千七百七十五話 月光流星にヘルメの覚醒と闇神リヴォグラフとの戦い
吸血神ルグナド様も一歩前に踏み出す。
周囲の空気が凍りつくように静まり返る。
今の声音には古代の戦場で幾多の敵を打ち倒してきた絶対的な自信と戦いの陶酔感が混ざり合っていた。那由他の時間を生きている魔神の威厳を醸し出した。
地面から血の霧が立ち昇った。
吸血神ルグナド様はビュシエとファーミリアとハビラを見てから頷くと、上昇し、周囲に<血魔力>の血剣と血槍を複数生み出した。その血剣と血槍が<夜行ノ槍業・召喚・八咫角>を警戒した魔界騎士メイアールと闇賢老バシトルターゼに直進する。
魔界騎士メイアールは眼帯を煌めかせ――。
甲冑の節々から<暗黒魔力>を放出させながら高速に上下左右に動き、両手に持つ朱と紫と漆黒の炎を宿す魔剣を振るい回し、吸血神ルグナド様の操作する血剣と血槍を弾き斬る。
朱と紫と漆黒の炎を宿す魔剣は時折幅が、魔大剣のような大きさに変化することもあれば極端に曲がることもあった。
闇賢老バシトルターゼは後方に移動しながら闇弾を連続的に放ち、血槍と血剣を弾き続け、宙空の至るところに紋章魔法陣を発生させ、曲がりくねった跳弾のような闇弾を吸血神ルグナド様や俺たちにも寄越してきた。
再度、ハミヤとペミュラスとシャナの守り確認。
ビュシエと相棒とメルとヴェロニカとミスティとゼクスの動きを見て安堵しつつ<龍神・魔力纏>を発動させ、<メファーラの武闘血>を再度発動。そして、リサナの波群瓢箪を出し、「メルとグィヴァ説明は任せた」と言いながら
宙空に出て<夜行ノ槍業・召喚・八咫角>は手前に引き戻し、闇の跳弾を弾きつつ、シャナと相棒たちの前に移動させ、闇の跳弾を防ぎながら、両手首の<鎖の因子>から<鎖>を射出し、闇の跳弾の不規則に動く闇の弾丸を<鎖>で貫いていく。
その数秒の間にも、皆がいる手前には、ビュシエが組み上げた<血道・石棺砦>による石棺の砦が出来上がった。
闇の跳弾は、皆には当たらない――。
石棺の面に闇の跳弾が連続して当たる重低音が響きまくる。
耳に不快さを感じながら――。
《連氷蛇矢》を連発しながら二つの<鎖>を両手首の<鎖の因子>から射出し、<鎖>で後退する魔界騎士メイアールと闇賢老バシトルターゼを狙った。
《連氷蛇矢》と<鎖>のコンボは、メイアールには当たらず、バシトルターゼは闇の炎と、火球と、光と闇を帯びた布のような物により吸収されるように消えていく。
闇の布が<鎖>と触れた直後、闇の布は呑み込むように拡がり蠢きつつ、生きた実体のように<鎖>を飲み込んでいった。
エクストラスキルの<鎖>が魔法と同じように消えるのは不気味すぎる。すぐに消した。
ヴィーネも翡翠の蛇弓から光線の矢を放つ。
レベッカも蒼く燃えた勾玉の<光魔蒼炎・血霊玉>を繰り出し、エヴァの紫色の魔力の<念導力>に操作された一部の白皇鋼の刃も向かう。
魔界騎士メイアールは上下左右に動いて普通に避けた。
闇賢老バシトルターゼは、百メートルは離れた位置から闇の炎と小形の魔法陣を宙空に発生させ、俺たちの飛び道具をすべて弾き、相殺してきた。
それらを見ながら、半身で、皆に、
「ゼメタスとアドモスに相棒たちもシャナを頼む、あいつらはやはり強者」
「ハッ、周囲の勢力には私たちが対応しまする」
「ハッ、我らは閣下の盾であり、光魔ルシヴァルの盾でありまする! お任せあれ!」
「シュウヤ、俺も地上から左に出ようか、鹿のモンスターへ連中が寄ってきた――」
ハンカイが左側に突出。
「シュウヤ、闇神リヴォグラフ連中も強そうだが、大魔獣ベサルヴァルに、狩魔の王ボーフーン連中もうるさくなりそうだよ――」
クレインもハンカイに続いた。
「うむ、我は右に出よう、悪神デサロビア側の眷族がチラホラと森に見えている――」
キスマリが右の森に突入。
「にゃおぉ~」
「ニャォ」
「ニャァ」
「ワンッ」
「にゃァ~」
「グモゥ」
「パキュル!」
黒豹は体から無数の触手を伸ばしつつ返事をして、体を大きくさせた。神獣クラスまでとはいかないが、体長は四メートルは超えたか。
体長が二、三メートルほどの白黒虎と黄黒虎と銀白狼と銀灰虎と、体長が五メートルはある大きい鹿魔獣ハウレッツは、クナとシャナとファーミリアたちの近くに移動。
〝巧手四櫂〟のゾウバチ、インミミ、イズチ、ズィルとコジロウとレグも、黒豹の背後に移動。
相棒たちは、その黒豹を先頭に、皆のことを十字の陣形に守るような位置を取る。相棒の足下から橙と漆黒の魔力が地面に伝わって、橙と漆黒の炎を有した燕が周囲を囲う。
あれは始めて見るが、相棒も俺と同じく成長中だと理解した。
ファーミリアたちとクナの後方に浮かぶ法魔ルピナスは、体から紫と白の霧を放出させていた。
荒鷹ヒューイは「ピュゥ~」と鳴きながらシャナの背中に融合し、シャナの翼を成る。シャナも飛行術の魔法書は読んでいるから飛べるんだが、ま、いっか。
魔界騎士メイアールと闇賢老バシトルターゼは、吸血神ルグナド様の上昇に合わせたようにあからさまに距離を取った。
魔神の一柱と俺たちの攻撃の集中砲火はさすがに退くか。
退いていた闇賢老バシトルターゼは体から<暗黒魔力>を噴出させ、何かの呪文を唱え始める。
周囲に生み出していた、まだ消えていない闇の紋章魔法陣から光魔魔沸骸骨騎王ゼメタスとアドモスと<血道・神魔将兵>と似たような闇騎士が出現、一瞬にて、数千の闇神リヴォグラフの眷族兵が宙空に誕生した。
吸血神ルグナド様は、
「『ハッ、我の前で武装魔霊兵の雑兵を生み出すか。身の程をわきまえよ――<血道第九・開門>――<血霊不朽元帥吸血鬼ギュフィトール>――』」
吸血神ルグナド様の体から大量の<血魔力>を生み出されると、魔界セブドラの世界が血に染まる。
ギュフィトールという名の血の巨人の吸血鬼を召喚したのか。
途端に、血の面頬と血の甲冑を身に着けた巨人が、吸血神ルグナド様を囲うように出現した。
巨人は右腕の手に血の薙刀のような武器を持つ。
吸血神ルグナド様の眼前に血の魔印が生まれる。
と、何かを呟く、呪文か。
「『――<吸血神霊・大剛烈鬼刃衝>――』」
途端に吸血神の巨人は前進しながら片腕を振るう。
その手に持っていた巨大な薙刀のような武器が薙ぎ払われていく。
薙刀のような武器の先から、巨大な血の光線が宙空に生まれ、数キロ先までの空間が真っ二つ。鮮烈な赤銅色の閃光は天空を裂き、魔界セブドラの空気そのものが悲鳴を上げているかのような震動が広がる。血の斬撃の衝撃波が左右に血の大波を作り、魔力を帯びた赤い雨が降り注ぐ。無数の闇の紋章魔法陣と闇騎士たちが一瞬で両断され、切断面から漆黒の霧を吐き出しながら消えた。
魔界騎士メイアールは、漆黒の魔剣を防御に回しながら吹き飛び、装甲が外れ、体が斬られたように体が散っては、複数の赤い目を周囲に生み出されながら、体が再生していく、闇賢老バシトルターゼも魔杖と魔盾を生み出しながら飛ばされていく。共に体とローブとステンドグラスのような魔法陣も切断されていた。
「「「「おぉ」」」」
俺も含めて、皆が、凄まじい一閃の威力に驚いた。
が、魔界騎士メイアールと闇賢老バシトルターゼは赤い目に囲われると、巨大な赤い札が出現し、その赤い札から闇神リヴォグラフの本体と赤い巨大な眼球が現れると、大きい黒い獅子も出現。
闇神リヴォグラフは甲冑姿だ。
額と耳にシンメトリーの短い角がある。
耳には兜と連なる玉が付いたイヤーカフを装着していた。
大きい黒い獅子は森林地帯に突入し、木々を喰らいながら悪神デサロビアの眷族と目される眼球お化けたちを喰らっては、上昇し、闇神リヴォグラフの近くに戻った。
その闇神リヴォグラフは、大柄な胴体だ、腕は四本、硬そうな肌か鎧コスチュームは前と変わらずか、甲冑のような肌は赤と黒の鱗模様が目立つ。
赤黒い魔力と漆黒の魔力が甲冑の節々を行き交っている。
背中から膨大な量の漆黒魔力を噴出させ、背後を漆黒に染め上げていた。
その闇神リヴォグラフが、「『――のこのこと現れたな、下郎の槍使い共……覚悟せよ、<咎魔楔印>――』」
と、神意力を有した言葉を放つ。
更に闇神リヴォグラフは片腕の手の指を光らせると赤い目が、俺たちの近くに生まれ出た。
<刺突>――咄嗟に反応していた――。
赤い目を断罪槍の片鎌槍の刃で貫く。
続けざまに<仙魔・龍水移>を繰り返し、周囲の赤い目を<豪閃>と<刺突>で潰すように両断し貫いて、消し去った。
「『チッ……神格を有したようだな。更に水神、魔命、悪夢……そして槍使いに与した吸血神ルグナド……もう邪魔はさせまいぞ』」
途端に、精神の深層に鋭い楔を打ち込むような波動が虚空を震わせる。
脳内で神経回路がショートするようなバチバチとした音と遠い霊廟から響く鐘の音が頭蓋に響く、共鳴しているような音が響く。
融けたプラスチックと血の混ざったような臭いが鼻腔を刺激し、指向性を有した電磁波が誘導する毒ガスのような波動が精神に侵食していく。
闇神の意識そのものを武器としたような、電磁波で操作されたような遠距離攻撃が光を持つ者すべてを標的として襲い掛かってきたと理解――。
その精神攻撃を受けたシャナたちの顔色が蒼白に変わり、体が自らの意思に反して痙攣し、膝から崩れ落ちて地面に這い蹲っていく。
<闇透纏視>で空間を凝視――。
虚無の彼方から覗き込むような赤い目がまだ薄らと出現していた。それらは闇神の意識の断片、魔界の暗部そのものの顕現か。
――躊躇なくそいつらに向け<魔皇・無閃>を繰り出した。
残光さえ見えないほどの速さで、それらの赤い目を断罪槍で両断。
斬られた赤い目からは黒い涙のような液体が流れ出し、空間を穢しながら消えていった。
その様子を冷徹な視線で捉えた吸血神ルグナド様が、
「『闇神リヴォグラフ、我の前で<咎魔楔印>なぞ無駄だ――』」
吸血神ルグナド様の声が神の威厳を帯び、魔界の大気を震わせる。
召喚されたギュフィトールという名の血の巨人の吸血鬼が怒りに満ちた咆哮を上げ、巨大な薙刀を月光に照らされた流星のごとく振り下ろす――。
闇神リヴォグラフは額と耳の短い角を漆黒の炎で煌めかせ、指先から漆黒の魔力を纏った魔大剣を形成すると、その一撃に応じるように、両者の武器が衝突した。
次の瞬間――。
轟音と共に衝撃波が放射状に拡がり、魔界セブドラの大氣が虹色に歪んで振動した。同時に、周囲に血の雨が振る。
薄らと出現していた赤い目が消えると、融けたプラスチックのような臭いなど、不快なモノが消えた。
シャナたちも立ち上がる。
その直後、宙空に無数の闇の柱が現れ落下してくる。
そこから闇の甲冑を着た眷族が生まれると、襲い掛かってきた。
即座に前に出て闇の眷族との間合いを潰しながら――。
断罪槍を下から上に振りあげる<龍豪閃>を繰り出した。
闇の眷族は下に向け魔剣を盾にしようとしたが、その盾を断罪槍が捉え、凹ませ一気に両断し甲冑を着た眷族を薙ぎ払った。
そのまま次の右にいる闇の眷族へと飛翔し槍圏内に近づき<魔皇・無閃>を繰り出し、その首を刎ねては即座に<杖楽昇堕閃>を繰り出し、宙に飛んだ頭部を潰し、振り下ろしの血の大笹穂槍で腹を薙ぐ――続けて<武行氣>を強め左斜め上昇――。
下から闇の甲冑を着た野郎に近づき<断罪槍・撫牙岩崩し>を繰り出した。
自らの体を前に押し出しながら片足を断罪槍で貫いた直後、そのまま前方に一回転しながら断罪槍の斬り下ろし、甲冑ごと腹をぶった斬る。豪快な力技を見舞った。
周囲の闇の甲冑を着た闇神リヴォグラフの眷族兵たちに皆の遠距離攻撃がヒットしていくと、魔導人形のゼクスが繰り出した光線の刃が、俺の近くを通り抜け、右斜めに現れていた漆黒の柱を貫く、それを消し飛ばしていた。
皆の遠距離攻撃が重層的に繰り出されては闇の甲冑を身に着けた人型眷族兵たちが次々と消滅していった。
漆黒の盾を掲げて防御を試みる闇の甲冑兵も多いが、光魔ルシヴァルの眷族たちの攻撃は容赦なく彼らを押し返し後退を強いていく。
レベッカの蒼い勾玉が眷族兵の胸を貫き、ヴィーネの光線の矢が眼窩を射抜き、エヴァの白皇鋼の刃が首を両断していく。ベネットの〝ラヴァレの魔義眼〟の血のビームが、胴体を貫く。サラとサザーの<バーヴァイの魔刃>が漆黒の盾を弾く、シキの<溯源刃竜のシグマドラ>が繰り出され、眷族兵は潰れるように吹き飛ぶ。ファーミリアはサンスクリットの血霊剣から、血の刃と血剣を無数に生み出し、飛ばして、眷族兵たちを吹き飛ばすように倒し、アドリアンヌは〝白金剛樹檻ポリア〟を生み出し、眷族兵を数体、それに閉じ込めては転移を繰り返しながら、ファジアルたちと共に悪神デサロビアの眷族兵たちが多い森の中に消えた。
そして、ビュシエの<血道・石棺砦>という巨大な石棺が上空から降り注ぎ、眷族兵たちを押し潰すと同時に、内側から<血魔力>で爆発を起こし、血と漆黒の破片を四方八方に飛び散らせた。
そこに「閣下――」「御使い様――」と常闇の水精霊ヘルメが十本の指先の球根のような先端から<珠瑠の花>を放出させ、闇の甲冑を着た眷族兵を拘束し、闇雷精霊グィヴァの<雷雨剣>で薙ぎ払うように倒していた。
すると、その常闇の水精霊ヘルメが、これまで見せたことのない鬼気迫る表情を浮かべ、蒼い双眸が月光を集めるように煌めいた。
「閣下、わたしも前に出て、闇神リヴォグラフに攻撃します!」
決意に満ちた声だ。
世界の摂理に立ち向かう精霊の宣言のようだった。
常闇の水精霊ヘルメの蒼い双眸から出ている水の魔線が虹色に光りながら俺と繋がる。
<双月の加護>が互いの魂を繋ぐ絆となり、周囲の空間に大月と小月を象った神秘的な紋様が星座のように浮かび上がった。
「――了解した。合わせよう」
「はい」
常闇の水精霊ヘルメが飛翔していく。
今までにない勢いで、ギュフィトールという名の血の巨人の吸血鬼が押し込んでいる闇神リヴォグラフに近づいていく。
体から蒼と黝とエメラルドグリーンの水を放出させながら闇神リヴォグラフに直進し、
「闇神リヴォグラフ――」
一際大きい声で叫び、《氷槍》を闇神リヴォグラフに繰り出した。
「ん?」
闇神リヴォグラフが骨のように白い杖を掲げると、その周囲に古の言語で記された無数の紋章が浮かび上がった。
紋章は漆黒の光を放ちながら渦を巻き、ヘルメの《氷槍》を虚無の奈落へと吸い込んでいく。
青白い輝きを放っていた氷の槍は、闇の中で悲鳴を上げるように砕け散り、消え失せた。
『「水と闇、ハッ、小娘の精霊風情が無駄な攻撃を」』
闇神の声は宙空に響き渡り、その一言一言が闇の力を帯びて周囲の温度を下げていく。ヘルメの周囲の水滴さえもが恐れるように凍りついた。
ヘルメに合わせ吸血神ルグナド様が、「『<血槍の群れ>――』」と、血槍の群れの遠距離攻撃を繰り出す。
続いて俺も五発の<光条の鎖槍>を繰り出した。
「『……チッ』」
吸血神ルグナド様の<血槍の群れ>による血槍の連続攻撃により、闇神リヴォグラフの骨の杖など無数の闇の魔法陣は消え去る。硬そうな肌か鎧コスチュームに傷が発生し、俺の<光条の鎖槍>がもろに闇神リヴォグラフの体に突き刺さった。
ヴィーネの光線の矢も刺さるが、緑の蛇の閃光は途中で消える。
キサラのダモアヌンの魔槍の<補陀落>が、闇神リヴォグラフの右足を貫くが、右足は即座に再生された。
キサラは横回転しながら、戻って来たダモアヌンの魔槍を右手で掴みながら、前に出て森の中からこちらに寄ってくる悪神デサロビアの眷族と推測される眼球の体を有したモンスター兵を左手が持つ橙魔皇レザクトニアの薙刀で、眼球の体を<刃翔刹閃>で両断していた。
ミレイヴァルは、そのキサラの横を突出し、<一式・閃霊穿>を眼球お化けに繰り出し倒していた。
ヴェロニカとメルとベネットの〝ラヴァレの魔義眼〟に遠距離攻撃やエヴァの白皇鋼の金属の刃も突き刺さる場合もあるが、弾き飛ばされていた。
更に、回復を終えた闇賢老バシトルターゼと魔界騎士メイアールがこちらに遠距離攻撃を仕掛けてきたが、アドゥムブラリが<魔矢魔霊・レームル>を繰り出し、ルマルディとアルルカンの把神書が<炎衝ノ月影刃>を繰り出し、闇鯨ロターゼが、急降下し、魔界騎士メイアールに直進し、額からユニコーンのような角の先端を衝突させて、吹き飛ばしていた。
そして、皆の遠距離攻撃を浴びた闇神リヴォグラフの体は、幾筋もの傷から漆黒の血液を噴き出し、甲冑の表面が焼け爛れるように歪んでいく。
「『グヌォ……』」
闇神リヴォグラフの魔声は痛みと憤怒が混ざり合う。
闇神リヴォグラフは、漆黒の炎を纏った角から闇の魔力が溢れ出し、治癒を始めた。
そして、闇神リヴォグラフの声に含まれる波動には精神にくるようで、シャナたちから小さい悲鳴が響く。
「闇神リヴォグラフ……ここに現れたことを後悔してもらいます」
と、発言した常闇の水精霊ヘルメ。
月光を帯びて輝き始めた。
ヘルメの全身から蒼と翠の魔力が螺旋状に立ち昇る。
その双眸は満ちた月と欠けた月の幻影を映し出していた。
空気中の水分が一斉にヘルメに集まり、彼女の周囲を青白い光の粒子が星屑のように舞い始める。
「そして、閣下に攻撃を加えるとは万死に値する!」
ヘルメの声は精霊の怒りを帯び、古代からの魔法言語が混ざり始める。
「喰らいなさい。<月華言理>……」
天空に大きな魔法陣が浮かび上がり、月の光を集約し始める。
「<月理ノ精霊魔法>術理を解放……」
ヘルメの美しい双眸の片方が弾け飛ぶ。
血が流れたように隻眼となったが、片方の潰れた目だった水が、濃密に魔力を放ちつつ指先に集積、その指先から放たれた水の糸が空間を織り上げるように複雑な紋様を描き始める。
その中心に双月神の紋章が生まれた。
ヘルメが両腕を天に掲げた瞬間――。
「……<ウラニリの流星雨>――!」
「『ぬ!? シュウヤの精霊よ、それがあるなら先に言え――』」
吸血神ルグナド様は少し怯えたように発言し、後退。
ギュフィトールという名の血の巨人の吸血鬼も、巨大な薙刀を闇神リヴォグラフに押し当てたまま後退していく。
常闇の水精霊ヘルメは、消耗が激しいのか、体の一部を蒸発させながらも、
「すみません、しかし、闇神リヴォグラフは閣下たちの大敵!」
「『うむ!』」
吸血神ルグナド様の同意する声が響く。
同時に光の奔流が魔界の魔夜世界を月光に染め上げる。
途端に、無数の青白い流星の<ウラニリの流星雨>が闇神を貫かんと降り注いでいく。
それは、それら一つ一つの流星は月の神々の怒りを具現化したかのような明るさに見えた。大月の神ウラニリと小月の神ウリオウの意志を宿したかのように双月神の怒りの涙の如くの流星雨は、きらきらと煌めきを強めながら――闇神が生み出していたであろう漆黒の結界を次々と貫いていく。爆発がドドッと連続的に発生し、魔夜世界に輝きを増した。
闇神リヴォグラフが骨の杖を翳す。が、それは一瞬で溶けた。
「『な!?』」
闇神リヴォグラフは両腕を交差させて防御に回るも――。
流星の雨は容赦なく闇神リヴォグラフの体を貫く。
その甲冑を焼き砕く、流星が衝突するたびに、闇と光の激しい反応が起こり、空間そのものが歪み始める。
「ん、凄い……」
「うん、ヘルメ様の覚醒!」
「はい……」
「これが、<ウラニリの流星雨>……月光流星ですか……」
皆の歓声が響く。
「ヘルメ、俺も加勢する!」
振動している断罪槍を掲げながら、<月影血融>を意識、発動――。
断罪槍の片鎌槍から月の欠片のような光の粒子を放出させた。
その光は<ウラニリの流星雨>と共鳴したように、流星雨の勢いが増した。再生が続いている闇神リヴォグラフの体を貫きまくる。
「『――ぐあぁぁぁっ!』」
闇神リヴォグラフの絶叫が轟いた。
その巨体に無数の穴が開き、漆黒の血が霧となって噴き出した。
しかし、闇神リヴォグラフは魔界セブドラで最強格の神格を持つ存在を示すように体が回復していく、強靭な体幹に血肉と筋肉の繊維が無数の刃になってこちらに飛来しながらも同時に回復していく。その生命力溢れる姿は、闇神にも見えないが、生命そのものを嘲笑うように闇の紋様が生まれていた。傷口から溢れ出る血のようなモノと、闇の力は膨大で、皆の遠距離攻撃が決まるたびに闇の力が増え始めていた。
筋肉の繊維の刃を、<双豪閃>を繰り出して、切断していく。
その闇神リヴォグラフは、
「『……これほどの力を……だが、終わりではないぞ……』」
と、神意力を有した念話と言葉を発した。
だが体は徐々に朧げになり、空間転移の前兆を見せ始める。
魔界騎士メイアールと闇賢老バシトルターゼも同様に姿を消そうとしていた。
「『次に会う時は……槍使いと吸血神よ……これは始まりに過ぎぬ……』」
最後の警告を残し、闇神リヴォグラフの存在は闇の中へと溶け込んでいった。周囲の森林地帯の一部が漆黒に変化すると、その痕跡だけが残された。
ヘルメは力を使い果たしたように膝をつき、
「――ヘルメ、大丈夫か?」
「はい……閣下……闇神リヴォグラフを撃退できました……」
「ナイスだ、魔力を受け取れ」
「はい……」
喜びと疲労が入り混じった表情でヘルメは微笑む。
そのヘルメに魔力を注いであげながら……周囲を見渡す――。
と、吸血神ルグナド様の眷族たちが暴れたお陰で、魔猪王イドルペルクの部隊は完全に消えているが、まだ、悪神デサロビアの眷族たちがいる。左側ではハンカイたちが、荒神猫キアソード側に加わって狩魔の王ボーフーン側と戦っていた。
上空でも紫の体の持つ魔界騎士に、ん? 音楽がどこかから響いてくる。
続きは明日、HJノベルス様から書籍「槍使いと、黒猫。1巻~20巻」発売中。
コミック版発売中。




