千七百八十一話 歌姫、シャナ<従者長>になる
肩の竜頭装甲を意識し、<血道第五・開門>と<血霊兵装隊杖>を解除。「ングゥゥィィ~」と鳴いた肩の竜頭装甲はゴルゴダの革鎧服の素材を活かした衣装に変化。
「ん、おめでとう。既に家族で仲間だったけど、正式に光魔ルシヴァル入り」
「うん、ブラッドクリスタル生成も可能なエラリエースは特別。そして、エヴァも言ったけど、もう仲間で戦友で、既に家族って認識だったけど、これからも改めてよろしくね」
「うん、めでたい」
「はい、おめでとう」
「エラリエースちゃん、<筆頭従者長>おめでとう!」
「「おめでとう!」」
エラリエースは皆の温かい言葉に涙ぐんでから微笑み、
「ふふ、はい、皆様、ありがとうございます」
「エラリ、これを」
「あ、はい」
エラリエースは姉のメイラからワンピースの下着を受け取り身に着けた。
その間に大きい盥を<破邪霊樹ノ尾>で製作しよう――。
<破邪霊樹ノ尾>意識し発動させ、光属性を有した邪界ヘルローネの樹で、大きい盥を瞬時に制作した。
それを置いてから処女刃を戦闘型デバイスのアイテムボックスを取り出し、
「エラリエース、これを渡しておこう」
「はい――」
エラリエースは処女刃を受け取り、盥の中に入る。
そこで、処女刃の腕輪を二の腕に嵌めた。
そして、エラリエースの場合は、アドゥムブラリたちと同様に、処女刃の腕輪のスイッチを入れたら、すぐに<血道第一・開門>は覚える可能性が高い。
メイラは、
「レンさんたちは少し痛がっていましたが、<血道第一・開門>の、第一関門を覚えるのは速かったので、妹もすぐに終わるかもですね」
「あぁ、俺も同じことを考えていた」
「ん、わたしも」
「はい、わたしもです」
「うん、わたしも、前例がいくつかあるし」
ユイたちの言葉に頷いた。
そこで、シャナとファーミリアとハミヤを見て、
「では、次はシャナを眷族に迎えたい。良いかな」
「はい、順番的に私は最後で大丈夫です。貴重な宵闇の指輪の使用だと思いますから」
ファーミリアの言葉に頷いた。
ハミヤも、
「はい、私もです。シャナさんはシュウヤ様とかなり前からの友達と聞いています。当然です」
二人の言葉にシャナも笑みを浮かべる。
そのシャナを見て、
「<筆頭従者長>か<従者長>か、どちらが良い?」
「<従者長>でいいです」
即答で<従者長>を選ぶか。
「選ばれし眷族の<筆頭従者長>でもいいんだぞ。個人差はあるが能力的に<筆頭従者長>のほうが上回る」
「そのようですね。でも、皆さんから、<従者長>でも本人の努力次第では<筆頭従者長>を超えられる可能性はある……と、聞いています。しかし、今の自分の立場から高望みはしたくない。悪く言えば、責任ある立場から逃げていると考えてもらっても構いません。ですから<従者長>から始めたいのです」
シャナの言葉に頷いた。
「そっか、ま、どちらも強いから歓迎だ」
「はい!」
「ん、遠慮しなくても大丈夫なのに」
「うん、シャナなら、光魔ルシヴァルの歌い姫としての<筆頭従者長>になる資格があると思う」
「そうね、吸血神ルグナド様が知ってたリーザルトとかいう名の魔界の音楽家が、〝魔界狂想曲第七番『神々の黄昏』〟を演奏し……皆の精神を攻撃してきたけど、シャナの歌が、皆を守ったんだから」
その言葉に皆が頷いて、
「たしかに、人魚と氷竜レムアーガのハーモニーで美しい歌声でした」
「そう、歌姫ちゃんだから<筆頭従者長>でいい」
レベッカの言葉に同意、俺もそう思っていた。
「はい、皆さんの役に立てたのはとても嬉しい経験です。でも、<従者長>でいいのです」
シャナはハッキリと告げた。その意思を尊重しよう。
「ん、分かった」
「本人がいいなら、ま<従者長>も強いし余り変わらないか」
「そうね」
と、エヴァとレベッカとユイはシャナの意思に同意し、納得したようだ。
ヴィーネたちは外で槍稽古に夢中になっているのか、まだ此方に顔を見せない。
縁側に腰掛け魔酒を飲むクレインたちはこちらを振り向き「「エラリエース、おめでと~」」と何回か言っていた。
「ふふ、はい、総長の<筆頭従者長>を蹴った女と将来言われるかもですよ」
「あたいたちは総長の孫眷族のような<筆頭従者>だからねぇ……」
と、メルとベネットが発言。
「ふふ、いいんですよ、私は皆さんに助けられてばかりです。吟遊詩人のロウたちに命を狙われ、シュウヤさんに助けられたことも、そうですし……【迷宮の宿り月】で、長く歌手として雇ってくれたメルさんにも感謝しています」
シャナの言葉にメルは、
「それはこちらこそよ。カズンやゼッタの古株も同じ想いのはず。そして、宿を利用している客たちも感謝しているはず」
【迷宮の宿り月】の関係者は皆そうだろう。
ヴェロニカは、
「でも、シャナ目当ての一部の客は……今頃、悲しみのどん底かな」
と発言すると、シャナは「あ……」と少し申し訳なさそうな表情を浮かべる。
ヴェロニカは、「ごめん、責めているわけじゃないから」
シャナは、
「はい」
「それだけ、魅力的なシャナってことね。その歌声は誰しも魅了する」
メルの言葉は、【迷宮の宿り月】の女将の言葉だ。
一気に昔のことを思い出した。
【迷宮都市ペルネーテ】の【迷宮の宿り月】の扉を開けて、酒の匂いのまま食堂に歩いては、そこで働いていたメルとヴェロニカ、イリーの姿を……。
ヴェロニカは、
「ふふ、歌声と言えば、白猫も特等席からシャナの歌声を聞いていたわ」
「あぁ、たしかに! 食堂の梁と垂木のところでよく寝っ転がっていた」
「ふふ、そうそう、あたいがよく利用していた天井裏の隠し通路も白猫はよく利用していたさ」
メルとヴェロニカとベネットが楽しそうに、昔を思い出しながら語る。
なんか心がほっこりとする。
シャナも微笑みながら頷いていた。
そのシャナは、
「シュウヤさんと本格的に合流をしてからも、数々の戦いで助けられてきました。とくにシュウヤさんは集団戦闘となると私を見る機会が増えて、作戦を立てながら臨機応変に動いていた。すごく嬉しくて……ドキドキしました。詩がなんこもできましたが、そんなシュウヤさんたちに、<従者長>として、色々と貢献したいのです」
自らの想いを語ってくれた。
メルとヴェロニカとベネットも頷きながら微笑む。
【天凛の月】に変化する前の【残骸の月】だった頃からの付き合いだからな。
そして、魔界でまさかの双月神とも絡みもあった。俺たちの闇ギルドの名は、ある種の運命的な流れだったのかも知れない……。
その思いのままシャナに、
「了解した、では、シャナを<従者長>に迎えよう」
「はい!」
シャナの春の草原を思わせる瞳はとても、綺麗で、元氣に溢れている。
「あ、シャナ、エラリエースと同じ場所で眷族化の儀式を行うがいいかな」
「構いません」
すると、
「痛ッ、あ、<血道第一・開門>をいきなり覚えました!」
やはり、エラリエースも速かった。
「「「おぉ」」」
「やっぱり、速かった~」
「スイッチを入れてすぐとか、アドゥムブラリと同じね」
「ふふ、はい、<血魔力>の操作に――」
『皆さん、エラリエースは第一関門こと、<血道第一・開門>を獲得、こうして、血文字を皆さんに送れます! そして、バリィアンの堡砦にいるラムラントに、バーヴァイ城にいるバーソロンの<筆頭従者>チチル、<筆頭従者>ソフィー、<筆頭従者>ノノたち、あまり面と向かって話ができていませんが、これからもよろしくお願いします』
と、エラリエースは皆に血文字を送っていた。
そこで、エラリエースに祝福の水をピュッと少しかけているヘルメに、
「シャナを囲う《水幕》を展開しといてくれ」
「あ、はい――」
一瞬で、シャナと俺の周囲だけが《水幕》に包まれた。
俺たちの目の前に浮かぶ血文字を眺めながら衣服を下着だけにしたシャナに、
「では、眷族化を行う、準備はいいかな」
「はい!」
シャナの元氣な声が響く。
魔夜世界の蒼い光がシャナを神秘的に照らす。
その緑の瞳を凝視。彼女の今の体は、エルフとしての体で、耳が長い、普通の人族にも似ているあろう。が、内実は人魚だ。
そして、エルフの体を守るように、薄らと氷竜レムアーガの加護を思わせる細氷が宙空に舞っている。そこで肩の竜頭装甲を意識。
もう一度<血道第五・開門>の発動――。
「ングゥゥィィ~」
肩の竜頭装甲も呼応し、いつもの鳴き声を響かせる。
血の衣装が胸甲と結袈裟に鈴懸が展開された。
「では、始めるぞ、<光闇の至帝>――」
頭上には<光闇の至帝>の証たる王冠が幻影となって浮かび上がった。
血の錫杖も真上に浮かび、清浄な音叉の波動を放つ。
振動と音叉は、空間そのものを浄化していくかのように神聖な共鳴を生み出していく。すると外からの蒼い明かりが強まったような氣がした。
体から血の<血魔力>が噴出――。
堰を切ったように溢れ出していく滂沱の血は、天井ごと百畳は超える大きさの大広間を先程と同じく、シャナを飲み込み、瞬く間に、部屋を満たす。
シャナは血の海の中で立ち泳ぎ。
蒼く照らされた魔夜の光は、《水幕》と血の液体の中にも透き通って、シャナの金髪が銀色に煌めく。
月明かりに照らされた水面のような輝きを放っていた。
そのシャナは身震いし、少し苦しげな表情を浮かべた。
血の侵食が始まったか。
「あぁ……」
水中だが、シャナの苦痛の声はわずかに聞こえた。
苦しみは眷族化の過程では避けられないもの――。
と、シャナの首筋の歌翔石が突如として輝き始め、光の波紋を放つ。
血の侵食に対する人魚の本能的な抵抗か?
歌翔石から発せられる光は波のうねりのように部屋中の血の流れに抗うように動き、シャナの体を守ろうとしていた。
手を伸ばし、『シャナ、大丈夫か?』と心でメッセージを送る。
シャナは、俺の気持ちが通じ、わずかに頷き、緑の瞳を開いた。
その目は、もはや普通のエルフのものではなく、深い海の底を思わせる神秘的な輝きを放っていた。
シャナは頷きながら口から大量の空氣を吐く。
と、一瞬で泡は銀色の魔力粒子へと変わっていく。
そして、普通の人族なら窒息するはずの環境だろう。
シャナは人魚の本能を呼び覚ますように深い呼吸を繰り返した。吐き出された銀色の魔力粒子は優雅に舞うように周りに巡る。
シャナに向かう血の流れは強まっているが、銀色の魔力粒子はその流れに負けず、上昇、弧を描く、それは雌鮭が産卵地を目指し川上りを行うように見えた。やがて、銀色の魔力粒子は、子宮のような保護の場を形作った。
子宮は、皆と同じ。生命を育む聖なる場所の具現化で、いつもと同じに見えるが、少し異なる。
<光闇の至帝>に変化したこともあるのか……。
形が少しリアルだし、種族や魔族ごとに、微妙に異なる形だった。
シャナは唇から波紋のような音波を放出し、
「『海の神セピトーン……水の神アクレシス……』」
と、古代の祈りのような歌声が響いた。
海の神セピトーン 水を司る姉神アクレシス
炎神エンフリートとともに 水神槍を作りし神々よ
吹雪の北兄弟神セツダーツとセナルコーク
北極連星の輝きに導かれし我が身
深き淵より聴きたまえ 我が祈りの声を
波の記憶に満ちた身は 今 新たな血と交わる
光と闇の間に立ち 陰陽の調和を求めん
蒼き海の揺り籠で 命の誕生を歌いし
幾千の波と共に 双月神ウラニリとウリオウの光に照らされ
水母神へレイアの血を受け継ぎし者たち
人魚の系譜を継ぐ我が身は 今宵 変容の時を迎える
砂神セプトーンの軌跡を辿り
深海の秘密を胸に秘め 血の誓いへと進まん
流れ込む赤き力は 新たな宿命の始まり
ルシヴァルの聖なる血は 我が魂に根を張る
時空の神クローセイヴィスの刻む永遠の中で
水教団キュレレの祈りを胸に
歌翔石よ 共鳴せよ 古き力と新しき力
二つの源が一つとなり 調和の音色を奏でん
鱗は光に輝き 肌は新たな力を宿す
かつて海を泳ぎし体は 今 血の海を泳ぐ
風神セードの風と 雷神ラ・ドオラの稲妻を身に宿し
大地の神ガイアと 植物神サデュラの恵みを受けて
レムアーガの氷の加護と 光魔の血の祝福
二つの世界の境に立ち 新たな旋律を紡ぎ出さん
我はシャナ 海と血の歌姫
海神セピトーンの血脈を継ぎし者
光魔ルシヴァルに誓いし従者長
水母神へレイアの加護のもと
主の道を照らす歌を 永久に奏でん
この声は力となり この音色は希望となる
時空の神クローセイヴィスの永き流れの中で
我が主と共に歩み 永遠の旅路を進まん
賛美歌的でもある。
不思議な歌声は、血の中でさえも透き通るように響いてきた。
歌翔石と共鳴した効果かな。
シャナの胸元からも、膨大な魔力が波のように放出された。
同時に金髪が背の上に舞う。血の液体世界の流れも加速し、シャナは血を吸収していく。と、周囲に音波の模様と波紋が幾つも発生。
そして、シャナの歌声が、次第に旋律を帯びていく――。
それは言葉ではなく、純粋な音の連なり……。
人魚の古の歌だった。
その歌に応えるように、血の海の中から無数の小精霊たちが姿を現し始めた。
彼らは血の化身のように赤銅色に輝き、七福神のような恰好をした血妖精ルッシーたちも現れて、シャナの周りを舞い始めた。彼らは笛や太鼓のような楽器を手に、シャナの歌に合わせるように音を奏で始める。
子宮を模った銀色の空間もルシヴァルの紋章樹を模り始める。
シャナの体が変容を始めた。
彼女の足が光に包まれ、一瞬だけ魚の尾のような形状に変わった。
それはシャナの本来の姿への一時的な回帰に見える。
再び人の形へと戻りながらも、その肌には微細な鱗のような光沢が浮かび上がっていた。
『この力は……海と血の融合……』
シャナの言葉は歌の旋律――自分自身への確認でもある?
シャナの見えている肌の表面が煌めく。
更に、氷竜レムアーガとの契約した証しのような氷竜レムアーガの淡い幻想的なドラゴンの姿も出現した。
ルシヴァルの紋章樹からも銀色の魔力が噴出したことで、血の流れに変化起きた。シャナの体の内の魔力の流れも次々に変化していく。
メタモルフォーゼではないが、頭部から足先までの皮膚、筋肉、骨、内臓、細胞も光魔ルシヴァルに変化していると分かる。
変化の勢いは凄まじい勢いだ。
人魚の力と光魔ルシヴァルの血が混ざり合っているんだろう。
そこに、氷竜レムアーガの幻影は銀青色の炎のような吐息を吐いた。
シャナの血との融合を加速させるようにシャナの体を包み込む。
すると、血の海で、光と闇を象徴する陰陽太極図のような模様が浮かび上がり、シャナを中心に回転し始めた。
陰と陽、光と闇、水と血――。
相反するものの調和を示すように、その模様は次第に彼女の肌に刻まれていく。
子宮を模った空間は、生命の木のような印象を持つルシヴァルの紋章樹に変化。その巨大な樹木は枝を広げ、シャナを包み込むように成長し、重なる。
途端に、ルシヴァルの紋章樹の幹から榊のような棒が飛び出た。
榊の先端から放たれる銀色の光は月光のように清らかで、しかし太陽の力強さをも秘めている。
古代の浄化の儀式にも似た所作で、ゆっくりと榊を手に取る。
清めの力が指先に伝わってくる感覚。
そのまま祓いの榊でシャナの額から胸元、そして下腹部へと撫で下ろす。
何度も榊を円を描くように振るうと、体の血の筋と線から、数学染みた暗号のような文字が宙空へと飛び出して消えていく。それはシャナの古い因果が解き放たれていくと理解できた。
紋章樹と重なったシャナの体に、榊が触れるたび、皮膚の下を血の線が走り始めた。
葉は薄着のワンピースを透き通っていく。
彼女の曲線に沿って流れるように広がる。
榊の葉と枝から生命力に満ちた露が滴り落ちながら、シャナの肌に付いていく。シャナの全身を巡る血筋の模様は、生きた蔓のようにシャナの肢体を愛おしむように抱きしめ、深紅の花を咲かせるように乳首を中心として円を描いていた。
次第に、シャナの口から漏れる吐息が血の海を小さく波立たせていく。
乳房が揺れ、ビクンと体が大きく跳ねては一瞬で人魚と化した。
下半身の鱗にも血筋が入り、ルシヴァルの紋章樹の模様が描かれていく。
人魚の尾の付け根、かつて女性としての秘所があった場所を榊で祓う――。
と、シャナの背中が大きく反り、『んあぁっ……』と甘く色めく声が響き渡った。
榊を胸元で横に払う――。
と、『あぁっ、シュウヤさん……』と血の海の中でも淫らに響く声が漏れ、恍惚とした表情で目を細める。
シャナの唇は血の色に染まり、軽く開かれて上気した吐息を漏らしていた。
再度、神聖な力を帯びた榊を前から後ろへと一直線に振るう。
閃光のような光が走り、またもシャナはビクンッと跳ねた。
体から、粒子の如く光が走り、背中から尾にかけて力強く震える痙攣が走る。
『はぁっ』
激しい喘ぎ声と共にシャナはエルフに戻り、また人魚に戻り、またエルフに変化。
二つの姿を行き来するたび、彼女の肌は官能的に煌めき、上気した頬は血の色に染まっていく。
最後に十字を切るように榊を四方に振るうと、シャナは大きく震え、『あぁっ』と高い声を上げて快感の絶頂に達したかのように全身を硬直させた。
そのままシャナの体から後光が差し、光と共に榊はシャナの体内を通り、ルシヴァルの紋章樹の幻影へと消えた。
シャナの人魚としての血と光魔ルシヴァルの血が調和を見せるように、肌に刻まれた血の線が深く浸透し、やがて表面からは消えていく。
途端に、ルシヴァルの紋章樹の表面には光魔ルシヴァルの一門の系譜が紋様として浮かび上がる。
第一の<筆頭従者長>ヴィーネ――。
第二の<筆頭従者長>レベッカ――。
第三の<筆頭従者長>エヴァ――。
第四の<筆頭従者長>ユイ――。
第五の<筆頭従者長>ミスティ――。
第六の<筆頭従者長>ヴェロニカ――。
第七の<筆頭従者長>キッシュ――。
第八の<筆頭従者長>キサラ――。
第九の<筆頭従者長>キッカ――。
第十の<筆頭従者長>クレイン――。
第十一の<筆頭従者長>ビーサ――。
第十二の<筆頭従者長>ビュシエ――。
第十三の<筆頭従者長>サシィ――。
第十四の<筆頭従者長>アドゥムブラリ――。
第十五の<筆頭従者長>ルマルディ――。
第十六の<筆頭従者長>バーソロン――。
第十七の<筆頭従者長>ハンカイ――。
第十八の<筆頭従者長>クナ――。
第十九の<筆頭従者長>ナロミヴァス――。
第二十の<筆頭従者長>ルビア――。
第二十一の<筆頭従者長>レン――。
第二十二の<筆頭従者長>エラリエース――。
そして、<従者長>の系譜も浮かび上がる。
<従者長>カルード――。
<従者長>ピレ・ママニ――。
<従者長>フー・ディード――。
<従者長>ビア――。
<従者長>ソロボ――。
<従者長>クエマ――。
<従者長>サザー・デイル――。
<従者長>サラ――。
<従者長>ベリーズ・マフォン――。
<従者長>ブッチ――。
<従者長>ルシェル――。
<従者長>カットマギー――。
<従者長>マージュ・ペレランドラ――。
<従者長>カリィ――。
<従者長>レンショウ――。
<従者長>アチ――。
<従者長>キスマリ――。
<従者長>ラムラント――。
<従者長>エトア――。
<従者長>ラムー――。
<従者長>リューリュ――。
<従者長>パパス――。
<従者長>ツィクハル――。
<従者長>の系統樹の新たな位置に、シャナの名が古代語で刻まれていく。
それは彼女の新たな運命の始まりを告げるものだった。
儀式の最終段階として、ルシヴァルの紋章樹はシャナの体へと溶け込み始めた。
その過程で体から美しい旋律が漏れ出し、部屋全体に響き渡る。
それは人魚の歌と光魔ルシヴァルの力が融合した、新たな力の誕生を告げる旋律か。
シャナの緑の瞳が金色の光を帯び始め次第に赤銅色へと変化していく。
彼女の肌には微細な鱗のような模様が浮かび、それは光を受けて虹色に輝いた。
歌翔石は体内に溶け込み、彼女の喉に永久的な力の源として定着した。
最後に、部屋を満たしていた血の海がすべてシャナの体へと吸収されていく。
彼女の体は一瞬輝きに包まれ、そして静かに落ち着いた。
シャナは、満ちた瞳を開けた。
光魔ルシヴァルの血の力を感じていると分かる。
「あぁ、血の感覚……凄い音が変化をした」
シャナの感極まった言葉に頷く。
その瞳には血の力と海の力が混ざりあっているような印象を受ける。
それほどの不思議な深みを湛えていた。
「シュウヤさん、<従者長>に成れたようです。あ、血を……飲ませてください」
シャナの声は、これまでにない響きを持っていた。
それは人魚の歌声と光魔ルシヴァルの威厳が融合した魅惑的でありながらも力強い声だった。
「了解した」
首筋を差し出す。シャナは前進し、躊躇なく、俺の首に頭部を寄せ、優しく唇を首に当ててから――痛ッ。シャナの二本の小さな犬歯が皮膚を突き破ったと理解。
「あぁ……」
シャナの感じている声が響いた。
血を吸われて続ける。
そのたびにシャナは、体がビクッと揺らしていた。
心臓の高鳴りが激しい。
エラリエースと似ているとは当然だが、シャナの女の匂いが可愛く感じた。
そして、シャナが血を吸うたび、体からは海の波のような波動が放たれてくる。
周囲の空気さえも波打つように見えた。
と、すぐ傍に、氷竜レムアーガの幻影が現れては、俺にも氷の吐息を寄越す。
レムアーガは俺にも加護をくれようとしている?
と、そのレムアーガは、すぐに消えた。
十分な時間が経ち、そこで、シャナを優しく引き離した。
「十分だろう」
シャナの唇からは血の雫が垂れ、彼女はそれを舌先で舐め取った。
「シュウヤさんの血から、海の香りが……うふふ」
「海か……」
「あ、はい」
血に海の香りはシャナと混じり合ったからかな。
「ふふ、少し変ですよね、私の感じ方かもです」
と、シャナは発言し、微笑んだ。
<従者長>となった彼女の微笑みには、これまでにない自信が宿っていた。
「そんなことはないさ、人魚だからな」
「はい、これからは、シュウヤさん、ううん、シュウヤの歌姫として、そして<従者長>として力を尽くさせてもらいます」
と、シャナの喉から美しい旋律が響く。
海から来た者 血に目覚めし者
波の記憶と 血の力を宿す
新たな旋律は 古き海の深みより
光魔の名を たたえる
魔力に満ちし歌翔石よ 喉に宿りし永遠の力
闇を照らす声となり 敵を破る音となれ
水神アクレシスの導きと 海神セピトーンの護り
永き夜の海を照らす 星の光のごとく
氷竜レムアーガの息吹と 光魔ルシヴァルの血潮
二つの力が織りなす 新たな命の響き
鱗の煌めきを纏いし身は 今 赤銅の色を宿す
永き時を超え継ぎし歌は 今 新たな力を得ん
双月の光に照らされし 海の深き記憶
血の海を泳ぎ越えし 勇気の証
北極連星の導きのもと 闇を照らす声を響かせん
我が主の名を高らかに 世界の果てまで届けん
聴け 我が歌を
海と血の歌姫 従者長シャナの誓いを
この声は我が主の剣となり 我が旋律は我が主の盾となる
水と血の調和を象る 新たな歌の力を
永遠に 奏で続けん
これは単なる歌ではないな。
魔力を帯びた音波となって周囲に広がり、誰もが心地よい温かさを感じるような不思議な力を持つ。
「ヘルメ、《水幕》を解除していい」
「はい」
途端に、《水幕》が消える。
「やった~、シャナ、おめでとう!」
「ん、とても歌が素敵」
「うわぁ、シャナの歌がさらに素敵になってる!」
エヴァやレベッカ、ユイをはじめとする仲間たちの祝福の声が上がる。
シャナも感謝の微笑みを浮かべてから、俺に、深々と頭を下げた。
「これからもよろしくお願いします、シュウヤ」
その言葉に頷いた。
続きは明日、HJノベルス様から書籍、「槍使いと、黒猫。1巻~20巻」発売中。
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