千九百七話 呉越同舟の誓い
戦場に、シャナの歌声と巨大ガヴェルデンのワームたちの重層的な音波が響く。
解放されたワームたちは、巨大ガヴェルデンへと殺到する。
もしかして、苦しんでいたワームたちの母のような立場が巨大ガヴェルデンなんだろうか。
巨大ガヴェルデンの黒曜石のような外皮の甲殻に、己の黒曜石のような甲殻を寄せ、無数の触手を伸ばして慈しむように絡みついていく。
助かったワームたちの数は多いから、巨大ガヴェルデンの漆黒の外皮は、もこもことした羽毛に包まれて見えなくなった。
「「ウォォォン~」」
「ウォォォォォォン~」
母を慕う赤子のような、温かな感情を抱かせる。
間違いない。あれは、母と子の再会そのものだ。
憎悪でも威嚇でもない、純粋な歓喜の波動が肌を震わせた。
『犀湖十侠魔人』のブロッカたちが率いていた【天簫傘】、【八百比丘尼】、【阿毘】の通称三紗理連盟の軍勢が崩壊している。
そして、血骨仙女ジスリと、その一団に、【アーメフ教主国軍】を率いる指揮官の女性は、互いの力量を測るように、張り詰めた空氣の中で静かに対峙している。
「では、俺の名はシュウヤ。足元にいる黒猫はロロディーヌ。愛称はロロ。俺たちは、光魔ルシヴァルという名の種族で、俺は宗主だ。左にいるのはユイ、右にいるのはヴィーネ、キサラ、エヴァ、レベッカ、ハンカイ、ミスティ、皆、眷族だ。黒魔女教団の四天魔女レミエルと十七高手たちもいる」
血骨仙女のジスリと【アーメフ教主国】の指揮官は頷いた。
ヴィーネたちも会釈をしていく。
ジスリとアーメフ教主国の指揮官に、
「……改めて、途中では紆余曲折ありましたが、共同で、地上にいる瘴毒の黒手と三紗理連盟の軍と『犀湖十侠魔人』は魔人たちと、骸骨騎士たちを撃破できたことは喜びたいと思います」
そこで、間を空けるように二人を見やる。
表情は厳しいままだが、頷く素振りを見せる二人。
そこで、
「……しかし、見ての通り、まだ地下には敵の本拠と思われる要塞があり、そこには元凶の……暁の墓碑の密使ゲ・バイ・ユグ・コーがいる。そこには『犀湖十侠魔人』の魔人もまだいるでしょうし、古代の暁の帝国の支配層たちだから可能な魔造生物と骸骨騎士などがいるかも知れない。地底神セレデルやトロドなど魔神帝国の連中と手を結んでいるかも知れない。そして、その暁の墓碑の密使たちとは、貴女たちも敵対関係にある。その認識で合っていますね?」
言葉を切り、二人の反応を慎重に観察する。
血骨仙女のジスリは復讐心、教主国は大義と思われる。
動機は違えど、標的は同じ。問題は、根深い相互不信をどう乗り越えさせるかだ。
まずは共通認識を強固にすることから始めなければ。
血骨仙女のジスリは、ジロリとアーメフ教主国の指揮官を見てから俺を見て、
「……そうだ。大敵が暁の墓碑の密使の一部。太古より続いている忌まわしき連中の生き残りだ……我らは、その暁の墓碑の密使とは会ったことがないが……そいつが大本だと理解している。そして……」
右側の地下要塞の出入り口を見やり、喋るのを止めた。
そこにはまだ死体が散らかっていた。ジスリの目に憎しみが宿っているのが見えた。長い黒髪が仙妖魔だと分かるように揺らぎながら一部が逆立つように盛り上がっていく。細い眉毛と、赤が基調の片目に鼻は高い、口は小さく、顎も細い。
かなりの美形だ。
右腕の表面に赤い筋模様と細かな魔法陣が浮かぶ。
そこで、【アーメフ教主国】の指揮官に視線を向けた。
指揮官の双眸は大きめで、鼻は普通で、小さい唇。右にホクロがある。
細い顎と首には傷があった。
「貴女はアーメフ教主国の?」
「はい。私の名は、ナリア・カリフーン。教主国軍、第三聖典騎士団を率いる者」
ナリアと名乗った彼女の声は、凛として戦場の隅々まで響き渡るようだった。
指揮官としての器を感じた。
ナリアは、俺の隣に立つマルア、後方に控えるキュベラスや眷族と黒魔女教団の四天魔女レミエルたちを値踏みするように見ていく。
無理もない。得体の知れない強力な集団が、いきなり現れて戦況を引っ掻き回したのだから。
「ナリアとジスリ、貴女たちも争っていたが、ここでは、俺たちと共に手を結んでもらいたい。共に、暁の墓碑の密使ゲ・バイ・ユグ・コーを討とうと思うがどうだろう」
「……」
「……」
二人はしばし黙った。
そこで、ジスリに、
「血骨仙女の〝暁の砂骨山〟はすぐそこだが、暁の墓碑の密使の地下要塞には氣付かなかったのか?」
ジスリは、
「当初は、氣付かなかった。いつの間にか地下に要塞を作っていたようだな……そこから〝暁の砂骨山〟に麓と谷間に広がって存在している【突岩の街フーディ】への戦いを仕掛けられ、長く、【瘴毒の黒手】と【八百比丘尼】を中心とした三紗理連盟の闇ギルド連合と魔人たちの『犀湖十侠魔人』とは、常に戦いを続けた。何人も同胞が殺され、そいつらが操作しているワームにも襲われた」
そのジスリの発言に頷いた。
そこで、【アーメフ教主国】の指揮官に視線を向ける。
「ナリアさん。教主国軍の目的も、暁の墓碑の密使を討つことですよね」
「無論だが、理由は様々。教都メストラザンでは副太守ドフ・コーチンに、砂漠都市ゴザートの太守ノトダアヌンと、運輸座、水油脂座、水座の大役人たちを粛清し、ギヴィーザン連座組合の幹部サザレリア、ドドディア、ソレアンを殺し、大幹部アマリとロクアの逮捕に成功している。その流れで、【瘴毒の黒手】、【天簫傘】、【八百比丘尼】、【阿毘】、通称三紗理連盟の闇ギルド連合と『犀湖十侠魔人』の魔人たちを追跡し、そいつらと手を組んでいたと思っていた血骨仙女の集団とも戦っていた」
「我らはブロッカなど『犀湖十侠魔人』たちと取り引きしたことは何度もあるが、仲間ではない、【天簫傘】、【八百比丘尼】、【阿毘】、通称三紗理連盟と、暁の墓碑の密使は、敵だ」
「……それはなんとでも言えるが……」
「なんだと……」
と、ジスリとナリアは睨み合う。
太陽がぎらつく空の下、二人の間に血と砂塵を運ぶ熱風が渦を巻く。
彼女たちの殺氣がぶつかり合い、大氣が張り詰めて歪むのを感じた。
骸骨の残骸が風に鳴る音だけが、この場の異様な静寂を際立たせる。
悪いがあまり時間は掛けられない。そこで、
「……共通の敵の、暁の墓碑の密使を倒すのが先だろう? そして、共に組まないのであれば、俺たちとも争うことになりかねないことを理解してほしいが、どうだろうか」
二人は俺を見て、睨みを止めた。
「「……」」
先程見せていた物を出すか。
アイテムボックスから、静かにガラス容器を取り出す。
血色の五芒星を宿した眼球が、主の帰還を悟ったかのように、確かな熱を帯びていた。ジスリへと容器を差し出した。
「……何の真似だ」
ジスリの声は、砂のように乾いている。だが、差し出されたガラス容器を前に彼女の呼吸がわずかに乱れたのが分かった。
憎悪と復讐心だけで塗り固められているような、その表情が揺らいでいるように思える。
「にゃ~」
「黒猫……」
「勘ぐらんでいい、素直な心だ。俺とサシで戦ったのなら分かるだろう?」
「ふっ、たしかに、あの槍武術は本物だ……そして、素直な、か……」
その隻眼と表情筋に、驚き、疑念、あり得ないと打ち消すような、わずかな期待の色が、激しく明滅しているのが見て取れた。
そんなジスリを見て、
「……これは取引ではない。長い年月を超えて、今この場所で巡り合った運命に対する誠意。だが、元々はジスリの物だ。そして、ジスリから奪った張本人の冒険者のことは何も知らないが、それは、ペルネーテの地下オークションで直に大金を払い手に入れた。俺の眷属のマルアやキスマリに移植するのもいいかもな、とは、考えていたが、しなかったんだ」
言葉を切り、隣で息を呑むマルアを一瞥する。
「そして、マルアの母の名は、フーディという。血骨仙女たちの街の【突岩の街フーディ】と、神界から堕ちた仙女たちと、関係があるかもと考えている。だとしたら尚更、その片目は本人のジスリが持っているべき物だ」
俺の言葉に、ジスリの肩がわずかに震えた。
マルアとフーディの名。
その二つが、彼女の心の奥深くで眠っていた何かを揺り動かしたのは間違いない。彼女は震える手をゆっくりと伸ばし、まるで壊れ物に触れるかのように、そのガラス容器を受け取った。
「……なぜだ。これを切り札にすれば、私を意のままに動かせたはず……」
「言ったはずだ。俺たちは対等な立場で共通の敵を討つ。そこに、貸し借りや駆け引きは不要」
と、静かに告げ、彼女の隻眼を真っ直ぐに見つめた。
ジスリは、しばらくの間、ただ黙って手のひらの眼球と俺の顔を交互に見つめていた。やがて、彼女はその容器を懐にしまい、ふっと短く息を吐いた。
その表情から、先程までの刺々しい殺氣は消え失せた。
「……借りは、作る主義ではない。だが、この借りは……奴の首で返す」
その一言に、彼女の覚悟のすべてが込められていた。
和解の言葉はない。だが、それで十分だった。
俺たちのやり取りを、ナリアは見ていたが、そのナリアとジスリに、
「では、今しがた、同盟、三者同盟と成った。ご両人よろしいか?」
ジスリとナリアは頷く。
机に乗った黒猫が、「にゃおぉ~」と鳴いた。
その黒猫の鼻に人差し指の腹を置くように当ててから、
「よっし! 相棒よ、呉越同舟の誓いは成ったな!」
「ンン~」
相棒は人差し指に頬を寄せて、頭部を前後に動かして、擦ってきた。
その黒猫の頭部を撫でてから片耳を引っ張るように撫でてていく。
すると、ナリアは、自軍の騎士たちへと向き直り、
「全軍、聴け!」
凛とした声が響く。
騎士たちの視線が、一斉に指揮官へと集まった。
その中には、魔人や仙妖魔と共闘することへの戸惑いや不信の色が浮かんでいる者も少なくない。
「我らの大義は、このゴルディクス大砂漠に巣食う腐敗を正し、民に安寧をもたらすことにある。その最大の障害であったブロッカ軍は、今、彼ら光魔ルシヴァルの手によって壊滅した。これは事実だ」
ナリアは一度言葉を切り、地下要塞を指差す。
「だが、元凶はまだ息づいている。暁の墓碑の密使、ゲ・バイ・ユグ・コー。奴こそが、この地の民を苦しめ、我らの神の教えを冒涜する諸悪の根源だ!」
彼女の声に、騎士たちの瞳に闘志の光が戻り始める。
「私は、この戦いを終わらせるために、一時、彼らと手を結ぶことを決断した。これは友好ではない。ただ、神の敵を討つという、一点においてのみ利害が一致したに過ぎぬ! 我らは神の剣! いかなる手段を用いようと、大義を果たすのみ! 異論のある者は、今すぐこの場を去れ!」
ナリアの力強い宣言に、騎士団の中から一人の屈強な騎士が進み出た。
「……いいえ、ナリア様。我らは、貴女が信じる正義と共にあらんことを誓った身。貴女の剣が指し示す先に、我らの敵はいます。全軍、ナリア様と共に戦います!」
「「「我らも!」」」
騎士たちの迷いは消え、その声は一つの強固な意志となって大地を震わせた。
ナリアは満足げに頷くと、再び俺たちの方へと向き直る。
その瞳には、もはや一片の迷いもなかった。
「シュウヤ殿。我ら【アーメフ教主国軍】も、地下要塞への総攻撃に参加する。具体的な作戦を聞かせてもらおう」
ジスリも、静かに、しかし力強く頷く。
よし、交渉は成った。
種族も大義も背負う過去も異なる三つの勢力だが、共通の敵がいれば同盟を組める。
「話は決まったな」
俺は場の空気を切り替えるように、パン、と一度手を叩いた。
「ならば、休んでいる暇はない。敵は我々の介入で混乱しているはずだ。この好機を逃さず、一氣に地下要塞を叩く。具体的な作戦を詰めよう」
その言葉に、ナリアが指揮官の顔に戻り、鋭い視線で応じる。
「よかろう。だが、どこで話し合う? このような開けた場所では、敵の斥候や遠見の魔術によって、こちらの様子は筒抜けであろう」
「それは百も承知だが、こちらもそれなりの戦術は展開できる。アクセルマギナとガードナーマリオルスこちらに」
少し離れた位置から要塞に向け魔銃を構えていたアクセルマギナがこちらに振り向いて、
「はい」
その足元にいたガードナーマリオルスが、
「ピピピッ」
と返事をして、球体の胴体をキュルキュル音を響かせながら回して、こちらに寄ってくる。
魔機械のペット的なガードナーマリオルスは結構可愛い。
そのガードナーマリオルスの体から片眼鏡のようなカメラアイが伸びて、そこから放たれた光が、宙空に、精巧な立体地図を投影した。
ドローンが先ほど偵察した、地下要塞を含むこの一帯の完全な地形図だ。
「なっ……これは……」
ナリアが、そのあまりにも高度な魔導技術に息を呑む。
ジスリもまた、驚きに目を見開いていた。
「これを使えば、ここで作戦会議が可能。ナリア指揮官、まずは貴女の軍の戦力と、地上戦における見解を聞きたい」
と、促すと、ナリアはすぐに氣を取り直し、戦術家の顔つきで地図を指し示した。
「我ら第三聖典騎士団の兵力は約八百。正面からの突撃は無謀だ。敵は地下にいるとはいえ、地上にも相当数の防衛部隊を残している。我が軍は陽動に徹し、要塞の正面ゲートへ総攻撃をかけるフリをして、敵の地上戦力を可能な限り引きつけよう。だが、それだけでは奴らの注意を完全に地上へ釘付けにはできまい」
「……そのための、我らとワームたちだ」
今まで沈黙を守っていたジスリが低い声で続けた。
彼女の視線が地図に描かれた要塞の側面、岩盤が剥き出しになった一角で止まる。
「砂に埋まっているが、古い排水路残っていれば、そこから侵入できるかも知れぬ」
ジスリの言葉の意図を察し、ニヤリと笑った。
「……ワームたちなら、その砂を吸うことが可能。新たな突入口を創り出せる、か」
「うむ。ワームたちが地下から陽動を仕掛け、奴らの足元を脅かす。その混乱に乗じて、我ら精鋭が排水路から内部へ侵入する」
ナリアの地上での陽動。
ワームによる地下からの陽動。そして、ジスリが指し示した隠された侵入経路。
三つの情報が組み合わさり、勝利への道筋が鮮明に見えてきた。
「その作戦で行こうか」
立体地図に三つの進軍ルートを描き込み、最終確認を行う。
「ナリア指揮官は、予定通り地上部隊の陽動を。ジスリ、あんたの血骨仙女たちは、ワームたちが創り出した突入口の確保と、後続の敵の分断を頼む」
「承知した」
「分かった」
二人の力強い返事を聞き背後で待機していた仲間たちへと向き直った。
ヴィーネ、ユイ、キサラ、レベッカ、エヴァ、ハンカイ……その誰もが、覚悟を決めた鋼のような瞳でこちらを見つめている。
「そして、敵の中枢……ゲ・バイ・ユグ・コーの首は、俺たち光魔ルシヴァルが獲る」
その宣言に、仲間たちが力強く頷く。
三人のリーダーは、それぞれの部隊へと向き直った。
「第三聖典騎士団、総員! これより、神敵を討つための聖戦を開始する! 神の御名の下に、勝利を掴め!」
ナリアの号令に、騎士たちが鬨の声を上げる。
「同胞たちよ! 幾星霜にわたる恨み、今こそ晴らす時だ! 奴らの血で、我らの道を浄めよ!」
ジスリの絶叫に、血骨仙女たちが雄叫びで応える。
静かに眷族と仲間たちと巨大ガヴェルデンたちに、
「――行くぞ、巨大ガヴェルデンとワームたち、ジスリたちと共に、あの砂を吸引してくれ」
と伝えた。
「ウォォォン――」
大地が再び震え始める。
巨大ガヴェルデンたちが、ジスリたちが指し示した岩盤へと向かう。
その巨体で大地を掘削し始めるように砂を吸引していく。
ナリアの騎士団が、鬨の声を上げながら要塞正面へと進軍を開始する。
俺と、ジスリ、そして選抜されたそれぞれの精鋭たちは、これから開かれるであろう闇への入り口を、静かに、しかし燃えるような闘志を瞳に宿して見据えていた。
巨大ガヴェルデンが砂を吸引し始めると、地面が振動し、足元から細かな砂粒が舞い上がった。
熱風が頬を撫で、血と鉄の匂いが鼻腔を刺激する。
「にゃご」
相棒のロロが俺の足元で低く鳴いた。
戦闘準備の合図だ。黒い毛並みがわずかに逆立ち、瞳には紅蓮の光が宿り始めている。
「ん、シュウヤ、地下から瘴氣の濃度が上昇している」
エヴァが淡々と報告する。
彼女の言葉通り巨大ガヴェルデンが開けた穴から、紫色の瘴氣がゆらゆらと立ち上り始めていた。
「ご主人様、先遣隊を送りますか?」
ヴィーネが翡翠の蛇弓を手に、すでに戦闘態勢に入っている。
「俺とロロで先行する。皆は後続で頼む」
右手に魔槍杖バルドークを召喚し、<勁力槍>と<握吸>を発動。
<血魔力>を込めると、紅矛から血の炎のような魔力が噴出した。
「ウォォォォン!」
巨大ガヴェルデンの咆哮と共に、ついに地下への入り口が完全に開いた。
古い石造りの排水路が姿を現し、その奥からは腐臭と瘴氣が噴き出してくる。
ジスリが砂漠仙曼槍を構えながら俺に視線を向けた。
「……先に行くぞ」
彼女の言葉は挑戦的だったが、その隻眼には戦士としての敬意が宿っていた。懐にしまった眼球の重みを感じているのだろう。
「あぁ、共に行こう」
魔槍杖バルドークを肩に担ぎ、排水路へと駆け出した。
ロロが黒豹の姿となり、横を疾走する。
「ガルルゥ!」
排水路の入り口に差し掛かった瞬間、内部から骸骨騎士の一団が溢れ出してきた。
左手に〝魔導星槍〟を召喚し、<勁力槍>と<握吸>を発動。
そのまま<投擲>――魔導星槍を投げ放つ――。
<魔導拡束穿>が発動し、銀色の魔線が扇状に広がって骸骨騎士たちを貫いていく。
「にゃごぉぉ!」
相棒が跳躍し、紅蓮の炎を吐きながら残った敵を焼き払った。
「さすがだな」
ジスリが感嘆の声を漏らしながら、俺たちに続いて排水路へと突入していく。
薄暗い通路の中、壁や床に嵌まっていた魔道具により瘴氣は濃度を増していた。
それらを破壊しながら進む。
壁には古代の文字が刻まれており、暁の帝国の遺物であることを物語っていた。
「地下には暁の帝国の遺跡があったということですね。そして、この間の、神殿の最奥で見つけた壮大な壁画とは異なりますが壁画があります」
ヴィーネの言葉に頷く。
「ん、暁の古文石を嵌めた時のような第一世代の宇宙船があるかも?」
「はい、遊星ミホザのミホザ星人が、残した第一世代の可能性もありますよ」
「でも、ハーミットは来る氣配はないわ」
レベッカたちの会話に頷いて、
「あぁ、さすがに、ミホザ星人やハティア・バーミリオン魔導生命体の第一世代の知的生命体の文化遺産ではないだろう。暁の帝国の古いからな、その名残の地下遺跡を元に、暁の墓碑の密使ゲ・バイ・ユグ・コーが要塞化したんだろう」
「ん」
「はい」
「――マイロード、後方から敵の増援です」
「出る、あの敵はわたしたちが潰すから、シュウヤたちは先に行って」
カルードとユイの声が響く。
ユイが双剣を振るい、追撃してきた黒装束の兵士たちと交戦していく。
「了解、任せた」
前を向き直り、奥へと進む。
通路は次第に広がり、やがて巨大な地下空間へと繋がった。
そこには――
「ようこそ、愚かな侵入者たちよ」
空間そのものが震えるような、禍々しい声が響き渡った。
地下だというのに天から降ってくるかのような威圧感だ。
空氣が鉛のように重くなり、渦巻く瘴気が声に呼応して蠢く。
肌を刺す邪悪なプレッシャーに、誰もが息を呑んだ。
巨大な祭壇の上に、骸骨の巨人が座していた。
豪華な衣装を纏い、双蛇神の幻影を背負うその姿は、まさに暁の墓碑の密使ゲ・バイ・ユグ・コーだった。
「ここが貴様らの墓場となろう」
ゲ・バイ・ユグ・コーが立ち上がると、周囲から無数の魔造生物と骸骨騎士が現れる。
その数は千を超えているだろうか。
キサラが、
「数で圧倒するつもりのようですが――」
と、キサラが跳躍――。
<光魔鬼武・鳴華>を発動させ、<筆頭従者長>としての力を示すように膨大な<血魔力>をダモアヌンの魔槍に込めて、<投擲>――。
<補陀落>か。
ダモアヌンの魔槍は、一条の破壊の光となって敵陣を蹂躙した。悲鳴を上げる間もなく光に飲み込まれ、消し炭と化していく魔造生物と骸骨騎士たち。
一瞬の後、敵の密集していた中央に、まるで道を開くかのように巨大な風穴が穿たれていた。
その先で魔槍は洞窟の岩盤を融解させながら、ようやくその勢いを止める。
静まり返った空間で、生き残った敵兵たちが、あまりの破壊を前に呆然と立ち尽くしていた。
続きは明日、HJノベルス様から書籍「槍使いと、黒猫。」1巻~20巻発売中
コミック版1巻~3巻発売中。
 




