表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
槍使いと、黒猫。  作者: 健康


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

1794/1999

千七百九十三話 メルの共有資料とデアンホザーの地に【瘴気の樹森】


 魔界セブドラの異様な空の下を、巨大な黒虎と化した相棒ロロディーヌが突き進む。

 隣では同じく巨大化した魔皇獣咆ケーゼンベルスが並走し、駆けては跳躍を繰り返した。


「ウォォォン! 随分とゆっくり飛行なのだな――」


 と、空気を震わせながら巨大な魔皇獣咆ケーゼンベルスの魔声が響く。

 時折、ジャンプをするから見えなくなる。


 広い相棒の頭部には皆もいる。

 相棒の体毛と、柔らかな毛皮を堪能しているは、レベッカとエヴァとユイとクレインとレガナとイズチ、インミミ、ゾウバチ、ズィルと魔界騎士ハープネス・ウィドウ。


 多くの仲間たちが乗っている。

 ラホームドと銀灰猫(メト)銀白狼(シルバ)とシャナとルビアとサザーとエトアと魔竜ハドベルトは巨大な鼻先を少し下って見えなくなった。滑り台のようにして遊んでいるのか。

 

 キュベラスとハミヤとイヒアルスと<光魔王樹界ノ衛士>ルヴァロスとハンカイとフーとホフマンとアルカードとアドリアンヌとルンスとアドゥムブラリとベリーズとクナとファーミリアとホワインとコジロウ・オガミと魔皇メイジナ様と魔命の勾玉メンノアとミウは鼻先にいる。


 近くをアルルカンの把神書が浮遊しつつ、己の頁を開いて<把顎・喰>と<迷魔想>などの幻影を宙空に生み出して、それらの魔法、魔術の説明をしていた。ミウは興味ありげだ。


 バーヴァイ城には、夢蔵右衛門とポーさんがいるんだが、まだ行かないようだな。


 相棒の眉毛付近には、神魔の女神バルドークに向け、片膝を付け頭を垂れている炎極ベルハラディと飛影ラヒオクと闇速レスールがいた。近くに子鹿(ハウレッツ)とママニとサラとパパスとキッカがいる。


 六眼ヒョウガとルシェルとルマルディとレグ・ソールトとシキと霊魔植物ジェヌたちも、左の眉毛付近で、【ローグバント山脈】と左側に広がっている【メイジナ大平原】に指先を向け、何かの話をしては、景色を眺めている。

 

 ビュシエとヴェロニカとラムーは左の大きい耳の中だ。

 右耳の中にはキスマリ、リューリュ、ツィクハル、レンがいる。

 七人は産毛に包まれて幸せそうな声を先程だから発していた。


 ラムーの魔鋼ベルマランの兜越しのくぐもったハスキーの声で可愛い声が響く。

 キスマリの乙女っぷりも可愛い、普段の一騎当千の烈女の雰囲気はない。


 そして、眼下に流れるのは、どこか既視感のある魔界の風景。

 【源左サシィの槍斧ヶ丘】は既に見えず、目的地である【テーバロンテの王婆旧宮】へと向かっている最中。

 移動中の束の間、それぞれが思い思いに過ごしたり、あるいは次の目的地について話し合ったりしていた。


 そこでアイテムボックスに入っているアイテム類の整理をしていく。

 【テーバロンテの王婆旧宮】という未知の領域へ向かう今、手持ちの装備の性能を再確認しておくのは悪くない。

 エレニウムエネルギーとなる極大魔石はまだ入れず。

 ビームライフルは使わないよなぁと、出しては、ライフルと格闘術を合わせた〝ガンカタ〟を開発する!

 と、構えては、ビームライフルで銃剣術を意識しては、そのビームライフルの突きを出して、横に払う――。 風槍流の訓練を行ってからビームライフルを仕舞った。

 続いて、闘霊本尊界レグィレスのネックレスを胸に展開させた。

 すると、近くに座っていたメル、ヴィーネ、キサラ、ミスティ、サシィの五人が俺に近づき、


「総長、移動中で恐縮ですが、今後のことを含めて話があります」


 メルが、少し身を乗り出すようにして話しかけてくる。

 同時に机を目の前に共にアイテムボックスから召喚。

 クナの名匠マハ・ティカルの魔机を彷彿させるが、無垢の机で魔力を帯びている。

 その机に様々な資料を広げていた。その資料には、


 □■□■


 情報共有資料:総長の主要移動手段および特殊装備に関する概要


 目的:総長とわたしたちの保有する特殊な移動能力および装備に関する情報を共有し、今後の作戦立案・連携の円滑化を図る。


 作成担当:メル(【天凛の月】の副長)


 1.主要移動手段


 総長は以下の複数の特殊な移動手段を保有・使用可能です。状況に応じて最適な手段が選択されます。


 1.1.〝闇遊ノ転移〟(骰子型アイテム)

 提供者:闇遊の姫魔鬼メファーラ様

 使用者:シュウヤ様本人のみ(<メファーラの武闘血>と<姫魔鬼武装>の保有者)

 機能:

 重要範囲:魔界セブドラ内部のみ。惑星セラ等の異次元への転移は不可。

 転移先:

 固定:メファーラ様近辺(3面)、ギュラゼルバン城横(1面)、メファーラ様寝室(1面)、ハマーヌ様陣地(1面)

 記憶可能:2箇所まで任意の地点を登録可能。

 特徴:低魔力消費。シュウヤ様に接触している人員・物品も同時に転移可能(上限数不明)。

 

 1.2.〝レドミヤの魔法鏡〟

 機能:魔法鏡ネットワークを利用した拠点間転移。

 現状:最大28箇所登録可能と推定。現在13箇所の座標が登録済み(メリアディ関連、ヴァルマスク、峰閣砦、サシィ様拠点庭など)。

 確認されている転移先リスト(13箇所):


 1【メリアディの書網零閣】

 2【ルグファント森林】

 3【ヴァルマスクの大街】

 4【アムシャビス族の秘密研究所の内部】

 5【メリアディの荒廃した地】

 6【エルフィンベイル魔命の妖城の冥界の庭】

 7【メリアディ要塞の大広間】

 8【レン・サキナガの峰閣砦】

 9【骨鰐魔神ベマドーラーの内部】

 10【南華大山山頂部】

 11【ガルドマイラ魔炎城】の城主の間

 12【ウラニリの大霊神廟の遺跡】

 13【源左サシィの槍斧ヶ丘】の奥座敷の庭(記憶済み・鏡回収済み)

 備考:総長が本体を所持・管理。

 関連アイテム、二十四面体のトラペゾヘドロンと合わせたらかなりの転移場所が増えたことになります。


 2.その他の転移関連アイテム


 2.1.二十四面体、トラペゾヘドロン。

 レドミヤの魔法鏡と似ているトラペゾヘドロン。総長はこれを昔から活用している。

 一面:部屋に設置してある鏡。

 二面:何処かの浅い海底にある鏡。

 三面:【ヘスリファート国】の【ベルトザム】村教会地下にある鏡。

 四面:遠き北西、【サーディア荒野】の魔女の住処にある鏡。

 五面:地下都市デビルズマウンテンのハフマリダ教団の部屋にある鏡。(アムに会うため)

 六面~十面:土色、真っ黒の視界。(埋まっている鏡)

 十一面:ヴィーネの故郷、地下都市ダウメザランの倉庫にある鏡。

 十二面:空島にある鏡。

 十三面:どこかの大貴族か大商人の家にある鏡。

 十四面:雪が降っている地域の鏡。(おそらく遠い北、巨人棲息地域)

 十五面:大きな滝がある崖の上か岩山にある鏡。(ルシヴァル要塞建築の候補地)

 十六面:魔界側:レン・サキナガの峰閣砦。(現在、〝レドミヤの魔法鏡〟を入手したため回収済み。総長のアイテムボックスの中)

 十七面:不気味な内臓が納まった黒い額縁があり、時が止まっているような部屋にある鏡。

 十八面:惑星セラ側:魔塔ゲルハットの屋上のペントハウス内にある鏡。

 十九面~二十三面:土色、真っ黒の視界。(埋まっている鏡、計5面)


 2.2.ゴウール・ソウル・デルメンデスの鏡

 片方は【レン・サキナガの峰閣砦】の大楼閣に設置してあったのを、外し、総長が所持。

 もう片方は現在、バーヴァイ城の城主の間に設置済み。


 2.3.〝旧神法具ダジランの指具〟

 特定のスキルと組み合わせて使用する転移アイテム。

 転移方法:

 スキル<ベリラシュの指を喰う追跡者の使役>を使用。

 指具に棲まうベリラシュ(総長と契約済み)が標的の魔力を喰うことで、指具を持つ者(総長)が瞬時に転移可能となる。

 機能:総長のスキル<ベリラシュの指を喰う追跡者の使役>と連携。

 契約存在ベリラシュが対象の魔力を捕捉することで、シュウヤ様が対象地点へ瞬間転移可能。

 用途:特定条件下での追跡・奇襲等。


 3.その他の移動手段


 3.1.〝センティアの部屋〟

 【幻瞑暗黒回廊】へのアクセス・移動が可能。


 3.2.固有スキル

 <覚式ノ理>等、シュウヤ様固有のスキルによる移動。


 4.特殊装備『闘霊本尊界レグィレスのネックレス』


 提供者:恐王ノクター(魔商人ベクター)

 概要:使用者の能力・経験に応じて機能が変化・向上する、神話級の可能性を秘めた多機能ネックレス。

主要機能(総長のスキル<闘霊本尊界術>使用時):

 ①生物格納・運搬:

 最大10体までの味方・眷属等をネックレス内部のクリスタル空間に一時的に格納・運搬可能。

 内部での意識維持、回復効果の可能性あり。隠密行動、緊急離脱等に活用可能。

 ②武器形態への変化:

 重要起動条件:総長がスキル発動後、真名〝レグィレス〟を強く意識すること。

 形態:両拳を覆う「籠手」と、魔線で繋がれた「浮遊数珠玉」が出現。

 付随効果:恒久スキル<空数珠玉羅仙格闘術>を獲得。既存の格闘術・魔闘術と連携し、シュウヤ様の近接戦闘能力を大幅に強化。

 ③その他機能:

 初回スキル獲得(完了済)。

 魔酒生成(総長個人使用)。


 通達事項

各員、上記情報を把握し、今後の作戦行動における総長との連携、及び状況判断に役立ててください。特に移動手段の制限(〝闇遊ノ転移〟の魔界限定など)や、ネックレスの武器形態起動条件は重要な情報となります。不明な点は、必要に応じて総長または情報担当メルまで確認してください。


 以上


 □■□■


「おぉ、俺もだが、皆のために分かりやすく纏めてくれたか」


 メルは、


「はい、ミスティたちにも協力してもらいました」

「ありがとう、メル」

「はい、そして、『闘霊本尊界レグィレスのネックレス』についてにも質問もあります」


 メルは首元を注視してきた。

 このネックレスは恐王ノクター、今は魔商人ベクターで活動しているはず。

 その魔神の一柱から提示された物から俺が選択し、譲り受けた。


「ああ、構わない。このアイテムの再確認か」


 メルたちが頷く。

 隣にいるヴィーネが、


「はい。神話級に近い特別な品です。ご主人様の力に応じて機能が向上する特性は、今後の戦いを考えると非常に重要かと。そして、キサラが特に武器形態への変化について、気になる点を……」


 ヴィーネの言葉を受け、キサラが頷く。


「籠手と浮遊する数珠玉への変化です。以前シュウヤ様が試された際にも変化しましたが、より確実に、そして強力にその形態を引き出すには、<闘霊本尊界術>を発動した後、ネックレス固有の名……『レグィレス』の名を強く意識すること。それが鍵となると」


 頷いた。以前はもっと漠然としたイメージで武器化を試みた気がする。

 固有名称そのものがトリガーだ。


「『レグィレス』の名が鍵だな」


 納得して呟くと、メルが補足した。


「はい。その形態変化と同時に<空数珠玉羅仙格闘術>という強力な格闘術スキルも獲得されていた。そして、シュウヤ様が既に習得されている多彩な<魔闘術>系統……例えば<魔闘血蛍>などとも組み合わせることで、近接戦闘能力が飛躍的に向上する可能性があります」


 <空数珠玉羅仙格闘術>……籠手による打撃や防御、そして魔線で繋がった数珠玉による変幻自在の攻撃。

 たしかに戦い方に新たな幅をもたらしてくれるのは確実。

 皆の洞察力に内心で感謝しつつ、改めて首元のネックレスに軽く触れた。


「転移の種類といい、皆、ありがとう、強化に余念はない。『レグィレス』の名と認識を強めた。これからも役立つだろう」


 皆、それぞれに頷く。満足げな表情を見せた。すると、相棒がわずかに高度を変えると、皆、前方の、まだ見えぬ目的地へと向けられた。森が殆どだが、山のようなところの奥地には【テーバロンテの王婆旧宮】か。

 手前の森は、【瘴気の樹森】だろう

 ペミュラスの案内が不可欠なその地で、何が待ち受けているのか……。

 皆、気を引き締めるように景色を見つめてから俺を見つめてきた。


 メルは、机に置いた資料に指を置いて、

 

「総長、次の目的地についてですが、転移能力について整理しておいたほうがいいと思いまして」

「ご主人様の持つ転移手段は多様化してきており、状況に応じた戦略的活用が可能になっています」


 メルに続いて、ヴィーネの言葉だ。

 メルは、蜂蜜色の髪を揺らしながら机の資料に、


「まず基本となるのが〝レドミヤの魔法鏡〟。元々保存されてあった 1【メリアディの書網零閣】、2【ルグファント森林】、3【ヴァルマスクの大街】の場所。そして、わたしたちが総長と共に活動、移動して記憶し増やしてきた合計、十三箇所ですが、理論上は二十八カ所への転移が可能」


 メルは指を立て、


「【メリアディの書網零閣】、【ルグファント森林】、【ヴァルマスクの大街】、【アムシャビス族の秘密研究所】、【メリアディの荒廃した地】、【エルフィンベイル魔命の妖城の冥界の庭】、【メリアディ要塞の大広間】、【レン・サキナガの峰閣砦】、【骨鰐魔神ベマドーラーの内部】、【南華大山山頂部】、【ガルドマイラ魔炎城】城主の間、【ウラニリの大霊神廟の遺跡】、そして最近追加した【源左サシィの槍斧ヶ丘】の奥座敷の庭」


 と、一つずつ数えながら拠点を挙げてくれた。

 細い指先の動きが魅惑的だ。

 【迷宮の宿り月】の女将だった頃の姿も良いが、やはり【天凛の月】の副長の立場も良い。

 ヴィーネが、

「はい、〝レドミヤの魔法鏡〟。便利な転移方法が増えた。主要な移動と撤退手段にも使えます。そして、〝闇遊ノ転移〟もご主人様は持ちます」


 皆が頷いた。


「メファーラ様との約定ために使うための転移アイテム」

「はい、『闇遊ノ転移』は六面あり、各面に特定の転移先が設定されています。一〜三面はメファーラ様の近く、四面はギュラゼルバン城横の本営玉座前、五面は【メファーラの大地】の寝室、六面はハマーヌの陣地です」


 メルの指先の動きと、素敵な声に魅了されながら、頷く。

 するとレベッカが、


「〝闇遊ノ転移〟の二面と三面も、〝レドミヤの魔法鏡〟と同じく転移する場所を記憶できるなら、便利よね。後、狭間(ヴェイル)を越えられたら超絶に便利なんだけど……」


 たしかに、超絶便利になる。


「はい、ふふ、それはそうですね」

「たしかに、それが可能なら超絶便利です。しかし、神格を有したシュウヤ様ですから、神格を有したまま魔界や神界から惑星セラに間違って転移してしまったら?」

「う、それは……拙いわね、便利になるとうっかりミスが増えそう」


 キサラとレベッカの仮定の話に皆が頷く。

 

「……死にはしないようだが、かなりダメージを受けるようだからな……」

「はい。その超絶便利な魔道具はありませんので、話を少し変えて、他にも総長は、二十四面体の〝トラペゾヘドロン〟を持ちます」

「ですね、〝ゴウール・ソウル・デルメンデスの鏡〟と、それにスキル『<覚式ノ理>』もありますが、状況に応じた使い分けが肝要かと」

「はい、ゴウール・ソウル・デルメンデスの片方の鏡は、バーヴァイ城に置いたままって線もいいかもね。シュウヤが持つ片方のゴウール・ソウル・デルメンデスの鏡を、だれかに渡して、その誰かが、遠い場所に移動し、帰ってくる時に、素早くバーヴァイ城に転移できるし」

「はい、賛成です」

「光魔騎士グラドや光魔騎士ファトラに光魔騎士ヴィナトロスのだれかに持たせて、緊急時にバーヴァイ城にすぐに帰還できるようにするのもアリね」

「はい、それも良い案です」

「うん、鏡系の転移系が増えたことで、様々に案がでてくる」


 レベッカの言葉に皆が頷いた。

 すると、隣を駆けていた魔皇獣咆ケーゼンベルスが「ウォォン」と声を発して追いついてきた。

 神獣ロロディーヌの相棒も動きを止める。

 その相棒の右の眉毛の位置にいたペミュラスは「はい、あの先が【瘴気の樹森】ですぞ」と発言していた。


 前方には【瘴気の樹森】の緑黒色の不気味な樹海が広がっていた。

 ペミュラスの近くにいる魔皇メイジナ様は、


「……【瘴気の樹森】は変わらないか。森の右奥が【デアンホザーの地】と【デアンホザーの百足宮殿】……奥が【テーバロンテの王婆旧宮】だな……」


 魔界王子テーバロンテが躍進する前は魔皇メイジナ様の勢力も、魔界王子になる前のテーバロンテ側の勢力と争っていたのかもしれない。

 魔皇獣咆ケーゼンベルスは「ウォン……」と低く唸った。

 

「ん、もう、この辺りからペミュラスの故郷と言える?」

「そうですな」


 ペミュラスの言葉に、レベッカたちが、【瘴気の樹森】を見やる。


「【瘴気の樹森】は近くで見ると、巨大な壁ね。この奥に百足門や、テーバロンテの王婆旧宮があるのか疑問に思えてくるけど」

「はい、しかし、この先が確実に【デアンホザーの地】と【デアンホザーの百足宮殿】と【テーバロンテの王婆旧宮】です」


 レベッカの疑問にバーソロンがすぐに答えていた。

 

 ペミュラスがこちらに振り返り寄ってきた。

 漆黒の外骨格は、魔夜の光を吸い込むかのように艶やかだ。


「シュウヤ様、この樹森を抜けたら百足門です。そこを通過するには……」


 ペミュラスの頭部のスケルトンタンク風の部分がわずかに揺れ、中の液体が踊るように動く。

 頷いて、


「〝魔界王子テーバロンテの掛毛氈〟の使用だな」

「はい、百足門はそれで開きますが、守護者たちも我の気配を察知し、現れるはず。そのテーバロンテの魔印を見れば通すとは思いますが、下手をしたら、戦いを仕掛けてくるかもしれません」

「了解した」


 そこで、アイテムボックスから取り出した掛毛氈を手に取る。

 漆黒の布地に赤い刺繍で百足のシルエットが描かれ、触れると不思議と冷たい感触があった。


「掛毛氈で、無用な戦闘を避けられる可能性は、一応はあるわけか」

「はい。我らの強さの察知できる魔眼系能力を備えた者が、百足門の守護者。百足高魔族ハイデアンホザーの強者たち。ただ、猪突猛進タイプの場合は問答無用で戦いを仕掛けてくる可能性も考慮すべきかと」


 ペミュラスの言葉にキスマリが、「ハッ、いい度胸だ。主たち、その場合は我が前に出よう」と発言し、六眼を煌めかせる。

 魔剣ケルと魔剣サグルー魔剣アケナドと魔剣スクルドを四腕に召喚し、消しては、その四腕を振るいながら、剣舞を行い、魔剣のジャグリングを行うように、四つの手に魔剣アケナドや魔剣ケルを交互に召喚していく。


 力強く、軽快な剣舞の中には〝黒呪咒剣仙譜〟で皆と同じように学んだ剣術スキルもある。

 六眼キスマリは美人さんで、体形も筋肉質な部分もあるが、スマートだ。剣舞といい、その剣術には、ユイにはない、何かの魅力がたしかにある。

 と、評せるほどには、俺も剣術の高まっていると実感できた。


「シュウヤ様とキスマリ様、警戒はしてきますが、あくまでも喩え、シュウヤ様は神格を得て、神獣ロロディーヌ様も神格を帯びている。更に、魔皇メイジナ様と神魔の女神バルドーク様に、なにより、魔皇獣咆ケーゼンベルス様もいますので、戦いには発展しないはずです」


 ペミュラスの言葉に、キスマリは少し肩の力を抜き、「……つまらんと言いたいが、良しか」と呟くと、ハンカイが、


「はは、戦わずに通過は良しだが、……正直、百足高魔族ハイデアンホザーの強者とは、俺も戦いたい氣分だ」

「強者だが、俺たちは魔界王子テーバロンテを滅した側だからな、氣に食わない奴もでてくるとは思うぜ」


 アドゥムブラリの言葉に皆が頷く。

 魔界騎士ハープネス・ウィドウも近づいて、「戦いとなれば、貢献するぜ」と発言。


「おう、頼む。が、ハープネスにも目的があるんではないか?」

「黄金貝魔海などにはあるが、光魔ルシヴァルのシュウヤたちに縁を感じているんだ。強いて言えば、シュウヤの槍に惚れていると言えば分かるだろう」

「風槍流が好きなのか?」

「……あぁ、いい武術だ、参考にしている。そして、〝愚王級魔人武術指南書〟を本格的に学ぶついでに、それを参考にしたいとも考えている。いいかな?」

「別段構わないが、あとで敵対するとか言うなよ?」

「ない、なんなら、シュウヤの眷族に成りたいぐらいだ。それにだ。メイジナ海の西方に広がる黄金貝魔海の一部なら故郷だから色々と魔竜ハドベルトと共に案内もできるぜ?」

「「おぉ」」

「マジか」


 アドゥムブラリたちが驚いている。


「おう、眷族になっても、セラには行くつもりはないが、このような冒険が楽しめるんだからな」

「了解した。では、眷族化は考えておく」

「おう」

「ガォォ」


 と、魔竜ハドベルトが鳴いた。

 ハープネスは、「え、ハドベルトもか? シュウヤ、光魔ルシヴァルは魔竜も眷族にできるのか?」

 

「契約という形になると思うから、ハドベルトには悪いが、止めといたほうがいいだろ」

「……そ、そうだな」


 ハープネスは少し動揺すると、魔竜ハドベルトは、ハープネスに、


「ガオォ……」


 と鳴いて何かを伝える。ハープネスは、


「え、あぁ、そうだよな、うむ、その点は心配していないさ」

「ガォォ~」

「――うぁっ、あははは」


 魔竜ハドベルトがハープネスに飛び掛かっては、大きい舌でハープネスは顔を舐められている。


 そこで、皆を見て、


「では、話を続ける。目的は原初ガラヴェロンテとキュビュルロンテに会うことだ。無用な衝突は避けようか」


 と、発言するとバーソロンが前に出てきた。

 バーソロンもかつてはテーバロンテに仕えていた。


「その原初ガラヴェロンテですが、王婆とも呼ばれていたことは知っています」

 

 ペミュラスを見ると、


「テーバロンテが『王婆衝軍』と軍勢の名を付けたのも、王婆と呼ばれていることへの反発からとありました」

「「へぇ」」


 知らなかった数人が声を発した。

 レベッカがペミュラスに、

 

「ペミュラスは、原初ガラヴェロンテとキュビュルロンテの部下でもあり、王婆のガラヴェロンテのスキルか不明だけど、心臓からバビロアの蠱物を取り除いてもらった恩があるのよね」

「そして、毒物を除去されたペミュラスは原初ガラヴェロンテとキュビュルロンテに任務を託されていた」


 レベッカとキサラの言葉にペミュラスは頷く。

 ペミュラスは百足高魔族ハイデアンホザーでは、極めて稀な平和の意思を持つからこそ、助けられたと思う。

 ペミュラスは、


「はい、枢密顧問官ト・カシダマの護衛と、【古バーヴァイ族の集落跡】にて、古のバーヴァイ族、古代バーヴァイ族が崇めていた〝黒衣の王〟と〝炎幻の四腕〟の痕跡を探す任務を与えられていました」

「原初ガラヴェロンテとキュビュルロンテは、〝黒衣の王〟と〝炎幻の四腕〟。要するに力、強化に繋がるアイテムやスキル」

「「「はい」」」

「ん」


 皆も頷いた。


「〝炎幻の四腕〟は持つが、魔神バーヴァイとの約束を優先するから渡すことはできないな」

「はい<祭祀大綱権>と<黒衣の王>はご主人様には重要、そして、<バーヴァイの魔刃>は皆の役に立ってます」


 頷いた。

 ※祭祀大綱権※

 ※<黒衣の王>の<祭祀大綱権>※

 ※ベゲドアードが魔神バーヴァイの<祭祀大綱権>を不当に獲得していたが、魔神バーヴァイの願い通りに<黒衣の王>を使いベゲドアードから<祭祀大綱権>を取り返した※

 ※<祭祀大綱権>を使用すると、魔神バーヴァイの<黒衣の王>と関連しているスキルを己の血が繋がる一族に授けられる※

 

 前にも考えたが、<バーヴァイの魔刃>を皆に授けられたのはこのスキルのお陰だ。


 魔界セブドラで<黒衣の王>のスキルを皆に授けた場合……。

 惑星セラにいる眷属たちには、リアルタイムで授けることはできない。

 また、惑星セラの宇宙次元で、<祭祀大綱権>を使用し、<黒衣の王>と関連したスキルを皆に授けた場合、魔界セブドラにいる眷属たちもリアルタイムに<黒衣の王>と関連したスキルの獲得はできないということだ。

 俺がいる宇宙次元側のみ授けられる、狭間(ヴェイル)の隔たりは絶対的。

 唯一例外は、ゼメタスとアドモスの場合か、楔の繋がり。

 同時にファーミリアたち、ヴァルマスク家の吸血鬼(ヴァンパイア)たちが、光魔ルシヴァルに成ることも、該当するだろう。次にセラに戻った場合は、【大墳墓の血法院】に一度行ったほうが良いだろうな。

 ファーミリアも同意見のはず。


「……ハルちゃんが食べることが多いけど、〝黒衣の王〟装備もシュウヤには役に立つ」


 確かに。


 <バーヴァイの魔刃>。

 ※バーヴァイの魔刃※

 ※魔神バーヴァイ流魔剣術技術系統:基礎※

 ※〝黒衣の王〟装備の〝煉霊攝の黒衣〟を獲得することで、<黒衣の王>関連の<バーヴァイの魔刃>を得た※

 ※剣類から遠距離攻撃の<バーヴァイの魔刃>を飛ばせるようになる※

 ※闇属性が濃厚※


 <煉霊ノ時雨>。

 ※煉霊ノ時雨※

 ※<煉霊ノ時雨>物理魔法防御術:上位※

 ※使い手の周囲に雨のような光魔ルシヴァルと煉霊の魔力が融合した雨を降らせる※

 ※遙か昔、魔神バーヴァイがラージマデルの古道で煉霊雨王リィグルを倒し、その魂を煉霊攝の黒衣に変化させた※

 ※ハルホンクが〝黒衣の王〟装備の〝煉霊攝の黒衣〟を喰って<煉霊ノ時雨>を獲得した※

 

 <神獣焰ノ髭包摂(ほむらのひげほうせつ)>。

 ※神獣焰ノ髭包摂(ほむらのひげほうせつ)

 ※ハルホンクが神獣ロロディーヌの紅蓮の炎の魔力を取り込んだ※

 ※竜頭装甲から橙色の魔力に燃えている髭が誕生し、その髭は自由に伸縮が可能※

 ※加速力が上昇し、魔力が増加※

 ※髭の炎で攻撃も可能、味方は触れてもダメージはないようにハルホンクが自動的に調整する※


 などで強化した。


「テーバロンテ様の死後、状況は複雑になっているようですね」

「百足宮殿の奥にあると言っていた後宮の話、第一王女ギュルアルデベロンテなどか」


 ペミュラスは前に説明していた。

 そのペミュラスは、


「はい、前と繰り返しとなりますが、テーバロンテの第一王女ギュルアルデベロンテ、第二王女ベベアルロンテ……第三王女トキュルンロンテ、第四王女ギュリアロンテ、第五王女ラガメラロンテなど凶悪な強さを誇る百足高魔族ハイデアンホザーがいます。中でも、テーバロンテの寵愛を受けていたトキュルンロンテは配下も優秀で強い。権力争いはありまする」


 皆が頷いた。

 

「特に第一王女と第二王女は表向き協力していますが、内実は互いを警戒している。彼女たちは傷場の管理権を巡って争っているはず」

「傷場……セラとの接点か」

「傷場の争いはどこも激しいのですね」


 シャナの言葉にバーソロンが、


「はい、魔界セブドラと惑星セラを繋ぐ特殊な場所ですから、テーバロンテは傷場を通じてセラの特定の勢力と交流があったはずです」

「密偵を束ねる組織、百足魔族デアンホザーの【螻首】の話は前に少し聞いている。そこから結構情報は得ていたか」

「はい、それなりに、しかし、百足魔族デアンホザーの本拠地に、【デアンホザーの地】などの百足魔族デアンホザーが多い地域では、デラバイン族の立ち入りは殆どが禁止され、迫害されていたので、微々たる程度、【峰閣砦】や【メイジナ大街道】と【サネハダ街道街】と【ケイン街道】の魔商人たちからの情報が殆どです。当時、私の任務は、バーヴァイ城を中心の魔界と、魔杖バーソロンを通したバルミュグからの情報、ネドーに、セラの塔烈中立都市セナアプアの下界を任されていた。バビロアの蠱物もありましたから、百足魔族デアンホザーたちには最新注意を払っていました……」


 と、少し昔を思い出したように顔色を悪くしたバーソロン。


 なるほど。俺がバーヴァイ城に乗り込んだ時も衝撃だったからな。

 百足魔族デアンホザーと蜘蛛魔族ベサンの兵士が殆ど、デラバイン族たちは仲間たちからも迫害されていた。

 更に言えば、デラバイン族の王族でありながら、その古参のデラバイン族たちからも恨まれる立場だったバーソロンだ。上下に挟まれる中間管理職どころの話ではないだろう……それを考えただけで胃がやられそう。


 バーソロンとサシィの過去の会話を思い出した。


『密偵を束ねる組織か。城主だと命令権はあまりないと思うが、その【螻首】は魔界王子テーバロンテの直属だな?』


 と当時、聞いていた。

 当時のバーソロンは頷き、チラッと源左サシィを見ていたんだ。

 サシィも『……はい』と気まずそうに俺とバーソロンたちを見ていたな。

 

『バーソロン、サシィへの信頼の証しにもなるから、その【螻首】という密偵部隊のことを教えてくれ』

『はい。メイジナの大街とサネハダ街道街には、百足魔族デアンホザーと蜘蛛魔族ベサンの兵が少なからず常駐していました。ですから有力な大魔商とは何人か顔見知りです。そして、我を見たら恐怖するぐらいの関係性でした……今はどうなっているか……』

『炎鬼バーソロン。炎狂鬼バーソロンなどの渾名は聞いているぞ……』


 と、この時、サシィがバーソロンの渾名を発言していただったな。

 その時、バーソロンの顔にある、炎の綺麗な模様がキラキラと煌めていたっけか。


 バーソロンの機嫌を察したサシィは「……すまない」と言って視線を泳がせていた。


 そんな過去を思い出していると、「ンン」と喉声を発した神獣(ロロ)

 

 ゆっくりと【瘴気の樹森】に近づき、動きを止めた。


 ケーゼンベルスも、歩みを止める。

 前方には瘴気に包まれた巨大な樹木群が広がっていた。

 

 枝葉から黒紫色の霧が立ち昇り、不気味な流れを作っていた。


「【デアンホザーの地】の範疇でもある【瘴気の樹森】に到着です」


 ペミュラスが告げる。皆の表情が引き締まった。

 

「ここからが本番です」

 

 ヴィーネの言葉に皆が頷く。


「おう、行こうか、相棒、ペミュラスの案内のまま進もう」

「こちらですぞ、そして、神獣様、我を触手で掴んで、シュウヤ様が前にお話をされていた深海魚の提灯鮟鱇の、提灯のように、我を前に掲げてください」


 とペミュラスは語り、複数の歩脚一つを伸ばす。先端で黒紫色の霧が渦巻く【瘴気の樹森】の右を差した。


「ンン、にゃおぉ」


 巨大な神獣ロロディーヌは、ペミュラスを触手で掴むと、前方に運ぶ。

 ペミュラスは本当の提灯のように、体と頭部を光らせる。魔力を発生させていた。

 そのペミュラスに、


「それだと、俺たちが人質に利用しているように見えるぞ?」

「はい、ですが、この方法が手っ取り早いですから、巨大な神獣ロロディーヌ様の歩む速度と、百足高魔族ハイデアンホザーの我が前が居れば、それだけ百足魔族デアンホザーたちの動きが抑制され、【デアンホザーの地】の【瘴気の樹森】の突破も速くなり、百足門にすぐに到着できまする。そして、ロロ様なら命を預けられまする」

「にゃご」


 と、もう一つの触手が、「うごぉぁぁ、ロロ殿様ァ~」と、ペミュラスは奇声を発しているように、ペミュラスの黒光りしている頭部を激しく撫でていた。


 あはは、面白い。


「「「あはは」」」


 皆も笑っている。


「なんという、ロロ殿様に撫でられている!!」

「むむ、ロロ殿様、我も前に掲げてくだされぇ」


 ゼメタスとアドモスの言葉に更に笑いが響いた。

 笑いを我慢しつつ、「ゼメタスとアドモス、それは余計な争いを招くことになるから大人しくな」


「「ハッ!」」

「では、相棒、進んでくれ」

「にゃおぉぉ」


 神獣(ロロ)は、そのまま前に向かい、【瘴気の樹森】の境界線を越えた。

 一歩踏み入れた瞬間、周囲の空気が一変する。魔界の異質さが凝縮されたような重苦しさと呼吸するたび肌に纏わりつく湿った感触か。


 生きた有機体の内部に入り込んだかのようなぬめり感がある。


 隣を進む魔皇獣咆ケーゼンベルスも付いてきたが、その巨体も瘴気の中では輪郭がぼやけて見える。


 魔夜の光が樹々の枝葉に遮られ、辺りは一層暗くなった。

 頭上の枝々は不自然なまでに絡み合い、黒紫色の霧を分泌する葉は呼吸するように膨張と収縮を繰り返している。時折、樹皮が引き裂かれるような音が聞こえ、樹幹から生まれたばかりの瘴気が泡立ちながら噴き出していた。


 足元の地面も生きているようだ。

 踏みしめるたびに微かに沈み込み、その圧力に反応して周辺の土から紫色の気泡が浮かび上がる。

 樹々の根は地表に露出し、蛇のように蠢きながら、ゆっくりと這い回っていた。


 時折、何かが動く気配がする。ペミュラスの案内のお陰か、攻撃してくる魔物はいない。

 

「――通路は安全です。我が百足高魔族ハイデアンホザーであることを感知して、身を隠しているようです」


 ペミュラスの大声が響き、瘴気の層を震わせる。

 遠くに歩腕の一つを伸ばしたペミュラスが指し示す先――。

 樹々の間に無数の赤い点が浮かんでは消えている。それらは明らかに生物の眼だが、その数と配置は常に変化し、森の暗がりから一行を監視し続けていた。


「あれは百足魔族デアンホザーの哨戒兵です。我々を監視していますが、攻撃はしないでしょう」


 ペミュラスの言葉が響く、皆それぞれの警戒態勢を取っている。

 ヴィーネは翡翠の蛇弓(バジュラ)を構え、レベッカは<光魔蒼炎・血霊玉>を浮かべている。

 ヴェロニカとメルは〝ラヴァレの魔義眼〟出して、アドゥムブラリは<魔弓魔霊・レポンヌクス>を召喚し、ママニは大型円盤武器アシュラムを構えた。

 ベリーズは環双絶命弓を構え、ハミヤは聖血剣ダクラカンを手に、周囲を警戒している。


 ――神獣(ロロ)が前足を振るい、樹の葉を切り進む。

 相棒の魔力が少し樹に吸われていくが、橙の燕の形をした魔力を吸収した樹は破裂していた。


「にゃご」

「この木々、魔力を吸収しているな」

「瘴気を有した樹の群れですね」

「魔力を吸ってくるようですね」


 ハンカイとメルたちが呟く。

 瘴気には魔力の吸引力があるようだな。


「魔力を奪うというより、魔力の流れを乱しているのです」


 ペミュラスが説明する。


「この森は外敵から百足門を守る防衛機構でもあります。強大な魔力を持つ敵が侵入しても、魔力の流れを攪乱させ、戦闘能力を低下させます」

「ウォォン、我はここは昔からいやだった、その理由か!」


 魔皇獣咆ケーゼンベルスの魔声が響く。

 同意するように、神獣ロロディーヌは毛を逆立て、「にゃごぉぉ」と鳴いていた。


 相棒もかなり警戒を強めたか。長い尻尾が時折左右に揺れていた。

 何かを感じ取っているようだ。


「ンン、にゃおぉ~」


 巨大な相棒の頭部の足下に手を当てて撫でた。


「大丈夫か、ロロ」

「にゃ」

「ん、可愛い、頭部が動いた」

「うん、サイレント〝にゃ〟に近い?」

「ふふ、正面から見たら、少し口が動いているのが見えたのに」


 エヴァたちの言葉に同意だ。

 神獣ロロディーヌのかすかな声だが、可愛い声で返事をしてくれた。

 その相棒の鼻先に移動した。


 ケーゼンベルスはゆっくりと歩みを進めていく。

 

 風もなく、ただ瘴気だけが渦を巻いている不気味な森だ。

 前方に魔素が多数、<闇透纏視>でもはっきりと分かる。


 やがて、森の奥から巨大な岩壁が見えてきた。

 自然の崖ではなく、人工的に削られた平坦な壁面。その中央には巨大な百足の彫刻が施された門がある。


「百足門に到着しました――」


 ペミュラスの声には緊張感があった。

 百足門の前には、漆黒の甲冑を纏った百足の兵士たちが整然と並んでいる。

 神獣ロロディーヌの体から出た触手一部から骨剣が次々に突出していく。

 ペミュラスは降ろされた。


「先制攻撃ができる立ち位置で、してこないが……」


 と言うと、ペミュラスは、


「予想外です……通常、ここまで警戒されることはありません」


 と、大きい声は、少し震えていた緊張しているんだろう。


「何か起きているのかもしれません」


 バーソロンも険しい表情だ。

 百足門の前に整列した兵士たちの中から、一際大きな百足高魔族ハイデアンホザーが前に出てきた。


「……来訪者よ、名乗れ」


 低く響く声。

 スケルトンタンクに見える頭部の中身が赤く光り、その光度が増していく。

 漆黒の甲冑を纏った兵士たちの歩脚がかすかに震え、百本以上の歩脚の槍先が一斉にこちらへ向けられた。


 ペミュラスが前に出ようとするが、急いで神獣ロロディーヌの鼻先から跳躍し、ペミュラスの前に飛び降る。

 すると、ロロディーヌから放たれる橙色の魔力が空気を震わせ、周囲の瘴気が逃げるように散った。


 百足高魔族ハイデアンホザーたちが一斉に後退りする。

 そこで百足門のリーダー格へと視線を向けた。


「俺の名はシュウヤ。光魔ルシヴァル」


 名乗ると、兵士たちの間から金属同士が擦れるような不気味な音が走る。

 一部の兵士の体からは黒紫色の魔力が噴き出し、互いに語らう声が聞こえた。百足門のリーダー格はスケルトンタンクにも見える頭部の一部と、何重と重なっているような不気味な口から小さい口が出ては、歯牙の間から、白い液体を垂らし、一歩前に出て、


「魔界王子テーバロンテ様を討ち取った者か」


 空気が緊張で張り詰める。

 リーダー格の歩脚の一部は明らかに魔力が濃厚で、鋭そうだ。

 白い液体は酸で、地面が少し溶けていく。

 他の百足高魔族ハイデアンホザーたちが、


「ついに【デアンホザーの地】をも奪いにきたか」

「なんてことだ」

「だが、攻撃してこないのはなぜだ」

「「……」」


 語ってきた、その声音には、恐怖がある。

 また、それだけ理性があるということだ。安心感が高まった。


 が、後ろから相棒と魔皇獣咆ケーゼンベルス唸り声が聞こえてくる。

 途端に、百足高魔族ハイデアンホザーたちは怯えるような声を漏らし始めた。

 

 そのまま、毅然とした態度を崩さず、魔界王子テーバロンテの掛毛氈を取り出し、


「これが分かるかな、原初ガラヴェロンテとキュビュルロンテに謁見を求める」


 掛毛氈を掲げると、その赤い刺繍が魔力を帯びて光り出した。

 リーダー格らしき百足高魔族ハイデアンホザーは、明らかに動揺した様子だ。


「あぁ! その掛毛氈は……」


 他の兵士たちも、前のめりになって掛毛氈を凝視している。

 ざわざわ、ざわざわ、とざわつきまくる。


「通してもらおう」


 静かながらも威厳を意識した声に百足高魔族ハイデアンホザー百足高魔族ハイデアンホザーたちは、しばし躊躇した後、わずかに頭を下げた。


「……お通しします」


 背後の百足門に向かって何かを告げると、巨大な石扉がゆっくりと開き始めた。


「ご用心ください」

「内部の状況はわかりません。王女たちの権力闘争次第では……」


 バーソロンが低い声で警告し、キュベラスも同意するように頷いた。


「テーバロンテの影響力は、その死後も続いています。彼の眷属や味方は我々を敵視するでしょう」


 頷いた。万が一に備え、いつでも戦闘態勢に入れるよう意識する。

 百足門が完全に開くと、その向こうには予想外の光景が広がっていた。

 洞窟のような空間だが、天井からは無数の黒光りしているクリスタルが垂れていて、斜陽の光を放つ彼岸花のような光源が垂れ下がって、そこから、わずかな赤と斜陽のような光で内部を照らしている。

 壁面には幾何学的な紋様が彫り込まれ、床には黒い大理石が敷き詰められている。


 それは異世界の宮殿のような美しさだった。


「ここからはもう【デアンホザーの百足宮殿】の一部ですぞ」


 ペミュラスの声には郷愁のようなものが混じっている。


「そして、先の奥地に【テーバロンテの王婆旧宮】があります」


 俺たちが中に入ると、百足門が背後でゆっくりと閉まっていく。


「もう引き返せないな」

「このまま進みましょう」

「はい」

「王婆旧宮で待っているのは友か敵か……それとも別の何かか」


 バーソロンの言葉に、妙な緊張感が一行を包む。


「にゃごぉ」

「ウォン、待て、ここからは、姿を小さくするぞ、神獣よ」

「にゃぉ? にゃおお~」


 神獣(ロロ)は一斉に触手を使い、皆を降ろすと、黒豹に変化した。

 魔皇獣咆ケーゼンベルスも姿を小さくする。


 そして、再び<闇透纏視>を活性化させた。

 【デアンホザーの地】と【デアンホザーの百足宮殿】と【テーバロンテの王婆旧宮】の奥を睨みつけた。

 どうやら向こうにも多くの気配がある。

 無数の百足魔族たちが、我々の訪問を待ち構えているようだ。


 遠くから微かに感じ取れる強大な魔力の気配がある。

 これがテーバロンテの王女たちのものなのか、それとも……。


「ん、()られている」

「はい……」

「うん、それは当然だと思う。でも意外、先制攻撃は絶対あると思ってた」

「「あぁ」」

「仕方あるまい、戦いを望むが、これもまた……光魔ルシヴァルの道……」


 キスマリが魔剣ケルと魔剣サグルー魔剣アケナドと魔剣スクルドを仕舞い、隣にいるラムーに向け、そんな言葉を言っていた。ラムーは【グラナダの道】でもあるからな。

 キスマリの冗談にラムーは「……はい」と応えていた。

 顔色は銅色の兜に覆われているから分からないが、声的には少し笑った印象はある。


「ふむ……テーバロンテの支配が終了したことが魔族の種としての生存本能に火を付けたか?」


 ハンカイの言葉に頷いた。


「とりあえず、行こうか」

「はい、道は変わっていないようですから、こちらに、そして、だれか来ると思いましたが……」

「権力争いの最中の乱入でしょうからね、だれが一番に接触してくるかってことかな」


 ペミュラスとレベッカの言葉に頷いた。


続きは、明日、HJノベルス様から書籍「槍使いと、黒猫。1巻~20巻」発売中。

コミック版発売中。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
主要移動手段および特殊装備に関する概要は読者的にありがたい。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ