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槍使いと、黒猫。  作者: 健康


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1950/2001

千九百四十九話 亡霊と簒奪者


 夜明け前の最も深い闇が、瑠璃色を帯びて白み始める。

 王城へ向かうための最終準備は、静寂の中で進められていた。

 老宰相メンドーサたちから、国王派の魔傭兵や闇ギルドたちから連絡が取れないなど、の焦った報告が相次ぐが、俺たちは俺たちなりのやり方を通した。

 そして、ファスたちは、レッドフォーラムの砂地の上空に待機中の砂城タータイムから、キュベラスの<異界の門>を用いて来た。皆、いつでも動ける態勢を整えている。


 部屋に響くのは、剣を鞘に収める硬質な音――。

 締め上げた革鎧が軋む鈍い呻き、そして仲間たちの抑えられた呼吸のみ。

 誰もが口を開かず、ただ己の装備を確かめる無言の行為にそれぞれの覚悟を込めている。

 冷たく研ぎ澄まされた空氣が、まるで刃のように肌を刺した。


 その静寂を破ったのは、


「シュウヤ様、聞こえますか?」

「どうしたアドリアンヌ」


 スピーカータイプの魔通貝から音が響く。


「――はい、今、シキとファジアルとロナドと再合流しましたが、重大な報告があります。先ほど、ファジアルとロナドが、『ブラックゴースト』と接触。そして……二人とも、敗れました」

「……なに?」


 思わず驚いて声が漏れたが、驚くほど低く掠れた声が出た。

 心臓を氷の手で掴まれたような衝撃。

 脳裏に浮かぶのは、常に冷静なファジアルと、底知れぬ実力を持つロナドの姿。

 あの二人が? それも、同時に敗れたというのか。


 その衝撃は仲間たちにも瞬時に伝播した。息を呑む音、信じられないと小さく振られる頭。先ほどまで決意に満ちていた部屋の空気が、たった一言で凍てついた。


「「え?」」

「負けた、大丈夫なの?」

「「「……」」」

 

 誰よりも早く、レベッカが安否を気遣う。

 ファジアルはアドリアンヌが認める手練れ。ロナドに至っては、確実に普通ではない部下だ。

 霧魔皇の名が付いているのは、かつて、魔皇だった名残のはず。

 

 その二人が、同時に戦闘不能に陥るなど、尋常ではない。


「二人とも、命に別状はありません。ですが、一瞬で戦闘不能に陥った、と……相手は魔界セブドラにいるような強者と考えたほうが良いでしょう」


 アドリアンヌの声に続き、


「……二人を倒したのはギド・アレス。戦国フロルセイルにその名を轟かせた伝説の傭兵、渾名は『戦場のゴースト』、またの名を『ブラックゴースト』」


 シキの、怒りを押し殺したような声が響いた。

 すると、レザライサが、


「ギド・アレスに『ブラックゴースト』か……帝国で噂は聞いたことがある」


 知っていた。

 ファスも恐怖に顔を青くしながら頷く。


「は、はい。裏社会では、奴一人で戦鋼鬼騎師団に匹敵する、と……。ただ、その姿を見た者はほとんど生きて帰らないため、黒き戦神や【孤雲】の隊長たちほど名は知られていません。まさしく『亡霊』です……」

「……あぁ。では、情報屋通りだったということだ」

「はい、王都の裏社会では連続的な〝掃除〟が続いていると」


 レザライサとファスはそう語り、部屋の隅に座る【星の集い】が用意した情報屋たちに視線を送る。

 彼らの懐は皆が暖かくなっているため、終始笑顔だ。

 レザライサは、そいつらをつまらなそうに見てから、


「……老宰相メンドーサと情報屋の言葉にもあったが、昨夜の王都も、騒がしかったからな。ファジアルとロナドを倒したギドも、その中で暴れていたということか」


 レザライサの言葉に皆が頷いた。

 すると、


「……国王派と目されていた闇ギルド〝赤錆の牙〟も、そのギドか、不明ですが、襲撃を受け、ほぼ全滅との情報も得ました」


 と、アドリアンヌの声が魔通貝から響く。

 メンドーサたちが言っていた戦力が事前に削られたか。将軍ガルドスも策士だな。

 続いてシキが、


「この王都に潜伏していたヒッアピア、ハイペリオンの密偵と闇ギルドの一部も襲撃を受けたようですね。事務所ごと爆破された闇ギルドもあるようです」

 

 と、報告してきた。

 俺は、


「『戦場のゴースト』が大暴れか。それとも国王派と将軍派、そして、それぞれ貴族、商会との紐付きの闇ギルド同士の争いか」


 と発言。皆が頷く、レザライサは、


「あぁ、ガルドスは用意周到。力に頭も切れる。戦国フロルセイルでのタータイム王国で結果を出し続ける訳だ。そして、とんでもない化け物を雇ったのかもしれん」


 その言葉に皆が、頷いた。

 ユイが、


「うん、さすがの戦国フロルセイルね。後、まだまだ隠れた強者がいるかも? 魔人武王の弟子の弟子たちとか……」

「そうだな。西方の竜の巣では、魔人武王の噂もある」


 腰の魔軍夜行ノ槍業が揺れた。

 

『ふむ、ユイの言う通り、この国にはまだ隠れた強者の気配があるな』

『まあね! でも、お弟子ちゃんならタイマンに持ち込めば、大概はいけるわよ!』


 師匠たちの念話が響く。


『――弟子よ。もし奴と戦うなら、次は<魔軍夜行ノ憑依>を使え。我が獄魔槍流の神髄を、その身で体感するのだ』


 グルド師匠の念話に、『考えておきます』と無難に念話を返す。


「ん」

「閣下ならば」

「はい」


 王女たちは青ざめ、カルードも厳しい表情で押し黙った。

 とりあえず、魔軍夜行ノ槍業の師匠たちに、


『やはり、断罪流槍武術を使うかもです』

『ハッ、まぁいいだろう』

『ふふ』

『えぇ~、イルヴェーヌを使うの~? しゅうやん~とか私もいうべき?』


 雷炎槍流シュリ師匠も使用頻度は高いんだが、まぁ、戦いは水物、分からんから沈黙を貫いた。

 しばらく脳裏で師匠たちの声が響く。

 遠くに強者の反応があること、タイマンに持ち込めば勝機はあること。

 そして、獄魔槍流を体感せよ、というグルド師匠の厳かな声。

 断罪流か、あるいは雷炎槍流か。戦いは水物だ。どの力を引き出すことになるかは、まだ分からない。静かに内なる声に応え、闘志を練り上げた。


 そして、皆を見据え、


「……そのギドが、戦いを仕掛けてきたら、俺が当たろう。アドリアンヌとシキ、ロナドたちもそこにいるんだろう? 直に、ギドがどのような手段で戦うか、教えてくれ」

「ハッ、魔銃と剣が融合したような魔剣、遠距離、近距離、どちらもいけるはず。精霊らしき氣配もありました」

「はい、<魔闘術>系統も、最低、数種類は重ねていましたので、かなり強いです」

 

 ロナドとファジアルの語りに、皆、神妙な顔付きとなり、息を呑むように、俺を見てきた。


「皆、そのギドは俺たちの【血星海月雷吸宵闇・大連盟】に手を出した。王と将軍のやりとりが終わり次第、ギドの追跡を開始する。その際、ユイとヴィーネにキサラも連携してもらう。レベッカ、レザライサ、ビュシエたちは、アドリアンヌとシキと共に陽動部隊を継続だ。先に、ギドが絡んできたら、逃げに徹してくれ。すぐに追う」

「……承知いたしました。シュウヤ様、ご武運を」

「おう」


 魔通貝の通信が切れた。

 武者震いに似た感覚が、体の奥底から湧き上がってくる。


「はい、お任せを」

「はい」

「了解」


 ヴィーネとキサラが返事をすると、レザライサが、


「それがいいだろう。私も【白鯨の血長耳】での追い込みをかけよう」


 と発言。隣にいるファスも頷いた。そして、レベッカが、


「そして、ここからは、暫く買い物もなし。一人で行動するのは止しましょう」

「ん」


 エヴァも頷いた。

 皆も「「はい」」と返事をしていく。


 <従者長>のエトアとラムーも戦えるが、少し顔色が悪い。

 二人を中心に皆を見据え、


「ガルドス派も策があるかもだが、自然体で当たろうか。エトアとラムーもいるから、助かる場面もあるかもだ」

「はいでしゅ!」


 <従者長>エトアは、〝ハイガンドの胸ベルト〟を見せるように胸を張る。

 精神感応繊維魔装甲と手甲のドラゴンの鱗が鈍く輝いた。

 <従者長>ラムーも、霊魔宝箱鑑定杖を掲げて消してから、ハンマーを出現させた。


「――がんばります」


 頷いた。まだ緊張しているようだ。

 すると、レベッカは、緊張気味のエトアたちの前に立ち、


「シュウヤは、神々や諸侯、魔人武王の弟子たちが相手でも勝ち続けた。だから大丈夫よ」

「ん、【レン・サキナガの峰閣砦】の街も激戦だったけど、結局は、わたしたちの大勝利になった」

「はい、閣下は、悪神ギュラゼルバンと恐王ノクターの勢力たちの暗躍を退け、ガンゾウとの戦いも、切り抜け、神界と魔界に仲間を作りました」


 ヘルメたち明るい言葉にエトアたちも微笑む。

 ラムーは鋼の兜に頭部は包まれているから顔色は分からないが、わずかに笑ったようなニュアンスの息遣いは感じることができた。

 眷族たちと会話し、陽動部隊たちの血文字と〝光紋の腕輪〟を活かした遠距離で連絡を取り合りながら、自然と夜が明ける。王都に朝を告げる鐘の音が響き渡った。

 俺たち潜入部隊は玉座の間へと向かっていた。

 道中、俺はレザライサと共に、先行して王城周辺の最終偵察を行う。

 深い闇に包まれた王城の屋根の上。そこで、別の氣配を感じ取った。


「……」


 視線を凝らすと、遥か彼方の時計塔の頂点に夜闇に溶け込むように佇む数人の人影があった。こちらを観察しているのは明らかだ。闇ギルドの類か、あるいは……月光が雲間から差し、一瞬だけ彼らの姿を照らし出す。見覚えのある軍服、そして全員が黒髪。


「黒髪隊か……」


 レザライサの言葉に頷いた。

 アドリアンヌたちからも報告にあったラドフォード帝国の〝黒髪隊〟。

 顔を晒したが、別段に殺氣はない。俺たちを襲うつもりはないようだ。

 その〝黒髪隊〟の先頭に立つ男がこちらの思考を読んだかのように口の端を吊り上げて嗤う。

 刹那、男の左右の手に短槍と魔剣が召喚され、霧散した。

 示威か、あるいはただの挨拶か。男は人差し指と中指を揃え、こちらへ向けて軽く敬礼してみせる。


 その仕草に応じ、静かに片手を上げた。

 黒髪隊のリーダー格は、頷く。

 俺も、侮辱でも、歓迎でもない、ただ同格の強者に対するかのような静かな頷きを一つ返す。

 と、黒髪隊のメンバーたちは音もなく闇に消えた。


 レザライサが、


「……間違いない。帝国の特殊部隊。帝都アセルダム、要衝都市タンデートなど、黒髪隊の根元と噂のあった大貴族や商会と闇ギルドには、それなりのダメージを与えたつもりだったが……隊が存続中なのはこれで確定か……」

「ん、黒髪隊はどちら側?」


 エヴァの質問に、


「はい、彼らは常にそうです。利用価値のある側に付くか、あるいは全てを食い散らかす蝗かと……」


 とファスが答える。

 その言葉を肯定するように、レザライサが「……厄介な観客が、特等席に付いたということか」と忌々しげに呟いた。


「敵となれば、ブラックゴーストと共に厄介な相手になるだろうな。さ、国王ラドバン三世と合流しよう」

「あぁ」


 玉座の間の巨大な扉の前で仲間たちと合流する。

 国王ラドバン三世と宰相メンドーサは、既に玉座で覚悟を決めた表情を浮かべていた。

 その両脇には、魔界からの使者という体裁を整えたギュルアルデベロンテとベベアルロンテが、凛として控えている。そして、俺たちは、その王女たちを守るように国王の横、玉座へと続く階段の下に堂々と布陣した。隠れる氣など、毛頭ない。

 常闇の水精霊ヘルメと闇雷精霊グィヴァもエトアたちの背後に浮いている。

 フィナプルスは空に出し警邏させ、ミレイヴァルには、テラスの渡り廊下を守らせていた。

 爪にいる古の水霊ミラシャンと左手の魔印にいるシュレゴス・ロードと指輪にいる風の女精霊ナイアは、いざという時に外に出てもらおうか。


 やがて、扉の向こうから重々しい足音が近づいてくる。

 一つではない。鎧を纏った、数十の軍靴の響き。

 扉の向こうにいるであろう、ガルドスたちに氣を配る。


 現れたのは、赤鋼の全身鎧に身を固めた、将軍ガルドスが率いる部隊だった。

 彼らは寸分の乱れもない動きで左右に分かれ、道を開ける。

 そして、その中央を、悠然と歩んでくる大柄の男、彼が、将軍ガルドスか。


 総髪に、背には魔大剣の柄が見えた。

 彼もまた強者か。すると、老宰相メンドーサが、


「ガルドスめが、シュウヤ殿、あの背後の兵士は赤鉱槍団の親衛隊。更に、他から雇い入れた用心棒辺りでしょう」

「了解した」


 ガルドスの顔には隠しきれない傲慢さと、王への侮りが浮かんでいるのが見て取れた。

 そのガルドスは、


「陛下、お呼びにより参上いたしました」


 と、発言し、玉座へと進み出る。

 その視線が、俺たちを値踏みするように捉え、


「ほう……これが、姫君方が魔界より連れてきたという手練れですかな? 面白い」


 せせら笑うと、視線を〝獅子心の大盾〟へと移す。

 その巨躯が、台座に手を伸ばす。彼がこの国の新たな支配者となる、その戴冠の刹那――。

 国王が「――待て、逆賊が!」と、立ち上がる。先ほどまでの弱々しさは演技。


 獅子の咆哮の如き声が、玉座の間全体に響き渡った。


「なっ……!?」

「その汚れた手で、王家の秘宝に触れること、このラドバン三世が許さぬ! 簒奪者めが!」


 国王の怒声が、決戦の合図だと受け取った。

 だが、会場が殺氣に満ちた直後、ドゴォォォンッと重低音が響く――。

 横壁が吹き飛ぶが、素早く<夜行ノ槍業・召喚・八咫角>を横に置いて、爆風や瓦礫を防ぐ。

 常闇の水精霊ヘルメと闇雷精霊グィヴァが壁際に《水幕(ウォータースクリーン)》と<闇雷蓮極浄花>を展開し、俺たちには被害は皆無だが、テラス側には、「私は大丈夫です、しかし、雑兵がわらわらと――」とフィナプルスは見えなくなった。渡り廊下にいたミレイヴァルも多数の赤鉱槍団と戦っている音が響く。


 城外の遠い方角から、またも巨大な爆発音が轟く。


「爆撃だと、魔術師部隊もガルドス……」


 国王ラドバン三世の言葉に、ガルドスは、「フハハハッ、お前の戦力はそれだけか?」と、醜い嘲笑へと変わった。


「しかし、そいつらを護衛にして、我々に罠を仕掛けたつもりとは……肩透かしもいいとこ、やはり、歳には勝てぬと見ましたぞ。〝獅子心の大盾〟を持つには、値しない」


 と発言したガルドスは懐から禍々しい光を放つ黒水晶の魔道具を取り出した。

 彼はそれに魔力を込めると、自然に浮かぶ。

 途端に、放たれた焦げ茶と灰色の魔力の波が、迫る――。


「ヘルメ、<精霊珠想・改>――」

「はい」


 ヘルメが体の一部を液状化、その一部は俺の左目に吸い込まれながら、液体ヘルメの一部が広がって皆を守る。焦げ茶と灰色の魔力の波を防いだに見えたが――。


「ぐっ……あ……!」

「陛下!」

「迅速な魔法防御だったが、完全には防げなかったな、しかも即効性の石化の呪いだ」


 将軍ガルドスの言葉が響く。

 

 国王、そしてギュルアルデベロンテとベベアルロンテの体が、足元から急速に石へと変わっていくのが見えた。ガルドスは、石化していく王族を指差し、


「どうだ! 〝解放者〟とやら! 今すぐ武器を捨て我に降伏せよ! さすれば、この呪いを解いてやらんでもないぞ!」


 脅迫してきた。


「無駄だ、エトアとラムー」

「はい、黒水晶の魔道具、名は、〝バデムアの王夷黒石呪〟第一種危険指定アイテム。王族対象を石化する特殊な魔道具。エトアなら解除は可能」

「なにぃ!?」

「はい――」


 エトアは既に、<罠鍵解除・極>を発動していた。

 両手甲からドラゴンの鱗が出ては、魔線が四方に展開され丸い魔法陣となった。

 魔法陣から子鬼のような存在が無数に溢れ出て、魔法陣は壁と重なりながら国王ラドバン三世と第一王女ギュルアルデベロンテと第二王女ベベアルロンテに降りかかると、途端に石化は消える。


 ガルドスは怒りに顔を歪ませ、叫んだ。


「……まさか、これを返されるとは、小賢しい真似を!! やれぇっ!」


 ガルドスの親衛隊が、一斉に紫の瓶を投げ込んできやがった。

 同時に扉の外に控えていた魔術師部隊から、数十条の魔力光線が放たれた。

 <夜行ノ槍業・召喚・八咫角>と<鎖>を防御に回した。


「――皆、防御!」

「ん、大丈夫」

「はい――」

「右はわたしが――」


 叫びと、眷族たちの動きは同時だった。

 エヴァが<霊血導超念力>で金属の壁を生成し、ヴィーネが翡翠の蛇弓(バジュラ)で<ヘグポリネの紫電幕>を展開し、キサラが魔女槍のダモアヌンの魔槍越しに蒼い双眸を光らせ、魔女槍の柄孔から放射状に展開していたフィラメント群が蛇類の生き物たちのように蠢いた。

 ゼロコンマ数秒も経たず――。

 蠢いたフィラメントたちは光ファイバーの繊維毛のような閃々とした輝きを持った近未来の武士が被る深編傘に変化していた。その輝く深編傘の大きい盾により、ほとんどの爆弾を防ぐ。

 

 他の眷族と仲間たちが二重の守りの後ろで、飛来する光線を的確に撃ち落としていく。

 轟音と衝撃波が玉座の間を揺るがすが、仲間たちは、この第一波を見事に防ぎきった。


「――む、無傷だと!? えぇい、数で、接近戦で仕留めろ!!」


 ガルドスの怒号が飛ぶ。

 ブラックゴーストらしき男はいないが、強者たち数十名が、鬨の声を上げて一斉に突撃してきた。


「カルード、ユイ、レザライサ! 前線を維持しろ!」

「御意!」

「「了解――」」


 三人が前に出て、突撃してくる敵の第一波と激突する。

「では、行くぞ――<白鯨血軍旗ノ号令>」


 レザライサの声が、戦場に凛と響く。スキルが発動した。

 号令に応え、エヴァ、カルード、ユイの皆に銀色の魔力と<血魔力>に覆われ、背後に幻影が立ち上った。白銀の軍装を纏い、金剛夜叉明王の如き六面六臂の姿で、白鯨に乗った巨象。

 軍旗のようにも見える高燈籠も出現。ユイたちは加速しながら、対峙した強者を数合で斬り伏せる。

 剣と剣がぶつかり合い、火花が散る。凄まじい乱戦だ。

 外からこちらに向かって来る魔剣師の頭部へと<鎖>でヘッドショット。


「チッ、お前、黒髪の槍使い! 何者だ……そして、亡霊!!! いい加減に王を狙え!!!」


 将軍ガルドスが叫ぶ。

 すぐに魔槍杖バルドークを構え、加勢しようとした刹那――。

 ピリッ、と肌を刺すような、これまでとはまったく異質の殺気を感じた。

 ――上か。視線を上げた先、玉座の間の高い位置にある窓の外。そこに、一瞬だけ、何かのレンズのようなものが月光を反射して光ったのが見えた。


 大きい駒の<夜行ノ槍業・召喚・八咫角>を咄嗟に防御に回す。だが、駒は物理的な衝撃ではなく、空間そのものが湾曲するという不可解な力によって、弾き飛ばされた。

 <闇透纏視>、<霊魔・開目>、<隻眼修羅>、<刹那ノ極意>を連続発動――。

 研ぎ澄まされた感覚が空間の〝歪み〟そのものを捉える。

 防いだが、何かの狙撃スキルか。


「な、なんだと!? ブラックゴーストの一撃をふ、防ぐ……」


 将軍ガルドスは驚いている。


「ご主人様、狙撃手がいます」

「おう、ここは任せる! 陽動部隊とも連携し、持ちこたえろ! あの狙撃手を叩く!」

「はい!」

「うん」

「にゃご」

「相棒、外に出るぞ――」


 この盤面、最も危険な駒は、チェス盤の外にいる。

 迅速に駆けながら<血道第三・開門>、<血液加速(ブラッディアクセル)>――。

 体内の血液が沸騰するような熱を帯びて全身を駆け巡る。


 <黒呪強瞑>、<月冴>、<月読>、<魔銀剛力>、<滔天仙正理大綱>、<滔天神働術>、<魔闘術の仙極>を一気に発動。視界が月光を得たかのように冴え渡る。

 

「ンンン」


 <握吸>を発動させながら、両手首から<鎖>を射出。

 渡り廊下から乱入してくる赤鉱槍団の兵士の腹や頭をぶち抜いてから――。

 魔槍杖バルドークの握りを強めて、黒豹(ロロ)と共に玉座の間の割れた硝子窓だったところへと一直線に地を蹴った。すぐにテラスに出た。喧騒と、ガルドスの嘲笑を背に王都の夜空へと、その身を躍らせた――。


 


続きは、明日、HJノベルス様から書籍「槍使いと、黒猫。1巻~20巻」発売中。

コミック版発売中。

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