千七百九十八話 テーバロンテの遺産
土台と己の命を失っては意味がないからな。
第一王女ギュルアルデベロンテもまた王女か。
そこで、ミグラドと呼ばれていた部下も凝視。
ミグラドも、第一王女ギュルアルデベロンテの意見に賛同するように歩脚を縮めて頭を下げている。
スケルトンタンク風の頭部の傷からして、歴戦の猛者のはずの百足高魔族ハイデアンホザーも矛を収めるか。
オガサワラたちの魔傭兵たちと、白銀の甲冑を着た百足高魔族ハイデアンホザーの部隊には、よほどの自信と強さがあったんだろうな。
「……俺たちはペミュラスの考えの下で、原初ガラヴェロンテとキュビュルロンテに会う。また、その会談結果による〝新しい風〟となるかのかは、まだ分からないが、その会談結果の概念、理念に従うということだな?」
「はい、従います」
「では、〝レフォトの宝念珠〟と〝ウィーヴの魔幻布具精髄珠〟に宝箱の魔界楽器と〝魔王の楽譜第三楽章〟はもらうぞ」
第一王女ギュルアルデベロンテは、頷いて、
「はい、ではミグラド、〝白銀の魔皇宝箱〟を開いて差し上げて、改めて、こちらの降伏の意思をシュウヤ様と周囲の方々に見せるのです」
「ハッ」
ミグラドは、〝白銀の魔皇宝箱〟の蓋を持ち上げ、開けた。
魔力を帯びていたが、ただの宝箱ではないのか。
「にゃおぉぉ」
「にゃァ」
「「わぁ」」
「グモゥ」
「「わおぉ」」
「……驚き」
子鹿はミスティの外套を咥えていたが、相棒たちと共に〝白銀の魔皇宝箱〟に近づいて、中身を見て驚くように鳴いている。
「ワォォォン!」
「ワンッ」
魔皇獣咆ケーゼンベルスと銀白狼も驚くように吼えては、尻尾を左右に揺らしている。
「これほどの品……」
ヴィーネも驚いて呟いた。
「パキュル~」
「その〝白銀の魔皇宝箱〟はアイテムボックスでもあるわけだ」
そのクレインの指摘に、第一王女ギュルアルデベロンテは頷き、
「はい、念の為、いつも持ち歩いていました」
と発言。
〝白銀の魔皇宝箱〟の中には、金貨が入っていそうな魔法袋、横笛のような楽器、トランペット、〝魔王の楽譜三楽章〟、折り畳まれてあるチェインメイルのような防具、怪しい魔獣に載った百足高魔族ハイデアンホザーの人形、角灯、金のロケット付きネックレス、魔界王子テーバロンテの紋章、オールドファッショングラス、魔力を有した花弁が詰まった瓶、小形盾、青蜜胃無のような物が入った翡翠色の硝子瓶、ポーション類が詰まった胸ベルト、短い魔杖が五つ、赤のグラデーションが綺麗な極大魔石が数十個収まっているガラスケース、人とドラゴンのスタチューとアクセサリーが数個嵌まっている砂丘に立つ小形の城をモチーフにしたような小型模型台などが見えた。
ミグラドは頭を下げつつ待機。
そのミグラドと近づいて、〝レフォトの宝念珠〟と〝ウィーヴの魔幻布具精髄珠〟の二つの品を受け取った。
〝レフォトの宝念珠〟はヴィーネやユイたちにプレゼントは確定かな。魔槍斗宿ラキースで獲得できる<握吸>と<握式・吸脱着>の獲得は両手で扱える武器と防具に深く影響するから、これは何気に嬉しい品だ。
〝白銀の魔皇宝箱〟の蓋を閉じ、また開いて、中身を確認しチラッと、ミグラドと第一王女ギュルアルデベロンテを見て、
「疑うわけではいが、呪いとか大丈夫なのかな」
「大丈夫ですわ」
「金貨が入っていそうな袋は?」
「大白金貨が十八枚ぐらいと、テーバロンテの魔コイン、ゼガの魔コイン、レンシサの魔白金コインが数十に極大魔石類が入っています」
「「おぉ」」
「セラで儲けた金貨もあるわけか」
「はい、傷場は、フロルセイルの六王国にあるといってもいい場所にありますから」
第一王女ギュルアルデベロンテの言葉に皆が頷いた。
『フロルセイルの六王国、かつての連合国は【八峰大墳墓】が近い場所にある』
『『あぁ』』
『魔界王子テーバロンテと魔人武王ガンジスは関係していたのかしら……』
『取り引きするような間柄ではないとは思うがのぅ』
『魔人武王の弟子たちは、【テーバロンテの償い】と通じていたとは思うぜ』
『あぁ……【闇の枢軸会議】の大枠の中の【闇の八巨星】の一つに、弟子の一人がいたからな』
『ハディマルスだな』
『厖婦闇眼ドミエルにしてやられた上でのセラでの生活だろう』
『うむ』
と腰に付けている魔軍夜行ノ槍業の八人の師匠たちが念話で語る。その念話に応えず、第一王女ギュルアルデベロンテに、
「横笛とトランペットが魔界楽器か、解説を頼む」
「はい、〝エイハーシルバードラゴンの魔笛〟で、金管魔楽器〝トモドシュの悪魔〟です。どちらも〝魔王の楽譜第三章〟に対応した魔界楽器。私とミグラドは使用できます」
「〝魔王の楽譜第三章〟はご主人様も持ちますが、色合いが異なるように見えます」
「そうですわね、書かれた魔紙、魔力を帯びた紙も、種類は多種多様。効果も、同じではない場合もあります。が、大抵の音楽は同じ、傷場の運用が主力のはずです」
「「へぇ」」
皆、頷いていく。
第一王女ギュルアルデベロンテに、
「防具のほうは?」
「チェインメイルの名は〝レ・ミラン・アボラクネ〟。身に着ければ分かりますが魔力を込め、『アボラクネ』と念じますと、肌に浸透しアボラクネという名の防御力の高い金属を性能を得ます。アボラクネは、秘術系と魔細工腕系と魔設彫金系などのスキルを有した魔界八賢師タリマラが造り上げたと、とあるアイテム鑑定士は言ってましたわ」
「「へぇ」」
「呪いではない?」
「はい、百足魔族デアンホザー以外でも付けられます」
第一王女ギュルアルデベロンテの言葉に頷くが、一応、<従者長>ラムーを見る。
霊魔宝箱鑑定杖を持つラムーは頷いて、
「はい、呪いはありません」
頷いた。
レグ・ソールト、コジロウ・オガミ、巧手四櫂のイズチ、インミミ、ゾウバチ、ズィルは、まだ光魔ルシヴァル入りしていないからな、プレゼントしとくか。
「了解した、では、皆、俺が一時的にもらう」
「ん」
〝白銀の魔皇宝箱〟から〝レ・ミラン・アボラクネ〟を入手し、
「うん、眷族以外のメンバーに?」
レベッカの指摘に頷いて、
「そうなる。ということで、〝巧手四櫂〟たち、近くに、この〝レ・ミラン・アボラクネ〟をもらってくれ、四人の中で防御に自信のない物、話し合って決めてくれ――」
と、近くにいたイズチに渡した。
「「「「はい!」」」
「他のアイテムも、結構なお宝の匂いがプンプンする」
レベッカの発言に皆が頷いて、
キサラも、
「はい、〝レフォトの宝念珠〟といい、すべてが結構な品ですよ」
「興奮~」
「あぁ、凄い品だな」
「ガォ~」
魔界騎士ハープネス・ウィドウの言葉に、魔竜ハドベルトも同意するように鳴いていた。
「ん」
「にゃおぉ」
エヴァと黒豹は少し小鼻を膨らませている。
可愛い。
「たしかに!」
「「はい」」
「「あぁ」」
「ふふ、はい」
頷いて、第一王女ギュルアルデベロンテに、
「魔獣に乗った人形は?」
「名は、〝ロギラロンテの魔幽重騎兵の召喚球〟使うには、高レベルの<死霊術>系統のスキル類が要求される」
「ロギラロンテの魔幽重騎兵とは?」
「嘗て、父と争い敗れたロギラロンテの名が付いた品、親戚です。百足高魔族ハイデアンホザーの死霊術師が造り上げた品です、使用したことはありません」
「ほぉ……」
ラホームドが興味を持ったようで、近くにきて、フィギュアにも見える魔獣に乗った百足高魔族ハイデアンホザーの人形を凝視。
第一王女ギュルアルデベロンテとミグラドは、ラホームドを見て驚き、
「頭だけ……」
「おぉ……」
と、発言し、歩脚を震わせ、スケルトンタンク風の頭部をキラキラと輝かせ、下の大きい口を拡げ、中にある小さい口を少し前に出して、回りの大きい口の端から酸のような液体を垂らしていく。黒い大理石と似た床が焦げていた。
ミグラドと第一王女とは、結構な違いがあった。
王女は小柄で、スケルトンタンク風の中身の液体の色合いもミグラドとは微妙に異なる。
しかし、ペミュラスの時にも思ったが、百足高魔族ハイデアンホザーの驚き方が、少し面白い。まさに未知との遭遇だろう。
「これは、ラホームドに上げようと思うが、クナと皆どうだろう」
「はい、勿論」
「勿論」
「ん」
「賛成ですわ」
クナも<死霊術>はできると思うが、了承を得た。
「では、ラホームドに」
「おぉぉ、ありがたき幸せ!!」
「にゃぉ~」
「ニャァ~」
相棒と黄黒猫に鳴いて跳躍。
ラホームドに、前足を振るっている。
祝福の猫パンチは、ラホームドには当たらない。
ラホームドは目元から怪しい光を発して、アイテムを受け取った。
続いて、第一王女ギュルアルデベロンテに、
「この角灯は?」
と、聞くと、王女は、スケルトンタンク風の頭部を煌めかせ、
「〝次元導明のランタン〟狭間の穴に落ちたとしても、このランタンの明かりに導かれた先が、出口となって外に出ることが可能とされている品ですわね。私たちには、一応の備えの品の一つ」
と、解説してくれた。
傷場を有していた勢力なだけはある。
「「へぇ」」
「次は、金のロケット付きネックレス」
「名は〝バビロアの癒やし〟これを身に着けると、バビロアの蠱物から解放されます。バビロアの蠱物とは父が得意としていた、心臓部に埋め込める蟲の毒です」
「それは知っている」
と、発言しつつペミュラスを見る。
このアイテムを知っていたようで、頷いている。
「この魔界王子テーバロンテの紋章は?」
「名は〝テーバロンテの紋章〟。魔力を込めると、父の幻影が真上に浮かび、斜陽が回りに展開され、百足魔族デアンホザーと百足高魔族ハイデアンホザーの戦闘能力が飛躍的に上昇するアイテムでした。今は、父の幻影が浮かび、斜陽が回りに生まれるだけ。セラの【テーバロンテの償い】の残党たちに、威光を示すのに使える程度の品ですわね。かつてのセラではレプリカが【テーバロンテの償い】の間で流行っていたとか……」
と、淋しげに語る第一王女ギュルアルデベロンテ。
「次は、このオールドファッショングラスだが」
「名は〝毒割りのグラス〟です。そのグラスに入れた液体は、どのような毒が入っていようと、浄化し、水などに変化します」
「「「へぇ」」」
「また、毒の中和ですが、グラスの表面に、入っていた毒の成分が百足魔族デアンホザーの形で描かれます」
「「「「へぇ」」」」
「次は、魔力を有した花弁が詰まった瓶は?」
「これは、私たち王女たちが愛用している、名は〝魔花桜の花弁〟です。フロルセイルで入手しました。触れると、わずかに魔力と素早さに知能を高めることができます」
「この小型盾は?」
「名は〝メギレの魔法盾〟枢密顧問官メギレが使用していた魔法の盾、盾で攻撃を防ぐと、防ぐたびに速度が上昇するという代物。伝説級です。歩脚と背や下腹部の甲殻に装着できる仕組みが施されているので、形は装備した者によって変化します」
「了解した。次は青蜜胃無のような物が入った翡翠色の硝子瓶」
「名は、魔界言語蟲。耳や後頭部に付けることで、魔界言語蟲が、頭蓋骨に入り、その蟲のお陰で、難解なセラの言語、魔界言語、十層地獄語などが理解できるようになります。一種の呪いではありますが、精神を侵すことはできません。魔力を有した存在ならば、この蟲に外に出るように念ずると、排出されます」
「「「おぉ」」」
「ラムー、正解か?」
ラムーは既に霊魔宝箱鑑定杖が煌めかせている。
鑑定を終えていた。
「はい、第一王女ギュルアルデベロンテに嘘はない」
とくぐもったハスキーボイスで教えてくれた。
ラムーの美人の素顔を知るのは俺だけだから、少し得した氣分になる。そして、第一王女ギュルアルデベロンテを見て、
「次の品のポーション類が詰まった胸ベルトは?」
「これは、人族や、主に二腕の魔族か、四腕の魔族用となる。オガサワラが私に献上した。名は〝ハイガンドの胸ベルト〟。タータイム国の錬金術師と魔裁縫屋と鍛冶屋を兼ねているハイガンドの品で、アイテムボックスで、中身の品で登録すれば、己の装備として、すぐに装着できるようだ。また背中からの攻撃を受けた場合、背に仕込まれた魔法が発動し、ある程度ダメージを緩和する仕組みが働く。上着などを着ても変わらないようだ」
「「おぉ」」
「魔傭兵らしい品だな」
ハンカイの言葉に皆が頷く。
「次の五つの短い魔杖は?」
「どれも、魔力を通すと剣状の魔刃を生やします。左から〝ドミファの魔杖〟、〝ドモンの魔杖〟、〝テーバロンテの魔杖〟、〝ギュルアルデベロンテの魔杖〟、〝メイジナの魔杖〟です」
魔皇メイジナ様が「ほぉ……」と呟く。
キュベラスも〝ドモンの魔杖〟を興味深そうに見つめていた。
すると、第一王女ギュルアルデベロンテとミグラドが驚いて、ギョッとしていた。
スケルトンタンク風の頭部の内部に、ドット画風の驚きの眼球を模る。
魔皇メイジナ様は神格を取り戻しているからな。
そして、第一王女ギュルアルデベロンテに、
「次の赤のグラデーションが綺麗な極大魔石が数十個収まっているガラスケースだが」
「<極魔石術>系統の魔法に使える、極魔石レッドクリーマーと極大魔石だ」
「「へぇ」」
「おぉ」
「まぁ!」
キュベラスとミウが驚いている。
キュベラスは<魔晶力ノ礫>を使える。
ミウは<極魔石術>系統の使い手か。
「次は、ドラゴンのスタチューがある城は?」
「ふむ、それは、ミグラド、皆様に見せるように持ち上げるのだ」
「ハッ、このドラゴンのスタチューなどが嵌まっております城の台ですが――」
ミグラドは歩脚で重そうな台を持ち上げて、俺たちに見せてきた。ジオラマっぽくて面白い。
人は魔法使い、射手、短剣使い、槍使い、剣使い、大剣使い、剣と斧使いの七人、ドラゴンのスタチューは四つ。
ミグラドは第一王女ギュルアルデベロンテを見る。
第一王女は頷いてから大きい口を少し動かした。
ミグラドは頷くと、スケルトンタンク風の頭部の細い双眸を煌めかせつつ俺たちを見て、
「……これは、タータイム王国の秘宝。現在六王国ですが、古くはフロルセイル七王国、連合国と呼ばれていた頃の品のようです。名は〝七雄七竜を封じた時仕掛けノ砂城タータイム〟」
「「「へぇ」」」
「なんか面白そうな仕組みがありそう!」
レベッカが興奮気味に聞いていた。
ミグラドは頷いて、第一王女ギュルアルデベロンテを見る。
王女は頷いて、「すべてを伝えなさい」と告げた。
ミグラドは頷き、
「〝七雄七竜を封じた時仕掛けノ砂城タータイム〟に魔力を送ると、このアイテム世界に入ることが可能で、とあることをすると、中にいる七雄の装備を得られ、独自のスキルを学ぶことも可能、更に、七竜のいずれかを倒せば、現在は四つのみですが、ドラゴンと契約し、そのドラゴンを使役することが可能となり、外の世界にも共に出ることができる。そして、この〝七雄七竜を封じた時仕掛けノ砂城タータイム〟が、タータイム国の【レッドフォーライムの砂地】の西部にある【フロルセイル湖】を見据える高台の砂丘のどこかに出現し、西方サキュルーン王国との最前線に基地となるようです」
「「「おぉ」」」
「聞くかぎり、タータイム国の秘宝だと思うが、よくそれを獲得できたな」
俺がそう聞くと、第一王女ギュルアルデベロンテは、
「はい、私を含めて、父上の配下の多くは、神格を持っていない。ですので傷場を通した取り引きは王女たちの仕事でした」
「なるほど、百足高魔族ハイデアンホザーや百足魔族デアンホザーを魔傭兵代わりに送り込んでいた見返りの一つか?」
「……はい、戦乱フロルセイルですから、様々に私たちを強者の兵士として向こう側は使っていましたよ。代わりに、魂などの膨大な魔力に、オガサワラのような優秀な戦闘要員を魔契約で獲得していました。その〝七雄七竜を封じた時仕掛けノ砂城タータイム〟も貴重な戦利品の一つで、また、取り引き素材でした」
第一王女ギュルアルデベロンテはすらすらと語る。
スケルトンタンク風の頭部は頭部内の青みを帯びた液体は他の百足高魔族ハイデアンホザーよりも透明度が高い。
その中を複雑な神経網が泳ぐように動いている。
白銀の甲冑に施された細工は丁寧で、歩脚の先端には小さな宝石がはめ込まれ、動くたびに光を反射していた。
話をするたび、頭部内の液体が微妙に色合いを変える様子は、彼女の感情が表れているようにも見えた。
第一王女というだけはある、そんな雰囲気を感じる。
そして、皆、納得しつつ思案げな表情を浮かべて沈黙した。
「「「……」」」
「納得だ、まさに、テーバロンテの遺産だな」
「あぁ、……では、これらの品は俺が一旦預かるが」
「「はい」」
「はい、ご主人様が持ち、皆に分けるほうがスムーズですから」
「ですね」
「反論はないですわ」
「私も賛成です」
ヴィーネにファーミリアとシキの言葉に皆が頷く。
戦闘型デバイスのアイテムボックスに〝白銀の魔皇宝箱〟ごと入れた。
「ンンン」
喉声を響かせながら近づいてきた相棒。
左足に頭部をぶつけてきた。
「匂いが嗅ぎたいアイテムがあったのかな
「にゃぉ~」
「了解、あとで嗅がせてやる」
「にゃ」
と、会話した後、黒豹の頭部を撫でてあげた。
耳を引っ張るマッサージも行う。
すると、ミグラドも後退し、第一王女の背後に回り込む。
その第一王女ギュルアルデベロンテに、
「では、俺たちは【テーバロンテの王婆旧宮】に向かうが、第一王女はどうする」
「はい、できれば、共に……」
俺たちと行動を共にしたいか。
そこで、ヴィーネとメルたちを見やる。
ヴィーネは頷き、メルは、思案げな表情のまま発言は無し。
ユイは、
「第一王女に隠し球があっても、わたしたちが対処する」
「そうね」
「……私の残りの兵は皆様の監視の下で、ミグラドに預け、【デアンホザーの百足宮殿】内部の私の領域に戻そうかと思います。また、私一人、シュウヤ様たちと共に、祖母たちの謁見に付いていきたいと思います」
「一人か……」
「はい」
皆を見る。ペミュラスも黙っている。
反対意見はないようだ。
そこで、
「では、第一王女も共に行こうか」
「はい!」
そこで、ベネットとルンスとアドゥムブラリとルマルディとフーとママニとシャナを見て、
「ベネット、ルンス、アドゥムブラリ、ルマルディ、ママニ、フー、シャナは、ミグラドたちと共に行動を」
「「了解」」
「ハッ」
「分かった」
「「「はい」」」
ミグラドは「では、皆様、こちらです――」と踵を返す。
他の固唾を飲んで見守っていた白銀の甲冑を着た百足高魔族ハイデアンホザーの部隊たち「「……」」と、まだ第一王女ギュルアルデベロンテの傍から離れずいたが、
「お前ら、話は聞いていただろう!!」
「「ハッ」」
と、ミグラドの豪快な声が響く。
白銀の甲冑を着た百足高魔族ハイデアンホザーたちは起立したように背を少し伸ばしてから、ミグラドたちの後方に並び出す。
フーたちもその横と背後から付いていった。
宮殿内の天井から魔力の光がこちらに差し込む。
足下の黒い大理石のような床は、幾つもの傷がついている。
壁面に彫られた百足紋様と幾何学的な文様は時折魔力に反応して淡く光を放つ。
空氣には、鉄粉が混ざったような独特の香りがある。
血は吸収しているから、【デアンホザーの百足宮殿】ならではの匂いか。かすかな湿り気も漂っていた。
皆の呼吸が見え、ほんのり冷たい空氣に、百足魔族たちにとって快適な環境なんだろうと考えた。
そんな空氣を伴いながら第一王女ギュルアルデベロンテと共にテーバロンテの王婆旧宮の正門に移動する。
と、衛兵たちが動いて、正門を開けた。
刹那、右の空間が不思議に揺れた。
「ご主人様、右から――」
『閣下、右の空間が、なんでしょうか』
水面に映った像が波紋に乱されるように歪むと、そこから次元に干渉しているような波紋が幾つも生まれてから、二人の魔族が現れた。
二人は両手を上げている。
あれ、片方は知っている。
細い目はブルーアイズ。
高い鼻に上唇がアヒル口。
顎と首も細い、鎖骨のところは銀色と紫色の軍服と融合している、恐王ノクターこと魔商人ベクターの配下か。
「にゃお?」
相棒も驚いているが、唸り声を発していない。
「シュウヤ様、お初にお目にかかります、私の名は、エスパニュラス」
「シュウヤ様、お久しぶりにございます。魔秘書官長ゲラです」
続きは、明日、HJノベルス様から書籍「槍使いと、黒猫。1巻-20巻」発売中。
コミック版発売中。




