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槍使いと、黒猫。  作者: 健康


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1786/1998

千七百八十五話 血契りの儀と源左の聖地

 シャナは処女刃のスイッチを押す。

 腕輪の内側から現れた刃が二の腕を突き刺したであろう痛みに耐えているが、渋面を作った。


「……」


 細い腕が痺れたようにだらりと下がり血が滴り落ちていく姿は痛々しい。

 

 が、これが本来。

 普通の第一関門こと<血道第一・開門>獲得には痛みが伴う。

 

 アドゥムブラリやファーミリアにエラリエースは特別だ。


 そして、そのシャナを励ますように世間話を繰り返し、シャナの南海近辺の故郷に住まう住人には、龍人も多く住んでいて、お伽話も豊富で、そんなセピトーンの街のことで盛り上がり、

 

「へぇ、セピトーンの街にも人族と同じ金貨が流通しているのか」

「はい、白金貨、大白金貨、また、古代の金貨と、魔界の魔コイン系も流通していますが、人族が住む島も多い。また、比較的距離が近い島には、自由都市ハイロスンがありますから」

「なるほど、聖魔中央銀行か、聖ギルド連盟もあるんだったな」

「はい、光魔武龍イゾルデ様も過去に自由都市ハイロスンに訪問したことがあると聞いて納得していました」

「だから、荒神龍人のお伽話が何個もあるんだったな」

「はい、あっ」


 と、シャナは己の二の腕がビクッと動き、それを見た。

 同時に足下の盥に溜まっていた血がシャナの細い足に吸収されていく。


「やったな」


 シャナの首元の歌翔石が光を帯びる。


「はい! <血道第一・開門>を獲得!」


 と、俺に右腕を伸ばし、ピースを見せる。

 左手が背のほうに伸びていて、そのポージングが可愛い。


 何時ぞやの剣を持った姿を思い出す。

 吟遊詩人と戦っていたシャナの女戦士の姿を……。


 シャナは己の血をすべて吸い取り、「体が熱い……それにお腹に血が……あぁ」と少し恍惚となっていた。


 その様子を見ていると、シャナは頬を朱に染めつつ盥から出た。


「血文字で、皆と連絡が可能だ」

「はい、光魔ルシヴァルの眷族ならでは最重要スキル。光と時空属性を得られると同じ」

「あぁ、光魔ルシヴァルならでは」

「はい、セラと魔界とどちらの世界も、土地ごとに光魔ルシヴァルの眷族たちはいますからね」

「そうだな」


 シャナは、笑顔を見せる。

 と、そのまま血文字を、バーヴァイ城にいるバーソロンの<筆頭従者>チチル、<筆頭従者>ソフィー、<筆頭従者>ノノに送っていた。その三人から祝福の血文字がシャナの周囲に浮かぶ。


 リアルタイムに血文字が浮かぶのは、やはり便利だ。


 と、シャナは、まだ近くにいるだろうヴィーネたちには送らなかった。その気持ちは分かるが、指摘はしない。

 

「では、盥を破壊するというか吸収を試みる」

「はい」


 少し訓練するかな――。

 と、<魔炎血魔力>を体から放出させる。

 大きい盥を片手でひょいと持ち上げ、それを宙空に放った。

 天井も結構高い――。

 畳から少し離れるように<武行氣>を発動させる。

 体から推進力となる魔力を噴出させ、かすかに浮遊しながら左手に〝魔焔の印環太刀〟を召喚し、右手に鋼の柄巻のムラサメブレード・改を召喚。


 見上げながら二剣流の武器に魔力を通した。

 ブゥゥゥゥン――と音が響くと同時にムラサメブレード・改の放射口から青緑色のブレードが生える。

 左腕を真上に突き出すように<焔牙>を繰り出す。

 〝魔焔の印環太刀〟で、大きい盥の底を突き上げた。

 続けざまにムラサメブレード・改を振るう<湖月血斬>――。

 大きい盥を一瞬で貫き切断。


 そのまま宙空で<鬼神・飛陽戦舞>を繰り出した。


 ※鬼神・飛陽戦舞※

 ※鬼神槍流技術系統:極位戦舞スキル※

 ※龍異仙流技術系統:上位突き※

 ※神獣槍武術系統:上位亜種突き※

 ※血槍魔流技術系統:上位突き※

 ※光槍流技術系統:上位突き※

 ※闇槍流技術系統:上位突き※

 ※水槍流技術系統:最上位突き※

 ※水神流技術系統:最上位突き※

 ※風槍流技術系統:最上位突き※

 ※龍豪流技術系統:上位薙ぎ払い系※

 ※豪槍流技術系統:極位薙ぎ払い系※

 ※血龍仙流系統:極位薙ぎ払い系※

 ※三叉魔神経網系統:上位亜種※

 ※すべての能力の高水準が求められる※

 ※瞬間的に前方に加速し、薙ぎ払いから三回連続の斬撃、突き機動に移る迅速な連続戦舞攻撃※

 ※神槍魔槍神剣魔剣問わず、武器はなんでも使用可能、途中でキャンセルし、様々な戦闘用スキルに繋げることも可能な戦舞スキル※

 ※神韻縹渺希少戦闘職業の<霊槍・水仙白炎獄師>であることが必須※

 ※<鬼神キサラメの抱擁>と<火焔光背>と<怪蟲槍武術の心得>と<戦神グンダルンの昂揚>と<水の神使>と<キサラメの神紋の系譜>が必須※

 ※〝鬼神キサラメ骨装具・雷古鬼〟を装備した状態だと鬼神槍流技術系統が強まる※

 ※ララーブイン山の奥地には、鬼神キサラメの古びた伽藍があり、鬼神槍流技術系統専門の修業場所が存在する※


 刹那の、突きと薙ぎ払いの連続戦舞――。

 一瞬で、盥だった木材は細断された。

 おがくずのような物が周囲に散乱――。

 その光を帯びたおがくずのような物のすべてを<破邪霊樹ノ尾>で吸収するように消した。

 

 両手の武器を消して畳みに着地。


「……凄い剣技に戦舞スキルです、槍使いでもあり、剣使いでもある! わたしの剣よりも上手だと思います!」

「そうかな、俺も、それなりの剣師クラスにはなっているつもりだ」

「はい――」


 と、背中にシャナが抱きついてきた。


「シュウヤさん……」


 胸元に寄越したシャナの手を左手で握りつつ、振り返り、シャナを抱きしめた。


 シャナはかすかに顔をあげ、上目遣いで見てくる。

 緑の瞳はかすかに潤んでいた。

 

 少し興奮しているのか、<血魔力>も内包し、虹彩の一部が血に染まっていく。


 と、目は瞑るシャナは、「……あ、あの……わたし、初めてだから……」と唇を少し震わせながら喋る。


 勇気を出したと分かる。そのシャナの望み通り、


「了解した」


 小さい唇に己の唇を優しく重ねた。


 柔らかな感触を味わった後、最初は無理なく離した。

 シャナは自らの唇を見るように視線を落とし、指で触れようとしてから思いとどまり、俺の顔を見上げて唇に視線を戻してきた。


「……」


 シャナはまた目を瞑った。

 そのまま、シャナの唇にまた唇を当てて――。

 唇の襞を少し押し込むようにしてから数秒後、上唇を引っ張るように、また唇を離した。


「……あ……」


 と、潤んだ瞳になったシャナは、俺の唇をもう一度見てくる。


「あ、あの……」

「大丈夫――」


 と、シャナの唇をもう一度奪う。

 シャナも応えるように俺の背に回した両腕に力を込めて抱きしめを強くしてきた。

 慣れていないから仕方がないが、もう少し――。

 シャナの上唇を唇で優しく押し込み、またも引っ張るようにキスを終わらせて、すぐにシャナの頬にキス、額にもキスを重ねる。


「……ふふ、シュウヤさん――」


 シャナは微笑むと、俺の唇に、自らの唇を突き出すように、奪ってきた。


 そのままシャナに合わせる――。

 互いの鼻を擦り合わせながら徐々に深いキスを行った。


唇からじかに<血魔力>を送る。

 シャナの体は弓なりに反り、波のような震えが指先から全身を駆け巡った。

 かすかに離れた唇から「あぁ……」と蜜のような喘ぎ声が零れ落ち、瞳孔が開いた真紅の双眸には欲望の炎が宿っていた。

 我慢できず、再びシャナの唇を奪い、深く長いキスを交わしていく。

 舌と舌が絡み合い、熱い吐息と<血魔力>が二人の間で交錯した。

 長いキスの後、

「――ぷはぁ」

 と、顔を離す。

 シャナは少し蹌踉けたので腰に腕を回して支えてあげた。

 潤んだ瞳で見上げながら、シャナは押し入れを視線で示し、「シュウヤさん……お布団を……」と上気した声で囁いた。

「あぁ」

 と、急ぎ布団をひいてから――。

 と、裸になったシャナが抱き付いてくる。

 そのシャナの腕を引き、お尻を片手で掴み、揉み拉きながら――。

 布団に寝てもらう、シャナは蕩けた表情を浮かべつつ乳房を片手で隠す。

 その仕種がとても愛しい――そこからロロディーヌが呆れるほどにシャナとの情事は幾度となく繰り返されていく。


 水と陸を行き来する人魚(セイレーン)の柔軟な肢体は、常識では考えられないほどの体位を可能にし、その神秘的な感触と血の力が混ざり合う快楽の波に何度も溺れていった――。



 □□□□



 数時間後――。


「シャナ、皆が集まっている大部屋に向かうがどうする」

「あ、わたしも一緒にいきます」


 布団の上にいたシャナは起きて衣服を着る。

 その間に利用した布団を畳んで収納場所の押し入れではなく、その近くに置いた。


 そのまま大部屋から出て縁側と庭を見ながら廊下を進む。

 サシィたちが集まっていた大部屋の前に移動し、襖を開けた。


 襖をあけると、大きい囲炉裏や掘り炬燵を利用して寛いでいる皆がいた。高級そうな座布団にはユイとエヴァが寄り掛かっていた。

 クレインとレベッカとミスティは見当たらない。


 その皆を見ながら、「よっ、皆、準備はできたかな」と言いながら、シャナと共に部屋に入る。


「ご主人様……随分と、お楽しみの時間が……」

「うん、今度はわたしたちも楽しませてもらいましょう」

「ん」

「ふふ、わたしも是非、楽しみたいですが、今後は修業があるようですからね」


 と、発言していく女性陣の眷族衆から鋭い視線を浴びる。

 が、構わずサシィたちを見た。


 常闇の水精霊ヘルメと闇雷精霊グィヴァに、庭で槍の訓練をしていたヴィーネとキサラもいた。


 ルシェルとサラとフーとサザーとキスマリとユイやエヴァたちもいる。


 勿論、ダイザブロウとレイガとムサシも一緒だ。

 戦用の具足を身に着けている。


 ケーゼンベルスと相棒たちはいない。

 シキや骸骨の魔術師ハゼスにキュベラスとクナとルマルディにファーミリアたちもいない。


 奥座敷の外に出てハンカイたちと合流したかな。

 エヴァが立ち上がり、

 

「ん、シュウヤ、わたしもサシィたちと一緒に行く」

「ご主人様、わたしも行きます」

「はい、わたしも、レベッカたちは街の見学に出ました」


 ヴィーネとキサラも立ち上がり歩み寄る。

 頷いた。座布団に座っていたユイも、立ち、


「サシィに許可も得たし、<九曜龍紋>はないから無理かもだけど、新しい魔闘術、<魔闘気>を一緒に学ばせてもらうからね」

「我も新しい武を見学させてもらう」


 エヴァとヴィーネとキサラとユイとキスマリも、サシィたちと来るようだ。


「了解した」

「閣下、左目に戻って修業に付いていきます」

「はい、御使い様の右目に戻ります」

「分かった、来い」

「「はい!」」


 ヘルメとグィヴァは一瞬で水と雷になって飛来。

 ほぼ同じタイミングで、俺の両目に入ってきた。


 姫武将のような格好のサシィは、


「では、祖先たちが敬っている九頭武龍神が現れるかは微妙だが、【源左サシィの隠れ洞窟】の【源左魔龍紋の祠】に向かおう。そして、この庭から進む、付いてきてくれ、皆も良いな」


 と、源左の頭領として発言。


「了解」

「「「ハッ」」」

「「「はい」」」


 上笠影衆の一部と近寄衆と見られる源左の忍者と侍のような格好の方々が一斉に頭を下げて礼をしてきた。黒装束の影たちは蒼い光に照らされて一瞬だけ姿を現し、忠誠を示す静謐な所作が空気を引き締めた。


 武将たちが主君に頭を下げる行為は戦国時代を思わせる。

 時代を越えた古式の礼法が魔界にも脈々と受け継がれている証だろう。


 その部下たちを見ながらサシィたちを先頭に板の間から縁側に出た。

 木の香りが鼻腔をくすぐる。


 サシィは浮かびながら庭を進み、足音一つ立てず苔の上に着地。

 長い黒髪が夜風に舞い、蒼い光を浴びて青墨色に輝いていた。

 その姿は古の物語から抜け出した武将の姫君のようだ。


 レイガとムサシとダイザブロウも続く。

 彼らの鎧が微かに軋む音だけが静寂を破っていた。


 奥座敷の庭には花壇もある。

 幾重にも石で区切られた精緻な造りで、季節の移ろいを感じさせる。

 

 その花壇に桔梗と似た花々が咲いているのを見ながら奥地に向かう。

 濃紺の花弁が星のように点々と並び、魔力を帯びたように淡く光っている。松の木が門番のように両側に立ち並び、その先への道を示していた。


 魔夜世界だが、〝魔神殺しの蒼き連柱〟の影響で蒼い光が天空から降り注ぐ。それは昼と夜が交錯した黄昏のような独特の明るさを醸し出していた。木々の影も二重になって地面に映り、現実とも幻ともつかない雰囲気を作り出している。


 石の並びが遊歩道的……。

 

 苔むした石が幾何学的な模様を描き、足を運ぶごとに古の記憶を呼び覚ますような感覚を覚える。


 庭は和風。枯山水を思わせる砂紋と段々に重なる石組みが調和した静謐な空間が広がる。


 が、所々に魔界セブドラらしい頭蓋骨のモニュメントと魔界セブドラの神々の神像が設置されているのは変わらない。


 人間の骨と龍の骨を織り交ぜた異形の彫刻は、この世界の理を体現するかのように不気味な威厳を放っていた。


 そこを進むと幻影の蛍が周囲に増えると森となる。


 緑青色に輝く蛍は、夜空の星々のように道標となって我々を導く。

 

 鬱蒼と茂る木々の間には、石が敷かれてある道があった。

 石と石の間から覗く土には、何かの足跡が微かに残っていた。


 獣か人か、それとも別の何かが通った痕跡だろうか。


 そこを通るように進む。


 古い石には不思議な文様が彫られ、時折魔力に反応して淡く光る。

 途中から土の道に変化。長雨でぬかるんだ土は歩くたびに靴を捉えようとするが、不思議と足は汚れない。


 魔力で守られているのか、または通行人を歓迎する道なのか。


 川があり、水面に映る蒼い連柱の光が波紋とともに揺れている。

 そして廃れている遺物らしき物が増えてくる。

 苔に覆われた石像、半ば土に埋もれた剣の切っ先、文字の読めない古い碑文。ここは生きた歴史の舞台なのだと実感させられた。


 昔、俺たちが駆け抜けたところは……。

 もっと左側かな。


 あの時は急いでいたから景色をゆっくり眺める余裕はなかった。


 そして、【マーマイン瞑道】はもっと左のほうか。木々の間から漏れる霧が微かにその方向に流れているように見える。


 すると、サシィが、


「この先の坂は最初はなだらかだが、【ローグバント山脈】の一部と地続きでもあるから、急に険しくなって崖を通る。足下が危険だが、皆なら大丈夫だろう」

「了解」

「「はい」」


 皆で、なだらかな下り坂を進む。

 坂は板と土で整備された階段もあった。

 途端に、霧が発生し、視界が悪くなった。


「霧も一種の試練。ここから先は足下が危険で崖が続く。その先に開けた場所があり、【源左サシィの隠れ洞窟】の地下道がある。【源左魔龍紋の祠】は、その中だ」

「「了解」」

「ん」


 サシィは<魔闘気>の<魔闘血蛍>を発動――。

 体から紅炎と血蛍を大量に発生させる。


 その紅炎と血蛍が霧を吸収しつつ先を進む。

 急に足下が険しい環境となるが、崖傍を通り抜けると前方が開けた。


 広場には、石灯籠が並ぶ。

 足下の石畳には、源左の九曜紋の印が刻まれている。


 左奥に滝を擁した洞窟が見えた。

 洞窟の入り口は巨人が口を開いているような形だ。

 

 先を行くサシィは<血魔力>を放出させて、<魔闘血蛍>を強める。

 途端に、サシィの左右に鎮座していた石灯籠が反応し、ボッとした炎に包まれてから、火が点いた。周囲が明るくなる。


 サシィの背後にいたダイザブロウとレイガとムサシも広場に散りながら、紫色の魔力を体から放つと、近くの石灯籠に火が点く。


 洞窟の真上にあった魔斧槍源左の形をした像が光を帯びて、巨大な石灯籠が点いた。


 魔斧槍源左と石灯籠から魔法陣と龍の幻影と紫色の月の紋様の形が浮かぶと、洞窟の中から湿った空氣が飛来し、風を感じるまま<砂漠風皇ゴルディクス・イーフォスの縁>で、その風を吸収していく。


 速度が加速しているが、サシィたちの歩みに合わせた。

 同時に膨大な魔力を洞窟の中に察知した。


 何かの息使いと、紫色の魔力も溢れ始めた。

 封印が解けた印象だ。サシィは、


「【源左サシィの隠れ洞窟】に入ろうか。源左魔龍紋の祠は近くだ。そこが修業場所でもある」

「おう」

「「「はい」」」


 皆で洞窟を進むと、すぐに大空洞となった。

 天蓋はアメジストの結晶でもあるのか、紫に輝いている。

 その光は呼吸するように脈動し、洞窟全体を神秘的な輝きで満たしていた。天井には古代の文字や星座を思わせる紋様が刻まれ、その一つ一つが物語を語るように光を放っている。


 中央には、祭壇と紫の魔力を発している魔斧槍源左と似た武器を持つ人型の像が数体立ち、その真上には、巨大な龍と紫の月の幻影が浮いていた。祭壇は九角形に削られた一枚岩で表面には日、月、火、水、木、金、土の七曜星と、羅と計都の二星を表す印が浮き彫りにされている。


 九つの星々は紫の月の下で静かに輝く。

 それは宇宙の秩序そのものを映し出しているかのようだ。

 頭が九つの魔龍か。それぞれの頭は東西南北と四隅、そして天を見上げるように配置され、陰陽道で言う九曜の配置そのものを体現していた。


 九つの頭からは異なる色合いの光芒が放たれ、洞窟内に複雑な光の幾何学模様を描き出している。

 紫の月と魔龍は魔線が魔斧槍源左を持つ人型の侍たちに付いている。

 

 魔線は血管のように脈打ち、魔力の流れを目に見える形で示していた。源左一族の古より伝わる秘術の証だろう。

 

 サシィは、半身で俺を見て、


「九頭武龍神様はシュウヤが来ること察知していたようだ、共に祭壇の前の広場に行こう」

「了解した」


 広場に入った刹那――。

 紫の魔法の膜が周囲に展開された。

 膜の内側では重力そのものが変化したかのように体が軽くなった。

 同時に九つの星に対応する九つの光点が周囲を回り始め、体内の血の流れと共鳴するのを感じた。


 その時、祭壇の中央から淡い紫の霧が立ち昇る。

 ゆっくりと人の形を成していく。


 長い黒髪を持つ女性の姿が浮かび上がった。


 古の時代の公家の装束を思わせる衣を纏い、額には九曜の紋が浮かんでいる。その姿は実体ではなく、半透明で光を通しているが、確かな存在感を放っていた。


「源左一族の祖、影星夏美様……」


 サシィはその名を畏敬の念を込めて呟いた。

 影星夏美の幽霊は静かに微笑み、長い袖を翻した。

 

 その仕草だけで空気が震え、洞窟内の魔力の流れが変化する。

 彼女の目は生きている者のものではなく、星の輝きそのものを宿しているようだった。


 膜の内側では重力そのものが変化したかのように感じられ、体が軽くなった。同時に、九つの星に対応する九つの光点が俺の周囲を回り始め、体内の血の流れと共鳴するのを感じた。


 頭が九つの魔龍がこちらを見据え、九つの目がそれぞれ日、月、火、水、木、金、土、羅、計都の星々の色を帯び、千年の英知を湛えた眼差しで俺たちを観察していた。


「『……源左の者よ、何のようだ』」


 九つの声が重なり合い、洞窟全体が振動した。

 その声は単なる音ではなく、魂に直接語りかけてくるような深遠さを持っていた。


「はい、この者たちの中で……<魔龍紋>に対応でき、尚且つ、<源左魔闘蛍>と<武龍紫月>を学べる者が居たら、それを得るための修業を行いたいです」


 サシィの言葉に呼応するように、俺の体内で<血道・明星天賦>の恒久スキルが反応した。

 源左一族の血を得たことで獲得できたこのスキルが反応か。


 同時に<血道・九曜龍紋>も反応した。

 体内を巡る<血魔力>が九つの星の配置に従って流れ始めた。


 九頭武龍神は俺を見つめてきた。


続きは、明日、HJノベルス様から書籍「槍使いと、黒猫。1巻~20巻」発売中。

コミック版発売中。

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― 新着の感想 ―
>そこからロロディーヌが呆れるほどにシャナとの情事は幾度となく繰り返されていく。 毎回情事の時はロロに呆れられとるなw
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