千七百八十四話 皆との話し合いに、艶かしいシャナ
ヘルメにミスティとクレインとキッカとヴェロニカにフーも近くにきて、
「新たな時代に! そして、祝福ですよ!」
ヘルメがファーミリアにも水をピュッと連続的にかけていた。
ファーミリアは、
「はい! ふふ――」
と返事をしてからヘルメに近づいた。
楽しそうに細長い腕を横に伸ばしながら体を横に回転させ、くるくる回りながら水浴びを行うように、ヘルメの水を浴びていった。
キュートな、お尻がいつものように輝いた。
薄着だから魅惑的な乳房などが丸見えとなる。
が、すぐに<血魔力>による装甲が付いた衣服を展開した。
ヘルメは水を止めるとファーミリアと抱擁してから、俺たちに近づく。
クレインが、
「新しき<筆頭従者長>は、元女帝だからねぇ、頼もしい仲間の誕生は喜ばしい。そして、これからは遠慮なく、血が分け合えるのが嬉しいさね」
クレインの言葉に頷いた。
ヴィーネは、俺を見て、
「はい、【大墳墓の血法院】のヴァルマスク家ごと、光魔ルシヴァル化とは、畏れ入ります」
たしかに、想像を超えてきた。
メルたちも
「たしかに」
「うん、まだ驚きのままよ」
「二神が絡んだけはあって、圧巻な血の儀式だったこともあるさ」
笑顔だが、驚きのほうが大きいようだ。
レベッカが、
「ルンスとホフマンとアルナードも光魔ルシヴァル入りだから、当然、光属性を得たのよね」
と、聞くとアルナードたちは目を合わせ頷く。
「そうなります」
「はい」
「そうですぞ、ファーミリア様直属の高祖の立場の<筆頭従者>の立場です」
ルンスとホフマンとアルナードの言葉に皆が頷いた。
そして、ルンスの皺の数は減ったように見えるが、爺のままだな。
白髪には黒髪も少し増えているが、あまり変わらないか。
その三人の言葉を嬉しそうに聞いているファーミリアが、「ふふ」と微笑むと、全身から<血魔力>を噴出させ少し体を浮かばせる。
そのまま振り返りながら、またも、衣装を<血魔力>で変化させた。
ボディに密着した下着に、半透明な半袖フレアスリーブを羽織る。
素敵な上服だ。そのまま大きい盥の上にいるシャナに近づく。
シャナの傍にはメイラとエラリエースと元神界騎士団の方々がいる。
シャナは処女刃を二の腕に嵌めて<血道第一・開門>の獲得を目指していた。盥には既に血が溜まっている。
ファーミリアは、
「シャナ、がんばってください」
「はい!」
ファーミリアはヴェロニカと同じように処女刃は要らない。
そのファーミリアは、簡単に会話をしてからエラリエースとメイラに元神界騎士団の面々に会釈してから振り返り、俺たちの近くに戻ってきた。
宙空で止まる。
ファーミリアのプラチナブロンドの長い髪が、<血魔力>によって風を孕んだ如く持ち上がり、背に靡いていた。
そのファーミリアは、女帝の雰囲気のまま、
「改めて、わたしたちは吸血神ルグナド様の因果律を抜けました」
「「「はい」」」
アルナード、ルンス、ホフマンはハモリながら返事をした。
その三人は俺とファーミリアを交互に見ている。
ファーミリアは、
「寂しさはありますが、それ以上に幸せな氣分です」
「はい、私もですぞ、血が滾る!」
ルンスが興奮気味に答えた。
「はい! 興奮が止まりませぬ」
と、ホフマンが続いた。
「はい! 光魔ルシヴァルの<血魔力>私たちの<血魔力>がここまで親和性が高いとは……」
アルナードは感嘆の声を漏らす。
アルナードたちも嬉しそうで何より。
同時にヴァルマスク家まるごと光魔ルシヴァル化ということは……。
ヴァルマスク家から離脱した吸血鬼たちも光魔ルシヴァル化か。
俺がセラに戻った直後、その者たちが一斉に光魔ルシヴァルに変化を遂げるわけか……と、考えながら、
「ファーミリアたちのヴァルマスク家を救えることができて良かった」
「はい」
「しかし、ファーミリアの血脈の家族、分家や分派と呼ばれている吸血鬼たちも光魔ルシヴァルと成ったことになるが、その分派や分家はどの程度いるんだろう」
ファーミリアは「はい」と言ってから、胸元に手を当て、「……ヴァルマスク家、前の私のファーミリア・ラヴァレ・ヴァルマスク・ルグナドの分派に分家と呼ばれている者は……」
と、発言しつつヴェロニカとルンスにホフマンやアルナードとクナを順繰りに見ていく。
アルナードたちは胸元に手を当てながら頭を下げている。
クナは俺をファーミリアと笑みを交換し、俺を見て、口が少し動き、『ふふ、分派と分家は大丈夫ですわ』と言ったような氣がした。
ファーミリアは、
「最後まで生き残ったのは……ヴェロニカとポルセンだけのはず。あ、その眷族のアンジェのみです。ララーブイン山に、南マハハイムの樹界で争った錬金術師のマコト・トミオカは、シュウヤ様とも通じて仲が良さそうなので、心配はあまりしていませんが……既に吸血鬼の血の採取には成功していますし、血の<血魔力>と<血魔術>の研究は続けていくでしょうから、今後、どうなっていくか……不透明ですわね」
と、語った。
錬金術師マコトは、過去に【天凛の月】の幹部でもある豹獣人のカズンから血の採取を行っているし、独自の戦闘メイドを造り上げているマッドサイエンティスト。第三王子クリムに近い一面もあるからな。
その辺を踏まえて、
「……そっか、光魔ルシヴァルの血も研究されるだろうな」
「それは仕方がないと思います。ただ、かなり難しい研究となるでしょう」
「あぁ」
「そのポルセンとアンジェは、血魔剣と関係しているソレグレン派の眷族だけど、〝ルグナドと宵闇の灯火王冠〟で光魔ルシヴァル入りに入ることが、できるってことでしょう?」
「そうなる」
「そうですね」
ファーミリアも同意した。
「「おぉ」」
「ポルセンは凄く喜ぶと思う」
「ん、アンジェはノーラと再会できたのかな」
「再会しても無事だといいが、エーグバイン家が絡むと厄介だからな」
「うん、でもさすがに【天凛の月】に喧嘩を売ることはないと思いたい」
「サーマリア王家とも繋がりがあるエーグバイン家か……」
皆、思案げとなった。
すると、レベッカが、感慨深げに、
「先程の儀式の最中、壊れかけた宵闇の指輪と太いルグナドの灯火から出た魔力、赤系統の<血魔力>と紺青の魔力が、吸血神ルグナド様と宵闇の女王レブラ様を召喚し、二つのアイテムが徐々に融合していくところは圧巻だったわ」
「「「はい」」」
ファーミリアは皆の同意に頷き、一度消したばかりの〝ルグナドと宵闇の灯火王冠〟を再度召喚した。
レベッカはそのアイテムを凝視して興奮した様子で、
「そう、その王冠のようなアイテム!」
ファーミリアは、
「はい、先程ヴィーネさんが、吸血神ルグナド様の言葉の『貸し』について、言われていましたが……同時にそれは……」
と、俺をチラッと見てから皆を見て、
「未来への道を示したつもりなのでしょう」
と、発言した。
その言葉には、深い意味があると分かる。
皆、思案げな表情を浮かべていく。
「「「「……」」」」
「「……なるほど」」
「うん、シュウヤなら色々と危険を聞き、多角的に考えることができる。だからこそ吸血神ルグナド様は、南マハハイムはお前に託したと発言したのね」
「はい、〝ルグナドと宵闇の灯火王冠〟にはアイテム効果の前に、色々な意味があると分かります」
「……セラの吸血鬼たちの未来への道……」
キサラも呟く。
皆が納得するように頷いた。
ファーミリアも静かに微笑み、
「はい、そして、今後も、王都グロムハイム近辺、ハイム海沿いの海岸線の土地を調べて、利用をする際は、光魔ルシヴァルのアジトの一つとして、自由に【大墳墓の血法院】を使ってくださいませ」
「「了解」」
「了解したさ」
「うん」
ルンスは俺を見て、
「シュウヤ様、メル様とクナ様には伝えてありますが、【湾岸都市テリア】の昔、わしが利用していたアジトも【天凛の月】の物となっておりまする。【シャファの雷】とも【血星海月雷吸宵闇・大連盟】の仲なので、わしの土地は要らぬかもですが、何かに使うのでしたら提供致しまする」
「了解した」
ミスティは、
「広間から<フォーラルの血道>ですぐに移動が可能な【吸血神ルグナドの血海の祠】を有した血銀行は、良い修業場所になるからね」
血銀行はそうだな。サザーたちは短い間に強化できた。
「そうねぇ、あたいたちはあそこで結構強くなったさ」
「強者の吸血鬼でさえ、敗れることがあるほどの強いモンスターたちが、豊富だからね」
「はい、修業場所にもってこいです」
「血吸真魚リランと金属ノ鯛魔人魚のボボボルマンも強かったですね」
「〝光闇の奔流〟の金属を活かしたミニ鋼鉄矢を射ちまくった」
「はい、短い間でしたが、良い修業ができました」
「相手が強いほど効果が高い、長い魔杖ハラガソの雷状の霧のような攻撃、<雷霧>も効きました」
ベネットとサザーとミスティとフーとママニとルシェルが語る。
ユイは、
「ファーミリア、先ほどのナイフから血刃を生やし、刀に変化させたのは、血道のスキルなの?」
ミスティの言葉にファーミリアは頷く。
右手にナイフを召喚。
先程と同じナイフ、剣の中心の溝に<血魔力>が走っている。
「あ、このナイフはアイテムです。名は、ヴァルマスクナイフ。そして、<血魔力>を通すことで、ヴァルマスクブレードに変化できます。更に、第二関門、<血道第二・開門>には、<血剣術>があります。ヴェロニカが使う系統ですね、<血剣・連破斬>などが仕えます」
「へぇ」
「わたしよりも高度な<血魔力>なのは確実」
ヴェロニカの言葉にファーミリアは、
「ふふ、永く生きてますので、それなりの経験があります」
そこでサシィとエラリエースとシャナを見てから、
「では、サシィ、俺はシャナの<血道第一・開門>獲得まで付き合うから、ダイザブロウか、レイガとムサシに、<魔闘術>系統を学びたいと伝えてくれ。模擬戦形式か、何か儀式や素材が必要なら、用意したい」
月のような紋様と日本風の『月読』に『月冴』の文字が浮かぶ<魔闘術>系統は中々に渋い。
「私たちには<魔闘気>だ。そして了解したが、私の<魔闘気>に<魔闘血蛍>も学んでほしい」
サシィの言葉に頷いて、
「それはそうだな、同時に<斧槍血突>も学びたい」
「うむ、ならば、連絡しとく。シャナの後で、フクナガたちの準備もまだ時間が掛かるから、【源左蛍ノ彷徨変異洞窟】か【源左サシィの隠れ洞窟】の奥にある【源左魔龍紋の祠】にレイガたちと共に向かおう。そこで学べる」
「お、そうしよう」
サシィの提案に頷いた。
【源左魔龍紋の祠】は、源左の地で最も古い修練場の一つと聞いている。そこでの修行は短期間でも大きな効果が期待できるはずだ。
サシィは頷くと「では、皆、外に出ようか」と言って畳の部屋から外に出る。
そしてルシェルに、
「長い魔杖ハラガソの効果も見たいから、サシィたちと一緒に行こうか」
「ふふ、はい!」
ルシェルの元氣な声に頷いた。
ヴィーネは、一瞬、ジッと俺とシャナを見て、キサラを見てから、
「では、キサラ、槍の稽古の続きを」
「はい」
と発言し、キサラと共に畳の部屋から廊下に出て、廊下から奥座敷の玄関のあるほうに向かっていく。
ファーミリアとエラリエースたちも畳の部屋から外に出る。
そのままシャナのいる大きな盥の方へ視線を戻した。
シャナはまだ集中しており、盥の中の血は僅かに波打っている。
二の腕に嵌められた処女刃が鈍い光を放ち、額には汗が滲んでいた。
メイラとエラリエース、そして元神界騎士団の面々が固唾を飲んで見守っているが、そのメイラたちもシャナに何かを言われたようで、「うん、では、私たちも外に」と発言し、廊下に出ては、奥座敷の違う部屋か、庭に出ては源左砦の見学をするような言葉も聞こえてきた。
そのシャナの傍により、
「シャナ、もう少しだ。焦らず、己の血の流れを感じろ」
「はい」
エヴァとクレインはまだここに残って、シャナの傍にいる。
静かに見守っていた。
シャナにとってエヴァは大きい存在なのかもな。
クレインが隣に来て、
「<血道>の開門は、本人の資質と精神力が大きく関わるからねぇ。シャナならきっと乗り越えられるさ」
と、落ち着いた声で言った。
他の仲間たちも、それぞれの思いを胸にシャナを見つめているが、一人一人、励ましの言葉を述べてから、板の間の外に出ていった。
シャナは俺をジッと見て
「ふふ、二人きりですね……」
艶かしい雰囲気を醸し出す。
「あぁ」と言いながらシャナに近づくように大きい盥に片足を入れ、シャナの血を片足で吸収していく、溢れ出ないようにした。
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