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槍使いと、黒猫。  作者: 健康


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百八十七話 神殺しの闇弾

2021/02/10 17:35 修正

 

 邪神シテアトップは青白い鎖を振り払う。

 周囲の青い霧を吸収し体を膨張させた。

 その膨張した黄土色の毛が盛り上がる。内部の皮膚と筋肉が張ったのか、波を起こすように、本当に黄土色の毛がウェーブしていく。


 太い前足の邪神シテアトップ。

 その前足から虎や獅子といった獣を超えた鉤爪を伸ばす。

 鉤爪で地面をガリガリと抉る――と、ネコ科動物としての特徴を活かすように、胴体を曲げつつぐわりぐわらりと器用に回りに回った。


 獅子舞を彷彿とする動き。

 そして、頭部を、のそりと、こちらに向けた。


 双眸はギラついている。

 鋭い鏃のような眼は恐怖を抱かせる。

 口元の髭が香油で光った。


 野獣極まりない巨大な虎。

 十本の長尾を従えた姿で立つ虎邪神シテアトップか。


 が、その姿は……。

 どことなく古代中国でも有名な妖狐にも見える。


 虎邪神シテアトップは(ひげ)を歪めつつ、口を広げて歯牙を晒すと、


「ヌハハハハハハハッ!」


 噴き出した笑いだが、威圧的だ。

 凍てつく波動のような圧力を感じた。


「使徒の槍使いよ、求めよ、さらば与えられんっ! だがぁぁぁ、やはり簡単には、力を授けてやらない……ンギャッハッ」


 虎邪神は、意味のあるような言葉を発すると、俺に吶喊。

 左右の巨大な前足から黄土色の長い爪が伸びる。


 やはり嘘か。


 新しいスキルの確認をしたかったが。

 両手から<鎖>を出す――。

 <鎖>の狙いは、俺を突き刺そうとする黄色い爪を持つ前足だ。

 

 狙い通り――。

 <鎖>の先端は虎邪神の巨大な両前足を貫いた。


 その<鎖>を瞬時に操作。

 胸元をおっ広げてやろう!

 巨大な両前足に<鎖>を絡ませつつ――虎邪神の左右の腕を、左と右に引っ張るように移動させた。


「――げぇぇぇ、なんじゃこりゃぁっ」


 虎邪神は叫ぶ。

 イエスキリストを十字架に張り付けたように虎邪神の腕を宙に縫い止める形となった。


 虎邪神シテアトップは両腕を振り回し、元気に、


「グハハハ、俺様の皮膚を突き刺すとは!」


 <鎖>で、両腕を貫かれている虎邪神だが効いていないようだ。


 高らかに笑うと、


「――随分と鋭い矛を持つのだな! だがァッ!」


 <鎖>が突き刺さったままの自らの腕を強引に引き裂きいて、<鎖>から腕を解放させた。


 腕の裂けた傷から黄色の毛が散る。

 同時にどす黒い血が迸った。


 ――刹那。

 その、どす黒い血が、無数の黒槍に変化を遂げる。


 黒槍は俺たちに飛来してきた。


 ――その迫った黒槍を魔槍杖で撃ち払う。

 俺は距離を保ったが――。


 皆にも、豪雨が降りかかるように黒槍が向かう。


 ユイは魔刀で黒槍を切り伏せる。

 ヘルメは水状態で被害はなし。

 ヴィーネは華麗に黒槍を躱す。

 エヴァは紫魔力を帯びた黒トンファーで黒槍を圧し折り、


「ん、この黒槍は鋼鉄。けど、黄色の葉がついてる」


 黒槍を叩き折った感触が鋼鉄のような感触だったらしい。

 力強い一面もあるエヴァは魔導車椅子を駒のように回して華麗に黒槍を避けていく。


 蒼炎を身に纏ったレベッカも、


「もう、何よっ、この黒槍は!」


 そう言いながらも魔法使い系とは思えない速度で黒槍を避ける。


「ンン、にゃぁ、にゃっ、にゃ――」


 黒豹のロロディーヌだ。

 首元から出した触手骨剣で目の前に迫った黒槍を跳ね返すように弾く。

 更に、回転しながら黒槍に向けて跳躍。

 次々と迫る黒槍に飛び移っては、黒槍の上を走る。

 そして、その黒槍を蹴って他の黒槍に飛び移った。


 曲芸的な遊びを繰り返す。

 ロロは何でも遊びに変えてしまうから面白い。


 カルードは黒槍を見事に一刀両断していた。

 しかし、足先に違う黒槍が当たり転んでしまう。


「――父さん、大丈夫? すべてを斬ろうとするからよ」


 ユイは身に迫る黒槍を幾つも斬りながら、冷静に父へ語りかけていた。

 あの辺は場数を感じさせる。


「大丈夫だ。もう再生した。まだ、力の匙加減が難しくてな」


 カルードはまだルシヴァルとしての力を活かしきれてないようだ。

 一方で、沸騎士たちは――。


 方盾で黒槍を防ぐ。

 しかし、連続的に迫る黒槍を受け続けた方盾は弾かれてしまった。


 そして、沸騎士たちの胸元に黒槍が突き刺さる。

 煙を纏う鎧ごと胸が貫通していた。


 沸騎士たちは床に倒れた。


「閣下ァァァァ」

「ぐぬぬぬ」


 ミスティ自身は沸騎士たちの光景を見て――。

 青ざめた表情を浮かべていたが、逃げるように黒槍を避ける。

 しかし、ミスティが操る盾代わりのゴーレムは黒槍に貫かれて粉々になった。


 沸騎士以外は大丈夫そうだ。

 目の前に迫る黒槍を避けて弾きつつ皆の様子を見て、安心していると虎邪神シテアトップが、


「なんなのだ、この、臨機応変に対応する者たちは……」


 唸るような声質で喋る。

 虎邪神シテアトップの黄色い毛を生やしている両腕の傷は再生していた。

 虎邪神は俺を睨むと四肢の筋肉が盛り上がった。


「ならば直接、頭を潰してやろう、フンッ――」


 床を焦がすような膂力で突進してくる。


 ――速い。

 虎邪神は黄色い毛が目立つ片腕を振り下ろしてきた。

 指先には、黄色から黒色に変化した両手剣の幅はある爪が伸びていた。


 反射的に――。

 魔槍杖で、その太い黒色の爪を受けた――。


 がっ、重い。


 ――受けきれない。


「ぐをっ」


 爪の斬撃を頭部に喰らった。

 イリアスの外套の一部が切断。


 痛ぇぇぇ――。

 紫色の魔竜王の鎧が斜めに大きく裂かれた。

 ――ぐあぁ、右腕をも――切断された。


 ――凄まじい衝撃を受けた。

 後方へ吹き飛ばされる。


 ぐぁ――ぐえお――うへぁ――。

 と、硬い岩盤のような地面とぶつかる。

 何度も打ちのめされ、もんどり打って横転を繰り返す。

 無事な左手の<鎖>を射出――。

 地面に刺さった<鎖>で勢いを殺す――。

 <導想魔手>で背中を包むようにクッションにして、やっと動きが止まった。


「……痛すぎる……パクスといい、さすがは神の一部……」


 一瞬だけ左の視界が真っ暗となったが、すぐに再生し視界が戻った。

 血塗れだが、右腕も再生し元通りだ。


 握ったり、開いたりしても違和感なし。


 愛用の魔槍杖は古い右腕に握られた状態だ。

 当然、前方に転がっている。

 切られた右腕のほうは、アイテムボックスが嵌まった状態。


 あれは絶対に回収しないと駄目だ。


 んだが、右腕が二つあるということだよな……。

 不思議だ。首が切断されたら、頭部はどうなるんだろう。

 瞬時に頭部が再生して、前の視界と合わさって、四つの視界になったりするのだろうか……。

 マルチコアCPUで先をいくAMDのような、いや、何を、混乱したようだ。


「ご主人様っ」

「シュウヤッ、大丈夫?」


 皆は、黒槍の群れの攻撃を避けながらも、俺がやられたのを見て、焦った表情だ。

 あまり聞いたことのない切羽詰まった声を上げていた。


 俺は仲間たちへ無事をアピールするように、


「大丈夫だ――」


 そう大声を叫ぶ。

 あまり大丈夫じゃないかもだが――同時に――血魔力<血道第三・開門>。

 <血液加速(ブラッディアクセル)>を発動。

 続けて<血鎖の饗宴>も発動した。


 血を操作し、足の皮膚から血を出す。

 魔竜王のグリーブの表面を、赤黒く血で染めていく。

 硬い床を踏み潰すように蹴りながら――。


 放出した血鎖の一部を切断された右腕に向かわせた。

 右腕の肘があった断面へと、試しに――。

 血鎖の先端を突き刺して繋げた。

 ――なんと、おぉぉ……血鎖と切られた腕を合体させると、その腕と感覚がリンクした。


 ――もう一つの腕を持ったと分かる。

 思わず、笑いが込み上げてきた。


「フハハハッ、ここに、三つ腕の槍使いが誕生せり――」

「再生だと!? ……人ではないのか」


 虎邪神は、突如、笑いつつオカシナことを宣言する俺の姿を見て警戒したようだ。


 虎の頭部を屈めながら後退した。


 そんな後退した虎邪神へ向けて、両手首から普通の<鎖>を射出。


「ふん、それはもう喰らわん――」


 虎邪神シテアトップは、俺の二つの<鎖>を絶妙な動きで踊るように避けた。


 そのお陰か、黒槍の、皆に降り注いでいた流星雨的な攻撃は止まった。


 避けた機動のうちに――。


 血鎖と繋がった右腕を操作。

 血鎖と繋がる古い右腕握る魔槍杖を呼び寄せた。


 シュールだ。


 切断されている右腕を持つ。

 と、いまだかつてない不思議な感覚を得る。


 自分の腕を、新しい腕で握る。

 未知なる感覚。


 刹那――。

 切断された右腕の指に嵌まっていた闇の獄骨騎ダークヘルボーンナイトの指輪が、(うごめ)いた。


 その蠢いた指環が変形しつつ自動的に俺の新しい指へと嵌まる。



 沸騎士たちは黒槍に貫かれて消えている。


 もう魔界に戻っているはずだ。

 あいつらの意識が、この指輪に乗り移っていたのかもしれない。


 そんなことを考えながら素早く――。

 古い右腕からアイテムボックスを外し、新しい右腕に嵌め直した。

 アイテムボックスを操作――。


 パクスが持っていた魔槍グドルルを取り出しては、新しい再生した右腕で握る。


 血鎖と(つな)がっている魔槍杖を握っている古い右腕を操作しつつ上に移動させた。


 やはり、古い右腕の感覚は不思議だ。

 <導想魔手>ではない、リアルな手が一つ増えた状態だ。


 一方、虎邪神はとぐろを巻く勢いで蛇の如く動いている<鎖>の先端(ティアドロップ)を避け続けている。

 先ほど体を貫かれたことが、余程、嫌だったようだ。

 素早く避ける虎邪神に対して、エヴァの土魔法、レベッカの火魔法、ヴィーネの風魔法が追尾しながら衝突するが、黄色い毛の皮膚が僅かに貫かれ表面が燃えるだけで通じなかった。


 続いてレベッカは蒼炎を纏う両手で、蒼炎弾を作ると、その蒼炎弾の<投擲>を行った。


 レベッカの<投擲>した蒼炎弾は虎邪神の黄色い毛が深い個所(かしょ)の左の腹と衝突。


 貫きはしなかったが腹を陥没させていた。


「ぬぐおっ、俺様に直で、ダメージだと!?」


 虎邪神は<鎖>を躱し避けながらも、蒼炎弾を放ったレベッカを睨む。


「きゃ、怖いっ」


 レベッカは慌てて、素早く走り逃げていた。


 ヴィーネも魔法を止める。

 短弓から長弓へと変化させた翡翠の蛇弓(バジュラ)を構える。


 ――美しい翡翠の蛇弓(バジュラ)

 ――上弭と下弭の蛇模様の翼飾りが目立つ。

 それでいてヴィーネの両手首からは緑の煙的なオーラが漂う。

 緑オーラが包む青白い指が、レーザー的な光る弦を引くと、緑色の光線矢が放たれた。


 その光線矢は、素早い虎邪神を追尾し、見事に、虎邪神の胸に突き刺さった。

 刺さった光線の矢を中心に、円状の黄色の毛が溶けた。

 円の禿げが露わになると、刺さっている光線矢から緑色の蛇たちが、虎邪神の皮膚の内部に浸透。

 

 蛇たちは瞬く間に見えなくなると、禿げた円から緑と蛇と薔薇の閃光も出る。

 魔界の女神の力が躍動するような閃光を発した円状の皮膚は刺さった光線矢ごと小規模的に爆発。


 周囲の皮膚と血肉が吹き飛んだ。


 黒い斑点のような傷が周囲に発生。

 黒い血を噴出させる。


「グアアッ」


 邪神シテアトップは痛みの声を発した。

 翡翠の蛇弓(バジュラ)が生む光線の矢は強烈だからな。

 

 だが、虎邪神は虎邪神シテアトップ。

 痛みの声を上げつつも、俺の<鎖>を避け続けている。

 

 黒豹(ロロ)はそんな虎邪神の背後へと走った。

 ミスティは新しくゴーレムを作りつつ、少し距離を取る。


 ユイとカルードは黒豹(ロロ)と連携するつもりか?

 虎邪神の左右へ走った。


 さて、俺はあれを試すか。

 血鎖と繋がった右腕は頭上高くに浮かせた状態。


 この間の新武器を……。

 <鎖>を放出している両腕、二の腕へ魔力を集中――。

 二の腕の内部に格納されてあるモノへと魔力を送る。


 ――新武器の光輪(アーバー)を発動した。

 その瞬間、二の腕から手首の位置まで、連なる光の環が出現。

 掌には、チャクラム系の武器の光輪が出現。


 前回と同様、光の魔法文字が、その光の環の周りを高速で回っている。


「――光輪だと? まさ、か……」


 虎邪神は<鎖>を器用に避けながらも、驚いていた。


 光輪の武器(アーバー)を知っているようだ。


 眼を見開いている虎邪神の顔を見ながら、二つの光輪(アーバー)を射出。

 狙いは邪神の踊るように動く四肢。


 それも黄土色の毛並みが濃い脚だ。


「ひぃぃっ、嘘つきな槍使いめぇぇぇぇ、神界の使徒めがァァァ」


 欺いたのはお互い様だろう。

 と言っても、俺は神界の使徒ではないが。


 虎邪神は避けようと脚を動かす。

 が、二つの<鎖>を避け続けている虎邪神シテアトップは動きが鈍るや、二つの光輪(アーバー)は太い脚へ吸い込まれるように沈み込んだ。


 光輪の武器(アーバー)は細い円盤のような傷を虎邪神の足に生み出す。


「ぎゃぁぁぁぁ」


 虎邪神シテアトップの脚の内部に入った二つの光輪(アーバー)を操作。


 光輪の武器(アーバー)は虎邪神の脚を、内部から縦横無尽に切り裂く。

 

 邪神シテアトップの太い脚を四散させた。


「ひぃぁぁ……、脚がぁ」


 虎邪神は自ら切り裂かれた骨の一部を見つつ悲鳴を上げる。

 虎邪神シテアトップの足は肉が落ちつつ黒血が大量に迸っていた。

 

 まだだ――。

 俺は<鎖>を操作。

 二つ<鎖>が動きが止まった虎邪神の肩を狙う。

 <鎖>は獲物を得たように虎邪神シテアトップの肩に喰らいつく。

 よっしゃ、<鎖>は虎邪神の両肩を貫いた。

 胸の一部をも貫く。

 このまま引っ掛ける!

 アンカーにしながら虎邪神シテアトップの両腕へと回す。

 あるイメージをしながら、<鎖>を操作――。

 虎邪神シテアトップの腕の表面を雁字搦めに巻き取るように<鎖>を絡めていく。


 もう、逃がさない――。 

 そう、イメージとは納豆巻きだ!

 異世界で納豆巻きが食べたいんだ、ゴラァァァと変な気合いの元、虎邪神シテアトップの二の腕を<鎖>で納豆手巻きにしてやった。


 念のため<光条の鎖槍シャインチェーンランス>を連続で二発射出――。

 光槍は、宙を裂くように飛翔し、虎邪神の腕先へと向かう。


 <光条の鎖槍シャインチェーンランス>は虎邪神の両手を貫いた。


 刺さった光槍の後部はイソギンチャク的な動きで分裂をくり返すと光の網へと変形。

 その光の網は<鎖>が絡む虎邪神の体を巻き込みながら――虎邪神の手の甲を光の網で覆った。


 そのまま虎邪神の体を床に押さえ込む光の網。

 それはガリバーが小人たちに捕まったように見えた。


 <鎖>だけでなく、二つの光輪(アーバー)をこのまま操作して――。


 全身を滅してやろう。


「――ぐっ、まさか……これを使わさせられるとは……対神界円環武具サークル・オブ・グロドッ」


 虎邪神は独特な音声で叫ぶと――。

 下半身の傷から環状の黒刃を生み出す。

 

 その環状の黒刃で光輪(アーバー)を相殺。

 

「――ガ・デズッ」


 更に、呪文めいた言葉を叫ぶと、黒色の衝撃波を放つ。

 その瞬間、左右の二の腕に埋まっていた光環から腕先まで連なる環のすべてから光が失われた。


 俺の二の腕へと環が自動的に納まる。

 呪いでも受けたのか? 試しに、二の腕へ魔力を送った。

 防具的な環は手首にまで展開しない。

 手には光輪は出現しなかった。


 しかも、黄金環の色合いが変わり、闇の色合いが斑に混ざっていた。


 こりゃ、壊れたか。

 ま、相手は邪神だ、対神界用の切り札を持っているのは当然か。


 防具としては機能するようだし……しょうがない。


 そこに、


「閣下に怪我を負わせた責任は重大です。生意気なお尻を教育します」


 邪神の背後に回り込んでいた常闇の水精霊ヘルメだ。

 怒りの形相を浮かべながら腕の先から氷槍を繰り出していた。


 光輪を封じることに集中していた虎邪神の十尻尾へ、もとい、でかいお尻へ無数の氷槍が突き刺さっていると判断できた。


 生々しい音が響いてくる……。


 脚がなくなり、尻までなくなるかもしれない虎邪神。

 虎邪神の魔法抵抗値が落ちて普通に刺さっているのか、太腿の傷口に氷槍が集中しているのかは、ここからでは見えない。


「ひゃぁぁぁぁぁっ」


 背中を反らした虎邪神の上に黒豹から姿を巨大化させた神獣ロロディーヌが跳び乗った。

 そのまま虎邪神の背中をサーフボードに見立ててサーフィンでも実行――。


 巨大な相棒は虎邪神の体で床を滑る。

 凄い倒し方というか遊びだ。


 相棒が虎邪神の背中に乗った姿で、一方的だが、巨大な神獣と巨大な虎邪神が戦う姿は、絵になる。


 頭と胸が焦げるように滑る虎邪神。

 その虎邪神の両腕に絡んだ<鎖>を操作。


 ――虎邪神の両腕を引っこ抜くイメージだ。


 すると、神獣ロロディーヌが虎邪神の首の項に鋭い牙を立てた。

 続けて、全身から触手骨剣を出す。

 それらの触手骨剣は宙空で弧を描くと虎邪神の体に向かう。


 複数の触手骨剣が連続的に突き刺さった。

 ズドドドドドッと重低音が響き渡った。


 虎邪神の黄色い毛と血肉が散る。


「げふぃぃッ」


 虎邪神は喉と口から大量の黒血を吐き出す。

 苦しそうだ。

 先ほどの光景に逆戻り。


 いや、もっと酷い状況となっている。

 すると、


「ん――」


 エヴァの声が微かに聞こえた。

 エヴァの操る紫魔力が包む金属刃が虎邪神へと向かった。


 虎邪神の背中に乗ったままの神獣ロロディーヌに、それらの金属刃が刺さらないように操作しているエヴァ。


 神獣ロロディーヌの衛星のように回った金属刃が、虎邪神の体へ突き刺さる。


 神獣ロロディーヌは、エヴァの攻撃の邪魔になると判断したようで、触手骨剣を引いた。

 そして、虎邪神の体に数本刺したまま、横へと跳躍――。


 相棒は虎邪神の背中から離脱した。


「ロロちゃん、ナイスッ――」


 レベッカが叫びながら蒼炎弾を<投擲>。


 床で這う虎邪神の胴体に蒼炎弾が直撃。

 先ほど蒼炎弾を喰らった時は陥没だけだったが――今度は黄土色の毛ごと皮膚を吹き飛ばしていた。

 

 更に虎邪神の体に蒼炎が縁取る大きな穴を誕生させた。

 

 虎邪神の黒い肉片と黒血がいたるところに散らばった。


 凄い威力だ。


「次はわたしよ――」


 左側に移動していたユイ。

 叫びつつ跳躍――自らも回転していた。

 左右の腕が握る特殊魔刀を振るう。

 と、その回転力が増した魔刀の刃が<鎖>に絡まった虎邪神の腕を捉えた。

 一瞬で、二つの魔刀の刃は太い虎邪神の上腕を巻き込むように沈み込む。


 ――ユイの扱う特殊魔刀の回転刃は止まらない。

 虎邪神の腕や脇を切り刻む。

 そして、そのユイは、虎邪神の脇腹地点に白い太腿を魅せるように華麗に着地した。


 ユイの特殊魔刀が、虎邪神の脇腹を裂いた証拠にその脇腹から血が噴出――。


 深い刀傷を与えている。


「……娘に負けるわけにはいかないっ」 


 カルードが叫ぶ。

 ユイのフォローをするように刀による袈裟斬りからの剣突を、身動きが取れない虎邪神の脇腹あたりに喰らわせている。


 あの剣術は、啄木鳥か?


 黄土色の毛並みの皮膚を持っていた虎邪神は全身が黒血に染まった。

 顔の皮膚は焼けただれ、胸には大穴を空け、手は切断され、尻穴に氷槍が突き刺さり、足は潰され、凄惨さを極め見るも無残な光景に。


「ぐげぇぇぇぇ……なんなのだぁぁ、これほどの力……だが、お前たちは根本的に間違っている。俺は邪神の一部だぞ?」


 全身が傷だらけの虎邪神はニヤリと嗤う。


 その刹那、虎邪神は爆発的な魔力を身体から放出する。

 身体を脱皮? 鎖に捕らえられた毛の皮膚を脱ぎ捨てるように、大量に肉片が付着した皮膚を周囲へ吹き飛ばす。

 その肉が付着した皮膚は黒々とした樹槍へ変化。


 強烈な衝撃波と共に、三百六十度、隙間なく黒樹槍を撃ち放ってきた。


 黒樹槍は避けることのできない速度で、俺たち全てに突き刺さり、衝撃波で吹き飛ばされる。


 ――ぬおっ。


「きゃっ――」

「えっ――」

「うぐっ――」

「にゃあぁ」


 吹き飛ばされた位置から上半身を起き上がらせ、皆を確認。

 神獣ロロディーヌの体にも黒槍は突き刺さる。

 珍しく血を黒毛から流していた。


「ロロッ!」

「にゃあ」


 巨大な相棒ロロディーヌは『大丈夫にゃ』というように鳴きながら黒豹へ姿を縮ませる。

 と、あっさりと黒槍から解放。


 俺も体に刺さった無数の黒槍を強引に抜き放ち、立ち上がる。

 吹き飛ばされたが、まだ頭上には血鎖とリンクしている魔槍杖は浮いていた。


「ふん、やはり、槍使いと、黒猫。お前たちは他とは違うようだ」


 そう話す虎邪神は二メートルぐらいの大きさになった。

 その虎邪神が語るように、精霊ヘルメ以外は、黒槍を体に喰らっていた。


 レベッカの胴体にも黒槍が刺さり、


「ぐ、ルシヴァルではなかったら、皆、死んでいたわね……」


 エヴァは魔導車椅子を守ったのか、数本の黒槍が腕と胴体に刺さっていた。


「ん、痛いぅ」


 ヴィーネも足に、ユイも足と腕に、カルードも胴体の全てに……。


「ご主人様……」

「父さんっ、生きてる?」

「……ぁぁ」

「糞、糞、糞っ、痛すぎる」


 ミスティは完全に地面へ磔状態。


 皆の光景を見て、怒りが湧いてきた。


「ロロ、ヘルメ、今は俺の背後に回れ」

「にゃぁ」

「……」


 液体ヘルメはそのまま液体状態で〇の形を作ると、にゅるにゅると移動してくる。

 黒豹(ロロ)も四肢を躍動させて、走ってきた。


 そして、虎邪神へ睨みを利かせる。


「……ロロだけでなく、眷属たちの体に傷をつけたのは許せんな……」


 血を、怒気を、気魂を表に出す。

 心に棲む血塗れたルシヴァルという獣を立ち上がらせる思いで、すべてを殺気へと変えた。


 そして、高い位置に待機させていた血鎖と繋がった元右腕を意識しつつ虎邪神に近付いた。


「そんなことはしらぬわ――ぬんっ」


 虎邪神は口を広げる。

 その口から黒樹の塊を射出してきた。


 俺は前傾姿勢のまま――。

 左足で地面を潰すような踏み込みから――。

 

 右腕が握る魔槍グドルルを前方に突き出した。


 右腕ごと槍となった魔槍グドルルの<刺突>でその黒樹の塊を裂くように、黒樹を貫いて破壊。


 その場で同時に<血鎖の饗宴>を出す。

 複数の血鎖を虎邪神へ向かわせる。


「くらうかっ」


 身軽になった虎邪神。

 まさに、神だからか――。

 神懸かり的な離れ業で、血鎖を躱し避けている。


 が、少しずつ後方の退路を断つように血鎖を増やし、虎邪神の動きを限定させた。


 直ぐに《氷弾(フリーズブレット)》、《連氷蛇矢フリーズスネークアロー》を連続で放つ。

 《氷竜列(フリーズドラゴネス)》をも連続発動した。


 ティアドロップ型の《氷弾(フリーズブレット)》は虎邪神に衝突するが、弾かれる。


 だが、腕程の大きさのある《連氷蛇矢フリーズスネークアロー》は数本が虎邪神の体に刺さった。


氷竜列(フリーズドラゴネス)》の〝龍頭〟を象った列氷の龍は上顎と下顎の牙を晒しつつ前進――。

 

 後方から、氷の尾ひれのようなモノを発生させていた。

 氷龍の頭部の《氷竜列(フリーズドラゴネス)》は虎邪神に喰らい付く。


 その刹那、《氷竜列(フリーズドラゴネス)》は爆発して散る。


 氷の吹雪が周囲に広がった。


「ぐあぁー」


 虎邪神は痛みから叫ぶ。

 体が凍り付いても霜を落とすように体を震わせるだけで動きは衰えていない。


 逆に血鎖を躱し避けつつ両前足から黒爪を伸ばし攻撃してきた。


 黒爪が迫った。

 魔槍グドルルで、その黒爪を叩き斬る。


「――ロロ、少し時間を稼げ」

「にゃぁ」

「ヘルメ、仲間に刺さった黒槍を抜いて来い」

「はいっ」


 神獣に変身したロロディーヌは牽制の触手群を虎邪神へと繰り出した。


 虎邪神も、体と足から黒爪を出して抵抗。

 虎邪神の黒爪と相棒の触手骨剣が衝突――。

 

 つばぜり合いを起こす勢いだ。


 虎邪神は相棒の繰り出した触手骨剣の攻撃を払いつつ移動を繰り返している。


 自慢の触手骨剣の乱舞攻撃が、通じないか。

 虎邪神は強い。


「にゃご!」


 神獣ロロディーヌは怒ったような声を発した。

 珍しい声だ。

 そのまま黒豹と似た頭部を上げて、大きな口を拡げた。


 鋭い歯牙を見せる。


「――にゃごぁぁぁ」


 相棒は大きな口からドラゴンの息吹を彷彿とする炎を吐き出した。


 血鎖を避けていた虎邪神は、神獣ロロディーヌが吐いた紅蓮の炎に飲み込まれた。


 少しは効いただろう。

 念のために虎邪神を狙っていた血鎖は消失させる。


 熱風を感じたヘルメは仲間たちのフォローに回った。その間に――。



 俺は魔力を腕から指先へと送る。

 魔力の籠もった指で、魔法陣を宙に描いた。


 定石通り――。

 魔力消費と威力を抑える代わりに、魔弾を硬くしよう。

 中央に特化した徹甲弾型をイメージ。


 規模は小規模、日本語で書く。

 魔力をふんだんに魔法陣へと込めて構築……。

 

 組み上げていく。

 小規模型、筆で描かれたような闇色の小型魔法陣が、空中に浮かんでいた。


 血鎖を一本操作したままだからか?

 余計に魔力が削られ精神力が求められる気がした……。


 オリジナル古代魔法陣が完成した時には、ロロディーヌが放った炎ブレスが収まっていた。


 やはり、炎ブレスでは駄目だったか。

 虎邪神は黒いオーラを全身から発生させて、相棒の炎を防いだようだ。


 んだが……。

 地味な威力だと思われるが、新しい古代魔法を喰らわせてやる。


 トリガーは決めた。


――《神殺しの闇弾ゴッドスレイヤー・ブレット》。


 ――<古代魔法>を発動。

 ぬお、背筋に寒気を催した。

 同時に、俺は魔力を失う――。

 

 胃に重しが入ったような、胃が捩じられたような感覚も……。

 胆汁か胃酸か不明な何かが口の中に染み渡る。


 同時に、小規模魔法陣から現れたのは、一つの闇の弾丸。

 凸凹な表面だが、光沢し、闇色の液体が付着したような(もや)を放つ。

 空間へ闇の残滓の滴を残しながら、闇の弾丸は飛翔していった。

 虎邪神は小さい物体に油断したか、


「なんだァ? こんなもの!」


 嗤いつつ《神殺しの闇弾ゴッドスレイヤー・ブレット》を迎撃しようと、黒爪を伸ばし闇弾へと衝突させた。


 《神殺しの闇弾ゴッドスレイヤー・ブレット》は、その伸びた虎邪神の黒爪をいとも簡単に裂く。


 と、《神殺しの闇弾ゴッドスレイヤー・ブレット》は、虎邪神の爪の根本でバンッと音を響かせて前腕を破壊しつつ虎邪神の肘の後部から飛び出ては、虎邪神の脇腹をも貫いた――。


 虎邪神の腕が大きく弛緩。

 黄色い毛の皮膚が撓む。


「ギャァァァァ」


 耳をつんざくような叫び声だ。

 《神殺しの闇弾ゴッドスレイヤー・ブレット》は背後の床面に小さい弾痕を作って止まった。

 床から黒い血煙が漂う。

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