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百八十九話 ドラゴンの母と八剣神王第三位※

 ステータス。


 名前:シュウヤ・カガリ

 年齢:23

 称号:混沌ノ邪王new

 種族:光魔ルシヴァル

 戦闘職業:邪槍樹血鎖師new

 筋力22.9→23.3敏捷23.5→23.8体力21.2→22.4魔力21.9→26.6器用21.0→21.1精神24.2→28.2運11.3→11.4

 状態:平穏


 一部とはいえ邪神の精神体を吸収したからか精神、魔力、だけじゃなく全体的に上がっている。


 スキルステータス。


 取得スキル:<投擲>:<脳脊魔速>:<隠身>:<夜目>:<分泌吸の匂手>:<血鎖の饗宴>:<刺突>:<瞑想>:<生活魔法>:<導魔術>:<魔闘術>:<導想魔手>:<仙魔術>:<召喚術>:<古代魔法>:<紋章魔法>:<闇穿>:<闇穿・魔壊槍>:<言語魔法>:<光条の鎖槍>:<豪閃>:<血液加速>:<始まりの夕闇>:<夕闇の杭>:<血鎖探訪>:<闇の次元血鎖>:<霊呪網鎖>new



 恒久スキル:<天賦の魔才>:<光闇の奔流>:<吸魂>:<不死能力>:<暗者適応>:<血魔力>:<超脳魔軽・感覚>:<魔闘術の心得>:<導魔術の心得>:<槍組手>:<鎖の念導>:<紋章魔造>:<水の即仗>:<精霊使役>:<神獣止水・翔>:<血道第一・開門>:<血道第二・開門>:<血道第三・開門>:<因子彫増>:<大真祖の宗系譜者>:<破邪霊樹ノ尾>new


 エクストラスキル:<翻訳即是>:<光の授印>:<鎖の因子>:<脳魔脊髄革命>:<ルシヴァルの紋章樹>:<邪王の樹>new


 まずは称号から。

 ※混沌ノ邪王※

 ※邪王の資格を有した者※


 そのままだな。

 次は新しい戦闘職業、<邪槍樹血鎖師>をタッチ。


 ※邪槍樹血鎖師※

 ※邪神の一部を吸収し初めて到達できる邪槍使い※

 ※この世界に体現せし、邪を吸収した唯一の槍使い※


 これだけか。

 この惑星か宇宙か分からないが、確実に俺だけなんだろう。


 <霊呪網鎖>をチェック。

 ※霊呪網鎖※

 ※エクストラスキル<鎖の因子>固有派生スキル※

 ※エクストラスキル<光の授印>の作用により追加効果※

 ※光の粒子鎖を用いて知能の低いモンスターを限定して洗脳、支配下に治めることができる。ただし<鎖の因子>のマークに直接触れていることが条件※


 おぉ、洗脳できるのか。


 掌の下にもマークは伸びているから掌を当てればいいんだな。

 だが、知能の低いモンスター限定とあるから人族は無理か。

 ゴブリンの洗脳が可能だとして……。

 軍団を作りゴブリン王を名乗り天下統一の旅へ……ないな。

 あ、でも、ゴブリンには沢山の種類がいるから、たとえば、中型ゴブリンとかホブゴブリンは中々優秀だったし門番的に置いておくのもありかな。


 鏡の先で拠点作りの雑兵として利用するのもありかも。

 他にもやることはあるが、忘れてなきゃ、今度、実験したいかもしれない。

 が、それをしたら、ゴブリンたちの世話をしないといけなくなりそうだから、大変だな。

 遠い未来の選択肢の一つぐらいに考えておくか。


 次はエクストラスキル、<邪王の樹>をタッチ。


 ※邪王の樹※

 ※邪王の資質が開花した者※

 ※魔力を大きく消費するが、邪神界ヘルローネに伝わる樹木が作成可能となる※


 称号と似てるが、ようするに魔法的な木を生み出すモノだ。


 次は恒久スキル<破邪霊樹ノ尾>をタッチ。


 ※破邪霊樹ノ尾※ 

 ※魔力を多大に消費するが、光を帯びた霊樹を作成可能※


 霊樹……光属性の樹木か。

 対ヴァンパイアの牢獄、魔界の奴らを封じ込めるのに便利そう。

 又は、これで木製の槍を作り<投擲>に使える。



 ◇◇◇◇



 ステータスの確認を終えたあとは、中庭に移動。

 新しいエクストラスキルを意識しつつ樹木を生やしたり消したりする遊びをしたり、ドラゴンの卵に魔力を送ったりと――猫じゃらしで黒猫(ロロ)と遊んだり。いや、相棒に遊ばれたりする。


 紐で誘導して遊ぶ俺だが、相棒は俺を調教するように紐を誘導してくる。

 相棒ちゃんは楽しく遊んでくれた。


 まったりとした日を過ごす。

 そんな日が数回過ぎたある日……。


 黒豹の姿のロロディーヌが、ドラゴンの卵を内腹に抱いて寝ていた時。

 そのドラゴンの卵にピキピキッと、ひびが入った。

 刹那、相棒は驚いた。

 

 四肢を上げて、


「ンン、にゃ、にゃおん、にゃおおぉぉん」 


 と、慌てたような声で鳴く黒豹(ロロ)さんだ。


「ご主人様! ひびが入りました!」

「閣下、お名前は決めているのですか?」 


 ヘルメから極当たり前のことを聞かれて、ドキッとした。 

 そう……生まれた時に考えると後回しにしていた結果がこれだ。


「何も考えてない。これから考える」


 頭を抱える。


「閣下……」

「ご主人様でもそんなことがあるのですね……」 

「そんな目で見るな……今考える……」


 その間にも、ドラゴンの卵の殻に亀裂が増えている。

 黒猫(ロロ)は黒豹から小猫の姿に戻ると……。

 片足の肉球を優しくソウッと卵へ押し当てていた。

 

 さっきは卵を大事そうに懐で温めて寝ていたし、母親の気分なのだろうか。


「閣下、お困りでしたら、名前の候補があります」

「何だ?」

「シリアナ――」

「却下だ」 


 ヘルメの趣味には合わせられない。


「ご主人様、ではわたしが」

「おう、何だ?」 


 ヴィーネなら少し期待できる。

 様々な知識を持つ彼女ならば……。


「カーズドロウジュニア」

「却下だ……」 


 その間にも、ピキピキと、更に亀裂が入るドラゴンの卵。


「にゃお、にゃぁ」 


 黒猫(ロロ)が卵へ何かを話しかけている。


「確か、母親の名前はロンバルアだったよな。そこから多少、弄って……」 


 ロンディーヌ、だめだ、ロロと、もろかぶりだ。


「どうしたの? 騒いでるけど」 


 コップを片手にレベッカが顔を出す。 

 ミントの透き通るいい香りが漂う。

 あ、母親のバルを取って、ミントを掛け合わせる。


「決めたぞ、バルミントなんてどうだ?」

「良いですねっ」

「閣下、シ――」

「ヘルメは少し黙れ~」 


 俺は笑いながら注意した。


「ふふ、はいっ」 


 ヘルメも、にこにこ顔。

 口元を蒼い葉の手で押さえている。


「バルミント? あ、卵が孵るのね。みんな~、卵にひびが入ったわよぉ」 


 レベッカが皆へ向けて大声を出して呼び寄せる。


「記録しておかなきゃ」

「ついに竜が!」


 リビングにいたと思われるミスティとユイの声が響く。


「マイロードの御子が!」

「ん、シュウヤの赤ちゃん!」 


 カルードとエヴァの声も響いてきた。 

 何か違う気がするが、皆、部屋に入ってくる。 

 その瞬間、パカッと小気味いい音を立て、卵が割れた。 

 割れた殻を小さい頭にかぶって現れたのは、幼竜。


 ヒヨコサイズだ……カワイイ。


「素晴らしい……」


 ヘルメは全身から水飛沫が発生。

 喜びをアピールしている。


「可愛い……」


 ヴィーネも感動したような声音だ。

 銀仮面を外して銀髪にかけている。

 銀色の虹彩は輝いて見えた。

 そして、頬のエクストラスキルの証拠の銀色の蝶々がより輝きを見せる。


「これがドラゴンの子供ね。なんて可愛らしいの……小さい魔導人形(ウォーガノフ)の型にしようかしら……」


 ミスティは研究のためか、小さい羊皮紙にメモをしながらスケッチを取る。

 小さい竜型魔導人形(ウォーガノフ)が出来上がる日も、そう遠くないのか?


「にゃ……」

「これがマイロードの御子……」 


 バルミント(仮)は最初に俺の顔を見て……。

 よちよち、トコトコ、と可愛らしく歩きつつ俺の足下に来た。 


 その瞬間、右手に微かな痛みが走る。

 親指の印が輝きを示した。


「バルミント」

「きゅっ」 


 可愛い声を出すんだな、バルミント。 

 俺は自然と印がある右手を差し伸べてみた。


「きゅっ――」 


 何とも言えない声で鳴きながら右手の掌の上にひょこっと乗る小さいヒヨコ(バルミント)


「可愛い、掌より小さい!」

「いいなー、いいなー」


 レベッカとユイだ。

 掌の上で小さい羽をばたばたと動かしているバルミントへ顔を寄せてくる。


「にゃにゃにゃ、にゃぁ」 


 黒猫(ロロ)も見上げて何回も鳴きながら肩に乗ってくる。

 俺の右腕の上を綱渡りでも渡るように、トコトコと歩いて、掌で動くバルミントに近付いた。


 バルミントに鼻を近づけ、クンクン、と匂いを嗅ぐ。

 と、黒猫(ロロ)は、ペロりとバルミントの小さい頭を優しく舐めた。


「きゅ、きゅ」 


 バルミントは黒猫(ロロ)に舐められて嬉しそうに鳴いていた。


「名前はバルミントに決定なのね」

「不満か?」

「ううん。わたしミントティーを飲んでたから、少し複雑だなと」 


 片手にコップを持ったレベッカは苦笑い。


「ん、レベッカ、そんなことない。バルミントはいい響き」

「きゅっ」 


 エヴァの声に反応したバルミントのヒヨコ竜が鳴く。


「そう? なら、よかった」

「きゅ」

「にゃぁ」 


 また黒猫(ロロ)がバルミントの頭から背中を舐めてあげていた。


「ロロ、下に降ろすから」 


 掌で鳴くバルミントを床に降ろすと、黒猫(ロロ)も降りた。

 側で、香箱スタイルで座りながらバルミントの行動を見守っている。


 餌でもあげるか。

 やはり竜といったら肉。


 アイテムボックスから、適当に肉と野菜を取り出し、磨り潰した小さい肉をバルミントに上げてみた。


「きゅいきゅっ」


 バルミントは小さい顎を広げ小さい歯で、磨り潰した柔らかい肉に噛みついて少しずつ食べていく。


「わぁ、肉を食べてる」

「ご主人様、竜の生態系に詳しいのですか?」

「いや、竜なら肉を食うだろうと単純に考えて出してみた。魔力は当然として、他にもミルクとかをあげたほうがいいのかな?」

「にゃおん」 


 すると黒豹の姿に変身した黒豹(ロロ)がゴロニャンコするように寝転がっては、腹を見せる。

 そこには、可愛らしい乳首があり、おっぱいがあった。

 猫の時は小さな乳首でしかなかったが、黒豹なのでそれなりの大きさになっている。

 スマートな黒豹戦闘スタイルで、ピンクの可愛い乳首ぐらいしか考えていなかったが……。

 

 その腹には……。

 実はロロこそ、隠れ巨乳の持ち主だったのか!


 あ、まさか……。


「……お前はミルクを出せるのか?」

「ン、にゃあ」 


 その瞬間、ロロの乳房の先からミルクが……。


「すげぇ」

「ロロ様がお乳を……わたしも水を……」

「ヘルメ、巨乳から水を出さなくても、俺も水なら出せるからな?」

「は、はい……」

「きゃぁ、ロロちゃん、凄いっ、母親なのね!」


 レベッカが叫んで興奮。


「きゅっ――」 


 バルミントもお乳の匂いを感じとったのか、母たる黒豹(ロロ)の腹へと、自然とトコトコと歩いてロロの乳房へ口をつけて乳を飲んでいた。


「ロロ様が竜の母様に! 何と、微笑ましい光景か!」 


 ヴィーネは乳を上げている黒豹(ロロ)の姿を見て、尊敬の眼差しを向けながら興奮していた。


「御子たる幼竜は元気ですな。凄まじい竜に育つでしょう。将来が楽しみです。成長を遂げたら戦術の幅が大きく広がりますな……」

「もう、父さん、ここは素直に感動するとこよ」 


 ユイが元軍人としての血が騒いだカルードのギラついた視線にツッコミを入れる。


「……そんなことより、今はロロがミルクをあげているが、バルミントにとってはここにいる皆が、母親であり父親であることを覚えておいてくれ」 


 カルードの真似をするように、真面目な顔を意識した。


 バルミントが、すくすくと健康に育ってくれれば嬉しい。 

 いつか空を一緒に飛びたいな。


「わたしが母……」

「ん、分かった。ミルク出るかな?」 


 ……エヴァ。

 天使の微笑を浮かべて、自らの巨乳を揉んでいる……。

 少しエロい。


「む、そ、その大きさ、な、なぁらぁ? 一杯あるでしょうよぉ、ふん」 


 あぁ……エヴァが自分の胸を触るから……。

 最近は胸が少し膨らんできている(自称)レベッカさんが反応してしまっていた。


「わたしはご主人様専用ですので、可愛いバルミントでも、ミルクはあげません」

「さすがにヴィーネの大きさに負けるけど、わたしもシュウヤにだったら、いいよ」

「ん、ヴィーネにもユイにも、負けないっ」


 エヴァは魔導車椅子に座りながら背筋を伸ばし、視線を二人へ向けている。


「閣下へのご奉仕ならわたしが一番です」 


 なんと素晴らしい女性たちだ。


「さすがはヴィーネ、ユイ、エヴァ、ヘルメだ……」

「何が、さすがよ。エロい顔を浮かべて偉そうにっ、わたしだって……少しは膨らんできてるんだからね!」 


 レベッカは蒼い瞳に炎を灯し、泣きそうな表情を浮かべては、顔を逸らしてしまった。


「レベッカ、そういじけるなって。そんなことで差別をしないのは分かっているだろう?」 


 いじけるレベッカに寄り添い優しく話していく。


「うん……」

「ん、レベッカ。いつもシュウヤに優しくされている」 


 今度はエヴァが不満気な顔色になってしまった。

 まさに、あちらを立てれば、こちらが立たぬ。


「閣下、わたしの出番ですか?」 


 水飛沫を発生させながら宙に浮かぶ精霊ヘルメ。 

 皆、その瞬間から、一種の旋律が奏でられたかのように、姿勢を正す。


 ヘルメに頼ってばかりはいられない。ここは俺が締める。


「さぁ、ふざけるのはしまいだ。もうロロもミルクをあげ終わってるし、皆は部屋を出ろ」

「はーい。そんな怖い顔しないでも出ていくわよー」

「ん」

「分かりました」

「中庭で汗を流すとして、父さん、模擬戦ね。<暗刀血殺師>としての実力をみせてあげる」

「ほぅ、言うようになったな。わたしとて、<暗剣血狂師>に進化して技は毎日の如く進化しているのだ。この間のようには、いかん。光魔ルシヴァルの<従者長>としての能力の幅を理解するのには、まだ少しばかり時間が掛かるとは思うが」


 ユイとカルードの戦闘職業か。


「うん。フローグマン家の血筋の力を活かせるようになったら、能力的に<筆頭従者長(選ばれし眷属)>とそう変わらないかもね。元々が戦場を生きた父さんだし、凄腕の暗殺者でもあるから、その経験はわたしを超えている」 


 二人はヴァンパイア風の表情を浮かべて、剣呑な雰囲気を醸し出す。

 それぞれの愛用している武器に手をかけて廊下に向かった。


「あ、エヴァ、待って。あとで工房研究室に来てくれるかしら。この間、話をしていた金属製の義足と車椅子の件で……相談したいの」 


 ミスティがエヴァを呼び止めている。

 エヴァの足は魔導車椅子からセグウェイタイプに変化していた。


「ん、御菓子も持っていっていい?」

「いいわよ。御菓子のカスを零さないでほしいけど」

「わたしも暇だから覗いていい? エヴァが持ってないお菓子を上げるから」

「勿論よ。お菓子もお願い。あと、貴方の蒼炎を灯す瞳についても少し研究をしたいと思っていたの」 


 ミスティは羊皮紙が纏めてあるスケッチブックを開く。 

 そこにはレベッカのことを考察したであろうことが書かれてあった。

 ページを捲ると……。

 他のメンバーたちのことも色々と記してあるようだ。 

 彼女は僅か数日でそこまで分析していたのか。

 頭が良い……やはり講師を行うだけの知力がある。


 学者肌だ。

 そのまま三人で話し合いながら廊下に出ていった。


 俺の部屋にはヘルメとバルミントにお乳をあげている黒豹(ロロ)が残る。


「閣下。この間からここに置いてある、この品物が気になったのですが……」 


 ヘルメはビームガンを蒼い葉の手に持ちながら独特のポーズ(ヘルメ立ち)を決めていた。


「あぁ、それはこの間、中庭で実験していた武器の小型タイプだ。危ないから貸して」

「……はい」 


 ヘルメは俺が危ないと聞いて驚いたのか、ビームガンの端をつまむように持ち、恐る恐る渡してくる。


 受け取り、意味もなくガン=カタのポーズを取った。


「閣下、何かの体操ですか?」

「……いや、気にするな」


 ビームガンをアイテムボックスに仕舞う。


「きゅ」


 仕舞っていると、バルミントと黒猫(ロロ)が足下に来ていた。


「バルミント、満腹になったか? あ、そうだ。お前の寝床を作ってやろう」


 <破邪霊樹ノ尾>を発動。

 木製の犬小屋的な物を作る。

 中に、毛布を詰め込んで柔らかくしてあげた。


「きゅきゅぃ――」


 バルミントの幼竜は喜びの鳴き声を出す。

 早速、ばたばたと小さい翼をはためかせて、小さい家の中へ入っていく。


「閣下、寝室で飼われるのですか?」

「今だけかな。成長したら中庭で飼うことになるだろう」

「きゅ?」


 竜小屋の中から出した小さい頭を一生懸命に上向かせてくるバルミントちゃん。 

 ……破壊力は中々に高い。


「……可愛らしいです。わたしのミルクを……」


 ヘルメは母性本能を刺激されたようだ。

 長いまつ毛を震わせては、竜の小屋の前で膝を折る。

 巨乳を突き出して、乳首から水を少し放出。


 黒猫(ロロ)が口を開けて飲んでいるし。


「ヘルメ、ミルクじゃなくて、それはただの水だから、却下だ」

「は、はい……」


 心残りがありそうな表情を浮かべるヘルメちゃん。


「にゃにゃぁん」


 黒猫(ロロ)が鳴きながら触手をヘルメに伸ばしていた。

 珍しく気持ちを伝えている。


「まぁ……ロロ様、ありがとうございます」

「何だって?」

「『ちち』『びみ』『あそぶ』『ちち、ぼぼよん』『ちち』『みず』『みず』『うまい』『ちち』『おっきい』『おっぱい』『くろまてぃ』だそうです」


 くろまてぃとか、俺がふざけてよくそんなことを考えていたことが伝わっていたようだ。


「要約すると、ヘルメの乳水は美味で遊べて、乳が大きい」

「はい、きっと気に入ったのでしょう」


 ……まさか、精霊のお乳水は何か、特殊な水なのか?


 あっ、水神アクレシス様の力によってヘルメは生まれ出た訳だよな。

 あの時の清水と関係があるのかもしれない。


 これは盲点だった。


「……ヘルメ、こっちに来い」

「はっ」


 傍に来たヘルメの腰に手を回して、ぎゅっと抱き寄せ、巨乳へ顔を埋める。


「あっ、閣下……」


 柔らかい双丘を頬に感じながら、顔を横に僅かにずらし、話す。


「お乳水を吸わせてもらうぞ」

「はぃ……」


 ヘルメの蕾から乳水を味わってみた。

 おぉぉ、美味しい。

 あの時の清水に近いじゃないか……。


「あんっ、閣下、歯は立てては駄目ですよ」

「すまんすまん。だが、この乳水ならバルミントに飲ませてもいいだろう。ロロにもあげていいぞ」

「にゃああん」


 黒猫(ロロ)はクレクレと肉球を見せるように両前足を上下させている。


「はい。前々からロロ様には時々あげていました。では……ロロ様とバルミントちゃん、お口を開けてください」

「にゃ」

「きゅ」


 黒猫(ロロ)とバルミントは、常闇の水精霊ヘルメの言葉に従う。


 双丘から発射されるおっぱいダブルミサイル、もとい、おっぱいウォーターはなめらかな曲線を描いて、黒猫(ロロ)とバルミントの口へ注がれた。


 ヘルメは何か恍惚としてそうな顔を浮かべていた。

 独特のポーズ(ヘルメ立ち)を取りながらお乳水を上げている。


 彼女的には植物に水をあげているのと大差ないのだろう。

 しかしながら、面白い光景であり、エロくはない。

 

 むしろ、神々しい光景でもある。

 神々しく見えるのは、黝と蒼の葉のコントラストがなせる美しい精霊の姿だからだろう。


「さ、もう仕舞いにしとけ。ロロとバルミントの腹がたぷんたぷんになるぞ」

「はい」


 黒猫(ロロ)も満足したのか顔を前足で洗っている。

 バルミントも黒猫(ロロ)の真似をするように自らの顔を短い足で擦ろうとしてコケていた。


「はは、バル、お前はドラゴンだ。ロロの真似はしなくていいんだぞ?」

「きゅ? きゅっきゅ」


 バルミントは何かを言いたげに顔を見せる。

 が、そのまま竜の小屋にトコトコと歩いて穴の中に入って丸くなっていた。


 そこに廊下から走ってくる音が響いてくる。


「ご主人様、お客様です」


 メイド長のイザベルだ。


「誰?」

「レーヴェ・クゼガイル氏です。中庭にてお待ち頂いております」


 猫獣人(アンムル)の八剣神王か。

 しかし、メイド長は幼竜の姿に反応を示していない。

 今はプロに徹しているらしい。


「……あいつか、分かった。今向かう」

「閣下、わたしはリビングで瞑想してきます」

「了解」


 ヘルメは水飛沫を足元から発生させながら、部屋を出ていく。


 さて、レーヴェと対決する前にアイテムボックスから、邪神ヒュリオクスの使徒のパクスが持っていたオレンジの刃を持つ魔槍グドルルを出す。


 アイテムボックスには登録せずに、普通に使う。

 戦いの途中で<投擲>しつつ伸びきったところでグドルルを離して魔剣ビートゥを使うとか。

 または、魔槍杖バルドークをフェイントのように出現させつつ使えば……。

 相手は吃驚するに違いない……。


 新しい酒を皮袋に盛るように……。

 少し奇抜な姿で戦う様子を想像(イメージ)しつつ部屋にあった絹の長服とズボンを着た。


 部屋に新しく設置されたマネキンに掛けらた愛用の紫の鎧は裂けている。

 装着はしない。

 いつかザガに直してもらうかな。


 すると、廊下からメイドたちが部屋に入ってきた。


「ご主人様、いつもの外套はこちらに」


 持ってきてくれたらしい。

 外套も切れた個所があるから、形はいまいちなんだけど、しょうがない。


「いつもすまないな」

「いえ、仕事ですので」


 メイドたちは慎ましい態度で頭を下げていた。

 イリアスの外套を、俺が着やすいように背中に回してくれた。


 こういうさり気ない、優しさはいい。

 俺は彼女たちへと『ありがとう』と感謝の気持ちをもって、その外套へ肩を通し身に纏う。

 戦いやすいように外套を左右へ広げた。


「ご主人様、中庭で座っている方と戦われるのですね」

「そのつもりだ」

「この間の神王位との戦い、カッコよかったです。頑張ってください」


 クリチワが狐耳をピクピク動かしながら語る。

 可愛いが、プロのメイドさんだ。俺もそれなりに表情を引き締めて、


「おう」


 と、返事。

 狐耳に触ってみたい欲望に駆られたが自重し、自らの腕を見ていく。


 アイテムボックスがある以外、防具はなしの状態だ。

 両手首にある<鎖の因子>マークは派手な鎖の竜的な絵柄へ成長を遂げている。  


 二の腕には壊れた光輪(アーバー)の環が皮膚にめり込み膨らんでいるから……。

 少し気になったが、ファッション的な小道具に見える。


 これでよし。


 リビングで瞑想しているヘルメを横目に、小さい聖像、燭台が置かれたいつもの大きい机があるリビングの空間を通り玄関扉から外へ出る。


 そして、テラスにある小さい階段を下り中庭へ出た。


 あ、この階段、エヴァのためにバリアフリーにしよう。

 両手から<鎖>を射出し階段に穴を空ける。

 一気に削るか――<血道第三・開門>。


 <血鎖の饗宴>を発動した。


 無数の血鎖の群れが小さい階段を木っ端微塵に吹き飛ばす。

 よし、小さい階段を破壊した。

 続いて<邪王の樹>を意識して滑らかな上りやすい、小さい坂になるようにイメージしながら樹の坂を作り上げた。


 これでいいだろう。

 血鎖を消失させる。


 小さい滑らかな坂の出来栄えに満足。

 木工のスキルがあれば、もっとデザイン性が高く性能がいいのが作れたのだろうか。


 そんなことを考えながら中庭に振り向き、歩き出した。


 中央には猫獣人(アンムル)の姿が見える。

 石畳の上で胡坐の姿勢で瞑想を行っているようだ。


 中庭の右端にある大きい樹木が生えている場所では、ユイとカルードが激しい模擬戦を行っている。

 互いに軽装だが、切り傷が多いので、ユイは白いお腹に白い太腿が露出して血が舞っていたが、悩ましい恰好になっていた。


 カルードのぶらさがってる部位は見なかったことにする。


 俺は頭を左右に振ってお稲荷さんの映像を振り払う。

 気を取り直し、猫獣人(アンムル)を見つめる。


 彼の目の前の石畳の上には、抜き身の四剣と鞘が揃えられて置かれてあった。

 もうその座っている姿を見ただけで分かる。

 凄腕な雰囲気を持ち合わせていた。


 ……大小様々な長剣からは魔力が発せられているし、瞼を閉じている姿からしても隙がない。


 明鏡止水。そんな言葉が脳裏を過る。

 突然三つの目が見開いて、群がる蠅を箸さきで掴みそうな気配だ。


 そんな空気を壊すように話しかける。


「お待たせしました」

「……ついに、来た。この時を待っていたぞ。シュウヤ・カガリ殿」


 鋭い眼光を見せてくる三つ目の猫獣人(アンムル)

 話しながらも威風堂々と武士のように背筋を張った姿勢を保っている。

 それに、ダンディな声だ。


「勝負がしたいとのことでしたね」

「そうですな。野試合となる」

「了解。丁度、今日は暇でして……」


 そこで敬語は止めた。


 レーヴェは床に置いてある抜き身の四剣に対して尊敬の念を抱いているように、頭を下げてから灰色の毛が目立つ手でその剣たちを掴むと、立ち上がった。


 青白い光を剣身に帯びた反った魔剣を上肢の右上腕と左上腕に持つ。

 上肢の左下の腕だけが異常に太い腕だ。

 その異常に太い左手には緑色に光る短剣が握られている。

 上肢の右下の腕には刃がノコギリ状の長剣で柄の部分が紐状の革で巻かれてあるのを握っていた。


 四剣の峰をそれぞれ違う方向へ向けて構えている。

 三つの鋭い瞳からは仁王像を連想させた。


 四剣流か……一片の隙すら窺えない。

 俺は無言で魔槍グドルルを正眼に構えた。


 その瞬間、上肢の左上腕の手に握る魔剣の青白い刃を横に寝かせたレーヴェは、


「神王位第三位、四剣のレーヴェ、いざ、参るっ――」


 口上を述べると石畳を蹴りながら、剣を薙いでくる。

 独特の剣気が籠る、雲を切るかのような魔剣による横薙ぎだ。


 その雲斬りの剣薙ぎを、右へ回りこみながら鼻先一寸の間合いで避けた。

 槍の間合いからレーヴェの脇腹へ魔槍グドルルを突き出す。


 穂先のオレンジの刃がレーヴェの腹に直撃すると思われた。


「――鋭い」


 彼はそう短く呟きながら、一つの目で俺の全身を捉えつつ二つの目で、しっかりと、俺が放ったオレンジ刃の突きを捉えていた。

 上肢の右下腕の手に持つノコギリ刃の長剣を上げて、俺のオレンジ刃の突きを弾く。


 レーヴェはここからが本番というように、全身に魔闘術を纏う。


「ふふ、楽しいですな。さぁ――行きますよっ」


 体の向きを変え正面に向ける。

 と、そのまま前傾姿勢で俺を追跡。


 四つの腕が握る特殊剣による素早い突剣技を繰り出してきた。


 ――はぇぇ。

 一気に間合いを潰してきた。


 俺も全身に魔闘術を纏い対応。

 師匠を超える剣突の速さに驚きを覚えながらも、自然と体が動く。

 体を捻り、回転。

 剣突を確実に躱し避けながら――。

 

 両手に握った魔槍グドルルで月の円でも中に描くように動かしつつ受けに回った。


 胸に迫った剣突を、その月を描くような魔槍グドルルの上部で弾く。

 関羽の青龍偃月刀のような魔槍グドルルから火花が散った。

 続けざまに、レーヴェは素早い剣撃を披露してくる。

 

 分裂するような剣の穂先。

 俺は薙刀に近い穂先のオレンジ刃で、刹那の間に迫りくる剣突を弾いた。

 そのまま、魔槍グドルルで正眼に移行。


「――やりますね、槍の神王位と呼ぶべき実力者……」


 俺を褒めるレーヴェ。

 その褒める言葉さえもフェイクに使うように巧みにタイミングを変えて、「黄泉返し――」と、呟くと、上から振るいつつ、同時に剣を下から振るう。

 

 俺は、反応が遅れるが、オレンジ刃の幅を活かす。

 退きながら、その穂先で、宙に八の字から十字の絵を描く。

 

 次々と突き刺そうとしてくる三つの剣突を往なした。


「――素晴らしい槍技術――」


 反撃に短く持った魔槍グドルルで、お返しの突きを出していく。

 しかし、オレンジ刃の突きはあっさりと青白い刃を持つ魔剣により斜めに弾かれた。

 レーヴェは厳つい相貌にある二つの目と額にある一つ目で視線によるフェイントを行ってくる。


 確実に、強者。


 猫の毛が舞うほどの機動をみせる歩法からの上肢腕を斜めに振り下げて、俺の肩口を狙う連続した袈裟斬りを、俺は体を捻り避ける。

 続いて、上肢の右下の腕に握るノコギリ刃の水平斬りを、屈んで、躱す。

 低い体勢からお返しに<刺突>を繰り出す。

 続けて、連続した魔槍グドルルの突きをレーヴェの胸元に繰り出す。

 が、短剣で軽く弾かれた――。


 そこから互いに、突き、払い、蹴り、斬りを繰り返す。

 頬、耳に、ミリ単位の傷がつき、切れた髪の毛が中空に舞う。


 レーヴェの装備するブラックコートは破れる。

 体の一部も斬った。

 傷が増えていくが、レーヴェは細かな傷が増えても怯まなかった。


 更に、上肢の両上腕に持つ魔剣。

 右下腕の手に握るノコギリ刃。

 の三つの腕による、切っ先がぶれたような、三連の剣薙ぎを繰り出してくる。


 俺は柔軟な足運びを意識。

 体の軸をブレさせることなく両手に持った魔槍グドルルで、三連の剣薙ぎを受け払い、反撃。


 幅広いオレンジ刃を活かす!

 右から左へ風が起こる薙ぎ払いをレーヴェの胴を抜くように返した。

 が、レーヴェは、極端に姿勢を低くしながらオレンジ刃を避けた。

 同時に、水面蹴りの足払いを繰り出してくる。


 その足蹴りを軽く跳躍しながら躱した。

 俺は僅かに下から弧の線を描く石突の部位で、レーヴェの顎を狙う。

 が、レーヴェは仰け反って顎の一撃をあっさりと避けてきた。


 更に、レーヴェは一段階速度を上げた。

 俺の着地際に合わせたレーヴェは、上段から魔剣を振り下げてくる。

 急ぎ魔槍グドルルを持ち上げて反応。


 そのレーヴェが繰り出した必殺的な青白い刃をオレンジ刃で受けた。


 ――激しい火花が散る。

 不協和音の金属音が鳴り響く中……身体能力を活かそうか。

 レーヴェの魔剣を力で押し返し、石畳の上にレーヴェの魔剣の刃を押し付けてやった。石畳が、その魔剣で斬られて溝ができて塵が舞う。

 その力による押し付けからの力の均衡を崩す機会を窺った。


 ……タイミングを微妙に計る。

 石畳が削られ斬られ立ち込めてきた塵が舞う最中……。

 ここだ、と決めたところで――。

 舞う塵を掻き混ぜるようにイメージしつつ体を引く。

 両手に持つ魔槍グドルルを一瞬下げつつ彼の頭目掛けて――。

 風の奔流を新たに孕むかのような、オレンジ刃をぐるりと縦回転させて、振り下ろした。


 レーヴェも押さえつけられていた魔剣を振り上げて反応。


 またもや、オレンジ刃と青白い刃が衝突。

 そこから速度を落とさずに、薙ぎ払いを行うが、下向きの脇に構えていたノコギリ刃に防がれた。


 レーヴェは体を横回転させる。

 右回りに早歩きをしつつ俺の肋骨を斬るような回転斬りを繰り出してくる。

 が、そのレーヴェの回転軌道と、合わせるように、俺も回転避け(ルーレット)で躱した。


 彼は避ける俺へ追撃はしてこなかった。


 動きを止めて、右下腕の手に握るノコギリ刃へ魔力を集中させる。 

 刹那、線状のギザギザ刃で空間ごと頸を削り取るように突いてくる。


 スキル? その突きは速い。


 俺は魔槍グドルルのオレンジ刃で受け流すが、刃が弾かれてしまい、右腕をかすめて、血が舞った。


 ――痛ぇぇ。


 痛みを我慢しながら、魔槍グドルルの後部にある石突を掬い上げながらレーヴェの顎を狙ったが、彼は後ろに引いて距離を取り、魔闘術とは違うように両手に魔力を集中させた。


 ん、今のと同じ、何かの技か?

 鋭い踏み込みからの魔槍グドルルの太いオレンジ刃による<刺突>を放ちながら、様子を見た。


「――ははっ、やりますね」


 レーヴェは笑いながら、ふさふさの毛が目立つ左右の上腕の手に握られた反った魔剣による十字ブロックを行い、俺の<刺突>を防ぎながら、もう一つの右下腕に握られたノコギリ刃の剣を顔へ伸ばしてきた。


 顔面に迫るノコギリ刃をぎりぎりの距離で躱しながら、左右の上腕に持つ魔剣の柄部分から赤い枝が発生するのを確認。


 なんだありゃ。

 生き物のように赤い魔力枝が蠢き、毛深い両腕を覆っていく。


 その瞬間、レーヴェの顔、首に続いて全身にあった切り傷が回復していた。


 だが隙がある。

 回復した僅かに集中力が切れた瞬間を狙い、腰を捻り螺旋力が腕から魔槍へ伝う<刺突>を打ち出した。


 ――金属音が響く。彼の懐は深い。

 四つの左右の腕にある魔剣、剣、短剣をクロスさせて防がれた。


 レーヴェはそこで、またもや、距離を取る。


「ふぅ……こんな重い攻撃は久しぶりです」


 息を整えながら、俺を褒めてきた。

 今の一呼吸で息が上がっていたのを、もう回復させている。

 独特の呼吸法(スキル)でもあるのだろうか。


「やはり、貴方は強者、一流、神王位クラスなのは間違いないですな」

「当たり前だが、お前もな――」


 休ませるつもりはない、続けて<刺突>、魔闘術を纏う<刺突>、魔闘術を纏わない<刺突>、緩急をつけ微妙にタイミングをずらす。


「くっ」


 彼は息を吐いて剣の間合いに入ろうとするが一番遠い間合いである長剣の範囲は見切った。

 余裕を持って槍の間合いから微妙にタイミングを変えた<刺突>を撃ち放っていく。


 レーヴェの左下腕の手に握られていた防御用の緑短剣を弾くことに成功。


 ――チャンス。

 <刺突>を超えた技、<闇穿>を放つ。

 撃ち出される螺旋されたオレンジ刃の表面に闇の靄が纏う。


 だが、レーヴェは魔槍の刃を受けるのではなく、ブレるように体を揺らして<闇穿>を避けてきた。レーヴェは地面に寝るような低い体勢となる。

 短剣を持つ太い左腕一本で大柄の体を支えて倒立――。

 左腕を活かした不規則軌道で前進してくる。

 開脚された足先から隠し剣の紫の刃が生えた。下から上へと蹴り技を放つレーヴェ。

 紫電の弧を描く魔剣の刃の乱舞か。複合的な蹴り技を繰り出してきた。

 急遽、伸びきった魔槍グドルルを捨て、間合いを保つことを狙う。

 が、隙を縫うような足から伸びた刃をもろに右足に喰らった。

 薙ぎ機動の魔剣の刃を、太腿と下腹部を斬られた。

 一物の一部も斜めに斬られてしまう。痛すぎる。


「ぐっ――」


 血が散った。痛いが、右手に魔槍杖バルドークを召喚。


 血を周囲にばら撒く回転避け(ルーレット)から片手で側転を行う。雷光といえる不規則軌道な剣突を避けてから、下に弧線を描いた斬撃を魔槍杖の後部で弾く。


 足の傷はふさがったが、こいつはすげぇ強い。

 四剣流どころか、足に隠し剣とはな……。

 やはり、慣れ親しんだ魔槍杖バルドークで相手をしてやろう。

 まぁ、基本は変わらないのだが。


「――どうしました? 紫の死神とて、初めて傷を負ったような顔を浮かべていますな。魔力操作が少し鈍っているようにお見受けいたす。そんな柔い人ではないと判断しますが?」


 不規則な体勢から普通の体勢に戻ったレーヴェは余裕な態度で話してくる。


「……柔いよ」

「甚だ疑問ですな。傷はふさがっているので、特異なスキル持ちと判断しますが」

「お前も特殊な魔剣を使い回復していたな」

「これも技の一つと言えましょうか。ところで、貴方の洗練された魔闘術の動き、大体、分かってきましたよ」

「そうか?」


 俺は邪悪な笑みを浮かべ、再び、<魔闘術>を全開。

 前傾姿勢で左手に魔剣を召喚し、反った魔剣ビートゥの赤黒い刃を猫獣人(アンムル)のレーヴェの下半身へ向かって弧線を描かせる。


 プランA作戦だ。


 彼は太い左手を足場に使った不規則軌道剣術で――。

 魔剣ビートゥ(プランA)の刃を受け流そうとしていた。

 俺は、そのタイミングであまり普通の奴には使わない。


 あまり使いたくないスキルを発動する。

 <脳脊魔速(切り札)>を使用した。

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