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槍使いと、黒猫。  作者: 健康


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1772/1999

千七百七十一話 ウラニリの封印解放に集う魔界の諸勢力


 肩の竜頭装甲(ハルホンク)を意識。

 すぐに闇と光の運び手(ダモアヌンブリンガー)装備に切り替えた。蓬莱飾り風のサークレットと額当てと面頬装備から砂漠烏ノ型に変化。<砂漠風皇ゴルディクス・イーフォスの縁>を感じるまま、俺の体からゴルディクス・イーフォスの魔力が少しだけ放出されて、風と砂が舞う、それが猫の姿を模ると、巨大な黒猫の方角へと飛翔しながら消えていく。


 すると、風神イードの魔印に指環からナイアの魔力が溢れ、


『もしかして……あの巨大な黒猫は……』


 と反応してきた。


『知っているのか』

『荒神猫キアソードかも知れません、東マハハイム地方で、かつて、トフカと共に戦いました』

『あぁ……』


 当時、戦っていたトフカが、巨大な黒猫(ロロ)を見て、


『巨大な黒猫と戦うのは荒神猫キアソード以来だな――』


 と発言していたっけか。


 その相棒の黒豹(ロロ)は尻尾をピンと立たせ「にゃおぉぉ」と鳴きながら前に出た。


 左の空から徐々に近づいてくる巨大な黒猫と、その背後には猫獣人(アンムル)と似た魔族が二人いる。

 

 背後に着地したレベッカが、


「あの巨大な黒猫ちゃんは、ロロちゃんの親戚ちゃん?」


 相棒はその言葉に興味を持ったのか、耳をピクリと動かした。

 レベッカは、その黒豹(ロロ)の艶やかな背から、しなやかに伸びる長い尻尾へと視線を移し、手を伸ばして撫で始めた。

 

 指先が触れると尻尾の産毛が心地よく指先をくすぐって見えた。


 レベッカが軽く尻尾を引っ張ると、黒豹(ロロ)は演技めいた仕草で「にゃぁ」と小さく鳴き、尻尾をS字に撓らせながらレベッカの掌から逃れようとする。それは『捕まえられにゃい~』と挑戦しているかのようだ。


「ふふ」


 レベッカの透き通るような笑い声が岩場に響く。

 黒豹(ロロ)は長い尻尾を撓らせながら引き、レベッカの掌から逃げては、尻尾を上下させ、レベッカの細い腕を叩いてから、手首に優しく絡めていた。

「ふふ」

 レベッカの声が弾む。

 蒼い瞳が<月光の纏>の影響で輝きながら楽しそうに、その尻尾を握る。

 と、黒豹(ロロ)は「にゃん」と鳴き、尾の根元から力を込めて左右に揺らした。レベッカの掌から逃げようとする上下左右に動く尻尾が可愛い。レベッカとユイも思わず微笑む。


 レベッカはわざと掌を拡げ、黒豹(ロロ)の尻尾を離す。

 と、黒豹(ロロ)は何も言わずに、『捕まえていいにゃ』と『遊ぼう』と語るようにレベッカの細い腕にまた尻尾を当てていた。


「ふふ、もう! 可愛すぎ!」


 レベッカは興奮気味に相棒の触手を掴むと黒豹(ロロ)は「ンン」深い喉声を響かせ、尻尾の根元から波打つような動く。

 レベッカの手から逃れようと試みる。

 それでも、また解放されると、まるで最初から計画していたかのように、再びレベッカの手元に尻尾を戻す。

 その尻尾をまた握り、引っ張るレベッカ。

 相棒は、また逃げようと尻尾の根元を動かした。

 レベッカは、また尻尾を離すと、黒豹(ロロ)は、またわざとレベッカの腕に尻尾を降ろしていた。

 そんな調子で捕まっては解放されては、また尻尾をわざと降ろし、レベッカの手に捕まっては、引っ張られるような遊びを繰り返していた。面白くて、二人が可愛い。

 この遊びにすっかり夢中になった二人の様子は戦場の緊張を忘れさせるような和やかな光景だった。

 

 ユイも思わず微笑み、その紡がれる絆の美しさに目を細めていた。

 すぐに背後からエヴァたちも高台の岩場に次々と着地してくる。ヘルメとミラシャンとハンカイとママニとサザーとクレインたちは、瞬時にこの光景に気づき、戦いの前の束の間の癒しの時間を共有していた。


 まずは、黒豹(ロロ)と遊んでいるレベッカに、


「俺たちも不思議に思っていたところだ」


 俺の言葉にユイたちは頷く。

 黒豹(ロロ)はレベッカから逃げてユイと俺の足に頭突きをするように甘えてきた。


 レベッカは手について残っていた柔らかな抜け毛を指先から丁寧に払い落とし、真っ直ぐな視線で正面を見据えてから、右方向へと首を巡らせた。


「うん、他にも魔素が大量にこちらに押し寄せてきているわ。右の森では爆発が断続的に起きていて、地面すら揺れている」

「ん、ロロちゃんに似ている巨大な黒猫ちゃんは愛らしく見えるけれど、ここは魔界だということを忘れてはいけない。魔猪王イドルペルクの本体と思われる大部隊以外にも、様々な巨大な魔素たちがこの場に引き寄せられてきている気配を感じる」

「【ウラニリの大霊神廟】の封印が解かれたという事実が、周辺勢力に知れ渡ったことは疑いようがない」


 ハンカイの言葉に頷いた。


「俺たちも双月神から恵みを得たからな、先程の湖からの双月神たちの恵みを齎した神意力は周囲に響いた、轟いたってことだろう」

「あぁ、神々と諸侯が率いる軍隊が、戦いながらこちらに来るってことか」

「三つ巴を越えた争い、シュウヤの言葉だけど、バトルロワイヤルになりそう」


 ユイの冗談じみた言葉に皆が頷く。

 

「【ウラニリの大霊神廟】を守らず、無理せず、〝レドミヤの魔法鏡〟か二十四面体(トラペゾヘドロン)か<光魔ノ魂魄道>で逃げる選択肢もあるけど」


 レベッカの言葉に頷いた。

 ただ、【ウラニリの大霊神廟の遺跡】は入念に調べてない。

 湖で相棒たちが釣りをした程度、どこかに生き延びていたグラスベラの民がいるかもと思うと、ただ逃げるのもな、それだけの戦力は俺たちも有している。ここにシャナだけだったら逃げるのが正解だが、シャナも氷竜レムアーガを得て強くなっているしな。


 すると、ヴィーネが、


「魔猪王イドルペルクの指揮官は、無事に倒したようですね」

「うん、シュウヤとレベッカもいたから協力して高速戦闘で仕留めた」

「先読みして<光魔蒼炎・血霊玉>を何発も当てたところにユイとシュウヤが仕留めていた」

「はい、お見事です。ロロ様の炎を凌げていたので、強者かと思いましたが、防御魔法に優れた指揮官タイプでしたか」


 ヴィーネの言葉に頷いた。


「おう、シュアルは、相棒の炎を防ぐことで結構消費したようだ」

「うん、後、動きが速くなる<魔闘術>系統に、防御と逃げることは上手かったけど」


 ヴィーネは頷く、隣にいるメルが、


「はい、イドルペルクの手勢はゼメタスとアドモスたちの活躍もあり、ほぼ撃破しました。逃げた部隊もあると思いますが追撃はしてません」


 そのメルの言葉に「正解だ」と発言。


 ヴィーネとメルは、


「「はい」」

「一先ずの勝利」

「ん」


 レベッカとユイとエヴァたちは拳をコツンと合わせる。

 と、各自、まあ黒豹(ロロ)の頭部を撫でていく。

 ユイも黒豹(ロロ)の背を撫でて尻尾を引っ張ってから、


「ふふ、くせになる~、魔猪王イドルペルクの大隊の撃破は完了だけど、その本体が、大軍を引き連れて近づいて来ている兆候がある」


 その言葉に『たしかに』と頷いた。

 が、黒豹(ロロ)はお尻を俺たちに向け、両後ろ脚を交互に前後に動かして、太股の毛をプルプルと振るわせてきた。

 それは相棒的にユイに、『ここをもっと撫でるにゃよ~』と撫で撫でを催促しているように見えた。


 ユイは「ふふ」と笑ってから黒豹(ロロ)のお尻さんの真上辺りをポンポンと叩き始めた。黒豹(ロロ)は少し嬉しそうな声を発して、両前足を前に伸ばし、お尻を突き上げる。


 菊門さんを見せてきた。


 まったく、うんちさんはこびり付いてはいないが、面白い。

 そこで、ヴェロニカとメルとルマルディを見る。

 そのメルは、


「それと眷族衆でハミヤたちを守りながら、皆は、こちらに来ています。そろそろここに到着かと」

 

 メルの言葉と腕の動きと視線に釣られるように半身となって俺たちが駆けてきた背後を見る。


 こちら側に飛翔している光魔魔沸骸骨騎王のゼメタスとアドモスたちの姿があった。ヴェロニカとアルルカンの把神書と()()(テン)とフーとレガランターラとアドゥムブラリにアドリアンヌとシキたちが見える。

 ファーミリアたちと〝巧手四櫂〟にハミヤたちがいるだろう中心で守られているシャナたちの姿は見えない。

 

 その皆を見ていると、俺たちも結構な大所帯だなと実感。

 すると、左から来ていた巨大な黒猫たちが旋回を始めた。


 その巨石な黒猫たちへと向かう火炎と風槌(エアハンマー)に闇の魔法が見えた。その魔法を繰り出している連中は、森の中か。

 

 その森にいる連中は……。

 魔猪王イドルペルクの手勢ではない。

 

 鹿の頭部を持つ六眼四腕の魔族連中か。

 グリズベルを思わせる存在もいる。


「あの鹿連中はグリズベルの亜種? そんな印象だから狩魔の王ボーフーンの連中かしら」


 頷いた。

 昔、北マハハイム地方の魔境の大森林を、相棒の神獣ロロディーヌの真の姿を取り戻すため旅をしたからな。サデュラの葉をそこで入手した。


 その時、魔境の大森林を移動している鹿の頭部を持つ魔族の軍隊を見ている。


「はい、魔界なら狩魔の王ボーフーンの眷族衆かと。そして鹿という点ならば、サイデイルの十二樹海で散々と戦い抜いた〝樹怪王の軍団〟を思い出しますね」


 キサラの言葉にサラたちが「「あぁ」」と声をハモらせる。

 ママニに血獣隊と紅虎の嵐は暫くサイデイルで、周辺勢力と戦っていたからな。


 サラも、


「たしかに、思い出す」

「「はい」」


 サラの言葉に、ユイとキサラとサラとママニとサザーとクレインたちは頷いていく。


 と、西か不明だが、左側の遠いところで戦っている巨大な黒猫は、己の体から黒い霧を放ち猫獣人(アンムル)たちを隠し、旋回していく。


「黒い霧とか、確実にロロちゃんではないわ」

「にゃぉ」


 レベッカの言葉に返事をする黒豹(ロロ)の声が少し面白い。


 その神獣ではない巨大な黒猫は、その黒い霧の一部を纏うように外に飛び出ると双眸を煌めかせ、紫の魔力を、その双眸から放出させる。


 途端に瞳に月の紋様が出現し、双眸から紫の破壊光線が放たれた。

 紫のビームのような遠距離攻撃は一直線に斜め下へと直進し、鹿の頭部を持つ魔族たちと衝突、その体を一瞬で溶かすと、森をも爆発させる。

 重低音をこちら側に響かせてきた。

「「おぉ」」

「強力ですね」

「「はい」」

 

 鹿の頭部を持つ魔族たちの大半は、そのビーム系のような紫の破壊光線を避けられず、次々と爆ぜて散った。一部の森の木々ごと蒸発するように消えていく。

 凄まじい威力だ。


「狩魔の王ボーフーンの大眷族の一派の大半が消し飛んだ」

「強い!」


 レベッカとヘルメの言葉に頷いた。

 が、わずかに残った肉片から一瞬で四腕の人型の体を取り戻し、六眼を有した鹿の頭部を再生させている魔族たちもいる。


「ん、鹿軍団は、再生力が高い」

「はい、狩魔の王ボーフーンの本体がいるかもです?」


 エヴァとヘルメの言葉に皆が頷いた。


 その再生力は高祖吸血鬼(ヴァンパイア)級。

 再生の仕方からして、鹿の魔族連中は、かなりの強さだと分かる。


『シュウヤ様、荒神猫キアソードで間違いないかと』


 風の女精霊ナイアが思念で指摘してきた。

 頷きながら、


『了解したが、ここで荒神か。荒神猫キアソードとはホウオウ側か、アズラ側、どちらなんだ』

『ホウオウ側です』

『お、ならば、荒神カーズドロウ・ドクトリンや、白猫(マギット)のアブラナム系の荒神マギトラと同じで、荒神鳳凰族の鳳凰ラーガマウダーと同じ側』

『はい、大月の神ウラニリ様と小月の神ウリオウ様とどのような関係か不明ですが、私の存在に氣付いたら素直に謝ります。そして、ここに近づいた理由がシュウヤ様目的ならば味方になる。交渉のチャンスはあるかと思います』


 風の女精霊ナイアの分析に納得。


『そうだな』


 しかも荒神猫キアソードは強そうだし、巨大な黒猫という見た目だ。相棒的に敵対はしたくない。


 すると、巨大な黒い猫が放った黒い霧を纏った猫獣人(アンムル)たちが、その巨大な黒猫を中心に、螺旋の軌道を宙空に描くように飛翔を始めた。

 巨大な黒猫と呼吸を合わせ左右へと飛翔していく。

 

 それら猫獣人(アンムル)たちは、鹿の頭部の六眼四腕の大柄魔族との間合いを空から詰めると、四腕に持つ魔剣を振るい、鹿の角に得物を弾き、鹿の六眼四腕の魔族たち斬り捨てていく。


「にゃご!」


 相棒が反応したように、途中で、猫獣人(アンムル)の魔剣師たちは小さい黒猫に変化し、鹿の角の形をした魔刃の飛び道具を見事に避けて元の大柄の猫獣人(アンムル)に戻り、鹿の魔族たちに突進し魔剣で斬り捨てて見事に連続的に数十人を一瞬で倒していく。かなり強い。


 猫獣人(アンムル)と言えば【ノクターの誓い】のホクバ・シャフィードたち三兄弟を思い出した。

 

 巨大な黒猫は再度、破壊光線を放つ。

 森林地帯を一直線に薙ぎ払う如く直線状に炎の壁のような物と森と土が左右に盛り上がっていた。指向性のエネルギー兵器のような破壊光線が、鹿頭の魔族たちを焼き払っていった。

 高エネルギーレーザー兵器みたいな印象だ。


 高出力マイクロ波の兵器や、加速させた素粒子を目標に照射し、原子レベルで破壊する粒子ビーム兵器なども連想してしまう。


 それらを見ながら、


「……あぁ、ハーヴェスト神話に登場する神々の復活はさすがに周辺勢力を刺激したか、そして、風の女精霊ナイアが言うに、あの巨大な黒猫は荒神猫キアソードらしい」

「なんと!」

「「「へぇ」」」

「【荒神猫キアソードの封印地】はたしかに近所ね」

「荒神猫キアソードは魔界セブドラの神々ではないですし、神界側の大月の神ウラニリ様と小月の神ウリオウ様と通じていたことから【ウラニリの大霊神廟】の封印が外れたことが、荒神猫キアソードの封印にも影響を与えて、その封印が解けたのでしょうか」


 一理ある。キサラの分析を聞いた皆が思案げとなる。

 エヴァは、


「ん、【八葉風妖】の異風長トフカとナイアは、過去に荒神猫キアソードと戦っている。そして、シュウヤは、そのナイアの魔力を得ているから、ここに近づく理由には、案外シュウヤが関係しているかも?」


 と指摘してきた。


「それはあるかもな」

『……敵対的な意思を持つ荒神猫キアソードだったのなら、すみません……』

『氣にするな、戦いとなれば本気で戦うさ、相棒に皆も同じ気持ちのはず』

『はい』


「ふむ、近隣勢力か……神々が来たら、我も面に出ようか。だが、吸血神ルグナドの場合はシュウヤとファーミリアが出たほうが色々と都合が良いだろう、戦場であろうとな」


 魔皇メイジナ様の言葉に皆が頷いた。

 光魔魔沸骸骨騎王のゼメタスとアドモスとファーミリアたちは着地して、俺たちの話を聞きながら頷いている。


 レベッカは、


「うん、それにしても【ウラニリの大霊神廟の遺跡】の封印解除は、よほどの出来事だったようね」

「そうだねぇ、パインモースの墓があった方角も、先程から続いて、黒い柱が大きくなったさ、どう考えても、きなくさいよ。こりゃ、魔界大戦争が始まってしまったか?」


 クレインが銀火鳥覇刺が差す方角には、黒い柱を彷彿とさせる魔力の渦が大きくなっているのが見える。


 <月光の纏>を纏ったレベッカも、


「魔界大戦は元々って印象」

「ん、皆、争っている最前線同士? でも神界の神々に対しては皆、共通して敵対的な行動を取ると思うから氣を付けないと」


 エヴァの言葉に皆が頷いた。


「勿論、そして猪の頭蓋骨の顔の下半分と胸が透けていた連中、魔猪王イドルペルクだっけ、その親玉は健在。次の戦いに備えましょうか」


 ユイの言葉にレベッカは「うん」と言ってからヴァルアの腕甲・暗器刀キルシュナを見せては、腰の剣帯にさしてあった城隍神レムランの竜杖を抜く。


 城隍神レムランの竜杖の飾りだったナイトオブソブリンとペルマドンが動き始める。「ンン」と反応した黒豹(ロロ)の鼻先に、その城隍神レムランの竜杖の先端を付けていた。


 黒豹(ロロ)は鼻をフガフガと動かし、竜杖の先端の匂いを嗅いでは、ナイトオブソブリンとペルマドンの小さいドラゴンたちと鼻キスを行っていく。


 レベッカは、


「ふふ、ドラちゃんたち、皆のことを守るように炎を吐いてね」

「ガォ」

「ギャオォ」


 ナイトオブソブリンとペルマドンは鳴いて、小さい炎を口から吐いてから、城隍神レムランの竜杖に乗った二匹は一瞬で固まり、城隍神レムランの竜杖の飾りに戻る。

 

 その城隍神レムランの竜杖を掲げたレベッカは体に<月光の纏>を再発動。プラチナブロンドの髪が背の上に舞った。

 レベッカの蒼い双眸は、月光と血炎と蒼炎の魔力が絶妙に合わさって非常に美しい。

 レベッカは森が爆ぜて、狩魔の王ボーフーンの連中が散っているところ見て、


「荒神猫キアソードが味方になる?」

「あぁ、用心しながら近づいて、荒神猫キアソード側に加勢するか」

「はい、では――」

 

 ヴィーネは翡翠の蛇弓(バジュラ)を構えながら、前方の岩場に身を寄せた。

 エヴァは、左前の岩場に隠れながら白皇鋼(ホワイトタングーン)緑皇鋼(エメラルファイバー)のインゴットがたっぷりと入った鉄製の箱を数個出し、その金属を活かした壁を作りだしていく。

 クナとルシェルも杖を掲げながら防御魔法を展開し、ミレイヴァルは敢えて後退。

 ビュシエも<血道・石棺砦>を発動し、皆の盾場となる場所を構築していく。

 左右前方の岩場の上に簡易的な石棺の砦を作りあげていく。ベリーズたちが、早速、その石棺の上に移動していった。

 

 すると、重低音があちこちから響く。

 右からも巨大な魔素が凄まじい速度近づいて森を削るように飛来してくる。

 更に、中央からも、獅子か猪かグリフォンか、角ありの巨大獣の群れがやってきた。


『あれは大魔獣ベサルヴァルの群れじゃな』

『うむ、繁殖期に暴れる大魔獣だ、いい肉だぜ』


 魔軍夜行ノ槍業の飛怪槍流グラド師匠と獄魔槍のグルド師匠が指摘してくれた。


「皆、あの獣の群れは、大魔獣ベサルヴァルだ」

「あ、シュアルの部下が繁殖期とか言ってたわね」

「おう」

「「うん」」


 すると、一際巨大な魔素がその方角から現れた。

 猪と狼を合わせたような魔獣の頭部を持つ。

 四眼で、腕の数は不明で足は二本か?

 漆黒の毛に覆われていて、判別できない。

 

 その大柄な魔族の後方には、猪の頭蓋骨の魔猪王イドルペルクの勢力がいる。

 先頭の漆黒の毛むくじゃらは、魔猪王イドルペルクか。


 猪の頭蓋骨を持つ魔族たち、魔猪王イドルペルクの軍隊が一部は、眼球を周囲に生み出している魔族たちと戦っている。


 悪神デサロビアの眷族衆たちだろう。


 その悪神デサロビア側とは、悪夢の女神ヴァーミナ様は戦い中。

 その【白銀の魔湖ハイ・グラシャラス】とは、ここから距離的に遠くない。


 三玉の誓約の光魔・魔命・悪夢の大同盟の影響でシャイサードの分身体かヴァーミナ様も来るかもしれない。


 すると、魔猪王イドルペルクと、猪の頭蓋骨を持つ魔族の一部が俺たちに近づいてきた。魔猪王イドルペルクの傍には、先程転移した伝令兵の姿がいた。


 猪の頭蓋骨に顔の下半分と胸の上部分が透けて白銀に縁取られている四腕の魔族。


 やはり、あの大柄の魔族が、魔猪王イドルペルクで確定か。


『弟子、魔猪王イドルペルクで間違いない』

『うむ、昔遠くから見た覚えがある』

『お弟子ちゃん、こいつは魔大剣を使うはず、かなり強いから』

『あぁ、強者を好むタイプ。昔一騎掛けを続けながら、魔城ルグファントに迫ってきてが、背後から悪神デサロビアの大眷族の二人組に、腐った魔息を吹きかけられて、逆上し、離れていったきりだ』

『なるほど、では、俺もできるだけ一対一で戦います』

『はは、弟子らしいが』

『カカカッ、弟子なら勝てる』

『うん』


 

 魔軍夜行ノ槍業の念話に呼応したわけではないと思うが、その魔猪王イドルペルクらしき存在の四眼が煌めく。


 眼球から膨大な金色の魔力が放たれた。


『「――お前らか」』


 と、神意力と実際の声に出しながら近づいてきた。

 プレッシャーを感じつつ、右手の断罪槍の握りを<握吸>で強化。


「皆、あいつは俺が対処する。左側の荒神猫キアソードと思われる存在が戦っている勢力にも目を配っておいてくれ。状況次第では援護を頼むかもしれない」

「にゃ」


 相棒は短く鳴き、尻尾を高く掲げて理解を示した。


「「「「はい」」」」

「「「了解」」」

「「「「かしこまりました」」」」


 眷族たちが声を揃えて応え、すでに散開して陣形を整え始めていた。


「ん」


 エヴァは短く返事し、紫色の魔力を指先に集中させていた。


「ワンッ」


 銀白狼(シルバ)が鋭く吠え、前足で地面を引っ掻いた。


「にゃァ」

「ニャォ」

「ニャァ~」


 銀灰猫(メト)たちもそれぞれの鳴き声で応え、すでに戦闘態勢に入っていた。


 対面する魔猪王イドルペルクは四眼から放出する金色の魔力を、煌めく金色の炎へと変容させていった。

 魔力の渦は周囲の空気を震わせ、熱波となって押し寄せてくる。

 その巨大な敵に体を低く構えながら下方から近づいていった。


 その魔猪王イドルペルクの体は漆黒の毛に覆われている。

 漆黒の毛からも、漆黒の炎のような魔力が発生。

 漆黒の炎は眼球の金色の炎の魔力と重なる。

 その炎はプロミネンスのような動きとなった。

 闇夜にあっても、その金と漆黒の魔力のグラデーションの煌めきは非常に目立つ。

 その魔猪王イドルペルクらしき存在に、


「俺たちに何か用か?」


 と、聞くと四眼の内の三眼が大きく歪み、表情筋らしき筋肉の筋に魔力が走りつつ、


「……しらばっくれるな、報告は受けている。双月神と通じている連中だろう」

「さあな、お前の名は?」

「我の名は魔猪王イドルペルク……」


 低い唸る声は地獄の釜から響くような重低音へと変化を遂げていた。

 

 口元から覗く牙は黒曜石のように鋭い。

 触れるものすべてを魔力ごと両断するかのようだ。


 岩のように隆起した筋肉はさらに膨れ上がる。

 その上を黒曜石の鎧のような外骨格が覆っていた。

 四肢は捻れた古木のように太く、その爪は魔力を帯びたミスリルのように輝いている。


「……シュアルはどうした」

「倒した」


 と、言った直後、魔猪王イドルペルクの巨躯を支える足元から深紅の魔法陣が浮かび上がった。


「黒髪、お前が倒したか」

「そうだ」


 魔猪王イドルペルクは四眼で俺を睨み、口牙を晒し、


魔猪王イドルペルクは四眼全てを俺に向け、瞳孔が針のように収縮した。唇が歪み、鋭利な牙が月明かりに不気味に輝いた。深い呼吸とともに胸が膨らみ、地の底から湧き上がるような低い声で言った。


「ふっ、良い度胸だァ……シュアルを倒す実力も兼ね備えているとはな。名を聞かせてもらおうか」

「シュウヤだ」


 断罪槍を握る手に力を込めながら答えた。


「シュウヤ、か」


 その名を噛み締めるように繰り返した後、片腕を上げて指し示した。


「では、そこに降りろ。一対一で決着をつけようではないか」


 言葉が終わるか終わらぬかのうちに、魔猪王イドルペルクは一つの腕を突き出し、掌から漆黒の塊を放った。

 その塊は空気を切り裂きながら弧を描き、エヴァたちがいる場所から数十メートル離れた右側の森林地帯に衝突した。

 衝突と同時に轟音が響き渡り、黒い炎が爆発的に広がった。

 森の木々は悲鳴を上げることもなく時間が巻き戻ったかのように黒い灰へと変化し、風に乗って消えていく。


 跡には疎らな草木だけが残る焦土が広がっていた。

 魔猪王イドルペルクの配下は、後退していく。

 

 半身で、皆を見てから頷いた。

 相棒たちは俺を見て頷いたような仕種を取る。


『弟子の気質には合うが、戦いは以外に冷静だ』

『ねぇ、無理にタイマンに拘らず、皆で倒しちゃいましょうよ』

『ハッ、<魔軍夜行ノ憑依>を使い、妙神槍流を学びつつ、翻弄するのもいいと思うぜ?』

『たまには、俺に<魔軍夜行ノ憑依>しろや』

『カカカッ、気持ちは分かるが、弟子に任せるのじゃ』

『使うかもですが、風槍流の槍使いでもあるので』

『もう! そこは雷炎槍流とか言うべきでしょうに!』


 魔軍夜行ノ槍業の師匠たちの嫉妬の念話には悪いが応えず……。

 そこで魔猪王イドルペルクを見ながら、その右側の黒い炎によって平原になった地に降下した。


 魔猪王イドルペルクはゆっくりと歩いて近づく。

 二つの足のなのか。振動が起きた。


 吐く息は、硫黄の匂いを帯びた黒い霧となり、周囲の草木を枯れさせていく。


 その魔猪王イドルペルクは漆黒の毛の中から、太い腕を二つ晒す。と、その手に、巨体に匹合する魔大剣が現れた。


 魔猪王イドルペルクは、


「この滅牙に誓おうか、お前を今日、滅すると」


 刀身全体が黒い水晶のような物質で形成され、刀身には古代ルーン文字が刻まれていた。

 柄頭には、禍々しい獣の頭蓋骨が飾られ、そこから絶えず黒い魔力が噴き出している。

 滅牙は魔猪王イドルペルクの魔力と共鳴したように、刀身が煌めいた。更に、魔猪王イドルペルクの体が少し膨れたように見えた。


「滅牙か、良さそうな武器だな」

「……余裕の現れか?」


 と、聞いていたが応えるように<血道第一・開門>で<血魔力>を足下に撒いた、更に<血道第四・開門>。

 <霊血装・ルシヴァル>発動させる。

 ルシヴァル宗主専用吸血鬼武装の面頬が漆黒の霧から形作られるように具現化していく。


 <水の神使>と<滔天神働術>と<滔天仙正理大綱>を連続発動。

 <闘気玄装>を強めながら、<月影血融>の恒久スキルを意識し、発動させながら、ジリジリと歩幅を縮めて、間合いを詰めた。


「……ほぅ、魔界の<血魔力>に神界か……」


 そこで動きを止め、


「あぁ」


 と風槍流『右風崩し』の構えを取る。


続きは明日、HJノベルス様から書籍、「槍使いと、黒猫。1巻~20巻」発売中。

コミック版発売中。

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― 新着の感想 ―
双月神人気すぎるw
風の女精霊ナイアは、荒神猫キアソードのことを覚えていたか。 いつか、ナイアとの本格的な共闘や、ヘルメの<精霊珠想>のような連携技も見てみたいなぁ。 周辺は八怪卿の縁の地が多いし、<魔軍夜行ノ憑依>に…
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