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槍使いと、黒猫。  作者: 健康


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1788/1995

千七百八十七話 料理店オオザクラとフクナガとの対面

 吸筒を口にしていたエヴァが宙空に浮かびつつ振り返り、


「ん、実は戦いになるかも少しドキドキした」

「あぁ、俺も少しそんな予感はあった」

「実は、ご先祖様たちによって変化する場合もある。集団戦となる場合もあった」


 と、サシィが発言すると、エヴァたちは頷いて、


「ん、後藤蝙也齋さんのような方々の他にもご先祖様たちは現れるの?」

「現れる」

「ご先祖様たちは皆強いのだな」


 ヴィーネの言葉にサシィはダイザブロウとレイガとムサシを見て頷き合う。


「うむ、強かったからこそ、あのように魂が、神々に完全に取り込まれずに、源左に残り続けていられる」

「「はい」」

「マーマインや源左から離脱した黒髪の魔族たちは多く、過去には争いが何度もありました」


 ムサシの語りにダイザブロウは遠くを見やるように視線を外して頷いた。サシィはその様子を見てから俺を見て、微笑む。

 しかし、結局集団戦にはならず。


 長い魔杖ハラガソを持つルシェルの姿を見ながら、


「<雷霧>が見たかったが」


 そう聞くと、ルシェルは半身でこちらを見て、微笑む。

 額のサークレットの魔宝石を輝かせ、胸元に左手を置いて、


「はい、雷状の霧、使用範囲も自分の感覚で決められる。中々有効です」


 頷きつつエジプシャンメイクが可愛いルシェルを見ながら、


「いつかの集団戦の時に見るとしよう」

「ふふ、はい」

 

 そんな会話をしながら自然豊かな【ローグバント山脈】側にあるだろう奥座敷の庭を歩いていく。急勾配の崖を歩いて上がり、ゆるやかな坂を徒歩で進んだ。すると、


「お、主、修業を終えたか――」

「ご主人様――」

「シュウヤ様」

「シュウヤたち!」

「陛下!」


 空からロターゼが飛翔してくる。

 そのロターゼの上にはキュベラスとレガナとバーソロンが乗っていた。

 ルマルディはロターゼの低空辺りを触りながら共に低空を飛翔していた。

 

「おう」


 と、片手を上げ、返事をしつつ先を進む。

 浅い川を渡り、松の木の匂いを感じながら、歩いて庭を進む。

 石幢と神像も時折触った。

 

 すると、先を進むユイが半身で、


「なんか焼き魚の匂いがする」


 と指摘、すると、本当に焼き魚の匂いが漂ってきた。

 サシィたちを見ると、疑問符が額に浮いているような表情を浮かべている。


 そのまま庭を進むと、奥座敷と近くの日本庭園のような庭が見えてきた。縁側の前の庭には、既にハミヤとレベッカとクレインとアドゥムブラリたちが集結している。


 庭の石の上では黒猫(ロロ)銀灰猫(メト)銀白狼(シルバ)が、源左の者から焼き魚のご飯をもらっていた。


 匂いの原因はあれか。


 黄黒猫(アーレイ)白黒猫(ヒュレミ)は縁側の板の間で香箱座りでこちらを見ている。近くには大きい皿が置かれてあった。


 黄黒猫(アーレイ)たちも美味しいご飯を食べたか。

 子鹿(ハウレッツ)は、「グモゥ~」ミスティとシャナとペミュラスから源左で作っているだろう和紙をもらっている。


「「閣下ァ!」」

「ピュゥ!?」


 光魔魔沸骸骨騎王のゼメタスとアドモスが、足下を輝かせながら歩みよる。肩にいたヒューイは驚いて空を飛翔しては、飛来――。

 左手に白蛇竜小神ゲン様の短槍を召喚、すぐに貫手の白蛇竜小神ゲン様のグローブに変化させて、その左手でヒューイを掴むように左手に着地させた。


「ピュゥゥ~」

「ヒューイ、源左の周囲には自然がいっぱいだ、狩りを楽しんでもいいんだぞ」

「ピュッ♪」


 と、ヒューイは頭部のまろっている眉毛を見せつけながら返事をした。

 そのまま少し浮遊したヒューイは俺の回りを旋回。

 左肩に肩の竜頭装甲(ハルホンク)を生み出してあげた。

 すぐに降下し、両足の爪で、竜頭の装甲を掴むように着地してきた。

 可愛い。そのまま一緒に庭に戻るとレベッカが、俺の薄着を見て、

  

「あ、お帰り~」

「お帰りなさい~」

「おう、ハミヤの眷族化だが、フクナガの料理の後でいいかな」

「あ、はい!」


 ハミヤは体がビクッとさせていた。

 レベッカは、


「素敵な半袖の胴衣系だけど、修業に必要だったの?」

「薄着にして正解だったかな、<血道・明星天賦>に<血道・九曜龍紋>は九頭武龍神様の幻影が出現した時に、自然と反応していた。そして、上半身の魔点穴を、後藤蝙也齋さんに、指で何回か、上半身を突かれたことによって、<血道・明星天賦>と<血道・九曜龍紋>が活性化、<源左魔闘蛍>と<魔闘血蛍>の進化のコツが得られた」

「へぇ、そのシュウヤが新しく獲得した<魔闘血蛍>と<月冴>が見たい」

「俺も氣になっていた」

「俺もだ」

 

 ハンカイとアドゥムブラリに

 

「うむ」


 なぜか傍で見ていたキスマリも頷く。

 サザーは、


「ご主様の進化ですから見たいです」

「「「「はい」」」」

「見たいです」


 ビュシエとルマルディとバーソロンとレンも声を揃えて見たいか。

 その皆が、俺の右腕を奪うように手を握ってくる。

 半袖の衣装は胸元が開いているから、皆がチラチラと見てきた。

 

 寄ってきたベリーズが、皆との競争を勝利し、俺の右腕をおっぱいで挟むように押し当て、


「――フクナガの料理より、血文字の内容を見て氣になってたわ」


 と発言し、巨乳による柔らかい圧力を腕に加えてくれて嬉しくなった。

 アドリアンヌとホワインとファジアルも 


「見たいですわね」

「はい、未知の<魔闘術>系統ですから弓術にも応用できるかもです」

「あぁ」


 そう発言し、


「当然かと」

「至帝、わしもですぞ」

「はい、至帝の進化ですからね」


 ホフマンとルンスとアルナードも見たいか。


「新しい血の<魔闘気>は氣になっていました」

「私もですわ」

「見たいです、血剣術に活かせる<魔闘術>系統の<魔闘気>」

「はい。<愚王・魔加速>を超えるような速度加速になるのか、氣になります」


 エトアとクナとキッカとキュベラスの発言の後――。

 ベリーズの位置を奪うように右腕を抱きしめてくる。

 エラリエースは遠慮がちに左手を触り、


「……シュウヤ様の血を活かした蛍が見たいです」


 と発言し、離れる。


「シュウヤの進化は、氣になるぜ」


 ブッチも氣になったか。

 サラが、


「ベリーズ、離れなさい、そして、<魔闘血蛍>は氣になる~」


 と、寄ってくる。

 ベリーズは「あ、隊長~」と言って離れた。

 続いてサラの横にいたラムーが、


「はい、新しい半袖の衣装も氣になります。白が基調ですから、牛白熊の素材と分かりますが、アムシャビス族の〝紅翼の宝冠〟の素材に神獣様の橙色の炎の髭のような素材も入ってます」


 その指摘に頷いた。


「ラムーよく分かるわね。シュウヤがハルちゃんが取り込んだ素材を活かして、即興で造り上げていた」


 ユイがラムーに教えていた。

 そこにヴェロニカが背に抱きついて、


「――うん、わたしもよ、総長♪ 九頭武龍神様の登場したって聞いて少し驚いている」


 ヴェロニカの吐息が項に辺り、気持ちいいが、ちょっとくすぐったい。

 ヴェロニカの抱擁がまだ解けぬうちに、左側からユイも加わり、俺の背後に回り込んできた。

 ヴェロニカは降りながら脇腹をくすぐってくる。

 ユイが、


「シュウヤ~、傍で見ていてわたしも興奮したんだからね、<魔闘血蛍>はわたしも覚えられると思う?」

「覚えられるとは思う」

「うふふ、うん!」


 そう言うと、胸で背を刺激するように抱きしめを強くする。


「――やっぱり鍛えてるだけあって、背の筋肉も凄く引き締まってるわね~」


 そのユイの気持ちに応え、背にいるユイの尻を両手で掴み、ユイをおんぶするように持ち上げて、ユイのお尻の豊満な肉を存分に揉み拉く、「アンッ、ばか、ちょっ」と、悪戯な指先で、容赦なく肉を掴み、形を確かめるように揉み続ける。


 両腕と背からユイに<血魔力>をプレゼント、「ァンッ」とユイは感じ、体が反ったかな。ユイの体が弛緩し、また背に頬を当ててきた。


 揉みしだくと感じまくってしまうから、そこでストップした。

 

 そのままおんぶを続けユイの体温と合わさって、背中から臀部にかけての感覚が一気に鋭敏になった。


 すると、レベッカが、「ちょっ! シュウヤ、その手はなに!」と言い、俺の不遜な手つきに釘付けになっていた。


「あぁ、すまんな、両手でおんぶする時は、お尻さんを揉むのが礼儀かなとな」

「何が礼儀よ! ぷっ、面白い、ではなく、えっちなシュウヤ! イチャイチャと! あと、ユイも笑ってないで離れなさい! シュウヤの独り占めはずるい~」


 レベッカが真っ赤な顔で叫ぶ。

 ユイは、


「ふふふ、シュウヤの新しい技を確かめてるだけよ~。シュウヤの手から、わたしの尻の筋肉にも<魔闘血蛍>の効果が伝搬するかもでしょ~?」


 言い訳をしながらも、ユイは背から離れない。

 むしろ背にキスをしてきた。くすぐったい。


「ちょっ、そんな言い訳が通ると思ってるの!?」

 

 レベッカが駆け寄り、ユイの手を剥がそうとする。


 すると、黄黒猫(アーレイ)白黒猫(ヒュレミ)を交互に抱っこしていたメルも


「あ、もてもてな総長、フクナガの料理も楽しみですが、どのような<魔闘術>系統か氣になっていました、血文字で聞きましたが、後藤蝙也齋という源左のご先祖と戦ったとも」


 と冷静な声にユイとレベッカは互いの目を見てから頷いて、握手。

 ユイは背から離れた。

 そこで、メルたちを見て、


「おう、戦った、やはり、皆、氣になるか」

「そりゃ、はい~ここにいる皆ですね~」

「にゃおぉ~」


 焼き魚を源左の者たちと一緒に黒猫(ロロ)に上げていたルビアも発言。相棒も口に咥えていた魚を離してから鳴いていた。

 

 ママニも、


「サシィさんの<魔闘血蛍>は見てますが、やはりご主人様が、新しく得た<魔闘術>系統の<魔闘気>は見たいです」


 ママニの格闘にも<魔闘血蛍>は活きるか。


「俺もだぜェ~」


 アルルカンの把神書は表紙を少し輝かせて発言。

 皆の期待に合わせ、


「了解、見せよう」


 と発言。


「やった。フクナガさんの食事は楽しみだけどね~」


 レベッカの言葉に笑みを見せつつ――。

 半袖の武術装具は腰に降ろして上半身は裸のままだから、皆にも分かりやすいはず――<魔闘気>の<魔闘血蛍>を発動。


 瞬く間に上半身に蝙也齋が指で突いた魔点穴が光を帯びた。


 自然と霊獣四神の恒久スキル<四神相応>と<青龍蒼雷腕>が発動しかかるが、抑えると体から無数の血の蛍が出て周囲に放出された。


 <魔闘血蛍>の血の蛍は中々に面白い動きだ。


「「「「「おぉ」」」」」

「「きゃっ」」


 ハンカイの野太い声が中心だが、野郎たちの声と反比例するエトアとルビアの可愛い声が良い。

 ルンスのお爺ちゃんの反応も中々面白い。


「ほぉ……上半身の星を意味する輝きの点は傷に見えるが、あぁ、龍頭か」

「「「へぇ!」」」

「凄いの一言! あ、九つの龍頭、その九頭武龍神って、サシィを<筆頭従者長(選ばれし眷属)>に迎えた時には既に、九頭武龍神の祝福をシュウヤは受けていたってこと?」

「そうなるな」

「……ふふ、血の蛍――」


 ヴィーネが血の蛍を触りつつ、その<血魔力>を吸い込む。

 と、頬を朱に染める。俺と目が合うと、少し気恥ずかしさを得たのか、はにかむ。

 

「その血の蛍は、素敵ですね、そして、ご主人様と後藤蝙也齋の一騎打ち修業は格好良かったです……」

 

 俺の左腕を抱くように体を寄せ、耳元で言ってくれた。

 可愛い吐息と、左腕を包んでくれているヴィーネの肢体の感触に煩悩が刺激される。

 ヴィーネの柔らかな胸が腕に押し当てられ、その感触が直に伝わる。

 体温が俺の肌を通して伝わり、心臓の鼓動が少し早くなった。

 上半身は裸だから、ヴィーネの指先が俺の胸元に触れると、その冷たさと柔らかさに思わず息を飲む。

 彼女の指が<魔闘血蛍>により浮かび上がった魔点穴の一つをなぞると、その指先から<血魔力>が流れ込んでくるような気がした。


「ご主人様の新しい力……私にも少し分けてくださいませんか?」


 耳元で囁かれた言葉に、背筋に電気が走る。

 と、ベリーズも負けじと背後から抱きつき、その豊満な胸を俺の背中に押し付けてきた。


「血の蛍……一つ、私にもくれない?」


 甘い声でそう言うと、肩に唇を寄せる。

 その温かさに思わず体が強張る。

 そこにルビアたちが、少し嫉妬の視線を向けているのに気づき、


「おう~ヴィーネたちはその場に居合わせたから学べるかもな。そして、皆も〝知記憶の王樹の器〟で俺と記憶を共有すれば、<魔闘血蛍>に<月冴>などの獲得も可能かもしれないぞ」

「「「はい!」」」

「うん、<月読>を使った時だけど、<血液加速(ブラッディアクセル)>のように、加速し、速度が上昇したように見えた」

「あぁ、実際、そんな感覚に近いが……今、思うと、後藤蝙也齋の動きが少し読めたような氣もするんだよな」

「「へぇ」」

「「「おぉ」」」


 すると、サシィは、


「その通り、<月読>は矢切の秘術の一端でもあり、相手の陰陽鋼柔を理解するとされている。あらゆる動きの万象と千変万化に対応できる神秘の技なのだ」

「「「「へぇ」」」」

「「「おぉ」」」


 そこに源左の者たちが歩み寄ってきた。


「サシィ様、準備が整いました」

「皆様方、フクナガ料理長がオオザクラにてお待ちしています」

「了解した」

「「「行こう~」」」

「ふふ、ジロウザエモンに負けず劣らずの魔料理は久々ですから楽しみです」


 レンの言葉にサシィは、


「ふっ、魔大鯨メイジナの鮮度には負けるかもだが、フクナガの魔料理はそれを上回る」

「そうかもですわねぇ、魔熱調理法で、極大魔石を極度に熱し、そこの極大魔石の上に大量の小海老とサクラモントハマグリなどを載せ、源左塩をかけつつ、焼いて、頂くシンプルな料理、その一品はシンプルですが、極上の味……」

「あれか、腹が減ってきた……」

「「……」」


 サシィとレンとダイザブロウたちは頷き合う。

 よほどの魔料理ということだ。

 

 前にサシィとの会話を思い出す。


『……フクナガは血脈も貴重だが、源左包丁類、魔料理スキルも貴重。調理方法も独自の秘伝書があるようだ。忍び庖丁といい、わたしが知っている調理方法の〝超幻食美火鵺帖〟だけでも、フクナガの優秀さが分かる。そして、魔料理大会は各地の街や諸侯、神々の拠点で行われることが多いのだ。神々や諸侯が所有している街や居城で魔料理大会を開く。魔公ババ・ママドグーの究極の魔食大会、レドアインの奇食魔会、レンシサの魔界料理人大会などが有名か。そういった理由からフクナガが狙われるのだ。他にも、フクナガが造る極上の魔料理を食べたら、食べた存在の能力が上昇することも関係するだろう。だから、フクナガは料理で源左に多大に貢献しているのだ』


 とあったからなぁ。楽しみになってきた。


 俺たちは奥座敷の正門から外に出ては、源左砦を下りていく。

 砦内部にある風に揺れる赤い灯籠が道しるべとなり、〝魔神殺しの蒼き連柱〟の影響が残る特有の蒼が基調の少し紫が混じる空が頭上に広がっている。


「フクナガのオオザクラは中心部の赤石通りにあるんだ」


 サシィが先導しながら言った。

 その後ろに続き、ヴィーネやエヴァ、レベッカたちも一緒に歩いている。集落に入ると、石畳の細道が足元に伸び、軒先に提灯を下げた木造の民家が立ち並んでいた。宵闇が迫るにつれ、家々の灯りが一つ二つと灯り始め、源左の村に温かな活気が生まれていくのを感じる。


「「おぉ、シュウヤ様だ!」」

「「あぁ、サシィ様も!」」

「ゼメタス様たちもいらっしゃる!」

「え、あの女性は……崎長レン様……」

「本当だ……」


 レンは無言のまま会釈。

 サシィは指摘せず、村人たちが道の両側から次々と姿を見せ、俺たちに深々と頭を下げる。 サシィはそれに応えるように少し顎を引いて会釈を返した。

 

「ずいぶん人気者じゃないか」


 サシィの横に並んで言うとサシィは誇らしげに微笑んだ。


「うむ、魔界王子テーバロンテとマーマインを倒し、皆の命を救ったことは源左の者なら誰もが知っている」


 道を進むうち、遠くに木造の三階建ての建物が見えてきた。

 切妻屋根の軒先には何十もの赤い提灯が吊るされ、正面には桜の木の彫刻が施された大きな看板が掲げられている。


「あれがオオザクラか」

「そうだ。源左で最も古い魔料理店の一つ。フクナガの一族が代々守ってきた店だ」


 オオザクラに近づくにつれ、店から漂う香りが鼻をくすぐる。

 魚を焼く香ばしさに、何種類もの香辛料の甘く刺激的な香りが混ざり合い、誰もが思わず足を止めて深呼吸したくなるような魅惑的な匂いだった。


 店の入口には紺地に白い桜の模様が描かれた暖簾が下がっている。

 サシィが先頭に立ち、暖簾をくぐると、中からは「いらっしゃいませ!」という威勢のいい声が迎えてくれた。


 店内は予想以上に広い。

 天井が高い造りになっている。

 中央には囲炉裏が切られ、その周りには座敷が設けられていた。

 壁面には魔界の著名な料理人や、武将たちの書や絵が飾られ、店の歴史の深さを感じさせる。


 天井からは釣り下げられた幾つもの灯籠が柔らかな光を放ち、店内を温かな雰囲気で包んでいる。奥には個室へと続く廊下も見える。


「サシィ様、シュウヤ様、皆様!お待ちしておりました!」


 その声の主は、店の奥から現れた中年の男性だった。

 白い割烹着に身を包み、頭には白い鉢巻きを巻いている。


 精悍な顔立ちながらも、目元には優しさが宿っていた。


「フクナガ、久々だな」


 サシィが挨拶をすると、フクナガと呼ばれた男は低く頭を下げ、


「ようこそオオザクラへ。本日は特別なお客様のため、最高のおもてなしをご用意しております」

「魔食奇人会が欲する、幻の食材百二十九品だな」

「はい」


 その後、フクナガとサシィが視線で語り合う。

 フクナガは、俺に視線を移してから深々と頭を下げた。


「シュウヤ様、源左の恩人にお目にかかれて光栄です。本日は拙い料理ではございますが、ぜひご堪能ください」

「こちらこそよろしく頼む」


 頭を下げて挨拶を返した。

 フクナガはにっこりと笑うと、店の奥へと案内してくれる。


「特別室をご用意しております。どうぞこちらへ」


 フクナガに導かれるまま個室へと向かった。

 廊下を進むと、壁には調理器具や素材の絵が飾られている。

 それらは単なる装飾ではなく、フクナガの一族に伝わる秘伝の技術を暗示しているようだった。

 個室の扉を開けると……。

 予想を超える広さ、中央に大きな囲炉裏が設けられ、周りにはすでに膳が並べられている。天井からは水晶のような石が吊り下げられ、魔力を帯びた柔らかな光が部屋全体を照らしていた。


「皆様、どうぞお掛けください」


 フクナガの言葉に従い、俺たち一行は席に着いた。

 仲間たちの顔には期待の色が浮かんでいる。


 <筆頭従者長>たちも普段のように俺を囲むように座り、源左の料理人の技に興味を示している様子だった。


「ごはん、ごはん♪ ごはんのお供は何かな♪」

「ごはっん~、ごはっん♪」

「「ごはん~」」

「ごはん、ごはん♪ ごはんのお供は何かな♪」


 イモリザが主体にエトアとルビアが合わせて歌い始めた。

 そこに、ヴィーネが「ゴホンッ、フクナガから言葉があるようですよ」

 と、皆、喋るのを止めて、フクナガを見た。


 フクナガは改めて前に立ち儀式のような厳かさで、


「本日はさっそく、源左秘伝の魔料理の数々をお出しします。まずは――」



続きは明日、HJノベルス様から書籍「槍使いと、黒猫。1巻~20巻」発売中。

コミック版発売中。

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