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槍使いと、黒猫。  作者: 健康


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1921/2032

千九百二十話 見事だ、剣の師匠たち

 ダモアヌンの山頂から吹き下ろす風が、決勝戦の始まりを告げるかのように俺たちの頬を撫でていった。


 稽古場の中央で蒼聖の魔剣タナトスを構える。

 キサラはダモアヌンの魔槍を構えた。

 貂の組のユイ、ヴィーネ、カルードの三人と静かに向き合う。


 先ほどの戦いを経た三人は成長している。

 <筆頭従者長(選ばれし眷属)>の二人と<従者長>の一人、感覚も研ぎ澄まされているのが分かる。

 

「シュウヤ、キサラ。手加減はしないわよ」


 ユイが三刀のうち二刀を構え、挑戦的な笑みを浮かべる。

 彼女の視線は、蒼聖の魔剣タナトスへと注がれていた。

 キサラが、


「えぇ、望むところです。シュウヤ様は剣を使うようですが、私はダモアヌンの魔槍を使います。全力でお相手させていただきます」


 キサラが応じる。

 ユイは本場の三刀流に加えての〝神仙燕書〟と〝神淵残巻〟により、仙技の理を掴み、己が牙とした強者だ。

 俺も剣術はそれなりに成長しているが、分は悪い。

 しかし、キサラも槍使いが本筋。

 その二対三。変則的だが、不足はない。


 羅の宣言と共に、三人が動いた。

 <御剣導技>で宙を舞い、ユイの幻惑的な動きが俺たちの視線を惑わせ、カルードの鋭い突撃が守りをこじ開け、ヴィーネのカウンターが退路を断つ。完璧な三位一体の攻撃。


「見事だ!」


 思わず賞賛が漏れる。蒼聖の魔剣タナトスを振るい、三人の猛攻を<仙式・流水架>で受け流す――。

 これは単なる防御ではない。彼らの剣筋、魔力の流れ、呼吸のリズム……そのすべてを、この身で感じ取り、理解するための「対話」だった。


「キサラ、合わせろ!」

「はい!」


 キサラがダモアヌンの魔槍を振るう。

 穂先から伸びる無数のフィラメントが、<血魔力>と仙氣を纏って<血魔力>を有した白銀の網と化し、三人の動きをわずかに制限する。


 その隙にキサラは天魔女流のステップでヴィーネの懐へ鋭く踏み込む。繰り出された<刺突>は、しかし紙一重で身をひねられ、空を切った。すぐに<暁闇ノ歩法>を使い跳躍しながらのジャンピング<刺突>に近い<暁闇ノ跳穿>をカルードに繰り出す。

 カルードは<淵解・重芯>と<残解・見切り>を使い避ける。

 キサラはダモアヌンの魔槍のフィラメントを四方に伸ばし、ヴィーネとユイとカルードを牽制し、己はユイに<乱突>を放った。

 ユイは刀を構え、ダモアヌンの魔槍の穂先を叩くように防ぎ、天魔女流の<刃翔刹閃>を<残解・見切り>で避ける。

 突きと薙ぎ払いが、仙技六礎の理によって洗練され、以前とは比較にならない精度と鋭さで三人を守勢に回す。

 <御槍導技>はキサラも得たということだ。

 だが、貂の組も怯まない。

 ヴィーネがカウンターでキサラの猛攻をいなし、ユイが幻惑で俺の注意を引き、その背後からカルードが必殺の間合いへと踏み込んできた。


「もらった!」


 カルードの二刀が、死角から閃く。

 頭を下げて後退するが、その斬撃はかつてないほど鋭い。

 元々の剣術の師の一人、カルードの動きを読み切れるようになったのは嬉しいが、これは危険だ。


 <残解・見切り>で動きを捉えようとするも、見切れない。

 <神式・一点突>の切っ先を蒼聖の魔剣タナトスで防ぐ。

 凄まじい衝撃に腕が痺れ、地面に押し戻される。<闘気玄装>を強めて後退し<仙式・流水架>を発動、蒼聖の魔剣タナトスで円を描くようにカルードの一刀を横へ流し、返す剣腹で両刃刀の幻鷺を横に弾く。

 

 更に一歩踏み込みつつ蒼聖の魔剣タナトスを逆手に持ち替え、振るう。

 ――カルードの流剣フライソーを横に弾き、両刃刀の幻鷺の刃を、返す剣刃で横に流しながら<淵解・重芯>と<仙式・流水架>と<魔手回し>の理を融合させるように実行し、滑らかに円を描く蒼聖の魔剣タナトスで両刃刀の幻鷺と流剣フライソーを連続的に弾きいなし、その円運動が収束する間もなく、ふいに柄頭が幻鷺の鍔元を正確に打ち据えた。


 <淵解・重芯>の理を応用した最小限の動きで、最大限の衝撃を与える。カルードの体勢が大きく崩れた。


「なっ……!?」


 そのまま流れるような動きで、三人の連携の中心へと踏み込む。


「え?」

「なっ」

 

 これは神仙燕書にも神淵残巻にも記されていなかったが、一人の槍と剣を扱う老仙人を参考に――<理心一体>の境地で編み出した剣と槍の理を融合させた動き。


 三人は不可思議な動きに翻弄されたように視線が行き交う。

 猛攻の渦の中心で、皆の動と静に乱れが起きた――。

 

 しかし、ユイ、ヴィーネ、カルードは強い。

 防御の型の<仙式・流水架>と<淵解・重芯>の流れは確実――。

 剣先が一度、二度、三度も乱れて、<神式・一点突>が通用しない。

 まだまだ、俺の剣は甘い。

 <燕式・飛燕斬>も弾かれた――。

 蒼聖の魔剣タナトスを持つ腕が横に弾かれるまま、体を横に移動した。

 その直後――。

 ヴィーネが、それを読んでいたようにカウンターの名手のような<仙剣・白狐>の剣撃が迫った。


 チリッ、と小さな音がした。

 稽古場のすべての動きが止まる。

 ヴィーネの剣の切っ先が道着の袖を、数ミリだけ切り裂いていた。


 一瞬の静寂の後――。

 俺は蒼聖の魔剣タナトスを鞘に納めて笑った。


「……参った。こちらの一本負けだ」

「ふふ、やったわね!」

「我々の……勝ち、ですか……?」


 ユイとヴィーネ、そしてカルードが呆然とした表情で顔を見合わせる。


「おう」


 と一度息をつき、誇らしげに眷族たちの顔を見回す。


「やはり、本職には敵わないか。仙氣と<血魔力>の融合など<御剣導技>に<闘気玄装>も強まったが、やはり、剣は剣。ユイ、カルード、ヴィーネの剣術は、俺の想像を遥かに超える領域に達していた……見事だ、俺の師匠たち」


 と、ラ・ケラーダの仕種で礼をした。


「ご主人様……」

「マイロードも見事な剣術でしたぞ、柄を活かし、押されたのは事実。キッカ殿の魔剣・月華忌憚の<血瞑・柄目喰>などを思い出しました」

「あぁ、たまたま、タイミングだ。上手く行った。だが、その後がな」

「ふっ、父さんだけではないからね」

「あぁ、ユイも見事」

「うん、シュウヤもよ」


 やがて、自分たちが成し遂げたことの大きさを理解し、わっと歓声が上がった。


 羅が静かに歩み寄り、その結果を宣言する。


「――そこまで。勝者、貂の組!」


 ユイたちの勝利を稽古場にいる全員が温かい拍手で祝福した。

 それは、ただの模擬戦の勝敗ではない。

 眷族たちが師の示した道を越えて自らの力で勝利を掴み取った輝かしい瞬間の証しだろう。


「皆強い~」

「にゃ~」


 フォティーナの言葉に黒猫(ロロ)が鳴いて応えている。


 張り詰めていた糸が切れたように仲間たちからは安堵のため息と、互いの健闘を称え合う明るい声が上がり始めた。


 皆で健闘を称え合っていると、「閣下~模擬戦ご苦労様です~」とヘルメが、「はい~」とグィヴァがやって来た。


「ヘルメとグィヴァ<精霊珠想・改>と<闇雷蓮極浄花>を使おう、一部を纏う、回復&冥想修業を行う」

「はい」

「分かりました~回復します!」

「おう」


 常闇の水精霊ヘルメと闇雷精霊グィヴァの体を精霊状態させ、水と雷の魔力として纏いながら<血脈冥想>を使った内観修業に移る。


「ふふ、閣下の剣術が飛躍的に上昇しましたね」

「あぁ」

「<仙式・流水架>と<淵解・重芯>などの防御の構えは槍にも応用が可能なのですね」

「そうだな」

 

 精霊たちと冥想を続けると、いつの間にか夜となった。


 ダモアヌンの山の稽古場には大きな焚き火が焚かれ、その周りを修行を終えた仲間たちが囲んでいる。

 心地よい疲労感を浮かべた仲間たちの顔を照らしていた。

 パチパチと薪がはぜる音、ディーやリリィとフクナガが腕を振るった肉の焼ける香ばしい匂い、そして仲間たちの楽しげな笑い声が、満天の星空の下に溶けていく。


 ジスリたちが持ち寄った砂漠の干し肉や木の実も振る舞われ、ささやかな、しかし心温まる宴が始まっていた。


 輪の中心では、ハンカイと血骨仙女の戦士たちが腕相撲で盛り上がり、レベッカがナリアの元部下たちに<仙剣・蒼炎華>の演舞を自慢げに披露している。


 その喧騒に参加しワインの魔酒を飲み合う。

 飲んでいたワインと蒸留酒から魔界の『百足の覚醒』の話題に移り、砂漠都市ゴザートと突岩の街フーディと教都メストラザンでの酒造と蒸留器と魔酒の話題に移る。話を聞いていてアラビア語でアラック、中東の焼酎を連想した。


 他にもココナッツ、バナゴ、主にヤシの木畑はオアシス都市にて、砂漠農業が盛んに行われているようだ。ココナッツオイルなども扱う大商会同士の権益争いも熾烈のようだ。


 すると、ジスリとナリアは皆の喧騒から離れた。

 静かに火を見つめながら、目の前で繰り広げられる光景を信じられないといった面持ちで眺めている。


 木の杯に酒を注ぎ、二人の元へと歩み寄る。


「シュウヤ殿……」


 先に口を開いたのはジスリだった。

 彼女はその鋭い隻眼で、まっすぐに俺を見据える。


「先ほどの戦い、神界の妙技の連携は見事という他ない」

「あぁ、皆、様々に経験しているからな」

「それでもだ、血骨仙女たちが何十年とかけて練り上げる連携を越えていた、それが光魔ルシヴァルの力なのだと理解できたぞ」


 その声には、畏敬の念が隠せない。

 続いて、先程、『百足の覚醒』などの魔酒の話題でレベッカたちと盛り上がっていたナリアが、


「シュウヤ殿、今度こそは、ただの風槍流の槍使いと、誤魔化さず、真面目に答えてほしいものだ」


 と聞いてきた。

 頬が少し赤いから酔っているんだろう。


「あぁ、なんだ?」

「貴殿の力は、我々が信じる神の正義とは、似て非なるもの……。だが、そこには確かに秩序と仲間を守るという強い意志がある。眷族の方々が言うには、シュウヤ殿には、『小さなジャスティ』があると語っていた。その意味と貴殿にとっての『正義』とは、一体何なのだ?」


 と聞いてきた。

 彼女の琥珀色の瞳は、ただ純粋な真理を求める探求者のように澄んでいる。二人の指導者からの、あまりにも根源的な問い。

 彼女たちの目を見返すのではなく、揺らめく焚き火の炎へと視線を落とし、


「正義か……小さなジャスティス。少しずつ変わっていったと思う。俺なりの精一杯な正義感を表した言葉。そして、『義を見てせざるは勇無きなり』という言葉もあるが、難しく考える必要はない。ただ、家族である皆が笑っていられる世界を守りたい。目の前で困っている人がいたら、自然と手を差し伸べられる自分でいたい。それだけだ」


 と、静かな、しかし確信に満ちた声で答えた。

 だが、まだまだだと思う。

 アキレス師匠やホウシン師匠たちのような存在にはまだまだ遠く及ばない。


 その答えに、ジスリとナリアは言葉を失い、ただ黙って火を見つめていた。少しして、持っていた酒を飲み干したナリアは、


「――だからこその、風槍流、槍使いの言葉か……」


 呟いた。

 自らが信じてきた「正義」とは異なる、しかし確かに存在する「光」の形を目の当たりにしての言葉でもある。


 彼女たちが守るべき民や国家、信じる神とは違う、あまりにも個人的でしかし揺るぎない俺の戦う理由。


 ジスリは、長年忘れていた穏やかな感情が胸に蘇っているかのように、その鋭い眼差しをわずかに和らげている。


 その時、宴の中心からひときわ大きなレベッカの笑い声が響いてきた。

 その声に、二人の視線が自然と仲間たちの輪へと向けられる。


 規律も種族もバラバラな俺たちが、ただ楽しそうに笑い合っている。

 その光景が、俺の言葉の何よりの証明となっているかのようだった。


 規律も種族もバラバラだが、その中心には互いを「家族」と呼び合う絶対的な信頼の絆が存在する。

 これこそが俺たちの強さの源泉の一つ。

 二人にも伝わっているといいのだが。


 その時、


「二人とも、シュウヤたちを褒めているが、〝神仙燕書〟と〝神淵残巻〟はお主たちにも恩恵があったはずだぞ」


 と、ハンカイの声が響く。

 そのハンカイは特別な酒瓶を抱えてこちらへやってきた。

 ジスリとナリアは、


「あ、はい。たしかに<御剣導技>など、<御剣・速薙ぎ>などは得ることができました」

「はい」

「うむ、黒魔女教団の皆も得ている。さて、ジスリの嬢ちゃんもナリアの嬢ちゃんも、まずは先程話題に出ていた魔酒を――」

「「え……」」

「ガハハッ、遠慮するな、それが噂の『百足の覚醒』だ!」


 ハンカイが注いだ杯を、ナリアは少し警戒しながらも口にする。

 その瞬間、彼女の瞳が驚きに見開かれた。


「なっ……! これは、ただの酒ではない……!?」


 その反応に、ハンカイは満足げに笑う。


「だろぉ? そいつはただの酒ではない。『百足の覚醒』ってのはな、あの恐王ノクターと、ホーブスルタンって酒造りの名人が、百足魔族のために特別に造っていた魔酒、百足高魔族ハイデアンホザーを人族と似た姿へと、種族の進化を促せるほどの魔酒だ」

「「……」」


 恐王ノクターの名が出たことにジスリとナリアは息を呑んだ。

 ハンカイは、樽を置いて、両手を動かしながら俺をチラッと見た。

 頷くと、ハンカイは『あぁ、当然だな』というように笑ってから、二人を見やり、


「まぁ、シュウヤとの絡みがなかったら、百足高魔族ハイデアンホザーと百足魔族デアンホザーへの戦略兵器にもなり得た代物だ。更に、これは俺たちにも効果がある。これを飲むと、ただ強くなるだけじゃなく、冷静さも保てるって代物だ!」

「貴重な魔酒……『百足の覚醒』を……」


 魔界の神の一柱の名が隣人のように語られる。

 俺たちが渡り合ってきた世界のスケールの違いを改めて思い知らされたようだった。


「シュウヤは『百足の覚醒』のオーナーの一人。大量生産の恩恵に与かっているから氣にするな、飲め飲め」

「は、はい」

「ありがとう、ハンカイ殿!」


 ジスリは『百足の覚醒』入りの木杯を口に運び、飲む。

 ナリアは少し遠慮がちに木杯を傾け、飲んでいた。

 

 その時、宴の輪の中から一人の年老いた血骨仙女がおずおずと立ち上がり、マルアの元へと歩み寄るのが見えた。

 彼女は、ジスリが最も信頼を置く側近の一人だろう。


 老仙女はマルアの前に進み出ると、深く、深く膝をついた。


「……マルア様」


 その、絞り出すような声に、周囲のざわめきがぴたりと止まる。


「先ほどの模擬戦、そしてあなたが浄光のデュランダルを手にされた時のあの神々しいお姿……我らは、確かに見届けました。始祖フーディ様の遺志は、あなた様の中に生きております。どうか、我ら血骨仙女をお導きください」


 その言葉にマルアは驚きに目を見開いた。彼女は助けを求めるように俺やジスリを見たが、俺たちはただ静かに頷きを返す。これは、彼女自身が向き合うべき運命なのだろうと感じた。

 マルアは一度唇を噛み締めると、膝をつく老仙女の前にかがみ込み、その皺の刻まれた手を両手でそっと握った。


「……様、はやめてください。私はまだ、何も成し遂げていませんから」


 その声は震えていたが、瞳には確かな光が宿っていた。


「でも、母が守ろうとしたもののために、皆さんと一緒に強くなりたい……そう、思っています。だから、導くだなんて大げさなことじゃなく、一緒に戦ってください。私に、力を貸してください」


 その、あまりにも真摯な言葉に、老仙女は顔を上げ、その目から一筋の涙を流しているのが見えた。

「……もったいなき、お言葉。我ら血骨仙女、この命、あなた様と、シュウヤ殿に捧げます」


 ジスリが、その光景を誇らしげな、しかしどこか寂しげにも見える、複雑な表情で見守っているのが視界に入った。


 宴もたけなわとなった。

 そこで静かに立ち上がり、木の杯を高く掲げた。

 仲間たちの視線が一斉に集まる。


「皆、聞いてくれ! この度の修行、見事だった! そして、ジスリ、ナリア、そして血骨仙女の皆、ようこそ。新たな家族の誕生に、乾杯!」

「「「乾杯!」」」


 力強い唱和がダモアヌンの夜空に響き渡る。

 杯を飲み干すとレガランターラに目配せをした。


 レガランターラの龍王への道の手伝いにもなるからな。


「さて、休んだところで、次の話だ。レガランターラ、頼む」

「はい!」


 レガランターラが<九山八海仙宝図>を再び展開させる。

 光の地図が、焚き火の光と混じり合い、幻想的な光景を作り出した。俺は、ゴルディクス大砂漠に示された、最後の光点を指差す。


「このゴルディクス大砂漠には、秘宝の一つ神仙樹剣巻がある。フーディ様が遺した言葉、そしてマルアが持つデュランダルのことを考えれば、入手しておきたいところだ」


 その言葉に、マルアがはっとしたように顔を上げ、


「はい!」

「この宴が終わったら、次はこの秘宝を探しに行こうかと思う、皆も、準備はいいな!」

「「「応!!」」」


 ハンカイの氣合い声が高い。

 新たなる冒険の始まりを予感しながら、眷族と仲間たちの熱気に満ちたダモアヌンの夜が更けていくのを感じていた。


 宴の熱気が冷めやらぬ、ダモアヌンの翌朝。

 澄み切った山の空気が、心地よい疲労感を残した体に染み渡っていく。稽古場のあちこちでは、仲間たちが思い思いに体を動かしていた。


 ヴィーネは流麗な型で仙剣の理を確かめ、ハンカイは<淵解・重芯>を意識して巨大な岩を持ち上げては、その安定感に満足げに頷いていた。

 

 レベッカに至っては、<御剣導技>で稽古場の上を嬉々として飛び回り、時折、制御を失いかけては「きゃっ!」と楽しげな悲鳴を上げていた。


 俺は、マルアと共に二つの巻物を静かに見つめる。

 彼女の瞳には、次なる探索への静かな決意が燃えていた。


 旅立ちの準備を進めてから<御槍導技>の調整をしようと駆けて跳ぶ。


「ンン――」


 相棒は、大きい黒豹に変化させている。


「ご主人様、お供します――」


 ヴィーネと相棒を連れ宙空を飛翔しつつ――。

 <御槍導技>で魔槍杖バルドークに乗ってダモアヌン山の豊かな自然と砂漠の境目に視線が向かった。

 大型魔獣バブラーヤと連結していた大型幌車や改造型の砂漠船が停泊している砂漠港から少し離れた砂漠で、巨大ガヴェルデンとワームたちが何やら奇妙な活動をしていることに氣が付いた。


 光と闇(ダモアヌン)運び手(ブリンガー)装備はしていないが、腕先からキュルハとメファーラの宇内乾坤樹が少し伸びた。


 巨体に見合わぬ器用さでダモアヌン山の岩をどかし、整地するガヴェルデンたち。そして、その硬い頭部で山の麓の地面を、まるで意志を持ったドリルのように掘り進んでいくワームたちだ。


 静止し、ワームたちを凝視した。


「オアシスの再建は順調と分かるが……」

「にゃおぉぉ~」


 黒豹(ロロ)の口元には<魔声霊道>の魔法防具が装着されている。 神獣に似合う細かな装飾が他と異なっていた。

 <魔声霊道>を通じて、ワームたちの長らしき個体に意識を送る。

 

「「ウォォォォォン――」」

「ウォォォン」

「「「ウォォォン~」」」


 大地の鼓動にも似た振動が、骨を通じて心臓に共鳴する。

 喜びの歌を歌っているワームもいる。

 すると――砂漠の守護者、キュルハの根、黄金、山、水、地下、水道、巣、砂漠、故郷、犀湖ノ泉?

 ――突岩の街フーディの情景、ハティア、超古代文明の第一世代が残していた宇宙船があった地下の大瀑布の光景などのイメージの奔流が脳内に流れ込んできた。


 ゴルディクス大砂漠はキュルハの根が通り、地下水脈が存在しているから、そこを拡大していくということか。

 

 <御剣導技>で戦迅異剣コトナギに乗っているヴィーネも隣で止まり、目を見開き、<魔声霊道>を発動した。

 綺麗な紫色の唇を有機的な(かんばせ)の魔法装備が展開された。

 渋くて素敵だ。そのヴィーネは、


「ご主人様、ワームたちもがんばっているようです」

「あぁ、ダモアヌン山の地下水脈を犀湖都市まで繋げているようだ。【約束のオアシス】とも繋げているようだな」

「はい、地表と地下にも巣を作ってダモアヌン山を守ろうとしてくれているようですね。そして、キュルハの根を通した地下水脈は、犀湖都市、砂漠都市ゴザート、等、各オアシス都市と、かつての黄金都市ムーゴにも繋がっているので、その地下水を拡大させるつもりなのでしょう」

「あぁ、前にも話をしていたな」

「はい、闇遊の姫魔鬼メファーラも言ってました」


 ヴィーネの言葉に、飛翔していたカルードたちも頷いていく。

 

 そんなこちらの驚きをよそに空がにわかにかき曇った。

 大きな影が、風を巻き起こしながら天から急降下してくる。

 闇鯨ロターゼか。

 ルマルディとアルルカンの把神書も寄ってきた。


「主~巨大ガヴェルデンたちが何か作り始めているが」

「おう、たぶん、犀湖都市と【約束のオアシス】と、ダモアヌン山の地下を地下水脈で繋げるんだと思う」

「ほぉ」


 アルルカンの把神書とルマルディを見て、


「アルルカンとルマルディ、北のほうに移動していたが」

「うむ」

「はい」


 ルマルディは冷静に頷くと、簡潔に報告を始めた。


「三紗理連盟の残党と思われる集団を、神仙樹剣巻が示す近くで見つけました。【嘆きの塩湖】の周辺で集結しているようです。奇妙な魔力反応……瘴気にも似た何かを中心に、不審な動きを見せています」


 嘆きの塩湖か。

 神仙樹剣巻はそこにあるのかな。

 

「情報感謝する。これで、向かうべき道と警戒すべき相手がはっきりしたな」


 仲間たち全員を見渡し、頷き、


「一度、山に戻り、レガランターラたちと合流し、神仙樹剣巻を回収&敵かも知れない連中と戦うメンバーを選出しようか」

「「はい」」


 山に戻って稽古場に着地した。


続きは明日、HJノベルス様から書籍「槍使いと、黒猫。1巻~20巻」発売中。

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