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百八十四話 光輪とミスティ

 <鎖>で障害物を作って、俺は隠れる。

 と、すぐに顔を出す。すると、相棒がピクッと動きを止めて俺を凝視。

 俺はすぐに<鎖>の障害物に隠れた。

 そして、また障害物から頭部を出す。

 黒猫(ロロ)と俺の近くに移動していたが、俺を見て、動きピタッと止める。

 

 双眸が散大して可愛い。


 そんな風に、大門の上でだるまさんが転んだ的な遊んでいると――。

 その相棒が『空を飛びたい』と気持ちを伝えてきた。


「おう、いいぞ、変身か?」

「ンン――」


 喉声を鳴らした相棒は瞬く間に神獣ロロディーヌの姿になった。

 俺はその巨大な黒獅子か、黒馬か、黒グリフォンか、神獣へと跳躍。

 

 触手は寄越さないが、相棒も背中の位置をずらして、俺が乗りやすくしてくれた。

 巨大な神獣ロロディーヌの背中に乗る。


 そのまま俺たちは上空へと飛び立った。


 中途半端な高度だと大騎士が乗るドラゴンに見つかるかもしれない。

 だから高く高く飛ぶ。

 眼下の迷宮都市は楕円形だ。

 そのペルネーテが小さく見えるぐらいまで高度を高くした。


 視線を上げ風に乗る。

 上昇を続けて入道雲を突き抜ける。

 と、綺麗な雲海に出た。

 操縦桿の二つの細い触手の先端は、俺の首下にピタッと張り付いて繋がっている。

 だから、神獣ロロディーヌの気持ちは少し分かる。


 今も『楽しい』と『遊ぶ』といった気持ちを伝えてきた。


 しかし、空にはモンスターが大量だ。

 

 巨大な鯨とクラゲのうようよした大群。

 大小様々な竜とグリフォン。

 ガーゴイル。

 蝙蝠と人が合体したようなモンスター。


 うは、なんだありゃ。


 人型だが、巨大な存在を発見!

 しかも、頭の上に黄金の環?

 環から撓んだ魔法陣らしきモノが数個連なっている。

 顔の中心に丸穴……奇天烈な顔だ。

 背中は黒色の一対の大翼を広げている。

 膨大な質量を内包した魔素も放射状に展開。

 翼を持つ巨大な人型に興味が出た。

 ――近付くと、光が飛んでくる。

 ――神獣ロロディーヌは急いで横に回避――。

 旋回した。胴体がグワワンと音は鳴らないが、しなるしなる――。

 相棒の長い尻尾が舵に見えた――。

 俺たちの背後の入道雲が二つに裂けたのを確認――。


 光は……衝撃刃だったのか。


 巨大な人型生物を凝視――。

 超然たる態度だ。


「…………」


頭部の上に、魔法陣が繋がった黄金環を浮かばせている。

巨大な人型は、無言で漂いながら、両手を無造作に左右へと伸ばした。


 両腕に小さい光環を幾つも生み出す。

 二の腕から腕先まで腕輪が連なる形。

 それらの光環は順繰りに点滅しながら腕先に移動し重なる。


 両の掌に別種の魔法と思われる光り輝く環を模った。

 薄い円盤か。


 円盤、光輪の縁の周りをルーン文字らしきものが高速で回っている。


 なんかカッコイイな。


「我――近付く――邪神、魔界、者――死――あるのみ」


 口がどこにあるのか分からない、顔に丸い穴を空けている巨大な人型生物は、俺に分かる言語で語ると、二つの光輪を放ってきた。


「ロロ、俺が迎撃する。視界を確保するように飛べ」

「にゃぁお」


 迎撃のため、二つの<光条の鎖槍シャインチェーンランス>を放つ。

 <光条の鎖槍シャインチェーンランス>と光輪が激しく衝突した瞬間――。

 ギュキィィンと不可解なガラスの割れたような巨大な音が周囲に炸裂。

 雲海を吹き飛ばすように音波が響き渡った。


 俺の鼓膜か耳朶がブルッと震えた。

 <光条の鎖槍シャインチェーンランス>と輪が相殺された。


「光――!? ソナタ、邪神、魔界に魅入られし者共、烏合の人族ではナイ?」


 頭の上に黄金環を浮かばせる巨大な人型の声は独特な振動ボイスだ。


 空中で、少し離れているが、しっかりと聞こえた。


「ロロ、少し近付いてみろ」


 巨大な神獣ロロディーヌは旋回しながら頭上に黄金環を持つ巨大な人型へと近寄る。


 攻撃は受けたが、話ができそうだ。

 アイムフレンドリー精神の気持ちを表に出していく。


「――俺は俺ですが、貴方は何者なんですか? この空で何をしていたのですか?」

「我、神界セウロスを辿る者なり、神界戦士が一人、邪神界ヘルローネを見張る者、魔界セブドラを滅する者、アーバーグードローブ・ブー」 


 最後のは名前なのか?

 ようするに神界セウロスから来た化け物か。

 そんなことはリアルに聞けないので、


「ブーさんは、俺の敵ですか?」

「いや、違う。光の者よ、我が間違えた。済まなかった。お詫びにアーバーをあげよう」


 黄金環が目立つブーさん。

 両腕から腕輪を外すと、その二つの光る腕輪のようなモノが空中を漂いつつ俺のところにくる。


 その光輪を掴むと、黄金色の腕輪に変化。


「これを俺にくださるのですか?」

「そうだ。アーバーは攻防一体の腕輪。光の者ならば使いこなせるだろう。去らばだ。光の者――」


 頭の上にある黄金環を輝かせて黒翼をはためかせると、身を翻す。


 一瞬で遠くの空だ。去ってしまったか。

 しかし、この二つの腕輪、嵌められるのかな。


「今、丁度、古竜の鎧は装備してないから嵌めてみるか」


 腕輪へ腕を通した瞬間、自動的に二つの腕輪が上方へ移動していく。

 二の腕辺りで止まったと思ったら、え? 腕の中に腕輪が自動的に侵入し沈み込んで皮膚と同化してしまった。


 二の腕が少し盛り上がった形となる。

 これ、どうやったら使えるんだ?

 とりあえず、盛り上がっている二の腕辺りに魔力を集めてみようか。

 魔力を二の腕に集めた瞬間――。

 黄金環の人型のように、二の腕から両手首の位置まで連なった光環が出現。


 そのコンマ何秒後、両手の掌には光輪が誕生していた。

 おおぉ、凄い。

 さっきの黄金環を頭の上に持っていたブーさんが掌に発生させていた物と同じだ。


 光輪の表面を回る文字が異常にカッコイイ。

 空中へと二つの光輪を飛ばそうと、意識した瞬間には、光輪が空中へ飛び出ていた。


 光輪は指向性がある。

 操作ができるようだ。

 試しに、巨大鯨と中型竜の群れが生存競争している場所に乱入してみるか。


「ロロ、あそこで戦っている鯨と竜たちの側を旋回してくれ、攻撃を受けないように上手くな」

「にゃおん」


 巨大なロロディーヌは翼の角度を変え高速移動。

 鯨と竜たちの争いに近付いていく。


 口先が恐竜と似た中型竜は巨大鯨と正面から衝突。

 互いに大きな口牙で咬み合う。

 狙いは、その戦う二体。

 二の腕に嵌る輪へと魔力を込める――。

 掌に光輪(アーバー)を発動。

 ルーン文字が光輪の表面に浮かぶ。


 鯨と竜(標的)に光輪が向かう。


 巨大鯨に衝突。

 鯨の背中を光輪は突き抜けた。

 中型竜の胴体には、ディスク盤が吸い込まれそうな形の穴ができる。

 操作するごとに光輪は目まぐるしく動く。

 鯨の巨大な肉を切り裂き中型竜の骨を切断。

 細かな肉片と化した標的たち――。

 下のペルネーテ大平原に大きな肉片が多数落ちた。


 草原モンスターたちの餌場が誕生した。


 宙には血塗れた二つの光輪が漂っている。

 凄い武器じゃないか。 

 頭の上に黄金環を持ち、顔は穴だったブーさん。


 ありがとう。良い物をくれた。

 二つの光輪(アーバー)は消えろと念じると消失。


 だが、盛り上がった二の腕の光環はそのままの状態だ。

 これを外す場合はどうやれば……。

 試しに魔力を光環の腕輪へ込めて〝腕輪よ外れろ〟と意識。

 その瞬間、二の腕辺りに埋め込まれた黄金環が、腕の表面にブレスレットの如く浮かび離れた。


 二つとも自動的に掌へ戻る。


 便利だ。武器、防具?

 だが、これを嵌めると、左腕の紫色の竜を模る防具(リアブレイス)が装備できない。

 友のザガ&ボン製のお気に入りの防具だが……この腕の防具はなしにするか。

 気分で装備を変えればいい。

 今はこの光輪(アーバー)を装備しよう。


 二つの光輪こと、この腕輪を常時展開しておけば防具にもなるだろうし……。


 そこで、また二つの黄金環を腕に戻す。

 自動的に二の腕へ装着された。


「ロロ、そろそろ戻ろう」

「にゃおおん」


 巨大な神獣ロロディーヌは急降下しながら楽しげに鳴く。

 そして、迷宮都市ペルネーテの全景が見えたと思ったら、屋敷のすぐ上空にまで戻っていた。


 そのままゆっくりと旋回。

 大門の上に優しく着地する巨大なロロディーヌ。

 その瞬間、大門の扉の開く音が響いてきた。


 おっ?

 迷宮から高級戦闘奴隷たちが帰ってきたらしい。

 丁度いいとこに帰ってきた。


 巨大なロロディーヌから飛び降りる。

 俺は大門の屋根上に着地。

 神獣ロロディーヌはいつもの黒猫(ロロ)の姿に戻る。


 一緒に中庭へと跳躍。

 すとんと着地。 

 中庭を歩く戦闘奴隷のママニに、


「帰ってきたようだな」

「はい、ご主人様、これが成果です」


 虎獣人(ラゼール)のママニ。

 魔石が入った袋を手渡してきた。


 中魔石数十個と大魔石一個が袋には入っている。


「よくやった。で、どうだった? 迷宮にお前たちだけで挑んだ感想は」

「はい、ご主人様の指示通り無理はせず。余裕を持って威力偵察程度の狩りを実行しました」

「そっか、疲れているだろ、休んでいいぞ」

「お言葉は嬉しいですが、全く疲れてないのです」

「疲れてない?」

「はい。さっき迷宮内で起きたばかりですので、ご主人様のご命令があれば、またすぐにでも迷宮へ挑めます」 


 ママニは笑顔で語る。


「さすがはお前たちだ。だが、今は楽に過ごしてくれ。迷宮に向かう時、また呼ぶよ」

「はいっ、了解です」


 虎獣人(ラゼール)のママニは了承。

 頭を下げてから踵を返す。

 中庭の右の寄宿舎へと向かう。

 サザー、ビア、フーたちも互いに成果を話し合いながら女獣人隊長のママニの背後をついていく。


 指揮ができるなら彼女をカルードの直属の部下にして動かすのも手か。


 アイテムボックスを起動。

 ◆を触りウィンドウを表示させた。

 ―――――――――――――――――――――――――

 ◆ ここにエレニウムストーンを入れてください。

 ―――――――――――――――――――――――――


 魔石を全部入れておく。

 ◆:エレニウム総蓄量:547

 ―――――――――――――――――――――――――――

 必要なエレニウムストーン大:99:未完了

 報酬:格納庫+60:ガトランスフォーム解放

 必要なエレニウムストーン大:300:未完了

 報酬:格納庫+70:ムラサメ解放

 必要なエレニウムストーン大:1000:未完了

 報酬:格納庫+100:小型オービタル解放

 ?????? ?????? ??????

 ―――――――――――――――――――――――――――


 魔石の大きさは総蓄量に関係ない。

 ビームガン、ビームライフル用の弾には中型魔石を集めればいい。


 アイテムボックスを弄っていると、ミスティが家にやってきた。


 精霊ヘルメを含めてイノセントアームズの全員が本館のリビングルーム、大きい机側にある椅子に座り、ミスティと話し合いを行う。 


 そして、和んだところで、ゾル()に起きた経緯を告白していた。


「えっ……」


 ミスティは突然の告白に瞳孔を散大縮小させ揺らす。

 黒色の澱みが一瞬見え隠れしたように見えた。初めて会った頃を思い出す。


「あのイカレタ殺人鬼の兄は、死んだのね?」

「あぁ、死んだ」

「そっか……恩人の貴方が殺してくれていたんだ……貴方には、もう何も言えないわ……わたしの心を再生させてくれて、わたしが殺したかった奴を殺してくれていたなんて……あの時、わたしに気を使って言わなかったのね……優しすぎるわよっ、糞、糞っ、く、そぅぅぅぅぅぅぅぁぁぁん」 


 ミスティはその場で、癖の糞を連発すると、泣き崩れてしまった。

 少し不安になりヴィーネへ顔を向ける。

 ヴィーネは銀彩の瞳で俺を見据えて、微笑を浮かべると頷いていた。


 念話も何もないが『ご主人様、大丈夫ですよ』と彼女の声が聞こえた気がした。


「ミスティ……大丈夫か?」


 泣き崩れる彼女へと寄り添い、肩に手を当てる。


「……うん、ごめんなさい、皆の前で恥ずかしい……」

「いや、構わないだろう」

「そうよ、ミスティ」


 俺に同意するようにレベッカは頷く。

 ヴィーネも頷きながら、綺麗な口紅を塗った唇を動かしていった。


「……そうです。恥ずかしがることはありません。偉大なるご主人様は有名な童話にあるような……鬼神の如き強さと優しさを合わせ持つ優しき虎。正確なタイトル名は〝鬼神な強さを誇る優しき虎〟で、あるように、愛の塊なのですよ。特に、美しい女性限定ですが、必ず受け止めて下さります」


 ミアが好きだった童話のタイトルだ。

 偶然とはいえ……ヴィーネはなかなかに鋭い。


「ヴィーネ、成長していますね。閣下のお気持ちをそこまで推察できるようになるとは、さすが閣下が一番最初に血を分けただけのことはあります」

「精霊様、そんな。わたしはご主人様のことをいつも考えていたら、自然と、でも、ありがとうございます。精霊様」


 精霊ヘルメとヴィーネは意思が通じ合ったように、互いに頬を染め合い微笑を浮かべた。

 水を掛け合うようなローションプレイをしたから仲良くなったのかも!?


 と、えっちな方向に考える俺も大概か。


「マイロード……わたしは悲しい……」


 ヴィーネの熱心な語りと精霊ヘルメの語りのあと、カルードが元気なく呟いていた……。


 女性限定、愛の塊の部分に反応したんだと思うが。

 男には、愛はやらねぇぞ……。

 あえて耳なし芳一に徹した。いや、それじゃ意味がない、馬の耳に念仏。

 いや、もっと違う……あぁ、渋いカルードが泣きそうな顔を浮かべるから混乱しちゃっただろう。


「……父さん、そんな悲しまないでよ」 


 隣に座るユイが同情したのか、父のカルードを見る。


「あ、ぁぁ……」 


 カルードは娘の優しい顔を見て、頬が痩けるように萎ませた顔をほころばせた。

 あのユイがいれば、カルードは大丈夫だろう。


 さて、エヴァとレベッカの顔を見て癒されよう……。


 今日のエヴァの髪形は黒いロングヘアを一つに纏めて、肩から背中に流している。

 そのドーナツポニーテールって髪形か。

 ヘアを止めるアクセサリーもいいね。

 彫琢された宝石がまぶしてある紫のリボンだ。

 その髪留めの宝石がエヴァを、よりチャーミングに見せていた。


 服も白を基調とした紫色の線が入った両肩が露出したシャツ。

 肌着は黒色の薄いインナー系の長袖を着ていた。

 紫色の瞳と合う。

 インナーからうっすらと覗かせる生肌から、大人の女としての魅力を感じさせた。


 レベッカはプラチナブロンドの髪を綺麗な蒼色の紐で三つ編みに結んでいる。


 やべぇ、カワイイ……。

 というか、エヴァ、レベッカだけじゃなく、ユイ、ヴィーネもお洒落をしている?

 新しい女が来るからと、対抗心を出しているのか!


 なんというカワイイ絢爛艶美な<筆頭従者長>たち。


「ん、シュウヤ、どうしたの?」

「シュウヤ、わたしの顔を見て、また、いやらしいこと想像してたんでしょっ!」


 エヴァは天使の微笑みで言葉を返してくれる。

 だが、レベッカは蒼色の瞳に炎を灯す。


 汚らわしい! 的なキツイ睨みを利かせていた。

 が、その睨みで、少し、悪戯心が芽生えた。


「何をいっているのかな? 昨日〝もうあんたにだったら何されてもいい……〟とかいって、悶々としたスケベな顔をして、乱れていたのになぁぁ……」

「ちょっ……ここでそれを言わないでよっ!」


 レベッカは顔をゆで蛸の如く真っ赤に染める。

 恥ずかしそうに、机へ突っ伏すと、手で頭を覆った。


 なにやら、ブツブツと文句を言ってるが……。

 さて、レベッカ弄りはここまでにして……。


 泣き止んで、レベッカの様子を面白おかしく見ていたミスティへに、


「ミスティ、こんなパーティだが、一つよろしく頼む」

「はい。勿論」

「それじゃ、戦闘職業とか、説明を頼む」

「うん。皆さん。わたしの戦闘職業は重鋼人形師といいます。必要がないかもですが、前衛の一部は簡易ゴーレムに任せてください。あと、星鉱鋳造(スターマッシブプル)という魔導人形(ウォーガノフ)が作成可能な特殊スキルを持ちます。金属製のアイテム類なら一瞬で直せる自信があります。金属と相性のいい錬金関係の知識もそれなりにあるつもりです」


 臨時講師をしているだけあって丁寧な言葉で説明をしたミスティ。


「凄いっ」


 そんな彼女の言葉に逸早く反応を示したのが金属好きのエヴァだった。


「エヴァさん。ありがとう。実は……この通り」


 ミスティは額に巻いていた緑色の布バンダナを外す。

 額にある魔印を皆に見せていた。


「わぁ、聞いていたけど、やはり元貴族。神に選ばれし者(選りすぐりの職人)の一人なのね」


 レベッカだ。恥ずかしさは消えたのかケロッとしている。


「ん、ミスティ、わたしも見て……」


 エヴァは魔力を放出。

 表情を歪めながら、魔導車椅子ごと全身を紫魔力で包みその場で浮いていた。

 そして、緑と灰色で構成されている鋼鉄足が溶けて素足の骨足を露見させていく。

 溶けた金属は無数の丸玉となり、エヴァの周囲に浮かんでいた。


「……その足の紋章は、見たことがないけど同じような魔印? エヴァさんも金属が扱えるのね、凄いわ。浮いているし……」

「ん、ミスティ、わたしはエヴァでいい。それと、ミスティのように金属のアイテムを直したりはできないし、魔導人形(ウォーガノフ)は作成できない。この間成長を遂げたけど、わたしが可能なのは金属の精製と、この足に付着する金属の加工のみ、浮かせているのは、別の能力」


 ミスティはエヴァの言葉に何回も頷く。

 鼻息を少し荒くしながらエヴァの骨足の表面を凝視していた。

 興味を持ったらしい。


「そうなのね。素晴らしいわ、エヴァ。金属を扱うあなたとは趣味が合いそう。これからもよろしくね」

「ん、よろしく」


 エヴァとミスティは笑顔で頷き合う。彼女たちは予想通り、気が合いそうだ。

 あ。そこで、持っていた迷宮産のインゴットを思い出す。

 アイテムボックスを操作して、魔柔黒鋼ソフトブラックスチールを取り出した。


「ミスティ、これ、こないだ迷宮で手に入れたインゴットの塊なんだけど、パーティに入った記念にあげるよ」

「え、ありがとう。とりあえずそれ(金属)を、そこの机に置いてくれる?」

「おう」 


 どかっと、魔柔黒鋼ソフトブラックスチールの塊を置く。

 ミスティは早速、光沢のある黒い金属へ手を伸ばし、指で触れた。

 前にも見たように、手の表面に蜘蛛の巣のようなものを発生させ、手を変色させていく。

 爪の部分だけが白く煌いている。

 そして、魔柔黒鋼ソフトブラックスチールの表面に筋が走りふつふつと湧き上がるような粘菌の金属糸が蠢き糸同士が合体を繰り返した。


 塊だった魔柔黒鋼ソフトブラックスチールを長細い形へ変形させる。


「……わぁ、これ、噂に聞く魔柔黒鋼ソフトブラックスチールね、凄いわ。これと簡易な鍛冶に使う炉があれば、今、わたしがお金を溜めて買った新しい鉄水晶コアを組み込んで魔導人形(ウォーガノフ)の簡易型、命令文はあまり刻めないけど、わたしがこの都市にきて普段使っているゴーレムより強いバージョンが一瞬で作成可能よ」


 ミスティは声質を跳ね上げて、嬉しがる。


「おぉ、でも魔導人形(ウォーガノフ)の作成は無理か」

「うん、命令を刻める優秀な魔導人形(ウォーガノフ)は無理。さすがに特殊なスキルを持つわたしでも専用炉が必要で彫心鏤骨の姿勢で取り組まないといけないし」

「そっか。専用炉がどんなのか解らないが、中庭に鍛冶部屋の東屋がある。チラッと見た程度で、どんなのが置いてあるか知らないが、ミスティ、よかったら東屋を使うか?」

「えっ、いいの?」

「いいよ。そうだな、パーティを組んでからと思っていたが、どうせなら、ここに住む?」

「うんっ! シュウヤの側にいたいっ」 


 ミスティは、はじけんばかりの笑顔を見せた。


「ん、ミスティは大歓迎。色々とお話がしたい……」


 エヴァは紫の瞳を輝かせる。

 期待の眼差しで俺とミスティを交互に見ていた。


「……わたしも反対はしない」

「お? 珍しい」

「うん、精霊様に窘められたからという訳じゃないけれど、夜には、いつもいつも幸せにしてくれるし……だからシュウヤが望むなら全部受け入れるわ。一番の友達であるエヴァも凄く喜んでいるし、ミスティがここに来てくれるなら、わたしも嬉しい」


 いつも最初に反対していたレベッカが大人になっていた。

 可愛いやつだ。夜になったら〝また〟頑張って喜ばせてやろう。


「閣下、<筆頭従者長(彼女たち)>の精神面のケアを怠らずに頑張った成果ですね、さすがは、眷属の宗主。至高なる御方です」


 彼女はいつも俺を持ち上げてくれる。

 まぁ一番古い知り(尻り)合いで最初の部下だからな。


「ヘルメ、そう持ち上げてくれるな」

「はい、すみません。ですが閣下の水ですので」


 ヘルメは優しく微笑む。

 自然と、感謝の念を込めて微笑みを返した。


 そこで視線をレベッカに移しながら、さっきの弄りを謝るつもりも兼ねて、


「ま、花はところを定めぬもの。と、言う言葉があるからな」

「シュウヤ、花? 何それ?」

「花は人目につくかつかないかで美しく咲くことを決めないだろう? だから、レベッカのように立派で綺麗な女性は場所や地位に関わりなくどこにでもいるものだ。と、例えで言ったまで」

「……立派な女性……もう、真顔で照れること言わないでよね、シュウヤの馬鹿っ、けど、ありがと」


 レベッカは恥ずかしいのか、また頭を机の上に伏せていた。

 顔を白魚のような指が覆う。


 皆、この会話で微笑んでいた。


 そこでミスティに視線を向けてから魔宝地図と邪神に関することを説明していく。

 その彼女から普通に狩りにいくんじゃないの?

 と驚かれたが……。

 説明していくうちにミスティは神妙な顔つきになり頷いていた。


 話していくうちに……。

 <筆頭従者長>か<従者長>のヴァンパイア系の血に纏わる話をしようかと、心が揺れていく。

 この話はパーティを組んで親しく付き合ってからと思っていたが……。


 もうここに彼女は住むのだし、言っちゃうかぁ。


「……あれ? 急に黙ってどうしたの?」

「あぁ、まだ俺のことで話していないことがある……」

「ご主人様、昨日お話をされていた通り、血について告白をなされるのですね、わたしは賛成です。きっと、ミスティなら受けいれてくれるでしょう」

「閣下、彼女は魔導人形(ウォーガノフ)を作れる数少ない優秀な存在です。前にもお話したように優秀な手駒となりえましょう」


 ヴィーネとヘルメは賛成していた。

 特にヘルメは満面の笑顔だ。

 眷属を増やす時に見せる至福の表情。


「ん、わたしも賛成」

「わたしはどっちでもいいわ」

「シュウヤの力になるなら賛成。どうせ、一緒に住むんだし」

「マイロード、<筆頭従者長>か<従者長>どちらになさるのですか?」


 カルードを含めて皆は賛成。


「そう急ぐな、まだ話してないんだから」

「もう、皆で何よ。血? 眷属とか<筆頭従者長>とか前々からそんなことを話していたけど、部下という名目じゃないの? 何かの契約のことなのかしら? 糞、糞、糞っ、分からないわ」


 ミスティは鳶色の瞳を斜め上から下に向けて、逡巡。

 困惑の表情を浮かべる。


「……それは、俺の血のことだ。俺は人族じゃない。光魔ルシヴァルという違う種族なんだ。魔族、人族、光を好む特殊なダンピールと言える」

「へぇ、だから強いんだ。お父さんかお母さん、どっちかが魔族の一族だったの?」


 ……ミスティも皆と同じような反応。

 人の心は九分十分か。


「……どっちも人族だが、幼い時に事故で死んだ。だが、そんなことはどうでもいい。今話しているのは、ミスティが俺の血を飲んで、俺の部下である<筆頭従者長>か<従者長>へ変わらないか? と、提案している」

「シュウヤの血。人族でなくなる……」


 ミスティは額の魔印を触る。


「永遠の命。永遠に俺の部下、ルシヴァルの眷属、恋人、家族となる」

「なる、血をください、飲ませてください、お願いします。――シュウヤ様」


 永遠の命と聞いた途端、ころっと豹変した。

 彼女は地べたに座って土下座をしている。


「ミスティ、そこまで卑屈にならんでも、俺から提案しているんだから……」


 彼女はむくっと顔を上げて、俺を鋭い視線で見つめてきた。


「……シュウヤは分かっていないわ。永遠の命なのよ? それがどんなに魅力的なものなのか分かっていない。迷宮で時々発見される貴重な若返りの秘薬(グレナドソーマ)が貴族たちの間でどんな値段で取引されているか知らないでしょ? 永遠の命。となったら……値段が付かない価値どころか、ありとあらゆるこの世の存在から狙われることになるわ、とにかく、とんでもないこと……こんなチャンスを掴み損ねるのは、ただの大馬鹿よ」

「とんでもないことか。確かにそうかもしれない。それで、眷属になるとして、ミスティ、お前は人族ではなくなると同時に、俺の女になるということでもある。それでもいいんだな?」


 俺は睨むようにミスティを見る。

 その俺の視線に負けじと、ミスティは、睨み返すように目力を強めた。


「勿論! 神聖教会を愛する宗教家じゃあるまいし、人族に拘りなんてないわ。それに、貴方に救われて以来……ずっと、貴方のことを想って誠実に生きてきたの。臨時講師になったのは再生の証として頑張るためで、冒険者になったのは少しでも貴方との接点が欲しかったから……もしかしたら会えるかもと淡い期待をして過ごしていたら、本当に貴方と再会できた。だから、もう、貴方しか見えないの……シュウヤが好き、貴方が臨時講師を辞めろというならすぐにでも辞める。貴方が盗賊に戻れというなら戻る」


 ミスティは俺の目を見据えて早口で興奮した口調で語る。


「了解した。臨時講師も辞めなくていい。盗賊に戻れなんて言わないさ。それじゃ儀式をやるから俺の部屋へ来てくれ」

「うん」


 彼女の細い手を握る。


「それじゃ、皆、ミスティの眷属入りが決まったので、迷宮は後でな、自由にしていてくれ」

「了解」

「うん」

「ん、わかった」


 レベッカ、ユイ、エヴァは頷く。


「はい。閣下」

「にゃぁ」


 ヘルメが発生させている水飛沫へ猫パンチをしている黒猫(ロロ)


「分かりました、ご主人様」

「マイロード、お待ちしています」


 冷静な態度のヴィーネ、渋い顔のカルードも続いて返事をしていた。


 俺も頷く。


 さぁて、<筆頭従者長>か<従者長>か、どちらにするか……。


 ミスティは優秀だから<筆頭従者長>かな。

 そんな悩みを持ちながらミスティを俺の部屋へ案内していた。


「それじゃ、<筆頭従者長>にしようと思う。いくよ」

「うん、どきどきする」


 <大真祖の宗系譜者>を発動。


 闇世の世界が始まり、俺とミスティを闇が包む。

 真の暗闇で新たな再生の場。

 心臓が高鳴り血潮が滾る。

 血が沸騰するように沸沸と暴れ出し――蠢きながら放出。


 血の海……魂の系譜たる血海が闇を紅く染める。

 俺の血がミスティの体内に侵入していく。


 筆頭従者長への過程。

 力の分け与え(シェア)が始まった。


 ミスティは鳶色の瞳で、俺の瞳を見つめる。

 視線で魂の意思を確認。その彼女の顔に俺の血が覆いかぶさった。

 特別な血がミスティを包むと、体を浮かす。

 刹那、その血の子宮からルシヴァルの紋章樹へと形が変わる。


 紋章樹の幹の中心に存在する<筆頭従者長>を意味する十個の大円。

 それらの十個の大きな円は、それぞれに意味があるように線で繋がっている。

 幹から派生した複数の枝という枝には、それぞれ意味がある二十五の小さい円があった。


 大きな円にはヴィーネ、エヴァ、レベッカ、ユイの文字が古代文字で刻まれてある。


 小さい円の中にはカルードの名が古代文字で刻まれていた。


 その血が滴るルシヴァルの紋章樹が彼女と重なった。

 彼女の心臓の位置から煌く光が発生し、血と光の渦が重なり合いながら空中へと放たれると――。


 陰と陽のマークと似たモノが宙を漂流するように漂う。

 血と光の陰陽のマークは螺旋の渦となるや一気にミスティの体の中へ突入する。


 光魔ルシヴァルの血を取り込むミスティは苦しそうだが……。

 見ないとな。これは因果律を歪める行為。

 ミスティを選ばれし眷属の<筆頭従者長>にするんだ。

 

 人族から光魔ルシヴァルへと……。

 

 刹那――

 ミスティの体にすべての血が取り込まれた。

 ルシヴァルの紋章樹の中にある大きな円の一つにミスティの文字が刻まれる。

 心臓の位置か、胸元の中心辺りに、ルシヴァルの紋章樹的なマークが浮かぶと消えた。

 

 ミスティは闇の空間に倒れる。

 俺は魔力と精神が、かなり擦り減った感覚を受けた。


 が、構わず、倒れたミスティへ近寄り、


「ミスティ、起きろ」

「ん、ここは……わたし、シュウヤの? あ、選ばれし眷属<筆頭従者長>になったのね……不思議」

「どうだ? 感覚が、かなり変わったと思うが」

「うん、音の捉え方と感情のふり幅が……ふふ、少し……」


 ミスティは目を充血させた。

 ヴァンパイアらしい目尻の肌に幾つも筋を作る。

 そして、額の紋章も紅色が混じった色合いも変化していた。


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