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槍使いと、黒猫。  作者: 健康


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1901/2000

千九百話 絶望の来訪か、あるいは希望の使者か

 砂城タータイムとゴルディクス大砂漠の景色と皆を見て、新しい<魔声霊道>の喉と首を覆う有機的なガスマスク的な魔法装備を確認。

 <魔声霊道>を意識した瞬間、喉元を覆っていた有機的なガスマスクが脈動した。音波の紋様が螺旋を描きながら激しく明滅し、俺の鼓動に呼応するように魔力粒子へと分解されていく。粒子は煌めきながら虚空に溶けて消えた。


 かすかな振動音も消える。


 <魔声霊道>を再度意識したら、闇と光の運び手(ダモアヌンブリンガー)装備の首と襟首の部分の形状が変化し光を帯び、そこから<魔声霊道>のガスマスクと似た半透明な魔法防具が宙空に展開され、口元を覆った。呼吸に合わせて淡く明滅するのも変わらない。

 半透明だが虹色になることがあり綺麗だ。

 これに色がついて立体化したら<霊血装・ルシヴァル>と少し似ているかな。


 すると、ゴルディクス大砂漠の遠くのほうで、蜃気楼のような現象が起きた。

 

「「おぉ」」


 四天魔女アフラとラティファが声をハモらせ、高台を歩きつつ、外にはり出ている先端部に移動した。

 黒魔女教団の方々も釣られてゴルディクス大砂漠の遠くを見やる。

 キサラは、


「砂嵐……ワームの襲来でしょうか?」


 と呟く。彼女の喉元と口もまた、半透明なガスマスク状の魔法防具に覆われていた。<魔声霊道>の獲得によって生まれた半透明な魔法防具に覆われていた。


「砂漠の嵐……」


 ヴィーネも不思議そうな表情を浮かべて遠くを見やる。

 ヴィーネの<魔声霊道>効果の、魔法のガスマスク的な装備の表面も呼吸に合わせて明滅している。

 半透明なマスク越しに見える小さな紫色の唇に、視線は自然と吸い寄せられる。襞にほのかに混じる朱色が、呼吸のたびにわずかに色を変える。 

 その柔らかさを知っているからこそ、今この瞬間も愛おしさが込み上げてくる。

 そんなヴィーネと目が合うと微笑んでくれた。


「ンン」


 黒猫(ロロ)は俺とヴィーネの足に頭部を寄せてから、トコトコと前を歩いていく。ヴィーネたちと共に見晴らしの良い高台を歩いた。

 

 高台から見渡すゴルディクス大砂漠の一大パノラマが眼前に広がる。

 晴天の下、左手に犀湖都市の輪郭がかすかに浮かび上がる。

 だが――右側の地平線が異様だった。砂嵐にしては、あまりにも生々しい。まるで大地そのものが蠢いているような不自然な砂の壁が立ち上がっている。

 

「ん、遠いところで起きている砂埃、砂嵐は、本当にたくさんのワームたちが起こしている?」


 エヴァの疑問の声に、キサラとアフラにレミエルが頷き、

 レミエルは、


「はい、無数のワームたちがこちらに寄ってきている。そして、過去、ダモアヌン山の砂地の襲撃を行うようなワームは、それなりには居ましたが、これほどの数のワームの襲来、否、近づいてくることはなかった」


 すの言葉に、キサラがかすかに「はい」と言いながら浮かびつつ手摺りを越え、遠くのゴルディクス大砂漠にダモアヌンの魔槍の穂先を向けてから、体を開くような動きの半身の姿勢で、俺を見て、

 

「――砂漠のワームたちが近づいてきたようです……このような現象は、初めて見ます。皆はどうですか?」


 と、皆に聞いていた。

 キサラの表情を見て、自然と心が高鳴る。

 キサラの蒼い瞳には、歴史的瞬間に立ち会っているという驚きと、これから起こる未知なる出来事への期待が、まるで宝石のように煌めいていた。その純粋な輝きがどれほど素敵で愛おしいか。


 アフラが、


「無論、初めて」

「うん、初めて」

「私も初」


 四天魔女全員が初なら稀すぎる。

 アフラは、


「祠の前の高台から見る眺めは何度も見ていますが、このような砂嵐とは異なる壁のような、砂の波頭ですからね……」

「はい、これほどの数のサンドワームの襲撃、襲来は、生まれて初めてです。黒魔女教団の皆も同じなはず」


 四天魔女レミエルの言葉に、


「「「「はい」」」」

「同じです」


 十七高手の<魔声霊道>を得ているアフラたちも黒魔女教団の全員が声を揃えて返事をしていた。

 キサラは、


「はい、わたしたちが知るワームたちも、ダモアヌン山に近づけば、距離を取るか、逃げ出すことが普通でした。その理由には様々な良い伝がありますが、主な理由の一つに、ダモアヌン山を囲うようにムリュ族の魔音叉系の魔道具として使われる、その魔音叉大岩の密集地があり、それを避けているという理由。また、犀湖都市へと続いている太い地下水脈の流れがあるからと言われていました」


 へぇ、キサラの言葉に黒魔女教団の方々が頷いていく。

 キサラの近くを浮遊している四天魔女レミエルも、振り向いて、


「はい、それでも音叉の仕組みが異なるカオスワームの群れの襲撃はありました。ですが、それでも単発。ですから状況的に……」


 そう語り、俺を見てきた。

 黒魔女教団の方々も、俺の光と闇(ダモアヌン)運び手(ブリンガー)装備と、ダモアヌン山の地下で修業を行った四天魔女の首元と眷族たちの首元の魔法装備の<魔声霊道>の効果を見ている。


 四天魔女アフラは、喉元の魔法装備を触りつつ、


「そうですね、ダモアヌン山の震動と初代ダモアヌンの幻影といい、色々と状況は重なりすぎている」


 と語ると、キサラも、


「はい、シュウヤ様の<魔声霊道>と、わたしたちの<魔声霊道>に、砂漠のワームたちが反応し、近づいてきているのでしょう」

「……凄い出来事です。シュウヤ様の力に、このダモアヌン山が、ゴルディクス大砂漠が応えている……」


 アフラの声が震えているのを感じた。

 四天魔女として長年この地を守ってきた彼女が、今、感極まっているのが、ひしひしと伝わってきた。 

 その震える声に込められた畏敬の念が、波紋のように仲間たちに伝播していく。一人、また一人と頷く姿に改めてこの瞬間の重さを実感した。


「……ええ。シュウヤ様は光と闇(ダモアヌン)運び手(ブリンガー)の救世主。<暁の魔道技術の担い手>も事実。ただのワームを操るだけのスキルではないのでしょう」

「もしかしたら、この大地に宿る、古の生命そのものと対話する力なのかも知れません」


 四天魔女レミエルが、自身の魔剣を握りしめながら分析した。

 その瞳には、畏敬と、そして戦士としての純粋な好奇が宿っていた。


 そこに、


「おぃぃ~、ワームたちが近づいてくるぞ!」

「はい、遠くの砂嵐が近づいてきています――」

「モンスターの襲来なのか!」


 斜め上空から闇鯨ロターゼとルマルディがアルルカンの把神書が、そう言いながら飛来してきた。

 ロターゼたちに、


「あぁ、今しがた、<魔声霊道>、<水霊の深淵>、<刹那ノ極意>、<刃翔刹穿・刹>、<刃翔刹閃・刹>などのスキルと恒久スキルを獲得した。ワームたちは、その関連した現象のようだ」

「ほぉ……というか、その喉の魔法装備が<魔声霊道>か……ん? その<魔声霊道>とは、おい、ムリュ族のスキルじゃねぇか!」


 闇鯨ロターゼは巨大な頭部を俺に突き出しながら語る。

 額の上部はユニコーンのような角を生やすことができる窪みがある。

 全体的に、漆黒だが額はメタルの色合いが強いから、綺麗だった。

 そのロターゼに、


「あぁ、俺たちは獲得できてしまった」

「なにぃ……」

 

 ロターゼは驚きながらキサラに寄り、


「キサラもじゃねぇか!」


 と、少し上昇し宙空で一回転を行い、キサラは笑いつつ、


「ふふ、はい、<魔声霊道>を得ました。わたしもワームを使役できるということです」

「ふん、俺様がいるんだから、ワームなんていらんだろうに!」

「ふふ、使役ができても、嫉妬はしないように」


 ロターゼはフンスッフンスッと言うように鼻息を荒らし、


「嫉妬してやる!」

「はは、俺も嫉妬しよう!」


 と、キサラに寄るアルルカンの把神書に黒猫(ロロ)が「にゃご」と鳴いて飛び掛かられていた。「ひぃぁ~」と悲鳴と嬉しさが混じった声を発したアルルカンの把神書は黒猫(ロロ)に噛まれながらも、黒猫(ロロ)を落とさないように乗せながら宙空を飛び回っていく。

 

 面白いコンビだ。

 そして、四天魔女ラティファは、ロターゼたちのことではなく、俺を見て、


「大型のワーム、巨大ガヴェルデンはいないとは思いますが……もし、巨大ガヴェルデンがダモアヌン山に近づいていたのなら、史上、初めてのことになります……」


 と、語り、唾を飲み込む。

 ラティファの首元の覆うガスマスク的魔法装備の<魔声霊道>も良い。


「小型のワーム、通称砂走り(サンドランナー)は確実に居ます」

「「はい」」

「にゃぉ~」


 相棒の興奮が俺にも伝わってくる。

 黒豹の姿から黒虎へ、そして更に巨大化していく。

 漆黒の体が宙空で優雅に身をくねらせると見る間に翼が展開され、グリフォンを思わせる威風堂々たる姿へと変貌を遂げた。

 その胸元のモフモフした毛並みが風になびく様は、威厳と愛らしさが絶妙に同居している。


「「「わぁ」」」

「素敵~」

「「す、すごい……」」


 黒魔女教団の方々も黒猫(ロロ)の変身は知るが、グリフォンに近い姿は初めてか。胸元のモフモフさ加減といい、凄まじく柔らかそうな体がタマランな。


 仲間たちの驚嘆と期待が入り混じった視線が、ワクワク感を助長させた。


「俺の<魔声霊道>と<水霊の深淵>などの影響が濃いなら、下に行こうか。皆も行こう。砂漠用の船などもあるから壊されないようにしたい」

「「「はい」」」 


 キサラは、俺とシャナへと視線を向け、


「シュウヤ様、シャナ。共に<魔声霊道>の真価を見せましょう」

「ああ、そうだな。ムリュ族と親戚だったシャナがいる。セイレーンとムリュ族の歌を受け継ぐのはシャナだけだ」


 皆が頷いてシャナを見た。

 シャナは頬を朱に染めて、


「……はい、楽しみですが、初めてに変わりないので、少し不安です」


 シャナの声はわずかに震えていた。だが、〝紅玉の深淵〟が嵌め込まれた喉元にそっと当てられた彼女の手には、震えとは質の違う、何かを確かめるような力が込められているのが見て取れた。 

 不安と、震える声とは裏腹に、その瞳には自らのルーツ、数千年の時を超えた同胞たちの悲願を背負った使命を見定めた者の、研ぎ澄まされた覚悟の光があった。とても頼もしく見えた。


 キサラは、


「シャナの魔声は、ムリュ族と関係があることが分かりましたし、その声にはムリュ族と同じような『意味』と『意志』を乗せられるはず」

「ふふ、それはそうですが、キサラとヴィーネにレベッカに、この場にいるほとんどの皆も同じですよ」

「あ、はい」

「そうですね、挑戦しましょう」

「……はい!」


 シャナが力強く頷く。


「任せください。古のムリュ族のようにはいかないかもですが。今回覚えた<魔声霊道>と、元々ある<囁き声>と<魔魚の心>に魔声(ハヴァオス)と〝紅玉の深淵〟を使い、ワームを同胞として敬い、その魂と直接対話したいと思います」

「行こうか」

「楽しみだが、戦いとなれば、どのようなことになるか……」


 レザライサの言葉に頷いた。

 ハンカイは、


「ハッ、絶望の来訪か……」

「狩人としての冒険者たちも寄ってくるかもですね」

「初代髑髏武人ダモアヌンさんを通して、ムリュ族の力も得ているし、希望の使者よ!」


 ヴィーネとレベッカの言葉に笑みを浮かべつつ頷き、


「絶望の来訪か、あるいは、希望の使者か。挑戦だ」

「ふむ」

「おう、氣合いをいれるぜ」

「ンン――」


 相棒が、飛翔できない黒魔女教団の方々に触手を伸ばして体を掴むと一気に降下していく。


 俺も高台から跳躍――。

 飛翔して降下して、砂地に降り立った。 


 砂地を少し進む。

 眷族と仲間たちが見守る中、俺とシャナは一歩前に出た。


『総長、ここから見ていますので』

『何かあったら、すぐに行くから』

『シュウヤ、タータイムにいるからね』


 メルとミスティとサラとの血文字に、


『了解』


 と返事を送る。

 そこで再び<魔声霊道>を意識し、喉の奥で古代の音階を響かせた。

 

 それは大地を揺るがす呼び声――。

 力強い響きに、シャナが清らかなソプラノを重ねた。


 彼女の歌声から魂の言葉を感じた。

 ――砂漠への敬意、ワームへの親愛、そして共に未来を創りたいという切なる願いが、美しい旋律となって空間に広がっていく。


 俺の力が大地を叩く扉だとするなら、シャナの歌はその扉の向こうにいる者へと語りかける、心からのメッセージに思えた。


 歌声が最高潮に達した、その瞬間――。

 地の底から響くような、腹に直接叩きつけられる轟音と共に、砂丘が内側から爆発するように隆起する。津波のような砂の奔流が左右に割れ、その裂け目から――信じがたい巨影が姿を現した。月光を鈍く反射する黒曜石の外殻。先頭の個体は、家屋どころではない。ビルさえも矮小に見える、まさに動く山脈そのものだった。

 空氣を震わせる重低音が全身に走る、戦慄を覚えた。

 これが、伝説の巨大ガヴェルデンか。

 ビリビリと空氣が震え、その重低音はもはや耳でなく、骨で直接聴いているかのようだ。肌を撫でる熱風に、乾いた砂の匂いだけでなく、古代の巨大生物が発する濃厚な土の匂いが混じり始めた。


「……来た」

「嘘……先頭の超巨大なワームは巨大ガヴェルデンよ」


 その圧倒的な威容に、仲間たちから息を呑む気配が伝わる。

 果たして、対話は可能なのか。あるいは――。


 巨大なワームが、その巨大な口、顎か? 

 ゆっくりと開く。渦が開く挙動で、甲殻が開いた。

 無数の歯牙と舌のような器官が見えた。

 周囲の砂が一氣に大移動し、風が――。

 同時に<砂漠風皇ゴルディクス・イーフォスの縁>の魔法の魔猫も出現し、シャナを守るように前で浮遊している巨大な神獣(ロロ)の隣に浮遊した。


「にゃ」

「……」


 その前方から超巨大なワーム、ガヴェルデンが、俺たちに向かって、


「オォォォォォォォォン――」


 地響きのような咆哮、重低音の咆哮を発した。

 咆哮が全身を貫いた。魂そのものに直接響いてくる。

 骨の髄まで震える感覚、太古からの呼びかけか――。

 敵意皆無。何か別の、もっと深い意味を持つ声と、本能的に理解した。


 仲間たちが咄嗟に身構え、戦いの火蓋が切って落とされる――。

 と、誰もがそう覚悟した瞬間。


 超巨大なワームと、背後のワームたちのすべてが動きを止めた。

 直接、魂に響くような、古く、そして深い思念の波が響いてくる。

 それは何かの問いかけに感じた。温かさもある……。


 俺とシャナ、そして<魔声霊道>を持つ仲間たちは、その声の意味を明確に理解していた。


「皆……敵意はありません」

「はい、友好的な……心を感じます」

「ん、<魔声霊道>だから分かる」


 シャナとキサラとエヴァが驚きと畏敬の念を込めて呟く。

 先頭のワームの巨大な眼窩には、知性の光が宿っている。

 彼らはただの獣ではない。この砂漠の理そのものを体現する、古の賢者だった。


「ウォォォン、ウォォォォォン、ウォォォン」


 と、ワームの問いかけのような音波が響いた。

 今度はシャナが歌で応えた。

 それは、先程の呼びかけの歌とは違う。彼女自身の魂の言葉。

 セイレーンとして、光魔ルシヴァルの一員として、そしてこの大地を愛する者としての、誠実な祈りの歌だった。


「――我らは大地を敬い、共に生きる者。破壊ではなく、再生を望む者。失われた緑を、清らかなる水を、この砂漠に取り戻すために参りました――」


 その清らかな旋律と思いが、ワームの思念の波と共鳴する。

 ワームたちは、しばし沈黙した。


 その思念に深い悲しみの色を滲ませた。

 ワームたちは口から羽毛のような触手を伸ばしてきた。

 

 巨大な神獣(ロロ)は「にゃ~」と鳴いて触手を伸ばし、その羽毛のような触手と繋げていた。


 俺にも飛来した。

 その羽毛のような触手に腕を伸ばすと、触れる。

 皆も腕を伸ばし、羽毛のような触手と触れた刹那――。

 

 意識が引き裂かれるような感覚に襲われた。

 否、これは痛みとは違う。膨大な情報とワームたちの記憶、感情の濁流が、脳の許容量を無視して無理やり注ぎ込まれてくる。

 

 ワームたちの数千年にわたる記憶、汚された故郷への悲しみ、同胞を失う痛み、そして救いを求める切なる願い。彼らの絶望が、まるで自分自身の体験のように、魂に直接刻みつけられていく。


 砂漠の奥深く、枯れ果てたオアシス。その中心にある泉は、清らかな水を湛える代わりに、禍々しい紫色の瘴気を放ち周囲の砂を黒く汚染している。そして、その泉の周りでは正気を失ったワームたちが苦しみにもだえ、互いを傷つけ合っていた。更に、それを利用している怪しい魔術師ローブを着た集団、闇ギルドか。

 そのワームを狩り、甲殻、骨、内臓、血肉を剥ぎ取り、武具とし、体液を薬として売りさばく外道たち……。

 否、中には冒険者たちもいるのか……。


 光と闇(ダモアヌン)運び手(ブリンガー)左手首の装備からキュルハとメファーラの宇内乾坤樹の欠片の一つが少し伸びて、その瘴気を放つところに反応していた。

 

 言葉は通じないが、氣持ちは理解できた。

 浮遊しながら、


「――願いか……俺たちに助けてほしいんだな?」


 超巨大なワームは、


「ウォォォォォン――」


 大きい音波を発した。

 羽毛のような触手が離れていく。

 ワームたちは羽毛のような触手を収斂させていた。


 この砂漠に生きる古の主からの、切実な願いを込めた問いかけ。

 巨大なワームを真っ直ぐに見据え、<魔声霊道>と<水霊の深淵>を意識しつつ、


「……助ける救えるワームたちが、まだいるのなら、今すぐ試みる。だが、必ず癒やせるとは、現状では約束はできないが、それでもいいか?」

「ウォォォン~」


 と、超巨大なワームは、音波に鳴き声的な少し可愛さがある返事を寄越した。また、俺の言葉に、嘘偽りがないことを感じ取ったのか、ワームたちは静かにその巨大な頭を下げていく。


 それは、王が王へ送る敬意の表れにも見えた。

 キサラたちが、頷く。

 シャナが、


「氣持ちが通じています、シュウヤ様を主、友だと思っているようです」


 シャナの言葉の後、


「「「「ウォォォォン」」」」


 と、鳴き声を発した巨大なワームたち。

 再び砂の海へとその身を沈めていく。

 巨大な影が砂の海に沈んでいく。あれほどの威容を誇った山のような体が、まるで幻だったかのように砂の下へと消えていった。あれほどの轟音が嘘のように、世界は静寂に包まれる。耳の奥に残る残響が、かえって静けさを際立たせていた。

 戻ってきた静寂が、惑星セラの巨大な共鳴周波数に感じた。


 ……同時に、胸には新たな使命の重さと、彼らとの約束が深く刻まれている。風が運ぶ砂の匂いさえ、先程とは違って感じられた。


「……行ったわね」


 レベッカが、まだ信じられないといった様子で呟く。

「あぁ……」

「皆、私も驚いた~」


 光精霊フォティーナはそう言いながら、レベッカに光の粉を振り撒いている。レベッカは氣にしていない。


「ん、ドキドキした」

「あぁ、俺もだ」

「驚きましたが、上手くいきましたね」


 頷いた。


「はい」

「驚きだが、戦いにならずにすんだな」

「ああ」


 ハンカイは金剛樹の斧を消す。


「わたしも」

「うん」


 エヴァにユイにキサラたち、皆が、安堵と新たな決意が入り混じった表情でこちらへ集まってきた。

 カルード、メル、ミスティ、クナ、ルシェルに――。

 サラ、ファーミリア、ホフマン、ポルセン、アンジェ、ノーラたちも砂城タータイムから次々と降下してくる。


「はい、しかし、磯の香りが凄まじかったですな、そして、触手の感触がなんとも……」


 カルードの言葉にまた笑う。


「総長、新たな目標が定まりましたね」

「驚きなんてもんじゃないわね。ひやひやしたけど、触手はさわりごこちが良かったわ」


 ミスティの言葉に、俺も自然と頬が緩む。

 緊張から解放された仲間たちの顔に、次々と安堵の笑みが広がっていく。この笑顔を見ていると、改めて思う――。

 どんな試練が待ち受けていようと、この仲間たちとなら乗り越えていける。そんな確信が静かに強まっていった。


続きは明日、HJノベルス様から書籍「槍使いと、黒猫。」1巻~20巻発売中

コミック版発売中。

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