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槍使いと、黒猫。  作者: 健康


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1927/2031

千九百二十六話 銀河の礎とシクルゼ族との誓い

 操縦桿をわずかに傾けると、フォド・ワン・XーETAイータオービタルファイターは、まるで主の帰還を喜ぶ鷹のように翼を翻し、緩やかな降下軌道に入った。隣を飛んでいた神獣ロロディーヌも、それに呼応するように雄大な翼をたたみ、優雅に高度を下げていく。


 地上に近づくにつれ、仲間たちの顔がはっきりと見えてくる。

 その中心で、誰もが空を見上げ、固唾をのんでいるのが分かった。

 鋼の翼と神話に登場してくるような相棒が並んで降下してくる光景は、彼らの目にどう映っただろうか。やがて、地を揺るがすほどの降下音と共に、「「おお……」」という、畏敬の念がこもったどよめきが耳に届いた。


 ルリゼゼは唖然としていた。

 圧倒的な威容に言葉を失っている。

 ナリアとジスリは、まだ相棒の変身には慣れていないから驚いている。

 

 その中央から外れた広場の一角に繋がるカタパルトへとイータが寸分の狂いもなく着陸。


 静かにハッチを開く。

 俺とヴィーネが降り立つと、仲間たちが一斉に駆け寄ってきた。


 神獣(ロロ)は瞬時に黒豹と化した。


「シュウヤ様にロロ様、ヴィーネもご無事でしたか!」

「閣下、宇宙は最後のフロンティアでしたか?」

「ん、お帰りなさい!」

「近くで見える大月の神ウラニリ様と小月の神ウリオウ様の、無事な月と残骸の月の破片が氣になるわ!」

「うん」

「たしかに、ヴィーネは特等席だったのもちょっと嫉妬」


 キサラ、ヘルメ、エヴァ、レベッカ、ユイ、ミスティたちが矢継ぎ早に言葉をかけてくる。


 その瞳は心配と、それ以上の好奇心で輝いていた。


「問題ない。戦果は上々、予想通りのフロンティアだった」


 その言葉に応じ、AIイータがホログラムを投影し、収集した戦闘データと宇宙モンスターの宇宙空間にあるだろう魔力など採取した素材リストを皆の前に表示する。

 未知のテクノロジーと、見たこともない生態データに、ミスティやクナたちが技術者としての探究心を燃え上がらせていた。


「素晴らしい……この生体物質、バトルクルーザーの装甲に応用できるかもしれませんわ!」


 宇宙での戦果を仲間たちと分かち合う。

 その喧騒の中、進化したアクセルマギナはもう次の段階へと移行していた。


「マスター、収集データに基づき、『自己増殖型ナノプラント』の初期稼働を開始します」


 彼女の言葉と共にアクセルマギナは分体を作る。もう一人のアクセルマギナの体が淡く光る。

 胸に輝く〝マスドレッドコア〟から無数のナノマシンが放出され、地面に置かれた血鋼のインゴットへと集束した。

 ナノマシンは血鋼を霧のように包み込み、原子レベルで再構築していく。甲高い共振音と共に、まるで生き物が骨格を形成するように、優美な曲線を描くフレーム材が虚空から生まれ出た。

 ガードナーマリオルスも「ピピピッ」と電子音を響かせ、呼応する。

 球体の体から伸びた無数のカーボンチューブがナノマシンと融合し、ホログラムの青い光をなぞるように、瞬く間に土台フレームを編み上げていく。

 溶けた金属の匂いと、時折散る火花の熱気が、現実離れした光景に確かな実感を与えていた。


 その光景に、ザガやボンといったドワーフの職人たちでさえ、ただ呆然と立ち尽くすしかなかった。


「凄い、これがナノプラントにアクセルマギナの魔機械の技術」

「エンチャントゥ……」


 アクセルマギナは、傍らに控えるガードナーマリオルスと共に、休むことなく部品を生成し続ける。

 その様子を見届けながら戦闘型デバイスを起動し、次なる報酬のリストを皆の前に表示した。


 エレニウム総蓄量:3,254,821

 ―――――――――――――――――――

 必要なエレニウム総蓄量:4,000,000:未完了

 報酬:格納庫+1000:サージセンチネル・タクティカルリンク

 必要なエレニウム総蓄量:5,000,000:未完了

 報酬:格納庫+1200:アークバイコマイルマスリレイ・超亜空間ドライブのホログラム設計図

 必要なエレニウム総蓄量:6,500,000:未完了

 報酬:格納庫+1500:ステルス強襲偵察艦ファントム・スカウトのホログラム設計図

 ―――――――――――――――――――


「「おぉ~」」

「アークバイコマイルマスリレイ・ちょうあくうかんどらいぶって、時空属性を活かした聖櫃(アーク)と似たような宇宙の品?」

「あぁ、たぶん。ドライブ亜空間を跳躍できるスペシャルエンジンでワープ、亜空間を利用し、宇宙船ごと空間を畳み、亜空間を利用して、遠い座標に転移できるようなシステムかな。バイコマイルだから時空属性も絡むはず」


 アクセルマギナとイータを見る。アクセルマギナは、


「マスターの推測が最も近い。既存の〝マスリレイ〟技術の系譜に連なるものでワープドライブの概念の一つ」

「「「……」」」


 皆がアクセルマギナを見た。


「詳しく」

「はい、古代知的生命体、名は不明な第一世代が遺したとされる〝広範囲バイコマスリレイ〟と〝ラーズマスリレイ〟その第一世代が残した銀河転移用の超強力な銀河マスドライバー技術、ドライブ転移用遺跡からリバースエンジニアリングされ、バイコマイル粒子の技術と、超光速航行ネットワークの技術、超亜空間航行の技術などを、融合させたスペシャルな、遠い銀河へとワープを可能にするFTLドライブ。単独の艦船に搭載可能な点も素晴らしい技術。その試作ドライブの設計図です。試作とありますが、完成しています。試作なのは、進化が可能という意味。ゼロversionからのスタートのようです。総じて、かなりの優れ物。当時のナ・パーム統合軍惑星同盟の技術者のレベルは高い証拠です。また、宇宙を支配する勢力が血眼になって奪い合う技術でもあります」

「「へぇ」」


 皆が感心するような声を発した。


「同じ第一世代のミホザのレアパーツや、ハティア・バーミリオン魔導生命体の技術力と同等か、それを超えていそうですね」

「はい、ハーミットは、〝広範囲バイコマスリレイ〟とは、ワープ10の技術を超えた転移方法と語っていました」


 キサラとヴィーネの言葉に皆が頷く。

 確かに〝広範囲バイコマスリレイ〟と〝ラーズマスリレイ〟について、ハーミットは語っていた、

 宇宙を支配する勢力が血眼になって奪い合うという伝説の超技術が、アークバイコマイルマスリレイ・超亜空間ドライブか。

 その一端が、今俺たちの手の届くところにある。


「バイコマイル粒子は時空属性、光魔ルシヴァルだからこそ可能ということですか」

「はい」

「なるほど!」


 レベッカの言葉だ。

 腰に両手を当てて胸を張っていた。蒼い瞳を輝かせつつ数回頷いているが、たぶん、分かっていない。


「ヴィーネも言ったが、アークバイコマイルマスリレイ・超亜空間ドライブとは、時空属性エンジンでもあるのかな」

「そうですねマスリレイ技術の基本です」


 頷いて、ハーミットたちと皆が語った当時の内容を思い出す。

 脳裏に以前ハーミットたちと交わした会話が鮮明に蘇る。


 ◇◇◇◇


『でも、アクセルマギナも言ったけど、すでにアウトバウンド・プロジェクトは銀河帝国の上層部に伝わっていることは確実だから、【沈黙の騎士団】の旗艦ごと、来るような命令は下っているのかも知れない』

『……なるほど』

『……はるかかなたの銀河系にいるだろう、選ばれし銀河騎士……フォド・ワン・ガトランス、また選ばれた戦士、カリームの存在となる者たちが、銀河帝国に脅威になるのなら排除してしまえという命令が【銀河元老院】から出てる可能性は高い』


 頷いた。フーク・カレウド・アイランド・アクセルマギナ博士の過去の映像は見えている。


 ハーミットは、俺たちとアクセルマギナとフォド・ワン・XーETA(イータ)オービタルファイターを見る。

 そのハーミットに、


『……理解した。その【銀河元老院】は銀河帝国の上層部と分かるが、まずは、そこから説明してくれると助かる』


 エトアたちも俺の記憶は、〝知記憶の王樹の器〟で神秘的な液体を飲んで共有しているが、ハーミットから聞けばより理解できるだろう。ハーミットは、


『……うん、銀河帝国の支配層。各星系、各銀河ごとを支配している長老と将軍の集まりが、【銀河元老院】よ』


 頷いた。


『では、守護者サヴェト卿の【沈黙の騎士団】とは? また、そこに所属しているバードゥー伯爵のことが知りたい』


 ハーミットは、ジロッと俺を見る。

 ヴィーネ、エヴァ、レベッカと視線を巡らせてから、


『守護者サヴェト卿の【沈黙の騎士団】は、銀河元老院の直属の騎士団で、〝広範囲バイコマスリレイ〟が使用可能な特殊ワープドライブを備えた戦艦ドレッドノートを旗艦としている軍団よ。【沈黙の騎士団】は一つの惑星や、星系の勢力と戦えるわね。恒星をエネルギーに変換できるシステムもある。それでも銀河帝国では一戦力でしかない。【沈黙の騎士団】は、銀河を駆けずり回っているわ。【古の闇長老】は、その騎士団とは関係がない。銀河元老院に所属している名は知らない長老の一派で、バースライル銀雷雲などを主力に活動していたはず』


 頷いた。

 レガナのことを説明してもいいが、今はいいか。


『そのバードゥー伯爵とバルスカルが組んでいるとして、バルスカルはどうした?』

『バルスカルは基本、私の追跡から避ける動きをする。でも、まだ注意は必要よ。そして、今回はバードゥー伯爵は突っ込んできた。それほどに、シュウヤと戦闘型デバイスを扱う存在確認の任務の優先事項が高かったということでしょう。あ、でも、識別コードが異なることも大きいかな。わたしたち側には、未知の違法ETA端末ロッドの反応を突然に得たことになる。しかも、惑星セラの砂漠都市の地下だから、何事かと、驚いたこともある。それが大本かも』


 皆が頷いた。


『なるほど、天井の岩盤を撃ち抜いたのは?』

『帝国側よ、転移と熱爆弾などの兵器だと思う。即応部隊での侵入。中々強かっただけはある』

『あぁ、それは実感した』



 ◇◇◇◇


 ハーミットとの会話は結構重要か。


 そのことを前提に皆に、 


「ハーミットも語っていたが、俺たちを襲撃してきた銀河帝国連中はいる。そして、ナ・パーム統合軍惑星同盟と銀河帝国と宇宙海賊の【八皇】分かれて、広範囲バイコマスリレイ、ミホザの遊星が残した遺跡、他の第一世代が残した遺跡を巡って、争っているようだからな」


 と、呟くと、ハンカイが、


「あぁ、途方もないが……事実。シュウヤは、選ばれし(フォド・ワン)銀河騎士(・ガトランス)マスターだ。そして、俺たちも銀河戦士(カリーム)の一員だからな」

「そうだな」

「おう、鋼の柄巻を利用できるようになったし、銀河戦士(カリーム)用の戦闘用コスチュームを得ている」


 ハンカイの言葉に皆が頷いた。

 ハンカイは、


「斧使いの俺が、剣術の<燕式・飛燕斬>などを得られたことも、また、銀河戦士(カリーム)の一員だからだろう」


 頷いた。アクセルマギナは俺を見て、敬礼。

 敬礼を返し、皆を見ながら、


「――はい。事実。今、そのマスターの選ばれし(フォド・ワン)銀河騎士(・ガトランス)マスターと銀河戦士(カリーム)たちの礎が、ここで築かれようとしています!」

「ピピピッ」


 アクセルマギナの言葉に頷いた。

 ガードナーマリオルスは球体の体をキュルキュル音を響かせながら回る

 そんな皆に向け、


「極大魔石はまだまだ大量にあり、戦闘型デバイスに入れて、サージセンチネル・タクティカルリンク、アークバイコマイルマスリレイ・超亜空間ドライブのホログラム設計図、ステルス強襲偵察艦ファントム・スカウトのホログラム設計図を出すことは可能だと思うが、まずは、辺境用・中型戦闘巡洋艦フロンティア・バトルクルーザーの建造のための部品作りを、自己増殖型ナノプラントを得たアクセルマギナとガードナーマリオルスとイータと、ミスティたちに、がんばってもらおう」

「はい、お任せを――」

「ピピピッ」

「「はい」」

「任せて~」


 作業準備を展開しているアクセルマギナとイータたちに、


「二人とも構想ではこの機体に、フォド・ワン・ユニオンAFVの装甲車とタイタンウィングを統合するとあったな」

「はい」

「肯定します。当機XーETAをコアユニットとし、マスターが現在所有する『フォド・ワン・ユニオンAFV』及び『タイタンウィング』を統合・換装させることで、完成する特殊戦闘艦です」

「ならば、その『統合』を始めようか」

「「ハッ」」


 広場が再び熱を帯びる。

 アイテムボックスから、もう一つの統合ユニットであるフォド・ワン・ユニオンAFVを召喚した。


「なんと、装甲の車とは!」

「車輪が大きい……」


 ナリアとジスリとルリゼゼは、宇宙文明の装甲車をマジマジと見ていく。

 アクセルマギナたちに、


「これよりバトルクルーザー・コアユニットの第一次統合組み立て作業を開始だ」

「はい」

「任せてください!」


 広場が巨大な野外工場と化した。

 アクセルマギナが創生コアの力でナノマシンを操作し、各パーツの接合部にミクロ単位の調整を施す。

 イータとガードナーマリオルスは空中から設計図のホログラムを正確に投影し、ミリ単位での位置調整を指示。


 ミスティは金属を精錬し、クナも錬金術で精錬した金属に液体を振りかけ、特殊な合金の生成を手伝っていた。

 パーツ間のエネルギー伝達効率を高める緩衝材を創り出していく。

 エヴァは<霊血導超念力>を使い、数トンはあろうかという巨大な〝タイタンウィング〟を、まるで羽のように軽々と持ち上げ、寸分の狂いもなく機体へと運んでいく。


 ザガとボンは、真っ赤に熱した血鋼のインゴットから、設計図にはない補強用のカスタムパーツをその場で鍛え上げ、組み込んでいく。彼らの職人技が、異世界の技術に更なる強度と信頼性を与えていた。

 皆の力が結集し、AFVとタイタンウィングがETA戦闘機と見事に統合された新たなる〝コアユニット〟が姿を現す。

 まだ完全な宇宙船ではないが、大地と空を制する力強い翼を持つ、新しい機動兵器の誕生だった。


 ナノプラント・コアの創生コアを得たことで、アクセルマギナの統合能力は飛躍的に進化し、その影響は計り知れない。


 そこで、机と椅子を用意し、書類を用意したメルとクナたちを見てから、ナリアとジスリに視線を向けた。

 ジスリが、


「シュウヤ殿、宇宙からの視点という計り知れない情報を感謝する」

「同盟だ、氣にするな」


 ジスリは隻眼に確かな信頼の色を浮かべて頷いた。

 続いてナリアは騎士団長としての厳格な表情で一礼し、


「魔機械なら、暁の帝国で見慣れているつもりでしたが、それを超える未知の技術には驚きですが、とても楽しく、仲間として共有させてもらっていることに感謝を覚えています」

「おう、共に砂漠を復興させ、民が安寧に暮らせる地とするため。二人は客将ではないんだからな……だからこそ協力体制を、今ここで正式に確立、盤石にしたいと思う。まずは、そこに書類もあるから腰掛けてくれると助かる」


 笑みを交えての言葉に、二人も笑みを返してから、力強く頷いて座った。


 そうして〝約束のオアシス〟を中心とした水脈の管理、ワームたちとの共存、そして残存する三紗理連盟の掃討作戦。

 具体的な血骨仙女側と、ナリア単独で決められる範囲での【アーメフ教主国】との協力体制が次々と決まっていった。

 メルが、


「おめでとうございます。ここに血骨仙女と光魔ルシヴァルとアーメフ教主国の三者による講和、同盟が決まりました。砂漠の未来を共に担う、不可欠な同盟者、砂漠三者同盟の調印です!」

「「おめでとうございます」」

「「「おめでとう!」」」


 と、皆で祝福した。

 その会談の後、一人でルリゼゼの下に訪れた。

 彼女はヘルメと共に剣の修練に励んでいた。


 ヘルメは、氷腕を消すように後退、後方宙返りで、俺の背後に着地。


「閣下、ルリゼゼは眷族に乗り氣です」

「おう、ありがとう」

「ふふ、閣下の水ですから――」


 と、ヘルメは背に体を寄せる。

 豊かなおっぱいの感触が、薄着なこともあり、ダイレクトに伝わって嬉しくなった。

 そのヘルメは体の半身を液状化させて、俺の水の衣装のように変化させてくる。


 そのままルリゼゼの近くに移動した。

 ルリゼゼは、ヘルメが離れても氣にせず、四本の腕を振るう。

 シクルゼ族の凄腕の魔剣師だ、二つの直刀剣と朱色の曲剣刃を振るい、突く速度は尋常ではない。

 

 繰り出される剣技は苛烈を極める。

 同時に、その瞳の奥には未だ拭いきれない孤独の影が揺らめいて見えた。


「ルリゼゼ、ヘルメと稽古していたようだな」


 声をかけると、彼女は剣を止め、こちらを振り返る。


「シュウヤとヘルメ殿。そして、会談を終えたか、正式に血骨仙女の連中と【アーメフ教主国】と同盟を組んだようで嬉しく思う」

「おう。まだこれからだが、そして、俺たちの歴史を知りたがっていたから、〝知記憶の王樹の器〟で共有しておきたい」

「お、期待していた。が、その前にシュウヤ、我もシュウヤの眷族に入ることはできるのか?」

「できる。<筆頭従者長(選ばれし眷属)>に迎えたい。勿論、(ミル)のままだ」

「ふふ」


 ヘルメの微笑みに自然と頷いた。


(ミル)よ……勿論だ。では、頼もうか、光魔ルシヴァルの<筆頭従者長(選ばれし眷属)>を希望する!」

「おうよ。で、その前に、これから背中を預ける相手が、どんな道を歩んできたか知っておいたほうがいいだろう」


 と、懐から〝知記憶の王樹の器〟を取り出した。

 早速に<血魔力>を注ぐ、神秘的な液体が器の中に溜まる、そこに指を入れて、直に<血魔力>を注ぐ、神秘的な液体の誕生していく、俺の記憶を操作を行っていく。プライベートなエッチな部分は子供でもちょいと分かる範囲に修正して、十八禁ではないが、愛は伝わる程度に勉強してがんばりながら操作を終えた。


 俺の作業を、彼女は戸惑いながらも、見ていたようだ。

 ヘルメは少し笑っていた。

 

 その〝知記憶の王樹の器〟を「完了した、これを呑めば記憶が分かる」と、差し出した。

 

 ルリゼゼは、真剣な四眼で、俺を凝視し、その器を受け取った。

 記憶入りの液体を飲み干した瞬間、ルリゼゼの体が大きく震えた。


 ルリゼゼの脳裏に、俺の壮絶な旅路が奔流となって流れ込んでいると分かる。

 転生、地下での二年間、アキレス師匠たち、旅、相棒の〝玄樹の光酒珠〟を巡る旅、魔霧の渦森、ヘカトレイル、ホルカーバム、ペルネーテ……そのペルネーテでのレベッカたちとの出会い、迷宮都市ならではの死闘、魔宝地図、迷宮の二十階層の邪界ヘルローネ……ルリゼゼとの出会い。そして、数えきれない仲間たちとの出会いと別れ――。

 すべてを体感し終えたルリゼゼは、四つの瞳から止めどなく涙を流していた。壮絶な旅路、数えきれない出会いと別れ、そして仲間との絆――。それは単なる記録ではない。魂が共有した、真実の記憶なのだと確信した。

 がくり、と膝が折れ、嗚咽が漏れる。

 それは自身の孤独な過去を嘆く涙ではなく、これほどまでに強固な絆が存在する世界を知ったことへの、魂からの震えだった。やがて顔を上げた彼女の瞳から、長年巣食っていた孤独の影は跡形もなく消え失せていた。

 

 俺を四眼でジッと見ては、胸元に左上腕と右下腕をクロスさせるように腕を組む。

 何かの儀式をしてから、「光魔ルシヴァル……我は……シュウヤたちの一員に加われるのだな……」


 と、感極まった声で呟いた。


「おうよ」


 俺の言葉を聞いたルリゼゼは嬉しそうに表情を変化させる。

 更に、瞳を輝かせていく。瞳には、絶対的な忠誠と、家族の一員となれたことへの深い歓喜の光が宿っていた。


 片膝で床を突いたルリゼゼは、


「……(ミル)で宗主よ、我が四本の剣、今度こそ真に貴殿の盾となり、矛となることを、古今の魔界の神々(セブドラホスト)にかけて誓いましょう」


 魔界騎士風の臣下の礼を取ってくれた。

 胸が熱くなる。


「……いいだろう。俺も誓おう。いかなる時もルリゼゼに居場所を与えると。そして、お前の名誉を汚すような奉仕を求めることもしない。自由の精神を大事にする。これを、この魔槍杖バルドークと水神アクレシス様にかけて誓う」

「ハッ!」


 笑顔を意識して、


「では、(ミル)よ、立ってくれ。すぐに<筆頭従者長(選ばれし眷属)>に迎え入れよう」


 手を差し伸べた


「うむ――」


 ルリゼゼと握手をして引っ張り、立ってもらった。

 そのルリゼゼを見ながら、<大真祖の宗系譜者>を内包している<光闇の至帝>を意識し、


「ルリゼゼ、行くぞ、<光闇の至帝>を行う」

「無論だ、(ミル)!」


 <光闇の至帝>を発動――。

 

続きは明日、HJノベルス様から書籍の「槍使いと、黒猫。1巻~20巻」発売中。

コミックス発売中。

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