじゃの店親父凝視する。

 <闇透纏視>で一応視たが、<魔闘術>系統は、たしかに一般人のソレではないし、シュリ師匠が指摘した通り、武の極致に通じる洗練さがある。

 <隻眼修羅>で視るのも、まぁ、止めとくか。


 皆で、頬張りながら雑多な活氣に満ちた広場を見渡していく。

 誰もが思い思いに、この街の空氣を楽しんでいた。

 シャイナスでさえ、先程までの険しい表情を崩し、物珍しそうに周囲を眺めている。皆で、魔酒とテンテンデューティのジュースを共有するように飲んで食べていく。


 しばし、穏やかな時間となった。

 戦いの合間の何よりの報酬だ。


 バフハールは……あ、いた。

 焼き台で、うなぎのようなモンスター肉が焼かれて売られている店主の前にいた。大金を払い、うなぎの焼き肉を大量に買っていた。

 それを喰らいながら、貝殻のアイテムボックスの中にそれらを一瞬で仕舞っていた。


 そのバフハールは、先程のひげもじゃの店親父を見て、「……あの店主……もしや、氣然我王か……? まさかな……」


 と呟いていた。

 魔界の有名どころか?

 そこに、魔通貝からアドリアンヌの声が響いた。


「シュウヤ様、お楽しみのところ失礼します。例の件、少しだけ情報が掴めましたわ」


 アドリアンヌの声だ。

 脳内に直接響くクリアな音声に、串焼きを頬張る動きがぴたりと止まった。

 意識を内へと集中させると、あれほど騒がしかった周囲の喧騒が、まるで分厚い壁の向こう側のように急速に遠のいていった。


「……どうした?」


 そのわずかな表情の変化を、隣を歩いていたシャイナスは見逃さない、俺を見てくる。

 頷いて、『魔通貝からの連絡』だよ。言うように、耳を前に出して傾けつつ――皆の楽しげな声が聞こえているが……串を咥えたまま、何気ない仕草でそっと片手を挙げ、指先だけで眷族と仲間たちに合図を送った。


 一瞬で楽しげな雰囲気が引き締まるのを感じながら、耳の魔通貝を指の腹でタッチした。

 イヤホンを弄るように、スピーカータイプに変化させる。


 レザライサも耳元に嵌めている魔通貝に指を当て頷いた。

 そこで、


「アドリアンヌか。状況は?」


 魔通貝越しにアドリアンヌに音声を送った。


 串焼きを咥えたままのレベッカやエヴァが不思議そうにこちらを見ていた。

 少し人通りの少ない露店の裏手へと移動しながら、アドリアンヌの報告に耳を澄ます。


「はい。先程襲撃してきた【腐肉漁り】と【炭ノボガー】の……アジトの場所が判明しました」

「なに?」


 予想以上の速さに思わず声が漏れた。

 近くにいたレザライサたちも表情を改める。


「はい。この街で先行調査をさせていた部下のシャウラより報告が。皆、魔通貝を装備しておりますの、迅速に調査を頼みましたが、すぐに返答があり、奴らの本拠は、第三半円地区、通称『骨環溜まり』と呼ばれるスラム街の一角に。とのことです」


 アドリアンヌは淡々と、しかし確信に満ちた声で続ける。


「私の側近であるファジアルも既に現地で待機させております。シュウヤ様のご命令一つで、あの魔槍使いがギルドごと塵に還しますが……いかがなさいますか?」


 その言葉には揺るぎない自信が満ちていた。

 ファジアルは【星の集い】の最高幹部の一人。

 彼の実力をもってすれば、この程度の闇ギルドの掃除など、造作もないことだろう。


「……待て、まだ動かないでいい。それよりノルサグという名の邪神は聞いたことは?」

「知りません。イゾルガンデも、ペルネーテと同じく、大半がヒュリオクスとトリベラーとニクルスの使徒のはず……」


 魔通貝から聞こえるスピーカーの言葉に皆が頷いた。

 そこで、


「お前たちの手腕は信じている。だが、戦況はこちらでコントロールすべきだ。ファジアルたちには引き続き情報収集と監視を徹底させろ。下手に動いて警戒されるのは得策ではない」

「……承知いたしました。シュウヤ様のご判断に従います」


 通信が切れる。

 串の肉を頬張ってから、噛む。美味い!

 そして、すべてを食べてから串を噛みつつ――。

 眷族と仲間たちに向き直った。


 皆、何事かと俺の言葉を待っている。

 その表情からは、既に行楽の雰囲気は消え、戦士の顔つきへと戻っていた。


「今のアドリアンヌからの報告通りだ。俺たちを襲った連中のアジトは割れた」

「……では、すぐに?」


 逸るレベッカを手で制する。


「動くのはまだだ。ここは敵地と同じ、まずは順序というものがある」


 一度、思考を整理するように息を吐き、皆に今後の行動方針を告げた。


「まずは、腰を落ち着ける場所、普通に冒険者らしく宿屋を確保して、ここに行動拠点を作ろうか。迷宮都市イゾルガンデの近くに砂城タータイムが浮いているから、あまり意味がないが」

「ふふ、イノセントアームズとしてですね」

「ん、メルにベネットも来たがるかも?」

「そうだな、〝レドミヤの魔法鏡〟で宿屋を記憶させるか、キュベラスが忙しくなるかもだが」

「ふふ、はい」

「そこで、本格的に情報を集めるのですね」

「また、冒険者ギルドに戻ってみましょうよ、依頼はいっぱいあったから選ぶのにも一日かかりそうだけど、後、魔宝地図についても調べてみたい」

「そうだな、ペルネーテなどで入手した魔宝地図、迷宮の内部は邪界ヘルローネで、同じのはずだから、通用するとは思うが」


 そのまま中央広場に進む。

 ひときわ大きな人だかりができていた。

 広場の中央にはペルネーテやヘカトレイルにもあった『布告場』と書かれた看板が立っていた。

 その下でラッパを持った男たちが代わる代わる大声を張り上げている。


 まさしく、生きた情報掲示板だ。


「――聞け聞け! 西フロルセイル、キヤマ高地よりの伝令だ! ラドフォード帝国軍の補給路、未だ確保に至らず! 大街道にて輸送部隊が大規模なモンスターの急襲を受け、多大な被害が出た模様!」

「――これに対し帝国側は声明を発表! 『頻発するモンスター災害は、古来より大地を汚すという「穢れの民」、キヤール族の不浄な儀式によるもの』と断定! 一族の討伐を示唆しているとの報せだ!」

「――この街の冒険者に告ぐ! 我らが大迷宮の深階層にて、クラン【鋼のグリフォン】と【銀の斧】が新鉱脈を巡り乱闘! ギルドは両クランに対し、一時的な迷宮への立ち入り禁止を通告した!」


 布告人たちの野太い声が、次々と街の出来事を人々の耳に届けていく。

 遠い戦地の報に顔を曇らせる商人、帝国の横暴な声明に憎悪の声を上げる者――。


 あるいは仕方ないと諦観しているように溜め息を吐く者。

 そしてこの街の生命線である大迷宮での有力クラン同士の抗争の噂に眉をひそめる冒険者。


 広場は、人々の様々な思惑が渦巻く情報の坩堝と化していた。

 布告人の声に混じり、冒険者たちの生々しい声も飛び交う。


「おい聞いたか! キヤマ高地行き輸送隊の護衛依頼、報酬が跳ね上がってるぞ!」

「馬鹿言え、帝国の連中のために死にに行くようなもんだ! それにキヤール族がやったなんて、あいつらのいつもの言い草だろ! それよりこの街の迷宮だ!」

「おうよ、グリフォンと銀斧が消えた今が好機だぞ」

「奴らが見つけた鉱脈を横取りする絶好の機会だ! 腕の立つ前衛、あと二人募集する!」


 戦の匂い、差別の空氣、そして危険と富が混じり合う迷宮都市特有の熱氣。

 様々な人々の生々しい反応が、この街が巨大な迷宮であると同時に戦乱の渦中にあるフロルセイル地方特有の都市と雄弁に物語っていた。


「……ペルネーテと同じね、盗賊ギルド繋がり」

「ご主人様、この都市の盗賊ギルドも【幽魔の門】が主力のようです」 

「あ、シュウヤ、あそこ、さっき入ったギルドの建物!」


 視線を向ければ、巨大な竜の頭蓋骨が飾られた一際大きな建物が聳え立っている。


続きは明日、HJノベルス様から書籍「槍使いと、黒猫。1巻~20巻」発売中。

コミック版1巻~3巻発売中。

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