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槍使いと、黒猫。  作者: 健康


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1787/1996

千七百八十六話 蝙也齋との修業と<魔闘血蛍>などの獲得

 九頭武龍神の九つの目に星辰の輝きを思わせる魔力が集まる。

 と、洞窟全体が鼓動するように震えた。


 九つの口から同時に、


「『お前の血には、源左の血脈と神界セウロスの聖性、そして魔界セブドラの諸神の気配を感じる……汝は混沌の王なのか?』」


 その声は洞窟の壁面に刻まれた古の文字を震わせ、アメジストの結晶から反響する。


「混沌の王ではない。光魔ルシヴァルの宗主、名はシュウヤです」

「『シュウヤか……』」


 九頭武龍神は九つの龍頭をそれぞれに優雅に動かし、石灯籠の炎が揺らめく。

 すべてを見通すような瞳で一同を観察してくる。

 サシィと幽霊的な影星夏美様は似てかなりの美形だ。

 古の時代の公家の装束を思わせる衣が非常に似合う。

 

 と、九頭の双眸から青紫の魔線が放たれ、それを優雅に袖を翻して片手で受け止めた影星夏美様は、静かに頷き、敬意を込めて頭を下げた。

 そして振り返ると、月明かりに照らされた水面のように揺らめく姿で、俺に近づいてきた。

 その体の輪郭の端はゆらゆらと揺れて残滓のような幻影の魔力が儚く散っていた。本体のほうは消えていないが、触ったら大氣に混じり消えそうに見えた。


「え、夏美様――」

「「「ご先祖様――」」」


 サシィとダイザブロウとレイガとムサシは急いで片膝の頭で床を付き頭を垂れる。夏美様は、四人を優しげに見つめ、


「サシィとダイザブロウにレイガとムサシ、久しぶりです。顔を上げていいですよ」

「はい」

「「「ハッ」」」


 四人は夏美様を見上げる。

 夏美様は微笑みながら俺を見て、


「シュウヤ、神界はさておき、源左一族の血と同じ祖を持つことには、興味を覚えている。少し教えてくれますか?」


 と聞いてきた。

 夏美様の言葉には、サシィ以上の古風な格式を感じた。 

 そして、平安中期の女流作家で超有名な紫式部などを連想する。


 越前守藤原為時の娘で、藤原宣孝と結婚し、夫が死んだ後、『源氏物語』を書き始めたんだよな……。


 源左が生きた時代も平安時代なら、まさかだが……。

 そんなことを考えたが口にはせず、俺のことを正直に、


「はい、喜んで、大本は日本人、大和民族、大和、ジパング、そのような国を擁した地球という名の惑星から、惑星セラに転生、転移し、光魔セイヴァルトという名の種族から、光と闇の属性を持つ光魔ルシヴァルへと進化。そのまま地下で二年過ごし、一年をゴルディーバの里で、過ごしてから暫くの後、魔界セブドラ入りしての今があります。源左の一族も昔の日本出身だと思いますから、その関係の影響で、血の相性が良いのでしょう」


 と語った。

 夏美様は、


「ほう、稀人(まれびと)や転移、転生者であるか。われら源左(げんざ)の一族も、この魔界セブドラへ【槍斧ヶ丘(そうふがおか)】ごと転移せしが原初と伝わっておる」

 

 影星夏美という女性が生きた時代よりも古い年代の方々が当時の魔界セブドラで生き抜いたってことか。


「そうでしたか」

「……ふむ。祖母(おばば)より聞きしはいつの頃か……わらわの代ですら数百年。その後の永き月日を経て、源左一門を継いだのがサシィよ。そして、長らく我らを苦しめた魔界王子テーバロンテを、よくぞ討ってくれた。更に、もう一方の宿敵、マーマインのハザルハードをも(ほふ)ったと聞く……源左の民を救いし、まことの魔英雄とはシュウヤ、そなたのことじゃ……わらわは、そなたに深く感謝しておるぞ」


 夏美様の言葉に同調するように九頭武龍神はそれぞれの口から魔息を吐いた。


「はい、皆と勝利を分かち合えて嬉しかったです」

「うむ、源左を離れし【レン・サキナガの峰閣砦】の崎長を取り込みしこと、他の武龍使いの祖先らには不服の向きもあろうが……。なれど、意に介することはない。わらわはシュウヤ、其方を認めておる。修業のこと、わらわが見届けようぞ」

「ありがとうございます――」


 胸に手を当て、ラ・ケラーダの挨拶を行う。

 俺の礼に夏美様は、徐に頷き笑みを浮かべた。


 そして、サシィを見てから、


「サシィ、よくぞ、シュウヤを連れてきた、褒めてやろう」

「ハッ、ありがたき幸せ!」


 サシィは夏美様へ発言し主君に対するように頭を垂れる。

 夏美様は皆を見てユイを凝視し、


「そこの女子も、死神ベイカラの気配が強いが……源左の者に似ている……」


 ユイは、


「はい、名はユイです。シュウヤにも日本人? と聞かれましたが、違います、出身は、魔界でもなくセラ側の南マハハイム地方のサーマリア王国、王都ハルフォニアです」


 夏美様は、そのユイの言葉に頷いてから、


「ユイは、サシィやお婆とも、少し似ている美しい女子である」

「ありがとうございます」


 ユイは褒められて少し嬉しかったようで、頬を少しだけ朱に染めた。

 夏美様は右に体を開き半身となって九頭武龍神を見上げ、


九頭武龍神(くずぶりゅうしん)様、シュウヤたちは神界側と魔界側、いずれにも(くみ)する者どもにございます。(しか)れども、光魔ルシヴァルは既に神格を得、彼の者の所業(しょぎょう)是認(ぜにん)し……かつ、われら源左が頭領サシィを<筆頭従者長(選ばれし眷属)>に迎え入れ申した。かくなる上は、シュウヤたちを鍛錬させ、武威を高めることこそ、源左の民の安寧に繋がるものと存じまする」


 と発言し、お辞儀をした。

 九頭武龍神は九つの龍頭をそれぞれに動かしてから、


「『ふむ……シュウヤと言ったか、そなたの混沌としての力は制御できているのか」』


 頷いて、


「はい、光魔ルシヴァルの宗主として、ある程度はできている」

「『神界セウロスの様々な気配を感じるが……特に龍に竜、ドラゴンの様々な気配もある』」


 バルミントや神魔の女神バルドークはここにはいないが……。

 霊獣四神の恒久スキル<四神相応>を得て、霊獣四神を得ている。

 更に、心の中には、ハルホンクと魔槍杖バルドークの一部も入っている。融合していると言ったほうがいいか……。


『……ングゥゥィィ……ソウダ。喰ウ、喰ワレ、ノ、螺旋ヲ、司ル。深淵ノ星ニ、吸イ込マレテ、イキテタ、ハルホンク!』


 自然と脳内にハルホンクの不思議ないつもの鳴き声が流れた。

 そして、九頭武龍神に、


「……はい、称号の四神の盟約者もあります。霊獣四神の恒久スキル<四神相応>を獲得し、四神の心を感じることができる、霊獣四神のスキルも獲得済みです」

「『ならば、その一端を我らに見せてみろ』」

「はい」


 霊獣四神の恒久スキル<四神相応>が意識し、発動した。


 ※四神相応※

 ※霊獣四神の魂の一部を従えた証拠※

 ※火、水、風、土、雷、無属性が強まる※

 ※霊獣四神の能力がある程度発動可能※

 ※霊獣四神の装備が装備可能※

 ※霊獣四神の装備と関係するモノが近いと反応する場合あり※

 ※身体能力向上※

 ※霊獣四神系のスキルの威力が増し、<脳魔脊髄革命>と連携する※


 心に棲まう青龍の一部が『ギュォォォ』と荒ぶる龍の猛る思念を寄越す――その想いを右腕に集結させるように<青龍ノ纏>と<青龍蒼雷腕>を同時に発動させた。


 体から紫が混じる蒼い電流のような青龍の魔力が噴出。

 <血魔力>も噴出した。

 紫電の魔力と<血魔力>が右腕に集結するや否や右腕の一部が蒼鱗の装甲に覆われながら昇竜のような雷が迸った。


 すぐに肩の竜頭装甲(ハルホンク)を意識し、「ングゥゥィィ~」といつものようにハルホンクが鳴く。

 半袖だが武術に活かせることを意識しながら<神獣焰ノ髭包摂>を発動――続けて、燃えた竜の髭と、牛白熊の素材と、紅翼の宝冠の素材を掛け合わることも意識、途端に、半袖の武術装具が全身に展開された。

 

 九頭武龍神の九つの龍の双眸が煌めく。

 サシィとレイガとムサシにヴィーネたちも驚いて、


「「「「おぉ」」」」

「青龍の魔力を魔槍などに活かせる片腕ですね、新しい衣装も素敵です」


 と、歓声を発した。

 エヴァたちは、


「ん、素敵、半袖の<青龍蒼雷腕>に合う武術用の衣装!」

「はい、白を基軸に胸の甲と分厚い革でしょうか、とにかく<青龍蒼雷腕>のスキル名に相応しい衣装です」

「……うん、シュウヤの咄嗟のイメージ力は並外れている」


 皆の言葉にすこし照れを覚える。

 キサラは、


「はい、シュウヤ様のイメージ力とハルちゃんの具現化力が半端ないです」

「ん、半端ない! シュウヤが言うと、まさに、パネェ?」

「「はは」」

「ふふ」


 エヴァの冗談に、皆と共に思わず笑う。

 エヴァは俺の言葉を完全に覚えたか。


「ふふ、ここにレベッカがいたらエヴァッ子! とツッコミがきたはず」

「ん」


 エヴァは唇から舌をちょろっと出した。


「それより、皆、頭が九つもある魔龍に驚こうか?」

「ふふ、たしかに普通なら驚きます」


 ヴィーネも合わせて言ってくれている。


「皆、経験豊かですからね」

「魔界に棲まう魔龍は結構多い。魔界の柱となる神々と遭遇していることもありますので、驚きはあまりありません」

「はい、驚きはないかもです」


 ルシェルもあまり驚いていない。


「一応は、驚いたけど?」

 

 ユイはそう言うと、右手に神鬼・霊風の魔刀を召喚。

 キサラも左手にダモアヌンの魔槍を召喚し、


「はい、影星夏美という名の幽体にも驚きました」


 と発言した。

 橙魔皇レザクトニアの薙刀も出せるが出していない。

 すると、ヴィーネが、


「サシィ、九つの龍の目を意味する星々ですが、この間、羅星の説明に、月の軌道の白道が太陽の軌道の黄道と交差する点、昇交点を指す想像上の星のことを羅星と呼ぶと教えてくれました。それが蝕を起こす原因とされるとも」


 その質問に、サシィが、


「そうだ。蝕、その蝕を免れるため、源左は転移したともされている。だが、詳しくは不明なのだ。そうした日、月、火、水、木、金、土、羅、計都の星々。月の昇交点と降交点を神格化した羅星と計都星、その星々を意味し、かつては千年以上の英知を持っていたようだが、魔界は魔夜であり、魔界王子テーバロンテが支配していた時代の数千年は斜陽のままだったからな……九曜の一部の技術は源左と関係が深い土地に残るのみ」


 と、少し寂しげに語る。

 夏美様もサシィの言葉に同意するように頷いた。


 サシィは、インド神話の星の名と関連した計都など……逢瀬を重ねていた時にも語っていた。すると、九頭武龍神が、


「『それが<四神相応>の青龍か、スキルとして体現は見事ぞ』」


 と褒めてくれた。


「はい、ありがとうございます」

「『そして、源左の血を取り込んだ光魔ルシヴァルの血が本命か』」

「はい、源左の血と光魔ルシヴァルの血、俺は<血道・明星天賦>と<血道・九曜龍紋>を獲得しています」

「「「『……オォォォォ……やはり……』」」」


 九つの龍から出た神意力を有した魔声と念話は雷鳴のように洞窟内に響き渡った。単なる音の振動を超えて、魂そのものに衝撃を受けた。


『閣下、九頭武龍神はわたしたちを試しているようですね』

『はい、そして、神界と魔界の魔龍様とは、また少し異なる印象を覚えます』

『はい、皆さんも理解していると思いますが、水との相性は良いと分かります』

『主、九頭武龍神の精神力、魔力は強力です。この魔力を封じることができていた【源左魔龍紋の祠】は、かなり特別な場所ですな、源左の聖地と呼んでいたのも分かりまする』


 左目に棲まう常闇の水精霊ヘルメ。

 右目に棲まう闇雷精霊グィヴァ。

 右の人差し指に棲まう古の水霊ミラシャン。

 左手の掌の<シュレゴス・ロードの魔印>に棲まうシュレゴス・ロードがそれぞれに念話を寄越す。

 腰の魔軍夜行ノ槍業の書物も少し揺れ、


『……お弟子ちゃんなら九頭武龍神を使役できちゃう?』

『武装魔霊としての使役も、眷属たちなら成功しうると思うが』

『<氷皇アモダルガ使役>を使役し、<召喚闘法>を得ている弟子なら身に着けられると思うが、源左一族の聖地であるからな、弟子ならば、源左の顔を立てるだろう……』

『あぁ、普通に教えてくれるなら、普通に弟子の立場として、師に対する尊敬の想いのまま、謙虚に学ばさせてもらうべきだ』

『ふむ、そうじゃのう、わしも、グルドの意見に賛成じゃ』

『そりゃそうね、でも、あのグルドが真面目?』

『あぁ? 俺様は真面目なんだよ、たっく、神魔石を喰らわすぞ』

『えぇ? 顔だめよ、腹ならいい』

『喰らうんかい』


 なんか脱線するから魔軍夜行ノ槍業の師匠たちの念話をシャットアウト。一方、ヴィーネたちの顔色は一気に変化。

 それほどまでに九頭武龍神の精神力は波動として皆に働きかけていた。


 九頭武龍神は、


「『……<源左魔闘蛍>と<武龍紫月>を授けるに値するか…』」


 その言葉を受け、夏美様の幽霊が浮遊しながら後退。

 優雅に袖を翻した。その動きは墨絵の筆致のように流麗で、空気中に紫の軌跡を描いていくと、夏美様は、


「――この者こそ相応しいです。一族の血を引く源左の娘が<筆頭従者長(選ばれし眷属)>として仕え、既に<明星天賦>も宿している」


 その声は幽玄な笛の音のように清冽に響く。

 と、その言葉に九頭武龍神の九つの頭がそれぞれに頷いた。


「『影星夏美……そなたが認めるならば我も認めようか』」

「はい、サシィも九頭武龍神に意見があれば、発言しなさい」


 サシィは一歩前に出て、


「はい、このシュウヤは、私が認めた宗主です。我が源左一族に伝わる技をこの者に授けることを願います」


 その言葉に呼応するように九頭武龍神は魔力を発した。

 すると、祭壇の周囲に立つ石灯籠が一斉に明るさを増した。


 九つの火はそれぞれが日、月、火、水、木、金、土、羅、計都の色合いを帯び、その光は互いに共鳴し合って複雑な魔法陣を床に描き出していく。


 九頭武龍神は空中高くに浮かび上がる。

 天井のアメジストの結晶と共鳴し始めた。

 紫の月と九頭の龍の幻影が交わる。

 

 それは陰陽の調和のように融合していく。


「『――承知した、始めよう。陰陽九曜の試練を』」


 龍と月の幻影は緩やかに渦を巻きながら一つの石灯籠に収束していった。その様は星辰の誕生を思わせる壮大さと神秘性を帯びている。

 

 光が凝縮されると、石灯籠から一人の侍のような姿が現れた。

 古の時代の甲冑を身にまとい、腰には魔斧槍源左を差している。


 その姿は半透明で実体があるようには見えないが、確かな存在感を放っていた。

 紫月を背にしたその侍は儀式の場へと歩み出た。


「<源左魔闘蛍>の型を示す」

「「おぉ!」」

「もしや、源左の蛍使いであり魔槍使い、<蜻蛉返り>を編み出し使いこなした後藤蝙也齋(ごとうへんやさい)殿か!」


 ダイザブロウが人名を叫ぶ。


 侍の後藤蝙也齋は低い声で「ふむ、さよう」と短く告げ、静かに掌を上げた。その手から次第に紫色に輝く小さな蛍のような魔力の粒子が現れ始める。それはただの光ではなく生き物のように呼吸し、脈打ち、周囲の空気を振るわせていた。


 思わず、<闇透纏視>を発動した。

 蛍の形状はとても小さいが、濃密だ。

 米粒ほどの大きさの中に魔線が密集し、質量がかなり高そうと分かる。

 <魔闘術>系統の一端だと理解できるが、かなり高度な<導魔術>の技術も使われているように見える。

 

「<魔闘気>の本質を見よ」


 蛍は次第に数を増やす。

 後藤蝙也齋の体を覆い始めた。


 それは体の内側から湧き出るように発生し、皮膚の表面を覆うと、外側へと広がっていく。

 蛍たちは一定のリズムで明滅しながら、侍のような見た目の後藤蝙也齋の体内の魔力の流れを視覚化するかのように循環していた。


 蝙也齋の体内を流れる<魔闘気>の流れを注視――。

 それは体内の魔点穴の経絡を巡りながら力を蓄え、必要に応じて外部に放出される様子が見て取れた。


「シュウヤよ、準備は良いか」


 蝙也齋は本格的に師事してくれるようだ。

 衣服を新調したばかりだが、左右の腕を払い――上半身を消し飛ばすように腰に胴衣を下げた。


「はい、これで?」

「きゃ」

「うむ」


 サシィたちは俺の裸は見慣れていると思うが、女子の声が響く。

 蝙也齋は、


「受け取れ」


 蝙也齋は掌を前に突き出し、蛍の一団が飛来してきた。

 それを両手で受け止めると蛍たちは掌に吸い込まれてくる。


 刹那――。


 体内に異質な感覚が広がった。

 <血魔力>の流れとは異なる……。

 より古く、より原始的な力の流れが体内を巡り始めた。


 陰陽の理に基づいている?

 九曜の星々の配置に従って体内を循環していく。


「お前の血と、この<源左魔闘蛍>を融合させよ」


 蝙也齋の指示に従う。

 <経脈自在>と<闘気玄装>をまずは発動。

 <血道第三・開門>――。

 <血液加速(ブラッディアクセル)>――。


 次に<仙魔奇道の心得>と<魔闘術の仙極>――。

 

 額に魔力溜まりを得ながら【玄智の森】由来の<滔天神働術>と<滔天仙正理大綱>と<滔天内丹術>を発動――。


 更に<血道・魔脈>と<ルシヴァル紋章樹ノ纏>と<龍神・魔力纏>と<煌魔葉舞>と<滔天魔経>と<光魔血仙経>を発動させる。


 そして<沸ノ根源グルガンヌ>と<無方南華>と<魔銀剛力>と<月影血融>と<魔仙神功>を発動。


 <血魔力>を再度呼び起こした。

 赤銅色の血の力が、体内で沸騰する勢いで行き交う。

 <魔仙神功>などの影響で毛細血管と神経網の繋がりが増えたようにも感じながら、体内で紫色の<源左魔闘蛍>と交わり始めたと理解。

 二つの力は初めこそ互いを排除しようとするように衝突したが……。


 やがて陰陽の調和のように共鳴し始めた。

 

「ほぉ……それらの血道の<血魔力>系スキルに<魔闘術>は……凄まじい質よ、そして、お主の血道には源左一門の血を活かしたモノがあるだろう? それをさっさと見せよ」

「はい、<血道・九曜龍紋>を使います」

「それを呼び覚ませ、そして、わしの<魔秘孔蝙指>を放つタイミングに合わせ、体内の魔力操作を急いでもらうぞ」


 蝙也齋は前に出る。


「分かりました」

「ふむ」


 蝙也齋の言葉に呼応し、体内の恒久スキルに意識を向けた。

 <血道・九曜龍紋>を発動させる――。


 すると、体内の<血魔力>が九つの星の配置に従って流れ始める。

 それぞれの結節点で<血魔力>が融合を始めるが、あまり上手くいかない。


「……ふむ、それは、質が高い<魔闘術>系統の重ねがけの影響だな、が、妙に絡み合っているから凄まじい質の戦闘力となろう。しかし、今、新しく覚えるための<魔闘気>や<魔闘術>には、そこまでの質と重ねは必要ない。もっと削ぎ落とせ」

「了解しました」


 <闘気玄装>と<血液加速(ブラッディアクセル)>に<経脈自在>と<血道・魔脈>だけを意識し、使い続け、他は解除した。


「そうじゃ、己の魔力を意識し、動かす……うむ……」


 と、蝙也齋が魔力を込めた指を突き出す――。


 ――痛みはあまりない。

 俺の体の魔点穴を幾つか突いた。

 

「良いぞ、そのまま――」


 蝙也齋が、魔力を込めた指で、体を突くたびに<源左魔闘蛍>と融合していく。途端に、体内で渦巻く力が次第に安定し、新たな流れを形成していくのを感じた。


 ピコーン※<源左魔闘蛍>※スキル獲得※

 体から蛍の形をした魔力が溢れる。

 蝙也齋の指が体を貫いた、否、刺した上半身の傷跡のような跡から大量に溢れ出ている。不思議と光魔ルシヴァルらしく傷が修復されない。傷と体が認識していないようだ。


「――<源左魔闘蛍>を得ました」

「うむ、素晴らしい。それが<源左魔闘蛍>。そこから……サシィが得たであろう<魔闘血蛍>への変容の始まりだ」

「はい」

「なかなかの質、<源左魔闘蛍>、<魔闘血蛍>の初段と言える」


 すると、一気に、体内から赤銅色と紫が混ざり合った蛍のような形を保っている魔力が湧き出て行く。


「おぉ、一気に伸びるとは、素質が昇竜の勢いか……教え甲斐があるというもの……よし、その活性化した初期を活かし、実践で試そうか」


 蝙也齋は魔斧槍源左を拾い、構えた。

 その姿勢からは千年の修練を積んだ武芸の極致が感じられた。

 右手に魔槍杖バルドークを召喚。


「ふむ、いい魔斧槍だ」

「はい!」


 蝙也齋と対峙し、互いの気配が交差する。

 まず試すべきは新たに習得しつつある<魔闘血蛍>の力。

 意識を体内深くに沈め<血魔力>を経絡に沿って巡らせながら、先ほど見た古の流れを模倣する。


 呼吸を整え、精神を無の境地に近づける。


 今度は体の奥底から<四神相応>の青龍・白虎・朱雀・玄武の魔力が溢れる。が、それらの魔力を抑えるように赤銅色と紫が交錯する蛍のような魔力がまた強く体から溢れ出ていった。


「その調子だ」


 蝙也齋は満足げに頷くと一瞬、足下に<源左魔闘蛍>を発動させる。

 と――目視できない速度で間合いを詰めてきた、魔斧槍源左を半月を描くように振り下ろす。


 空気を切り裂く鋭い音と共に、死角から斬撃が迫る。


 反射的に魔槍杖バルドークを横に構え、その柄で魔斧槍源左の斧刃を受け止めた。金属の柄同士の激突音が洞窟内を轟音となって満たし、足元の地面にヒビが入ると、体内の<魔闘血蛍>が古代魔法の鍵のように解放され、腕の筋肉に九星の力が集中するのを感じた。


 刹那、体内の<魔闘血蛍>が活性化し、腕の筋肉に力が集中するのを感じた。


 ピコーン※<魔闘血蛍>※スキル獲得※


 よっしゃ——。

 蝙也齋の一撃は山を切り崩すような重みを持っていたが――。


 <魔闘血蛍>の効果で体内の魔力経路が九曜の配置に従って最適化され、なんとか受け止めることができた。

 衝撃で両腕が痺れるが、体は九頭武龍神の力を得て立っている。


「お見事、<源左魔闘蛍>ではなく、サシィと同じ<魔闘血蛍>を得たな」

「はい」

「<源左魔闘蛍>もだが、<魔闘血蛍>も、外に放出するだけではない。体内で循環させることで筋肉や骨格を強化し、反応速度を高める。その本質を掴め」


 蝙也齋はそう言いながら――。

 次々と魔斧槍源左の穂先と石突、柄による、鋭い攻撃を繰り出してくる――<魔銀剛力>と近い<魔闘血蛍>でもある訳か。


 その動きには緩急があり、時に龍のように猛々しく、時に月のように静謐だった――。


 俺の魔槍杖バルドークの挙動に合わせ、月のような紋様の魔力と日本風の文字で『月読』が蝙也齋の前に浮かぶ。


 途端に動きが鋭くなったように攻撃が当たらなくなった。


『閣下、相手の魔槍使いは凄まじい腕前です』

『はい、蝙也齋、このような方が、魔界にはいたのですね』

『風槍流軸にしている主が、押されるとは』

『カカカッ、やりおる』

『ここまでとは』

『源左を守り通していただけはあるな』

『あぁ、蝙也齋のような漢が、魑魅魍魎、諸侯に神々の眷属を屠り続けていたんだろう』


 ヘルメや師匠たちの念話に応えていられないほどに槍捌きが激しい――。

 右、左、フェイク、槍の穂先の突き、払い、引っ掛け、柄の打撃に合わせた、左腕を武器にするかと思いきや、蹴り技もある――。


 九つの星々それぞれの性質を体現するかのような変幻自在の動きに何度も苦しい場面に追い込まれた。


 しかし、戦いを続けるうちに――。

 体内で<魔闘血蛍>が次第に成熟してきた。

 更に、<刃翔鐘撃>の突きを<杖楽昇堕閃>の左右の薙ぎ払いから、少し体の速度を落としての、誘い込みから横に軸をズラす風槍流『異踏』を実行し、蝙也齋の魔斧槍源左の突きを避け<魔皇・無閃>のような鋭い薙ぎ払いを避ける。

 続けて、魔槍杖バルドークを右腕の二の腕に柄を滑らせるように載せ、鷹が獲物を狙うように半身の構えへと移行する。右足を引き、重心を低く保ちながら蝙也齋の繰り出す鋭い突きを髪一筋の隙間で避ける。

 そのまま爪先に体重を集約させ、風のように半回転――。

 魔槍杖バルドークを首の後ろから両肩にかけて滑らかに担ぎ上げる。


 風槍流『案山子通し』――。


 肩を軸に体を横に回転させることで、風見鶏のように方向を変える度に姿勢を変化させ、蝙也齋の槍捌き、九つの星々それぞれの性質――日の炎、月の引力、火の烈々、水の流転、木の生命、金の鋭利、土の重み、羅の昇天、計都の降下――を体現する変幻自在の槍技の雨あられを紙一重で躱す。

 そして避けきれぬ攻撃には、魔槍杖バルドークの紅く輝く斧刃と石突の竜魔石を鮮やかに差し出し、鋼鉄の響きと火花を散らしながら弾き返していく。


 蝙也齋は足下に<魔闘気>の<源左魔闘蛍>を渦巻くように集結させる。あらゆる方向から力が収束するや否や古の武術家の蝙也齋の体が上方に跳び、同時に魔斧槍源左を振り上げてきた。

 咄嗟に、体を引き避けながら魔槍杖バルドークの柄で弾くが、蝙也齋の体から紫と赤の蛍が無数に拡散し、視界から蝙也齋が消えた。幻術のように視界を惑わせると、宙空から横から<杖楽昇堕閃>のような薙ぎ払いを繰り出してくる。

 俺の首を狙うが、魔槍杖バルドークを斜めに上げ、柄で防ぐ。

 蝙也齋は風を切る音と共に体を一回転させ、勢いを活かし、蝙蝠の翼を持った如くの動きで、俺の背後へと瞬時に移動するがまま魔斧槍源左を稲妻のごとく振り下ろす。


 それを背を守るように動かした魔槍杖バルドークの柄でなんとか防いだ。蝙也齋は、着地際でも、魔斧槍源左と下から上に小刻みに振るい回しながら一回転、背後から脇腹を狙う。

 連続して、蜻蛉を捕らえ、斬るような動きか――。

 蜻蛉が水面を掠める瞬間を捉え、一閃で断ち切るような鮮やかさ――。

 伝説の<蜻蛉返し>の真髄がここに――。

 髪の毛一本分の差で、魔槍杖バルドークを首筋に感じながら横に薙ぎ払い、間一髪で防ぎきる。甲高い金属音が洞窟内に数度反響し、魔力を帯びた残響となって谺していった。

 

 ――<魔闘血蛍>の使い方を理解できた。

 同時に、蛍たちは単なる魔力の塊ではなく、意思を汲み取り、体内の必要な場所に力を集中させてくれるわけか。


 蝙也齋は、


「見事……<魔闘気>の<魔闘血蛍>をマスターしたと言える。次は<武龍紫月>だ――」


 蝙也齋は、一度距離を取り、魔斧槍源左を天に掲げた。

 

 すると、天井のアメジストの結晶と共鳴し、紫の光が槍に集まってくる。それは月光のような優しさと龍の牙のような鋭さを併せ持っていた。


「<武龍紫月>は、我の源左の月の引力と龍の激しさを兼ね備えた魔斧槍源左の奥義スキル」


 蝙也齋は発言すると、頭上に『月冴』が浮かび、『紫月』と『幻武龍』の文字が浮かぶ。


 魔斧槍源左を振るう。

 と、紫の軌跡が空間に残り、それが龍の形となって襲いかかってくる、同時に蝙也齋も前に出ては紫の龍とは異なる方角から魔斧槍源左を振るう。


 魔槍杖バルドークで魔斧槍源左を受け止めた。

 が――紫の龍は実体ではない!?

 魔力の集合体か、それは物理的な衝撃ではなく、精神と魂に直接働きかけてくるように、衝撃が後からやってきて、吹き飛ばされた。


「ご主人様!」


 ピコーン<月冴>※スキル獲得※

     <紫月>※恒久スキル獲得※

     <月読>※スキル獲得※


「うそ、シュウヤが素で喰らったところは久しぶりに見た!」

「はい、なんて武術、<武龍紫月>に『月冴』と『紫月』と『幻武龍』!」


「蝙也齋様の一撃はさすがだ」


 サシィの声に頷きつつ立ち上がり、蝙也齋との間合いを詰める。<刺突>を繰り出し早速、<月冴>を発動。

 少し前に月のような紋様の魔力と日本風の文字で『月冴』が浮かぶ――。


「おっ」


 蝙也齋は驚きつつ<刺突>を魔斧槍源左で受け止める。

 

「<月冴>を学んだようだな――」

「はい、<紫月>なども覚えました――」


 と言いながらの<杖楽昇堕閃>の薙ぎ払いの連続は魔斧槍源左で払われた。蝙也齋は、


「――ならば<月冴>と<紫月>を同時に使用するのだ。<武龍紫月>と同じ源流を持つ。二つを融合させることで、<武龍紫月>を得られよう」


 鋭い<刺突>から薙ぎ払い――。

 それを<月読>を発動させ、避けた。

 <月読>は敏捷性を上昇させるスキルか。


 蝙也齋は、俺を追撃せず、満足げにうなずく。

 と、再び攻撃を仕掛けてきた。

 今度は槍から放たれる紫の龍の数が増え、それぞれが異なる角度から襲いかかってくる。


 <月読>を発動し、<紫月>と<月冴>を同時に発動――。

 するがまま紫の龍と蝙也齋の魔斧槍源左の振り払いと突きの槍舞を防ぎ避けながら<血道・九頭龍異穿>を繰り出した。


 ピコーン※<武龍紫月>※スキル獲得※


 ※血道・九頭龍異穿※

 ※九頭武龍神流技術系統:極位突き~奥義※

 ※白蛇竜小神流技術系統:極位突き~奥義小※

 ※血槍魔流技術系統:最上位突き※

 ※水槍流技術系統:最上位突き※

 ※水神流技術系統:上位突き※

 ※影狼流技術系統:亜種突き※


 右腕ごと槍になった如くの魔槍杖バルドークの穂先から出た血龍と紫龍が交錯するたびに新たな理解が生まれていく。

 高速で動く蝙也齋の体を魔槍杖バルドークの穂先が捉えた。

 

「ぐぁ――」


 蝙也齋は吹き飛びながら蛍の魔力粒子に変化し、灯籠に吸収されていく。


 その灯籠から、


「――見事だ、槍の武人のそなたに、教えることはない。既に源左の血を引き、九頭武龍神の祝福を受けているのだからな。<源左魔闘蛍>と<武龍紫月>を用いることを許そう」


 <源左魔闘蛍>と<魔闘血蛍>など<魔闘術>系統を終わらせ、

 

「ありがとうございます。槍はまだまだ深奥があると理解できました」

 

 ラ・ケラーダの挨拶を行った。


「うむ、わしの武は、源左一族に伝わる武の哲学の一端に過ぎん。これからもシュウヤは槍の研鑽を積むといい、そして、武王のような槍使いシュウヤの実力を認めよう、修練は終わりだ――」


 灯籠から声が響くと、再び、蝙也齋の幻影が現れる。

 魔斧槍源左を消し、深く頭を下げながら光に溶け、再び紫の月と九頭の龍の幻影へと戻り、洞窟の天井へと上昇し、アメジストの結晶と一体化した。


 九頭武龍神の九つの頭がそれぞれに満足げに頷く。


「『……我らの力の一部を授けた。源左の血を引く者よ、九曜の星々の導きがあらんことを』」


 洞窟に響く声は不思議と癒やしの声に聞こえた。

 影星夏美様の幽霊のような幻影も優雅に袖を翻すと静かに消えた。


 洞窟内に張り詰めていた空気が和らぐ。

 紫の魔法の膜も徐々に薄れると、サシィが近づいてきて肩を叩いた。


「お見事。<魔闘血蛍>と<武龍紫月>、両方の習得は素直に凄い」

「「おめでとうございます!」」


 ヴィーネたちも近づいてきた。


「ご主人様、素晴らしい修練でした」

『はい、閣下の槍武術は更なる高みに!』

『うむ、見事』

『そうね、素直に感動した』


 雷炎槍流シュリ師匠のみ思念を寄越してくれたが、皆、蝙也齋の魔斧槍源左を振るう姿が焼き付いているんだろう。

 と、考えつつ皆の声に頷く。


 新たに習得した力を体内に感じながら、


「あぁ、源左一族に伝わる技、奥が深い」


 <魔闘血蛍>は今も体内を循環している。

 <血魔力>と調和しながら筋肉や骨格に力を与え続けていた。

 <武龍紫月>は様々な武器に合うか。

 <血道・九頭龍異穿>にも勿論合うだろう。


「シュウヤ様、あふれる蛍のような魔力と、龍の形をした紫の攻撃、見事でした」


 キサラの声に頷く。

 ユイもキサラも、この源左一族の秘術に深い関心を示している様子だった。

 ユイは、


「源左一族の秘術と光魔ルシヴァルの力が融合」

「ん、<魔闘血蛍>があれば、これからの戦いでも大きな助けになる」


 エヴァの言葉に頷いた。

 

「陰陽道の思想に基づいた九曜と槍武術は相性が良い、これからの戦いで試してみる」


 その言葉の後、サシィが、レイガとムサシを見て頷き、皆向け、


「では、戻ろうか、そろそろフクナガの料理の準備が整い、出来上がる頃だろう。洞窟を出て、奥座敷に戻ろう」


続きは明日、HJノベルス様から「槍使いと、黒猫。1巻~20巻」発売中。

コミック版発売中。

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