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槍使いと、黒猫。  作者: 健康


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1907/2028

千九百六話 砂塵に舞う二槍と隻眼が結ぶもの


 地を揺るがす着地。砂塵の中から現れた巨大ガヴェルデンのワームたちが、左右の砂を大波のように巻き上げながら先陣を切った。

 海からマッコウクジラが飛び出るように巨体を現し、


「「ウォォォォォン――」」

「「ウォォォン――」」


 咆哮を戦場に轟かせながら、ブロッカ軍の側面へと突撃した。大地が震え、空氣が悲鳴を上げた――大量の砂が大波となって兵士たちを襲い、その命ごと呑み込んでいく。波が通り過ぎた後には、巨大な砂丘と、兵士たちの墓標であるかのような無数の窪地だけが残されていた。


 断末魔すらあげられぬままか。

 広範囲にわたる戦場では、苦しんでいるワームたちが敵に囲まれている箇所が数カ所あるが、巨大ガヴェルデンたちの砂の攻撃は、味方である彼らを巧みに避けていた。


 三つ巴の戦場の一角が崩れたように見える。

 しかし、【天簫傘】、【八百比丘尼】、【阿毘】、通称三紗理連盟の黒装束の兵士と術師たちの数は多い。


 そして、禍々しい魔力を体から放っているのが大柄の魔人たち『犀湖十侠魔人』だろう。


 各自、双蛇神と骸骨の幻影を発し、片腕を魔剣に変化させている。

 魔法の膜を発生させて、砂の波から守っている多数の部隊も存在している。

 【アーメフ教主国】の軍隊と戦う黒装束の部隊は様々。魔獣に騎乗している騎兵隊もいる。

 射手と魔術師も多く、要塞を守りつつ〝暁の砂骨山〟に陣取る血骨仙女たちとも戦っている。

 

 その一角を空から崩すようにルマルディとアルルカンの把神書が、それらの部隊へと空から急襲していく。多数の火球と雷球と魔矢の他、大きい魔銃を持つ黒装束の部隊から、激しい銃撃も受けていたが、ルマルディたちは弾丸などの遠距離攻撃を避けつつ、


「空から牽制を続けます――」

「はい――」

「おうよ――」


 ルマルディの言葉に、キュベラスとアルルカンの把神書が吼える。

 ルマルディは<魔霊術アルルカン>を使用したようだ。


 <血魔力>の他に虹色の魔力を体から噴出させ、加速したルマルディとアルルカンの把神書はアーメフ教主国の部隊と戦っていた炎の魔剣を持った魔術師と駱駝型の魔獣に乗っている部隊に「<刹把鮫・血喰>――」を繰り出す。


 アルルカンの把神書は、頁が捲られ、そこから無数の魔線が宙空へと放射状に迸り、それが大きな鮫の<刹把鮫・血喰>に変化を遂げ、口を拡げながら突進し「ガギャァァァァ」と咆哮も発し、炎の魔剣を持った魔術師たちと衝突、喰らい倒していくと、魔銃持ちの人族たちにも突入し砂丘を抉る。

 大きな鮫の<刹把鮫・血喰>と衝突した敵の上半身は、巨大な鮫に喰われたように歯形を残し、血飛沫を発しながら砂漠を血に染めていた。


 <刹把鮫・血喰>は地面とも衝突し、爆ぜた。

 衝撃波を周囲に発生させる。


 キュベラスは<愚王・魔加速>を使う。

 桃色のリスのケニィが変化している魔法の衣を煌めかせ、一気に加速して高速飛翔し、飛び道具を避けては、斜め下へと急降下。

 魔杖と鋼の柄巻から生えた蒼いエネルギー刃で黒装束の兵士を斬り刻む。

 砂塵を起こす。

 上昇し、魔矢と魔弾を避ける。

 その飛び道具を放った射手と魔術師に向け両手首の<鎖の因子>から<鎖>を射出した。伸びた<鎖>のピュアドロップの先端が、二人の射手と魔術師の眉間を捉えヘッドショット。


 キュベラスは<魔晶ノ裏鬼門>を使う。

 黒い水晶の欠片を周囲に撒くように出現させる。

 と、それらの黒い水晶の欠片が、黒い魔法の盾に変化し、無数の遠距離攻撃を防いでいた。


「おい、あの女、魔人か!?」

「え!?」

「げぇ、まさか!?」


 『犀湖十侠魔人』の何人かは、キュベラスを知っているようだ。そういえば、彼女はゴルディクス大砂漠でキサラたち黒魔女教団と戦った経験があるんだったか。


 そのキュベラスは<魔晶力ノ礫>と<魔血晶ノ礫>を繰り出す。無数の魔宝石の欠片と<血魔力>を帯びた宝石の欠片は、無数の刃となって、黒装束の敵たちに降り注ぐ。シャナとワームたちを援護していた。


 そして、ルマルディとアルルカンの把神書の攻撃に合わせ、魔人たちにも斬り込む。

 魔人と魔剣師と数合打ち合いながら横に移動し、黒装束の部隊に突入し、魔杖の魔刃と鋼の柄巻のエネルギー刃を振るい回している。

 一刀、二刀と、振るい抜いて黒装束の兵士を真横に切断。

 魔杖を真横に構えた魔人キュベラスは渋い。

 彼女の体が前にブレるまま前進、朱色の蒸気のような魔力を発した刹那――。

 大柄の魔人へと袈裟懸けを仕掛けた――。

 魔杖の赤い魔刃を斜めに振り下ろし、大柄魔人の頭部をぶった斬り、そのまま逆袈裟斬りを繰り出し、大柄の人型魔族の胸から腹まで両断し倒した。


 次の魔術師には砂丘を滑りながらの袈裟掛けで、魔術師の胸を斜めに斬り伏せていた。


 皆の活躍もあるが、まだまだ敵は多い。

 最低でも数千はいるか。

 そして、砂塵の骨瀑布と地続きの地形を活かすような地下階段とコンクリートと漆黒の鋼の櫓塔を擁した要塞はかなり頑丈そうだ。

 あの地下に続く要塞の中に巨人の骸骨系の魔術師、暁の墓碑の密使ゲ・バイ・ユグ・コーがいる。


 血骨仙女たちの暁の砂骨山と【突岩の街フーディ】は目と鼻の先か。だからこそのこの争いかな。


 すると、巨大ガヴェルデンの音波に呼応したように苦しんでいたワームたちが希望の鳴き声を上げ始めた。

 <魔声霊道>で囚われ苦しんでいるワームたちの、一部が地下にいることを把握。地上にいるのは見えている。


 <血道第三・開門>――<血液加速>を発動。

 右手に魔導星槍を召喚。

 左手の<鎖の因子>から<鎖>を射出し、最も近い【瘴毒の黒手】の術師の頭部を<鎖>で貫いた。


「ウォォォォォン――」


 またも巨大ガヴェルデンの咆哮が響く。

 蕾から花開いたように広がった口だった部位が四方に広がって、多数の黒装束の兵士たちを潰していた。


「俺もやるぜぇ――」


 闇鯨ロターゼの声も戦場に轟くと、巨体を突っ込ませて要塞の一部を破壊。三紗理連盟の黒装束の兵士と術者たちを次々と潰していった。

「にゃごぉぉ!」


 黒虎(ロロ)が俺の横を駆け抜け、瘴気を放つ術師たちの群れに突っ込み、触手から伸びた骨剣が、黒いローブの術師たちを次々と切り裂いていく。


「左の敵はわたしが――」

「閣下、右はわたしが」

「マイロード、正面の敵はお任せを」

「左は俺も行くぜ――」

「おう」

「にゃご」


 ユイとカルードとヘルメとハンカイに呼応するように砂地を駆けた。

 相棒とマルアも、俺の背後から付いてくる。

 左手に〝大地竜槍テラブレイカー〟を召喚し、<握吸>と<勁力槍>を発動、<血魔力>も込めて、握りを強めながら右手の魔導星槍を遠目の黒装束と大柄の魔人に目掛け<投擲>し、<魔導拡束穿>を繰り出した。


 魔導星槍から銀色のビーム状の魔線の群れが迸る。

 魔線は宙空で弧を描き、直進、黒装束の兵士の得物を溶かし、体を貫いて、背後の、三人の射手と五人の魔術師の頭部と体を穿つと、砂丘と要塞の一部壁をも貫き、無数の砂塵と破片が散った。


 そして、<投擲>していた魔導星槍は大柄の魔人らしき頭部を穿ち、砂地に突き刺さって爆ぜ、砂地を抉るように大量の砂塵がザザッと舞った。


 同時に左にいた魔剣師との間合いを詰めながら――。

 敵兵を薙ぎ払い、飛来し戻ってきた魔導星槍を右手に掴み、<月光の導き>を発動、一氣に加速し、魔剣師との間合いを槍圏内にした刹那――。


 左足の踏み込みから左腕ごと槍と化すように大地竜槍テラブレイカーを突き出す。


 <断罪ノ血穿(ルグナド・スピアー)>を繰り出した。


 大地竜槍テラブレイカーから吸血神ルグナド様の幻影が出現し、穂先からガイアヴァストの咆哮音と血の光芒が広がると、黒装束の魔剣師の腹を穿つ。

 魔剣師は吹き飛びながら四散する。


 マルアは右前で躍るような機動から魔矢を避け、魔剣師に近づき、デュラートの秘剣を下から黒装束の魔剣師へと振るう。


「<陰・鳴秘>――」


 長い黒髪から音楽が鳴る。

 デュラートの秘剣の逆袈裟が、魔剣師の腹に決まり、斜めに両断され、魔剣師の肉体は二つに分かれて倒れていく。


 そのマルアは側転から前転、宙空で、デュラートの秘剣を捻り回すように振るい、次の射手の首を刎ねた。

 その、マルアのワルツの剣術に合わせるように、マルアの着地際に集まった魔剣師たちに、アンプロンプチュで合わせるように、武器を血魔剣とムラサメブレード・改に変化させ――。

 <握吸>を発動させ<血魔力>を握り手から柄巻に通しながら<蒼宇魚剣・嚥下>を繰り出す。


 幻影の蒼い巨大魚が鮮明に浮かび上がる。

 血魔剣が深紅の軌跡を、ムラサメブレード・改が青緑の光跡を描き、巨大な顎が獲物を呑み込むように上下から、魔剣師たちの頭部から胸元を斬りつけた。

 二つの刃が交差し、不協和音が響くと、魔剣師たちの上半身は弾け飛ぶように散る。

 

 更に前に出た。

 マルアの背に己の背を合わせ、相対した槍使いの槍をムラサメブレード・改で弾き、前に出た血魔剣の<焔牙>の突きで、槍使いの腰元を突く。

 そして、マルアの背に背を当てるように戻し、両手の武器を消し、マルアの機動に促されるまま、「ふふ、シュウヤ様――」とマルアの黒髪が体に絡み付いて、愛の意味を感じるワルツのリズムに乗るように挙動を合わせ――マルアが持つデュラートの秘剣を握る。

 二人で<陰・鳴秘>を同時に使う、デュラートの秘剣を振るう――デュラートの秘剣から黒髪色の音波の剣筋が幾重にも飛翔。周囲の魔剣師たちを薙ぎ払った。

 背を合わせたマルアは、


「デュラート・シュウヤ様、あそこの血骨仙女! かつての同胞と同じような仙骨の嘆きを感じます――」


 マルアはそう言いながら己の黒髪を伸ばす。

 デュラートの秘剣の柄からも、大量の黒髪を伸ばして、俺とハンカイとユイとカルードを守るように周囲に展開し、飛来した魔矢と、魔弾を防ぐ。

 マルアが指摘した魔槍使いは黒装束の槍使いと射手の攻撃を往なし、前進、<魔雷ノ風穿>のようなスキルで、立て続けに魔剣師と槍使いと射手を倒している。


「あぁ、あの魔槍使いは強い」


 すると、その血骨仙女がコンマ数秒動きを止めた。

 鬼神の如き戦いぶりの中に生まれた、ほんのわずかな硬直。彼女の残った左目が、驚愕に見開かれているのが分かった。すぐに殺氣を俺たちに寄越す。


 戦場に対する威嚇に思えた。

 ジスリが率いる血骨仙女の一団も、相対相手を倒すと、一斉に俺たちを睨み付けてきた。

 

「……」

「「……」」


 今は感傷に浸る時間はない。

 俺たちの前に、ブロッカ軍の精鋭たちが壁となって立ちはだかる。


「行くぞ!」

「「はい」」

「にゃご」

「おう」


 武器を魔導星槍に変化させ、<投擲>の<魔導拡束穿>――。

 ビーム状の魔線で、複数の黒装束の兵士たち穿ち抜く。

 直進した魔導星槍も魔法の盾と射手たちを穿ち抜いてから戻ってきた。


 マルアの黒髪が、無数の黒い槍となって敵陣へと殺到する。<光魔・仙妖黒髪秘剣術>。その一本一本が、敵兵の鎧を紙のように貫き、その命を摘み取っていく。


 その間に囚われたワームたちへと意識を向けた。

 <魔声霊道>を発動させ、彼らの魂へと直接語りかける。


『――苦しいだろう。だが、もう案ずるな! 我らが来た! その怒りと悲しみの牙を、お前たちを縛る者どもへと向けろ!』


 魂の叫びに、ワームたちが動きを止め、俺たちを見た。

 瘴気に濁っていた彼らの瞳に理性の光が戻る。

 一斉に反転したワームたちは、これまで自分たちを苦しめてきた【瘴毒の黒手】の術師たちへと、その怒りの牙を剥いた。そして、シャナの<血ノ鳴魔声(ブラッド・ハヴァオス)>も響き渡る。


「なっ、馬鹿な! 支配呪文が解かれただと!?」


 術師たちの悲鳴が響き渡る。

 内側からの反乱により、ブロッカ軍の陣形は完全に崩壊した。戦況は、完全にこちらに傾いた。


 血骨仙女が、ユイとカルードに突撃を仕掛けたから、ヴィーネとキサラに「ヴィーネ、キサラ、皆を頼む」と言いながら眷族と仲間たちに後方を任せ――。


 血骨仙女との間合いを詰めた。

 ユイとカルードと数合打ち合って少し後退した血骨仙女は、俺の意図を察したように砂丘を駆けた。

 そして、部下に指示を出し、単身でこちらへと向かってきた。


 と左から教主国軍も動く。好機を逃さないか。

 立て直した陣形でブロッカ軍の残党掃討を開始している。彼女もまた、優れた指揮官だ。


 血骨仙女は、


「黒髪の槍使い、お前が<血魔力>を扱う集団のリーダーか!」


 と叫びながら魔槍を突き出してきた。

 それを魔導星槍で受け止める。

 結構重く衝撃波が発生、足元の砂塵が舞う。


「ほぉ、私の<砂仙風穿>を防ぐとはやるねぇ――」


 血骨仙女はそう言いながら素早く魔槍を引き、俺の足元を掬うように払ってきた。

 それを見ながら退き、避けると、血骨仙女は加速しながら前進し、連続的に<刺突>系の突きを繰り出してくる。左手に神槍ガンジスを召喚し、右手の魔導星槍と左手の神槍ガンジスで受けに回った。


 血骨仙女が持つ魔槍は噂に聞く砂漠仙曼槍か?

 反撃の神槍ガンジスの<龍豪閃>に、魔導星槍の下段の<戦神流・厳穿>を繰り出すが、魔槍を上下に動かし、防がれる。

 血骨仙女は黒髪を操作しながら右から左に変幻自在に動くが、<魔技三種・理>を意識し、<隻眼修羅>を使い読むように、その魔槍の攻撃を往なし続けた。


 世界がスローモーションのように見え始める。血骨仙女の動き、魔力の流れ、そして――彼女の失われた左目の眼窩から漏れ出る、かすかな魔力の残滓。


 間違いない。俺が持つ眼球の持ち主だ。

 すべての武器を消した。

 

「<武器召喚>。否、アイテムボックスか……」

「あぁ、そうだ」


 血骨仙女は警戒し、少し動きを止める。

 そこに黒装束の兵士たちと瘴気を操る術師たちが寄ってきた。


「血骨仙女ごと、あの男もやれぇ」

「「「おう」」」

「「「おおう」」」


 そいつらを見ながら<刹那ノ極意>を意識し、右手に堕天の十字架を<投擲>――。

 杭刃が空気を切り裂きながら、瘴気を操る術師の群れを貫いていく。

 血継武装魔霊ペルソナの血翼が展開し、更に多くの敵を両断した。

 <砂状操作>で砂を巻き上げ、視界を遮りながら移動し、<握吸>で<投擲>した堕天の十字架を右手に戻し、消す。


 次の瞬間、俺の前に巨大な魔剣を振り下ろす『犀湖十侠魔人』の一人が現れ、


「何者だ、貴様!」


 と聞いてきた。

 答える代わりに、<青龍ノ纏>を発動。

 上半身が濃い青に染まり、左手に青炎槍カラカンを召喚。<青龍蒼雷腕>の力を槍に乗せ、<刃翔刹穿・刹>を繰り出した。


 魔人の防御を貫き、その胸を青い炎で焼き尽くす。

 だが、倒れた魔人の背後から、更に多くの敵が押し寄せてくる。ブロッカ率いる連合軍の物量は凄まじい。

 <夜行ノ槍業・召喚・八咫角>で防御壁を作りながら、右手に魔槍杖バルドークを召喚。


 二槍流で敵の波を切り裂いていく。


 その時、頭上から鋭い風切り音が響いた。

 血骨仙女が、「お前、『犀湖十侠魔人』を倒すとは、強い!」と言いながら俺に向かって跳躍してきた。

 彼女の持つ〝砂漠仙曼槍〟が、まるで砂嵐そのものを纏いながら振り下ろされる。


 <魔闘血蛍>と<武龍紫月>を同時発動。

 時間の流れが更に遅くなり、血骨仙女の槍の軌道が手に取るように見えた。

 右腕を上げ、魔槍杖バルドークで受け止めた。

 ――凄まじい衝撃が腕を駆け、全身を揺さぶる。甲高い金属音と共に砂地が爆発的に吹き飛び、クレーターが形成される。足元が砂に埋まるほどの衝撃だった。


「ほう……」


 血骨仙女の唯一の目が、興味深そうに俺を見つめていた。


「その槍捌き、ただ者ではないな」


 その声は、戦場の喧騒の中でも不思議なほど澄んでいた。血骨仙女の砂漠仙曼槍が一閃。

 それを魔槍杖バルドークで防ぐ。

 激突した余波で、周囲の兵士たちがまた吹き飛ばされていく。


「ハッ、見事」


 ジスリが槍を引き、素早く間合いを取り直す。

 だが、その隙を『犀湖十侠魔人』の別の魔人が見逃さなかった。


「邪魔をするな!」


 双剣を振るう魔人が横から斬りかかってくる。

 風槍流『右風崩し』の構えを取った。体を右に傾けながら魔槍杖バルドークを斜めに構え、魔人の双剣の軌道を読む。


 一撃目を柄で受け流し、二撃目は体を沈めて回避。

 そのまま螺旋を描くように魔槍杖バルドークを振るい、魔人の脇腹を紅斧刃で切り裂いた。


「ぐあっ!」


 だが、魔人はタフだ。傷を負いながらも後退し、仲間を呼ぶ。


「こいつは只者じゃない! 囲め!」


 三人の『犀湖十侠魔人』が同時に襲いかかってきた。

 戦斧を持つ巨漢、鞭剣を操る女魔人、そして炎を纏った拳闘士。


 風槍流『中段受け』――魔槍杖バルドークを水平に構え、戦斧の一撃を受け止める。衝撃を利用して後方に跳び、宙空で身を捻りながら青炎槍カラカンを左手に召喚。


 二槍流の構えで着地すると同時に鞭剣が俺を絡め取ろうと伸びてきた。

 首裏に魔槍杖バルドークの柄を通し、両手を自由にしながら風槍流『案山子通し』で回転。鞭剣を巻き取りつつ、遠心力を利用して青炎槍カラカンで<魔雷ノ風穿>女魔人の胸を貫いた。


「があぁ!」


 刹那、一人の魔人が俺の死角から魔剣を突き出す。

 それを魔槍杖バルドークの柄で受け止め<闘気玄装>を強めた。


「そこ――」


 背後から殺氣。振り返るより早く、魔槍杖バルドークを首裏に通して防御する。柄から伝わってくる衝撃と硬い感触。

 拳、ナックル系の連打か――。

 即座に体を独楽のように回転させる。風槍流『案山子通し』。柄に両手を添えたまま、その遠心力で拳の嵐を捌ききり、相手の懐へと滑り込んだ。

 相手はやはり拳、ナックル系――。

 拳闘士の右横に回り込み、魔槍杖バルドークの柄で殴りつけるように振り回し、打撃と紅斧刃を拳闘士に当て、相手の攻撃リズムを崩していく。

 刹那、すべての<魔闘術>系統を消す。

 俄に、拳闘士は前に出て、炎の拳を叩き込もうと踏み込んできた。

 その瞬間を狙うように<刹那ノ極意>を意識し――。

 <刃翔刹閃・刹>を発動。

 因果の隙間を突く斬撃が、拳闘士の首を一瞬で刎ねた。


「馬鹿な……」


 戦斧の巨漢が信じられないという顔で後退する。

 だが、休む暇はない。魔剣持ちが突いてきた。

 それを魔槍杖バルドークで弾く。


 血骨仙女が再び動いた。

 彼女の魔槍が、まるで生きているかのように変幻自在の軌道を描く。


 風槍流『右風崩し』から『中段受け』へと流れるように技を繋ぎ、血骨仙女の猛攻を凌ぐ。

 彼女の槍術は、まさに砂漠の風そのもの。予測不能で、それでいて自然の理に適っている。


 左手に青炎槍カラカンを召喚。

 血骨仙女の消えるような加速から、裏に回っての、魔槍の一閃と突きの連続攻撃に、首裏に、青炎槍カラカンの柄を通し防ぐ。そして、魔槍杖バルドークの柄で、血骨仙女の下段攻撃を紅斧刃で防ぐ。


 ガキィン!


 得物同士が激突し火花が散り、腕に痺れが走る。

 血骨仙女は左の腹を狙うフェイクから顎から首を狙う斬りを繰り出す。

 それを防ぎ、<刃翔刹閃・刹>を狙うが、中段受けで、火花を柄から散らしながら防いできた血骨仙女は後退した。


 血骨仙女は、笑みを浮かべ、


「……貴様の魔槍はどれほど……黒魔女教団なのか? しかし、なぜ、仙妖魔を連れている」


 と聞いてきた。

 

「あぁ、マルアを連れているのは深い理由がある」


 と答えると、他の奴らが、


「あの槍使い同士を潰せ」

「「おう」」


 <鎖の因子>から<鎖>を射出し、周囲に群がる【瘴毒の黒手】の術師たちを薙ぎ払う。


「デュラート・シュウヤ様!」


 マルアが俺の援護に入ろうとするが、別の『犀湖十侠魔人』がそれを阻む。


 風槍流『案山子通し』で回りながら、血骨仙女の突きを紙一重で回避。

 同時に青炎槍カラカンを血骨仙女の首を狙う<刃翔刹閃・刹>を繰り出した。


 だが、血骨仙女はそれすら見切っていた。

 魔槍の石突きで俺の斬撃を弾き、そのまま回転しながら俺の脇腹を狙ってくる。


 <月冴>と<紫月>の力で時間感覚を引き延ばし、辛うじて回避してから、


「血骨仙女よ」


 槍を交えながら、俺は口を開いた。


「その失われた左目について、話がある」

 ジスリの動きが一瞬止まった。

 その隻眼が鋭く俺を射抜く。


「貴様……何を知っている」

 だが、話し合う暇はなかった。


「死ねぇ!」


 横から『犀湖十侠魔人』の新たな魔人が襲いかかってくる。全身に呪符を巻き付けた魔術師型の魔人だ。

 <夜行ノ槍業・召喚・八咫角>の駒を押し出して、呪術攻撃を防ぐが、魔術師型は消えたように転移した。

 そこに、横から風槍流『中段受け』の構えで別の魔人の斬撃を受け流す。


 血骨仙女にも魔人が襲い掛かって、「邪魔だ」と苛立ったように魔槍を一閃。呪符の魔人が胴体を真っ二つにされて倒れた。


「互いに三紗理連盟と『犀湖十侠魔人』は敵だな」

「あぁ、お前もだ。そして、話の邪魔だからだ。それより、私の目について何を知っている」


 血骨仙女の声には、怒りと……かすかな期待が混じっていた。


「血骨仙女ジスリと男の槍使い! 二人纏めて、このゴルガス様が倒してくれる!」


 そのゴルガスが四つの武器を同時に振るってくる。

 大剣、戦槌、鎖鎌、そして魔法の杖。

 血骨仙女のジスリは、「あのゴルガスは中々の強者だ。任せたぞ――」


 と少し笑いながら後退し、黒装束の兵士を魔槍で薙ぎ払っている。あの得物が砂漠仙曼槍で間違いないか。


 と、ゴルガスが、「舐めるなよ――」と鎖鎌の刃を寄越す。

 <水月血闘法>を発動させ、それを見るように後退。

 そこに大剣、戦槌、魔法の杖の三方向からの同時攻撃が迫った。

 俄に<血鎖の饗宴>を発動。

 全身から血の鎖が射出され、ゴルガスの武器を絡め取る。


「小癪な!」


 ゴルガスが魔力を爆発させ、俺の血鎖を引き千切った。

 その隙に、俺は魔槍杖バルドークを<投擲>。

 だが、ゴルガスは戦槌でそれを弾き飛ばす。


「甘い!」

 <握吸>で魔槍杖バルドークを引き戻しながら、青炎槍カラカンで<血龍仙閃>を放つ。

 青い炎の斬撃がゴルガスの一本の腕を切り落とした。


「ぐあぁぁぁ」


 激昂したゴルガスが、痛がる声を発しながら、残る三本の腕で猛攻を仕掛けてくる。

 風槍流『右風崩し』の構えから、首裏に青炎槍カラカンの柄を通して防御。

 回転の勢いを利用して、<刃翔刹閃・刹>――

 因果の隙間を突く一閃が、ゴルガスの首を刎ねた。

 巨体が崩れ落ちる中、ジスリを見た。

 すべての武器を消し、左手に神槍ガンジスを召喚。

 右手に魔導星槍を召喚した。


「お前、ただの冒険者連合を率いている男ではないな――」


 と、血骨仙女は魔槍を突き出してきた。

 それを神槍ガンジスの螻蛄首で叩き落とし、魔導星槍で血骨仙女の胸元を狙う<魔雷ノ風穿>を繰り出すが、血骨仙女は黒髪を防御に回しながら強引に、魔槍で俺の腹を狙ってきた。右手の魔導星槍を消し、堕天の十字架を召喚、柄で腹への一撃を防いだ。

 神槍ガンジスで足元を狙う<牙衝>を連続的に繰り出し、魔力を通して、槍纓の蒼い刃を向けるが、その無数の連続攻撃をも余裕で魔槍で防いだ血骨仙女はまたも後退、<魔闘術>系統を強めながら、横を歩いた。


 途端に跳ねる血骨仙女は宙空から連続突きを繰り出す。

 それを神槍ガンジスと堕天の十字架で防いだ。

 血骨仙女は着地際も隙が無く、下段蹴りを繰り出し、<刃翔刹穿・刹>のような一撃を繰り出す。

 それを防ぐと、血骨仙女が、


「……槍使い、名を聞こうか……」


 やや興奮したような口調だった。その隻眼が、魂の奥底まで見透かすように射抜いてくる。これほどの相手との戦いは久しぶりだ。肌を焼くような殺氣の中、不思議と口角が上がるのを感じる。


「俺はシュウヤだ。そして、マルアは俺の眷族の一人。他も皆、眷族で仲間だ」

「眷族に、仲間だと? 仙妖魔は、仙骨一族の堕ちた姿だ。お前たちには、呪われた存在のはずだが……」

「俺は人族ではない、フラットで見ようか」

 

 俺の言葉に、ジスリの動きが一瞬鈍る。


「フラットだと……わけわからん言葉を……裏切りの魔女兵、【南部砂瞑会】と同じ類いではないのか」


 その隙を突くことはしない。

 笑顔を意識しつつ、求めるのは対話の道でアイムフレンドリーだ。

「少し話を聞いてくれ。名はジスリで合っているな?」

「あぁ、そうだ」


 頷いた。

 話し合いに移行できる、切り札が、俺の手にはある。

 一度距離を取り、アイテムボックスから、ガラス容器の血骨仙女の片眼球を取り出した。


「ジスリ、先程の続きだが、お前に見せたいものがある」


 血色の五芒星を宿した眼球が主の帰りを待っていたかのように静かに輝く。

 それを見たジスリの顔から、すべての表情が消え失せた。


「なぜ……お前が、それを……」


 彼女の声は、砂漠の風よりも乾いていた。

 ジスリの乾いた声が、混沌とした戦場に奇妙な静寂をもたらした。彼女の残った左目が、俺の手の中にあるガラス容器――その中に浮かぶ、血色の五芒星を宿した眼球に釘付けになっている。

 先程の鬼神の如き闘志は鳴りを潜めた。

 純粋に驚愕し、動揺している。

 失われた片目だから、当然か。


「……答える前に、まずは目の前の蝿を払うのが先だろうか、どうだろう」


 と聞いたが、


「ヒャハハハ! 痴話喧嘩の最中か、好都合だ!」


 甲高い嘲笑と共に戦場の指揮官ブロッカが動いた。

 彼の軍勢はワームたちの反乱と俺たちの介入で半壊状態だったが、この好機を逃す彼ではなかったのだろう。 ブロッカの全身から禍々しい紫の瘴気が噴き上がり、それは巨大な髑髏の形となって俺とジスリの二人を同時に呑み込もうと襲いかかってきた。


「――チッ!」


 ジスリが我に返り、〝砂漠仙曼槍〟を構え直す。だが、彼女の動きは先程までの神速を欠いていた。

 動揺が、その槍筋をわずかに鈍らせている。

 髑髏の瘴気が目前に迫る。その瞬間、俺はジスリの前に割り込むように一歩踏み出した。


「――お前の相手は俺だと言ったはずだ!」


 右手の堕天の十字架を振るい、<妙神・飛閃>――。

 ブロッカは、魔剣を盾に首元の一閃を防ぐ。


 堕天の十字架を魔導星槍に変化させ<血魔力>を送ると、ハティアが遺した星の力が、瘴気を祓う聖なる光となって溢れ出す。瘴気の髑髏が光に触れた瞬間、悲鳴のような音を立てて霧散していく。

 

「ぬお、なんだ!?」


 ブロッカが驚愕の声を上げる。


「ジスリ、合わせてもらう」

「……指図するな!」


 憎まれ口を叩きながらも、彼女の動きは完璧だった。

 瘴気をこじ開けた、そのわずかな隙間を縫うように、彼女の〝砂漠仙曼槍〟が突き込まれる。

 それは、砂の奔流そのものが一本の槍と化したかのような、凄まじい一撃だった。


 ブロッカは咄嗟に魔力の盾を展開するが、伝説の魔槍の前にはあまりに脆い。盾はガラスのように砕け散り、その巨体が大きく吹き飛ばされた。

 そこに他の魔人と黒装束の兵士たちが寄ってくる。


「デュラート・シュウヤ様!」


 マルアが、俺とジスリの間に割って入ろうとするブロッカの部下たちを、黒髪の津波で薙ぎ払ってくれた。


 彼女の仙妖魔としての力が、ジスリの仙骨の氣配に呼応するかのように、これまで以上の力を発揮していた。

 続いて、


「おう! 蹴散らせ、ハンカイ!」

「任せろォ!」


 ハンカイの雄叫びと共に、金剛樹の斧が大地を叩き割り、敵兵の集団を木っ端のように吹き飛ばした。上空からはヘルメの<ウラニリの流星雨>が降り注ぎ、精密な射撃で敵の術師を沈黙させる。中でもエヴァの念動刃は圧巻だ。<霊血導超念力>で操作された無数の刃が、【アーメフ教主国】の兵士を避け、黒装束の者だけをピンポイントで貫いていく。その超絶技巧に、敵だけでなく味方からも驚嘆の声が漏れていた。

 

 その一撃を皮切りに、戦場の景色が仲間たちの力で一気に塗り替えられていく。


 一角ではミスティが魔導砲をぶっ放し、轟音と共に敵陣と砂地の一部を抉り取る。

 その傍らでは魔導人形(ウォーガノフ)のゼクスが光り輝く剣と盾でシャナとワームを守護。かと思えば、即座に飛翔してユイたちの死角に回り込み、身を挺した動きで彼女たちへの攻撃を阻む。その動きはまさに縦横無尽だ。


 その前線ではキサラがダモアヌンの魔槍と橙魔皇レザクトニアを振るって魔剣師を屠ると、続くようにユイとカルードの双剣が刃の竜巻となって敵陣を切り刻んでいく。

 その連携から漏れた兵士は、ヴィーネの光の矢が正確に射抜いて沈黙させた。

 その連携から漏れた兵士たちの眉間を、ヴィーネの〝風朧の霊弓〟から放たれる光と風の矢が、寸分の狂いもなく次々と射貫いていった。ヴィーネの正確無比な射撃に、苛立ちを募らせた魔人の一隊が殺到する。


 ――皆の猛攻を援護すべく、両手首の<鎖の因子>から<鎖>を射出、<鎖>を直進させ、ヴィーネとエヴァの背後に回っていた魔剣師と射手たちの体を穿っていく。


 その動きに呼応するように、ヴィーネが目まぐるしく得物を変え、<血道第二・開門>の<光魔銀蝶・武雷血>を発動させながら砂地を滑り下る。

 そのまま戦迅異剣コトナギを振るい<黒呪仙炎剣>を繰り出し、黒装束の兵士と、魔獣乗りの騎兵を連続的に真っ二つに切り伏せては、ラシェーナの腕輪を使いつつ立ち上がりながら、翡翠の蛇弓(バジュラ)に持ち変える。


 アズマイル弓術の射法でもあるような独自の〝会〟のような姿勢から光線の矢を放つ。

 遠くからマルアとシャナに近づいていた短剣持ちの黒装束の眉間を光線の矢で射貫いていく。

 更に、エヴァと共に少し前に出ては、和弓と洋弓が融合したコンパウンドと似た翡翠の蛇弓(バジュラ)から紫電の魔力を展開した。


 <ヘグポリネの紫電幕>か。


 紫電が放つ微かな音が無数の蛇が這い回るような不気味な響きを奏でながら、シャナとマルアの背後を守っている。


 その間にも、上空と後方からの支援も熾烈を極める。


 レベッカの蒼炎とドラゴンたちの灼熱の息吹が雨のように降り注ぎ、着弾の度に砂漠がクレーターに変わっていく。古の水霊ミラシャンの無数の<水晶群蝶刃>と、風の女精霊ナイアの不可視の風刃が、その炎から逃げ惑う兵士たちを音もなく葬り去った。

 風の女精霊ナイアは、砂丘を駆け上がると両腕を不可視の風刃と化し、眼前の魔人を瞬く間に切り刻む。


 そして、

「――シュレゴファッザッロッガァァァァァァァ」


 と、シュレゴス・ロードの絶叫だ。

 空間そのものが悲鳴を上げるような異音と共に、光と闇が爆ぜ、周囲の敵が一瞬で消し飛んだ。


 相棒も紅蓮の炎で砂丘の一角を焼き払い、俺もその破壊の饗宴に加わるように、堕天の十字架を<投擲>し、敵の密集地帯を吹き飛ばした。


 黒虎(ロロ)は再度跳躍し、宙空から反対方向に「にゃごぁぁ」と紅蓮の炎を吐いては、砂丘に上がっていた兵士たちを焼き払う。


 だが、敵たちは砂地から突如として現れる。

 砂を活かす隠れるスキル持ちの黒装束たちか。

連氷蛇矢フリーズ・スネークアロー》と<光条の鎖槍シャインチェーンランス>を繰り出し、遠距離からフォローし、四人の黒装束の背を穿った。


 ――ユイとカルードはその黒虎(ロロ)の着地際を守るように飛び出た。

 横捻りを行いながらの二刀による<聖速ノ双剣>と<宵暮の舞>による無数の剣閃が、魔剣師たちを寸分の狂いもなく斬り捨てる。


「左に三――」

「右に五――」


 ユイとカルードの<魔声霊道>を活かしたような言葉と戦場の暗号が響く。

 確実に、敵の連携を断ち切る動きは、さすがだ。


 だが、暁の墓碑の密使ゲ・バイ・ユグ・コーがいるだろう地下要塞から黒装束の集団と骸骨騎士たちが次から次に現れる。その一角を限定するように《闇壁(ダークウォール)》を繰り出し、味方の位置を確認し、《氷竜列(フリーズドラゴネス)》――。


 腕先の気温が急激に下がった。

 大氣中の水分が青白い結晶となって収束し、複数の氷竜を形作り、直進。氷竜たちから荒々しい遠雷の如き咆哮が響き渡り、蒼白の鱗から無数の氷の刃を生み出しながら突進し砂地に氷道を造り上げる。

 氷竜に触れた者は瞬時に凍り付き、骸骨騎士たちと衝突した箇所では激しい吹雪が巻き起こって、戦場の一部を白く染め上げた。

 この一連の猛攻で、戦況は完全にこちらへ傾いた。


 ジスリは驚愕していたが、目配せをし、同時に頷くと、二人でブロッカへと向けて突貫する。


「お、おのれ……おのれぇぇぇ!」


 追い詰められたブロッカに見えたが――。

 体が不自然に膨張し、その体を突き破って無数の触手と眼球が現れた。

 ゲ・バイ・ユグ・コーから与えられた力か?

 人族であることを捨てた怪物の姿へと変貌を遂げた。


「ジスリ、奴の動きを止められるか!」

「誰に言っている! ――<仙曼縛砂獄>」


 ジスリが槍を地面に突き立てると、ブロッカの足元の砂が意志を持った鎖となってその巨体を縛り上げる。

 生まれた、ほんの一瞬の好機。

 <刹那ノ極意>――思考と行動の間にある、無限にゼロに近い時間を支配する。

 <月冴>を発動。


 月冴の紋様が目の前に出ながら、


「終わりだ、ブロッカ」


 <仙血真髄>を発動。

 急加速からの<刃翔刹穿・刹>――。


 〝魔導星槍〟の穂先が怪物の心臓部――ひときわ禍々しい魔力を放つ核を寸分の狂いもなく貫いた。

 断末魔の叫びと共に、ブロッカの体は塵となって崩れ落ちていく。総大将を失い、ブロッカ軍は完全に崩壊した。

 戦場に、ようやく静寂が戻る。

 そこで、ジスリへと向き直り、再び〝血骨仙女の片眼球〟を掲げた。


「さて、話の続きだ。これはペルネーテの地下オークションで手に入れたんだ」


 ジスリは、しばらくの間、ただ黙って眼球と俺の顔を交互に見つめていた。やがて、彼女は重々しく頷くと、その槍を静かに降ろした。

 その様子を、後方で【アーメフ教主国】の軍隊たちは警戒を解かずに見守っている。

 あの軍隊も話し合いには応じるつもりか。

 

「アーメフ教主国の方々、リーダーの方は話し合いに参加するなら、こちらに。『犀湖十侠魔人』と【天簫傘】、【八百比丘尼】、【阿毘】、通称三紗理連盟に暁の墓碑の密使ゲ・バイ・ユグ・コーは地下にいる。そして、この血骨仙女ジスリとも争いは一先ず、抑えて頂こう」


 【アーメフ教主国】の軍隊はざわついた。

 だが、女性の指揮官が吼えるように言葉を放つと、静まり返る。その女性が指揮官がこちらに寄ってきた。


 三つの勢力は、それぞれの思惑を胸に秘めながらも、一つのテーブルに着くことになった。


続きは明日、HJノベルス様から書籍「槍使いと、黒猫。」1巻~20巻発売中

コミック版発売中

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― 新着の感想 ―
『犀湖十侠魔人』って十人の強者で作られてるんかと思ったが、雑草みたいに刈られてるしただの組織名で所属魔人は沢山いるんか?
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