千九百一話 砂漠の約束
22時48分 壁]ω・)キュベラスを然り気無く追加……
巨大なワームたちが砂の海へと帰っていき、世界に静寂が戻る。
風が少し強まった。先程までの地響きと魂を揺さぶるような咆哮が嘘のように、今はただ、頬を撫でる砂の感触と、風が砂丘を渡る音だけが世界に満ちていた。
<砂漠風皇ゴルディクス・イーフォスの縁>の幻影が出現し、キュルハとメファーラの宇内乾坤樹の欠片の伸びた方角の砂漠をトコトコと歩いては消えていく。風の女精霊ナイアの指輪も振動した。
しかし、胸の内には彼らが残していった記憶の濁流と切実な願いが熱い塊となって渦巻いている。
シャナは喉元の〝紅玉の深淵〟にそっと触れつつ、
「シュウヤ様、すぐに汚染された砂漠、枯れ果てたオアシスに向かうのですか?」
と聞いていたが、
「今は、砂城タータイムにいる眷族たちと、他の地域の眷族たちと情報を共有しよう。<魔声霊道>を得た黒魔女教団の皆にも、〝知記憶の王樹の器〟で俺の記憶を共有させておきたい」
「分かりました」
「……総長」
「シュウヤ様……」
皆の顔色は厳しい。
そして、レベッカは聖都サザムンドにいるキッカと血文字で連絡をしていた。
そのレベッカは、
「ワームたちも可哀想だけど、冒険者側にも責任はあるわね。早速、キッカにその件を連絡した」
「はい、冒険者ギルドも国、各都市ごとにルールが違うことが多いですから、時間は掛かるかとは思いますが、犀湖都市の冒険者ギルドには、わたしが赴いて狩りの依頼があるなら取り下げるように要請しておきます」
キサラの言葉に皆が頷いた。
「ん」
「うん」
「……」
メル、エヴァ、レベッカ、ヴィーネたちが呟く。
ザガとボンたちも砂城タータイムから白銀の道に乗りながら下りてくる。
「では、キュルハとメファーラの宇内乾坤樹の欠片の反応を示している黒く汚染された砂漠、枯れ果てたオアシスに向かうのは、少し後にして、情報を共有しよう」
「「「はい」」」
早速、アイテムボックスから〝知記憶の王樹の器〟を取り出して、<血魔力>を注ぐと、〝知記憶の王樹の器〟に神秘的な液体が溜まった。
その液体に指を漬かすように入れ、再度<血魔力>を送ると、神秘的な液体は輝きを強める。途端に、指先から出た無数の<血魔力>が俺の脳と直結しているようなミクロの神経網となって神秘的な液体との融合が始まった。
――神秘的な液体に細かな樹状突起と銀河の渦と海馬のような模様が出現。
――脳のマッピングが神秘液体に投影された。
――記憶と記憶を結ぶマインドマップ的なモノが視界をジャックする。
セフィロトの木回路的で樹状図的――。
解読しがたい言語に何層にも別れた別次元へのアクセス権のような印象の不可思議な光景が混じりつつの自意識が無理に細断されたような感覚は毎度だが、慣れることはないだろう。
意識が神秘的な液体の中へ引きずり込まれる。いくつもの光景が、匂いが、感情が奔流となって押し寄せる。脳内に眠る記憶の銀河が、目の前に広がるようだった。共有すべきは、ワームたちの悲痛な願いと、これから向かうべき場所の情報。プライベートな記憶の扉を固く閉ざしながら、伝えるべき記憶だけを丁寧に選び出し、仲間たちが受け取りやすいように一つの物語として紡ぎ上げていく。
傍にきたミスティとクナを見ながら、「では、ミスティから共有しとこうか」
「うん――」
と、〝知記憶の王樹の器〟を受け取ったミスティは、
「これを飲めば、一発で分かるけど、今のワームたちが触れてきた触手だけど、皆には、ワームたちの氣持ちが伝わっていたのよね」
「そうだ」
「了解、飲む――」
とミスティが〝知記憶の王樹の器〟を飲んだ。
その間にザガとボンとルビアたちも砂地を歩んで寄ってくる。
ルビアの格好は、夏服というか水着っぽいから魅力的だ。
ミスティは飲み終えると、しばし目を閉じ、その表情をわずかに曇らせた。
「……理解した。大冒険は毎回だけど、ハーミットは今ごろ宇宙なのよね。そして、ワームたちの苦しみ……枯れ果てたオアシスで、紫の瘴気に蝕まれ、同胞と傷つけ合う姿……胸が痛むわね。シュウヤの大冒険は相変わらずだけど、これは……少し怖さもある。でも、行かなきゃ。クナ、あなたも」
ミスティから〝知記憶の王樹の器〟を受け取ったクナは、少し目が血走っている。
「グフフ、ありがとう。では、シュウヤ様の<血魔力>と、その記憶を頂きますわ♪」
「おう、いいから飲め」
「はい♪」
喜びに溢れているクナは小さい唇に〝知記憶の王樹の器〟の端をつけ、器を傾ける。
神秘的な液体をゴクッと飲んだ。
クナの金色の眼が輝く。
と、全身から<血魔力>を噴出させた。
少し浮遊し、〝知記憶の王樹の器〟を持ったまま、
「――ふふ、素晴らしい、ダモアヌン山には秘密が無数にあるのですね……そしてシュウヤ様の近くにいても、このような展開が傍で起きるとは……」
風を全身に感じるように両手を拡げ、俺を見ると、「あん♪」と、乳房を揺らしつつ感じていた。
〝知記憶の王樹の器〟を落としそうになっていたが、ちゃんとザガに渡している。
ザガは、妖艶な雰囲気を出しているクナを見て、苦笑しつつ、
「――シュウヤ、血鋼の素材は辺境用・中型戦闘巡洋艦用に大量に生産しては砂城タータイムの【鍛冶所】に保管してあるからな」
「おう」
とザガは飲むと
「ふむ、ダモアヌン山の地下か、砂の修業とは面白いが、ワームたちの実情は、かんがえさせられるな――」
ボンに〝知記憶の王樹の器〟を渡していた。
ボンは、「エンチャッ」と言いながら〝知記憶の王樹の器〟を傾け神秘的な液体を飲んでは、「エンチャント!」と元氣に発言し、隣のルビアに〝知記憶の王樹の器〟を渡す。
ルビアも俺の記憶入りの神秘的な液体を飲んでは、「光と闇の運び手の救世主だからこその<暁の魔道技術の担い手>だったとよく分かります。そしてシャナさんに、少し前の犀湖都市の地下の大冒険は、改めて感動ですね……暁の帝国に関係した暁の古文石x3に……暁の墓碑の密使ゲ・ゲラ・トーたちの言葉を思い出しました。そして、ハティア・バーミリオン魔導生命体と第一世代の聖櫃の宇宙船がとても印象的です……」と声を震わせてながら語った。
〝知記憶の王樹の器〟をサラたちに渡していく。
この場に集まっている眷属と黒魔女教団の全員が〝知記憶の王樹の器〟の神秘的な液体を飲んで、俺の記憶を共有した。
十七高手のジュカから〝知記憶の王樹の器〟を受け取り仕舞う。
ルビアは、
「映像を体感しました。メファーラの祠の地下の霊廟のような砂の修業場所で、皆さん<魔声霊道>を得たのですね」
「「はい」」
「おう。見ていたが、あの場の全員が<魔声霊道>を得ていた」
ハンカイの言葉に頷く。
「わたしも覚えておきたい。それとも、その汚染されたワーム場所に急ぐ?」
「いや、汚染された場所は後でいい。皆も<魔声霊道>を学んでおこうか」
「シュウヤとシャナが必須とかないわよね」
「初代ダモアヌンの霊廟は、闇遊の姫魔鬼メファーラ様と知記憶の王樹キュルハ様の魔力の影響で強化されているはずだから、俺やシャナなしでも学べるとは思うが、今は、俺が案内しよう」
「うん、ありがと」
「「ありがとうございます!」」
「いいさ、皆の強化は重要だ」
と発言してから、メルたちを見て、
「メル、クナ、ルシェル、ルマルディ、サラたちついてこい。そして、ヴィーネたちは少しの間、自由行動で」
「「「はい」」」
「にゃ~」
神獣は体を黒虎に変化させて、砂地に着地すると駆けていく。
ミスティとメルたちを見据え、
「では、行こう」
「「「はい」」」
ミスティたちを連れて、先程のダモアヌン山のメファーラ祠の背後に出来た縦穴に移動し、梯子を下りていく。追憶の間、砂の足場が続いている大空洞に到着した。
早速に、壁画に光を帯びた。
ダモアヌン山の歴史が幻想的に展開していくと髑髏武人ダモアヌン、初代ダモアヌンの幻影が現れて、
「――光と闇の運び手の眷族たちか」
「はい、この場にシャナはいませんが、<魔声霊道>を皆も得られるでしょうか」
「無論だ。セイレーンの血脈とムリュ族の古の力が交わりは、強まった。そこの壁画を見るといい――」
ダモアヌンの幻影が、キサラのダモアヌンの魔槍と似た魔槍を右手に出現させ、それを<投擲>した。
<補陀落>と同じような印象の<投擲>で岩壁を破壊するかと思われたが、砂の曼荼羅のような模様に変化しつつ壁の中に吸い込まれて消えた。その壁画には、シャナと俺たちの修業している場面が新しく追加されていた。
「あの人魚の力は本物、更に、光魔ルシヴァルの<血魔力>に〝紅玉の深淵〟を得ているのだからな、おかで、我の魂の深層にまでも、お前たちの<血ノ鳴魔声>が刻まれたぞ……そのおかげで、お前たちも古代ムリュ族の深淵を簡単に覚えられるだろう」
「分かりました。では、ミスティたちを宜しくお願いいたします」
「ふむ、では、眷族たち、こちらに寄れ――」
と、ミスティたちがダモアヌンに近づく。
俺は一足先に梯子を上り祠の前に戻ると、キサラたちが集まっていた。
「シュウヤ様、惨状を利用する者のワームを狩りの連中がいたら、交渉か、それとも先制攻撃でしょうか」
「まずは、交渉と思うが、犀湖都市を巣くっていた連中と同じなら、先制攻撃でもいいかなとは思う。ま、戦いに備えての交渉を試みようか。無論、攻撃をしかけてきたら、倒していい」
「はい」
「瘴気を集めている黒いローブの魔術師集団は、わたしたちとは合いそうにありませんが」
「ん、闇ギルドの連中でも、話をしたら、役に立てる側に回れることもある」
「エヴァは優しい。犀湖都市にいたような連中よ?」
「ん、ううん、他の国でも問題を起こすかも知れないなら、倒す」
「あ、うん」
エヴァの言葉には厳しさも含まれている。
レベッカは頷いていた。
「はい、しかし、一線を越えた冒険者たち、金貨、依頼がある以上は、戦いになるかもです。現状、ワーム狩りは不可能に近いこともありますが、災害として冒険者チームで狩りの依頼などはAランク、Sランクであるはずですから」
「ワームたちの悲しみの記憶からの推測だけど、闇ギルドの一部が、わざとワームを傷つけて、ワームたちを暴れさせている?」
「はい、奴らならやりかねない。各オアシス都市の大闘技場では、ワーム系が死体掃除を行っていました」
四天魔女レミエルの言葉に皆が頷いた。
過去にキサラも語っていたな。
「ご主人様から何回も聞いたマッチポンプの政策。わざと巨大ワームを連れて、砂漠に嵐を引き起こす。その混乱による穀物、土地、水資源の相場の上下を狙い、売り抜けを狙う存在……など、可能性は多岐わたります」
「……しかも、瘴気や呪われたアイテムは、裏社会じゃ高く売れるはず。砂漠の地方はあまり知らないから違うかもだけど」
「はい、売れます。盗族団【神恐鬼】の中には、ムリュ族が混じっているという噂もあります」
「はい、それらがワームを操作し、商隊、使節団を狙うように襲わせていた可能性……考えていませんでしたが、そう言われたら、可能性はないとは言えません」
「三紗理連盟や血骨仙女たちにも関係するかもですね」
四天魔女アフラの言葉にラティファも、
「もし、そうなら許せない! そのような悪しき者は倒しましょう!」
と忌々しげに吐き捨てる。
険しい空氣が走った。
「あぁ、生命を弄び、金に換えるか……外道だ」
ハンカイが金剛樹の斧の柄をギリ、と握りしめる。
皆の覚悟が決まり、空気が張り詰めた、まさにその時だった。
背後にあったメファーラの祠から、柔らかな光が溢れ出す。
やがて、光の中からミスティを先頭に、メル、クナ、ルシェル、ルマルディ、そしてサラたちが姿を現した。その場の全員が、新たな力をその身に宿した確かな手応えと、自信に満ちた表情をしている。
「シュウヤ、戻ったわ。初代様のおかげで、皆、<魔声霊道>の基礎を魂に刻むことができた」
ミスティが俺の元へ歩み寄りながら報告する。彼女の瞳には、以前よりも深い輝きが宿っていた。
「すごいわ、これ……世界の音の聞こえ方が、まるで違う。風の囁き、砂の歌、大地の呼吸……その全てが、意味を持つ言葉として感じられる……!」
「グフフフ、ええ、ええ! シュウヤ様の記憶を追体験した上でこの力を得られたのですもの、最高の気分ですわ! 今なら、この砂漠そのものを口説き落とせそうですわよ!」
興奮気味に語るミスティに、クナが妖艶な笑みを浮かべて続く。彼女たちの様子から、修業が実りあるものだったことがひしひしと伝わってきた。
「皆、無事か。よく戻ったな」
俺が労いの言葉をかけると、彼女たちは力強く頷いた。
これで、役者は揃った。
俺は仲間たちの顔をゆっくりと見渡し、改めて口を開く。
「よし。では、これより我々は、ワームたちの故郷を蝕む元凶を断つため、砂漠の奥深くへと遠征する。だが、全員で行くわけにはいかない。このダモアヌン山と砂城タータイムの守りも、我々の重要な使命だ」
皆の真剣な眼差しが、真っ直ぐにこちらへと注がれる。。
一人一人の顔を見渡す。
これから向かうのは、危険な場所だろう。
誰一人欠けてほしくない。だからこそ、最強の布陣で挑み、そして、この大切な場所を万全の態勢で守り抜く必要がある。腹を決め、
「遠征部隊と、この地を守る残留部隊の二つに分かれる。……まず、残留部隊だ。このダモアヌン山を知り尽くしているアフラ、ラティファ。そして黒魔女教団の半数と、十七高手の皆さんには、この地の守護をお願いしたい」
レミエルが静かに胸に手を当て、深く頷く。その瞳に宿るのは、揺るぎない忠誠の光。遠征部隊に選ばれた者、残留部隊として後方を託された者、それぞれが己の役割を理解し、覚悟を決めた引き締まった顔をしていた。異論を唱える者は、誰一人いない。
「「はい、お任せください。シュウヤ様のご武運を祈っております」」
アフラとラティファが、厳粛な面持ちで一礼する。
「そして、ザガ、ボン。お前たちには砂城タータイムの【鍛冶所】と生産設備の維持を頼む。何があるか分からない、後方支援の要だ。サラとノーラたちも、砂城の管理を頼んだぞ」
「おう、任された。最高の武具を用意して待っている」
「エンチャッ!」
「「はい!」」
頼もしい返事が返ってくる。
「遠征部隊は、俺とロロ。キサラ、ヴィーネ、シャナ、レベッカ、エヴァ、キュベラス、ユイ、ハンカイ、カルード。そして、新たに<魔声霊道>を得た、ミスティ、クナ、メル、ルシェル、ルマルディ。四天魔女からはレミエルが同行してくれるか?」
「はい、喜んで。私の剣、シュウヤ様のために」
レミエルが静かに頷く。
残る仲間たちも、異論はないようだ。それぞれの役割を理解し、覚悟を決めた顔をしている。
「留守を頼む。必ず、ワームたちとの約束を果たして戻る」
「「「ご武運を!」」」
残る仲間たちの力強い声援を背に受け、俺は遠征部隊の仲間たちに向き直った。
「では、キュルハとメファーラの宇内乾坤樹の欠片の反応しているところに向かおうか」
左腕を掲げた。
光と闇の運び手装備の一部から伸びている宇内乾坤樹の樹の一部は、紫の瘴気が映し出された場所を差している。
「宇内乾坤樹はコンパスになるということですね」
キサラの言葉に、俺は力強く頷いた。
「ああ。ワームたちの悲痛な叫びと、この樹の欠片が、俺たちが行くべき場所を示している――砂漠の奥深くに」
四天魔女アフラがハッと息を呑んだ。
「ゴルディクス大砂漠には、様々な曰くとされた土地がありますから」
「よし、決まりだな! ぐずぐずしてる暇はねぇ!」
「ええ、挑戦よ!」
レベッカとヴィーネが力強く応じる。その瞳には迷いのかけらもない。
「シャナの歌声も、きっと必要になる」
「……はい、シュウヤ様。ワームたちの悲しみを、少しでも癒せるのなら。わたしの全てで、歌います」
シャナが、喉元の〝紅玉の深淵〟にそっと触れながら、凛とした声で答えた。彼女の覚悟に、俺も胸が熱くなる。
「作戦を立てる。砂城タータイムでの移動もいいが、犀湖都市とダモアヌン山から動かしたくない。ロターゼとアルルカンの把神書は、上空からの先行偵察を頼む。敵の規模や布陣、地形を調べてほしい。だが、決して無理はするな」
「フン、俺様に任せておけ!」
「はいよ! 任されました!」
頼もしい返事と共に、二体が勢いよく飛び立っていく。
「俺たちは、そこの砂漠船を使い、本隊として進む。四天魔女アフラたちに、カルードも船の準備を頼めるか」
「はい!」
「お任せください。すでに、最高の状態です」
「はい、砂漠船はいつでも」
「マイロードと共に!
アフラたちとカルードが恭しく一礼し、仲間たちに指示を出しに走っていく。
俺たちも近くに停戦している砂漠船に移動した。
流線形の美しい船体を持つ砂漠船。
それぞれの準備に取り掛かっていく。
船首に立ち、これから向かう砂漠の深奥を見据える。隣に、しなやかな影が舞い降りた。黒豹の姿に戻ったロロが、同じ方角を鋭い瞳で見つめている。
風が、ワームたちの悲しみを運んでくるような気がした。
だが、今はもう絶望だけではない。彼らと交わした約束、そして、共に立ち向かってくれる仲間たちがいる。
左手首の欠片が、行く先を指し示すように、再びわずかな熱を帯びた。
そこで皆を見て、
「――さぁ、行こうか。そして、<水霊の深淵>と<魔声霊道>の効果もたしかめられるだろう」
その言葉に、眷族と仲間たちが力強く頷き返す。
やがて準備を終えた砂漠船が静かに砂の上を滑り出した。
「ご主人様、砂漠の約束を果たしましょう」
「あぁ」
と、ヴィーネの腰に手を回して抱きしめた。
遠ざかる砂城から仲間たちの声援が風に乗って聞こえてくる。その声にヴィーネと共に振り返り、手を振って応え、新たな戦いが待つ砂漠の奥深くへと船を進めた。
「ばいばい~」
光精霊フォティーナの可愛い声が響く。
目指すは、ゴルディクス大砂漠の西方か、呪われたオアシス――。
続きは明日、HJノベルス様から書籍「槍使いと、黒猫。1巻~20巻」発売中。
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