千九二十三話 白炎鏡の魂宝の守り手、白炎王熊樹デュランダル
相棒と共に、砦の内部を駆ける。
足元は砂地のままもあるが、建物は崩落し、石畳は黒焦げになってひび割れ、周囲には倒壊した櫓や城壁の巨大な瓦礫が山をなしていた。
瓦礫の間には、『犀湖十侠魔人』の魔人と、黒装束を身に着けた者たちの死体が転がっている。破壊された石材を覆うように、ガラス質にも似た塩の結晶が不気味に成長しており、一歩踏み出すごとにジャリ、と不快な音を立てて砕けた。
俺たちは、死と破壊の光景を駆け抜け、数分もしないうちに巨大な縦穴へとたどり着いた。
沙・羅・貂とマルアとエヴァとナリアとジスリも、黒装束の連中を倒しながら爆発地、大穴のほうに向かうのが見えた。
前方の宙空に浮いていた骨香炉はもう消えている。
巨大なクレーターと大きな穴の一部が融合したように大きく削れ地形が窪んでいる。
更に、地響きと共にクレーターの縁の一部が崩落し、連なっていた塩の結晶も落下していく。
「ヴィーネ! カルード!」
張り上げた声が、破壊された聖域に虚しく響き渡る。
最悪の光景が脳裏をよぎり、心臓が冷たく締め付けられるようだ。その時、聞き慣れた声が鼓膜を震わせた。
「あ、ご主人様……! こちらです……!」
声のした方角へ視線を向ける。
そこでは大穴の一部が崩落し、地下へと続く巨大な坂道ができていた。その坂道の入り口、瓦礫の山を背に立つ眷族と仲間たちの姿を捉えた瞬間、張り詰めていたものが、ふっと緩むのを感じた。
周囲は死体と瓦礫だらけだが、神仙樹剣巻があの先にあるか。
そして、そこにサラ、アクセルマギナ、ガードナーマリオルス、ヴィーネ、カルード、レベッカ、ミスティ、ヘルメ、グィヴァ、キサラ、ミラシャン、フォティーナ、シュレ、アフラたちが集まっている。
皆、衣服がかなり汚れていた。光魔ルシヴァルの皆は大丈夫と分かるが、黒魔女教団とナリアとジスリは他の種族、スタミナに傷などは回復していない者もいる。
「ん、大きな穴が崩れてる」
「にゃぉ~」
「「はい」」
エヴァとマルアとナリアとジスリと一緒に向かう。
ルリゼゼも来た。空から沙・羅・貂と闇鯨ロターゼとアルルカンの把神書もやってくる。
「ヴィーネ、皆、大丈夫そうだな」
「はい、骨香炉を守っていたのは、ザンゲツとはまったく異なる理で戦う強者たちでした」
続いて、レベッカが、
「うん、二人組の全身を黒い塔の盾と重鎧で固めた、山のような巨漢魔人、魔族かな、湾曲した魔大剣と魔剣を使って、八星白陰剣法? だと思うけど、結構強かった」
エヴァたちが頷く。
ヴィーネが、
「はい、我々の攻撃をすべて受け止め、触れた武具を腐食させる厄介なオーラを纏っていました。そして、小柄で、無数の黒い残滓を生み出しながら幻影のように戦う女剣師も、かなり強かった。〝星見の眼帯〟を装備した状態でも、その本体を捉えることすら困難でした」
レベッカとヴィーネの報告に息を呑む。
キサラを見たが、
「はい、<真眼・白闇凝照>でも、そうでした。単純な速度がシュウヤ様クラスでした」
ザンゲツのような連中がいたということか。
「もう一人の射手と魔術師の二人組も精霊様の魔法を防いで、強かったですが、皆でなんとか倒しました」
皆が頷く。
なるほど、防御特化と幻惑・速度特化に射手と魔術師は、厄介な組み合わせだ。
「カルードとユイとサラとハンカイが、命がけで巨漢組を斬りかかり抑えつけ、その隙に、私とレベッカを中心に皆で、すべての幻影ごと女剣士を焼き払うべく、骨香炉に最大火力を叩き込んだのです。……ですが、それが、この爆発を……」
敵の罠ではなかった。
皆が自らの力で勝利を掴み取り、そしてその代償を支払った結果だ。
「……よく、耐えてくれた」
眷族たちに向け回復は必要ないが、疲弊した眷族たちへ清浄な水を与えるべく、静かに《水浄化》を発動――。
宙空に綺麗な水球が生まれ、その水球が煌めきながら弾け、綺麗な水のシャワーとなって、皆に浴びてもらった。
「閣下……ありがとうございます!」
ヘルメは嬉しそうに体を仰け反らせた。
コスチュームの張った乳房の大きさが分かるように、ぷるるん、と揺れた。
そのおっぱいが魅惑的なヘルメは、広げていた両腕を左右に動かしながら回転しながら体勢を戻し、
「――御身の御心の水に愛を感じました――次は、この身に宿る常闇の潤いで、皆を癒やしましょう」
ヘルメは、夜の静寂に溶け込むような低い声でそう告げると、磨かれた水鏡のように蒼い瞳を皆に向ける。キューティクルが保たれた長い睫毛も良い。
細かな水滴の印があって魅力的だ。
その眼差しには、深い慈愛と、秘めたる力が静かに揺蕩っている。
彼女は蒼い指先を緩やかに天へと伸ばした。指先から溢れるように煌めく水が現れてはピュッと出ていく。すると、虚空から水の魔力が、集結し、半透明な水の宝珠が生成された。
湛えられた水が息をのむほどに美しい、
それは満月を閉じ込めたかのようであり、その内側からは清冽な光が静かに溢れ出していた。ヘルメは、「ふふ」と微笑み、
「――夜の雫よ、星の息吹よ、疲弊の淵に立つ我らが同胞を優しく包み、潤いで満たせ――<水精の恩寵>」
ヘルメの、祈りのような囁きに応え、水の宝珠は柔らかな光を放ちながら弾けた。無数の水の粒子は、きらめく銀の雨となり、音もなく降り注ぎ、眷族と仲間たちの身をそっと洗い清めていく。
それは乾いた大地に染み込む恵みの雨のように、疲れた体にじんわりと浸透しきらきらと体が輝いて、熱を帯びた魂を優しく鎮めていくように思えた。皆の表情に安堵の色がゆっくりと広がっていく。
アフラは「ふふ~凄いです」実感しているようでモーニングスターを振るい、力が戻っていることに嬉しくなったのか、嬉しそうに跳躍を繰り返す。
やがて、雨上がりの夜明けのように、清々しい静寂が訪れた。
ヘルメは、満足げに微笑むと、その潤んだ瞳で、感謝を込めて俺を見つめる。
装飾された衣の胸元に手を当て、晴れやかな笑みを浮かべた。その薄い衣は、隠された内心を映すように、わずかに震えているようにも見えた。
「ありがとう、ヘルメ」
「精霊様ありがとう!」
「「ありがとうございます――」」
「ヘルメ、ママンの水は美味しい~」
「精霊様の水で癒やされました!」
ヘルメは振り返り、皆を見て、
「ふふ、水が、皆に御役に立てたようで嬉しいです」
「「はい」」
すると、マルアが坂道の先を見て「あれは……」と息を呑んだ。
紫と漆黒の霧のようなモノが坂道を這い出てきた。
瘴気と闇の魔力か。
悲しみ、苦しみ、絶望……神仙樹剣巻そのものが、穢れに蝕まれ、断末魔の叫びを上げているかのようだった。
キサラがすぐに<血魔力>をそこに向け放つと、霧のようなモノと衝突、蒸発するように消えた。
そこで、皆を見て、
「……ザンゲツは倒した。香炉も破壊したが、地下に向かうべきだな」
「はい」
「警戒じゃ、魔力は幾つもあるからな、器とサシで戦えるザンゲツのような存在がまだいる可能性はある」
沙の言葉に頷いて、レベッカも、
「うん、絶対、何かいる」
「あぁ」
そして、マルアへと向き直った。
「まだ、神仙樹剣巻がかすかに残るなら、マルアの〝浄光のデュランダル〟が役に立つかもだ」
「はい」
マルアはこくりと強く頷く。
彼女は浄光のデュランダルを抜き放った。
白炎の熊が宿り、母の想いが込められた聖剣が、この穢れた聖域で、ただ一つの希望の光となって、白く、清らかな輝きを放ち始める。
ヴィーネたちが破壊した『穢れの骨香炉』。その残骸が燻る大穴から続く坂道を、俺たちは慎重に下っていた。
「壁際には、粗末な寝床や、空になった酒樽が転がっている……奴らも、ここで寝起きしていたのか」
ハンカイが吐き捨てるように言う。
「こちらには武具の修理場が。それに、この匂い、食料庫も近かったようですね」
ヴィーネが鼻を抑えながら周囲を警戒する。
坂下から吹き上げてくる空氣は単なる瘴気ではなかった。
鼻を突く腐臭と、肌を粟立たせるほどの邪悪な氣配。永い年月をかけて穢され、捻じ曲げられた聖域が上げる、低いうねりのような呻きが鼓膜を揺らす。
やがて視界が開け、一行は広大な地下空洞にたどり着いた。
その光景に、誰もが息を呑む。
空洞の中央に、天を突くほどの巨大な樹が根を張っていた。
だが、その姿はあまりにも痛々しい。壁面には、風化した古代の紋様――風と砂を象った神々の印が、涙のように黒い筋を流している。かつてここが内海だった証拠か、神沙塩の結晶の中には、古代の魚介の化石が無数に封じ込められていた。
「これが……フーディー様と関連する神仙樹剣巻……だというのか!?」
ジスリが、信じられないといった様子で絶句する。
彼女の隻眼が、目の前の現実と一族の言い伝えとの乖離に激しく揺れていた。
沙が、眉をひそめ、
「これは、我らが故郷の聖樹に似た、強大で清浄な魔力の氣配、だが、この地に根差した砂と風の気配も色濃く混じっておる。一体?」
神界の知識を持つ彼女ですら、この樹の異様な状態を完全には理解できないようだ。
「はい、ですが、<九山八海仙宝図>が示している〝神仙樹剣巻〟の氣配はある。しかし、仙術由来の魔力とこの大地の魔力が、これほどまでに歪に絡み合っているとは」
レガランターラもまた、龍族としての鋭敏な感覚で樹の異常を正確に捉えていた。その言葉を裏付けるように、ナリアが樹の根元で輝く塩の結晶を指差した。
「あの結晶は、まさか裏市場で莫大な値段がつく〝神沙塩〟!? ザンゲツめ、このような聖域を私物化し、塩を生産して利益を得ていたというのか!」
ナリアの怒りに満ちた声が響く。その時だった。
俺たちの接近に気づいたのか、巨大な樹の根元、ひときわ濃い瘴気が渦巻く場所で何かが蠢いた。黒く変質した神仙樹の根や枝が、まるで悪性の腫瘍のように盛り上がり、一つの巨大な人型を形成していく。
現れたのは、歪んだ冠を被った巨大な熊と樹の人型。
仙女風と仙人風もいるが、熊のような体の部位がある。
沙が、
「かつての、玄智の森や仙鼬籬の森にいた羅仙族、仙羅族、仙王鼬族、熊樹族……皆、仙剣者、仙槍者だった」
中心の大きい熊の人型は、かつてフーディが語っていた……白炎王熊樹デュランダルだろう。しかし、冠をした熊の眼窩は一部が露出し、瞳には理性はない。
口から紫と漆黒の魔息が吐かれ、腐ったような樹と体は瘴気に蝕まれていた。
腕が膨れては、弾け、骨が見えては、それが一瞬で再生される。
ザンゲツの不死に近い再生能力はここにあるか。
専門のスキルも学べそうに思うが、無理かもな。
その冠を擁した巨大な熊は、純粋な破壊衝動を抑えるように己の歯牙で、唇を噛み、腐ったような血肉を床に垂らしていく。
ブシュゥゥゥゥゥゥ――。
床が砂地が樹沙魔塩に変化し、邪悪な樹のような結晶が生まれる。
穢れた大熊王と呼べる存在は、マルアと沙・羅・貂たちを凝視。
血の涙を流しつつ、沙・羅・貂の得物と、マルアの〝浄光のデュランダル〟をも凝視して、乱杭歯を晒すように口を広げ「オォ……オマエ……タチ……アァ、魔ノ国カラ、神界ノ、仙剣者、仙槍者ガ、帰って来たァァ……」と体を動かす。
そして、〝何か〟を〝奪われたこと〟による、深い怒りと悲しみが宿っているように、
「デュラン、ダル……セン、ユリ、ノ、モリ……グルォォォォォォッ! 続け、戦士タチ!!」
魂を揺さぶる咆哮と共に、穢れた仙熊人、黒熊怪獣と黒樹人型モンスターが現れる。
それらと〝穢れの大熊王〟が襲い掛かってきた。
吐き出す瘴気の息吹は、触れる岩肌を黒い〝樹沙魔塩〟の結晶へと変質させ、自らの力を増幅させていく。
「なっ! 瘴気を放つと、奴の力が増す!?」
ハンカイが金剛樹の斧で攻撃を受け止めながら叫ぶ。
「マルア!」
「はい!」
呼びかけに、マルアが〝浄光のデュランダル〟を天に掲げる。
聖剣から放たれた浄化の光が、大熊王の瘴気を一瞬だけ晴らした。すると、瘴気が晴れた大地から清浄な〝神沙塩〟の結晶が生まれ、それが大熊王の動きを鈍らせ、苦しげな呻き声を上げさせた。
その逆もまた真なりか。
その時、大熊王が苦しげに再び咆哮する。
その声に呼応するように、神仙樹から八星瘴陰剣法の黒い剣譜が嵐のように吹き荒れると――視界が白く染まった。
まったく異なる情景が脳内に直接流れ込んできた。
眼下に広がるのは、蒼く輝く広大な内海。
そこに天から一条の光――神仙樹剣巻が流星のように突き刺さる。
凄まじい水蒸気爆発が起き、海の水が瞬く間に干上がっていく。取り残された古代の魚たちが、塩の結晶の中で最後の時を迎えるのが見えた。
大地は隆起し、一部は塩の砂漠へ、一部は緑豊かな地へ、そして一部は再び海へと姿を変えていく。
時の流れが加速する。人々がその地に住み着き、独自の剣技『八星白陰剣法』を発展させる輝かしい歴史が映し出される。だが、その栄華は長くは続かない。突如、核爆発を思わせる凄まじい大爆発が大地を揺るがし、生き残った人々は噴出し続ける瘴気に蝕まれていく。ゴルディクス大砂漠の各オアシス都市で輝かしい八星白陰剣法は発展を続けた。
そうして、いつしか『八星瘴陰剣法』という禍々しいものへと歪んでいった。
ザンゲツよりも遥か昔の魔人や人族が、瘴気に狂い、互いに刃を向け合う悲劇の光景が脳裏を焼く。キサラを思わせる四天魔女、そしてアフラたちが魔人たちと死闘を繰り広げる姿が目に飛び込んできた。黒魔女教団の者たちと『犀湖十侠魔人』と呼ばれる異形の者たちが激突し、【天簫傘】や【八百比丘尼】といった伝説的な使い手たちが入り乱れて戦う場面が、次々と脳裏を掠めていく。
それらすべてが、このゴルディクス大砂漠の血塗られた歴史なのだと、魂に刻みつけられるようだった。
八星白陰剣法から八星瘴陰剣法へと進化はそこにあったのか。
そして、白炎王熊樹デュランダルの一部は自らの魂を穢され、奪われ続けた怒りと悲しみで狂っていた。
実際に、黒熊怪獣と黒樹人型モンスターも無数に生まれ始める。
あのモンスターは、〝浄光のデュランダル〟を入手する前にも現れていた。なるほど、すべてには理由がある。
ジスリがはっとしたように大熊王を見つめた。
「始祖の伝承の冒涜が、八星瘴陰剣法……許さん!」
彼女の怒りが、仙妖魔としての力を最大限に引き出す。
戦うべき理由は、もはや一つ。この悲劇の守護者を、苦しみから解放する。
「皆、最初は俺が<血鎖の饗宴>をやるから、その後は、マルアへの道を開け!」
「「「はい」」」
先陣を切って前方に跳び、両腕から<血魔力>を噴出させ<血鎖の饗宴>――。
無数の血の鎖が怨嗟の叫びのような音を立てて腕先から噴き出した。
血鎖の嵐は、大熊王が盾としていた紫と闇の魔力が融合した瘴気の壁と黒熊怪獣と黒樹人型モンスターに殺到し、それを溶かすように貫き、裂き、喰らい、強引に道をこじ開けていく。
光魔ルシヴァルの<血魔力>は瘴気には抜群に効く――
その血鎖が作った一瞬の突破口を、皆は見逃さない。
「――<魔靭・鏡斬り>――」
ルリゼゼの本体と分身が八本の剣が、再生しようとする瘴気を細切れに斬り刻む――。
「天の恵みを、この地に! <神降ろしの慈雨>!」
ナリアが祈りを捧げると、浄化の雨が降り注ぎ、瘴気が晴れた大地に清浄な神沙塩を結晶させる。
「我が一族の秘術、受けるがいい! <仙曼縛砂獄>!」
ジスリが杖を突き立てると、その神沙塩が巨大な砂の渦となって大熊王の足元に殺到し、その動きを完全に封じ込めた!
仲間たちが作り出した完璧な好機。その道を、マルアが駆け抜ける。
そして、大熊王の穢れの核――歪んだ冠へと、浄光のデュランダルとデュラートの秘剣を突き立てた。
「お母様が愛した誇り高き守り手よ……どうか、安らかに……!」
二つの神剣から光魔ルシヴァルの<血魔力>を有した光が放出される。
紫と漆黒の魔力、その穢れと狂気を洗い流していく。
大熊王の瞳から狂気が消えた。神々しい白炎を有した白熊にも見える熊の人型。
頭部の冠は兜のように変化し、金銀の首防具と鎧にプラチナのような体毛が輝いている。
熊と人族だが、樹の体もある。
きっとこれが、本来の〝白炎鏡の魂宝〟の守り手の一柱、『白炎王熊樹デュランダル』の幻影だろう。同時に、かつて聞いたフーディの言葉を、
『はい、元は、〝白炎鏡の魂宝〟の守り手の一柱、白炎王熊樹デュランダル。輪廻の最初のデュラートを守るための<白王樹熊・神剣転生>と〝ゴッデス金枝〟を用いて、セラのこの地に転生させたのです。勿論、私が仙妖魔になる前……大仙人の頃。遠い昔の出来事です』
と思い出す。沙たちは唖然としているが、
「デュランダル爺熊じゃ」
「はい、爺ではない若い頃のようです」
「はい……」
貂と羅も驚きのまま話をした。
大きい熊のデュランダルは、
「アリガ、トウ……」
と語り、マルアと一行に感謝の思念を送ると共に、
「……ワレハ、嘗テ、〝白炎鏡の魂宝〟の守り手ノ一柱、白炎王熊樹デュランダル。ソノ一部ダッタ、……我ノ本体ガ、セラニ堕チル前ノ神仙樹剣巻トシテ、ダガ、ヤツラ、ワレカラ、光ヲ〝仙王術〟ヲ……ウバイ、ソノチカラデ、聖ナルケンヲ……ヨゴシタ……ワレハ……クルシカッタ……」
片言で、自らの真相を語る。
断片的な言葉からザンゲツの非道な計画の全貌が明らかになった。
デュランダルの幻影の隣に、木製の大剣の幻影が出現した。
デュランダルは木の大剣を掴む。と、木製の大剣が強く輝いた。
これが神仙樹剣巻、その幻影か。
デュランダルの熊は頷くと、神仙樹剣巻と共に光の粒子となってゆっくりと散っていった。散った樹の幻影は、無数の光る紙片へと変化する。
紙片が俺たちに舞い降りてくる。
ピコーン※<白炎一ノ太刀>※スキル獲得※
すべての紙片が消え去り、あとには静寂だけが残る。
物理的な秘宝は何も残らなかったが……。
「おぉ、<白炎一ノ太刀>を覚えました!」
「「はい」」
「……始まりの教えでしょうか……」
カルードの言葉に頷いた。
マルアも嬉しそうにデュラートの秘剣と浄光のデュランダルを掲げていた。
続きは明日、HJノベルス様から「槍使いと、黒猫。1巻~20巻」発売中。
コミック版発売中。




